魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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悪魔召喚③ / バスジャック

 

 

 週明けの月曜日――それは一週間でもっとも憂鬱な一日であり、ジ〇ンプくらいしか楽しみのない日。

 

 しかし今日は違う。

 原付で登校中の僕の心は憂鬱どころか、これ以上とない期待に満ち溢れていた。

 

「むー」

 

 そう、今日はこのおかしな鳴き声をする悪魔――『ムー』のお披露目の日だ。

 僕のかぶっているヘルメットにしがみつき、気持ちよさそうに風を感じている姿からは考えられないが、これでも位の高い悪魔らしい。本には載ってなかったけど。

 

 そんな召喚することさえ難しいはずの悪魔を、完璧に付き従えた僕が教室に現れる。

 そうすればクラスメイトは僕に恐れおののき、尊敬の眼差しを向けられ、一躍クラスの人気者に――とまではいかずとも、授業で低級悪魔すら召喚できなかったクソザコという評価は払拭できるはずだ。

 周りからの評価がプラスにならずとも、マイナスにはなりたくない。

 なんとか『落ちこぼれボッチ』から『ノーマルボッチ』へと返り咲かねば。

 まあもちろん、人気者になる可能性も無きにしもあらずなわけだが。うん。

 

 

 

 

 数分後、僕は教室の扉の前までたどり着く。

 心臓の鼓動が速くなるのを自覚し、一度深呼吸をする。

 思えば、この異能社会に飛び込んでからというもの、異能者として残した実績は皆無であり、成長するのはゲームの腕ばかり。

 最近はいろんなジャンルのゲームで、上位ランカーとして君臨するまでになった。

 自分が何の学校に通っているのか、たまにわからなくなる。

 

 しかし今日、いい方にも悪い方にも振り切れなかった僕が、初めて異能者としての爪痕を残すことになるのだ。

 緊張しない方が無理というもの。

 この日を境に、僕は生まれ変わる。NEW渡谷雪春に!!!

 

 いざ――――!

 

 僕は教室の扉を勢いよく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後――――

 

 

 結論から言おう。ダメだった。

 

 僕はまずいつも通り教室に入って自分の席に着き、いつも通り授業を受けた。

 そしていつも通り休憩時間を一人で過ごし、いつも通り放課後を迎えた。

 

 要するに何もなかったのだ。

 

 誰もいなくなった夕暮れの教室で、僕は一人自分の席に座りながら――――

 

「むー」

 

 違う、一人と一匹、席に座りながら、どうしてこうなったのかを考える。

 いや、考えるまでもない。これ以上とない至極単純な理由。

 

 

 それは――『ムー』の姿が僕以外には見えなかったことだ。

 

 

 教室に入った時、僕の周りを気持ちよさそうに飛び回るムーに対し、誰も視線を向けなかった時点で嫌な予感はした。

 そして授業中、暇になったのか教室中をフラフラ飛び回っていたムー。

 明らかに授業の邪魔になるような位置にいる場面もあったのだが、先生含めてクラスメイトが誰一人としてそれを指摘しなかったことで、僕以外に見えていないことを確信した。

 

 まさか特殊能力が不可視パターンだったとは……

 やっぱり本にちゃんと記述のある悪魔を召喚すればよかったちくしょうめ。

 いくらすごい悪魔でも、他人に見えなければ意味がない。僕の承認欲求も満たされない。

 見えてなくて良かったと思ったのは、立花先生の頭を尻尾でペチペチと叩き始めた時くらいだ。

 絶対あれで寿命縮んだよ。

 

「むーむー」

 

 何が嬉しいのか、ムーは相変わらず楽しそうに僕の目の前で浮かんでいる。

 その姿を見ると、虚無感だとか徒労感だとか、そういうものがどうでもよくなってしまう。

 まあでも、立花先生クラスでも見えなかったとなると、相当強力な能力なのだろう。

 きっといつか、その能力が役に立つ日がくるはずだ。今のところ悪用方法しか思いつかないけど。

 

「……帰るか」

 

「むん!」

 

 うん、とばかりに返事をするムー。

 まるで僕の話す内容を完璧に理解しているようだった。

 

 

 あとお前、『む』以外もしゃべれたのね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎の外に出ると、校門前で人だかりができていた。

 何かあったのだろうかと思い近づくと、僕はすぐさまその人だかりの理由を理解する。

 

 校門前、そこにはメイド服を着た絶世の美女がいた。

 

「うわっ、すご……」

 

 腰まで伸びた美しい黒髪、信じられないほど整った顔立ち、宝石のように輝く瞳、上品なたたずまい。

 そのすべてが僕の貧相な語彙では語りきれないほどのもの。

 僕の人生における美女ランキング1位をぶっちぎりで更新する美貌だった。

 

