魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
昼休み――僕はいつものように屋上へ向かうと、その日はどうやら一番乗りだったらしく、まだ学生の姿は見当たらない。
授業を早めに切り上げてくれた仏の久保田先生に感謝しつつ、定位置である日陰のベンチへと向かって歩き出した――その時だった。
「……うぇえ?」
僕のすぐ目の前に、突如巨大な魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣からは、あまりにも仰々しい音と光。
それはどこか見覚えのある光景であり、一瞬メイルカムイの誤召喚が頭をよぎったが、魔法陣の中心から現れたのは悪魔ではなく、一人の少女だった。
「やった! 成功し、た……あれ?」
僕と同い年くらいで、どこか
「なんで!? ここどこ!?
少女の取り乱しようは凄まじく、僕のことも視界に入っていない様子。
とはいえ、すぐ目の前にいる人間にずっと気づかないはずもなく。
「……あっ」
「……ども」
僕と少女の目が、バッチリと合ってしまう。
するとなぜか、少女は目を見開いてフリーズ。
「…………」
「…………」
……なん?
もしかして、誰かに見られたらまずかったとか?
そんなふうに考えていると、数秒ほどが過ぎたところでようやく、本来の目的を思い出したように少女は動き出す。
「ヤバッ……! 時間がないんだった……!」
そして意を決したように、少女は目の前の僕へと問いかけた。
「あ、あの……! 変なこと聞くんだけど、今って2026年で合ってるかな!?」
タイムトラベラーかな?
「そうだけど……」
「っ!! よかった……! ちゃんと五十年前に来れてる!」
タイムトラベラーだな?
「後はおじいちゃんと協力して、この時代に逃げたあいつを倒せれば……!」
「…………」
少女はそのまま考え込むように、その場でブツブツとつぶやき始める。
……もし、この少女の言動が嘘でないならば、彼女は五十年後の未来からやって来た未来少女(仮)ということになるのだろう。
まあループとかが発生する世界だし、タイムトラベルができたって不思議じゃないよね。うん。
…………本当か?
いや、この世界の常識なんて考えるだけ無駄か。
今とにかく重要なのは、未来少女(仮)には何か目的があり、こうして未来からやって来たということ。
そして現れたその場所が、僕の目の前だということ。
……そう! 僕の目の前!!
これが偶然なことがあろうか? いや、ない!
きっとこれから、僕と未来少女(仮)とで、未来の重要な出来事に関わるアレやコレやを解決するために――!
「その……、ついでにもう一つ聞きたいんだけど! おじいちゃ……綿谷冬二って名前の学生を知ってたりしない!?」
はい、知ってた。
……正直なところ、未来少女(仮)の見た目からなんとなく察してましたよ。
五十年後から来たという発言と、未来少女(仮)の年齢からして、おそらく孫世代にあたるのかな? となると、未来少女(仮)の推定祖父――冬二の血は四分の一。
にもかかわらず、冬二の面影が強いんすわ。性別も違うはずなのに、あまりにも見た目がそっくりすぎる。
冬二のその容姿も、烏丸家出身の母親から色濃く受け継いでいるわけで……。
烏丸家の遺伝子が
「……知らないかな? おばあちゃんから聞いた話では、顔が私に似てて、出会う女性に片っ端から手を出す人らしいんだけど」
苦労させられたんだろうな……、未来で冬二と結婚した人。
「……冬二ならこの建物の八階、二年九組の教室でご飯食べてると思うよ」
「っ! あ、ありがと――!」
「ちなみにだけど、冬二を見つけても急に抱き着いたり、若いことに驚いてベタベタ触ったりはしないようにね。周りにいる女子たちに睨まれて話がややこしくなるから」
「え? あ、うん」
「禁則事項とかがなければだけど、下手に誤魔化したりせず、未来から来たことは正直に話すべきだと思う。最初は冬二たちも戸惑うだろうけど、本気で伝えれば絶対信じてくれるから。もしそれでもダメなら、紫髪の人に『
「ま、待って待って! 急にどうしたの!?」
いや、なんか急いでるみたいだったし、お約束展開とかそういうのは潰しといてあげようかなって。
「というか私、未来から来たこと喋ったっけ!?」
割と喋ってたよ。
「だとしても全く驚かないのは意味わかんないんだけど……。で、でもありがとう! 実際すごく助かる! それで申し訳ないんだけど、急がないといけないから私はこれで! もし全部終わって、まだ時間があったら何かお礼するから!」
そう告げながら、未来少女(仮)は駆け足で屋上を後にしていく。
僕の隣を抜けるその一瞬、視線をわずかに
……彼女、もしかして――
「むむー?」
「……なんでもないよ。お昼、食べよっか」
ま、もう行っちゃったし、考えても仕方ないか。
僕はムーを撫でてやりながら、改めて定位置のベンチへと向かった。
……あ、せっかくなら未来で僕の名が轟いてないかとか、聞いとけばよかったな。
――――――
突如、冬二たちの目の前に現れた謎の少女――綿谷
未来から来たという彼女の目的は、冬二たちのいる時代へと逃げた悪魔――『“
そしてその討伐に手を貸してほしいという陽色の願いを、冬二たちは快く受け入れる。
冬二の孫を名乗る陽色。
異なる時代から紛れ込んだ十王の配下。
陽色が、冬二の将来の伴侶より預かったという不思議なメッセージ。
陽色の真の正体とは? 眷属を送り込んだ時曲王の目的は? 冬二たちは、訪れるかもしれない最悪の未来を回避できるのか?
