勇気の女神にオンナにされた   作:min(みならい)

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『策略』のユークラネー

◆♀◆ 13、ダークエルフの洞窟 ◆♂◆

 

「ここや、ここ。うちらの住んどる洞窟」

 ダークエルフの女が言った。

 目の前にあるのは、岩場。草の生えとらん洞窟である。

「シャケ」と、色男のカルメカーニ殿。

 灰色犬のシャケ、ジロッと主人を見る。反応はそれだけ。

「嘘をついたな?」

「嘘ちゃう嘘ちゃ──いててて! 手ェ折れる、手ェ折れる! わかった、連れてく、ホンマの洞窟連れてく!」

「初めからそうしろ」

 

 ダークエルフの、男女2人組。

 茶色の肌に、明るい灰色の髪。そして、リーモとよく似たエルフの耳。背はリーモより高い。そしておっぱいもでっかい。リーモは、ちょっと魔王クレッヂマネーを連想した。あんな迫力はないけど。

 女は口八丁(くちはっちょう)でカルメカーニ殿を煙に巻こうとし、腕をねじり上げられ、尻を蹴飛ばされておる。

 男は、「足をくじいた」と言ったきり黙っておる。汗をダラダラかいとるので、痛いのは本当のようだが。

 

「なあ、あんた、アズダーションに興味あんねやろ? アズダーション」

「止まるな。歩け」

「あ痛ッた! 女の尻蹴るんやないわ、男のくせに!」

「山賊に男も女もない」

「山賊ちゃうわ!」

「ほう? では街に出て領主さまの裁きを仰ぐか」

「・・・。」

 カルメカーニ。ハンサムな青年。女の尻を蹴り、ネチネチ責め立てる。ひどい絵面である。──ま、彼の正体は、男装した女勇者・レーネなんですけれどもね。

「ちょっと、ハイエルフのお嬢ちゃん。なんか言うたって! 恋人やろ?」

 リーモ、そっぽ向く。

「歩け。案内しろ」レーネがまた蹴った。

「くそっ! 鬼。悪魔」

 

「・・・ここや」

 夕方になるころ、次の洞窟にたどり着いた。

 シャケがフンフンフンと嗅ぎ回って、レーネを見上げ、それから洞窟を見て、「ワフ!」

「よし。ここで待ってろ」

 ダークエルフの男女を木に縛りつけて、レーネは洞窟へ。リーモとシャケは見張りに残る。リーモは小剣を抜いて、2人を見張る態勢。女のほうがあれやこれやと話しかけてきたが、無視する。

 シャケに好物のねっちょりしたやつをあげつつ見張りをしておると、レーネが帰ってきた。

 子供を2人連れて。

「母ちゃん」「父ちゃん」

「見つかってもうたん」と女。「母ちゃん居らんあいだは隠れときて言うたやろ?」

「ごめん」「ごめん」

「──私の言いたいことはわかるな?」とレーネ。

「はい」女は無表情になった。「何が知りたいん?」

「まずはおまえたちの名前。身分。なぜここで暮らしているのか。

 ──最後に、アズダーションを知っているか? だ」

 

◆♀◆ 14、奴隷の話 ◆♂◆

 