 周囲の生徒も思わず足を止め、男女関係なくその姿に見惚れている。

 しかし誰も声をかけようとはしない。これが本当の高嶺の花というやつなのだろう。

 

 ちなみにその美女は周囲の人間には一切目を向けず、常に校舎の方を見つめ続け、誰かを待っているように見える。

 まあその誰かはなんとなく想像がつく。

 

 僕は特定の人物の顔を思い浮かべながら、人ごみをかき分けて美女のそばを通り過ぎる。

 ちょうどその時、校舎から美女にかけよる一人の少年が現れた。

 その少年は慌てながら美女にかけよると、周囲の誰もが声をかけるのをためらうなか、臆することなく言葉を投げかける。

 

「な、なんで学校にいるんだ!?」

 

 それにより、『お、おい、あいつ話しかけたぜ……!』という反応が周囲に広がっていく。

 当然、次に注目されるのは美女のとる行動だ。

 生意気にも話しかけに行った少年に対して、一体どんな反応を見せるのか。

 

 皆が息をのんで見守る中、美女の見せた反応は――――とびっきりの笑顔だった。

 

「使い魔である(わたくし)が、ご主人様をお迎えに上がるのは当然のことです」

 

 極上の笑みを浮かべた美女は、とろけるような甘い声を少年に放つ。

 その表情と声の破壊力は、その場にいた数人が気絶するほど。

 

 ちなみに言わずもがな、その少年とは冬二のことである。

 まったく、期待を裏切らないやつだぜ。

 どういった関係かはわからないが、仲良さげに話し込む冬二と美女。羨ましいという感情しか湧きあがらない。

 

 ただこういった場面に出会うのは初めてじゃない。入学してから同じような光景を見続けること1年以上。もはや慣れたものだ。

 そこらにいる嫉妬の視線を向ける一般モブとは違い、熟練モブの僕はクールに去るぜ。

 

「とにかく……ってあれ、もしかして体調でも悪いのか? 顔が真っ青だけど」

 

「いえ…………、問題ありません。はい」

 

「ならいいけど。とにかくここは人目が多い。まずここから離れよう――――オリエイナ」

 

 

 

 

 ()()召喚()したかったのに!!!

 

 

 

 

 僕は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

「このバスは俺たちが乗っ取った! お前らには人質になってもらう!」

 

 まあ、そろそろ時期的にもくるかなとは思ってたよ。

 

 ちょうど原付をメンテに出しており、バスでバイトに向かっていた時だった。

 停留所でガタイのいい男たちが三人乗ってきたかと思うと、懐から拳銃を取り出し、先ほどのバスジャック宣言である。

 異能が存在する街において、拳銃ひとつでバスジャックを成功させようとするバスジャック犯。むしろお前らが勇者だよ。

 

「お前たちを人質に政府と交渉し、投獄された『セーラス』幹部の解放を要求する」

 

 しかも政治犯だった。思った以上に要求が大きい。

 ならこんな僕を含めて一般庶民しか乗ってないようなバス狙うんじゃなくて、それなりに影響力のある人間を人質にとれよ。

 

 予定を狂わされたため、心の中で不満を爆発させていたその時、乗客のうちの一人であり、僕の前の席に座っていた同世代くらいの少女が立ち上がる。

 どこか高貴さを感じさせる金髪のその少女は、勇敢にもバスジャック犯たちに対して言葉を投げかけた。

 

「あなたたちは、セーラスの構成員なのですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

 少女は臆することなく、バスジャック犯たちを真っすぐ睨みつける。

 ビジュアル的にもこの少女が今回の主人公的立ち位置かな?

 

「『世界を神の手に返す』――――そのような崇高な目的のために活動するあなたたちが、何の罪もない一般の方々を人質にとるなど、恥を知りなさい」

 

 いいぞ、もっと言ってやれ!

