魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「
進路が本格的に決まりかけていた中学三年生の夏。
自分は特別な存在などではなく、所詮社会を回す歯車の一つにすぎない――――などといった思春期特有のめんどくさいひねくれ方をしていた僕にとって、その言葉はまさに希望だった。
特別な力――魔法、超能力、前世の記憶――健全な思春期男子なら間違いなく一度は憧れるはずだ。
もちろん僕も例外じゃない。
そんな他人とは違う力が僕にもあるのだと、いきなり家に訪れてきた男は言う。
真夏にもかかわらず黒のロングコートを身に着け、黒いシルクハットをかぶり、漫画のようなちょび髭を生やした、怪しいという概念を具現化したような身なりの男だったが、本人曰く政府のかなりお偉いさんらしい。
うさんくさっ――とつい口に出してしまったのも許されると思う。
「そこで雪春くんには、我々の指定する学校に入学してもらいたい」
なんでもその学校は、特別な力を持つ子たちが通う政府公認の特殊学校だという。
くっ……! どこまでも僕の琴線に触れてくれる…………!
ラノベで百回くらい聞いたことのある展開。悪く言えばありきたり。しかしそれは言い換えれば王道展開とも言える。
魔法学校、異能学園……もう僕のテンションは爆上がりだった。既に僕の心は異能世界に傾きまくり。
しかし当然のことながら両親は猛反対。
お前みたいな
ド正論である。
だが男はあきらめることなく、何度も訪れては両親の説得を試みた。
男がありとあらゆる方法――大物政治家を連れてきた時は度肝を抜かされた――で説得を続けること三ヶ月。
ついに両親が折れ、指定された学校への入学を認めてくれた。
入学すればむしろお金が入ってくると知った瞬間、両親の態度が軟化したのは気のせいだと思いたい。
なにはともあれ、僕の進路が決まった瞬間である。
そしてそこからは一瞬だった。
複雑な入学手続き、機密保持などを含めた誓約書の提出、寮生活が必須になるためその準備。
友人知人に説明できるわけもなく、家族内で準備することしかできなかった。
まあ相談したところで、頭のお薬出しときますね~となって終わるのだが。
ちなみに入学前に異能の訓練的なのはないのか尋ねたところ、入学してからゆっくり覚えていけばいいとのことだった。
今すぐにでも異能の力に触れてみたかったのだが、入学までお預けということらしい。
そうしてドタバタとしながらあっという間に時は過ぎ――季節がめぐり四月、僕は高校生になった。
ここから始まるのだ……!
超能力で謎の敵組織と戦う日々が。
魔法で人知れず世界を救う日々が。
兄の下位互換と呼ばれる日々は終わり、NEW渡谷雪春の誕生だ!!
夢は僕の名前を世界中に轟かせること!!!
春の桜が舞い散る中、これから三年間通う校舎を前にして、僕は決意を胸にする。
結論から言うと、超能力や魔法といった異能――特別な力は確かにあった。
勇者の子孫、賢者の生まれ変わり、よくわからない技術を披露する前世持ち、魔王因子を持った存在、由緒正しい家柄の陰陽師、人類滅亡を目論む悪の組織のスパイ。
そんなフィクションで無限に聞いたことのある属性持ちもいた。
しかも、昨日まで落ちこぼれだった人間が、突然勇者に覚醒したなどという事件が何度もあったのだ。
もちろん僕も期待した。
秘められた力がきっと僕にもあるのだと。
けれど、その期待は1年間で粉々に打ち砕かれる。
この学校において――いや、この特殊な世界において、僕はどこまでいっても平凡で、普通で、平均的で、上位互換がいくらでもいる程度の存在なのだと、理解するには十分な時間だった。
期待とギャップに悩まされ続けた高校生活1年目の終わりと共に、自分への期待も遥か彼方へと投げ捨てた僕は2年生になった。
夢はとりあえず国公立大学に進学することです。
あ、ちなみにボッチです。
――――――――――――
「なあアオノ、なんか俺さぁ、最近変な夢をよく見るんだよ。俺がどっかの国の王子で、自分の国が燃えてるのをただ見ていることしかできなくて……」
「おいおいなんだそれ。キョウヤ、お前もしかして高校生になって中二病かよ」
「ち、ちげーよ! そんなんじゃなくて……なんか妙にリアルなんだよ、その夢が」
などと言う会話が、教室の僕の隣の席で行われている。
なんということはない、ただの前世の記憶持ちである。
どうせ今後、自分か友達が危険な目にあって記憶と力が目覚める、もしくは超絶美少女が『やっと見つけました』などといって前世の因縁が複雑に絡んだ一大ファンタジーが始まるに違いない。
その流れを去年の1年間だけで4回も見たから間違いない。僕くわしいんだ!
