◆♀◆ 32、勇気の女神にオンナにされた ◆♂◆
戦も終わった、秋のある日。
深い森の中にある、大きな縦穴のそばに、3人の若者がやって来た。
「初めて見たよ」
「ごっつい(すごい)穴ですね。恐いわぁ」
女勇者レーネと、ダークエルフの巫女チャーネ。
「ここから落っこちたんだよ」
そして、我らが主人公、オンサレーン少年(人間♂)である。
3人の目の前には、穴に流れ落ちる滝がある。ゴオオオオ・・・と、地響きがしておる。
「あの滝の裏に、洞窟があるんだ。降りよう」
そこは、勇気の女神ユークラネーさまの滝壺であった。
「──女神さま、いる? オンサレーンだけど。入っていい?」
すると・・・
「ゆるす」
ふわ~ん・・・。
チャーネの背後に、ダークエルフっぽい女神さま、御降臨なさった。茶色の肌、白い髪、おっきなおっぱい。
宙に座り、足組み、人指し指で『GO』の合図する。
「サクラーネさま」とオンサレーン。
「なにえ」
「ここ、サクラーネさまの洞窟じゃないからね?」
「そなことわかっておるえ!」『策略』の女神、キレる。
「私からも、ゆるす」
ふわ~ん・・・。
レーネの背後にも、ハイエルフっぽい女神さま、御降臨なさった。
こちらは、『仲間』のユークラネーさまである。淡い色の肌に、不思議に青みを帯びた黒い髪。
「我らの性格からして、『なにをモタモタしておった!』となっておるにちがいなし」
「うむ。とっとと入るべし」
「んじゃ・・・お邪魔しまーす」
オンサレーン。人生2度目の、禁制地侵入であった。
水しぶきをくぐり、ひんやりとした洞窟に入る。
冷えた空気は、奥にゆくに従って、ふわ~ん・・・とゆるんだ。
「ええとこですね」とチャーネ。
「でしょ? ──あれ、サクラーネさまは?」
「ウチの女神さまは、洞窟は・・・」
「あ、まだダメなんだ」
やがて。
宝箱の置いてある、小さな洞窟にたどり着いた。
「女神さまー。いる? オンサレーンです」
すると・・・
ふわ~ん・・・。
空中に、光り輝くハイエルフっぽい女神さまあらわる!
勇気の女神ユークラネーさま、御降臨である!
「あなや。そなた、生きておったのか」
「うん。ユークラネーさまは、大丈夫?」
「うむ」
空中をふわ~ん・・・とやってきて、女神さま、オンサレーンの周囲をぐるっと回る。
「問題なさそうやに?」
「うん」
「大丈夫やえ」と、レーネの背後のユークラネーさま(仲間)。「1カ月ほど生活をしたが、違和感ないとのこと」
それを聞いたユークラネーさま(本体)。
「・・・1カ月やと?」眉上げる。
「そのぐらいだね」
「なにをモタモタしておった!」
で。
「オレーよ」
「なに? 女神さま」
「私からひとつ、そなたに求めたいことがあるのやが」
「うん。なんでも言って!」
「なんでもええんかに?」
「ええよ!」
「では、」
勇気の女神。左手で腰の剣押さえ、右手をこっちにまっすぐ伸ばし、手の平ぱっと開いて──
「いまいちど、先祖に帰れ」
「え?」
気付いたときには、オレーは仰向け。頭はレーネの太腿の上。髪を優しく撫でられておった。
「・・・あれ?」
「ひさしぶり、リーモ」とレーネ。
「え?」
がばり。
少年起きる。マントずれる。上半身、あらわになる。
乳がふくらんでおる!
「リーモじゃん!」
「どこ見て気付いてんだよ」レーネ、ニヤニヤ。「うーん、やっぱ可愛いな。リーモ」
「こないして(こんな風にして)なるんですね」チャーネは興味津々である。
「なんで!?」
少年(ハイエルフ♀)、ショック! 女神さまを見た。
「リーモに、みなが別れを告げれるようにする。これ、我が求めなり」
女神さまは、そうおっしゃった。
◆♀◆ 33、ナダラカンミナットを歩く ◆♂◆
「──というわけで、またしばらくオンナでいるから」
所変わって、港町。ナダラカンミナット。
オンサレーンくん13歳(エルフ♀)、家族への説明を終えたところである。
「あら、そう!」とおっ母。
「・・・・・・そうか」とおっ父。
「きもちわる」と妹のニモ。
「うるさいなぁ」リーモは言い返した。
「お兄が──」
「あんたたち、おそろいなのね?」
兄妹ケンカになりそうなところを、おっ母がカットした。
「似合ってるわよ」
「女神さまに頂いたんですよ」
レーネ、おっ母に後ろ髪を見せる。
なんと、レーネ! 今日は、ポニーテイル!