五十年の時を超え、二つの時代を巡る戦いが、幕を開ける――!
――そしてなんやかんやあり、無事討伐は成功した。
肉親ゆえに、冬二との距離感が近い陽色に対し、茜たちが嫉妬したり。
陽色の持つ未来の知識を基に、冬二の異能が成長したり。
最初は陽色の孫発言に半信半疑だった冬二も、悪魔討伐時にはすっかり本当の孫扱いするように。
しかしそんな陽色との別れは、すぐそこまで迫っていた。
「本当に……、もう行ってしまうのか?」
冬二たちが暮らす
そんな陽色の体の周囲からは、少しずつ光のような何かがあふれ出していた。
「うん。世界の修正力とかってやつで、一定時間が経つと未来に戻っちゃうの。私は、この世界の人間じゃないから」
「そっ……か」
冬二は様々な言葉を飲み込みながらも、別れの瞬間に悲しい顔は見せまいと、気丈に振舞って見せる。
「その……未来の俺によろしくな」
「うん、言っとく言っとく。おばあちゃんにも言っとくね。聞いてた通り、昔のおじいちゃんはいろんな女の子とイチャイチャしてたって」
「陽色ッ!」
「アハハッ! おじいちゃんが怒ったー」
冬二と陽色、同年代にしか見えないその祖父と孫は、仲睦まじくじゃれ合い、最後の時間を笑顔で過ごす。
その一方で、冬二の後ろに控える五人の少女たちは、陽色が『おばあちゃん』という言葉を口にするたびに、ソワソワしながら体を動かしていた。
「あの……、陽色さん。陽色さんの『おばあさん』なんですが……」
そしてついに、五人の少女たちのうちの一人――
「ダメー。最初に会った時も言ったけど、おばあちゃんの言いつけだから言えませーん」
陽色は両手でバツを作り、鏡花の問いに対する回答を拒否。
そのことに、五人の少女たちは安堵とも落胆とも取れる表情を見せた。
「それに、おじいちゃんの結婚相手を知ったところで、この世界でもそうなるとは限らないよ?」
「そうなのか?」
「うん。だって私が生きている未来は、これからこの世界が辿るであろうたくさんの可能性の一つに過ぎないから」
「……じゃあ五十年後の俺は、陽色のいる未来とは全然違う誰かと一緒になってる可能性もあるってことか……」
「そういうこと」
「……それは、少し寂しいな」
「え?」
「だって、そうなると陽色が生まれる未来もなくなる。……俺は、また未来で陽色に会いたいからさ」
陽色へ、冬二はこれ以上とない親愛を向ける。
温かな、どこまでも優しい笑み。そして、それを受けた陽色は――
「そういうとこだぞ」
――ひどく冷たい表情と声で告げた。
「なに孫まで口説いてんだ。節操なしか」
「いや口説いてねえって!」
「口説いてんだわ。この無自覚鈍感ジジイ」
「ジジイとか汚い言葉使っちゃいけません!」
「あーうっせうっせ!!」
大声で言い争う二人。しかし周囲から見たそれは、やはりどこまでも仲睦まじい光景でしかなかった。
そしてそうこうしているうちに、陽色を覆う周囲の光がさらに強くなっていく。
詳しい説明がなくとも、その光の意味を冬二たちは理解できてしまう。
「時間……なんだな」
「……そうだね」
陽色は一度目を閉じ、そして改めてその視線を冬二たちへと向けた。
「おじいちゃん、それにみなさんも、アンバーの討伐に協力してくれてありがとう。これで、心置きなく未来に帰れ………………あっ!!」
清々しい表情から一転。陽色は帰還直前になってやり残していたことを思い出し、その表情に焦りを浮かばせる。
「どうした陽色!?」