 女の名はドードーミャーネ。逃亡奴隷であった。

 生まれたときから奴隷。親も奴隷であった。代々オセゾックの一族に支配されてきたという。

 先祖の話や種族の歴史は全然知らぬ。ただ主人たる人間に支配され、洗濯をさせられるだけの日々であった。

 逃亡奴隷となったのは、2年前のこと。

「大王の軍がな、南の制圧に出かけたんやけど、ドラゴンにぶつかってな、」

「大王とは、オセゾックか」

「他に誰が居るん? ──洗濯しとったら、ドラゴンが来て。監督官が喰われて。必死で逃げたら、軍からはぐれてもうたんよ」

「ドラゴンは、」と、男のほうが口を開いた。「ナダラカンの勇者さまが倒したっちゅう話やが」

「らしいな」ナダラカンの勇者さま、他人のフリ。

「どうせなら、みんな喰うてくれりゃよかったのに」女は暗い顔をした。

「──で?」

「そんだけ。うち、ただの洗濯奴隷やから。ホンマ知らん、なんも知らんって」

「『アズダーションの亡霊』がか」

「知らんっって。ただの逃亡奴隷よ、逃亡奴隷」

「わざわざ目立ったりはしませんわ」と男。「オセゾックに見つかったら、生命ないんやから」

「そうか。なら、今後も目立ちたくなかろう? ──知ってることを話せ」

「ないない」

「・・・俺の親は『心の正しいダークエルフは、アズダーションの女神さまに助けてもらえる』っちゅうてましたわ」

「ぺっ!」女は唾吐いた。「んな神居ったら奴隷なってへんわ! 居るのに助けてくれへんねやったら、クソ神や」

 リーモはちょっとカチンと来た。背後を見る。

 ふわ~ん。勇気の女神さま、黙ってリーモを見つめていらっしゃる。

 リーモ、向き直った。口を開く。「神さまを悪く言うな」

「なんやあんた。口利けるんかい」

「神さまは魔王じゃない。何もかもやってくれる人じゃない。やるのは人間だ」

「小娘が・・・!」女はリーモを睨んだ。

「まあな」男は場を和らげることを選んだ。「おっしゃる通りや。神さまやない。オセゾックが悪いんや」

「──この洞窟はなんだ?」

「なんやろね? なんやろ、ホンマ」

「どうやって見つけた」

「ただの偶然よ。逃げとる途中で、彼と一緒になってな。彼、フレッチャー(矢製作師)やねん」

「技能奴隷か」

「そうですわ」と男。「どっちみち、給料はなかったけどね。戦ンなったら徹夜で仕事させられるわ、矢ァが外れた言うて殴られるわ・・・なんもええことなかったわ」

「腕はいいようだな」レーネは没収した矢を見て言った。

「おおきに。いまは、子供のためやからね。必死にやってますわ」

 へー。おかげで俺、死ぬトコだったよ、とリーモは思った。

「アズダーションについては?」

「知らん知らん」

「ダークエルフが幸せに暮らしとったっちゅうのと、女神さまの御名ぐらいやな」

「なんとおっしゃる?」

「アズ・サクリュークリャーネさま」

 誰それ? リーモは背後を見た。女神さま、「さー?」のポーズした。

「シャケ」

 名を呼ばれた灰色の犬は、主人の顔を見て、ダークエルフ2人の匂いを嗅ぎ回った。特に女のほうをしつこく嗅いだ。嫌がる女の耳のあたり嗅いで、眉を寄せる。厳しい顔する。して、主人を見た。

「そうか」レーネは子供を放した。「おっ母の縄を解いてやりな」

「・・・ええの?」

「俺たちは、神託(しんたく)によってアズダーションを探索している」

 レーネが『俺』って言った! リーモは変な気分になった。

「だから、神の名を穢すことはせぬ。子供の目の前で、父母を殺すようなことは」

「・・・そっか」ダークエルフの女──ドードーミャーネは、力を抜いた。「襲ってごめん」

「これでも食ってろ。少し洞窟を調べさせてもらうぞ」

「なにこれ?」「母ちゃん、チーズやこれ。どうも、頂きます」

「ごゆっくり」

 レーネは、リーモとシャケを連れて、洞窟へ入った。

 

◆♀◆ 15、秘密の入り口 ◆♂◆

 

「・・・大丈夫かな?」リーモは心配した。「あの女、ずっとキョロキョロしてたけど」

「よく見てるじゃん」レーネはにっこりした。「だから、2人を連れて来たんだよ」

 洞窟の中は、獣の匂いがした。ダークエルフたちの体臭である。

「こっち。登り道になってる。手を」

 レーネに手を引かれ、リーモは闇の坂を登る。明かりは一切ない。真っ暗である。

 坂道を登り切った──らしい。レーネに言われなければ、それもわからんほど真っ暗である。

「大きな岩が3つある。この部屋は天然の洞窟らしいが、壁が薄いんだよな」

「壁がうすい」

「たぶん空洞がある。それもかなり大きな」

「そんなこと、なんでわかんの?」

「これで」

 

《♪~~》レーネは、響く声でハミングした。

 

「・・・どういうこと?」

「地形がわかるんだ」

「なんで?」

「知らん」レーネ笑う。「理屈はわからん」

「《声》の山彦(やまびこ)聞いとるんやないかに?」

 女神さまがそうおっしゃった。

 ぼんやり・・・淡い輝きを放ちながら、リーモを離れ、部屋の中をただよい始める。その淡い輝き、部屋を照らすほどではないが、女神さまの手が大きな岩を撫でるのは見える程度。岩は地面にどっしりと根を下ろし、高い天井にくっついておった。

「やまびこ。・・・言われてみれば、そうかも知れませんね」とレーネ。「今日知ったわ」

「知らずに使ってたんだ」

「自分の力なんて、自分じゃわからんのさ」

「そっか」わかったようなわからんような。「空洞あるんなら、《声》で開けちゃタメなの?」

「開けることはできる。以前、やったことある」

「じゃあ」

「そん時は、開けた途端、真っ黒な水がドワーッ!!! ・・・って噴き出して来て、死にかけた」

「ひぃ」

 レーネの失敗談を聞いていると・・・

「ここな部屋、見覚えあり」と、女神さまがおっしゃった。「3つの柱。アズダーション裏口の目印と見た」

「は?」

「3つの柱のうち、いずれかの示す方向に、アズダーションに通じる隠し戸があるはず」

「覚えてたんなら、早く言って欲しかったですねー」

「いま思い出したのえ」

 女勇者、女神さま、岩の背後にあたる壁をナデナデする。

 リーモも、残る岩のところへ行って、その背後の壁をナデナデした。すると。

 

<出シテタモウ~~~・・・>

 

 かすかな声が、リーモのエルフ耳をくすぐるではないか!

