魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
生徒会長になった。
正直、自分でも『この学園正気か?』と思う。
宗助から撮ってもらっていた演説の動画を見せてもらったが、言葉にならないくらいひどかった。思想が強すぎる。
にもかかわらず、僕が当選できた理由だが、宗助曰く――
・前生徒会からの後継が立候補しなかったこと。
・立候補者が多く、その上で有力候補もいなかったため、票が割れたこと。
・悪評とはいえ、立候補者の中では僕の知名度が高く、似たような演説が続く中、インパクト
・面白がって投票した人間がある程度いたこと。
といった要素が運良く重なり、上手いこと当選できたらしい。
ただそれでも、学園内での顔が広く、情報通の宗助にとってかなり想定外のできごとだったようで、『どこの票が入ったんだ?』と首を傾げていた。
ちなみにその時、携帯を無くしたこともついでに愚痴られた。元職場に問い合わせとけ。
とまあそういうわけで、奇跡の逆転ホームランが飛び出し、僕は無事生徒会長になれたわけなのだが――
「…………」
「…………」
「…………」
カタカタ、カチカチ、カキカキ。生徒会室内に響くのは、キーボードを打ち込む音と、書類に文字を書き込む音の二つのみ。
生徒会長である僕を中心に発足した新生徒会は、発足から一週間が経った現在、控えめに言って最悪の空気だった。
原因は何か? もちろん僕だ。
「ごめん、清水さん。ちょっとわからないことが――」
「しっ! 会長がこっち見てるから!」
「ッ……!? …………」
といったように、僕は生徒会役員から死ぬほどビビり散らかされている。
まあ、当然っちゃ当然だ。僕が役員の立場なら、絶対同じようにビビりまくる自信がある。
特に新生徒会役員は一年生メンバーが多く、ただでさえ僕は年上ということで、なおさらなのだろう。
ちなみに、こちらから話しかけた場合、
「……あ、田宮くん。この書類、記入ミスが――」
「ッ!? も、申し訳ありません!!!」
「いや、別にそんな謝らなくても――」
「今すぐ修正いたしますッ! ですので、頭をぶち抜かないでください……!」
「…………」
この調子である。独裁国家の暴君も顔負けのビビられようだ。
どうやら僕に逆らえば、学生寮で暴れた反社(バイト先の人たち)が出てくると思われているらしい。マジでバイト辞めたろか。
しかしただ、そんな生徒会役員の中でも、僕を恐れることなく普通に話しかけてくれる人が一人いる。
「会長、こちらの書類ですが確認の上、サインをお願いします」
それが今、僕に書類を手渡してきた生徒会副会長――
竹宮は少し目付きが鋭く、キレイな黒髪を腰の辺りまで伸ばした僕と同じ二年生の女子生徒。
前生徒会でも副会長を務めていたらしく、新生徒会発足時の引き継ぎ業務であったり、不明な点があるとテキパキわかりやすく答えてくれる。
現生徒会において一番の戦力であり、今のところ会長である僕より会長らしい。
そして先ほども言ったように、僕に対して唯一普通に話しかけられる存在のため――
「それと、こちらが会計の進藤くんから受け取った書類です。こちらも確認をお願いします」
このように、わざわざ副会長を通す必要のない書類まで、副会長を通して
書類だけでなく、必要な報告など、業務に関わる全てにおいて副会長を通されるわけで。
…………ふぅん。
いやマジで良くないなこれ。僕にとっても、生徒会役員にとっても、生徒会室が死ぬほど居心地の悪い空間になってしまっている。
こんな状態じゃ、野望のランク制度排除はおろか、普段の業務にすら支障が出かねない。もう既に出てる気がしないでもないけど。
しかしながら、この状況をスマートに解決できるような策は何も思い浮かばないわけで。
「あー……その、これから僕バイトがあるから……」
そう言って、僕はバイトを言い訳にし、居心地の悪い生徒会室からの脱出を試みる。
ここ一週間、ほぼ毎日使っている手だ。もちろん最低限の業務はこなした上でなのだが、さすがに毎日これだと罪悪感も湧いてくる。
「……今日も先に帰るけど、えっと……大丈夫そう?」
「はい、問題ありません」
そしてこれまたいつものごとく、返事をしてくれるのは副会長のみ。
残りの役員たちは僕がいなくなることに対し、明らさまにホッとして軽く頭を下げるだけ。
「けど、毎日先に帰ってるし……」
「現時点で、業務の遅れはありません」
「それはそうなんだけど、やっぱり会長が先に帰って不在だと、いろいろ不都合とか……」
「いえ、まったく問題ありません」
それはそれでムカつくな。
……しかしまあ、真面目な副会長が問題ないというのなら、実際問題ないのだろう。会長の存在意義が怪しくなってくるけど。
「……じゃあ、お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です」
こうして今日もまた、僕は生徒会室を後にする。
解決すべき問題を先送りにして。
といった日々が続いたある日のこと、生徒会のグループチャットに――
『申し訳ありません。体調不良のため、本日の生徒会活動を欠席させていただきます』
――といったお堅いメッセージが副会長から送られてくる。すると、
『自分も今日補習が――』
『私も部活動の方に参加する予定で――』
『クラスメイトに呪われて――』
次々と送られてくる欠席連絡。まあ間違いなく、副会長以外は嘘だろう。副会長不在の状況で、僕と同じ空間にはいたくないらしい。辛すぎるっぴ。
というわけで、その日の放課後、僕は一人寂しく生徒会室で仕事を行っていた。そんななか、
「失礼しまーす……」
遠慮がちに、どこかオドオドしながら生徒会室の扉を開いたのは、一人の男子生徒。
その男子生徒は、不思議そうに生徒会室を見回すと、視線を僕へと向けながら問いかける。
「……あの、生徒会の人って、今いらっしゃらないんですか?」
生徒会長ですけど???