「いや、完全に個人的なアレで……。実はこの時代に来た直後のことなんだけど、私のことを助けてくれた人がいたの。その人のおかげでおじいちゃんとすぐ会えたのに、お礼しそびれちゃったなって……」
「そうだったのか。じゃあ俺たちが代わりにお礼しとくよ。その人の名前とかわかるか? もしくは特徴とか」
「……名前はわかんない。でもすっごいイケメンで、確かヘッドホンを肩にかけてて、制服にパーカースタイルで…………あと、
「……パーカーにヘッドホンとなると、雪春さん……ですかね?」
「けどあいつはイケメンって感じじゃねえだろ」
「うん、どっちかっていうと女顔寄り」
「それに、使い魔って――」
「雪春はイケメンだろ」
陽色の証言を基に、人物の特定を進める五人の少女たち。
そんな少女たちに対し、冬二は真顔で告げる。
「……あ、そう……ね」
「ま、まあ……見ようによっては…………」
少女たちは歯切れ悪く、気まずそうに目を逸らした。
その一方で――
「雪、春……?」
陽色は静かにその名を口にしながら、驚愕の表情を浮かべ、そして叫んだ。
「噓ッ!? ――――じゃん!」
それは、冬二や五人の少女たちにとって、理解のできない言葉だった。
言葉の意味自体は理解できる。ただ、それがなぜ雪春の名と共に出てくるのかわからない。
そのため、詳しく問おうとした冬二たちだが、あまりにもタイミング悪く、陽色が未来へと帰る時間が訪れてしまう。
「っと、じゃあね! おじいちゃん――!」
急激に強まる周囲の光。その光に冬二たちの目はくらみ、やがて光が収まると、そこに陽色の姿は既にない。
「……最後の、なんだったんだ?」
「……さあ?」
陽色が帰還し、その場に残されたのは、何とも言えない微妙な空気。
しかし何はともあれ、二つの時代を巡る一連の騒動は、無事幕を閉じたのだった。
後日――
「雪春、今ちょっといいか?」
「ん? どうしたの冬二」
陽色が助けてもらったという人物、それが本当に雪春だったのかどうか。
それを確かめるため、冬二は教室で雪春へと声をかけた。
「実はその、俺の知り合いが雪春に助けられたって言っててさ。心当たり合ったりしないか?」
「…………あー、もしかして冬二そっくりの女子だったりする?」
「っ! やっぱり雪春だったんだな! ありがとう! 陽色を助けてくれて!」
「助けただなんて大げさだよ。一言二言喋っただけだし」
「それでも、陽色が助けられたって感じて、そう口にしたんだ。だからあの子の代わりに、何かお礼させてくれ」
別にいいのに――そう告げる雪春だが、冬二もお礼をすると譲らない。
結局、今度冬二がご飯を奢るという形で話がまとまる。
もっと何か形に残る物の方がいいのではないか――そんな冬二の案は、雪春が全力で却下した。
「じゃあ時間がある日、また連絡するよ」
「わかった、楽しみに待ってるからな。もし連絡が来たら、何をおいても放り出してそっちを優先する。だから遠慮なく連絡してきてくれ」
「今めちゃくちゃしにくくなったわ」
「あっ、そういえば雪春、『伝説のホールスタッフ』って何かわかるか?」
「……? なにそれ?」
冬二の問いかけに、雪春は本気で意味が分からないといった様子で首を傾げる。
「実は陽色……雪春の助けた子が、雪春の名前を聞いてそう呼んだんだ」
「…………」
「何か心当たりがあったり……って雪春!? どうした!? 顔が真っ青だぞ! 雪春!? 雪春ゥ!」