 

「なんかいる!」

「なんかとは」

<開ケテタモウ~~~・・・>

「『開けて』って」

「扉があるか訊いて」

「えーと・・・」リーモ、ちょっと考えて、ぴたっと頬っぺた壁にくっつける。岩壁ひんやり。「扉、ここに、ある?」

<埋マッテシモウテ、開ケレヌノエ~~~・・・>

「埋まっちゃって開けれないって、泣きべそかいてる」

<泣イテオラヌ・・・!>

「女神さま。トンネルを通してもよろしいですか?」

「うむ。許す」勇気の女神さま、うなずく。「誰か知らんが、助けておやり」

「承知しました。リーモ、壁をぶち抜くから、できるだけ離れるように伝えて」

「壁をー、ぶち抜くからー、離れててー!」

<アイワカッタエ~~~・・・エエエ~・・・>

「もういいの?」

<エエエ~・・・>

「なんかあったの?」

<モウエエト、言ウテオル~・・・>

「じゃあ開けるよ?」

<エエエ~・・・>

「えーと、たぶん『もういいよ』って言ってる」

「じゃあリーモも下がって。シャケ、リーモへ!」

「ワフ」

「あい」リーモは坂道のとこまで下がって、しゃがみ、シャケを抱き寄せた。「ここにいよう」

 ふわ~ん・・・女神さまも下がって来た。

「いい?」

「うん。もういいよ」「えええ」

「ではやります。──あ、手拭い(てぬぐい)で口ふさいで、目も閉じておいて。ホコリでやられるからね」

 レーネ、《♪~~》とハミングして、壁に手を当て・・・

 

《我らは開く、女神の洞ろ(うつろ)の、その口を!》

 闇埋めつくす巨大な岩壁を、地響きとともに、打ち砕いた!

 

 リーモの顔に、風が押し寄せた。細かい粉塵が、髪といい肌といい、いっぱいに降ってくるのを感じる。

 風がなくなるまで待って、恐る恐る目を開ける。

 そのときであった!

「外ォォォ~~~!」

 輝く小さな・・・コウモリ? が、リーモに突っ込んで来よった!

「ひっ」リーモ避ける。

「ドキャレ~~~!」輝くコウモリ(?)、同じ方へ避ける。ぶつかった。「グエ!」

「いてっ!」

「なにやつ!」レーネが剣を抜く。

「待ちゃれ」「ホゲェー!」

 レーネを手で制して、ユークラネーさまが光るコウモリ(?)を捕まえた。

 バタバタもがく小っちゃいのをぶら下げ、言い聞かせる。

「外出ても詮なし(せんなし)。巫女ならここに居るに」

「ミコ?」

 小っちゃいの。ぶらーんと垂れ下がり、リーモを見る。

「・・・ナニエ。パチモンエルフ」

「小っちゃい女神さま?」リーモ、びっくりする。

 

 なんと!

 ユークラネーさまがぶら下げとる小っちゃいやつ。

 ユークラネーさま、そっくりではないか!

 

 ・・・あ、いや待て。色がちがう。

 ユークラネーさまは、ぼや~んと輝く白い肌をしておられる。

 小っちゃいやつは、ぼや~んと薄暗い、茶色の肌をしておられる。

「ダークエルフ?」とリーモ。

「チャウエ」

「ちがうんだ」

「我ハ神。名ハ、アズ・サクリュークリャーネ」

 蚊の鳴くような声で、その小っちゃい女神はおっしゃった。

「さっき聞いた名だな」とレーネ。「アズダーションのダークエルフの女神とか?」

「それ、本名かに?」とユークラネーさま。

「チャウエ」

「本名言いなえ」

「古名ニシテ本名タル名ヲ知リタイト申スカ?」

「まだるこし!」女神さま、怒る。「前置きはいらぬ」

「ナニエ。百年ブリニ人ニ会エタニ。ユックリシャベラセヨ」

「とっとと答えよ!」

「イケズ。我ハ、『策略』ノユークラネーナリ」

「『策略』」

「イカニモ。デ、ソナタハ何エ」

「我は、ラモリマイ・ユークラネー。勇気の女神。流浪(るろう)の身」

「ハテ? マルデ私ノヨウナ名ヤガ。ラモリマイトハ何エ?」

「ラモリマイ、出でよ」

「はい」

「これなるはラモリマイ。我が本拠ユーコビンラの隣人の女神」

「初めまして。『策略』のユークラネーさま」

「コレハゴ丁寧ニ」

「うむ。落ち着いたかに?」

「ウム」

 ユークラネーさま、小っちゃいやつを放す。小っちゃいやつ、フワ~ン・・・宙にとどまる。

「えーと、」とリーモ。「つまり、このひともユークラネーさまなの?」

「うむ」「ウム」

「閉じ込められてたわけですか」とレーネ。「災難でしたね」

「ウム」

 

◆♀◆ 16、『策略』のユークラネー ◆♂◆

 

「とりあえず、そなた小っちゃすぎ、力弱すぎ、声聞き取りづらいゆえ、いったん私と合流せよ」

「吸収スル気カニ?」

「いや。これなる妹を見ればわかる通り、出入りは自由」

「ナラバ、力ヲ借リルエ」

「うむ」

「ソーレ」

 小っちゃいやつ。『策略』のユークラネーさま、蚊の鳴くような声で言うたかと思うと・・・

 スーッと、大きなユークラネーさまのお腹のあたりに、吸い込まれてしもうた!

