勇気の女神にオンナにされた   作:min(みならい)

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決戦! 魔王に弱点なし!!
嵐の前に


◆♀◆ 1、嵐の前に ◆♂◆

 

 この年の秋。ナダラカンには、大きな動乱が迫っていた。

 反乱と、戦争と──海の魔王のもたらす、災いが。

 ナダラカンの人々は、やがて来る嵐を知らぬまま、爽やかな秋を楽しんでおったんである・・・

 

「先輩! 来ました!」

 ダークエルフの少女。

 小さな荷物ひとつを手に、笑顔いっぱい。リーモにあいさつした。

「チャーネ。いらっしゃい」

 リーモも笑顔になった。

 チャーネ。本名はクエルデンチャーネ。12歳。茶色の肌。白い髪。リーモよりも、ちょい低い背丈。ダークエルフは、ふつうはハイエルフより大柄である。リーモより小さいのは、生まれたときから奴隷だったため──栄養不足、睡眠不足だったせいであろう。

 それでも、チャーネは明るかった。

「しばらくお世話になります。よろしゅうお願いします」

「うん」

「よく来たね、チャーネ」レーネも顔を見せた。「元気そうだ」

「はい。・・・カルメーニャお嬢さまも、お変わりなく」

 3人がいるのは、『ゼナルジーコの宿』。ここでは、女勇者ユリアーニェという名前は秘密なんである。

「そつのない子だ」

「俺とちがってね!」

「おまえ何回もバラしかけたもんな」

「へへへ」

 リーモ笑う。我らが主人公、ハイエルフの美少女、ユークレニャー・ナッタレーニェ。愛称リーモ。なお、本名はオンサレーンだが、それはいまは忘れてよろしい。農家の長男であったということもね。いまは、巫女のリーモなのだ。

「代官になったんだって?」

「はい。内定で、時期が来たら発表っちゅうて。ウチ(私)が15歳になったら、正式に・・・て言われてます」

「北の領主は柔軟だな」

「ナダラカンの領主さまは、代々街を守ってはる(守っていらっしゃる)そうですね」

「そう。こっちは、家名がないと政治はできない」

 チャーネ。12歳の娘にしては、かなり賢い。我らが主人公より賢いかもわからん。

 リーモ、ちょっと置いてきぼりである。それでも世話役。がんばってタイミングを見計らい、こうまとめた。

「じゃ、荷物置いて、今日は散歩でもしよっか」

「はい!」

 

「ワフ」

「初めまして。シャケ殿。お噂は聞いてますよ」

「ク~ン」

 レーネの愛犬、シャケ。灰色の毛したお爺ちゃん。チャーネに頭撫でられ、御機嫌の様子。

「ジジイ・・・」リーモあきれる。

「いま微妙な時期だから、私から離れないようにな」とレーネ。

「ミガシナンショのほうが騒がしいとか?」打てば響くようにチャーネ。

「うん。近いうちに反乱になるだろう。いまは、間諜(かんちょう)が行き来してる段階だね」

「ほな、ウチは都会にびびって人見知りしとる田舎モンのフリします」

 チャーネ。リーモの腕に掴まってきた。「せんぱい・・・」

「大丈夫。俺に任せて!」

「おまえ道覚えてないだろ」

「あはは」

 

 チャーネ、めっっっちゃ、注目を浴びた。

 それもそのはず。この港町にたった1人しか居らんダークエルフと、たった1人しか居らんハイエルフが、くっついとるのだから。

 レーネが蚊帳の外(かやのそと)になるほどである! レーネ、すごい目立つ美少女なのに。

 行く先々でジロジロジロジロと・・・演技なしでもびびりますわ! あんなん! と、チャーネが言うほどであった。

「はい、麦ぺったん」

「頂きます」

 屋台のおやつ。ナダラカン名物のひとつ。

 薄~く広げて焼いた小麦に、魚の練り物と塩漬け野菜を挟んだもの。

 かぶりつく。塩味と酸味。『海!』っちゅう味である。

「こっちは豚串でーす」

「いははきまふ」

 ナダラカン名物その2。竹串に刺して炭火で焼いた豚肉。すんごく香ばしい。

「それは北国から伝わってきたやつらしいぜ」

「北より、味ふぁ、濃ひれす」

 

 おやつをすませ、郊外へ。

 古い城址(じょうし)に登る。

 石垣だけが残る、寂れた高台であるが、景色は素晴らしい。

 ナダラカンミナットの、石造・木造混在の街並みの向こうに、白くけぶる大海原が横たわる。

「すごい!」チャーネよろこぶ。「これが海ですか。・・・めっちゃ重たそう!」

「持ったら重いだろうね!」リーモ笑う。

「ク~ン」シャケ甘える。

「はいはい。なんですか? シャケ殿」

「ブラシかな」レーネがブラシ出した。「ほら、おいでシャケ」

「ウフ・・・」シャケ逃げる。

「なんだよ」

「じゃあ俺がやるよ」リーモが受け取った。

「・・・。」シャケ、無言で睨んでくる。

「なんなんだよ」

 ブラシ、チャーネの手に渡る。

「ワフ~ン」シャケ喜ぶ。

「このクソじじい!」

「女に弱いからなぁ。・・・連れ合い見つけてやらないとな」

「そっか。歳だもんね。子供いないのは、さびしいよね」

 シャケ、横目でこっち見てきた。

「なに?」

「・・・。」

 シャケの首、がくんがくん揺れておる。チャーネ、ずいぶんしっかりブラシかけてくれとるようである。・・・なんか、機織りでもしとるみたいに、機械的動作でもって、ガッシガッシと。

 シャケ。『これ、犬のブラッシングじゃないよね?』との目付きである。

 レーネとリーモ。そっぽ向いて、笑った。

 

 ピクニックを楽しんで、午後、宿に戻る。

 すると、お茶呑んどった太腿ムチムチの美女が立ち上がった。

「お帰りなさい」

「サンキュー」

 世にも珍しい、ピンクの髪した美女。

 鮮やかな色合いの布でムチムチとカーブ描く下半身をひらりと挟み、ぷるんぷるん弾むおっぱいをゆるく包んだ美女である。

 本名クレニーニャ・サミーニャ。・・・というのは偽りで、本当は、セイラッキルーネ・サンキュッシニーモ。なんと、魔王の側近! セイレーンの魔将である! バレたらヤバい! けどバレとらんので、平気でお茶呑んでおる。

「みなさん、夕方の予定はお決まりですか?」

「ないよ」とリーモ。

「私は領主館に顔出す予定だな」とレーネ。

「あら残念。お風呂に行きませんか? って誘うつもりだったんですが」

 

◆♀◆ 2、お風呂の前に、打ち明けるよ ◆♂◆

 

「お風呂?」リーモ、鋭く反応する。

「ええ」

「サンキュー、熱いの苦手じゃなかったっけ?」

「はい。水に潜るほうが好きですね。でも1回ぐらい行っときたいなと思いまして」

「ふむ」レーネはじーっと美女の目を見た。で、「行ってくれば?」

「いいの?」

 リーモは聞き返した。レーネは、このピンク髪の美女を警戒しとったはずだが・・・?