青みを帯びたレーネの髪に、金糸銀糸のキラキラリボンはとても似合った。めっっっちゃ、可愛い!(リーモの感想です。)
「まあ~・・・」
おっ母はレーネのポニテを撫で、それからチャーネのポニテを撫でる。
リーモ、レーネ、チャーネ。お揃いのリボンで、ポニーテイルにしとるのであった。
リーモの黒髪、チャーネの白い髪、レーネの青みを帯びた髪。色とりどりのポニテである。
「好評やえ。ラモリマイ」
「それはよろしゅうございました」
リーモの背後に、女神さまが2柱。ユークラネーさま、茶色の服着た巻き毛の女神、ラモリマイさま。
お揃いポニテはラモリマイさまの発案であった。金糸銀糸のリボンをさっと取り出し、スルスルッと長さ5倍にして、カット。5本のリボンを作り出してくれたんである。布を自由自在に延長するのは、ラモリマイさまの得意技であった。
ラモリマイさま。スーッとレーネの背後にすべり寄って、
「ユリアーニェ。まずは、おっ母からですよ!」と耳打ち。
レーネはきょとんとし、それからちょっと赤くなって、「はい」
「あんたも見せて」
「ぐえ」リーモ、おっ母に頭ねじられる。
「まあ~~~! 3人とも、よく似合ってるわねえ。娘が増えた気分だわ!」
「お母さまもいかがですか?」レーネがリボン出した。「ニモも」
「ええ? 私はいいわよ!」
「似合いますよ。リーモと一緒で、綺麗な髪してらっしゃいますし」
「まあ、勇者さまったら! 女たらしねぇ」
「オr・・・リーモ」おっ父が、こっちに話しかけてきた。
「あい」
「あー、魔王陛下の碑が、完成したらしいな」
「へえ」
「あとは・・・あれだ。北国のハルダック王子。強いんだってな。歌になっとる」
「うん。そうだね」その名はあまり出してほしくないリーモである。恋敵なので。
「うむ」おっ父、なんか言いたそう。「・・・あー」
「おっ父」
「なんだ?」
「俺さ、男に戻ったら、畑が欲しいんだけど」
「・・・ほう!」おっ父、リーモを見直す。「なるほど。そうか。そうだな。よし! 村長に訊いておこう」
「うん。お願い」
「任しとけ」
北に山、南に海の見える街路を歩く。路地に入り、高層建築にのしかかられるような風景の中を歩く(サクラーネさま、引っ込む)。
丸い橋を渡って、水路を越え、また海と山の見える大通りに出て・・・
高波の痕がまだ残る街を歩くこと、四半刻(約30分)。
一行は、目的地にたどり着いた。
水路通りの、大きな庭のある木造の神殿。
海神ウミスベラーニさまの神殿。妹のニモを保護してくださった神殿である。
◆♀◆ 34、ミズヘビ、海神、策略 ◆♂◆
「よくいらっしゃった」
司祭のナンミヤッサンが、リーモたちをわざわざ出迎えてくれた。
「ちょうど修復も終わったところだ。ゆっくりお参りしていきなさい」
木造の神殿には、高波の痕跡はなかった。綺麗に掃除され、ツヤツヤに磨かれておる。
聖堂へ入ると、白い石の像がずらっと並んでおった。魚やクジラ、ウミヘビといった海の生き物。巨大タコのような伝説の怪物。
そして、海神ウミスベラーニの像。
「・・・サンキューみたい」とリーモ。
「・・・失礼だぞ」とレーネ。「サンキューが、海神に似たのさ」
ウミスベラーニさま。
足ヒレをグイッと持ち上げた、半人・半イルカの御姿であった。
三つのツノのある冠かぶり、三叉槍を持つ・・・デブの男セイレーンだ、とリーモは思った。
「アネナニモーを守ってくださって、ありがとうございました」
家族で礼をする。
それから、側面に並ぶ神像のところへ。
小さなミズヘビの像。人間ぐらいの長さで、地に伏せてウネウネとし、小さく牙を出しておる。
川の神、ナダラカワーさまの像である。
「落っこちたら、船乗りでも喰われてしまう川なのだが・・・」と、おっ父。
「底流が速く、水が冷たいと聞きます」とレーネ。
「そう、まさにそうです」
「よく助かったね、ニモ」
ニモは、レーネに結わえてもらった髪をいじった。「うん・・・」
あの日。村が山賊に襲われた日。
ニモは川に飛び込んで、魔の手を逃れた。
だが、村の川は、ナダラカワーに流れ込んでおって・・・
「・・・逃げるのに夢中で、ナダラカワーに入っちゃって。溺れて。あとは、何も覚えてない」
「突然、波の音がしましてな」
ナンミヤッサン司祭が説明してくれた。
「見に行ったら、娘さんが浮かんでおったのだ。まこと、神さまの導きにちがいない」
「ありがたいことだ」
おっ父が、生の豚肉のでっかい塊をお供えした。
リーモもお礼を口にする。
「ありがとう。ナダラカワーさま。妹を食べずに、がまんしてくれて」
すると・・・
<しゅるしゅる・・・>
石のミズヘビが、首をもたげた。
<ユークラネーの巫女じゃな?>
「え? あ、はい」
石像がしゃべった!?
リーモ、内心びびる。けど、そんなこともあるかもね? と思い直した。俺がオンナになる世界だもんね?
