魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「みなさ~ん、今日は転校生を紹介しま~す。それじゃあ、あいさつ~」
「
与えられた極秘任務を遂行するため、魔導王の統べる学園へと転校してきた少女――深国亜夜。
日ノ本最強と名高い北鎮部隊。その第三分隊に所属(表向きは休隊中)する彼女は現在――
「深国さんって、中等部までウチにいた深国さんだよね!?」
休憩時間になると、さっそくクラスメイトたちに囲まれ、質問攻めにあっていた。
「ああ、その深国で間違いない」
「やっぱり!」
「ねえ、私のこと覚えてる? 中学三年の時、一緒のクラスだったんだけど……」
「えっと……すまない」
「あっ! いいのいいの! ほとんど話したことなかったし、覚えてなくて当然だから!」
「北鎮部隊にスカウトされて、部隊の提携校に入ったって聞いたけど、なんでまたウチに?」
「守秘義務があるから具体的なことは言えないが、諸事情で部隊を一時休隊することになったんだ。それで、どうせ休隊するならその期間、レベルの高い学園で学んだ方がいいだろうと――」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、深国は一つ一つ丁寧に返していく。
もちろん、全てを正直に答えるのではなく、事前に用意していたカバーストーリーも交えながら。
そんな折――
「前にも通ってたんなら、建物の案内とかは必要ないか? けどッ! 聞きたいことがあったら、なんでも俺に聞いてくれよな!」
「……誰だコイツ?」
「四組の矢川だよ。転校生が女子だって聞いてスッ飛んで来たんだろ」
気づかぬうちに群集をかき分け、深国のすぐ目の前を陣取っていたのは、どこか軽薄そうな雰囲気の男子生徒。
周囲から矢川と呼ばれるその男子生徒は、異様に高いテンションで深国へと話しかける。
深国はその勢いに少し押されながらも、この状況を好都合と考え、
「聞きたいこと、か……。実は、同じ分隊に所属している人から、『学生時代お世話になった人に挨拶しておいてほしい』と言われているんだ」
「……となると、教師やメンター辺りか?」
「ああ、登坂というメンターらしいんだが、その人のいる場所を知っていたら教えてほしい」
「『
来たッ!――心の中で、深国は力強く拳を握る。
矢川に尋ねるまでもなく、彼女は事前に知っていた。登坂が現在受け持っている学生の中に、雪春がいることを。
それでも敢えて尋ねたのは、周囲に怪しまれることなく、雪春に接触する理由を作るため。
あまりにも自身の思惑通りに事が進み、深国は任務の順調な滑り出しを実感する。
「そうなのか、教えてくれて感謝する」
「いいってことよ! ただあいつに会いたいなら、できるだけすぐ教室に――ってヤベッ! 次、異能歴史学だった!」
発言のちょうどその最中、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、矢川は最後まで言葉を言い切ることなく、慌てて教室から走り去ってしまう。
しかし深国からすれば、聞きたいことは既に聞けたため、それを気に掛けることはなかった。
そうして、昼休み――
二年四組の教室に足を運んだ深国は、入口付近にいた生徒に声をかける。
「すまない、渡谷くんを呼んでくれないだろうか?」
「え? どっちの……って、そんなの決まってるか。わかった、ちょっと待ってて」
その生徒は素直に深国の言葉に応じ、目的のクラスメイトを呼びに行く。
そしてほとんど間を置くことなく、呼びだした生徒が姿を現した。
隊長室で渡された写真にて、事前にその姿を確認し、脳裏に焼き付けた相手。渡谷雪春――
――とは似ても似つかない、全くの別人が。
「
「…………」
「…………」
「……誰だ?」
「いやそれこっちのセリフ」
昼食の最中に急な呼び出しを受け、素直に応じたにもかかわらず、失礼な言葉を浴びせかけられた男子生徒――
ワタガヤを呼んでくれ――そう確かに告げたはずが、何をどう間違ったのか。
深国は首をかしげながら、ふと、先ほどの生徒が口にした『どっちの』という言葉を思い出す。