「こいつ、腕の力ないからね。誘拐はできんだろ」やっぱり警戒しとった。

「ひどい!」サンキュー嘆く。

「まあまあ。じゃ、チャーネも連れて行ってくるよ」

「うん」

 と、話がまとまったところで。

「・・・あ、その前に。俺、ちょっと、打ち明けたいことがあるんだ」

 我らが主人公、勇気の女神の巫女ナッタレーニェ嬢は、あらたまってそう言ったのであった。

 

 レーネの部屋で、さっきのメンバーを前に。

 リーモは、打ち明けた。

 

「俺はさ、農家の、双子の子供だったんだ」

「ハイエルフの農家ですか?」とチャーネ。

「・・・あ、いや、人間。このへんの人と同じようなね」

「へえ」

「それが、なんでハイエルフになってるかって話なんだけど、」

「変身ですか?」とサンキュー。

「ええ? えーと?」

 リーモ振り向く。

 ふわ~ん。背後に浮かんでいらっしゃる御方、リーモを見下ろす。「なにえ」

「俺って、変身してんの?」

「ちゃうえ」背後の御方、言葉少なし。「いまはそれしか言えぬ」

「あ、そう」リーモ、元に戻る。「ちがうって。変身じゃないみたい」

「そうですか」

「それでね? えっと、ちょっとだけ長い話になるんだけど・・・」

 

 リーモは、以前父母にした話を、もう一度した。

 母には言えなかった致命傷の話も、レーネには打ち明けた。

 

 「お腹を斬られて、妹のニモとはぐれてね。

  そのあと、弓で撃たれた。それが致命傷だったみたいでさ。

  ユークラネーさまの滝に落っこちて。

  妹を助けてもらう代わりに、巫女をやることになった。

  勇気の女神にオンナにされたんだ」

 

「俺の元の名前は、オンサレーン。農家の長男だよ」

 リーモは話し終えた。

「・・・。」「・・・。」「・・・。」

 誰も反応せぬ。

 リーモ、ちょっと焦る。

「えっと・・・あの」

「なんと、なんと、なるほどねえ」サンキューが口を開いた。「大変でしたね。怪我は大丈夫ですか?」

「え? いや、ダメだけど」

「ダメなの?! 治療しますよ。どこです? 彼は」

「あ、いやいや、」あれ? 話が伝わってない?「俺が、そのオンサレーンなんだけど」

「はい。それは聞きました」伝わってる?「彼の、というか、あなたの、男の身体はどこに?」

「え?」リーモ振り向く。

「・・・。」背後の御方、無反応。

「えーと、わかんない」

「え!? じゃあ、いまごろはもう・・・?」

「それはえーと、」リーモ振り向く。

「心配無用。死ぬ直前で生きておる」背後の御方、これには答えを下さった。

「心配いらないって」

 背後の御方の声は、サンキューには聞こえぬ。いちいち口伝て(くちづて)してやらねばならんのである。

「そうですか。よかった。治療するときは言ってくださいね」

「あ、うん。ありがと」

「・・・あの、」チャーネが手を上げた。「ほな(それなら)、先輩って・・・男なんですか?」

「うん」

「いやいや、カラダは女ですよ」とサンキュー。「この前ハダカ見ましたからね。間違いないです」

「あ、うん。身体はオンナ」

「ですよね。びっくりした・・・」

「黙っててごめんね。お風呂は、やめとこっか?」

「え? いえ? 身体が女なら別にええんちゃうかと・・・妊娠させられるわけやないし」

「そっか」

「私もいいですよ。そうかー、男のコだったんですね。じゃあ誘惑してあげましょう、ふふふ」

「お、おてやわらかに」

 反応、終わりである。

「えっと・・・そんだけ?」

「そんだけとは?」サンキューのほうがきょとんとしておる。

「いや、他に何かないかなって」

 

 なかった。

 

 サンキューが「お風呂の準備して来ますね」と引き上げ、チャーネも部屋に引っ込む。

 リーモも、「部屋ありがとう」とお礼を言って、立ち去ろうとした。

「待て」

「ん?」

「戸閉めろ」

「あい」

 リーモ、ドア閉める。で、向き直ると・・・

 

 レーネが、仁王立ちしておった。

 

◆♀◆ 3、出てけ! ◆♂◆

 

「おまえさ、」

「・・・はい」

「私のハダカ、ずーっと見てたよね? 領主館で。風呂入ったとき」

 

「すみませんでした!!!」

 

 リーモ、土下座である。

 

「あのときはその、酔っぱらってて、レーネがすごく綺麗だったから、あのその」

「言い訳すんな」

「はい」

 リーモひれ伏した。完全降服のポーズ。

 しばらくそのままひれ伏しておると、隣に、ふわ~んと気配がした。

「私からも謝る。すまなんだ。許してたもう」

「女神さま・・・」

 

 なんと!

 リーモの隣に膝をついていらっしゃるのは、女神さま。

 勇気の女神ユークラネーさまが、膝をついて許しを乞うておられる!

 

 なんということであろうか。女神さまは、無関係だというのに!

 ただ13歳の少年をオンナにして、彼が女体を見つめておるのを止めもせず、レーネにも言わんかっただけで──

 あ、ダメですね。共犯と見られても仕方ありませんでした。

 

「おやめください」レーネが折れた。「お立ちください・・・女神さまは」

 俺はダメなんだね! リーモ、心の中で叫ぶ。

 まあいいか。ひれ伏したまんまだが、ハイエルフの美少女ナッタレーニェちゃんの身体はスマートでやわらかなので、苦しくはないし。レーネが怒ってるとき、なんか目がすごいギラギラして、恐いし。面と向かって睨まれるよりは、このほうがマシかもね。・・・などと考えておった。反省の足らん主人公である。

 いっぽう、女神さまは真面目に謝っておられた。

「許してやってたもう。我に近い姿に『しぼり込む』ことしかできぬのえ」

「・・・。」

「これをせねば、オンサレーンは死んでおった。そなたと会うこともなかった」

「・・・・・・。」

「その方が良かった。リーモなどこの世から消えてまえ──というのでなければ、どうか、許してやってたもう」

「・・・・・・・・・。」

 レーネは悩んどる様子である。

「もちろん、」と女神さま、付け加えた。「年頃の娘が肌を見られたこと、これは、怒って当然のこと。許せとは言わぬ」

「・・・ですよね」

「うむ。ハダカを見る、抱きつく、吸いつく、夜の秘め事をするなどは、『許せ』では済まぬことやと思うえ」

「・・・。」

「まして、太陽の神殿にその名も高き、ヨスベリューサニェーともあろう御方なら──」

「待て。こら女神」

「なにえ」

「顔見せろ」

「我が顔がどうしたかに?」

「──いつ入れ替わったァ!!!」レーネ叫ぶ。

 リーモ、思わず顔を上げた。

 女神さまを見る。

 茶色。

 女神さま、肌、茶色になっておる。して、ペロンと舌を出していらっしゃる。

 

 ──チェンジしておる!

