◆♀◆ 4、リーモ、シャケに愚痴る ◆♂◆
「なんなんだろ? 俺とシャケだけで行けって」
リーモ、愚痴る。
レーネの愛犬・シャケ、リーモを見上げる。で、そっぽ向く。「ワフ」返事は素っ気ない。
「なんだよ。冷たいな」
「フ」さらに素っ気なくなった。
「昨日もさ・・・俺、レーネに大事な話しようと思ってたんだ。出発する前に、話しておかなくちゃって」
「・・・。」シャケ、前を向いてのそのそ歩くだけ。
「なのに、日も暮れてから急に出てっちゃってさ」
「・・・。」
「しょうがないから歩きながら話そうと思ったら、これだろ? いつ話せばいいんだよ」
「・・・。」
「おまえもさびしいだろ? 姉貴がいなくて」
「ウフ・・・」
シャケ反応した。(´・ω・`)こんな顔してリーモを見上げ、じっと目を見てから、うなだれる。
「だよなぁ。ごめんね? 道連れが俺で」
「ワッフ」
2人は、トボトボと北につづく道を歩いた。
目指すは、ラモリモンラ。おっぱいでっかい小っちゃい女神さまの村である。
森の中をゆく道は、しっとりと濡れて、涼しい。雨上がりの森である。それでいて、日差しはしっかり回復しておって、ピクニックするには素晴らしい日と言えた。
そんな素晴らしい朝の森を、ハイエルフの小娘と灰色の中型犬がトボトボ歩いておる。それというのも、彼女らの姉貴分がいないため。女勇者ユリアーニェが、別行動を取っておるせいであった。
では、女勇者は、いったいどこに? そして、何をしておったのであろうか?
それは、こういうことであった・・・
ナダラカンミナットの領主館。構えもよろしいお屋敷を、女勇者が訪れる。
「これは、ヨスベリューサニェー」
「おはようございます」
女勇者・レーネは、門番に軽くあいさつをし、中へ入ろうとする。
ところがそのとき、玄関の扉が向こうから開いた。そして、中から・・・
「おや、これは、ヨスベリューサニェー」大柄な領主と、
「レーネか。おはよう」同じく長身の跡継ぎ、ガンバが現れた。
「閣下、おはようございます」
レーネはちょっと気取った感じであいさつした。
「若殿。それにお付きのみなさんも、ご機嫌よう。お出かけでしょうか?」
「ああ」と領主閣下。「私に用事かね? 外ではまずいかな?」
「いえまったく。ご挨拶にうかがったまででして」
「では、歩きながら話そう」
領主と若殿ガンバ、それに従者たちの一団は館を出て大通りをゆく。
「いつもの視察なのだが、しばらく館に詰めっぱなしだったのでな。息子も連れ出したのだよ」
「そうでしたか」
「それで、どのような用向きかな?」
「はい。そろそろ、勇者としての活動を再開しようかと思いまして──」
レーネ。ちょっと大きめの声で、ハキハキと、そう言った。
「西に向けて出発します、と、閣下にお伝えに上がりました」
・・・おやおや? リーモとシャケは、北に行ったのに。女勇者は『西に向けて』などと言う。
リーモと女勇者は、バラバラになってしまうのか?
今回は、そんなお話というわけです。
◆♀◆ 5、リーモ、ラモリモンラで歓待される ◆♂◆
「レーニャ!」
ラモリモンラに着くと、娘が駆け寄って来た。
リーモも「あ」と笑顔になった。それを見て、娘は抱きついてきた。
「ひさしぶり! レーニャ」
「スーニャ。元気?」
「はい!」
「えへへ。よかった」
「レーニャが山賊をやっつけてくれたおかげ!」
「いやぁ、みんなだよ。ユークラ・・・」
「はい! ユークラネーさまのおかげですね」
リーモを抱き締めとるのは、この村の娘、ナオスニャーであった。
山賊に襲われとるところを、リーモが助けた娘である。そして、一緒にお風呂に入った仲でもある。愛称はスーニャ。抱きついてくる腕が力強い。このままリーモを持ち上げれるぐらい、力強い。そして、おっぱいが柔らかい・・・。リーモの首筋、ホカホカになる。
「荷物、重そうですね。持ちましょうか?」
「あ、これは・・・」
リーモは自分の荷物を見た。手に大きな包み。背中には、ふくらんだ背負い袋。
「大丈夫。村長さんに差し入れしようと思って持って来たんだ。あとちょっとだし、自分で持って行くよ」
「そう。じゃあ、案内しようか」
「あ、お願いできる? 助かるよ。あ、そうだ。犬は大丈夫?」
「大丈夫ですよ。お庭で待っててもらえば」
「んじゃ行こっか、シャケ」
「ワフ!」
「あら、礼儀正しいワンちゃんですこと!」
「ワフ~ン」シャケ、媚びた。スーニャに近付いていきよる。
「よしよし」
「ク~ン」
このクズめ、男のクセに! とリーモは思った。
「おお。これは見事な反物じゃ。それに、これはまた、高価なものを」
ナダラカンで買った布地3巻。
ピリッとして爽やかな匂いがする粒々の入った瓶(リーモの知らん香辛料である)。
レーネに持たされたお土産を、村長は気に入ってくれたようであった。
「レー・・・えっと、ゼナルジーコの宿で知り合った人が、選んでくれて」
「こりゃあ、取り合いになるわ! わっはっは」
村長はご機嫌になり、「どうぞ、ゆっくり泊まっていってくだされ」と言ってくれた。
リーモは、1晩だけお世話になること、後から若い男の連れが来ることを告げて、外に出た。
村長んちのお庭。シャケが村の女どもにチヤホヤされ、水をもらい餌をもらい、ブラシをかけてもらっておる。
こいつ・・・俺が緊張してあいさつしてる間に・・・!
