ミリセントちゃんが加入してから俺が刀を抜く機会が激減した。
戦闘なら任せてほしいと胸を張るだけあり、交戦となると一目散に駆け出して剣一本で敵を圧倒。
彼女の大活躍に刺激を受けたのか、メリナとミニラニ様も競うように敵を殲滅するものだから、俺の出番はまるで無し。
一方的な完勝をもぎ取ると「どうだっただろうか?」なんて目を輝かせてこちらを見上げる様は、まさにゴールデンレトリバー。
若干気質がネフェリ・ルーに被ってるなぁ、なんて思いながら頭を撫でる。ネフェリ・ルーはあれから大丈夫だろうか。
そして、ミリセントちゃんが戦果の報告に来るたびに、メリナたちは舌打ちしないで欲しい。
ていうか、君たちも敵を討った際には「別に褒めて欲しいわけじゃないけど、褒めるのなら受け取りますけど?」的なニュアンスで撫でられ待ちするじゃないの。
「んー、何処行くか」
地図を広げて次の行き先を考える。
ルート的にはこのまま王都ローデイルに行くか、それとも脇道を通ってグルっと回るか。脇道ルートだと火山館近くの山に戻るから、そのままタニスさんに報告も出来る。
王都は王都で行き止まりっぽいんだよなぁ。
「先に王都に行くか」
メリナの使命とやらが分かるかもしれないし。
ということで、行き先を王都に決めた俺はそのまま直進。
どこまでも続くヒビ割れた石畳の道。遠目に見える白亜の城壁の向こうには巨大な黄金樹が聳え立っており、遠近法で少しは小さく見えるはずなのに、頂上が霞んで確認できない。麓から見上げるとさらにバカデカく感じることだろう。
城門は角度の関係で見えないが、奥から手前に向かって横幅のある階段、それも百を優に超える段数が見て取れる。
そして、極めつけが両脇に設置された巨大な石像。恐らくモデルとなった騎士がいるのだろう、嘶く軍馬でウィリーしながら槍を振り上げている姿を象っている。
今にも振り下ろしそうな、そんな躍動感のある石像が両脇に等間隔で設置されているのだ。
そこそこの威圧感を感じるから、きっと外敵に向けた牽制だと思われる。
歩哨の兵士たちをやり過ごしながら階段を上ると、巨大な城門が見えたのだが、門番と思われる騎士が待ち受けていた。
というか、最序盤で遭遇した金ピカの騎士様じゃん。道を尋ねようとしたら問答無用で殺しに来たアイツ。
奴はこの手で葬ったから恐らく同僚なんだろうけど、なんでこんなところにいるんだ?
(いや、金ピカなのを考えると王都の騎士の可能性が高いな。となると、何であんな僻地にいたんだ?)
俺が遭遇した騎士様はあそこで何をしていたのだろうか。左遷ですか?
門番をしている騎士、それも二人。メイン武器のハルバードは同じだが、一方は金属製のトーチ。もう一方は大きな盾を装備している。どちらも同じ背格好だから、パッと見ると双子のようだ。
そして、背後の城門だが、何故か少しだけ開いている。
人一人は通れるが、バカデカい騎士様は絶対に通り抜けできない程度の大きさだ。
「突っ切るぞ!」
軍馬を走らせて突貫してくる騎士たち。剛腕とともに振るわれるハルバートの下をスライディングして掻い潜り、すぐさま立ち上がって城門を抜けた。
慌てて騎士たちも追跡しようとするが、当然騎乗して通れるほどの隙間ではない。二人で力を合わせて門を開けようとしても、見上げるほどのバカデカい城門はビクともせず。
結局、目と鼻の先にいる侵入者を見逃す羽目となった騎士たち。城門にハルバートをぶつけるなどして苛立ちを隠そうともしない騎士を存分に煽り散らかした俺は、優雅にトレントを進めた。
「って、まだ城壁があるんかい」
てっきり場内に入ったかと思いきや、その向こうにも第二の城壁が見える。二重防壁というやつか。
また階段を上っていくと、天狗とゴーレムを足して割ったようなエネミーが空から強襲してきた。
が、ミニラニ様の魔術で氷漬けにされ、致命的な隙を晒したところをメリナとミリセントちゃんがナマス斬りに。完璧な出オチとなった天狗ゴーレムに涙を禁じ得ない。
そのまま速度を緩めずに階段を駆け上がると、小さな広間に躍り出た。
城の外へ通じる道と、第二の城門へ通じる道と分かれている。
破砕戦争の名残りだろう。小さなビルほどの高さはある、鉾のような形をした巨大な矢があちこちに突き刺さり、地面には無数のクレーターが出来上がっていた。
彼の戦争から具体的にどのくらい経過してるか分からないが、少なくとも千年は経ってるはずだ。それが今でもこうしてハッキリと残っているのだから凄い。
それとも、長命な種族が多い彼らからしたら、百年程度の感覚なのかな?