 白い肌したハイエルフみたいな女神から、茶色の肌したダークエルフみたいな女神さまに!

 

「はて? 入れ替わるとな? 我もユークラネーやが?」

「サクラーネさま」

「うむ。よっこらしょ」

 『策略』のユークラネーさま。愛称、サクラーネさま。

 お立ちになられた。ゆさり、ゆさり。おっぱい、お揺らしになられた。うーむ・・・すごい!

「でっかくなったんだ・・・」とリーモ。「あ、もしかして、信者が増えた?」

「それもある。そやに、じつのところ、見栄を張っておる」

「みえをはる」

「チャーネが会いに来るに、小っちゃい頼りない姿ではがっかりするやろと、本体が気ィ利かしてくれたのえ」

「良かったね!」

 リーモも喜ぶ。レーネにジロッと睨まれたので、またひれ伏した。「すみませんでした」

「見た目だけは可愛いんだもんな。始末が悪い・・・」レーネがつぶやいておる。

「で、どうなんかに? ヨスベリューサニェーよ」

 サクラーネさま、攻撃開始である。

「言うておくが、ユークラネーは、穢れなき処女を好む神やえ」

「変態ミタイニ言イナ!」肩のとこに小っちゃい女神が出現した。「心外ナリ」

「あ、小っちゃいユークラネーさま」

「うるさいえ。2人ともお黙り。いま勇者を攻略しておるに」

「はい。がんばって!」リーモ応援する。太腿をレーネに蹴られた。「いてっ」

「──ユークラネーの巫女は、結婚すれば引退と決まっておる」

 サクラーネさま、つづけた。

「ところがリーモの場合、巫女をやめれば、男に戻ってまう。すなわち、死ぬる」

「えっ!?」リーモびびる。聞いてないよ!?

「きッ、聞いてないもん! そんな話」レーネも動揺した。「自分が男だと知ってて肌を見るのとはちがうでしょ? それに、私はちゃんと責任を取るつもりで──」

「責任。まさに。それが肝要(かんよう)」サクラーネさま、言質を取った。「巫女をベットに押し倒したこと、ちゃんと責任を取ってくれるわけやに? さすがは、ヨスベリューサニェー!」

「むぐっ」

「リーモよ、そなたも我が巫女として、勇者の肌を見た責任、ちゃんと取るべし」

「はい!」

「・・・。」レーネ、リーモを見る。真っ赤になった。すぐ目を逸らした。「出てけ!」

 

「ヤレヤレ!」

 小っちゃいユークラネーさま、肩の上でため息つく。

「問題ヲ、ヤヤコシクシオッテ!」

 

 ちなみに、リーモ。風呂には行きました。

 

「どうです? どうです?」

 と、ぷりっぷりに弾む肉体で迫ってくるサンキューに真っ赤になり・・・

「先輩・・・最初からそういう目で・・・」

 と、潤んだ目をして、意外とでっかいおっぱいを腕でキュッと押さえるチャーネにドキドキして・・・

 

 ちゃっかり、鼻の下伸ばしてきたのである!

 

◆♀◆ 4、父母に会う ◆♂◆

 

 翌日。

 リーモは、父母に会いに行った。

 目的は、チャーネの巫女修行である。よってチャーネは当然一緒である。

 また、勇気の女神は魔王に敵視されておる。巫女(2人とも)を無防備にはできぬ。今日の警備担当はレーネであった。よってレーネも一緒である。ふくれっ面しとるけれども。

「いてっ。レーネ、ごめんってば。いてっ」

 ・・・リーモのふくらはぎをネチネチ蹴っとるけれども。

「謝れば済むって思ってる?」

「思ってない」リーモ、きりっとした。「俺、責任取るから──いてっ」

 チャーネが茶色の肌を染めて目を逸らした。レーネのキックがちょっと強くなった。

 

 スメコットーとフタッカーニャの夫婦は、4階建ての3階に住んでおった。

 2階までが石造。3階からは木造になって、階段もギシギシいいよる。そんな3階である。

「ごめんなさいね。汚いとこで」

「いえいえ。お母さま、どうぞ、おかまいなく」

 フタッカーニャとチャーネがあいさつ。

 スメコットーは勇者に頭を下げた。

「勇者さま、こんなところへ。うちの息子──いや、むすm──あのその、ナッタレーニェが、迷惑をかけておりますでしょう」

「いえ。私も、彼──女の、巫女としての力 に は 助けられてますので」

 レーネが微妙な反応をした。

 それを聞いたフタッカーニャが、キッとリーモを睨んでくる。おっ母の目である。怒られる! と首をすくめるリーモであったが、その姿を見たおっ母、当惑し、目を逸らした。

 なので、リーモは自分で認めた。「うん。迷惑かけてる」

「ダメじゃないの!」「しっかりせんか」

「ごめん」

 そんな親子の姿。親と不仲のレーネ、孤児のチャーネが見つめている。

「・・・あ、紹介しなきゃね。こちら、ヨスベリューサニェー・ユリアーニェ。またドラゴン倒したんだよ」

「ユリアーニェさま。いつぞや、山の中では、本当にありがとうございました」父母、頭を下げる。

「どういたしまして」

「すごいドラゴンだったそうですな」とおっ父。

「でかかったですね。オンサレーンにも助けられました」

「そう言えば、あんたも出てたわよ」とおっ母。

「え、俺?」

「勇者がドラゴンと戦ってる隙に、腹心の巫女ナッタレーニェ、魔弾に倒れる! って」

「そっかぁ! えへへ」

「あんた、大丈夫なの?」

「あ、うん。女神さまが治してくれた。跡形もないよ」

「そう・・・」

「──で、こっちが巫女の修行するクェルデンチャーネ。ついこの前まで奴隷だった。がんばって生き延びて、いまは自由の身」

「話は聞いたよ。よく生き延びた。よくその血を守ったな」

「うちの村の流儀になるけど、私が知ってることは全部教えたげる。持って帰って、あなたの子供に伝えてね」

「はい!」

 

 こうして、チャーネの修行が始まった。

 リーモのおっ母は、筋金入りの巫女である。おっ母も、おっ母のおっ母も、そのおっ母も、ユークラネーさまの巫女だった──っちゅう家系の女である。学はないが、しきたりにはうるさい。リーモもよく怒られた。