まあしょうがない。女たちにありがとうを言っておいて、用意された部屋へ向かう。
部屋は、村の集会所の一室であった。家具はないがベットはある。結構いい部屋である。リーモはそこに荷物を置いて、ゆっくりする──しようと服に手をかけたら、チョン、チョンと背中をつつかれた。
「なに? 女神さま」
ふわ~ん・・・リーモの背後に浮かぶ、ハイエルフっぽい美女。勇気の女神ユークラネーさま。リーモをつついた指先で、自分の肩を指しておられる。肩には、茶色の巻き毛のおっぱいでっかい小っちゃい女神さま。
「ん?」リーモわからん。
「おほん」ユークラネーさま、『わかれ!』の咳払い。
「・・・あ、そっか。ここ、ラモリマイさまの村だもんね」
そう。ここは、ラモリモンラ。『ラモリーモの村』である。ラモリーモ、すなわち、おっぱいでっかい小っちゃいラモリマイさまの旧名である。
「ラモリマイさまって、神殿あるの?」
「おや? 私の祠(ほこら)に、興味があるのですか?」
「え? あ、はい。えっと、前に来たときは余裕なくて、行ってなくて、ごめんなさい」
「いえいえ、いいのですよ。あのとき、私はまだ、別の神だったのですから・・・」
リーモが外に出ると、なんか作業しとったナオスニャーが寄って来た。「お出かけですか?」
「あ、うん。ラモリマイさまの祠・・・」
「ラモリマイ・ユークラネーさまの祠でしたら、すぐ近くです。案内しましょう。どうぞ」
「悪いね」
「いいんですよー? 私、レーニャが困ってたら手伝えって言われてるし」
「ああ、それで近くにいてくれたんだ」
「そうそう!」
ナオスニャーは楽しそうに案内する。それを、うらやましそうに村の女どもが見ておる。
エルフだもんなぁ・・・と、リーモは思った。新鮮な出来事。これ、山奥の村の人間にとっては、ごちそうなのだ。毎日毎日同じ顔ぶれで、毎日毎日同じ仕事をしとる人間にとって、エルフの巫女なんてものは・・・腹ペコの時にただよってくる、焼き肉の匂いみたいなもんなのだ!
それだから、リーモは女たちにはにっこり笑ってあいさつをした。「おひさしぶり」とか、「前はお世話になりました」とか言って、女たちを喜ばせた。
男には、頭を下げるだけで、笑顔や声はナシとした。でないと、女に恨まれるからである。あとは、村人の中には犯罪者みたいなヤツが混ざっとることもあるので。地元では有名な悪人でも、よそ者には見分けがつかんかったりする。だから──リーモは、海賊船で味わった恐怖を思い出してしもうた。首を振って、忘れようとする。
それにしても、男を避けねばならんのは、ストレスであった。リーモは、本当は男としゃべりたいのだ。だって、俺は男なんだから。女のおしゃべりなんて興味ないんだよ! ・・・あ、レーネは別格ね。
「ここです」
「おっと」
考えとるうちに、祠に着いたらしい。
白いブナの大木があった。その根元に、ユークラネーさまの神像が祭られておった。
もちろん、野晒し(のざらし)ではない。ちゃーんと、小っちゃなお家が造られておる。真新しい木材。端正な三角屋根。そして、両開きの正面扉。
「どうぞ」とナオスニャーが言うので、リーモは背後の女神さまを見た。女神さま、「おっけー」の合図をしてきた。
掛け金を外し、扉を開く。
ハイエルフの女神像が、建物の中に佇んでいらっしゃった。
左手に剣を下げ、右手を開いてこちらに向けておる。『勇気を授ける』のポーズだ!
「・・・。」リーモは、女神像と本物を見比べた。「うーむ・・・」
「なにえ」と本物。
「いや・・・まあその、本物のほうが美人だなって」
「なにえ。お世辞。唐突なり」
「いやお世辞じゃなくて」
実際似てない。別人である。なんかこの女神像、マヌケなツラだなぁ・・・と、リーモは思った。
「やっぱり似てる・・・!」とナオスニャー。
「え?」
「リーモそっくり!」
「・・・。」
リーモは一応祠を掃除した。しかし、掃除はほとんど必要なかった。
祠はとても綺麗で、お供えの花も生き生きとし、茶碗になみなみと入った酒は澄んでおったんである。
「丁寧に手入れしてるんだね」
「ええ、がんばってます!」
「うむ」
ユークラネーさま(本物)も満足そうである。
ラモリマイさまを肩に乗せて、ふわ~ん・・・と、祠へ。自分の像の足元にかっこよく足組んで座り、茶碗を取り上げ、ラモリマイさまに呑ませる。「ありがとうございます」。で、自分も唇をつける。「・・・うむ!」
「うちの村の酒ですね」とラモリマイさま。
「酸味がたまらぬ」
「お米の酒です。ユーコビンラにもお届けしていたかと」
「うむ。滝壺で頂いた覚えがあるえ」
などと話しておられる。
「おつまみいる?」とリーモ。
「お漬け物がよろしいかと」と、ラモリマイさま。
「あい」リーモ、きょとんとしとるナオスニャーを見る。「スーニャ。お漬け物を少しもらっていい? お供えに」
「はい・・・」返事するナオスニャー。しかし身体が動かぬ。
「どしたの?」
「お、お茶碗が・・・宙に浮いて・・・」
「ああ」リーモは笑った。「女神さまが、お酒おいしいって」
こうして──
ハイエルフの巫女さんが来たら、お供え物がなくなった!
ナオスニャーが見とる目の前で、お酒もお漬け物も、ふわ~んと宙に浮かんで、消えたらしい!
──という、とれたて新鮮ニュースが、村を駆け巡ったのである。
そして、話題はそれだけではなかった。
「きゃー!」「きゃー!」「きゃー! 誰あの人!?」「かっこいい・・・!」
村の女どもの、悲鳴の波をかき分けて。
1人の美男子が、颯爽と(さっそうと)村に入って来たのだ。
「私は、カクロジデーコ・カルメカーニ。ナッタレーニェ嬢の護衛として派遣されました。──お嬢さんはどちらに?」
◆♀◆ 6、リーモ、美男子に襲われる ◆♂◆
「誰だおまえ」
リーモはめっちゃ警戒した。
ただでさえ男としゃべらんよう注意しとるのに──よりによって、女どもの熱い視線を浴びっぱなしの美男子が!
