宵眼の女王との戦いは、長い旅路で三指に入るほどの激闘だった。多彩な溶岩魔術に、あの質量から繰り出される剣戟。一度でもヒットを許せば即致命傷となる攻撃ばかりで、極めつけは女王が持つ死の力。
その大半をマリカに封じられたというが、一割以下の力が残っていたようで。深い夜を彷彿とされる死のルーンは、あらゆるものを殺すという規格外な力だった。
物理・魔法攻撃すら殺してノーダメ状態を維持し、向こうの攻撃は掠っただけでアウト。
俺の強みである死に戻りが無効となる予感がビンビンだったため、終始神経を削られながら激闘を繰り広げることになり。
結果として、仲間たちのおかげて一撃も食らうことなく勝利を掴むことが出来た。
驚いたのはメリナだな。
女王の死のルーンに対抗するため、メリナが切り札を切ったのだが、それがまさかの運命の死というものだった。
そう、宵眼の女王が持つ力である。
「何故、貴様にその力が⋯⋯!」
常に閉ざしていた左目を開いた彼女に、女王も驚天動地。
女王と同じ深い夜空の眼で死のルーンを相殺してくれたお陰で、こちらの攻撃が通るようになったのだ。
しかし、あと一歩というところで女王を逃したのは痛い。彼女の本体は小さな白蛇で、大蛇の姿や女性の体はダミーだった。
逃がしたのは痛いがラニ様曰く、再び力をつけるのに数千年は掛かるだろうとのことなので、女王サイドから何かアクションを起こす可能性は少ないと思う。
「大丈夫かメリナ」
「えぇ⋯⋯」
メリナ曰く、左目に封じされていた死のルーンはマリカによる保険とのことで、黄金樹を確実に焼くために幾つかに分散した運命の死を宿していたという。
久々にその力を使ったから反動で動けないが、しばらく休めば大丈夫との話だ。
メリナの体調が回復するまで火山館に滞在することにした俺は、ライカードの件をタニスさんに報告する。
我が王と仰ぐのだから、かなりショックを受けるのではないかと懸念していたが、話を聞いたタニスさんは冷静に受け止めると小さく頷いた。
「そうか、ライカードは既に宵眼に喰われていたのか。喰らったはずが逆に喰われるとは、な⋯⋯。我が王は──あの人は弱かった。だから宵眼に乗っ取られた。ただそれだけのこと⋯⋯。貴公には感謝しよう。あの人の仇を討ってくれて」
「貴様、まさか⋯⋯」
何かを感じ取ったのか、ハッした顔のミニラニ様。そんな彼女に意味深な微笑みを向けたタニスさんは、やるべき事が出来た、と言って席を立った。
すると、タニスさんに入れ替わり、今度は人間形態のゾラーヤスちゃんがやって来る。
なにやら緊張した様子の彼女の肩に手を置き、一言二言告げるタニスさん。小さく頷いた娘の肩越しにこちらへ視線を送ってくる。な、なんっすか、その意味深な目は⋯⋯。
フッと涼し気な笑みを浮かべてタニスさんが退室すると、ゾラーヤスちゃんが一歩前に出た。
「あ、褪せ人様! こ、こここ、コレを⋯⋯ど、どうぞ、うう受け取って下さいッ!」
後ろ手に持っていたのは一通の手紙だった。
赤らめた顔で視線が忙しなく移動し、緊張からか体を震わせながら、手紙を差し出してきたゾラーヤスちゃん。
その様子に頭の片隅に過る、甘酸っぱい青春を送った学校生活(妄想)。
──これは、もしかしなくとも、ラブレター!?
「で、では、失礼しましゅッ!」
大きく頭を下げたゾラーヤスちゃんが足早に部屋を出ていく。
まさかの展開にポカンとしていると右頬をミニラニ様に、左頬をミリセントちゃんに抓られ、メリナが背中をペチペチしてきた。
「こうなることは予想出来ていたが、やはり惚れられたな。ちゃっかりあの人妻の心も射抜きおって。誰の伴侶か、一度分からせる必要がありそうだ」
「むぅ……私たちというものがありながら、新たに女の子を引っ掛けるとは。英雄色を好むとは言うが、君を慕う女の子の身にもなってくれ。凄くヤキモキするんだぞ」
『雷斗が魅力的だからこそ、色んな娘が寄って来るんでしょうけど、人妻はダメよ。浮気は絶対に赦さないから』
ゾラーヤスちゃんは分かるがタニスさんはちゃうやろ!