 かと思うと・・・

「やれ。死ぬかと思うたえ」

 ラモリマイさまぐらいのサイズとなって、肩の上に御降臨なさった!

 ちょっぴり大きくなったので、その御姿、わかりやすくなる。まさに、ユークラネーさまがダークエルフになったがごとし。茶色の肌、でっかいおっぱい、スラッと長い手足・・・あ、ちょっとちがうかもわかりません。スタイルはこっちのほうがいいようですね。

「ずっと閉じ込められてたの?」とリーモ。

「うむ・・・」

 『策略』のユークラネーさま、渋い顔してうなずく。

「魔王クレッヂマネーが地震を起こし、アズダーションは、その大半、崩れ落ちた。ここな裏出口も、崩れてしもうた」

「女神像の間は持ちこたえたんかに?」

「うむ。ダークエルフの技師連中が粋を凝らし、像を守ってくれた。おかげで閉じ込められたが、」

 『策略』のユークラネーさま、肩をすくめる。

「魔王の目をあざむくこともできたはず。私の本体がこうして元気でおることから、それがわかる」

「うむ」と本体。「そやに、つい先日、魔王に目ェつけられてしもうた」

「は?」

「我が巫女ナッタレーニェが派手に軍勢を支援し、魔王に見つかった」

「あなや。我の百年」

「78年しか経っておらぬ」

「短いみたいに言いなえ!」

「ずっとここにいたの?」とリーモ。

「うむ・・・」

「・・・。」リーモは胸を痛めた。「お水、呑む?」

「頂くえ」

 

「外に出たいのやが、なんか出たらアカン理由があるんかに?」

 お水呑んで一息ついた『策略』のユークラネーさまが言い出した。

 穏やかな言い方しとるが、本気であるのが、リーモにはわかった。

「ダークエルフが居るのやが・・・」

「なら会うてやらねば」

「居るのやが、そなたのことは忘れてしもうておる」

「・・・。」

「名前だけは覚えておるが、信仰は捨てた様子」

「そうか」

「それでもよければ、ゆくがよい。我らは中を見せてもらうえ」

 本体が中に入ろうとすると、『策略』のユークラネーさまが止めた。「待ちゃれ」

「なにえ」

「中は危険な状態。いつ崩れるかわからぬ。壁や柱には触らぬように。また空気も悪いゆえ、1人ずつ交代に入るべし」

「・・・ということらしいえ」

「はい」とリーモ。

「かしこまりました」とレーネ。「ありがとうございます。ええと──どうお呼びすれば?」

「ユークラネーやが?」

「我もユークラネーやが?」

「では、サクリュークラーネとでも呼ぶがよい」

「さくうゅー・くりゃねー」

「なにえ。発音ヘタクソなり。ぱちもんエルフだけのことはある」

「その点には言及すな」と本体。

「なんでかに?」

「諸事情による」

「はあ。・・・ま、それならば、サクラーネと愛称することを許す」

「サクラーネさま」呼びやすい。リーモ喜ぶ。

「ほな、私は外の空気吸うてくるえ!」

 サクラーネさま。ひらりと飛んで、外へ出てった。

 

◆♀◆ 17、洞窟探索 ◆♂◆

 

「・・・じゃ、入ってみますか。まずは私が行ってみる」

 レーネはロープを取り出し、自分の胴体に結んだ。そして、もう一方の端をリーモに渡す。

「万が一私が倒れたら、引っ張り出して」

「ごめん、無理かも」

 体格のいいレーネを引っ張る自信は、リーモにはない。

「俺が行ったほうが良くない?」

「うーん・・・」レーネが難色を示す。

「リーモなら、」と、ラモリマイさま。「万が一の場合、ユークラネーさまが治癒できますよね」

「埋まってしもうたら、私ではどうにもならぬ」

「ああ・・・」

 と、全員が悩んでおると。

「ワフ」シャケが名乗りを上げた。

「おまえが行くのか?」レーネ、しばらく悩む。「・・・わかった。頼む」

「ワフ」

 胴体に縄つけたシャケ。地面や空気の匂いを嗅ぎつつ、奥へ。

 およそ10尋(身長の10倍)のロープが尽きた。何事も起こらぬ。

「シャケ、戻れ」

「ワフ」元気に戻って来た。

「じゃあリーモ、頼む」

「あい」

 リーモの胴体に、縄が結ばれる。

「壁や柱に触らない。床が崩れそうなときは、こっちに頭を向けて腹這いになる。復唱して」

「壁や柱に触らない・・・」

「よし。じゃあ、見ておいで」

 リーモが踏み込む。

 ふわ~ん・・・ユークラネーさまがついてきた。心強い。──だけでなく、ぼんやり輝いとる女神さまが周囲を動き回ってくれるおかげで、部屋の概観もわかった。

 壁も床も、綺麗に石で張られた四角形の部屋である。ただし、壁は歪み、床はひび割れておる。相当の重圧がかかったようである。

 レーネがぶち開けた穴から奥に向けて、列柱が立っておる。その列柱の間を抜けた先に、分厚い扉があった。この扉もまた、枠が歪んでしまっておる。ただし、そうなる前に開けてあったらしい。扉は全開になっておった。

