「久しぶりだな! あの時は、世話になった」
元気よく手を振って掛けてくるのは、褐色肌のアマゾネス風戦士。
そう、恋人の一人であるネフェリ・ルーだった。
「ネフェリ・ルー! もういいのか?」
クソったれな養父ギデオンのせいで鬱となった彼女は、円卓にある自室で伏せた日々を送っていた。
そんな彼女の心が少しでも癒えればと思い、黒き刃が見つけてくれた遺灰【嵐鷹の古王】をプレゼントした。
あれ以降、円卓に寄ることがなかったため、ネフェリ・ルーがどうしているか分からなかったが、外出できるほどまで回復したようだ。
「ああ、雷斗のおかげでな。……義父には別れを告げてきたよ。思い出したのだ。遥か昔、戦士になった時の誓いを」
彼女の肩に一匹の鷹が止まる。
右目に一本の古傷を負ったその鷹は、普通の鷹に比べて二倍ほどの大きさがあり。
ネフェリ・ルーの肩に止まりながら周囲を睥睨して警戒しているのが見て取れる。
直感で分かった。この鷹は【嵐鷹の古王】だ。
誰の呼び出しにも応じない孤高の古王が、ネフェリ・ルーに応えた。
彼女の何が琴線に触れたのか分からないが、【嵐鷹の古王】の存在はネフェリ・ルーの中に巣食っていた暗雲を吹き飛ばしてくれたのだ。
「──この地の風は穢れている。嵐を呼び、吹き飛ばしたいのだ。風の汚れを」
不意に地面が陰る。
見上げると、巨木のような体躯のエネミーが降って来た!
「オォォォオオオオオォォォ──!」
咆哮を上げる巨木の怪物。その手には【化身の儀仗】と呼ばれる特大武器。
「──雷斗。もしお前が、エルデの王となったなら。私は喜んでその一翼となろう。まあ、私もまだ、エルデの玉座を諦めていないがな!」
巨木の怪物を一瞥したネフェリ・ルーは手斧を二振り取り出すと、嬉々として駆け出した。
「どっちが先に始末できるか、競争だ!」
「私も参加させてもらおう」
いつの間にか飛び出していたミリセントちゃんが、その太い脚をシャムシールで切り裂いていく。
儀仗を地面に突き刺して光弾を飛ばす巨木の化け物だが、ミリセントちゃんは的確に避けながら流麗な剣舞を見舞い、ネフェリ・ルーは「被弾など何するものぞ!」とでも言うように恐れず突貫し、両手の斧を豪快に振るう。
「ほう、お前は……褪せ人ではないようだが、名のある剣士と見受ける」
「ミリセントだ。訳あって雷斗殿の旅に同行している。……つかぬことを聞くが、貴殿もまた、雷斗殿を?」
「そういうお前も雷斗を好いているのだな。ははっ、流石は私が惚れた男だ! 良き男、良き戦士に成長していると見える!」
お互い顔も名前も知らないのに、阿吽の呼吸で即興タッグを組むミリセントちゃんたちは見事な連携技を披露し、ほぼ完封に近い形で巨木の化け物を葬った。
ていうか、王都はあんな化け物も飼い慣らしているのか……。
「良き剣士に恵まれているな。……では、私は一足先に行かせてもらうぞ。どちらが先にエルデの王になるか、競争だ!」
ハーッハッハッハッハッ! 快活な笑い声とともに走り去るネフェリ・ルー。
ミリセントちゃんの「嵐のような人だな」という言葉に大きく賛同するのであった。
1
嵐のように去って行ったネフェリ・ルーを追って先を急ぐ。
どうやら王都は上層と下層に別れており、上層は調香師などの軍属や特別階級の人が、下層は一般市民が住むエリアとなっているようだ。上層だけでも迷路状に入り組んでいるのに、下層も探索するとなると大分時間を要する。
今回の目的はメリナの使命探しだ。取りあえず黄金樹がある上層を探索して、それで見かけなかったら下層に行くか。
「大きい竜ね……。これが噂に聞く、大古竜かしら」
階段を上り下りして、巡回する兵士や騎士たちをやり過ごしながら進んでいくと、巨竜の躯にたどり着いた。
巨竜の死骸は完全に石化しており、両翼が階段状となっている。
(……このまま捨て置くことなんて出来ねぇ)
竜の御子という自覚はないが、自然とそう感じた俺は彼の頭までよじ登ると、その額に手を当てた。
解析眼を通じて、彼の生前の想いが伝わってくる。
──見つけたぞ、我らが愛し子を奪いし大罪人よ……!