「勇気の巫女、ユークレニャー・ナッタレーニェです。スメコチデーコ・オンサレーンです」
<どっちじゃ>
「両方、俺」
<複雑なやつ>ミズヘビはつぶやいた。<うまそうな肉じゃの?>
「どうぞ、食べてください」
<頂きまーす>
ガブリ。ナダラカワーさま、肉喰った。あぐ、あぐ、あぐ・・・ペロリ。呑み込んだ。
<ま、ウミスベラーニさまの御命令じゃったからの。──ほじゃの>
さて。お礼も済んだし、帰るか。
リーモ、外に出ようとする。
すると・・・
<ほ ほ う ・ ・ ・、 勇 気 の 巫 女 と な ?>
ものごっつい低音の、お腹にビンビン響く声がした。
「ひっ」
リーモびびる。振り向いた。
冠かぶった海神の像が、こちらを見ていらっしゃる!
海神。舐め回すようにリーモを見てから、<・ ・ ・ 美 し い !>
「え」
<わ し の 嫁 に な れ>
「え? いやだよ」
<な ら ば、 力 ず く じ ゃ>
海神の手が、にゅーーー・・・と、伸びてきた!
すると・・・
「おや? 話がちがうんやないですかに?」
ふわ~ん・・・。
チャーネの背後に、女神さま御降臨!
<誰 じ ゃ?>
「我が名はサクラーネ。北国はアズダーションにて、ダークエルフを守護しておる」
<こ れ ま た、 美 し い ・ ・ ・ じ ゃ が、 何 の 用 じ ゃ?>
「勇気の女神から、話は聞いておりますえ?」
<・ ・ ・。>
「アネナニモーを見つけたら、保護して頂く。お礼は『勇気』でもってする。──巫女をやるとは、言うておらぬ」
<女 神 失 せ な ば(失せたのならば)、 約 も な し じ ゃ!>
「ユークラネーは、死んだと?」
<シ ャ チ ど も か ら、 そ う 聞 い た>
「あなや」
サクラーネさま。茶色の美貌を悲しげに、左右に振れば、乳ぷるるん(リーモの観点です)。
空中に座って足を組み、人指し指立てる。
「ひとつ、お訊きしたいのやが、」
<な ん じ ゃ>
「御身、勇気の女神が生きておっても、巫女をさらうつもりやったんかに?」
<そ の よ う な こ と は せ ぬ。 生 き て お れ ば な>
「そうか」サクラーネさま、ニヤリとする。手のひらヒラリ。「ほな、こちらを御覧あれ」
すると・・・
ふわ~ん・・・。リーモの背後に、女神さま御降臨!
左右にツノある冠は、誇り高く輝いて!
ふわふわ、まあるい羽飾り、後光のごとく揺らめかせ!
白い衣も清ら(きよら)なる、ハイエルフっぽい女神さま!
<ユ ー ク ラ ネ ー!>
「いかにも」
<だ ・ ・ ・ 騙 し た な ・ ・ ・>
「嘘など、ひとつも言うておらぬが?」と、サクラーネさま。
<ヌ ヌ ヌ ・ ・ ・!>
「ほな、これにて」
外へ。
「うーむ!」レーネ、伸びをする。「危ないとこだったね、リーモ」
「びっくりしたよ」
「連れ去られたら・・・」レーネ、リーモの髪を撫でる。
「この『策略』ある限り、そのようなことにはさせぬ」
「ありがと、サクラーネさま」
「うむ! 我を讃えよ(たたえよ)!」
「よ! 天下の策略神!」「アズダーションの軍神(いくさがみ)!」
レーネとチャーネ、はやし立てる。
リーモは、背後を見上げた。
ふわ~ん・・・。「なにえ?」
「約束、守ってくれてたんだ」
「当然え」ユークラネーさま、澄まし顔。「・・・もしかして、疑うとったんかに?」
「うん。ちょっとだけ」
「なにえ」
「ごめんなさい。許して」
「うむ。ゆるす」
女神さま、海神殿をチラッと見た。
「あやつ、『助けたぞ』とは、一度も言うてこなんだ」
「えー・・・」
「ゆえに、『助かった』と、伝えることもできなんだ。このこと、許せ」
「うむ。ゆるす」ぺち。叩かれた。「あいて」
◆♀◆ 35、魔王の碑 ◆♂◆
家族をアパートまで送って、次は、領主館を目指す。
「海浜公園の碑が完成したらしい」とレーネ。「サンキューを連れてってやろうと思ってね」
「魔王の碑だね?」とリーモ。
「そうそう」
「──魔王と言えばなのやが、本体よ」と、サクラーネさま。
「なにえ」
「何しに出てきたのえ? あんとき」
「どんときえ」
「魔王に引っ掻かれて、粉々になったとき」
「・・・。」本体、不機嫌になる。「リーモを助けんとしたに決まっておる」
「リーモは死んだに」
「うむ」
「助けれておらんに」
「やかましえ。引っ込んでおれ。出たがりめが」
「出たがりやと!」
両女神、けんか。
すると・・・
「まあまあ」
ふわ~ん・・・。
レーネの背後に、『仲間』のユークラネーさま、御降臨である。
両手広げ、2柱をなだめにかかった。
「サクラーネ、ここは我に任せよ」
「ふん」
「我らが本体よ、策の字は、そなたの意図をみなに教えたいのえ」
「ふん。ま、よかろう」
ユークラネーさま(本体)。説明なさる。
「『水鏡』でヤツの攻撃をすかし、リーモを蘇生するつもりであった。しかし、魔王が予想外の行動をした」
「みかがみ」とリーモ。
「月神の幻術え。水に映る姿のごとく、幻を見せる」
「へぇ」
それ使ったら、リーモの顔、もっと見れるのかな・・・などと、リーモは考えた。
「予想外とは」とサクラーネさま。
「リーモを死なすと思うておったに、ヤツめ、秘術を解くほうを選んだ」
「なるほど。それで、出て来れんようになったか」
「うむ」
「どういうこと?」とリーモ。
「巫女は港。神は船」サクラーネさまが説明した。「リーモ港が消えると・・・」
「・・・上陸できなくなる?」
「正解」
「でも、滝壺には出て来れたよね?」と言ってから、リーモは答えに気付く。「あ、滝壺も港みたいなもんなのか」
「正解」
「痛恨の失敗え。そなたを死なす気はなかった」
「いいよ! 結局助かったし」
と、リーモは明るくまとめようとしたのだが・・・
「先輩」
チャーネに引っ張られる。
見れば、レーネが・・・涙ぐんでおる!