「チャーネ、修行がんばってね」

「あんたもやんのよ!」

「あい」

 こんな感じである。

 

 壁に掛けられた、小さな小さな神棚の前。リーモとチャーネが正座する。後ろにレーネ。

 父母は結婚しとるので、間仕切りの向こうである。

「女神さま。変なお時間ですが、今日のあいさ──ごあいさつに来ました」とリーモ。

「本日は、ナッタレーニェとクェルデンチャーネがご一緒いたします。お水はいかがですか?」とチャーネ。

 すると。

「うむ・・・」

 サクラーネさま、御降臨である。

 小っちゃな神棚の上、天井くっつきそうな狭い空間に・・・土下座したみたいなポーズになって。

「あ、ごめん。狭かったね」

 リーモたち、あわてて下がった。レーネと並ぶ形で女神さまを迎える。

 ふわ~ん。女神さま、降りてきて、「よっこらしょ」あぐら組む。水呑む。

「さて、チャーネに言うておく」

「はい」

「リーモは、しきたりとかはメチャクチャやが、『勇気』が認めた巫女。そのこと、よう考えてみるべし」

「はい」「すみません」

「いっぽう、そなたは巫女の長にしてアズダーションの代官となる。作法でもって、武装もせねばならぬ」

「はい。作法をしっかり身に着けて、ケチつけられんよう、身を固めます」

「うむ。隙のない立ち回りは、レーネからも学べよう。1日も無駄にせず、よく考えて生きるべし」

「はい!」

 

 初回の修行は、1刻(約2時間)で終わり。

 みんなでお昼を食べに行く。

 人目を避けれる、高級店。レーネが予約してくれた。お代はリーモが全部持つ。

 レーネが北国での話をして、チャーネやサクラーネさまのことを伝える。

 そこから話が広がって、魔王や海賊の話題となる。

 ・・・すると、リーモのおっ父・スメコットー氏が、こんなことを言い出した。

「じつは、若い頃、“片目”と同じ船に乗ったことがあってな」

「え」リーモびっくりする。「おっ父・・・海賊だったの・・・!?」

「ちがうわ! そん時はまだ、ヤツは海賊じゃなかったんだ。片目でもなかった・・・」

 おっ父の話はこうであった。

 

 「ヤツは──ヒーウシナッキは、水夫として船に乗ってきた。

  そして、手下を作り始めた。カネをチラつかせ、逆らう者は脅して、船員を抱き込んでいったんだ。

  俺は断った。ヤバいヤツだと思ったんでな。船長にも忠告したよ。

  ところが、船から下ろされたのは、俺のほうだった!

  あの時はみじめだったな。

  食うのにも困って、海の神殿に転がり込んで、下働きをさせてもらった。

  俺がおかしいのか? と、ずっと悩んだよ。

  船長が殺され、船が乗っ取られたと聞いた、その日まで、ずっとな」

 

「聞いたことがあります」とレーネ。「“片目”は、交易船を乗っ取って、海賊を始めたと」

「まさにその事です。“片目”は、手下を操るのが本当にうまかった・・・」

 スメコットー氏は首を振った。

「片目ってより、“仲間の悪魔”とでも呼ぶべきヤツですよ、あいつは」

 

 その帰り道のことであった。

 レーネが、「私も親に会って来ようかな」と言い出したのは。

「ん?」

「チャーネには言ってなかったけど、私、親と仲良くないんだ。何年も会ってない」

「そうでしたか」

「そろそろ決着つけないとなと思ってさ」

「決着?」リーモは不穏に思った。「・・・どうする気だよ」

「え? ああ、ちがうちがう。ちゃんとするってことだよ。正式に親を保護するんだ」

 レーネはリーモを見て、ちょっと赤くなって、前を向いた。

「リーモを見ててね。立派だなと思ったのさ」

「俺が?」

「両親にお昼奢ったじゃんか、今日」

「レーネのおかげだよ」

 ナダラカンの領主さまからも、豚飼いの領主さまからも、金をもらった。女勇者が一緒でなければ、こうはいかない。

「いやいや。勇気の巫女には、それだけの価値がある。・・・、」

 レーネはチャーネを見て、ちょっと言い淀んだ(いいよどんだ)。

 ・・・で、悪ふざけした。

「なんせ、魔王に名指しで『殺す』って言われるオトコだもんな!」

「うー・・・んむ」

 リーモ唸る。レーネ肘打ちする。それから、ちょっと真面目な顔になって、

「チャーネ。あんたも気をつけなよ」

「はい」 

 茶色の手が、リーモの袖をギュッと握ってきた。肩をさすって落ち着かせてやる。それから、

「レーネ」

「えっ!?」レーネの声が裏返った。「な、なに?」

「俺で良ければ、一緒に行くよ」

「あ、そ、そうだね!? ・・・ええと、チャーネの護衛は、ガンバに出してもらうから。1泊で帰ってくる」

「ごめんねチャーネ」

「はい」チャーネは健気にうなずいた。「ちゃんと連絡を取るのは、ええことやと思いますから」

 

◆♀◆ 5、サンキュー、連絡を取る ◆♂◆

 

 それから、少し日が経って。

 ゼナルジーコの宿。朝である。

「おはようございます」サンキューが降りてきた。

「サミーニャお嬢さん。手紙を預かっとるよ」

「あら? ありがとうございます」

 サンキュー、宿のあるじゼナルジーコから、手紙を受け取った。

「レモン茶頂けますか?」

「あいよ」

 テーブルにつく。防水用の筒を開け、巻紙を取り出す。

 ナダラカンでも売られている、羊皮紙であった。くるくると開けて、中身を読む。

「ふむふむ・・・」

「はいよ、レモン茶。そろそろ時間ですし、朝飯もご用意いたしますか?」

「そうですね。お願いします」

 爽やかなレモンの香りを楽しみつつ、「えーと・・・」

 

『サンキューへ、手紙読んだぞ。招待はまだか?