 扉に近付く。ロープが尽きた。これ以上は進めない。中を覗いてみる。

 ふわ~ん・・・女神さまが入ってゆく。すると、室内が淡い白銀に輝いた・・・。

 

 そこは、白銀(しろがね)の宝物庫であった。

 壁も天井も、床までも、輝く白銀で覆われておる。壁には装飾が施され、燭台もあるようだ。この燭台にあかあかと火が灯っていた時代には、素晴らしく美しい部屋だったのであろう。

 正面にもうひとつ扉があるが、こちらは閉じたままで枠が潰れかかっておる。

 そして、この部屋も、列柱によって空間が埋まっておった。部屋は白銀張りだが、列柱は黒い石である。

「変な柱」とリーモ。

「補強でしょうか?」とラモリマイさま。「明らかに後付けされた柱ですよね」

「うむ・・・」床を見ながら、ユークラネーさま。

 床。

 この部屋の床の上は、異様な状態であった。

 財宝が、散らばっておる。

 口の開いた宝箱が2つ転がり、そこから金銀財宝がこぼれ出し、床一面に散らばっておる。

 まるで、誰かが暴れたような・・・。

 一体、誰が?

 この密室に人間の死体はない。

 一体誰が、この宝箱を放り投げ、財宝をメチャクチャにかき回したのであろうか?

「女神さま・・・!」リーモはうめいた。

「いったん出よう」とユークラネーさま。「『策略』が片付けるまで、ここはそっとしておくべし」

「うん・・・」

 

「解説しよう」

 3つの岩柱の部屋でしばらく待っていると、外からここの主が戻って来た。

 『策略』のユークラネー──サクラーネさまである。

 サクラーネさま。本体・ユークラネーさまの肩に座って、足組み、人指し指を立てた。

「ラモリマイ、そなたが正解やえ。あな柱、補強のため、後付けされたもの。魔王の地震への備えやえ」

「魔王の攻撃を予知しとったっちゅうことかに?」

「予知にあらず。予測なり。敵の能力を知り、方針を知れば、次に来る攻撃、ある程度まで予測できる」

「ほう」レーネが真面目な顔になった。

「して、致命傷となる攻撃から順に対策を打っていく。この柱は、順位の高い対策のひとつであった」

「入り口は崩れたようやが」

 サクラーネさま、ニヤリとする。「それも策のうち」

「魔王を油断させる?」

「そえ。そなた、冴えておるに。戦い慣れておると見た。名は」

「光栄です。ヨスベリューサニェー・ユリアーニェと呼ばれております」

「太陽の勇者か。道理で(どうりで)」

「・・・わざと、閉じこもったの?」リーモ、できるだけふつうの声を出そうとする。

「いかにも。魔王は、この私『策略』と、海に行った『仲間』の2柱を潰しにかかっておったゆえ、死んだフリをしてやった」

 サクラーネさま、ため息をつく。

「ダークエルフどもの住居は押し潰されたが、我が神像の間と、この裏口は残った」

「・・・。」レーネの顔が険しくなる。

「心配はいらぬ。当時、ここは最前線で、戦士しか居らなんだ。その戦士も、人間に負けたフリをさせ、退却させたゆえ」

「そうでしたか」

「で、私は、ダークエルフどもが信仰を守り、いつか封印が解かれることを期待して、ここに・・・」

 サクラーネさま、ガタガタ震え出した。

「こ・・・ここに・・・1日、また1日と、いつか、誰か・・・来ると・・・」

「女神さま」

 リーモが手を伸ばした。サクラーネさま、飛びついてきた。「うううう!」抱きついて泣きじゃくる。

「外に出よう」レーネが提案した。

「そうだね」

「新しい抜け道を、私が造る。換気も兼ねてね。そうすれば、しばらくはこの発見を隠せるだろう」

「それがいい」

「じゃ、リーモは先に出てて。私は作業してから出るよ」

 と決まって、動き出そうとしたとき。

 

「よそ者ども! 武器ィ捨てて、出て来やがれ!」

 怒鳴り声が、洞窟の中に投げ込まれた。

 

◆♀◆ 18、領主の息子ハルダック ◆♂◆

 