メリナの抗議に一部反論しつつ、そっと手紙を開く。
そこには可愛らしい丸文字で『本日のお昼に、館の二階へ来てください。お待ちしてます』とだけ書かれていた。
壁時計を見ると、あと一時間くらいで昼になる。
「な、なんか緊張するなぁ⋯⋯!」
こう見えてラブレターを貰ったのも初めてで、まさに学生時代に戻ったような気分。
ミリセントちゃんに頬を引っ張られ、ミニラニ様にゲシゲシ蹴られ、メリナにペチペチされる中、腕立て伏せで気持ちを落ち着かせる俺であった。
1
指定された時刻となり、ドキドキとワクワクを胸に二階へやって来た。
二階は縦長のテーブルと十数個の椅子が並んだ会議室となっており、それ以外に調度品はない。
一階のリビングの約二倍程度の広さはあるため、ゾラーヤスちゃん自己肯定感爆上げ大計画の際にはお遊戯を披露する場としても活用した。
窓際には既にゾラーヤスちゃんが到着しており、ソワソワした様子で前髪を整えている。可愛いね。
「ゾラーヤスちゃん」
「あ、褪せ人様!」
パァっと笑顔になったゾラーヤスちゃんだが、すぐに緊張が戻ったのかハッとなると再びソワソワし始めた。
なお、この場にメリナやミニラニ様はいない。女の子の大事な場面だからと遠慮してくれて、今は二階の入り口から顔を覗かせている。
「ご、ご足労頂いて、ありがとうございます」
「う、うん」
な、なんだかこっちまで緊張してきたぞ。
「褪せ人様にはずっと良くしてもらって、お母様の件でも相談に乗ってくれて⋯⋯。そんな褪せ人様だから、私⋯⋯」
「⋯⋯」
「わ、私⋯⋯! 褪せ人様のことが──」
一世一代の告白が、今まさになされようとした、まさにその時。
窓ガラスを突き破って何者かが侵入してきた!
「REEEEEEE――ッ!!」
妙な鳴き声とともに現れたその人物は、人攫いの乙女人形にも使われている【ギーザの車輪】を手にし、血走った目をしながら激しく回転する車輪を滅茶苦茶に振るって来る。
突然過ぎる展開に頭の中が真っ白になりそうだが、体は勝手に動き出しており、ゾラーヤスちゃんの安全をまず確保した。
「あ、あなたは、ギーザさん!」
「知り合い!?」
「火山館のメンバーです! 音信不通になっていた貴方が何故⋯⋯!」
ゾラーヤスちゃんの声にギーザは武器を振るうことで返答する。ていうか【ギーザの車輪】の持ち主ですか!
奴の狙いは俺のようで、ゾラーヤスちゃんには目もくれず一心不乱に【ギーザの車輪】を振るうが、武術はまったくの素人なのだろう。軌道を見切りやすい。
やがて、甘い軌道の攻撃を見切り、弾くように武器を叩き落とすと、ギーザは肩を震わせながら口を開いた。
「ラーヤたんの⋯⋯ラーヤたんの彼氏ブッコロス!」
うーん、精神異常者じゃなくて厄介ストーカーの方だったか。
このままじゃ遠くない未来、ゾラーヤスちゃんがナイフで刺されるかもしれない。
百害あって一利なし。貴様のような害悪厄介ストーカーは
「褪せ人様を傷付けるのも、私の告白を台無しにするのも⋯⋯絶対に許しませんっ!」
極悪非道な輩専用の刀である
激昂するゾラーヤスちゃんとは珍しいなと思ったのも束の間、バッと格好良く右手を突き出した彼女は高らかに叫ぶ。
「来て下さいっ、乙女人形Mrk.Ⅲ!」
その呼び掛けに応じるように、天井の一部を砕いて現れるゾラーヤスちゃん専用機体の乙女人形。
背面とキャタピラーに取り付けられたブースターを噴かせながら安定した姿勢で着陸すると、独りでに前面のハッチが開いた。
『褪せ人様の敵は私の敵! ゾラーヤス、行きますッ!』
人間形態でありながら蛇のようにヌルっとコックピットに入り込むゾラーヤスちゃん。乙女人形の目が緑色に変化したことから戦闘システムが起動したのだと分かる。
ていうか、何気に武装増えてるし! Mrk.Ⅱだったのに、いつの間にⅢへ進化したの!?
『改良に改良を加えたMrk.Ⅲの力、思い知らせてやります!』
二本目のギーザの車輪を取り出し身構える男の前で、乙女人形Mrk.Ⅲが動き出す。
キャタピラーが高速で回転すると同時に背面ブースターが火を噴き、ゼロから一気にトップスピードへ。
数十トンはするであろう質量そのものが突進し、慌てて回避行動を取るギーザ。通り過ぎる乙女人形だが、側面のブースターを点火して鋭角で軌道を修正すると、右手の振り子鎌を飛ばした。
直線的な軌道で投擲された振り子鎌を危なげなく回避したギーザが距離を詰める。チェーンを巻き取る乙女人形だが、明らかにギーザの方が速いだろう。
『舐めないでください! 武器はまだあります!』
左手の振り子鎌で直接攻撃するゾラーヤスちゃん。サイドステップで躱したギーザはそのまま背後を取るが、すかさず、瞬間的にブースターを噴かせて爆発的な推進力を発生させるクイックブーストで距離を取った。機体の使い方が上手い!