 手紙は時間がかかりすぎるので、そちらへ行く。

 22日に、女勇者の故郷の岬の沖で待つ』

 

「・・・相変わらず御自分で動いちゃうんですね」

 サンキューは首を振った。

「えーと、22日。え? あれ? ちょっと待ってくださいよ。ご主人! 今日は何日でしたっけ?」

「22日だが」

「今日じゃないですか!?」

 飛び上がるサンキュー。

 そこに、3人娘が降りてきた。

「ほな、行ってらっしゃいませ」とチャーネ。

「お土産買って来るからね」とリーモ。

「うちの村にそんなもんないよ」とレーネ。

「あらら? お出かけですか?」

「うん。ユークランベ行ってくる」

「ユークランベ・・・レーネさんとこの?」

「そうだが?」

「あー! ちょうどよかった! 私もそっちに行かなきゃいけなくて」

「うそつけ」

「いや本当に。故郷の船が、そっちの沖合を通るって手紙が来まして」

「うそつけ」

「ホントですってば」

「なら手紙見せろ」

「ダメです」

「な?」レーネ、リーモに『こういうヤツだ』のポーズする。

「やだなー! 『おまえはどうしようもなく有能だ』って褒めてくださったじゃないですかぁー」

「そんなこと言ってない」

「それはともかく、」サンキュー、受け流した。「すぐ用意しますんで! すぐ!」

 

◆♀◆ 6、海賊が来たよ ◆♂◆

 

 結局、3人で行くことになった。

 シャケは留守番である。誘拐同然に連れ出したから、見られるとこじれる。女勇者さま、こういう策略は平気であった。

 昼前に、漁村を見下ろす岬の高台に到着する。風が止まって、少し蒸し暑いお昼になった。

 この岬で弁当を食べてから、村に入る予定であった。

 サンキューは「お魚捕ってきます!」と、小さな三叉槍手にして海に飛び込み、本当にでっかいの仕留めて帰ってきよった。しかも、捌くのもうまい。凸凹した石の上で、小っちゃいナイフ巧みに振るい、美しい白身を切り出してみせた。

「綺麗な身だね。おいしい!」

「これは鱸(すずき)。夏が食べ頃なんですよ」

「へえー」

「よく無事で戻って来たな」レーネ、切り身をもらい、お返しに団子を分けながら言った。「よそ者がモグモグ密漁したらモグモグ、タダじゃ済まんのだが」

「先にモグモグ言ってくださいよ、そういうのモグモグ」サンキューちょっと引く。「そう言えば、漁船は途中で一斉に帰っちゃいましたね」

「何かあったのかな」とリーモ。

「・・・そのようだ」レーネは立ち上がった。「火を消せ。海賊だ」

 

 小型ガレーが2隻、快速でこちらに迫っておった。

 

「うわあー!」「ぎゃああ、海賊!」「死ぬ、死ぬ、助けてくれ」「お母ちゃーん!」

 ガレー2隻は、快速のまま浜辺へ突っ込んで、乗り上げた。

 武装した海賊どもが、蜘蛛の子のごとく、ぴょんこぴょんこと飛び降りる。砂浜を蹴立てて、村人に襲いかかる。

 漁村ユークランベも無抵抗ではない。漁師どもが、魚捕りのごっつい網をブン回し、海賊に叩きつけ、ひるんだところを寄ってたかって突き刺しておる。サンキューが使っとったような槍や銛(もり)で、海賊を刺すんである。

 だが海賊の勢いは止まらない。何より、防具がちがった。兜に鎖かたびらや青銅の胸当て着けとる海賊に対し、漁師はフンドシ一丁か、せいぜいが麻の着物を引っ掛けとるだけ。これでは分が悪すぎる。

 そこに、レーネが飛び込んだ。

 海賊を1人切り倒し、襲われていた漁師を助け起こす。銛を拾って投げつけ、いまにも捕まりそうになっとった若い娘を助け出す。娘は顔見知りなのか、「リーアーニャ?!」とびっくりしておった。その娘に「宿へ逃げ込め!」と言っておいて、

「ヨスベリューサニェーがやって来たぞ!」

 海賊どもに宣言した。

「海賊よ、我が故郷を襲うというのなら、生命をなくす覚悟をせよ!」

 

《我らは守る! 故郷の道々!》

 

 鳴り響く声。

 レーネの足元が盛り上がって、城壁となる。

 砂の城壁!

 サラサラと崩れながらも不思議と堅固なその壁は、路地をふさぎ、海賊をはばんだ。

「・・・ナダラカンの小娘だァ!」「話がちがうぜェ!?」

 海賊ども、悲鳴上げる。ケツをまくって、逃げ出した。

「逃げろ逃げろォ」「大王も敵わねえアマっこだァ」「やってらんねー!」

 砂の城壁から、海賊どもの退却を見届けたレーネ。《声》で城壁を元に戻し、村を見て回る。

 すると。

「助けて! 誰か、誰か、うちの人が」

 黒髪をバラバラに振り乱す、中年の女と遭遇した。

 レーネと出会い頭にぶつかって、お互いを見る。

「・・・誰を助けろって?」とレーネ。

「ひ、ひぃッ!? あんた!」

「レーネ!」リーモとサンキューが悲鳴に駆け寄ってきた。「その人は?」

「うちのおっ母」

「ひッ」

「おっ父がどうかしたのか」

「そ、それは、か、海賊に斬られて」

 レーネの母に言われて、路地に入る。

「ハァハァ。ゲボゴボ」

 中年の男が、血まみれで倒れておった。

 血のあぶくを吐くその男。リーモは、見覚えがあった。

 以前この村に来たとき。老犬シャケを杖で叩いた男だ。──レーネの父であった。

 

◆♀◆ 7、レーネ、けつべつす ◆♂◆

 

「どうします?」

「・・・。」

 父が死にゆく姿に、レーネは立ち尽くしておる。サンキューの問いにも反応しない。

 そんな女勇者を横から見て、リーモは──

「レーネ」

 右手を、彼女の腕に、そっと乗せた。

 白い光。『勇気を授ける』。

「・・・!」

 レーネが目を覚ましたようにリーモを見る。

 いつもの水色の輝きを取り戻した目で、うなずき、サンキューに顔を向けた。

「 そ の 男 を助けてやってくれ」

「かしこまりました」

 

 漁村ユークランベは、海賊の襲撃を乗り切った。

 勝ったのは女勇者のおかげだが、被害が少なかったのは、必死に抵抗した漁師どもの手柄であった。漁船が一斉に引き上げたのも、おらが村を守るため慌てて帰還したということであった。

 リーモとサンキューはめっちゃ感謝され、ついでに口説かれ、ついでに乳だの尻だの撫で回されながら、宿屋で待っていた。痴漢は、サンキューが宿の外まで蹴っ飛ばした。なんかサンキュー、戦闘員ではないと言うとったはずだが、キック力はものすごかった。

 しばらくして、レーネが合流する。

 置いてきた荷物を取りにゆくため、いったん岬へ引き返す。その道すがら、レーネがこんな話をした。

「村長と、うちの両親と、話をつけてきたよ」

「そっか」

「意外と簡単だった。村長は、うちの親にうんざりしてたみたいでね。『太陽の神殿に申し訳ない』って言ってたよ」

 

 レーネの両親は、娘が魔物だと思い込んで、海に流した。つまり殺人未遂犯である。

 だが、裁かれる見込みはなかった。レーネにそのつもりがなかったし、ここの裁判権を握るナダラカンの領主さまも、この汚点を利用してユークランベを黙らせるほうを選んだからである。

 