ちょっと目がギラギラして恐い感じの、その男。リーモは『友達にはなりたくないな』と思うたが、女どもには逆にそこがたまらんらしい。そんな女どもの熱い眼差しが・・・だんだんと、リーモに・・・リーモの首筋に、グサグサと刺さり始めた。
冗談じゃないぞ・・・と、リーモは思った。村の女どもに睨まれたら、死ぬまでイジメられんだぞ・・・!
「カクロジデーコ・カルメカーニだ。妹から聞いていないのか?」
「妹?」
「カルメーニャ」
「カルメーニャ・・・レーネ?」
「いかにも」
言われてそいつの顔をちゃんと見てみれば、なるほど、目元はレーネそっくりである。いや、しかし・・・???
カルメカーニ、にっこり笑う。ブスブスブス! リーモの首筋に、視線刺さる。
やめろ馬鹿。俺に色目使うな。俺は男だぞ。と、リーモは思った・・・・・・・・・はずなのだが。
なんか、胸がドキドキし始めた。顔が熱くなる。
・・・あれ? あれ? 俺、なんか、おかしくない?
「くすくす」カルメカーニは女の子みたいに笑った。「さ、レーニャ。部屋に案内してくれるかな?」
「・・・はぇ?」
「荷物を置きたいんだ。ほらほら、早く」
あろうことかカルメカーニの野郎、リーモの腕を取って、集会所の中へ連れ込もうとしよる!
「お、いや、ちょ」
「妹に葡萄酒を持たされてね? 荷物が重いんだよ」
「えんにゃ・・・ちょ待っ・・・」
しどろもどろのまま、リーモは部屋に引きずり込まれた。
え? これまずくない!? 俺、いまオンナだぞ。危ないだろこれ! パニックになるリーモの目の前で、
「ニヒヒヒ」カルメカーニは、小悪党みたいに笑いだした。
リーモ、思わず腰の小剣に手を伸ばす。
カルメカーニ、一歩離れる。「おっと待った。可愛いエルフちゃん。私は敵じゃないってば」
「・・・。」
「そんな山猫みたいな顔しなさんな。大丈夫だって。イヒヒ」
ものすごく悪党くさい笑いを洩らしたあとで、カルメカーニは上着を脱いだ。
シャツ一枚になったカルメカーニの胸は、柔らかくふくらんでおった。
「・・・。」リーモ。そのおっぱいの曲線に、見覚えあり! 「・・・・・・・・・レーネ?」
「どこ見て気付いてんだよ・・・」レーネがちょっとキレた。「この両刀オンナ!」
「りょうとう」
「男でも女でも寝るいう意味やえ」ユークラネーさま、ここで発言である。「性悪勇者めが。せっかくリーモが巫女っぽいことしておったに」
「え、俺そんな色ボケじゃな──」リーモは振り向いた。「女神さま? 気付いてたの?」
「いま気付いた」
「全然気付いてなかったってことじゃん」
「やかましえ。ぽーっとなっておったくせに」
「な、なってないし」リーモ真っ赤になる。
「いやー、ごめん。これ作戦なんだ」言いつつ、レーネはニヤニヤしておる。「でも、安心したよ」
「安心?」
「リーモが、ちゃんと男に興味あるとわかってさ」
「・・・。」
リーモは、あらためてレーネをみた。
見れば見るほど、美男子である(おっぱいの曲線除く)。
もともと、凛々しい(りりしい)レーネである。女にしては長身で、スマートながら首や肩にはしっかり筋肉ついとる。しかも背筋がピンとし、目は鷹のごとくギラギラと水色に輝き、覇気(はき)がある。ちょっと小悪党っぽい暗さはあるけれども。女にはそれも好まれるようだし。
「髪まで短くされては、見間違うんもやむなし」
「だよね」
そう。髪!
なんと、レーネ!
髪を、スッパリ戦士風にカットしてしまっておる!
肩まであった髪を、耳の下でカット! そっから下、刈り上げ!
もったいない・・・。
髪を眺めるリーモと女神に、レーネはほほえんで刈り上げをザラザラっとやって見せた。
「からかってごめんね。あとで説明するからさ」
レーネは、リーモに手を伸ばしてきた。
「え」
抱き寄せられる。ギュッと抱き締められ、激しく背中をまさぐられ、襟元の紐を引っ張られる。何してんだコイツいきなり? と思っていたら、両手でお尻を抱き締められた。スカートがしわになるぐらい、ぐいっと持ち上げられる。
「ふあ!?」
「・・・よし」
レーネは、自分が乱したリーモの服をチェックして、満足し、ふたたび上着をまとって乳房のふくらみを隠した。
「ホラ、行くよ」
乱れた服でフラフラと手を引っ張られて歩くリーモは、とても新鮮な話題を村に提供したのであった。
◆♀◆ 7、芝居の夜 ◆♂◆
「・・・リーモ?」
「・・・。」
「ごめんってば。ねえ」
「・・・。」
夜が来て。
部屋でカルメカーニと2人きりになった(まあ、女神さまが寝っ転がってこっち見てますが・・・)リーモは、テーブルに両肘をつき、その手で顔を覆って、黙り込んでしもうた。ハイエルフの耳、真っ赤である。
「あのね、」
レーネが、彼女にしては珍しく、おそるおそるといった手つきでリーモの肩に触れる。リーモびくっとする。身体を縮こめて、手をかわそうとする。レーネは巧みに指先で追いかけ、かすかに触れた状態をキープ。話を続ける。
「女勇者さまは、西に行ったんだよ」
「・・・?」リーモ、指先ちょっと開いて右目だけ見せた。
「ヨスベリューサニェー・ユリアーニェさまは、西に用事があるそうでね。君とはご一緒できないんだそうだ」
「・・・。」
ご一緒できないもなにも。目の前に居るのが、その勇者さまなのだが?
・・・だよね? おまえ、男じゃないよね? という右目で、リーモは相手をジロジロ眺めた。
「で、護衛として私が遣わされた。君に懸想している(けそうしている)私に、妹が気を利かせてくれたってわけさ」
レーネがニセの物語を説明しつつ、立ち上がる。
迫ってくる。
リーモはすくみ上がった。
「村長には、私と君の仲は説明してある」
「ひっ・・・!?」
「だから心配はない」
硬くなったリーモの身体を、美男子カルメカーニは椅子から抱き上げた。
ベットに近付いて・・・この野郎がまずベットにあぐらをかき・・・リーモを抱きかかえる! 向かい合って・・・スカートをめくり上げて・・・下腹部をぴったりくっつける姿勢で!