『これでも食らってください!』
前回のお披露目時にはなかった、両肩の武装が牙を剥く。
右肩に取り付けらているのは、まさにガトリング砲の原型ともいえる砲身で、バレルが回転し始めると矢が断続的に射出される。
【ギーザの車輪】を盾にする男だが、直撃する度に体が揺さぶられる姿から相当な威力を秘めていることが分かる。
「GAAAAAAAAAAAA――――ッ!!」
リロードに合わせて攻勢に出るギーザ。
推しの女の子に拒否されていかれたのか、バーサーカーのような雄叫びを上げて突進するが、そのぶん乙女人形は後退して距離を稼ぐと同時に、両手の振り子鎌が射出される。
ステップで回避するギーザだが、振り子鎌に取り付けられたブースターが火を噴き軌道を変えた。
チェーンが蛇のように撓り、ギーザの体に絡みつくと振り子鎌が地面に食い込む。
完全に生け捕りにされたギーザ。既に勝負ありの状態だが、ゾラーヤスちゃんの怒りはまだ収まらないようで。
『これで終わりですっ!』
左肩に装着された折り畳みの砲身が展開されると、低くもっさりした、空気の抜けるような音とともに拳大程度の石を射出。
身動きが取れないギーザが轟音と爆炎に吞まれた。これは【爆発石の塊】か……!
後に残ったのは、肉片一つ残さず爆発四散したギーザ。
チェーンを巻き戻して振り子鎌を回収した乙女人形から、ゾラーヤスちゃんの誇らしげな声が聞こえてくる。
『見ましたか褪せ人様! 私やりました!』
「アッハイ」
乙女人形を操縦するゾラーヤスちゃん、もしかしたら俺より強いかも……。
2
ゾラーヤスちゃんの暴れっぷりに犠牲となった会議室。
後でタニスさんのお説教が控えているだろうなぁ、と遠い目になる俺だが、乙女人形から降りたゾラーヤスちゃんから改めて逆告白を受けた。日を改めないで仕切り直すとは、流石はツヨツヨゾラーヤスちゃん。
「褪せ人様、好きです……っ!」
「俺もゾラーヤスちゃんのこと好きだよ」
ゾラーヤスちゃんのことは全然異性として見ることが出来る。
そのため俺としては是非ともゾラーヤスちゃんも迎え入れたいところだが、すでに恋人が両手の手で数えるほどいらっしゃる訳でして。
その辺りを承知してもらえないと、二人とも不幸になるのは目に見えているから、恥を忍んで十人とお付き合いしている旨を話した。
「じゅ、十人もですか。さすがは褪せ人様です……!」
なにが流石なのか分からないけど、ゾラーヤスちゃんはそれでもいいっぽい。
メリナたちとの様子から既に恋人がいると察していたようで、愛してもらえるなら愛人でも良いとのこと。
もちろん、俺の中に序列なんてないからゾラーヤスちゃんも一人の女の子として愛す所存。
だけど、果たしてタニスさんからお許しが出るだろうか……。
「お母様は私の気持ちを知っています。応援するって言ってました!」
「お、おぉ。そうなのか」
ゾラーヤスちゃんラブのタニスさんにしては珍しい。てっきり「私の可愛いゾラーヤスは誰にもやらん!」とでも言うかと思ったが。
「――お母様が良いと言っても、私たちがそう簡単に許すと思うかしら?」
いつの間にか側にいたメリナたちは、何やら腕を組んで高圧的に彼女を見下ろしている。
メリナたちにドナドナされたゾラーヤスちゃん。
離れた場所で何やらヒソヒソ話をしているが、最終的にはメリナたちの審査も通ったようで、全員と握手を交わすことになるのだった。
その後、タニスさんに報告した俺は「貴公なら娘のことを任せられる」と交際を認められたのだが「それはそうと、私は貴公の目に適うだろうか。元踊り子として体型維持には努力をかかしていないが」という言葉にはビックリ仰天の助。
「貴女、ライカード派でしょう! 我が王って言ってたじゃない!」
そう目くじらを立てて糾弾するメリナたち。俺も寝耳に水で目を白黒させたが、それ以上に「ママ属性のヒロイン増えた! やったー!」といった棚から牡丹餅感の方が勝っていた。
なお、ゾラーヤスちゃんからは「お母様もいっしょだー!」と純粋無垢な感想を頂きました。
これで我がハーレム軍団は【メリナ、ラニ様、レナラ様、ローデリカ、ネフェリ・ルー、セレン師匠、ラティナ、アレクトー、ミリセントちゃん、ゾラーヤスちゃん、タニスさん】の十一人。すごい十傑集を超えた!
エルデの王になる頃には二十人に届くかもしれない、と半ば本気でそう思う雷斗さんです。
次から三章に入ります。
プロットの修正などありますので、少々お時間を貰います。
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