匠な大工たちの手により、忌み捨ての地下が”みんなおいでよ!忌み捨ての村!“に名義が変わり。
いい加減、三本指を探さなくて良いのかとメリナに指摘されてようやく、本来の目的を思い出した。
そういえば三本指をデストロイしに来たんやった! ということで、改めて『みんなおいでよ!忌み捨ての村!』の全体マップを確認するが、それらしい場所がなく。
なら道中、抜け道があったかもしれないと、今一度マップを隈無く探索。
この一ヶ月で忌み鬼たちとも仲良くなり、俺を見つけては「棟梁〜!」とダミ声で手を振ってくる。
下水道アスレチックで遊ぶ、忌み鬼の子供たちも可愛らしく「とーりょー!」と呼んでくれるから、思わずニッコリ。
子供たちが元気に遊ぶ、遊べる環境を作れただけでも、この一ヶ月が報われるぜ。
「そういや、大聖堂の中って見たことなかったな」
忌み捨て村の領主的な立ち位置にいるモーグさんだが、基本的に大聖堂から出てこない。
大改装の際には「他の場所は好きに手を加えて良いが、大聖堂はそのままにしてくれ」と言われたため、此処はノータッチなのだ。
流石にこんな場所に居ないよな、三本指。と思いながら中へお邪魔する。
中は燭台や蝋燭が灯されていて、光量はしっかりと確保されていた。
参列者のための長椅子が等間隔の二列で並んでおり、正面には祭壇が設けられている。
場所が地下にあるためか、天井からぶっとい木の根が生え、壁際まで侵食している、そんな大聖堂。
──いや、これ、ただの木の根じゃないな⋯⋯って、は?
「貴殿か。珍しいな、このような場所に赴くとは」
「⋯⋯あ、モーグさん。ちーっす」
木の根に同化したモノに視点が合わさったその時、祈りを捧げていたモーグさんがふり返る。
モーグさんにも三本指のことを訪ねたいが、それよりも⋯⋯。
「あの、この人たちって⋯⋯」
「む? ああ、この者らか。還樹を賜わろうとしている者たちだ。見ての通り、ただの養分と化しているがな」
「やっぱり、これ黄金樹の根っこか」
壁を這う巨大な木の根には、干からびた人たちが半ば同化しており、もはや人で出来た根っこと称しても良いほど。
その木の根は、黄金樹と同じ成分で出来ているのだから、これが噂に聞く還樹とやらなのだろう。
それにしても、悍ましいというかなんというか。てっきり黄金樹の側に埋葬するだけかと思ってたが……えっ、それともソレでこうなるの?
だとしたら黄金樹が悍ましすぎる。みんな還樹還樹言ってるけど、一般人はこの実態を知ってるの?
「恐らく知らぬであろうな。元より還樹は肉体に依存しない。毛の一本血の一滴までも黄金樹に還り、そして生まれるのだから、あのように遺体が残ること自体が異常なのだ。それでもなお、還樹に縋ろうとした結果が、あの様である」
結構辛辣だね。
けど、モーグさんたち忌み鬼は黄金樹に否定された存在だから、黄金樹──引いてはその思想に染まった人たちは敵なわけか。
「それで、此度は何用だ?」
「三本指がこの地下に居るって聞いたんですけど、モーグさん知りません?」
「三本指だと? 貴殿、もしや狂い火を求めているのか?」
おっ、有力な情報がゲット出来そうな予感。
元々、三本指を殺すために忌み捨ての地下にやって来たことを話すと、彼は顎から生えた角を撫でながら小さく唸った。
(あ、やっべ。モーグさんが三本指勢力だった可能性を考えてなかった)
もし、彼が三本指に与するデミゴッドだった場合、此処に居るのも三本指を護るためであると理解できる。
姿なき母とやらを崇めているからといって、三本指に加勢してはいけないなんて決まりはないだろうし。やべぇ、なんかそんな気がしてきたぞ⋯⋯。
ともに忌み捨て村の発展を望む同志としては、出来れば敵対したくない。
「そうか、彼の指を⋯⋯で、あるならば、余としても黙っている訳にはいかん」
マジかぁ、戦わないといけないの?
非常に気が向かないけど、此処まで来て帰る訳にもいかない。
幸いにして本体ではなく分身だから、今度本人に会いに行くときには土下座しよう。
覚悟を決めて愛刀の柄に手を伸ばすと、祭壇に歩み寄ったモーグさんは、その手に持つ燭台のような形をした槍の柄で軽く台を小突いた。
「この先に三本指が封じられている。彼の指に見えるには、薄布一枚纏わぬことだ」
石が擦り合わさる独特の音とともに祭壇が競り下がり、奥へと続く通路が現れた。
「分身たる余がこの地に座すのは、聖地である故郷を守るためでもあるが、もう一つの理由は三本指の監視だ。狂い火に救いを求める輩も少なくないからな」
だが、貴殿が三本指を殺めるのであれば、今後も監視を続ける必要はあるまい。
そう言葉を続けたモーグさんは小さく口角を上げて見せた。
も、モーグさん⋯⋯っ!