「海に流されたことは忘れない。でも、親は親だから、養うつもりだ。って言ったら、村長ホッとしてたよ」

 レーネは岬に置いて行った荷物を拾い上げ、砂をはたいた。

「来て良かったよ」

「そっか」

「ありがとうリーモ。サンキューも。おまえがいなければ、死人が何人も出ただろう」

「いえいえ!」

 

 荷物を拾って、ふたたびユークランベに入る。

 ・・・ところがレーネがついて来ない。途中で立ち止まり、1人ぼーっと岬を眺めておる。

「何してんだろ?」

 リーモ、首をひねる。その背中が、ぽんぽんと叩かれた。「1人にしちゃダメですよ」

「え?」

「行ってらっしゃい」サンキュー、ウインク。「私は、ちょっと泳いできます。夕方には戻りますので」

「あ、うん。気をつけてね」

 レーネのとこへ登る。

 何も言わないうちから、彼女は話し始めた。

「リーモ。・・・オレーって呼んだ方がいい?」

「リーモでいいよ。女神さまとレーネにもらった名前だから、愛着あるんだ」

「へへっ」彼女は笑った。赤くなって、目逸らす。「・・・私はさ、子供だったんだ」

「レーネが、子供?」

「そう。自分でもわかってなかったけど。どっかで、元に戻れるって思ってたみたいだ」

「もとにもどる」

「いつか、おっ父とおっ母に『よしよし、よく帰ってきたね』って言ってもらえるって」

「レーネ・・・」

「私は、訣別した」

 彼女は振り向いた。

 その瞳に、水色の光がギラギラと輝いている。

「もう子供じゃない。今度は、私がおっ母になるときだ」

「うん」

 リーモはうなずいた。

「俺さ、レーネ」

「・・・なに?」

「俺は、レーネが好きだ。男に戻れたら、結婚してくれ」

「戻れたら、かぁ。それじゃなぁ・・・?」

「いやあの、えっと、」リーモ、真っ赤になる。「必ず、男に戻ってみせる。だから、俺と結婚してくれ」

「婚約を『ダメ』って言ったのはそれ?」

「うん。あのときは酔ってて、ごめん。でも、本気だから」

「わかった。考えとくよ」彼女は赤くなりながらほほえんだ。「・・・ハダカ見たのは許さないからな?」

「すみませんでした」

「許さないもんね!」

 

◆♀◆ 8、そのころサンキューは ◆♂◆

 

 若い2人が人生の岐路(きろ)に立っておった、そのころ。

 サンキューはどうしとったかと言うと、彼女もまた、重大な岐路に立たされておったんである。

 

「セイラッキルーネ・サンキュッシニーモ」

「はい」

 どぷーん・・・とぷーん・・・。

 波に揺られつつ。

 胸から上を海面に出して、見事に立ち泳ぎするサンキュー。

 その頭上にそびえ立つのは、黒い影。

 足先だけ銀色の、巨大な黒馬。

 波の上に立つ、超常の馬!

 他ならぬ、魔王の乗騎であった!

 そして、その馬上からサンキューを見下ろすのは、もちろん──

「そなたを送り出したのは、女勇者を招待するためであった」

「はい。陛下」

 

 ──魔王、クレッヂマネー! そのひとであった!

 滄溟(そうめい)たる髪をなびかせて、青い瞳で冷たく見下ろす魔王。

 あらゆる軍隊を打ち破り、何万人もの人間を殺してきた、殺戮の女王である。

 

 その女魔王が、肩になんかでっかい・・・サンキューの身長よりもでっかい・・・絨毯(じゅうたん)? を、担いでおる。

 いや・・・なんでですかね? 絨毯担いでるんですよね、魔王。なんでそんなもの担いで来たんでしょうかね。まあ、すぐにわかることなので、いまはいいとします。

 

 とにかく、魔王そのひとであった!

 炎も凍てつく氷の瞳。その瞳の主が、サンキューに浴びせた言葉は!

 

「そなたが女勇者といちゃつくところ、水晶玉で見せつけられる我の気持ちがわかるか?」

 

 嫉妬の言葉であった。

 

「えー・・・、陛下。恐れながら、私に女色の趣味はございません」

「知っている」

「えーと、女勇者を、あっすみません、女勇者さまと親交を深めているのは、招待のためでして」

「わかっている」

「陛下に、少しでも女勇者に近付いて頂けるようにとの、必死の工作でございまして」

「それがどうした」

「え?」

「そんなことはわかっている」

「はい」

「だが黙ってはおれぬ。そなた、ずるいぞ」

「は・・・ごもっともです」

 サンキューは顔を下げた。ばしゃあ。波が顔面に砕ける。ブクブク。

「わかればよい」

 魔王陛下、肩に担いどった絨毯(?)を、ばっと空中に広げた。

「そこをどけ。絨毯をしく」

「はっ!」

 広げてから『どけ』と言う。このへん、もうちょっとどうにかして欲しいんですけどねー・・・と思いつつ、サンキュー、素早く縦回転。とぷーん! 小っちゃな水柱だけを残し、水中へ。美しい足ヒレがグイグイっと動くのが見えた。

 そこに、絨毯が着水!

 ──せんかった。

 絨毯。水に漬かることなく、波の上に浮かんだ。水に漬かることも、濡れることもない。

 海に浮かぶ魔法の絨毯なのであった。

 魔王、そこに飛び降り、足伸ばして、座る。

 ざばー。サンキューが波間に出て来た。

「乗れ」ぽんぽん。魔王、絨毯叩く。

「では失礼して」

 

 滄溟たる髪持つ女魔王。魔法の絨毯にて、くつろぐ。

 ピンクの髪(いまは濡れて紅色に見える)したセイレーン。足ヒレをしとやかに折り畳んで、隣に座る。

 魔王の騎馬はどっか行った。会話に参加する気はないようである。

 

「時は来た」魔王、左手をめくってみせる。

「どれどれ? あら。傷も残ってませんね」

「うむ。完治した」

「では、また御自身で動かれるので?」

「うむ。今日は娼館に寄って、それで帰るが」

「はい?」

「娼館に寄ってゆく」

「ちょっと待ってください? 娼館? ナダラカンの?」

「うむ。我、お得意さんなれば」

「そんな・・・」

 サンキュー、よろめく。

「『時が来た』とは、娼館に行く時のことで・・・?」

「ちがう」

「ですよね! では一体?」

 

 ──次に飛び出した一言に、サンキューは心臓が止まる思いをした。

 