「北に行ったら、こんなことしてられないからね。このカルメカーニの気持ちを受け止めてくれ、リーモ・・・!」
「ちょ・・・ひっ、やめっ、ひぃっ!?」
ギシギシ「ひっ」ガタガタ「やめっ、あっ」ドッスンゴロゴロ! ドタバタガコン!
部屋から洩れる音に、暗闇の中で聞き耳立てる者どもは息を呑んだ。
「え、すごい」「巫女さまなのに」「激しい」「くやしい・・・!」「私のカルメカーニさまが」
リーモ、またしてもホットな話題を提供である。
「・・・リーモ?」
「・・・。」
「ぶつけたとこ大丈夫?」
今度はベットの上で、レーネの謝罪の声がした。
「外で聞き耳立ててるヤツがいたんだよ。だから、ちゃんと偽装しなきゃって思ってさ」
「・・・。」
「ごめんね。責任取るから」
などと言うておるが、どうもレーネはニヤニヤ笑いが消せんようである。
リーモは汗だく。ポニーテイルがばらけて首筋にべっとり貼り付いておる。
「・・・。」
リーモは、のそーっと、ベットにうつ伏せになった。
真っ暗な部屋に、リーモの白いお尻がほんのりと浮かび上がる。──リーモ、のそーっと、パンツを引き上げる。
・・・あ、これは勇者さまのために申しておきますが、勇者さまはみなさんが想像するようなことはなさっていませんよ。リーモがメチャクチャに暴れたので、パンツの紐が切れたのだ。それだけです。本当ですよ。
「お、俺・・・」リーモがようやく口を開いた。「・・・ふつうにしゃべっていい?」
「うん。もう誰もいない。よな? シャケ」
「フッ」うつ伏せ寝のシャケ、適当に返事する。
「俺・・・レーネが嫌なんじゃないんだ。ただ、びっくりして」
「うん。ごめんね」
「山賊に襲われたの思い出して」
「・・・え?」
「海賊船で、山賊に・・・」
「ああ、リーモ! ごめん」レーネがリーモに抱きついた。「ごめん」
「いい。俺もそのこと、言ってなかったし。山賊にも、ちょっと脱がされただけで、大丈夫だから」
と説明するリーモだが、まだ身体が震えておる。
レーネが、そのハイエルフの華奢な(きゃしゃな)身体を抱き締める。
ふーっ・・・。リーモ、ため息。「・・・許さないからな」
「え」
リーモは下からジロッとレーネを見上げた。
「えーと・・・ごめんね?」レーネ、ぺろっと舌を出す。
「許さないもんね!」リーモは笑った。
「・・・でも、リーモさぁ」レーネはリーモの脇の下に手を伸ばしてきた。「いやらしい声、出してたよね?」
「ホントに許さないぞおまえ!?」
「ヒヒヒ!」
翌朝。
パンツ一丁で起き上がった我らが主人公、ナッタレーニェ嬢。
すぐ隣で眠るレーネを見て、また真っ赤になった。
眠っとるレーネ。寂しそうに眉を寄せ、唇をふっくら突き出して眠っておる。さんざんにリーモを振り回してくれた。悪党みたいに笑うレーネ。いつもは薄く真横に唇結んで、ジロッと人を睨むレーネ。いまは、とても・・・あどけない。
「・・・。」
「邪なことしなえ?」突然、女神さまの声。
「よ、よ、よ、よこしま!?」リーモは飛び上がった。
「んー・・・」レーネが起きてしもうた。「何だよ。うるさいな」
「あ、ごめん」
赤くなって顔逸らすリーモ。内心、もう一回『芝居するぞ』って言ってくれないかなぁ・・・などと期待した。
「さあ出るぞ。服を着ろ。今日は時間ないぞ。ユーコビンラにも寄りたいだろ?」
「え? あ、うん」
「あ、そうだ。その前に。ダメ押ししとこっか」
「ダメ押し?」
着かけのシャツを、また引っ張られて・・・襟元をゆるめられて・・・
またかよ、と思っていたら、レーネのニヤニヤ笑いが近付いてきて・・・
首筋に、キスされた。
「え?」
ヂューーーッ! と、強すぎ、どう考えてもしつこすぎるキス。
「ちょ、レ、あの、痛っ、痛いから」
「・・・よし」レーネ、キスマーク確認。「襟はそのままで」
「ううっ・・・」
ちょっとレーネには一度しっかり言わないとだめだ、とリーモは思った。
俺、男だから。君のこと、好きだから。こういうことするんなら、本気になるぞって。言っとかないと、だめだ・・・。
◆♀◆ 8、故郷の今朝 ◆♂◆
あわただしく別れを告げて、ユーコビンラへ──リーモの生まれ故郷へ向かう。
レーネの足は速い。荷物は軽くなったリーモだが、それでもヒィヒィ言いながらついてった。
レーネのほうは、背負い袋が重たそうだ。ゴツンゴツンと音がしておる。ラモリモンラで、固く乾燥したチーズを仕入れたせいであった。チーズは北国ではそこそこ金になるんだとか。もちろん、非常食にもなるし。あと干し牛肉とか干しイチジクとか。それと、水。
旅人は、ふつうは食料なんぞ運んだりはせぬ。飢えたり渇いたりする前に、次の村に入るようにするのだ。次の村がどこにあるかわからん場合、そもそも出発しない。そんな旅をするのは自殺行為である。
だが女勇者と勇気の巫女の旅は、探索の旅である。姿の見えぬ暗殺者を追い、勇気の女神の神像を探す旅。そして、向かう先は飢えに苦しむ土地と聞く。ならば、食料を持たずに出ることはできぬ──
カランカラン。リーモの背中でも食料が鳴っておる。レーネの飴ちゃんであった。
で。
走って走って、ユーコビンラに着いた。
カツンコツン。トンテンカン。
──おや? 人が居る。
大工らしき若者3人が、金槌を振るっておった。
美男子カルメカーニ殿が話しかけると、
「俺ン家を直してんだ」とのことであった。「家と倉庫を直したら、仲間を呼んで、他の家に取りかかる」
いったん離れたカルメカーニ殿。リーモに確認する。「・・・本物?」
「うん。村の人だね」リーモ、兄ちゃんは顔見知りである。「あとの2人は、親戚かな」
「そっか。じゃあ応援してくる」