「……もしかして、このクラスには“ワタガヤ”が二人いるのか?」
「なんだ、雪春に用があったのか」
深国の疑問に対し、冬二の反応は肯定を意味していた。
そうとわかれば、もう一人のワタガヤを呼んでもらえばいいだけ。
「申し訳ない、どうやら行き違いがあったようだ。……それで、図々しいのは承知だが、渡谷雪春くんを呼んでもらえないだろうか?」
「雪春ならちょうど席を外してるんだ。用があるなら俺が聞いとこうか?」
「いや、それなら大丈夫だ。手間をかけさせるのも悪いし、また出直すよ」
深国の目的は、雪春に用を伝えることではなく、雪春と直接会うこと。
そのため、角が立たないよう冬二の申し出を断る。
しかし――
「遠慮しなくていいって。またそれで入れ違いになってもアレだろ。何の要件かだけでも伝えておくから」
「あー……その、雪春くん本人じゃないとダメな要件で――」
「なら大丈夫だ。俺は雪春で、雪春は俺みたいなもんだから」
お前は渡谷雪春の何なんだ――思わず口にしかけたその言葉を、深国はなんとか飲み込む。
「雪春には絶対伝える。だから言ってくれ。雪春に何の用だ?」
「いや! 本当に大丈夫だから!」
「俺も大丈夫だから!」
「何がッ!?」
深国がどれだけ断ろうとしても、冬二は異常なほどしつこく食い下がる。
ふざけているような様子はなく、どこまでも真剣な表情の冬二に、深国はかすかに恐怖を覚えた。
もう無視して戻ってしまおうか――深国がそう考えた直後、見覚えのある男子生徒が二人の間に割り込む。
「ストップストップ!! 落ち着け冬二ッ!」
それは先ほどの休憩時間、深国に雪春の存在を伝えた矢川宗助だった。
「ごめんな、亜矢さん。冬二のやつ、普段はほんとにいいやつなんだけど、雪春が絡んだ時だけおかしくなるから……」
「そ、そうなのか……」
深国は雪春と接触することに、わずかな不安を覚える。
「それと、さっき伝え損ねちまったんだけど、雪春は昼休みになるとすぐ教室から出てって、授業が始まるギリギリまで戻ってこねえから、チャイムが鳴ったら相当急がねえと会えねえんだわ。確か、目的は登坂メンターだったよな? いきなり尋ねるよりは取次ぎがあった方がいいんだろうけど、それだと遅くなるだろうし――」
宗助は冬二の暴走をなだめながら、登坂のメンター室の場所を深国に伝える。
登坂に会いたいというのは、深国にとってあくまで建前でしかないものの、建前として口にしている以上、どうでもいいという態度を出すわけにはいかない。
深国は宗助に感謝の言葉を述べつつ、その場にいる理由をなくしたため、二年四組の教室を後にするのだった。
そして、二年四組を離れたその足で、深国は登坂のメンター室へと向かう。
もしかすると、そこに渡谷雪春がいるかもしれない――そんな考えのもと、特に迷うこともなく、無事メンター室にたどり着く。
「……よし」
一度、部屋の扉の前で深呼吸。そして普段、隊長室へ入る時と同じように、制服の乱れを整え、すみませんと告げながら部屋の扉をノックした。
「…………?」
しかし、それに対する応答はない。
ただ、部屋の中には人の気配があり、ハッキリとは聞こえないものの、何かを話し込んでいるような声も聞こえる。
ノックに気づかなかったのだろうか?――そう不思議に思い、深国は再度ノックするが、やはり返事はない。
「……失礼します。突然すみません、登坂メンターに用がありまして……」
しばらく迷った末、このままでは埒が明かないと考え、深国はゆっくりと部屋の扉を開く。
すると部屋の中では、
「ガ、ガルバーッ!」
「ルルアモア!」
「ヤーガーバー!」
「「「エンリヤァァァァ!!」」」
三人の学生たちが、その中心で
「…………」
深国は静かに扉を閉めた。
「待ってくれッ!!」
そしてすぐさま、また勢いよく扉が開かれる。
扉を開いたのは、男子の制服を着用した女子学生――光華夏美だった。
光華はこれ以上とないほど慌てた様子で、深国に対し弁明を始める。
「ち、違うんだッ! これは、その……アレだ! 烏丸さんが寝ぼけて召喚した冒涜的生物を、儀式で送り返そうとしていただけで……ッ!」
「わかった! わかったから少し落ち着いてくれ!」
「申し訳ないがキミも手伝ってくれ! 四人いれば成功率が上がるらしいから!」