──我らが愛し子は、あの子はどこにいる! どこへやった!
──赦さぬ、赦さぬ、赦さぬ!
──我らから愛し子を奪った罪、万死を経ても尚余りある!
自分の命よりも大切な宝物を奪われ、激怒という言葉では言い表せないほどの強い怒り。
憤怒、憎悪、焦燥、心痛。
様々な想いが一気に駆け抜け、最後には一抹の寂しさにも似た思念が過る。
──どこにいるのだ……我らが愛し子よ……。
「……ただいま、爺ちゃん」
残留思念を受け取った俺の口から、自然とそんな言葉が漏れ出た。
俺の中にいる竜の御子が返事をしたのかもしれない。
その石化した体を塵に変え、自然へ還っていく。ようやく眠ることが出来た巨竜を見届けた俺は、そう感じたのだった。
巨竜の爺ちゃんが塵となって消えると、その体を射貫いていた巨槍から小さな槍が落ちてきた。
巨槍の百分の一スケールにした槍で、視ると巨竜の爺ちゃんの爪を素材にしているらしい。
エヴァに登場するような格好いい槍なのだが、これが爺ちゃんを葬った武器だと思うと非常にモニョる。
なお、武器の名は【グランサクスの槍】。此処で明かされる巨竜の爺ちゃんの名前。
ていうか、これで二本目になるんだけど。グランサクスのお爺ちゃんには悪いけど、ポーチに保管しておこうと思います。
2
グランサクスの爺ちゃんが残した爪痕により、建物の一角に穴がぽっかりと空いていた。
見える範囲で宮殿内に入れるルートは見当たらなかったため、ロッククライミングで壁をよじ登ることに。
幸いにして壁はレンガ造りで段差も均一ではなく、短剣などを突き刺せば即席の足場が出来る。
これならボックでも登れるから、崖や壁などをクライミングする時にお勧めだ。
「まーだ先があるのか。先は長いなぁ」
道なりに進むとまた外に出たのだが、今度は最上層に躍り出た。王宮まで目と鼻の距離まで近づいたから、頑張ろう。
それにしても、進めば進むほど王都の酷さが分かってくる。
下層と上層で隔てた完全なる階級社会。
下水道に捨てられた夥しい量の死体に忌み潰したち。
道端のあちこちで見掛ける、行き倒れた人々。
ラリっている堕落調香師に、職務放棄している兵士たち。
王都の治安は一体どうなっているんだ。世界一治安の悪い国として知られる南スーダンよりも治安悪いぞ!
「デカすぎだろコレ……」
何やらお祈りをしている音楽隊と天狗ガーゴイルの後ろをひっそりと通り過ぎると、馬鹿デカい木の根が王宮を這っていた。
直径数メートルはある木の根。足場として申し分なく、まさに道のように王宮の一角へ伸びている。
どんだけ栄養を取ればここまで大きくなるんですかね。
「んでもって、なんかいるし」
そんな木の根の上に、体の節々から蔓を生やしたり背中に咲かせた人が、黄金樹に向けて祈りを捧げていた。
彼らも他の兵士たちと同じく、俺たちの姿を認めるや否や、敵意とともに手にした短槍を向けてくる。
こんな足場の悪い場所で戦えば、木の根から真っ逆さまだ。地表までの距離は優にキロ単位だし、ここはスルー一択。
「走るぞ!」
カバーできるように俺が最後列になり、皆を先へと進ませる。
案の定、短槍を避けてバランスを崩したボックが落ちそうになったが、間一髪救出できた。
「此処は、大聖堂か?」
木の根を伝った先は、大聖堂と思わしき厳かな空間だった。
【竜の騎士の聖印】をくれた騎士様の話だと、ここに司祭がいるとのことなのだが。
黄金の波動とともに現れたのは、巨大な戦斧を携えた筋骨隆々な爺さん。
「……誰?」
そんな成りして司祭じゃないっすよね?