カルメカーニ殿は、とっておきの酒の小瓶を1本渡して、若者らを応援した。
そのあと、リーモの家のあったところへゆく。
燃え落ちた家。まるで、他人の家みたい。だが家の周囲の地形には見覚えがあって・・・見ていると、めまいがしてきた。
「大丈夫?」
「うん」
焼け跡に入ることはできなんだ。リーモはいま、『どっかから来たハイエルフ』に過ぎんのだから。
「あいつら、ずっとリーモを見てたよ」
「まあ、エルフが村に来たらね・・・」
「リーモのお尻を見てたよ」
「・・・。」
リーモ。そそくさと、その場を離れるしかなかった。
「・・・本当に、全部燃えちゃったんだね」
村を離れると、男装のレーネが言った。
朝からずっと走っとったので、切り株に座って、しばし休憩である。
「うん」リーモはうなずいた。「家、全部、木造だし。今年、雨少なかったしね・・・」
レーネはとっくに気付いとるはずである。リーモが村人の顔を知っとるのに、村人のほうはリーモを知らんという、この矛盾。
おっ父に再会したときの騒ぎでも、また今回も、レーネは不審に思っとるはずである。
ちゃんと説明しなくちゃ。
・・・言ったら、嫌われるかも知れないけど。
「・・・あのね。レーネ。俺、ちゃんと話さなきゃいけないことがあって、」
「やめ」
「もご」
口ふさがれた。
レーネが抱きついてくる。耳元にキスしてくる。おい、なんでいきなり発情してんの!? と思ったら・・・
「・・・打ち明け話は危ないよ。間諜(かんちょう)がいるかも知れないからね」
「あ、そっか」
レーネはリーモを抱き締めたまま、顔を離した。
「おお、レーニャ! そんな大切な話・・・こんな、ムードのない場所では聞けないよ」
「・・・はい」
このカルメカーニって男、むかつく。と、リーモは思った。
もしかして・・・いや、勝手な推測だけど、もしかしてレーネ、こんな男がカッコいいと思って演技してる?
しばらくイチャイチャするフリをしてから、
「さて。頂いたヤツ、食べよっか」
「そうだね」
ナオスニャーが作ってくれた、お弁当を出す。
ラモリモンラ風のお団子であった。麦の団子である。葉っぱで包んで、蒸してある。葉っぱを開けるといい匂い。かじるとジュルリと肉汁が。そして、甘~く煮たお野菜が。豪華な肉団子であった。
「これすごいな」とレーネ。もっちゃもっちゃ噛みながら、「麦飴で煮たのかな。よし。今度作ろう」
「料理、もんぐもんぐ・・・できるの? レ・・・カルメカーニ」
「んむ。・・・必要なときにはね」
レーネはシャケになんかやりながら答える。このなんかやっとるのは、シャケ用に料理した肉野菜の煮付けらしい。骨付き肉と内臓と犬が食える野菜や果実を一緒くたに煮て、水分を飛ばしたものだそうな。試しに食ってみる? と言われてリーモも食べてみたが、ものすごくネチョネチョして噛み切るのが大変で、味は濃いが塩っ気がない。つまり、うまくはなかった。
ちなみに、これを食べて以来、シャケに家族として認められたようである。たぶん、仔犬あつかいだけど。
「北の国って、どのぐらい先なの」
「もうすぐ国境だよ」
「そんな近いんだ」
「ユーコビンラは、国境の村って言ってもいいね」
「なんでこんなとこに・・・」神像持って来たんだろ、とリーモは言いかけたが、これは秘密かなと思って、やめた。
「ほの当時は、国境言うほろやなかったもえ」
女神さまが、もっちゃもっちゃ麦団子食べながらそう教えてくれた。
女神さまの声は一般人には聞こえぬ。なので、ふつうにしゃべってもセーフなわけである。しかしリーモがそれに答えるとアウトである。なので、考えて言葉を選ぶようにした。
「えーと、昔は、北の国がなかったからかな?」
「・・・んぐ。いや。人は住んでおったが、」
ユークラネーさま、団子呑み込む。肩のところのラモリマイさまは、まだ。小っちゃいから苦戦してらっしゃるのか。あるいは、故郷の団子なのでゆっくり楽しんでらっしゃるか。
「ナダラカンも北の村々も、国というほどのまとまりはなく、さる都の庇護下にあったゆえ」
「ユークラネンミャー?」とレーネ。
「いかにも」
「なんだっけそれ?」とリーモ。ぺしっ。頭叩かれる。「あいて」
「女神さまの都だよ。名前でわかるでしょ」
「あ、そうか。・・・あれ? ってことは、俺たちのご先祖さま、エルフの奴隷だったの?」
「ちゃうえ」
「ハイエルフは奴隷は取らなかったと聞いたよ」
「そう。その通り」
「へー」
「うちの領土ではない。そやに、睨みは利いておった、っちゅうことえ」
「・・・じゃ、山賊なんて、出なかったんだ」リーモはぽつんと言うた。
「いや出るだろ」とレーネ。
「うむ」と女神さま。「不埒(ふらち)なる輩は、いつの世にも現れる」
「消せないのかな、山賊」
「消すは魔王。勇気の論理は、」
「「好きにせよ。勇気を振るえ!」」
「うむ」
食事を終え、ゆっくり歩き出す。
「今日中に山越えて、北に入る。ちょっと強行軍だけど、まあ間に合うだろう」
「走らなくていいの?」
「うん。意外と早く終わったから」
「・・・ああ」
どうやらレーネは、リーモが故郷でゆっくりする時間を計算に入れとったらしい。
リーモは振り向いた。故郷は、もう見えぬ。見えたとしても、あの日の村はそこにはない。永久に、火と煙の向こうに消えたのだ。
──故郷の森が視界をふさいでくれたことに、リーモはちょっと安心した。鬱蒼と(うっそうと)視界をふさぐ、この邪魔すぎる木々は、あの日のままだったから。
「・・・戻ってくる。そのうち」
「そっか」
「おっ父とおっ母と妹と」
「そうだね」
「ワフッ」
「あ、そうだね。シャケとレーネも招待するよ」