「ご、ごめん」
「いや・・・わかってる。わかってるけど・・・」
「ごめん」リーモ、レーネの手を握る。「もう死なないようにする」
「当然だよ・・・!」
領主館に到着。
あいさつをして、太腿ムチムチの美女を連れ出す。
さらに移動。堤防の上に造られた、海浜公園へ。
そこに、黒くて大きな大理石の碑があった。
碑文をレーネが読み上げる──
「魔王クレッヂマネー
海駆ける《声》の魔王
ハイエルフの都を攻め滅ぼし、百年君臨す。
ヨスベリューサニェー・ユリアーニェ、
勇気の巫女ユークレニャー・ナッタレーニェ、
アズダーションの策略の巫女クェルデンチャーネ、
ナダラカン軍とともに、勇気を振るい、これを征す」
「ということだが、クレッヂマネー陛下?」
すると・・・
<リーアーニャか・・・>
魔王の声が響いてきた。
ざざーん・・・ざざーん・・・という、波の音に混じって、声だけが響く。
レーネに斬られて死んだはずの、死せる魔王の声が。
「おはよう、陛下」
<我、もはや魔王ではないゆえ、『陛下』はいらぬ>
「クレッヂマネーさま」
<『様』もいらぬ>
「クレッヂマネー」
<愛称で呼んでもらいたい>
「注文が細かい!」
愛称ね、と、リーモは考えた。
そう言や、『クレッヂマネー』の『ヂ』のとこ、ちょっと発音しづらいんだよな・・・。
「クレーネ、とか」
<それで行こう>魔王よろこぶ。
「・・・。」レーネ怒る。
なんで怒るの? と言いかけたリーモ。失敗に気付く。
『レーネ』っちゅう愛称には、リーモの姉貴分という意味がこめられておる。いわば、2人の思い出の愛称なのだ。
それにそっくりの愛称を、軽々しく魔王に付けたので・・・
「あー、いやほら、」リーモ、とっさにレーネの耳にささやく。「レーネのことはさ、きちんと呼びたいと思ってて」
「レーネじゃだめってこと?」
「だめじゃない。思い出の愛称だからね?」
「うん」
「でも、俺はね、君のこと、姉さんのままにしとく気、ないから」
「おまッ・・・!」レーネ、真っ赤になる。
「いつか、ユリアーニェって呼ぶから」
「わ、わかった。わかったから」
2人がいちゃついとるあいだに、ムチムチ太腿ピンク髪が口を開いた。
「クレッヂマネーさま。おひさしぶりです」
<・・・。>
とても不機嫌そうな雰囲気。気のせいか、風が冷たくなったような・・・。
<よくも顔を出せたものだな?>
「申し訳ございません。レーネさんには敵いませんでした」
<申し訳などいらぬ。我は、レーネと話がしたい>
「そのレーネさまのことなんですけども、」
<・・・なんだ>
「私が拾った子供、レーネさまだったのですか?」
<そうだ>
「やっぱりー!」
「おい。何の話だ?」レーネが復帰した。
「この前、話しましたよね? むかし人間の子供を拾ったと」
サンキューが、海に流された人間の子供を拾って、妖精の山羊の乳を呑ませてやった。
その子はいつの間にかいなくなったが、後日、謎のハイエルフが現われて、サンキューに治癒術を教えた・・・
「あの子供が、レーネさんだった、というわけです」
「・・・は?」
◆♀◆ 36、レーネ、過去を知る ◆♂◆
<そなたが3歳のとき、実の父によって、海に流されたであろう>
「・・・なぜ知ってる」
<娼館で聞いた>
「娼館?」
<そなたと同郷の娼婦がいてな。珊瑚(さんご)を贈ったら、ペラペラしゃべってくれた>
「やっぱりレーネさんでしたかー」サンキュー、うれしそう。「なんか懐かしい感じがしたんですよ」
「サンキューに抱かれていたとは・・・」
<我も、そなたを抱っこしたぞ>
「抱っこ?!」
<そこのセイレーンが、『ちょっと抱いててください!』と言って、我に押しつけた>
「妹たちがレーネさんをオモチャにしようとしたんで。陛下の匂いをつけとこうと思って」
「おまえも大概(たいがい)だな」
<そのとき、こんな会話をした──>
「お姉ちゃん、何してるの?」
「高波が来るのでな。城を守っておる」
「どうやって?」
「こうやって」
《波よ、我が城を呑むことなかれ》
「波が逃げてった!」
「うむ」
「・・・お姉ちゃんも、リーアーニャを流す?」
「いや。そんなことはせぬ」
「また流されたら、助けてくれる?」
「いや。だが、《声》を出せれば、何も恐れる必要はないぞ」
《我は海神(わだつみ)駆けるもの》
<──そして、海を歩いた>
「海を歩いた?」
<そうだ>
「嵐の海を? 3歳の子を抱えて?」
<嵐ではない。ただの高波だ>
「私の船酔いグセ、おまえのせいじゃないのか・・・?」
<その子は──レーネは、我にしがみつき、《声》を使った>
魔王は楽しそうだった。
<予想もせぬことであった>
しばし、波の音。
「そうか・・・」レーネは、海を見た。「私は・・・生命の恩人を、殺したのか」