「さあ、行くが良い。大いなる意思に見捨てられた、哀れな指に引導を渡すのだ」
「押忍!」
こうしてモーグさんに見送られた俺は、ついに三本指が封じられているエリアへと足を踏み入れるのであった。
1
「うわ、なんじゃこりゃ⋯⋯!」
通路の先は巨大な穴場に繋がっており、夥しい数の老人の遺体で、埋め尽くされていた。
穴は四角形状で、壁には横穴が等間隔で開いており、集団墓地で見るような棺や遺体が安置されている。
さらには一枚の古びた木の板を繋いで延長した即席の橋が、申し分ない程度に架けられており、下に降りるには板から板へと飛び降りて移動するという中国でも見掛けないデスアスレチック仕様。
そんなリアルデスゲーム会場を取り巻くのは、長い白髪を生やしたお爺ちゃんたち。
みんな齢八十を越えた後期高齢者で、奇妙なのは全員琵琶法師という点だ。目を押さえて悶え苦しむ姿で硬直しており、その姿から狂い火を宿して死んだのだと推察できる。
琵琶法師も盲目の人が弾き語りやお経を唱えている印象がある。
「お、生きてる人発見」
本来は静寂な空間であるはずの墓所に、淋しげな旋律が。
目を凝らすと、琵琶を弾いている現役の琵琶法師お爺ちゃんが確認できた。まだ生きている人がいたんやね。
安全第一をスローガンに掲げているため木の板には乗らず、紐で結んだダガーを石壁に突き刺し、身軽になってからロープで降りていく。ミリセントちゃんとボックはもしもに備えて待機だ。
「⋯⋯」
降りた場所は丁度、琵琶法師の目の前。反射的に身構えてしまったが、お爺ちゃんはこちらに気付いた様子もなく琵琶を弾き続けている。盲目なのは確かなようだ。
「⋯⋯あの〜」
「──ッ」
恐る恐る声を掛けた途端、カッと目を見開いたお爺ちゃんに両肩を掴まれると、物凄い力でしがみつかれながら目を合わせてきた。すべてを燃やし尽くす狂気が、合わせた目から伝わってくる。これは【発狂伝染】か!
「〜〜ッ! はな、れろ⋯⋯っ!」
振りほどくと恐ろしいほど身軽なお爺ちゃんは、勢いそのまま穴の底へ落下していった。
それにしても、やべぇな⋯⋯。目隠しで視線が合わさらないようにしてるのに、障害物通り越して目が合ったぞ。
伝染してきたのは、己諸共すべて燃えてしまえという意志そのもの。俺にはチートボディがあるから軽い火傷程度で済んだけど、意志の弱い人や自我が薄れている人はあっという間に発狂することだろう。
「うぉおおおお!?」
そして、今の戦闘で侵入者の存在に気付いた他の琵琶法師が、一斉に攻撃してくる。
片手で数える程度だし、位置的にも攻撃が届くわけではないが、一斉に狂い火の祈祷を使い出したから、デスゲームの難易度が急上昇。
その瞳から黄色い火を激しく迸らせる【堪えきれぬ狂い火】こと狂い火シャワーや、黄色い火を収束させて放つ【空裂狂火】こと狂い火ビームが飛び交うこの空間を、被弾することなく通り過ぎなければならない。控えめに言って無理ゲーだ。
対話も出来なさそうだし、心苦しいが排除させてもらう。
格好良く指を鳴らすと、影から進み出てきたアレクトー。最近出番なくて寂しいって言ってたからなぁ、ここらで一丁格好良い姿見せて頂戴な!
「アレクトー、GO」
「御意」
何のためらいもなく穴の中へ身を躍らせたアレクトーは、空中で身を捻ると迸る狂い火を回避しながら、組織の名でもある短刀【黒き刃】を振るい斬撃を放つ。
そして、腰元から取り出した鉤爪を投擲し、狂い火ビームを放つ琵琶法師に絡めると思い切り引っ張った。
作用・反作用により琵琶法師と立ち位置を入れ替えたアレクトーは、宙に浮くお爺ちゃんを足場に跳躍。空中ジャンプを成功させると、最後の一人に向けて黒き刃を振るい、壁を蹴って俺の元に帰還した。
この間、僅か三秒。黒き刃のリーダーに相応しい腕前に思わず拍手を送っていたね。
「あ、待って待って」
恭しく頭を下げてそのまま影に控えようとするアレクトーを呼びと止める。
どこかの銀行の常務は「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」と言っていたが、俺はちゃんと部下を労う上司ですので。
ヒロインレース爆走中のラフプレーが目立つメリメリたちに、どこか一歩下がった印象のあるアレクトーだが、お前もヒロインなんだよオラァ!
「……っ」
腰を抱き寄せて、やや強引に唇を奪う。
背景にズキュウウウンという効果音が入ってそうだが、両想いなので無問題なはず。
うっすらと開いた口に舌を差し込み、レロレロレロレロ。
メリナたちを相手に、ほぼ毎日と言っていい程唇を重ねてきたからな。童貞には到底出来ないキステクも自然と身についたぜ。
水商売をしている人たちも確実に腰砕けになるであろう超絶技巧を受けたアレクトー。唇を離すと、それこそ乙女な顔でボーッと見上げていた。
「――ハッ! し、失礼致しました……!」
そして、頬を赤らめたまま、そそくさと影に隠れてしまう。
彼女と褥を共にした時間はまだ僅かだが、その初々しさはメリメリたちから失われて久しいもので。
大ルーンより希少な“初心の心”は一体どこに行けば手に入るのでしょうか。