「うん。妹は喜ぶだろうね」
レーネは笑った。だが、すぐに背を向けてしもうた。
「さて、可愛いレーニャ。君のカルメカーニから離れないようにしてくれよ」
「あ、えっと、はい・・・」
ふたたび走り出した一行。予定通りに山を越え、北の村へとたどり着くのであった。
その北の村は、荒んだ(すさんだ)気配のただようところであった。
開けた土地にあり、人口は多いようなのだが、出歩いとる者が少ない。みな、やせこけておる。
「一夜の宿を探しているのだが」とカルメカーニ殿が訊いても、
「宿なんざねェよ・・・」と、うんざりしたような答えが返って来るのみ。
冷淡な村人に苦労しながら、なんとか日が暮れる前に村長と話をつけ、空き家に入れてもらったのだが・・・
「寒い」
「穴だらけだな。土間だし、雨が降ってきたらおおごとだぞ・・・」
壁はネズミの穴だらけ、天井は屋根から腐って穴だらけと、空き家というより廃屋といったありさま。
「閂(かんぬき)もないときた」扉を調べたレーネは、隙間から外を見て・・・「おいおい」
「なに?」
「武器持った男どもが出て来た。10人以上。こっちを見てる」
「え」
「リーモ」
「あい」
「ワンピース脱いで」
「え」リーモは身構えた。「ま、また襲うつもり?」
「いやちがうって。いい? 作戦はこうだよ・・・」
リーモを抱き寄せたレーネ。小声で説明してから、
《我らは呑み込み、そして吐き出す!》
◆♀◆ 9、サンキュー、失敗を悟る ◆♂◆
「え、《声》?」
こちら南方。ナダラカンミナット。ゼナルジーコの宿。
ベットに横たわり、足ヒレぺたんぺたん動かしてくつろいどったサンキューが、飛び起きた。あわてて足ヒレを消して、人間の足に変身する。セイレーンの魔将サンキュッシニーモから、海の王国の孤児サミーニャに変身である。
で、急いで階段を降りる。1階ホールへ。
「・・・ご主人」宿の主に呼びかける。「カルメーニャお嬢さまは、お戻りではありませんか?」
「・・・。」
初老のゼナルジーコは、片付け中の荷物を置いて、しんどそうに身体を起こした。
「カルメーニャお嬢さまなら、お出かけだよ」
「どこに?」
「さあな」
「あちゃー・・・失敗した」サンキューはつぶやいた。「これはまずい。陛下に怒られる」
「あン? なんか言ったか?」
「いえ、失敗したなぁと・・・」
「失敗」
「実は私、そろそろお暇(おいとま)しようと思ってましてね。ご親交のお礼をしなくてはと思っていたのですが」
「しばらくは帰らんと聞いとるよ」
「あああ・・・!」
サンキュー、がっかりである。
ぺたんぺたんと階段を上がって、部屋に引き返す。
「私としたことが、なんてこと。この港町の居心地が良すぎて。ついつい、先延ばしにしてしまった・・・」
ベットにばたーんと倒れ、足ヒレ(元に戻した)で、ボフッ、ボフッと毛布を叩く。
「・・・そろそろ陛下の傷も治るんじゃないかしらん? これはまずいですよ。セイレーンの魔将、降格の危機」
そうしてしばらくぐでーっとしたあと。
起き上がり、少ない荷物をまとめにかかった。
「しょうがない。この足ヒレの動く限り、泳いでいこう。『陸』という名のこの海を」
◆♀◆ 10、山賊の村だったんだね ◆♂◆
夜中。
ドカン! 入り口の扉が蹴破られた。
「オンナは生かしとけ! エルフだ、高く売れるぞ!」
「うおおお!」
叫びながら突入してきた男どもが、「どこだ?」「女はどこだ」「男はどこだ」と探し回る。
そこに。
「グルルル、ウォッフ!」
シャケの吠え声。暗闇から飛び出し、男の脛に噛みつく。
「ぎゃっ!」
「シャケ、来い!!」家の外から声がした。
「外だ! 男は外にいるぞ」「くそっ、いつの間に?」「ブッ殺せ! 逃がしたら面倒だぞ!」
男どもが飛び出す。何人かは残って「女はどこだ」「エルフの女ァ」と探し回る──だが、そのどちらのグループも、目的を果たすことはできなんだ。
「ハァハァ、ダメだ、逃がしちまった」「逃げ足の速ェヤツだ」「にしても、女は一体、どこに・・・?」
夜襲は空振り。男を殺すことも、女を捕まえることもできんかったんである。
さて。寝る前に袖無しワンピースを脱がされた、リーモの下半身は。
レーネのズボンで、きっちり覆われておった。
──え? なにかおかしいですか? スカート脱いだら、ズボンはくに決まってますよね?
問題はそこじゃありませんよ。なんでスカートからズボンに替えたのか。そこが問題なのだ。それはですね・・・
「よっこいしょ」
リーモ、地面の中から這い出した。
走ってきたレーネが手を貸す。引っ張り上げた。
「大丈夫?」
「うん」
「落とし物はない?」
「うん。えっと、背負い袋、ある。財布、ある。剣・・・ある。うん。大丈夫」
「シャケ?」
「ワフ」
「女神さま?」
「神を点呼すな」
「では閉じるよ。離れてて・・・」
《我らは、喉を閉じ合わす》
ズズズ・・・。低い響きがして、リーモが這い出してきた穴が閉じた。
「ふぅ」リーモが汗拭う。「あっちの口が閉じたときは、正直、恐かったよ」
「《声》は使いたくなかったんだけどね。でも、殺人犯呼ばわりされるのはまずい」
この土地の支配者はヤムコーゾックである。たとえ正当防衛でも、『勇者が人殺しをした!』みたいに利用される恐れがある。よって、斬り伏せるというわけにはいかんのだ。
そこで、レーネは逃走を選んだ。
部屋が土間だったのを幸い、《声》で坑道を掘って、リーモを逃がす。入り口は先にふさいで、レーネとシャケだけが後に残る。こうすることで、リーモが賊に追われんようにしたんである。
これぞ、《声》による坑道作戦であった!