<恩人のつもりはないが?>
「え?」
<我ら、放ったらかしにしたし>
「放ったらかし?!」
「あー・・・いや、それはですね?」
サンキュー、手をクネクネする。
「妖精の山羊の乳をあげたら、元気になったので。山羊の島に置いたんですよ」
「3歳の子供を、1人で?」
「セイレーンは稚魚のころから自分でエサを取るので・・・人間もそうだとばかり・・・」
「ふっ」
レーネは笑いだした。
「ふはははは! クズめ!」
「・・・クレーネさま」こんどはリーモが質問する。「どうやって、レーネに《声》をあげたの?」
<レーネに同じことを訊くがよい>
「私は何もしてないよ」とレーネ。
<そういうことだ>
「何もしなくても、伝染するってこと?」
<する。繋がりがあれば>
「つながり」
<一致する高次の認識を持つこと>
「???」
「私が魔王と同じだということか?」
<魔王は他人を必要とせぬ。あのときのおまえも、そうだったのであろう>
「そうか・・・」
レーネは、リーモを見た。
「幻滅した?(げんめつした?)」
「なんで?」
「魔王の力で戦ってたなんて。あんたにも、伝染させちゃったし」
「なに言ってんだよ」リーモは笑った。「レーネはレーネでしょ。《声》なかったら、クレーネに勝てないよ」
<そうだな>
「ウチも、レーネさん居らんかったら死んでた思います」チャーネも言った。
「・・・そっか。そうだね」
レーネは立ち直った。
「乳をもらい、《声》をもらった。世話になったね、クレーネ、サンキュー」
<我の乳ではない。妖精の山羊の乳だ。セイレーンにも呑ませておる>
「魔力を貯え、身体を強くするそうで」とサンキュー。
「こいつみたいに?」レーネがサンキューの肩を叩く。
<それは特別だ>
「魔将だものな」
<だった>
「クビか」
「!」サンキュー、ショック!
<魔王が消えたのでな。魔将の座も、むなしいものとなる>
「あ、そういう意味でしたか」サンキュー、ホッとする。
<クビも検討したが>
「!!」サンキュー、ふたたびショック!
<いまさら命令でもあるまい>
「・・・はぁはぁ」サンキュー、振り回される。
「リーモとチャーネ、訊いておきたいことはあるか?」
「これで最後なの?」とリーモ。
<いや? レーネのついでなら、話ぐらいはしてやろう>
「そっか。じゃあ、また来るね」
「ウチは、クレーネさまが『仲間』になられたきっかけが、ようわからへんのですが・・・?」とチャーネ。
<あのとき、レーネはこう詠唱した──>
1、死を超えて、私たちは感謝する。
2、私たちは、あなたが愛する子であり、
3、あなたの死によって生き延びた者である。
4、あなたに守られて立ち、私たちの血筋は栄える。
5、死を超えて、私たちは同胞である。
<──2・3・4が条件だが、いずれも我に当てはまっておる>
「いや当てはまらんだろう?!」
<レーネは、クレーネが愛する娘だ>
「それは・・・まあそうだが」
<クレーネの死によって生き延びるのは、リーモ>
「強引だな」
<クレーネの《声》に守られてレーネは海に立ち、人間とダークエルフは栄える>
「む・・・」
<ほら、当てはまっている>
「いやいや! ニュアンスがちがわんか?!」
<ちがわぬ>
「私の意図した効果じゃない」
<発した《声》は、変えられぬ>
「そ・・・そうか・・・」
レーネはしばらく考える。そして、
「なら、いいや!」笑った。「勇者は、死んだ仲間を裏切らない。あんたのこともね、クレーネ」
<そうか!>
しばし、波の音。
「・・・そろそろ行くよ、クレーネ。何か言いたいことはある?」
<うむ。我が城のセイレーンどもが、放ったらかしになっておる。解散しろと言ってやってくれ>
「大丈夫なのか?」
<生きてはおるだろう>
「もともと勝手に動くお魚どもですからね」とサンキュー。
「人間が行って、聞く耳持つか?」
<いいや。そこのセイレーンを連れてゆけ>
「私はいいですが、船乗りは危なくないですか?」
「いるとわかってりゃ、耳栓するだけさ」とレーネ。
「ああ・・・、伝統的対処法」
「じゃ、またな」
レーネたちが去ろうとしたところで。
「我からも、一言ええかに?」
<その声。ユークラネーか>
「うむ。クレッヂマネー。そなたは手強い敵であった」
<御身もな>
「さらば」
◆♀◆ 37、ハルダックとシャケ ◆♂◆
また別の日。
リーモたちは、北国への旅の途上にあった。
若殿ガンバットリャンニを団長とする、ブローノンテッリ訪問団に選ばれたんである。
またこれは、チャーネと北国の戦士団の、帰国の旅でもあった。
「やられたぜェ! うへへへ」
ブローノンテッリの若殿ハルダック。レーネの隣を歩きながら、豪快に笑う。