「我が名ァ、ホルビデーゴ・ハルダック! 領主の跡継ぎだァ」

 声は北国のお国言葉であった。

「アズダーションを嗅ぎ回っとる、カルメカーニとやら! エルフの娘と犬ゥ連れて、おとなしく出て来やがれ!」

「知り合い?」とリーモ。

「全然」

「名前呼んでるけど」

「うん」

「まずくないの?」

「まずいよ。逃げても手配されるってことだからね」

 ガチャガチャッ! 金属音がした。洞窟に入って来たようだ。「カルメカーニ! どこだァ!」

「1人で入って来たぞ」

「領主の息子が?」

「変だよな」レーネはサクラーネさまを見た。「裏口を・・・封印し直そうかと思うのですが」

「・・・う、うむ」涙声。「やむを得まい。ゆるす」

「別の出入り口を造りますので、ご容赦ください。では──」

 

 ガシャ・・・ガシャ、ガシャ! 足音、坂道を登って来た。

 ガチャッ! 踏み入った。

 3つの岩の柱を照らす、たいまつの明かり。

 現れたのは、髭(ひげ)も生え揃わぬ若者であった。青銅の兜に、鎖かたびら。たいまつを左手に、剣を抜いて。

 戦士は、イノシシみたいに部屋を嗅ぎ回る。だが、もはや誰も居らぬ。

「ミャーネ!」

「はい。お殿さま」ダークエルフの女、ドードーミャーネがやって来た。

「この穴ァ、いつできた?」

「え?」

 部屋には、大きな縦穴があった。

 3つの岩の真ん中に、暗い口をぱっくりと開けておる。

 たいまつで照らしても、何も見えぬ。かなり深い穴のようである。

「うち、知らん・・・知りません、こんな穴」

「おいミャーネ」

「は、はい」

「逃亡奴隷のおまえをかくまってやった恩、まさか、忘れたわけじゃねェよなァ?」

「忘れてへん。忘れてませんよ」

「なら、嘘はつかねえよなァ?」

「つかへんつかへん。マジで知らんねん、こんな穴」

「ふむ・・・」

 若い戦士は。

 なんとも不用心なことに、大きな縦穴を覗き込んだ──

「じゃあ、崩落かァ? だとしてもよォ、こんな穴に飛び込んで逃げたとァ、思えねえよなァ」

 

 ──すぐ後ろに、暗い目をした逃亡奴隷が立っているというのに。

 

◆♀◆ 19、大王の聴取の間 ◆♂◆

 

 ところ変わって。

 こちらは、石造りの建物の中。

 窓のない小さな部屋である。中年の戦士が1人、室内に立っておる。

 陰鬱な石室(いしむろ)。その天井に届くほどの巨体である。部屋には他に何にもない。家具もないし、扉もひとつしか──いや。戦士の正面の壁に、四角い穴があった。膝のあたりに。空気取りの穴にしては、変に大きいが・・・?

