魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
学園 生徒会室――
最近、生徒会の様子に変化が生じてきている。
「あ、あの、会長……ちょっといいですか?」
「ん? どうしたの、進藤くん」
「しょ、書類のチェックをお願いしたくて……」
「……え、あ、僕に?」
「はい……ッ!」
「了解、確認しとくね」
「あり、がとうございます……ッ!」
こんなふうに、生徒会の後輩が、生徒会活動中に話しかけてくれるようになった。
といっても、業務以外での会話はまだない。しかし以前のように、書類等のチェックで、必要のないものまで
声を震わせながらであったり、全く目が合わなかったりはするものの、これは明らかな進歩だ。
この変化の要因だが、どうやら竹宮さんが裏でいろいろと動いているらしい。
昼休みや生徒会活動中に時間を作り、後輩役員一人一人とじっくり話し、僕が怖い存在ではないと説得してくれているとのこと(宗助情報)。
いやもう、竹宮さんがシゴデキすぎる……!
生徒会ではバリバリの主力。野球にも参加してくれて、さらに僕と生徒化役員の関係を取り持ってくれる有能っぷり。
周囲からは“鬼の副会長”だなんて呼ばれてるらしいが、鬼どころか神様仏様竹宮様だ。とても頭が上がらない。
それに、他の生徒会役員の後輩たちも、僕にビビり散らかしてはいるものの、悪い子たちでないのは見ていればわかる。
シゴデキな人格者の副会長に、性格がウンコではない後輩たち。なんだろう……、すごく居心地がいい……。
そうか……、ようやくわかった。今までずっと見つからなかった異能社会での僕の居場所は、
え?
とまあそんなふうに、副会長の尽力により、生徒会の雰囲気はかなりいい方向へと改善してきている。
だからこそ、僕は考えた。そろそろ、
「……竹宮さん、今ちょっといい?」
「はい、問題ありません。なんでしょう?」
僕が会長席から声をかけると、竹宮さんは処理していた書類から目を離し、顔を上げてこちらへと向き直る。
「その、学園の規則とか制度みたいなのを変えるのってさ、どうやってやればいいのかな? 例えば……、ランク制度を改善するとか」
「ランク制度……」
そう、僕が生徒会長を目指す際に立てた目標――『ランク制度と序列制度の抹消』。その計画を実行に移す時がついにきたのだ。
「……そういえば、『ランク制度の是正』と『学生間格差の改革』が会長の選挙公約でしたね」
「うん、だからそのやり方を竹宮さんに聞きたくて……」
自分でも生徒会規則を調べてはみたのだが、どうにも方法がよくわからない。
というか、規則に記載されている生徒会の権限だと、学園の規則や制度を変えるなんて、とてもできそうになかった。
……まあこの学園の規則なんて、あってないようなもんなんですけど。
「……そうですね。結論から言わせてもらいますと、生徒会に学園の規則や制度を変えるといった権限はありません」
「…………ないの?」
「はい」
……あれぇ? でも前生徒会長、めちゃくちゃ色々やってた記憶あるんですけど。
冬二と敵対し、ケガさせた生徒を停学にしたり。
冬二を退学させようとした教師を、逆に辞職させたり。
冬二を序列入りさせるため、ランク制度に特例を作ったり。
……冬二関連ばっかだな。権力の乱用では?
「おそらく
「……? なんで急にランクなんか…………あ、もしかして
「はい」
この学園において、異能ランクがAと認定された学生は、『序列○位』といった形で順位付けされる。
それを“序列入り”と呼び、序列入りした学生――序列生には様々な特権が学園から与えられるのだが、その特権は多岐に及ぶ。それこそ、普通なら学生が持てるはずのない権限だとか、そういった分野にまで。
それを踏まえた上で、話の流れから察するに……。
「姫ヶ先さんが会長時代に行った取り組みは、そのほとんどが“序列入り特権”によるもの。生徒会長という立場を活かしつつ、その上で特権を行使していたからこそ、姫ヶ先さんはあれほど大きな権限を有していたんです。ですので、この学園の生徒会が持つ権限は、普通の学校とそう変わりありません」
……そういうことかぁ。
通りで、生徒会の規則には載ってないはずだ。学園の制度や規則を変えたりは、そもそも管轄が違うかったわけで。……まあ学生がそれをできる時点でおかしいんですけど。
でもそうなると、選挙で僕が当選できたのにも納得がいく。
そりゃテキトウに投票するやつもいるよね。誰が生徒会長になったって、自分の学園生活に大きく影響することはないんだから。
ええ……、じゃあ僕が生徒会長になったのは無駄だったってこと……?
バイト先のアホ共のせいで、悪評まみれにまでなったのに?
