それと今更ですが、本編に登場するエネミーやキャラがいなかったり「なんで此処にコイツおんねん」な展開もあるので、その辺りも楽しんで頂けると幸いです。
純真無垢で健気なゾラーヤスちゃんに自己肯定感マックスという常時バフが掛かった結果、メッチャアグレッシブになった彼女。
母からプレゼントされた乙女人形Mrk.Ⅱが余程気に入ったのだろう。最近では「一狩りしてきます!」と言わんばかりにブースターを噴かせ、狭間の地を走り回っているらしい。
良い意味で吹っ切れたゾラーヤスちゃんだが、アレで良かったのだろうか。と一抹の疑念を拭えない俺とは別に、タニスさんは「今日も元気にはしゃぎ回って⋯⋯可愛いなぁうちの娘は」と親バカ全開。
まあ、本人たちが幸せならそれでいいかと無理矢理納得することにした。
その後、ゾラーヤスちゃんが居ないところで火山館の深部をタニスさんに聞く。
しろがね人の拷問は改造実験によるもので、彼らを兵器に作り変えるために必要な措置とのこと。
動機から何まで酷すぎると非難したが、タニスさんはキョトンとした顔で「しろがね人を庇うとは、珍しいな貴公」と口にしていたのが非常に印象的で。
彼らは何処までも言っても忌み嫌われる存在で、そこに人権はない。それが当たり前なんだと改めて思い知り、背筋がゾッとした。
そんな折にタニスさんから、そろそろライカードの元へ向かわないかと提案される。
火山館からの依頼を熟すことでタニスさんが求める英雄とやらに成長出来たので、そろそろ頃合いかと声を掛けたのだそうだ。
火山館はかなり奥深くまで探索したが、これまでライカードの姿は一度も見かけなかった。
それなのに、急に謁見出来ると聞いて少し違和感を覚えたものの。
いずれ対峙しないといけない相手のため、それならと頷いた。
「この転移門の先に、我が王ライカードが待っている」
タニスさんの案内で火山館の最地にある転移門へ案内された。
ゾラーヤスちゃんはいない。あの娘がいたら、きっと別れを惜しむだろうからということで、彼女には書置きだけ残している。
争いに発展するか分からないが、此処から戻った時にはもう火山族に滞在する理由が無くなっているだろう。
ちなみに「英雄に従者は必要だ」とのことで、ボックやメリナたちもライカードと謁見出来るらしい。
「けれど、少し寂しいものだな。汚れた道を行く英雄は、いつも美しい。私は貴公に、惹かれていたよ……」
しみじみと呟いたタニスさんは、しばし目に焼き付けるかのようにジッと俺の顔を見つめると、姿勢を正した。
「さらばだ貴公。良き邂逅を」
「タニスさんも、お元気で」
なんだかんだで火山館にはお世話になったからな。
ビシッと敬礼を決めた俺は、意気揚々と転移門を潜る。
これが終わったら、改めてゾラーヤスちゃんに会いに行こう。そう思いながら。
1
学校のグラウンド並みに広い、開けた空間に躍り出た。
周囲には大きな柱が聳え立っており、柱の根元には無数の骸で出来た山。
離れた場所──丁度この空間の中央付近には、トグロを巻いた大きな蛇の姿が見える。
神殿らしき場所で祀られていた大蛇の抜け殻と比較すると数倍は大きい。
溶岩溜まりの上でトグロを巻く大蛇は眠っているのか、こちらに気付いた様子はないが、近寄ると徐に鎌首をもたげた。
「うわ⋯⋯もしかして、アレがライカード?」
大蛇の頭──のやや後ろ。人間でいうところの後頭部付近に人の顔があった。
青い顔だ。大蛇は全体的に赤み掛かった色をしているのに、そこだけ青白く、さらには蛇の大きさに合わせて顔も大きい。
そんな巌のような威厳溢れる──恐らく、ライカード本人と思われる顔を、一本の大剣が貫いていた。
特大サイズのそれは、明らかに人が使うものではない。巨人専用と言われても可笑しくない特大の大剣。それが根元まで埋まり、顔面を貫いているのだ。
異様な姿に思わず息を呑む。ていうか、ライカードって蛇だったの?
「ぉ、ぉぉ⋯⋯ぉおおおお⋯⋯」
背面の顔ではなく大蛇本体から聞こえる女の人の声。
何やら喜びの色に富む大蛇は体をくねらせると、蛇の顔をこちらに近づけてきた。
縦に裂けた夜空のような瞳孔がキュッと狭まり、チロチロと伸びた舌が俺の顔に触れる。
やっぱり、なんか喜んでる?
「⋯⋯間違いない。妾の愛し子じゃ⋯⋯ぁあ!」
「へ?」
もっとよく、その顔を見せてたもれ。そう言って優しく尻尾を体に回してくる大蛇さん。敵意の欠片もなかったから反応しそびれた!
顔の前まで体を持ち上げたかと思うと、額辺りの鱗が裂け、中から妙齢の女性が姿を現した。
鮮やかな濃紫色の髪をした、三十歳ほどの女性。優しげな垂れ目の女性で、腰から上を大蛇から生やした格好をしている。
しかし、女性は上半身裸なため、見事に実ったオパーイも丸出し状態! ウホっ、Dカップはあるウホ!