「守備軍が迎撃に出てきてよォ。やり合ってたら、川からドバーッと水が来てよォ」
「魔王の高波だな」とレーネ。
「守備軍が出てきたの?」とリーモ。
「おう。俺たちが先に着いちまってなァ。こっちァ5百、あっちは1千、そこに洪水だ。参ったぜェ」
「頑丈な王子さまだ」とレーネ。
「それだけが取り柄でよォ」
「ホルビデーゴ・ハルダック殿下は英雄だと、みな、褒めておりますよ」とガンバ。
「あんたこそだぜェ、ガンバットリャンニ殿下ァ。魔王と海戦するたァ」
「海戦の英雄は彼女たちさ」ガンバは、レーネを指した。
「ワフ!」シャケが吠える。
「おまえ、いなかっただろ」リーモがつっこんだ。
ブローノンテッリに到着した一行。さまざまな贈り物、交渉がやり取りされる。
リーモの記憶に残ったのは、2つ──
ハルダックの婚約申し込み。
女勇者ユリアーニェに正式に婚約を申し込み、正式にお断りされた。
女勇者を愛する少年(ハイエルフ♀)は、秘かに気が狂いそうなほど焦ったのだが、ひとまず安心である。
シャケの結婚。というか、種付け。
ブローノンテッリの領主は猟犬の群れを飼っており、そこに新たな血が欲しいという。
「シャケがその気になれば」とレーネは答え、シャケはその気になったのだ。
──であった。
いまでも北国では、シャケの血を引く猟犬が駆け回っとるそうですよ。
そして、最後に。
チャーネとの、お別れの日がやってきた。
◆♀◆ 38、策略のユークラネー ◆♂◆
「これ! 我が像やえ! 掘り出してもろたのえ!」
『策略』のサクラーネさま。白い像をみんなに紹介。
リーモぐらいの大きさの、ハイエルフの石像である。ほっそりとしており、可愛らしい。
台座に足組んで座り、人指し指を立てていらっしゃる。『策略』のポーズである。
「似てます・・・ね?」とレーネ。
「そやろ!」とサクラーネさま。
はしゃいで飛び回るダークエルフっぽい女神さまとくらべ、なんとも儚い(はかない)石像であった。
「屋根ないの?」
「いらぬ! 頭の上には! 空以外!」
「あ、そう」
いいのかなあ? リーモは疑問に思った。
なんせ、野晒しである。壁もなければ屋根もないのだ。
チャーネ見ると、苦笑しておる。だよね、とリーモは思った。
「レーネさんが造ったトンネル、補強して、使わせてもらおう思うてるんですけど」
「あはは。いいよ」
「『レーネ洞』と名付けたいんですけど、いかがでしょう?」
「光栄です! 縦穴は『ハルダックの骨折り』ってとこかな?」
「ちょっと、レーネ。チャーネが困るだろ」珍しく、リーモが注意する側に。
「うわー、チャーネの先輩に怒られた!」
「ふふふ。ごめんなさい、レーネさん。あそこは『オセゾックの最後』って決まってしもとるんです」
アズダーションの代官に内定しておるチャーネ。がんばっとるようであった。
それで、別れ際に「チャーネはしっかり者だね」と褒めたところ・・・
「・・・!」
チャーネは見る見るうちに泣き顔になり、ボロボロ涙をこぼしてしもうた。
リーモ、(レーネの顔を見てから)チャーネを抱き締める。
「元気出して、チャーネ」
ひさしぶりに『勇気を授ける』をして、可愛い後輩に別れを告げたのであった。
◆♀◆ 39、仲間のユークラネー ◆♂◆
帰国したリーモ。
今度は、レーネの故郷に向かった。
レーネに別れを告げるため? ──いえいえ、そんな、まさか!
『仲間』のユークラネーさまの、神殿を見るためである。
かつて神像があったという岬から、少し山に入ったとこ。
細い階段をちょこちょこ登っていった先に、その神殿は建立されておった。
「こっちは屋根あるね」
「我、サクラーネほど出たがりやないゆえ」と、『仲間』のユークラネーさま。
本殿(ほんでん)に入る。
参拝客が入る部屋ではないが、レーネは巫女なのでオッケー。
神像があった。
ふんわりと立ち、両手広げ、ほほえんでこちらを見つめるハイエルフっぽい女神さま。
海から引き揚げられた直後はワカメまみれであったが、いまは綺麗になり、肌を見せておられる。
「ワカメ、綺麗に取れたね」
「そなた時々不遜なり」
ぺちっ。『仲間』の女神さま、リーモの肩叩く。頭でなく肩というところが、本体とは一味ちがう。
「ところで、疑問に思うておったのやが、」
「なに?」
「なんで私だけ、愛称ないんかに?」
「ん?」
「我はユークラネーやが、」
「我もユークラネーやが?」リーモの背後で、本体さま。
「うむ。こうなってもて、不便やに。なんでないんかに?」
「確かに」
「付けてたもう」
「え、俺?」
「なにえ。魔王に付けれて、私には付けれんちゅうんかに?」
「いやそうじゃなくて・・・」
リーモ、レーネを見る。
レーネ、首傾げる。──この巫女、一緒に考える気ないな!?