じゃあなにか? こいつ、僕を会長の椅子に勝手に座る部外者か何かだと思ってらっしゃる?
……いや、よくよく考えれば、僕の顔を知らないのも無理はないのか。
選挙中、活動という活動を一切せず、演説もスギタニくんにやらせたわけで。
「あー……えっと、僕が会長の渡谷です」
「え!? ヤバい方のワタガヤ!?」
僕そんなふうに呼ばれてるの?
「よりにもよって……いや、弱気になるな俺……! 絶対ケルーツ部を作るって、あいつと約束したじゃないか……!」
初めは怯えるような様子を見せていた男子生徒だが、意を決したように僕と向き合い、そして一枚の紙を僕の目の前に置いた。
「前回は書類の不備で突き返されましたが、改めてお願いしに来ました」
置かれた紙には、『新規部活動申請』の文字。これは要するに――
「今度こそ、ケルーツ部の立ち上げを認めてください……!」
僕の予想した通り、それは新規部活動の立ち上げ申請だった。
男子生徒は真剣な表情で、僕へと頼み込む。
……確か、部活動関連の最終決定権は会長である僕にあったはず。なら僕の判断で問題ないだろう。
僕は置かれた紙へと目を通し、その内容を吟味する。
「…………」
「ッ……」
書類に記載されているのは、『ケルーツ部』という部活動名。他にも部員の名前、担当顧問、『ケルーツを通しうんたらかんたら』と長々書かれた活動内容など。特におかしな点は見当たらない。
見当たらない……のだが、もっと根本的な疑問が一つ。
「…………ケルーツってなに?」
「ケルーツを知らないんですか!?」
男子生徒は信じられないといった表情で僕を見つめる。
異能社会だと有名なスポーツか何かなのだろうか?
「ごめん。僕、外部生だからそのへん疎くて」
「外部生……、それで…………」
男子生徒は僕の言葉に納得すると、一度姿勢を正し、改まるようにして口を開く。
「ケルーツは、飛行魔法を使って行われる“空の球技”と呼ばれるスポーツです」
……へえ、ちょっとかっこよさげだな。
「7対7で試合が行われ、サッカーのように相手のゴールにボールを入れれば点が入ります」
「ふむふむ」
「また、点をとるボール以外にも、お邪魔ボールと呼ばれるボールがあり、それを使って相手チームを妨害することもできます」
「……なるほど」
「さらにシルバーボールと呼ばれる小さなボールが飛び回っていて、それをキャッチすれば一気に百点が入るんです!」
「…………」
「このシルバーボールを取る専門のポジションがあって、それがこのケルーツの花形と言っても過言では――!」
説明に熱が入り、見るからに男子生徒のテンションが上がっていく。
それだけ本気でケルーツとやらが好きなのだろう。ただ……、
「さらに、退場した選手の補充はされず――」
「……ケルーツって、
「ケルーツです」
「……いや、クィディ――」
「ケルーツです」
「……ク――」
「ケルーツです!!!」
絶対普段から言われてるだろ。
まあパクリ疑惑……疑惑というかほぼ黒だけど、それは一旦置いておくか。
見た感じ、部員数等の条件もクリアしてるみたいだし……。
「……その、俺……最近ようやく気づけたんです。やっぱりまだ……ケルーツが好きなんだって。……だからこそ、また本気でケルーツをやるために、部活動として大会に出る必要があるんです! 幼いころに約束した、
「…………」
一時期競技から離れたけど新たな出会いをきっかけにもう一度競技への熱を取り戻したスポーツ漫画の主人公みたいなこと言い出したな。
「前は副会長の“本気ならなぜ一度辞めたんですか?”という質問に答えられませんでした……」
えっと、承認印どこだったっけ……。
「でも今は、その問いに対する答えを見つけました。僕は――!」
「はい、じゃあ頑張ってね~」
僕は申請書に承認印を押し、署名を入れて正式に部活動立ち上げの許可を出す。
「……え!? いいんですか!?!?!?」
いいんですか、とは?