――と、このようなラノベ的展開、現象が僕の通うこの高校では頻繁に発生する。
美男美女率が異常に高い――しかし男は9割が平凡を自称。
頻繁に現れる訳あり転校生――月1ペース。
『やれやれ』が口癖の男子――高確率で自称めんどくさがり屋。
この程度は序の口。
さきほどのような前世の記憶持ち――思い出す際に頭痛も併発して教室でよく倒れる。
実は○○の子孫――今のところ勇者は5人。
謎の敵組織による世界滅亡の危機――なんだかんだで阻止される。
などといった事態まで、もはや日常茶飯事レベルで起こる。
最初こそ戸惑いまくってたものの、3ヶ月もするとすっかり慣れてしまった。
嫌な慣れである。
ともかく、僕の周りではそんな出来事が頻発する――そう、僕の
なぜか僕自身には摩訶不思議な出来事が一切起こらない。
そしてそれがボッチになってしまった原因でもある。
想像してみて欲しい。
仲の良かったグループのやつらが、長期休暇明けに久しぶりに会うと、自分の知らない話で盛り上がっているのを。
『あの時はトウジが真の力に目覚めなかったらヤバかったよな』
『ほんと、まさかアルニコスの封印が解けるなんて夢にも思わなかった』
『無人島での暮らしは少し楽しかったがな』
『確かに、めったにできない経験だったものね。キョウカさんなんて魔法の加減を間違えて魚を消し炭にしておりましたし』
『それは言わないでよ~!』
まったく理解ができなかった。
真の力ってなに? 封印ってなに? 無人島生活ってなに? なんで僕だけのけ者なの?
共に困難を乗り越え絆を深めました感を出すみんなと、長期休暇はずっと寮でポ○モンのレート戦にもぐり続けていた僕。
とてつもない疎外感を感じた僕は、自発的にそのグループをフェードアウトした。
また別で、ひそかに気になっていたグループの女子が長期休暇を終えると、主人公属性マシマシの男子にわかりやすい恋心を向けていた――なんてこともあった。
なんでも、みんなで旅行に行った際、命の危機を助けてもらったらしい。
旅行で命の危機ってなに?
そんでもって僕さそわれてないねぇ。
そんなことが1年に3回。
休暇のたびに所属していたグループのメンバーから置いてけぼりをくらった僕は、3回目でグループに属するのをやめてボッチになった。
傷つくくらいなら期待しないの理論だ。
自分の気持ちを押し隠して、ヘラヘラ笑って付き合っていくなんてまっぴらごめんだ。
そう言って強がりながら枕を濡らした日のことを、僕はきっと忘れられないだろう。
――――――――――――
おまけ
「キャアアアアアアア!! この変態!!!」
何でもない平日の朝、寮全体に女子の叫び声が響き渡る。
どうせどこぞの主人公属性が、赤髪炎使いツンデレ属性女子の着替えでも
この寮ではよくあることだ。
学校では体育の着替え時間に頻発する。
傾向的に春――つまり今の時期はかなり多い。
何も知らない新入生および転校生が――よく確認もせず女子部屋や更衣室に突撃するパターンだ。
おまわりさんこいつです。
しかし基本大事にはならず、一発殴られる程度で許される。
まれに『私に決闘で勝ったら許してあげる』という脳筋ゴリラも存在する。
その場合の僕の立ち位置は、決闘を行う二人を大勢で囲む野次馬の一人だ。
ワンポイントアドバイス――最前列は流れ弾に当たる確率が高いため避けた方が無難だよ!
そんないつも通りの朝を過ごし、学校へ向かうため寮を出る。
寮から高校までは少し距離があるが、直通電車や直通バスが通っているため不便ではない。
ちなみに僕はそれらを使わず、原付バイクで通学している。
理由は――
『ちょ、ちょっとトウジ! あんまり押さないでよ!』
『しょうがないだろ。混んでんだからちょっとくらい我慢しろよ』
『わかってる……けど、その、胸が……』
『え? 今なんて?』
『~~! 何でもない!!』
というイチャついたやり取りを満員電車に乗った場合、毎朝毎朝見せられるからだ。
血糖値の低い朝にやめて欲しい。
高齢の方に席を譲るイベントも発生率が高い。寮と学校間の直通なのに、フシギダネ。
あとたまにテレポーターのくせに満員電車やバスに乗るやつもいる。能力使えや。