 その穴から。

「我らが大王、オセゾック陛下に申し上げます・・・」

 声が聞こえてきた。

 なんと、その膝の高さの穴は、声を通すための穴。いわば『報告の穴』。

 そして中年の戦士は、北国を支配するヤムコーゾックの王、その人だったんである。

 オセゾックは返答せぬ。報告者が1人でしゃべる。

「・・・女のクセに勇者を詐称するナダラカンの不届き者、ユリアーニェの動向でございます。

 この不届き者めは、船に乗るしか能のない南の腑抜け領主に面会、『西へゆく』と公言しておりました。

 生まれ故郷の海乞食どもの村に入った。これを、間違いなく確認いたしました。──以上でございます」

「・・・。」

 大柄な戦士は、何も言わぬ。渋い面をしておる。

 小さな穴の向こうで報告者が退出する気配がした。新たな報告者が入って来たようである。

「我らが大王、オセゾック陛下に、豚飼い村の詩人が申し上げます。

 先日、カクロジデーコ・カルメカーニと名乗る、南の若者の件をご報告いたしましたが・・・」

「おゥ。聞いたぞォ」オセゾック王は答えた。「アズダーションを探っとるってェ話だったな?」

「はい。

 この件で、豚飼い領主の息子を煽ってみましたところ、まんまと引っ掛かりました。

 『アズダーションを嗅ぎ回っておりますよ』と、申しただけで、あわてふためいて、飛び出しまして。

 我が手の者に追わせてみたところ、大正解! 怪しげな洞窟に、ダークエルフの女と共に入って行ったのです!」

「ダークエルフだァ?」

「はい。ダークエルフの男、女、子供が2人、洞窟の前に居ったそうでございます。

 豚飼いの息子は、武装して洞窟に入り、その後、女を呼びつけた。

 しかし、出て来たのは女だけでした。その女が、『あいつは穴に落ちた』と告げたというのです!」

「・・・領主の息子を、暗殺したってことかァ?」

「遺体は確認できておりませぬ。男女の留守中に侵入したところ、縦穴は確認できたが、遺体はなかったと」

「ちっ!」

「おお、どうかお許しを──代わりと言ってはなんですが、場所はしっかり。いつでも調査はできますので」

「そうかァ。・・・よし! この者に、褒美ィ、くれてやれ」

「はい。褒美を取らせます」

「ありがたき幸せ・・・」

 退出。

 次。

「大王さま。南の船乗り、ヒーウシナッキでごぜェます」

「“片目”かァ。船を失ったそうだなァ?」

「へい。陸に打ち上げられて、乞食になっちまった。しかし、情報は持って来ましたぜ」

「災難だったなァ。よし、話せ」

「ありがたいお言葉で。情報は、女勇者が行き先をたばかってた、って話でして──」

「女勇者ァ?」

「おっと、すいやせん。ナダラカンの不届き者でさァ。

 このアマ、ナダラカンミナットじゃ『西に出る』と言ってましたがね。

 西の村のツテに確認したら『その日のうちに出てった』ってんでさァ」

「ほーゥ?」

「こいつァおかしいってんで、大王ンとこへ上がる道すがら、調べて回ったんですがね。

 エルフっ子の連れの、カルメカーニって男、あいつがユリアーニェと見ましたぜ」

「カルメーニャの兄、エルフの恋人──ってェ触れ込みだが?」

「へい。ですがね?

 ユリアーニェに兄弟はいねえし、エルフっ子にオトコはいねェんで。

 そしてだ。国ざかいの村じゃ、山賊どもに取り囲まれた家から、まんまと逃げ延びたっていう」

「・・・ほゥ?」

「山賊ども、失敗を隠しやがりましてね。聞き取りにゃァ、少々手間取りましたぜ。

 現場は、間違いなく袋のネズミってェ陣取りだった。《声》を使ったと考えるのが自然だ」

「そうかァ・・・。よく調べたなァ! この者に、褒美ィ!」

「はい。褒美を十分に取らせます」

「ありがてェ」

「──ところで、“片目”よォ」

「へい」

「もういっぺん、船に乗る気はあるかァ?」

 

 報告が終わった。

 大柄な戦士──ヤムコーゾックの大王オセゾックは、石室を出る。伝令を呼んで、命じる。

「戦士の長どもを集めろォ! 豚飼いどもが裏切りやがった。攻め滅ぼして、思い知らせんぞァ!」

 つづいて別の伝令に、

「巫女の一族を連れて来やがれ。この機に、アズダーションも手に入れてやらァ」

「はい!」

 走り出してゆく伝令たち

 大王オセゾックは、玉座に着いた。

「勇者・・・ドラゴンのときも、今回も、『勇者』、『勇者』ァ・・・」

 黒い髭に埋もれた凶悪な顔をさらに歪めて、つぶやく。

「いまに見てろォ。キコリネの槍で、てめェの土手っ腹に穴ァ開けてやっからよォ・・・!」

 

◆♀◆ 20、新たな仲間 ◆♂◆

 

 ところは戻って、アズダーション。

 宵の空気も爽やかな山腹。

 ドサドサドサ・・・と、山肌が崩れ落ちて、トンネルが出現!

 中から、カルメカーニ殿が現れた。

 周囲を調べ、愛犬のシャケを放って警戒させ・・・「よし。リーモ、いいよ」

「あい」リーモ、急いで出て来る。「女神さま! もう大丈夫だよ」

「うううう? ・・・おお! 空! 星空!」

 サクラーネさま。しがみついとったリーモの胸から顔を上げ、叫ぶ。

「ああ! ・・・ああ、外界!」

「あそこに川があるね」

「流れる水! 緑! 地平線! おおお・・・!」

「良かった」レーネも一息つく。そして、洞窟の中を見た。「で、おまえは何なんだ?」

「手間ァ・・・取らせちまって、悪ィ・・・カルメカーニ・・・」

「まったくだ」

 地面に寝ている男を、カルメカーニは抱き起こした。肩を貸して、何とか歩かせる。

「くそっ。重たいんだよ、おまえ」

「へっへっへ・・・南の・・・ヒョロヒョロ男にゃァ、重いかもなァ・・・?」

「軽口叩く余裕あったら歩けよ、自称領主の息子さんよ」

「自称じゃねえ・・・本物だァ・・・」

「本物なら1人でこんなとこ来るんじゃないよ」

 なんと。

 レーネが抱えて運び出したのは、ホルビデーゴ・ハルダック! 領主の跡継ぎを名乗る、若い戦士であった!

 ハルダックは、大柄である。レーネよりだいぶデカい。だが、いまやその巨体、ズタボロであった。

 兜・かたびらは脱がされ、武器も外され、鎧下(よろいした)だけの姿。その鎧下が、土と血に汚れておる。腕はダラリと垂れて血をしたたらせ、足も1本折れて跛行(はこう)すらできんありさま。

 追手であったハルダックが、なんでこんなことに?