 

「ふん、こいつら一般人はオマケみたいなもんだ」

 

 なんだとぉ。オマケで人質にされる身にもなれってんだこのやろう。

 

「俺たちの目的はもともとお前ひとりだ。なあ、ムーン王国の王女様よお」

 

「っ!?」

 

 ああ、そういうパターンね。把握。

 どう見てもモブのヴィジュアルじゃないし、オーラもガンガンに出てるから村人Aではないと思ってたけど、王女様でしたか。

 

「王女って、嘘、本物……!?」

 

「あ、私、テレビで見たことあるかも……!」

 

 バスジャック犯に立ち向かう勇敢な少女が王女だとわかり、バスの中は騒がしさが増す。

 去年の僕なら他の乗客と同じような反応になったかもしれないが、今さら王女程度で驚いたりはしない。

 感覚がどんどんおかしくなっているのは自覚している。

 

「なぜ……私がここにいるとわかったのですか?」

 

 王女様と呼ばれた少女は強気な態度こそ崩さないものの、その言動からして動揺しているのはまるわかりだ。

 一方のバスジャック犯はというと、動揺する王女様を見てご満悦の様子。

 気分が良くなったためか、ペラペラと自分たちの作戦を話し始める。フラグが一つ立ちましたわよ。

 

「俺たちはセーラスの持つ特別な情報網を使い、あんたがお忍びでこの街を訪れる情報を入手した。そこで綿密な計画を立て、今回のバスジャックに踏み切ったわけだ。親善大使として来日してる王女様が人質にされたなんてこと、大事にできるわけねえもんなぁ。どうあがいても日本とムーン王国間で溝ができるんだからよぉ」

 

 ……思ったよりちゃんとバスジャックやってるなこいつら。

 僕が見てきた中では一番優秀なテロリストかもしれない。

 今までは酒を飲みながら考えたのかってくらい雑な策で動く強盗犯しかいなかった。

 そうだよ、そういうのでいいんだよそういうので。

 

 ……いや違う。何考えてるんだ僕は。

 感覚がマヒしすぎて思考がおかしくなっている。 

 

「兄貴! バスの扉の間にこんなものが挟まってました!」

 

 僕が普通とは何かを思い出していると、バスジャック犯のうちの一人が大声を上げる。

 その手には一枚の紙きれが握られていた。

 

「なに!? まさか政府からのメッセージか? いやしかし、いくらなんでもバスジャックを把握するのが早すぎる」

 

「どうしますか……?」

 

「よこせ。俺が確認する」

 

 そう言って兄貴と呼ばれた男は紙きれをひったくると、書かれている内容に目を通す。

 男は最初こそ真剣な表情で紙きれを見ていたものの、すぐにポカンといった音が聞こえてきそうなマヌケな表情を浮かべると、最後には憐れむような表情に変化した。

 

「おい! 渡谷雪春ってやつはいるか!?」

 

 え、僕?

 

 バスジャック犯が唐突に僕の名前を呼ぶという謎展開に、思考が追い付かない。

 自分でも自覚できるほどおかしな表情を浮かべた僕を見て、バスジャック犯が僕のそばに近づいてくる。

 

「お前が渡谷雪春か?」

 

「あ、はい」

 

 バスジャック犯の威圧に負け、僕はほとんど無意識で返事をしてしまう。

 正直内心ドキドキだった。一体何をされるのかと。

 しかしバスジャック犯は何か大きなアクションを起こすことはなく、ただ先ほど読んでいた紙を僕に手渡しただけだった。

 

「えっと、これは……?」

 

「お前宛の手紙だ。読んでいいぞ」

 

 ……なんだろう、バスジャック犯の僕に向ける目が優しい気がする。なんでだ。

 意味が分からないが、下手にバスジャック犯を刺激するのも嫌なので、僕は素直に手紙と言われた紙きれを受け取り、その内容に目を通す。

 するとそこには――

 

 

『渡谷くんへ バスジャックが終わったらバイトきてね。店長より』

 

 

 …………くそがよぉ。

 

 

「まあ、その、なんだ……、元気出せよ」

 

 なんで僕はバスジャック犯から優しい言葉をかけられてるんだ。

 

「……別にお前のためじゃねえが、政府との交渉は長引くと考えてる。おそらく早くても今日の深夜だ。そのころにはガキがバイトに行けるような時間は過ぎてる。別にお前のためじゃねえがな」

 

 いや、あの店長(どクズ)なら呼び出す気がする。

 というかそんなに優しくしないで。スト症になっちゃう。

 まさか人生で初めてのツンデレが、バスジャック犯になるとは夢にも思わなかったぜ。

 

 

 

 なお、30分後には颯爽と現れた冬二によってバスジャック犯は三人共捕まり、事件は解決した。

 事件を解決した後、冬二は王女様と知り合いだったらしく、これでもかというほどイチャついていた。

 いつの間に一国の王女とのコネクションを築いてたんですかねえ。

 こっちはファミレスの王から鬼電されてるけど。

 

 

 王女様とイチャイチャする冬二に気を使い、僕は気配を消してバイトへと向かった。

 なぜかこういう時に限ってすぐ解放されるんだよね。事件を大事にしたくないとかいう意味のわからない理由で。

 本当に解せない。

 

 

 

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