「いや、その……前回はかなり厳しく許可は出せないと言われたんで……」
「そうなの?」
でもさっきも確認した通り、書類に不備はないし、ちゃんと部活動設立の条件はクリアしている。
「あっ、でも今部室棟は空きがないらしいから、部室とかの割り当てはできないけど大丈夫?」
「ぜ、全然問題ありません! ありがとうございます! 俺……あ、自分…………生徒会長のこと誤解してました! てっきり、逆らう人間の頭をぶち抜く人だとばかり……。でも、本当はこんな優しい人だったなんて……!」
なんだかよく分からないけど、僕の印象が良い方向へと反転したらしい。
なら、これを利用しない手はないな。
「許可を出した代わりに……というわけじゃないけど、今日のこと、できれば色んな人に伝えてほしいな。キミもさっきまで誤解してたみたいに、そういう人が大勢いるみたいだから」
「っ! 任せてください!!」
よしよし。少しでも僕の印象を良くするために、こういう小さな活動が大事だからね。
「会長のためにも、ク……ケルーツの大会で優勝して、学園に優勝旗を持ち帰りますね!」
それは別にどっちでもいいかな。自分のために頑張ってもろて。
あと今お前、絶対クィディッチって言いかけただろ。
「会長、改めてありがとうございました!」
そうして、男子生徒は満面の笑みでお辞儀をしながら、生徒会室を後にする。
なんだかんだ、初めて生徒会長っぽい仕事をしたな……などと満足しつつ、少しでも印象が良くなることを期待したその三日後――
「おい、押すなよ! 俺たちが先に並んでただろ!」
「はぁ!? 私たちの方が先に来てたわよ!」
「いーや! 僕たちが――!」
……生徒会室には、学生たちによる長蛇の列ができていた。
その理由はというと、
「会長! どうか異能探偵部の設立許可をください」
「会長! そんなくだらない部より、ウェイトトレーニング部をお願いします!
「てめぇ! 今うちの部活をくだらねえっつったか!?」
「ええ言ったわよ! 異能が絡んだらトリックもクソもないじゃない!」
「異能があるなら筋肉だって無意味だろうが!」
……これである。
僕の優しさを伝えてほしいと、初めに部活申請に来た男子生徒にお願いしたところ、どうやら話が大きくねじ曲がり、『会長は外部生のため常識がなく、簡単に部活動設立の許可を出す』という噂が広まってしまったらしい。
そのため、部活動の立ち上げを希望する生徒たちが生徒会室の外にまで並び、順番待ちをする事態に。
今日は遅れて顔を出すと言っていたが、副会長の体調不良が長引いているため、この三日間、僕一人で申請を処理し続けている。
あのケルーツ野郎……、申請許可取り消したろか。
それにまともな部活動の申請ならまだしも、なかにはひどい申請も。
『会長! ジブリ鑑賞部の設立許可を……!』
『……活動内容は?』
『部員たちとジブリ映画を見ます!』
『家でやれや』
とまあこんな申請まで処理し続ける日々。
今現在も、『ビキニアーマー研究部』の申請書に目を通していたその時だった。
『何ですかこれ!?』
廊下の外から聞こえてきたのは、三日ぶりに聞く副会長の声。
『やべぇ! 鬼の副会長だ!』
『び、びびんじゃねえ! 俺たちには会長がついてるんだ!』
『そうだそうだ!』
『副会長の横暴を許すなッ!』
『意味のわからないことを言ってないで、生徒会室の前に集まるのをやめなさい!』
そんな副会長と、廊下に並ぶ学生たちの言い争いが数分ほど続いたその直後、
『散れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!』
副会長の張り裂けるような叫び声と共に、生徒会室内にいた者も含め、並んでいた学生たちは蜘蛛の子を散らすよう逃げていく。
そして、すぐさま生徒会室へと入ってきた副会長は鬼のような剣幕で僕の下へと近づき、トゲのある声で問い詰め始めた。
「会長! これはどういうことですか!?」
「いやまぁ……その、いろいろありまして……」
僕がこの三日間の流れを一から説明すると、副会長は眉間に皺を寄せ、困ったように目を閉じる。