「飛び降りる用の穴じゃないぞ、あれは」

「自分で・・・飛び降りたわけじゃ・・・ねえや・・・」

 

 なんと。

 ハルダックは、逃亡奴隷のドードーミャーネに、突き落とされた・・・そうである。

 あの縦穴は、レーネが《声》で開けたものである。落差があって、飛び降りれば無事では済まぬ。ではどうしたかと言えば、沈下する地面と一緒に、エレベーターに乗るがごとくして、地面に沈んだのである(この世界にも人力の垂直昇降機はありますよ。念のため)。縦穴掘るついでに自分たちも降りたっちゅうわけである。ガッと沈んでドーンと止まる感じだったので、リーモはコケておったが、ケガするほどではなかった。

 ハルダックは、真っ逆さまである。

 ものすごい音がしたのでレーネが確認しにいったら、兜凹み、鎖かたびら破れ、手足折れ、意識もないハルダックが、地面に転がっておったんである。

 

「俺たちの頭の上に落っこちてたら、共倒れだったぞ」

「へっへっへ・・・身に沁みた(みにしみた)わァ。女ってのァ、信用できねえってよォ・・・」

「しぶとい男だよ」

「あいつ、死にかけててよォ・・・泣きつかれて、つい、助けちまったんだがよォ・・・」

 ハルダックは語り始めた。傷に苦しむ人間は、おしゃべりになることもあるのだ。

「助けたあとで、オセゾックの逃亡奴隷だって名乗りやがってよ・・・ちくしょうが・・・」

「それで、1人で追いかけてきたのか」

「おゥ・・・なんとか、表沙汰にせずにって・・・それで殺られてりゃァ、世話ねえよなァ」

「まったくだ」

「馬鹿だったぜ、俺ァ・・・」

「親切にするのを『馬鹿』って言うんなら、はぁ、はぁ・・・あんたも俺も、馬鹿だな」

「わっはっは! あ痛ェ! ・・・てめェ、いい男じゃねえか」

「同性愛の趣味はないぞ? はぁ、はぁ・・・すまん、下ろす」

 川のそばまで運んだところで、レーネがくじけた。ハルダックを地面に転がす。

「ぐへっ! てめェ・・・折れてねえ方が、折れちまうだろォ・・・」

「すまん。俺も、限界だ」レーネ、地面に膝をつく。「骨を・・・接がなきゃいかんのだが、ハァ、ハァ」

 息を切らせたまま、立ち上がる。川へ向かう。

「大丈夫?」リーモがやって来た。

「骨折の治療、できる?」

「見たことあるけど、やったことはない」

「そうかぁ」レーネは汗を拭った。

「お湯沸かす?」

「ああ、そうだな。傷を洗ってやらないと」

 藪(やぶ)をかき分け、川岸へ下りる。

 水量豊かな川であった。幅は狭いが、深そうだ。

「参ったよ。あいつを治してやる自信がない」レーネが弱音を吐いた。

「うん」

「あいつが本当に領主の息子なら、恩を売りたいところだが」

「サンキューがいればね・・・」

 

 そのときであった!

 

「お呼びですか?」

 ばしゃー! 太腿ムチムチの美女が、川から姿を現わしたのは!

 

 びっしょり濡れた、紅色の髪。キラキラと水に輝く、おっぱい! おおっと!? 今夜は、布で包まれてはおらぬ! 白い乳房、丸出しである! 下半身は水の中だが、そちらもハダカっぽい!

 

 リーモ興奮! 初めて見た! サンキューの裸体!

 そう。

 それは、海の向こうからやって来た太腿ムチムチでなぜか治癒術できる謎の美女、クレニーニャ・サミーニャ──というのは世を忍ぶ仮の姿、その正体は魔王に仕えるセイレーンの魔将、セイラッキルーネ・サンキュッシニーモ!──というのは女勇者にバレたらヤバいので、ここではやっぱりサミーニャ!

 ・・・つまるところ、治癒術のできる美女サンキューであった。

「おまえ何してんだよ」とレーネ。

「水浴びですが?」サンキューは髪を手で梳いて(すいて)見せる。おっぱい、ぷるんぷるん。

「夜なんだけど?」

「夜の水浴びです」

「なんでここにいるんだよ」

「故郷に手紙を出したら、『返信に数カ月』と言われまして。ただ待つより、見聞を広めようと」

「それ、信じると思ってる?」

「信じがたい偶然ですよね!」

「・・・。」

「お呼びでないなら・・・さようなら?」

 サンキューは水につかった。うつ伏せになって、泳ぎ出す。

 美女のお尻が・・・太腿のムチムチさから想像したとおりの・・・いやそれ以上の! 月よりも綺麗なお尻が見えた! ダイナミックな泳ぎによって、跳ね上がり、潜り、跳ね上がる!

 リーモはもう、ボケーっとしてしまい、何の役にも立たぬ。13歳男子の本領発揮である。

「・・・わかった。認める。サンキュー、おまえはどうしようもなく不審だが、有能だ。助けてくれ」

「あなたほどの方に有能と言われては、イヤとは言えませんねー」

 サンキューはニヤニヤしながら水から上がった。

 うわー、下の毛も紅色なんだ・・・と、リーモは思った。上と下から、ぺしっペシッと叩かれながら。

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