「レーネってホントすごいね」「ワフ」
「まぁね?」レーネはふざけてから、「《声》がすごいんだよ。私は、預かってるだけさ」
「カッコいいな」
「ヘヘヘ。・・・しかし、ひどい村だったな」
「うん」
「行商人が帰って来ないって噂は聞いてたんだが」
「山賊の村だったんだね」「ワフ」
「こっから先、ずっとこんなだったらさぁ、」
「うん」
「──腕が鳴るよね?」
「・・・シャケ。おまえの姉貴、おかしいぞ」「ウォフ」
次なる村への期待(?)をあらわにするレーネであったが。
その期待、残念ながら、外れることになる。
次の村では、温かい食事とベットが、2人を待っていたのである。
◆♀◆ 11、豚の村 ◆♂◆
危機を脱して、山を、もひとつ乗り越えて。
夕方。道を下る一行の前に、大きな豚が現れた。
「ブタだ」とリーモ。
「なんだ? エルフかァ! こりゃ珍しいなァ」と男。
「や、どうも。北の旦那」美男子カルメカーニ殿が、リーモをかばった。
「こらァ、ご丁寧に。南の色男さん」
男は帽子を取って、あいさつを返してきた。
農夫の身なりであるが、鍬(くわ)などは持っとらん。持っとるのは、縄である。だらーんと伸びて、豚の首に縛ってある。
つまり、彼は豚飼いであった。
「はァ・・・こんな可愛いエルフ、初めて見らァ」
「私の恋人だ。可愛いだろ」カルメカーニ殿、得意がる。「手は出すなよ? 斬るぞ」
「おっと、勘弁! 俺のこの腹ァ、剣より豚を食らうように生まれついてんで」
「この先の村で宿を取れると聞いたんだが、道は合っとるかね?」
「さァて・・・? この先にァ、勇敢なるヤムコーゾックの皆さまが『豚小屋』って呼ぶ宿しかありやせんなァ」
「そんな噂は聞かないねえ。料理のうまい宿だと聞いたよ」
「・・・へへへ、ま、俺たちにとっちゃァ、この世でいちばんのトンテキとビール出す宿ではあらァな」
豚飼いは打ち解けて、道を教えてくれた。
「宿の大将に『領主さまの勇気に乾杯』って言いな。おっと、大声で言っちゃいけねえよ?」
「どうもご親切に。・・・さ、これを。南のコインだが、記念にどうぞ」
「お! 気前のいい若旦那だなァ」
その銀貨1枚が、おまけの一言を引き出した。
「北へ向かうんなら、アズダーションの亡霊に気をつけな。山賊のマネごとやってっからよォ」
日が暮れる前に村に入り、宿を取る。
「豚肉は品切れだよ」と、そっぽ向く主に、
「領主さまの勇気に乾杯」と、カルメカーニ殿がささやくと、
「・・・おゥ、そうだな。トンテキなら2人分あるぜ」と、態度が変わった。
席に向かう。
この宿も、1階ホールが食堂であり、酒場であり、雑魚寝部屋でもある、っちゅうスタイルであった。
ビール呑んどる地元客から冷やかしを浴び、なんかお尻触られたりして、リーモはレーネが男装した理由がよくわかった。よーーーくわかった。
「アズダーションの亡霊に、領主の勇気ねえ・・・」
カルメカーニ殿、つぶやく。手にはビール。壁と自分で、リーモをがっちりガードしつつ。
リーモはビールを見て、喉をごくりと鳴らした。「俺もビー」カルメカーニ殿に口ふさがれた。「んご」
「この娘にはスープを」
スープ頼まれてしもうた。がっかりである。
ちなみに、シャケは馬小屋である。『俺、犬なんだけど・・・?』という目をしたが、却下。馬小屋である。
でっかいお皿が2枚運ばれてきた。黒っぽいパンと、野菜と、でっかい肉が乗っておる。「お待たせ!」
ドスン! テーブルを揺るがす皿! ・・・俺、こんなの食えるかな? とリーモは思った。
◆♀◆ 12、アズダーションの探索 ◆♂◆
・・・熱々の汁したたる豚肉のステーキに苦闘するリーモ。ビール片手にムシャムシャやっつけていくカルメカーニ殿。
そんな2人のところに、お洒落な吟遊詩人がやって来た。
「絵になるお二人さん。北の戦士の勲し(いさおし)はいかが?」
「北の戦士?」
カルメカーニ殿は銅貨を1枚渡した。
「知謀(ちぼう)神のごときヤムコーゾックの大王、オセゾックさまの物語ですよ」
「ああ、オセゾック陛下の噂は聞いているよ。君は彼の王に仕える詩人かな?」
「いえいえ、そんな御立派な身分ではございませんで・・・他には、そうですね、アズダーションの最後のお話なども」
「アズダーション?」カルメカーニ殿は知らないフリをした。
「ダークエルフの地下宮殿ですよ。金銀財宝を隠したまま、永遠に岩山の下に眠る・・・」
「へえ・・・君の創作かい?」
「信じるも疑うも旦那次第。とはいえ私、『真実の詩人』として知られる男にございますれば」
「正直者は『私は正直だ』とは言わんものだぜ? 私みたいにな」
銀貨を2枚。歌が始まった。
♪昼も夜もないところ 岩山の下 アズダーション
ダークエルフの女神の眠る 黄金白金(こがねしろがね) そのベット
命運尽きたは 魔王のしわざ
いかな女神の策略も エルフのわざも
魔王の地揺れにゃ 敵いはせぬ(かないはせぬ)
エルフの女神の御座(みくら)は隠れ ひそかに眠る アズダーション
歌を聞き、飯を平らげた2人は、部屋に入った。
ベットはひとつ。夫婦部屋である。リーモはベット見ただけで赤くなった。
「えらい豊かだな・・・」とレーネ。
「え?」ベットが? と赤くなるリーモ。「あ、この村?」
「うん。食うものもないんじゃなかったのか?」
「そう言えば」トンテキでお腹いっぱいのリーモである。