「・・・いやほら、あのその、俺、ぱちもんエルフだから」
「なにえ。ぱちもんエルフ」
「エルフ語の発音がぱちもん(ニセモノ)だって、サクラーネさまが」
「そなたの発音しやすいのでえええ」
「いいの?」
「えええ。むつしいことは言わぬ」
「そっか」
「そなたに発音しやすく、レーネの故郷にて違和感なく、神の威厳を保ち、本体およびサクラーネとパッと聞いて別の名であり、なおかつ同じ神とわかり、魔王戦において決定的な役割を果たしたことも暗示するような愛称であれば、それでよい」
「難しいよ!!!」
「ナチュラーネ」
考えた末に、リーモはそう発音した。
「ナチュラーネ。ふむ」
「どう?」
「可愛らしい名やに」
「・・・でしょ?」
本当は、ナッツメレーネ、と言おうとしたのだが。
舌が回らなくってね! ・・・というのは、言わんとこ。とリーモは思った。
「ユークラネー、サクラーネ、ナツラーネ。仲間っぽいでしょ」
「ナチュラーネやないんかに?」
「うん。ナチュリャーネ」
「ぱちもんエルフ!」レーネが笑った。
さて、帰ろうか・・・となったとき。
「私さ、しばらくこの神殿に住み込みで、巫女の勉強するよ」と、レーネが言い出した。
「オッフ」シャケもそうするらしい。
「・・・え?」
リーモ、見る見るうちに表情曇る(くもる)。泣きそうになった。
「レーネが? 全然予想してなかったんだけど・・・今日? これでお別れなの?」
「は?」
レーネ、見る見るうちに表情曇る。キレそうになった。
「・・・おまえ、私をだましたのか」
「え?」
「あ?」
「はい、そこまで」ナチュラーネさま、両手でリーモとレーネを触る。「この『仲間』が、誤解を解いてしんぜよう」
「ナツメレーネさま・・・」
「また名前変わっておる!」
「うそつき」レーネが口を尖らせる。
「うそじゃないよ!」
まずい空気である。
ふわ~ん・・・ユークラネーさま、少し離れる。「・・・出でよ、ラモリマイ」
茶色の服着た巻き毛の女神さま、御降臨である。「はい! ・・・何事です?」
「ぎくしゃくしておる。なんとかしてたもう」
「なんとか・・・」ラモリマイさま、一瞬、絶句。「『仲間』さまが、仲裁なさっておられるようですが」
「あやつ、我の片割れえ? 恋愛の仲立ちなど、できるはずなし」
「わかりました。村の女神の名にかけて」
「互いの言い分を整理すべし」
「そんな必要はありません。もうおしまいだ。あーあ、こんなことなら、婚約断ったりするんじゃなかったぁー!」
「おい!」リーモ、ついカッとなる。
「ンだよ!」
そこに、ラモリマイさまがスルッと割り込む。「こんにちは、ヨスベリューサニェー」
「・・・あ、これはどうも。失礼しました」
「いえ、こちらこそ。お邪魔いたします、ナチュラーネさま」
「えええ。そなたはすでに、従妹のようなもの」
「ありがとうございます。素敵な神殿ですね・・・あら? レーネさん。リボンが」
ラモリマイさま、レーネのリボンをほどく。ゆっくりと、結び始めた。
「お気に召しました?」
「あ、これ。はい、とても! ・・・そいつは何も言ってくれなかったけど」
レーネ、リーモを睨んでくる。
「そうだった。すごく可愛いと思ってたんだけど」
「思ってたけど、言うほどじゃなかったんだ?」
「言いたかったんだけど、ずっと他人いたからさ? つい、遠慮しちゃって」
「・・・ふぅん」
「ここんとこ、ずっと他人いたよね」
リーモは周囲を見回した。
今回も、随行の戦士や文官がいるのだ。いまは、建物の調査で離れておるけれども。
「なあ、レーネ」
「・・・なによ」
「2人だけで、もう一回、女神さまの滝壺に行かない?」
「ふたりだけで?」
「うん」
リーモ、レーネの手を優しく取った。握るのではなく、持ち上げた。
「あそこなら、他人追い払うのに、都合いいでしょ?」
「都合いいって、あんたねぇ・・・」レーネあきれる。「ま、でも、そうだね」
「じゃあ約束ね。冬になる前に、行こ」
◆♀◆ 40、勇気の・・・ ◆♂◆
そして、冬になる前に。
リーモとレーネは、滝壺に戻ってきた。
手を取り合って、女神さまの洞窟へ。──滝の音は、リーモの記憶にあるより優しかった。
「さむっ」とリーモ。
「だいぶ寒くなってきたね」とレーネ。
手を繋いだまま、水しぶきをくぐって、奥へ。すると、空気がふわ~ん・・・となる。
洞窟の奥、宝箱の置いてあるところで、立ち止まる。
「俺、ここでオンナにされたんだ」
「そうだったね」
「あ、初回の話ね? 山賊に襲われて、死にかけて、ここに流れ着いて」
ふたりの足元には、ちょうど若者が浮かぶ程度の、小さな流れがある。
「そうなんだ」