いや、立場的には生徒の代表だし、全くの無駄ってわけではないんだろうけど……。でもなぁ……。
「……その、なにか方法とかあったりしないかな?」
どうしても諦めきれない僕は、再度竹宮さんに問いかける。
ほとんどダメ元での問いかけだったのだが、竹宮さんの返答は、意外にも希望が見えるものだった。
「……あるにはあります」
「ほんと!?」
「はい。序列生が強い権力を持つのは確かですが、当然ながら全てを好き勝手できるわけではありません。一定以上の権力行使においては、その正当性を判断するため、『序列会議』での承認が必要となります」
序列会議……、確か冬二や茜がたまに参加してるやつだな。序列生だけが参加できるとかなんとか。
「ですので、『ランク制度の是正』および『学生間格差の改革』の二つの案に関して、序列生の誰かに行使してもらう形をとり、それが序列会議で承認されれば、会長の望みは叶います。もちろん、承認が通った後の調整も含め、そう簡単な話ではありませんが……」
なるほどなるほど。そういったやり方なら可能なのか。
僕は竹宮さんの案を聞き、希望を示してくれたことに心から感謝する。
「承認……」
……ただその一方で、こうも思ってしまった。
「……竹宮さん」
「はい?」
「例えばなんだけど……、『序列入りしている学生、および序列会議が持つ全ての権限を生徒会に委任する』――みたいな案を提案して、それが序列会議で通ったりすれば、後は生徒会だけで自由に制度を変えられたりできないかな?」
「っ!?」
僕の思い付きの発言に、竹宮さんはなぜか驚愕の表情を浮かべ、そして特に考え込む様子もなく、
「できるかできないかで言えば、できます」
「っ……!」
竹宮さんは迷いなく断言する。『多分』や『かもしれない』という言葉は使わず、確かに『できる』――と。
「元々、姫ヶ先さんも同じ考えを持っていたんです。会長のおっしゃったように、全てというわけではありませんが、序列生が持つ権限をいくつか生徒会に移せないかと。そのため、制度的に問題がないかを姫ヶ先さんと調べたことがありましたので」
「その結果、特に問題なかったと」
「はい。学園側にも確認を取りましたが、『学生側で決めたことに介入する気はない』との回答をいただいています」
この学園さあ……、学生を信じ過ぎじゃない? 悪意を持った学生が権力乱用したらマズいと思うんですけど。前会長とか、前会長とか。
「ただ、生徒会への権力委任を『序列会議』で通すということは、序列生が今持っている権力を自ら手放すことに他なりません。当然ながら、そのようなことに序列生が賛成するはずもなく、以前もそれがネックとなり、考えを実行に移すことはできませんでした」
「まあそりゃそっか。……ちなみにだけど、『序列会議』で承認されるには具体的にどうすればいいの?」
「全序列生のうち、過半数の賛成が必要になります」
「今、序列生って何人いるんだっけ?」
「確か8人です。……しかし随分と増えましたね。例年、片手で足りる数しかいないと聞きますが」
8人……つまり過半数だから5人の賛成が必要と……。
………………あれ、いけるくない?
え、五人でしょ? なんとかなるんじゃない???
冬二に、茜に…………いや、少し不安要素が強いか。
うーん……、勝負に出てもいい気はするけど、やっぱり確実にいきたいな。
あと一人……、あと一人賛同してくれそうな人がいれば、勝率がグンと跳ね上がるんだけど……。
「……っと、会長、そろそろバイトの時間ではないですか?」
「あ、ほんとだ。じゃあ僕はこれでお先に」
「はい、お疲れ様です」
Aランクレベルの実力を持ち、なおかつ僕の考えに賛同してくれる学生が、タイミングよく転校してきてくれたりしないだろうか?