それにしても、バカデカい大蛇に、背面にある男の顔とそれを貫く特大剣。そして今度は綺麗な女の人ですか。情報量過多で交通事故起こしますわ!
大蛇に囚われている様は捕食一歩手前状態だが、丸出しのオパーイに目線が奪われてしまっている。
「あぁ、この時をどれほど夢見たことか⋯⋯! もう離さぬぞ、我が愛し子よ⋯⋯!」
目を細めた女性に優しく頬を撫でられて背筋がゾクリとするが、聞き慣れないワードに首を傾げる。
「我が愛し子?」
「まさか、妾のことが分からぬのか? 妾じゃ、お主の母じゃ!」
「マミー?」
えっ? この大蛇が俺の母?
ていうか、結局あなたはライカードなんっすか??
2
女性の名はデーディカ。またの名を【宵眼の女王】と呼ばれる外なる神の一柱は、狭間の地の外で平和に暮らしていた。
しかしある時、なんの前触れもなく平穏が瓦解する。
絡繰義手を付けた人間に、夫である竜の神が討たれたのだ。
風と雷を操り、破壊と再生を司る偉大な神が唯の人に敗れる。それは、彼の夫をよく知る女王にとって天地がひっくり返る程の出来事であった。
幸いにも人間は夫を殺して満足したのか下界に引き下がって行ったが、愛する夫を失った女王の喪失は計り知れない。
故に、夫の忘れ形見である御子を我が子のように可愛がるのは、至極当然の流れと言えよう。
しかし、狭間の地から離れた天界で親子睦まじく暮らしていた女王だが、またしても不幸が訪れる。
我が子に対する溺愛っぷりに嫌気が差した御子が家出をしたのだ。
人間で言うところの反抗期の時期だが、そんなものを知らない女王にとって、愛する我が子に拒絶された苦痛は想像を絶する。
それでも我が子を連れ戻すため、匂いを追って夫の故郷である狭間の地へやって来た。
竜王プラキドサクスに気に入られた息子は竜の地であるファルムアズラに匿われており、竜王を始めとした力のある古竜たちを相手取るには分が悪い。
息子が目と鼻の先にいるのに手を出せない、そんなジレンマに陥りながらも虎視眈々とチャンスが到来するのを待っていると。何を思ったのか息子が影の地へ降り立った。
千載一遇のチャンスを逃さず、ついに息子を保護することに成功した女王だが、彼の拒否反応が想像を超えており。
頭が真っ白になったその隙を突かれ、息子本人に逃げられてしまう。
そして、彼女が持つ死のルーンを危惧したマリカによって、失意の念に圧し潰される女王が倒され、その力を簒奪された。
搾り滓にも劣る力の残滓しかない女王は、その特徴的な宵眼を細めて自問自答を繰り返す。
──何故、息子は妾の元を去ったのか。
──何故、息子は妾を拒絶するのか。
──何故、愛する人は妾の元から離れていくのか。
何故、何故、何故、と。
繰り返した自問の果てに得た答えは、破滅への道だった。
──この世が妾たちを拒むのであれば、あの世で親子の愛を育もうぞ。
息子を喰らい、世界を喰らい、己が世を形成する殻となれば。息子は己の中で生き続ける。永遠に。
すべてが満たされた微睡みの中で、今度こそ親子は幸せになるのだ。
そのためには力がいる。失われた力を取り戻す必要がある。
狂った野心を抱いた女王は手始めにライカードを唆して、彼に己を取り込ませた。そうしてライカードという殻を得た女王は彼の中で眠りにつき、力を蓄える。
やがて十分な力を得た女王はライカードの精神を喰らい、彼に成り済ますと英雄を集めて更なる力を求めると同時に、御子が火山館にやって来るのを待った。
すべては、今日のために──。
3
「雷斗が、宵眼の女王の子供だと⋯⋯?」
余程寝耳に水だったのか、驚いた声を上げるミニラニ様。俺は半信半疑で聞いております。
メリナも胡散臭そうな顔で、宵眼の女王と俺を見比べている。
「それにしては、貴女と雷斗、似てるところがないけれど」
「なにを言う。妾譲りの美貌ではないか!」
確かに宵眼さんは小顔で整った顔立ちをしてるけど、似通ったところが有るかと言われると首を傾げざるを得ない。
代表的な眼だって、夜空を彷彿とさせる宵眼に対し、俺は鮮やかな緋色だし。濃紫色の髪でもないもの。
見知らぬ人から「あなたは生き別れた息子なの!」と言われても、何言ってんだコイツとしか思えない。
「ええい、小娘風情が! そもそも妾の愛し子に近寄るでないわ!」
母親を自称する宵眼の女王は、大蛇の背中から腕を一本生やすと、その身を貫く巨大な剣を引き抜いた。
そして、巨剣を携えた女王は「今度こそ、妾とともに生きようぞ!」と言いながら、鮮血が傷口から噴き出すもお構いなしに襲い掛かる。
こうして、ライカードではなく宵眼の女王との戦いが勃発したのであった。
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