祝福を起動した俺は、階段を上がって第二の城門に向かう。
城門の前には王都の民と思われる平民の一団が居り、なにやら祈りを捧げていた。
今度の城門は完全に閉じている。これは流石の俺も力づくで開けられそうにない。
「あっちにも道があるな」
城門の外へ通じる道の方角。その途中に分かれ道があり、一方が城壁に向かって伸びているのが此処から確認できた。
回り道になるが、もしかしたら抜け道があるかもしれない。そう思い、巨大な矢が乱立するエリアに立ち入ったのだが。
「うわ⋯⋯なんか居るし」
戦争でよく見かけたという骸荒らしの如く、熱心に地面を掘っている人たちを他所に、茫然と佇む一人の男。
格好は城門前にいた市民と同じなのだが、その男の背後に薄っすらと視える異形の巨躯。
最初の大ルーンを獲得した城で出会った、スーパージジイこと忌み鬼のマルギットがそこに居た。
「ただの一般人では?」
「に扮した激ヤバお爺ちゃんなんだよなぁ」
ミリセントちゃんの言葉通り、ただの市民に見えるが解析眼を持つ俺にはハッキリと視える。
目が悪いのか分からないが、こちらの方角を見ながらも俺たちに気付いた様子はなく、ただ虚空をジッと睨みつけて佇んでいるマルギット爺。
このまま進めば、絶対に難癖付けられ一戦交える流れになるだろう。
「取りあえず、お爺ちゃんに見つからないように迂回して進もう」
岩場の影を伝って進み、なんとかお爺ちゃんにバレずに進んだ俺たち。
遠距離から狙撃してくる巨大ゴーレムや歩哨の兵士たちを薙ぎ倒して前に進むと。
場内に続く脇道の前に、またもや金ぴかの騎士様が待ち構えていたのだが。
「うっそーん……」
これまで三人の騎士様を見かけたわけだが、この金ピカは少しだけ全く様相が異なる。
というのも、ハルバードの代わりに何かの爪を模した巨大ハンマーを装備しているだとか、頭部のヘルムには両翼を広げる竜が飾られているだとか、そんな些事ではなく。
騎乗しているのが軍馬ではなく、なんと飛竜だった。
日向ぼっこをしていたのだろう。翼を広げて気持ちよさそうに寝ていた竜と、その首にしっかりと騎乗し周囲を警戒していた騎士様が、同時に俺の姿を認める。
手綱を握り直して警戒する騎士様に続き首を上げた竜は、大きく息を吸い込み咆哮を轟かせようとしたが。
ふと何かに気づいたように目を瞬かせると、俺の方に顔を近づけて鼻を鳴らした。
おっと、これはもしかすると……?
「俺が判るか? すまない、俺は君が誰だか分からないんだ」
記憶にないが、竜の御子と面識があるのだろう。キュルキュルと嬉しそうに喉を鳴らす飛竜ちゃん。
相棒のこのような姿は見たことないのか、騎手である騎士様も驚いている。
ちなみにミリセントちゃんも、何が何だか分からないといった顔で困惑していた。さもありなん。
「ローゼンが初対面で懐くだと……? これは……いや、まさか……そのようなことがあり得るのか?」
そう独り言ちた騎士様は「上から失礼する」と一言断ると、俺が竜の御子であるか尋ねてきた。
「ええまあ。訳あって記憶を失ってますが」
「左様ですか。相棒から話を聞いております。会えて光栄です、御子よ。⋯⋯貴方も、エルデンリングを求めて此処まで来たと推測しますが、如何に?」
その通りなのだが、はいって言いづらい。相手からすると俺は敵なのだし。
でも嘘はよくない。
飛竜ちゃんの相棒と鉾を交えることになるかもと、一種の覚悟を胸に肯定すると、騎士様は唸るように小さく頷いた。
「やはりそうですか⋯⋯本来なら、此処で貴方を足止めするしなければならないのでしょうが、我が忠は竜とともに。貴方ならマリカ様を解放して下さるやもしれません」
「それってどういう⋯⋯?」
「申し訳ありません。詳しく説明をしている時間はないため、詳細はユース大司教へ。これを見せればきっとお会いになってくれるでしょう」
そう言って渡して来たのは【竜の騎士の聖印】。
マリカ云々の件を詳しく聞きたかったが、騎士様は任務があるらしく飛竜ちゃんに乗って飛び立ってしまった。
飛竜ちゃんの名残惜しむ鳴き声に後ろ髪を引かれながらも、【竜の騎士の聖印】をポーチに入れた俺は、ようやく場内に足を踏み入れるのだった。
1
「此処が、王都ローデイル⋯⋯」
倉庫のような場所から場内に侵入した俺たち。
崩壊した城壁の一部を抜けて、王都を一望できる場所に躍り出た俺は、その絢爛な街並みに息を呑んだ。
家々の城壁の屋根はすべて金で出来ており、まさに黄金の都といった風情がある。王宮と思われる一際デカく豪奢な建物の背後に黄金樹がそびえ立ち、今もなお繁栄と栄光の意を示していた。
「酷いことしやがる⋯⋯」
そして、一際目につくのが、王都の一角に倒れ伏す巨竜の死骸。
今まで目にしてきた竜たちのおよそ十倍はある巨竜で、力無く倒れ伏した姿から既に命が尽きているのは見て取れるが、強大な力が残滓となってその身に宿っているのが解った。
まるでミニチュアサイズの建物を下敷きにした、そんな巨竜の体をこれまたバカデカい黄金の槍が貫いている。
巨竜の屍を晒して辱めているようにしか見えない光景に、沸々とした怒りを感じるが、まだコントロール出来る。
メリナにそっと手を握られた俺は小さく頷き返し、呼気とともに内なる怒りを吐き出した。
それにしても、破砕戦争はデミゴッドたちによる内戦だから、それは違うとして。あの巨竜は何故、王都を襲ったんだ?