「女神さまは、どう思われます?」とレーネ。
「さて? 目も耳も足りぬ身ゆえ、世情はわからぬ。そやに、先ほどの歌には、気になるところあり」
「どこです?」
「『女神の策略』」
「なぜ、それが?」
「アズダーションの我が神像は、『策略』のユークラネーと呼ばれておった」
「さくりゃく?」とリーモ。
「人間は、神にさまざまな利益を求める。名誉、富、長生きすること、子孫繁栄、侵略されず安穏に過ごせること、などなど」
「うん」
「私には、『勇気』のほか、『策略』『仲間』などが求められた」
「へえ」
「もともとは勇気の女神やったのが、都の主神にされ、『王にふさわしい力を』と欲張られた結果、そないなことに」
「じゃあ、3つの神像を合体したら、ユークラネーさまになるんだ!」
「『ならぬ』とも言え、『なる』とも言え」
「どっちなの」
「神像は我ならず。そやに、神像あるところ信仰あり、信仰は我が肉体なり」
「・・・。」全然わからん。
「たとえば、『勇気』のユークラネーは、そなたの先祖のおかげで、こうして生きておる」
「うん!」
「同じく、他の神像の地には、他の私が居るかも知れぬ」
「キコリカ・・・キコラカーネさまみたいに?」
「そう。まさにそれ」
「ユーコビンラには『勇気』のユークラネーさまが運ばれ、アズダーションには『策略』が・・・」とレーネ。
「まさに」
「あとひとつは?」
「『仲間』は、魔王と戦う船乗りのため、岬の大岩に安置されたのやが・・・」
「うんうん」リーモ、続きを楽しみにする。
「船乗り敗れ、我が神像は波にさらわれ、その後のことは、とんとわからぬ」
「ありゃ」リーモ、がっかりする。
「波にさらわれた、か。まるで、我がことのようだ・・・」レーネはつぶやいた。
翌日。
一行は、宿の部屋を1週間に延長し、アズダーションの探索に乗り出した。
昨日の吟遊詩人を捕まえ、「どっちの方角なんだ?」と訊く。
アズダーションはこの村の近くの山にあった。ですが、いまはもう、痕跡すら見つけられませんよ──という、あいまいなヒントを手がかりに、山に入ってみる。すると。
「ウォフ」
シャケが、なんか見つけた。
「人間の足跡だ」レーネが確認。「ここに潜んでた感じだな・・・」
「オバケじゃないんだ」
「みたいだね」レーネは笑った。「盾、着けときな」
「あい」
リーモは荷物から小さな丸い盾を出した。人間の頭よりちょっと小さい、青銅製の盾である。使い方はわからんが・・・
「拳みたいな感じで使えばいい。自分の頭をかばってもいいし、殴ってもいい」
「あい」
この盾が、リーモの生命を守ることになる。
シャケ、地面を嗅ぎ回る。この13歳(リーモと同い年。おじいちゃんである)の灰色犬は、白っぽい土に消えつつある足跡を、上手に追跡してみせた。
レーネ、愛犬の後ろをゆく。
リーモ、ボケーッとついてゆく。俺が男だってこと、いつレーネに言おう? などと、余計なことを考えて、注意散漫。どこを見るともなくレーネの後をついてゆき、何を聞くともなく鳥のさえずりを聞いておった。
そんなリーモのエルフの耳が、音にならん違和感をキャッチした。
「ウォッフ!」シャケが吠える。
リーモ。とっさに、頭をかばった!
ガキン! 盾に何か当たった!?
「リーモ、伏せろ! シャケ、待て! ──そこか!」
《おまえは我らを、踏みつけにはできぬ!》
──神速のレーネ。1人で3人分ぐらいのアクション!
「うっ!?」「ぐふっ」上方で、男女のうめき声がした。
見れば、左前方、低い崖あり。
崖の上には、パンチみたいな形で岩が盛り上がっておる。レーネのしわざ!
そのパンチに吹っ飛ばされ、落っこちてくる人影あり!
「リーモ、立って。ついてきて。シャケ、噛め!」
「あい」「ウォッフ!」
立ち上がるリーモ。たまたま、そのとき手をついた地面が欠けた。石灰岩の破片が手に収まる。リーモは本能的にそいつを掴んだ。そして立ち上がり、レーネの背中についてゆく。
転がり落ちた男女のうち、男のほうは「アっ・・・カン! 足やられた」とうめいており、起き上がれぬ様子。だがもう1人、女のほうは、ガバッと起き上がって弓をかまえた。手作りの弓である。矢をつがえ、即座に射──
「えい」リーモ、石の破片を投げつける。
「あたっ!」目に当たった。女、のけぞる。
逸れた矢と入れ違いにシャケが突進、弓持つ手に噛みつく! つづいてレーネが、女の頭を蹴り倒す!
「ぐぇ」
女は失神。男は降参。戦闘終了である!
・・・レーネが、チラッとこっちを見た。
「やるね? 相棒」
「まぁね?」
縛り上げた男女。エルフであった。
リーモと同じように、長い耳をしておる。
そして──彼らの肌は、リーモとは全然ちがう、くすんだ茶色をしておった。
「茶のダークエルフ」ユークラネーさまが判定した。「アズダーションの亡霊、っちゅうとこかに?」
※このページの修正記録
2024/09/02
「故郷の今朝」
後半(北国の村)、↓からこのパート最後まで、12行修正。流れがわかりづらかったので。
> 「閂(かんぬき)もないときた」扉を調べたレーネは~
2024/09/01
カルメカーニの父称を間違えてました。
× カクロジニャー・カルメカーニ
○ カクロジデーコ・カルメカーニ
ちなみに、
兄 カクロジデーコ・カルメカーニ
妹 カクロジニャー・カルメーニャ
です。まあ偽名なんですけどね!