「ナダラカンを滅ぼす時が来た」

「・・・え?」

「ナダラカンを滅ぼし、リーモを殺し、リーアーニャを手に入れる」

 魔王はうっすらと笑った。

「そなたは沖に出ておれ。津波に巻かれれば、そなたでも死ぬ可能性が高い」

「津波・・・女勇者も死ぬ可能性がありますが」

「反乱が起こる。ナダラカンの東──つまり、向こうで」

 魔王は、ユークランベとは逆、ナダラカンの向こう側を指した。

「また海戦になる。女勇者も迎撃に出るだろう。出なければ、私が釣り出す」

「・・・。」

 サンキューは慎重に考えてから、意見を述べた。

「すべてがうまく行ったとして、女勇者さまは、陛下を殺そうとすると思いますが」

「サンキュー。そなたには愛情があり、力がない」

 魔王は冷たい眼をしてほほえんだ。

「よって、そなたにはわからぬ。力を持ち、誰にも頼る必要のない者の考えは」

「それが・・・陛下の狙いだったのですか? 女勇者さま以外、すべてを滅ぼすというのが。そのために彼女を・・・?」

「いや? 素直に妻になってくれるならそれでよい。勇気の女神だけはダメだが」

「なるほど。ただ、リーモを殺してしまうと、レーネは──」

「レーネ」

「あ、女勇者さまの愛称で、」

「愛称」

「えっ・・・・・・とォ・・・、」

 

 サンキュー、岐路に立つ!

 女勇者以外、全部殺すわ。──などと宣う(のたまう)魔王の前で、女勇者を愛称呼びしてしもうた!

 冷たい視線! 心臓にグサリ!

 え、ちょっと待って。私も殺される側? もしかして陛下、私のこと邪魔になってきてる?!

 ──助けてレーネさん! 私、魔王に殺されてしまいます!

 

 心の中で悲鳴上げるサンキューの耳に・・・

 

《♪~~~》

 

 ・・・救いのハミングが聞こえてきた!

 

「あ、勇者さまが何かやってますね」

「なに?」

「《声》が、かすかに。私たちが地形チェックするときみたいな感じの」

「──地形!」

 魔王、ハッとする。

「いかん。サンキュー。いますぐ勇者を妨害しろ」

「かしこまりました。しかし、なぜ?」

「ここの岬に沈んでいるからだ。我が宿敵が。引き揚げさせてはならぬ。気付かせてもならぬ」

「了解しました! では、ついでに招待もします! 3日後に成果を持って戻りますので、楽しみにお待ちください!」

「え? あ、うん」

「それまでは、攻撃をお控えくださいますよう! それでは~」

 とぷーん・・・!

 サンキュー、魔王に一滴の水もかからぬ、見事な飛び込み。

「あ、いや、ちょっと待て」

 魔王の声すら、もう聞こえない。聞こえませんからね! との意志、背中で表わして、速やかに泳ぎ去るのであった。

 

◆♀◆ 9、岬の声 ◆♂◆

 

《♪~~~「お魚が捕れましたよ!!!」》

 

 レーネの《声》を打ち消すような大声で、サンキューが怒鳴った。

「うるさい!」レーネキレる。声も途切れた。「なんだおまえ、いきなり」

「お魚がですね! あっ!? ・・・逃がしちゃいました!」

「うそくさ」

「ホントですって、ホントホント。お魚だって必死で逃げるんですよ」

 ざばー・・・。

 びっしょり濡れて、ぺたんこに張りついた布一枚で、サンキューは海から上がってきた。

 布はぺたんこだが身体はムチムチだ! うへへ! ──となったリーモの視界が、手でふさがれた。「あれ。見えない」

「あっち行け」リーモの目をふさぎながら、レーネ。「静かにしてろ」

「あっ、いえ、それがですね! 聞いてくださいよレーネさん!」

「うるさいな!」

 

 そこは、岬の下であった。

 断崖絶壁となった岬の、海面のあたりに広がる岩場である。

 漁師の奥さんたちが海草や巻き貝を集めるところ。今日は海賊の襲撃があったので、誰も居らんけれども。

 そんなところで、何をしとったかっちゅうと・・・

 

「なんか聞こえた気がしたんだよ」とリーモ。「たぶん、女神さまの声だった」

「・・・女神さまですか」

 サンキューの背中を、冷や汗伝う。

 この子、もしかして天才では?

「うん。それで、ここにも洞窟があるんじゃないかって」

「・・・なるほど、洞窟!」天才ではなかった。ちょうどいい。そう誘導しよう。「それはあるかも! うん、あるかも知れませんね!」

「うるさいよ。おまえ、おかしいぞ。なんかあったのか?」

「おかしいですかね! ・・・まあ、故郷の船が、影も形もないってのはありますね」

「それは心配だね」リーモ、簡単に信じた。「海賊を見て引き返したのかな?」

「だったらいいんですけどね」

 

《♪~~~》

 

「あっ、レーnむぐぐぐ!」「うわー」

「2人ともおとなしくしてろ」

 右手でリーモの目を、左手でサンキューの口をふさいで、レーネはハミングを続ける。

 その成果は?

「・・・うーん、ここはただの岩壁だな」

「そっか。なんか、声も聞こえなくなっちゃったよ」

「帰るか。そろそろ満ち潮だしな。大潮も近いし、ここは完全に沈むぞ」

「むぐぐ?」

「そうだよ。おまえが岩にでも打ち上げられて、くたばってたらな。私も警戒しなくて済むんだが」

「ひぐむ」

「レーネ、目放して。歩けない」

「じゃあ前を歩け。絶対に振り向くな。落っこちるとしても、前向いて落っこちろ」

「ひどい」

 

 で、翌日。

 そろそろ帰ろうか・・・と、宿を出たところで、一行は昨日と異なる風景を見た。

 岬の上に、人が集まっとったんである。

「あー、今年はアレの年か」とレーネ。

「あれって?」

「慰霊祭。ずっと昔、魔王に沈められた船の。3年に1回、海の神殿が来てやってくれるんだよ」

「へえー」

「知りませんでした」

「小さなお祭りだからね。知らないのも無理はない。──あ、そうだ。海の神殿と言えば、リーモ」

「あい」

「小姓くんにまだお礼言ってないだろ? もしかしたら、来てるんじゃないか?」

「あー! オンサレーン・・・は俺だ。オンフレ・・・なんだっけ?」

「可愛い小姓くん? オンフルーンだよ」

「・・・じゃあ俺、ちょっと先に行ってくるよ。小姓くん来てたら、お礼言っとく」

 

 テケテケテケ・・・。

 坂道を駆け上るハイエルフの美少女。

 その彼女に、いち早く気付いた少年(?)がいた。

 