「⋯⋯私が知る王都に比べ、人けが無いな」
ミニラニ様の言葉に、確かにと頷き返す俺。
いやあるにはあるんだが、殆んど王都の兵士たちや軍属と思われる調香師たちで。王都なんだからもっと活気に満ちているかと思いきや、隣の家の息遣いが聞こえてきそうなほど静まり返っている。
様々な草花が植えられた植木鉢が天井からぶら下がる、調香師たちの工房。自らが調香した香りを嗅いでラリってる堕落調香師たちの背後を素通りし、この迷宮の如く入り組んだ王都を行く。
民間を覗こうとしても、殆どの建物は飴のように融解した金が扉の隙間から漏れ出て、固まって開けられない。
なによりも、王都だというのに行き倒れた人たちの姿が非常に多い。枯れ細った市民たちが路肩で息絶え、王都の騎士が地べたに座り込んで職務放棄しているのだ。
横笛で優美な曲を奏でる小姓や、荘厳にラッパを吹く音楽隊、しっかりと隊列を組んで歩哨を務める兵士や騎士たちも存在するが、裏では死に絶えた人々で溢れている。
王都──というよりも、死都と呼ぶに相応しい光景だ。
「何か思い出したか?」
「いえ、まだ何も」
王都に着いてから、あちこちを見ては難しい顔をするメリナ。
何が切っ掛けで記憶が蘇るかわからないが、そう簡単なものではないだろう。
俺もある意味、記憶喪失だけどメリナたちとは違う特殊ケースだからなぁ。
「そうか。ま、焦らず行こう」
黄金樹の元に辿り着けば、何かしら得られるものがあるだろう。そう思いたい。
「それにしても、この手の敵は厄介だな」
王都に入ってから何度か見掛けるエネミーを前に、苦戦しているミリセントちゃん。
相対するは雪だるまのような格好をした音楽隊が三名。身体ごと横回転するように移動し、ラッパに似た楽器からシャボン玉を飛ばして攻撃してくるという、何から何までツッコミ所があり過ぎるエネミーだ。会敵するまでは雄大な曲を奏でていたし、楽器を持ってるから多分音楽隊だろう。
シャボン玉を飛ばしてはローリングを繰り返し、一人足止め、もう二人がその隙に攻撃と見事な連携を取っている。
意外と苦戦を強いられているミリセントちゃんにメリナが助太刀した。正妻の座を巡っていがみ合っていた二人だが、最近は二人で協力して正妻有力候補のラニ様を倒そうと手を合わせている。こんな形で仲間意識が芽生えないでほしかった。
「ヒャッハー! 汚物は消毒だァー!」
「わが王はやらせないっ!」
「ぐはァ! あ、アヘンも悪くないぜ……」
ラリッた堕落調香師を見事【滑車の弩】で射貫いて見せたボック。片手で扱えるコンパウンドクロスボウ、しかも三点バースト付きだから使いやすい上にクソ強いというね。
生まれ直しの悩みが解決したのが鍵だったのか、アレを機に完全覚醒したボック。ここ最近の戦果は目覚ましく、メリナやミリセントちゃんたち前衛組に負けず劣らずの活躍を見せている。それでいて我が王、我が王と慕ってくれて、もううちの従者が可愛くて仕方ない。
そんな第一の従者にバフ祈祷を重ね掛けしながら、大通りを歩いていると。
「──雷斗!」
聞き慣れた声が鼓膜を叩いた。