「……え?」
了承を得るよりも早く、光華は深国を部屋の中へと引っ張り、そして深国も強く抵抗することなく、部屋の中へと引っ張られていく。
そして――
「ガルバーッ!」
「ルルアモア!」
「ヤーガーバー!」
「ニャ、ニャルランパ!」
「「「「エンリヤァァァァ!!」」」」
……なんだこれは――そんな疑問を抱きながら、深国はメンター室にいた学生たちと輪になり、両手を上げて謎の呪文を唱える。
深国たちが輪になるその中心には、人の胎児に似た、しかし決定的に何かが違う、そんな粘液状の生き物が床に横たわっていた。
その生物に目を向けると、それだけで自身の心の奥底から、生物としての根源的な不安が湧き上がるのを深国は感じ取る。
そうしてついに、儀式を完了し終えると、冒涜的な見た目の生物は『マタ、アソ……ボ』という音を発し、ゆっくりとその場から消えていく。
そこでようやく、部屋に漂っていた緊張感は霧散し、深国以外の三人の学生たちはそれぞれ椅子やソファに腰を下ろした。
「あぁ! ……ったく、昼休みに余計な手間かけさせやがって」
「お願いだから、力を制御する術を身に着けてくれ」
「ご、ごめんね、みんな……」
髪色が三色の男子学生――蛇塚秋人と一緒に、光華は小柄な女子学生――烏丸冬歌へと文句を告げる。
そして一通り言いたいことを言い終えると、光華はその視線を深国の方へと向けた。
「キミも、手伝ってくれてありがとう」
「いや……、私はただ言われた通りのことをやっただけだ」
「それでも本当に助かったよ。……そういえば、キミはどうしてここに?」
「実は、登坂メンターに用があるんだが……」
深国がそう告げると、光華の表情が申し訳なさそうなものに変化する。
「ああ……、すまない。メンターはちょうど不在なんだ」
「そうなのか……。ちなみに、どこにいるかわかったりは――」
「どうせどっかのパチ屋だろ。そもそも、アレが日中ここにいる方が珍しいからな」
「パ、パチ屋……?」
何かの隠語だろうか?――ぶっきらぼうに告げる蛇塚のその言葉を、深国は疑問に思う。
しかしそれ以上の追及はすることなく、続けざまに、
「なら、『渡谷雪春』くんがどこにいるかを知ってたりしないだろうか?」
「「「…………」」」
「……?」
雪春の居場所を問いかけたその瞬間、光華たち三人の視線が鋭くなり、心なしか空気が重くなったのを深国は感じ取る。
「……一応聞くけど、リーダーに何の用だい?」
“リーダー”――光華のその言葉を聞き、深国は理解した。ここにいる三人は、雪春をリーダーとした、同じチームのメンバーなのだと。
であるのならば、好印象を与えておくに越したことはない。
「登坂メンターの居場所とか、そういったことを周りに聞いていたら、彼のことも耳にしてね。それで、彼にすごく
興味を持った動機として、少し無理があることは深国自身も自覚している。
それでも、今後雪春と接触していくうえで、『不審に思われないための理由づくり』を優先した発言だった。
それに、自分たちのリーダーに興味があると言われて、光華たち三人も悪い気はしないだろう、といった打算もありながら。
しかし、そんな深国の思惑とは裏腹に、光華はその表情をあからさまに暗くする。そしてさらに――
「……チッ」
蛇塚の口から漏れたのは、聞き間違えようのない舌打ちだった。
しかも、それだけでは終わらない。
「おい、お前もう部屋から出ていけ」
「なっ……!?」
舌打ちに続き、メンター室から退出するよう蛇塚は命令する。
ただ当然ながら、そのような乱暴な言い分を、素直に受け入れられるはずがない。
「なにか気に障ることを言っただろうか……? だとしたらすまない。だが、私はただ――」
「いいから出ていけっつってんだよ!」
「せめて理由くらい教えてくれ! 出て行けなどと言われる理由が――!」
「別によぉ……、お前が出ていかねえっつうなら、力尽くで部屋から出してやってもいいんだぞ」
そう告げながら、蛇塚はゆっくりとソファから立ち上がる。脅しではなく、本気なのだと言わんばかりに。
「…………」
これにはさすがの深国も、激しい怒りを覚えた。