そんな都合のいいことを考えながら、僕は帰り支度をし、生徒会室を後にした。
――――――
暴徒鎮圧高度作戦異能北鎮部隊――通称、
それは日ノ本における防衛の要であり、国内最強と名高い異能部隊。
そんな異能部隊の本部、第三分隊の隊長室にて、二人の人物が真剣な表情で向かい合っていた。
一人は、その部屋の主である第三分隊長。
そしてもう一人は、まだ学生ほどの見た目の、刀を腰に携えた少女。
「
第三分隊長である女性――
一方でその深国も、奥寺の視線に怯むことなく正面から受け止め、力強く言葉を返す。
「はい、もちろんです」
「ならいい」
奥寺はそこで言葉を止めると、一度深く息を吐き、改めて続きの言葉を告げた。
「……ここ最近、訓練に集中できてないことが多々あった。おそらく疲労が溜まっているのだろう。お前は非常に優秀だが、まだ十七歳。私たちも少し無理をさせ過ぎた。……だが理由はどうであれ、任務によっては命の危険もあるこの部隊に、そういう人間を置いておくわけにはいかない」
「…………」
「深国
北鎮部隊は、異能者にとって花形とも言える組織。
そのため、部隊から離れるよう命じられることは、本来不名誉なことに他ならない。
しかし奥寺からの通告を受けた深国は、不満の一つも口にすることなく、ただその場で佇んでいた。
ショックを受けるどころか、むしろやる気をみなぎらせるような、そんな表情で。
――――――
おまけ
雪春がバイトへと向かってすぐのこと、皆が黙々と仕事を行う中、一人の女子生徒が生徒会室を訪れる。
「やあみんな、調子はどうだい?」
「……え? 会ちょ……姫ヶ先さん?」
「フフッ、竹宮に名前で呼ばれると、もう会長ではないのだなと実感するよ」
その来訪者は、雪春の前任に当たる存在――前生徒会で生徒会長を務めた人物だった。
当然、前生徒会にも所属していた竹宮にとっては顔なじみの相手であり、そのため突然のことに驚きながらも、姫ヶ先の来訪を素直に喜ぶ。
「今日はまたどうしてこちらに?」
「別に大した用はないさ。新しい生徒会が発足してからそれなりに経ったわけだし、どんな様子か少し見てみたくてね。もちろん、迷惑だったらやめておくよ」
「いえ、迷惑だなんてそんな。ぜひ見学していってください。みなさんも構いませんか?」
「「「もちろんですッ!」」」
竹宮が生徒会役員たちに確認を取ると、彼らは色よい返事を口にする。
彼らにとって姫ヶ先は、生徒会の先輩であり、学園の序列生でもあるカリスマ的存在。断る理由が、彼らにはなかった。
「ありがとう。あと、もっと楽にしていいからね。元生徒会長だからといって、仕事ぶりにアレコレ言うつもりはないし、本当にただ見学に来ただけだから」
「いえ、姫ヶ先さんの視点から、気になったことがあれば遠慮なくおっしゃってください」
「そうかい? じゃあ早速なんだけど……新しい生徒会長くんはどこに?」
姫ヶ先が目を向けるのは、まだ生徒会の活動時間にもかかわらず、空席となっている生徒会長の椅子。
机の上も綺麗に片付けられており、その状況を姫ヶ先は不思議に思う。
「会長ならバイトで、既にお帰りになられました」
「ああ、そうなんだ。新しい生徒会長くんの仕事ぶりも見てみたかったんだけど、今日はタイミングが悪かったかな」
「いえ、会長は毎日この時間にはバイトに行かれるので、日にちは関係ないかと」
「…………毎日?」
「はい」
「…………」
それはさすがにどうなんだ――姫ヶ先はそう口にしかけたものの、先ほど『仕事ぶりにアレコレ言わない』と告げたばかりのため、ぐっと我慢する。
「あの……竹宮副会長、少しいいですか?」
「はい、かまいませんよ。どうしました?」
「書類でわからないことがあって、ここなんですけど……」
竹宮が後輩役員から相談を受けると、会話はそこで一度ストップする。
そのため、姫ヶ先は仕事の様子をしばらく黙って観察し続けた。
基本的な仕事内容は、自分のいたころと大きく変わらない。
ただ会長が不在のためか、副会長である竹宮が会長の代わりとなることで、仕事を回している。
それは姫ヶ先からすれば、あまりにも見慣れない光景だった。
『私は、会長の指示に従います』
姫ヶ先が会長だったころの竹宮は、まさに苛烈。
定められたルールを決して破らず、指示された仕事を完璧に遂行する存在だった。
その仕事ぶりは、周囲が近寄りがたいと感じるほどで、ついたあだ名は『鬼の副会長』。
そしてハッキリと指示を待つ側の人間であり、誰かに指示するような竹宮の姿を、姫ヶ先はほとんど見たことがない。
それが今は――
「……ですので、このやり方で進めてしまってかまいません」
「いいんですか? 会長の意見とかは……」
「会長からは私の裁量で問題ないと言われています。なので心配する必要はありません。もし問題があれば、私がそうするよう指示したと言ってくれて大丈夫ですから」
後輩に指示を出し、優しく気づかうような様子も見せている。
それは、姫ヶ先が会長だったころには引き出すことのできなかった、現生徒会副会長の竹宮の姿。
「無用な心配だったか……」
姫ヶ先は後輩の成長とも呼べる変化を喜び、生徒会が上手くいっていることに安堵する。
そして同時に、もう自分の知る生徒会ではないのだと実感し、少し寂しさを覚えたのだった。
前生徒会長と現生徒会長の生徒会比較
〇前生徒会長
・強烈なカリスマと凄まじい行動力によるトップダウン型。
・仕事の細かいやり方も、ほとんど自分で決める。
・誰よりも遅くまで残って仕事をする。
〇現生徒会長
・トップがほとんど何もしないことによるボトムアップ型。
・よくわからないため、仕事のやり方に口を出せない。
・真っ先に帰る。
・ハンコ押し係。
・上から予算を無限に引っ張ってくる。
次回から新章がスタート。
ついにあの闇へと迫ります。