「そう・・・この前はさぁ、不意討ちだったよ。ホントに」
「うふふ」
「そんでさ。まあ、そういう場所だからね? ここでリーモとお別れして、男に戻ろうかなって」
「そっか」
レーネは、温かくなった洞窟の空気みたいな目でリーモを見つめた。
手を伸ばし、リーモの髪を、頬っぺたを、撫で撫でしてくる。
「この顔も見納めかぁ」
「ちょっと。やめてよ。俺だって惜しいと思ってんだから」
「リーモの裸、大好きだもんね?」
「ちがっ!」
「いっつも鏡見てたじゃん」
「見てたけど。いや可愛いなと思って」
「リーモは可愛いよねぇ?」
「レーネのほうが可愛いよ!」
リーモは可愛らしい声でそう言ってから、ちょっと真面目になった。
「・・・俺の村さ、まだ復活してないでしょ」
「うん」
「うちの田んぼ、畑も、どのぐらい取り戻せるかわかんない。──でも、俺はやるよ」
「うんうん」
「俺、頑張るよ。畑も、少し広げさせてもらう」
「そんなことできるの?」
「この前、村長と会って、約束した」
「村長と相談してたんだ」レーネはリーモを見直した。
「おっ父おっ母に頼んでね。2人とも、レーネはいい人だって言ってる」
「それは光栄──ああ、いや、あのさ、」
「なに?」
「オレーは、お金の心配より、ふつうに暮らせるかって心配した方がいいと思うよ」
「どういう意味? 俺、真面目な人間だよ」
「《声》だよ。《声》。放っておいてもらえるかってこと」
「?」
「たとえば、ナダラカンにドラゴンが出たとするじゃん。私が、畑耕してられると思う?」
「無理でしょ」
「あんたも一緒だよ。《声》使えるんだから」
「あー・・・ああー!」リーモ、頭をかく。「全然考えてなかった」
「私と同じ苦労を味わうがいいさ。ふっふっふ」
「レーネと一緒なら、いいかもね」
「・・・!」レーネ赤くなる。「わ・・・私はさ、『リーアーニャに手ェ出したら殺される』なんて言われる子供だったけど、」
「そうなんだ」
「ちがうよ!? そう言われるぐらい荒れてたって話で」
「ああ」
「リーモを妹分にして、初めて落ち着いたよ、って言おうとしたのに」
「ありゃ。ごめんごめん」
「ってか、あんた、私のことなんだと思ってんの?」
「優しいひとだなって」
「え」
「初めて会ったときから、ずっと」
「そ、そう? ふぅん」
「ひと目見たときから、好きだった」
「うっふ!?」
レーネは赤くなった。そわそわする。
「リーモに言われると・・・な、なんか、ドキドキするね?」
「・・・。」
しまった。
リーモ、我に返る。
「男に戻るわ」
「そ、そうだよ! とっとと戻れ」
「女神さまー」
「なにえ」「なにえ」ふわんふわ~ん・・・。ユークラネーさま、ナチュラーネさま、御降臨である。「どっちえ」
「あ、ナチュ・・・ラーネ・・・さま、ごめん。俺を男に戻せるほう」
「そのうち詫び持って来なえ?」ナチュラーネさま、ふくれっ面で消える。
「男に戻せるほうやと?」ユークラネーさまも、ふくれっ面である。
「いやあの、俺の女神さま」
「・・・。」
「えーと、あ、その前に。ラモリマイさま、いる?」
「出でよ」
「はい」ラモリマイさま、出て、びっくりなさる。「え!? ここは、聖域では?」
「うむ。我が洞窟え」
「あ、呼んだらダメだった?」
「ホントにもう・・・!」
「ラモリマイさま、このリーモがお世話になりました。ありがと」
ぴょこ。リーモ頭下げる。ポニテが跳ねた。
「こちらこそ。あなたは、私を栄えある(はえある)女神としてくれました」
「いやぁ~」
リーモ頭戻す。ぱさぱさ! エルフ耳、勝手に動いて髪の毛払う。
「それで、俺、男に戻るんだ。だから、リーモとしては、さようなら」
「そうですか・・・。お疲れさま、リーモ。あなたに繁栄を、オレー」
「うん。ありがと。がんばる」
ラモリマイさま、消える。
リーモ、深呼吸。「・・・じゃあ、戻してもらっていい?」
「むろん」ユークラネーさま、うなずく。「そやに、ここは『巫女のみ』っちゅう建前ゆえ」
「あ、そうだった。・・・建前だったの?」
「二度も入った男が何を抜かす」
「そうだね!」
若いふたりは出て行った。
手を取り合って、光り輝く外界へ。
「ほな、戻すえ」
「うん」
「・・・きゃ!?」
「レーネ、俺、」
「ばッ、ふ、服! 服着ろ!」
「え? うわあ!?」
「ごめんごめん」
「もー・・・」
「で、」
「ん」
「レーネ。いままで、リーモがお世話になりました」
「こちらこそ。楽しかったって、リーモに言っといて」
「うん」
「それで・・・?」
「一生のお願いがあるんだ」
「なあに」
《結婚してくれ、ユリアーニェ!》
《はい、オンサレーン!》
『勇気の女神にオンナにされた』 完