部屋を訪れると、いきなり意味のわからない儀式に協力させられたにもかかわらず、こちらが『渡谷雪春』の居場所を聞いただけで、部屋から出て行けと突き放されたのだ。納得、できるはずがない。
「……ふざけやがって」
深国の口から、思わず
蛇塚と深国、二人が睨み合い、まさに一触即発の状態になったその時、
「登坂はいるか?」
新たな来訪者――学園教師の立花美咲が、突如メンター室の扉を開いた。
深国は咄嗟に視線を立花の方へと向け、そしてまたすぐ、睨み合っていた蛇塚に戻す。
するとそこには、体の両脇に腕をピタリとつけ、角度90度のお辞儀をキープする蛇塚の姿があった。
「……は?」
そしてそれは蛇塚だけでなく、光華と烏丸も同じように蛇塚の隣に並び、角度90度のお辞儀をキープしている。
「「「お疲れ様です! 立花先生!」」」
「ああ、楽にしていい。それより登坂はどこだ?」
「近所のパチンコ店かと思われます!」
「…………チッ」
「ッ……!」
立花のその舌打ちを耳にし、強烈な悪寒が深国の全身に走る。
若くして北鎮部隊に身を置き、命のやり取りをも経験済みの彼女が、思わず肝を冷やすほどの本気の殺気。
そして、その殺気を放つ立花の視線が、深国へとゆっくり向けられる。
「お前は…………転校生か。ここで何をしている?」
「そ、わ、私は……」
「もうじき昼休みも終わる。用がないなら教室へ戻れ」
「し、しかし……ッ!」
「戻れと、そう言っている」
「ッ……」
それは先ほど蛇塚から告げられたものと、ほぼ同義の言葉。しかし蛇塚の時とは違い、己よりも圧倒的強者を前に、深国は文句の言葉一つ発することができない。
本能が、目の前の存在には逆らうなと、そう告げている。
そのため、彼女はまたもや目的を果たすことができず、ただ素直にメンター室を後にすることしかできなかった。
結局、昼休み中に何の成果も得られず、気を落としながら自分の教室へと戻る深国だったが、そんな深国に対し、同じようにメンター室から出てきた人物が声をかける。
「待ってくれ、さっきはすまなかったね」
「…………」
「光華だ、光華夏美。よろしくね、深国亜矢さん」
「なぜ私の名前を……」
「当然知ってるよ。なにせキミは、中等部の時から“序列入り”していた有名人なんだから」
先ほどのこともあり、光華に対して少し身構えていた深国だが、蛇塚と違い、その物腰は柔らかい。
そしてさらに、チームメイトの悪態をフォローするような姿勢も見せる。
「さっきキミと言い合ってた蛇塚くんだけど、どうか彼のことを悪く思わないでやってくれ」
「……しかし、あいつは一方的に――」
「彼がああしなければ、
「……? それは一体どういう――」
「リーダーに会いたいのなら、放課後生徒会室に行くといい。キミがさっき言っていた通り、リーダーは生徒会長だからね」
深国の疑問を遮るような形で、光華が告げたのは、深国が
光華はそれで用は済んだとばかりに、そのまま深国に背を向け、片手を上げて去っていく。
「それと……、リーダーに会うのなら気を付けなよ。彼はチームの中で……いや、ボクがこれまでの人生で出会った相手の中で、誰よりも性格が悪いからね。キミのつく嘘なんて、簡単に見破られるよ」
どこか意味深に、雪春との接触をますます躊躇わせるような、そんな言葉を告げながら。
放課後――
深国の任務は、犯罪組織の可能性があるファミレス店の調査。
雪春と接触することは、あくまでその第一段階であり、そこに手間取ることなどあってはならない。
今度こそ、渡谷雪春との接触を果たしてみせる――そんな強い決意を胸に、深国は生徒会室へと向かう。
転校の手続きなどがあり、少し遅くなってしまったが、時間にすればたったの三十分程度。ならば何の問題もないはず。
そんな、ついに雪春との対面を確信する深国に対し――
「会長なら先ほどお帰りになられました」
――鬼の副会長は、無慈悲に告げるのだった。
任務初日 渡谷雪春との接触 叶わず――
Q.一番性格の悪い『愚蓮努羅魂仏血切離《ぐれんどらごんぶっちぎり》』のメンバーは誰?
烏丸「え? リーダー」
蛇塚「リーダーだな。あくまでオレ個人としては」
光華「リーダーじゃないかい? 『性格がヤバい』とかならまた話は変わってくるけど」
雪春「僕と蛇塚以外のどっちか」