そして目を閉じたまま、ゆっくりとその口を開いた。
「……その、これはお伝えしていなかった私のミスですが、今現在はよっぽどの理由がない限り、部活動の新規申請を全て却下するようにしているんです」
「え、でも規則では条件を満たしていれば問題ないって書いてあったような……」
「そうなんですが、部活動を増やすとなると予算の問題がかかってくるんです。部活動として認められた部には、たとえ実績等がなくとも、決められた最低金額を部費として支給する必要があります。ですが、現時点で部活動に割り当てられた予算はギリギリで、ここから部活を増やせば、既存の部活に割り振られた予算を減らさなければなりません」
……しまった。そうか、部費の問題があるのか。部に入ってないから、その辺りのことまで思い至らなかった。
「……それで、どのくらい許可を出したんですか?」
「えっと……確か二十くらい……」
「二十ッ!?」
ふぅん。
「……やっぱりマズい?」
「……相当まずいです。正直、予算が全く足りません」
ですよねぇ……。
「…………」
「…………」
「じゃあ、学園に予算の追加をお願いするっていうのは……」
「おそらく無理だと思います。この学園はその辺り、かなり厳しいので。前会長も、生徒会の追加予算申請はほぼ全て却下されていましたから……」
……ほんとに? この学園、お金に関してはガバガバなイメージしかないんだけど。
僕の原付バイクの購入費や免許講習費とか、雑な申請理由で簡単に出してくれたし。
……どうせだ、ダメ元で申請してみるか。
「まあその……、もしかしたら通るかもしれないから、一応学務課に行って聞いてみるね」
「……わかりました。まあ無理だと思いますが……」
こうして、僕は予算追加の交渉のため、学務課へと向かうことに。
三十分後――
「追加予算もらえたよ」
「嘘でしょ!?!?」
いやマジでマジで。
僕は学務課から渡された書類を副会長に見せる。
「信じられません……。しかもこんな額……」
「あと足りなかったら追加で出すから、遠慮なく言ってだってさ」
「学園の経営者、変わりました?」
いや、変わってないと思うけど。少なくともトップは。
……こういうところもなのかなぁ。
「しかしすごいですね……。たった三十分の交渉でこんなに……」
「…………」
……三十分どころか、申請したら一発で通ったんすよね。
交渉なんて一切してないし、ならなら三十分のうちほとんどは学務のおばちゃんと世間話をしてただけでして。『生徒会長の仕事は慣れた?』『ぼちぼちですねぇ』みたいな感じで。
まあでも、副会長から尊敬交じりの目で見られるのは気分がいいし、そういうことにしておこう。ワレ、交渉上手なり。
「こういうことは任せといてよ。普段はいつもバイトで早抜けしてるし、他メンバーとのコミニュケーションは副会長に任せっきりだからさ」
「会長……」
心なしか、キリッとした副会長の目が、普段よりも緩んでいる気がする。
ふふ……、おそらく僕に対する評価が上がったのだろう。
これで学園改革の野望へと、一歩前進ってところか。……マッチポンプな気がしないでもないけど。
ちなみに後日、事の顛末を知った他の生徒会メンバーからは、僕が学園全てを支配下に置いていると勘違いされ、さらにビビられるようななった。
総合するとむしろマイナスかもしれない。おのれケルーツ!!!
ケルーツ部の申請に来た男子生徒 詳細
中学時代はレギュラーとして、ケルーツの全国大会に出場するほど優秀な選手だった。
しかし、中学最後の試合でトラウマになるようなひどい負けを経験し、ケルーツ部のある高校には進学せず。
目的もなく、自堕落に高校生活を過ごしていたある日、謎の美少女転校生が現れ、優斗に告げる。『もう……ケルーツやらないの? キミのプレイスタイル、好きだったんだけどな』
そんな自身の過去を知る謎の美少女に振り回され、共に過ごしていくうち、優斗はまたケルーツへの情熱を取り戻していくのだった……!
※次回登場予定は今のところありません。
書籍版3巻の発売まであと一週間です!
口絵も一部公開されています。
https://x.gd/9EL69