「・・・あのエルフ!!?」

 慰霊祭の準備でお手伝いをしておった、小姓くんである。

 まさにリーモが会いに行こうとしとる、その彼(?)。リーモの姿に気付いて、あわてふためく。

「ちょちょちょ、ちょっとその、すみません、席外します!」

「あ? なんだ? なんかあったのか、オンフルーンよ」下働きども、不審がる。

「いやその、あのその、うんこ!」

「馬ァー鹿」下働きども、笑う。「ゆっくり行ってこい」

「ごめんね!」

 小姓オンフルーン。短く刈った黒い髪をフワッフワッと波打たせて、街道沿いの木陰に消えた。

 ハァハァ。息を切らせつつ、岬の様子を覗き見る。

 ハイエルフの美少女がやって来た。なにか訊いて回っておる。下働きがこっちを指差したので、「ひっ!」となって隠れる。

「やっぱり僕だ。僕を探してる。どうしよう」

 木に背中を預け、両手で顔をふさぐ。

「ここで会ったら・・・おしまいだ!」

 

 小姓オンフルーン。正体は、女の子。

 我らが主人公ナッタレーニェ嬢を、浜辺で助けた。そのお礼を言われる立場である。

 なんで逃げ隠れするんかと言えば・・・

 

「会っちゃったら、ゼナルジーコの宿に行く理由がなくなる。ガンバットリャンニさまに会えなくなる」

 ・・・という理由であった。

「くそ、あのエルフ。なんでこんなとこに? 疫病神かなんかなの?」

 葉っぱに隠れてチラッと覗く。

 すると、なんとしたことか!

 女勇者らしき人物に、ピンク色の髪した女まで、新たに加わっとるではないか!

「あのピンク! ガンバさまとイチャイチャしてたヤツ!」

 騒ぎが大きくなってゆく。

 ついに、司祭さまが対応する事態に。

「ああ、もうだめだ・・・司祭さまに呼ばれたら、さすがに出て行くしかない。ああ、ガンバットリャンニさま・・・」

 へなへなと座り込む。

「あんな立派な方と知り合うなんて、やっぱり、無理だったんだ・・・」

「オンフルーン?」司祭さまの声がした。

「はい・・・」がっくりうなだれて出て行くオンフルーン。

「大丈夫ですか?」

「はい。すみません。お仕事中に」

「それはいいのですが。あなたに会いたいという人が来てますよ。例の、ナッタレーニェさん」

「あ、はい・・・」

 とうとう、年貢の納め時・・・。

 覚悟したオンフルーンに、予想外の声がかけられた。

 

「ニモ?」

 

◆♀◆ 10、お兄ちゃんだよ! ◆♂◆

 

「・・・はい?」

「ニモ。ニモだよね?」

 ハイエルフの美少女が、こっちを覗き込むみたいにして見てきよる。

 え? なんなのいきなり? 小姓オンフルーン、めっちゃ警戒する。「・・・ちがいます」

「え・・・。でも」

「ちがう。知らない。そんな人」

 司祭さまの影に隠れる。司祭さまがかばってくれた。

「お礼という話だったのでは?」

「あ、いやその、」ハイエルフの可愛らしい声がする。「妹、あのその、知り合いの妹に似てたので。アネナニモーっていう」

「・・・はあ」司祭さまも警戒したようである。「この子はオンフルーンと言いまして、男の子なのですが」

「あ、そうですか。ごめんなさい」

 ハイエルフが引き下がった。

「えっと、急にごめんね? 俺を助けてくれて、ありがとう。なかなかお礼言えなかったけど」

「いえ・・・」

 もういいんだよ。お礼なんて。

 おしまいだ。おまえのせいで! なにもかも!

 なんだよ俺って。どっかのお兄みたいな言葉使いしやがって!

 ──と、心の中で罵りまくっとるオンフルーンに、ハイエルフはこう言うてきた。

「今日は偶然で、お礼、持って来てないんだ。今度、もしよかったら、一緒に食事でもどうかな」

 なんと。

 ハイエルフの美少女、海の神殿の美少年を、食事に誘うの巻!

「おおっと?」「こりゃいいや」下働きども、盛り上がる。「大胆だな」「さすが勇気の巫女。度胸あらァ」

「いいね。私もご一緒したいな」

 と、女勇者さまの声。

「ゼナルジーコの宿で待ち合わせして、みんなで食べに行こう。予定が会えばフタッカーニャさんも呼んでね」

「・・・え?」オンフルーンくん、顔上げる。「いま、なんて?」

「ゼナルジーコの宿で待ち合わせ」と女勇者さま。「フタッカーニャさんも一緒に、できればね」

「フタッカーニャ・・・」

 オンフルーンは、司祭さまと顔を見合わせた。

「うちの信者とお知り合いで?」と司祭さま。

「あ、うん」とハイエルフ。「ユーコビンラのスメコットーとは、昔からの・・・えっと、村の再建の相談で忙しくて、神殿に行けないって言ってた。そう言えば」

「あの、」オンフルーンくん、顔を出す。「オレーって知ってます?」

「オンサレーンね? うん」ハイエルフはうなずいた。「あいつのことは詳しいよ、俺」

 オレーとしか言ってないのに、オンサレーンと当ててきた。

 司祭さまと、また顔を見合わせる。

「・・・ニモだよね?」ハイエルフがもう一度確認してきた。

 オンフルーンくん。

 うなずいて、こう答えた。「うん」

 

「ニモ・・・!」

 リーモは、もう、うれしくてたまらぬ。

 久しぶりの妹の顔! それも、元気に生きた姿で!

 思わずその場で「お兄だよ!」と言いかけたほど。場所を変え、人払いして事情を話すまでの、もどかしかったこと!

 妹よひさしぶり! お兄だよ! そう言って抱きつきたいのをどんなにこらえたか・・・!

「良かったね、ホントに」レーネも笑顔であった。「どう? アネナニモー。これ、お兄ちゃん」

 

 妹が放ったひと声は、

 

「きもちわるっ」

 

 であった。




※このページの修正記録
2024/10/06
「サンキュー、連絡を取る」
 地名まちがってました。女勇者の故郷はユークランベです。
  > 「うん。ユーコビンラ行ってくる」
  > 「ユーコビンラ・・・レーネさんとこの?」

2024/09/27
「父母に会う」
 同じ箇所をもう一度修正。↓から8行。
  > 「レーネのおかげだよ」

「父母に会う」
 後半の、リーモとレーネの会話がわかりづらかったので、↓から8行、書き直しました。
  > 「レーネのおかげだよ。領主さまに、いっぱいお金もらえてさ」

2024/09/23
「父母に会う」
 打ち間違いしたところを少し変更して修正。
  × 「そうなんえすよ。“片目”は、手下を操るのが本当にうまかった・・・」
  ○ 「まさにその事です。“片目”は、手下を操るのが本当にうまかった・・・」

2024/09/22
「そのころサンキューは」
 文章の流れがおかしかったので、↓の下2行を削除、サンキューのセリフ1行に変更しました。
  > 「『時が来た』とは、娼館に行く時のことで・・・?」
  > 「ちがう」
  >  魔王。言葉足らずであった。
  >  頭はとてもいい人なのだが、あまりに強すぎて・・・
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