魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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悪魔召喚④ / 女性の体

 

 

「渡谷雪春、今日このあと補習だ」

 

「聞いてない!!!」

 

「今言った」

 

 全ての授業が終了し、あとは帰りのホームルームを受けて帰るだけ。

 意気揚々と帰宅の準備を進めていた僕に、担任の立花先生が絶望の言葉を投げかける。

 

「この前の異能歴史学の小テスト、50点を下回っていたのは君だけだったぞ」

 

「うぐぅ……」

 

 それを言われてしまうと何も言い返せない。

 ゼ〇ダにハマってしまい、テスト勉強をサボりがちだったのは事実。コロ虐に忙しくてェ…。

 

「でもさすがに急すぎないですか? こういうのは生徒の予定もあるし、事前に知らせておいて……」

 

「ホームルーム後に補習を始める。いいな」

 

「……」

 

「いいな?」

 

「はい……」

 

 とても教職者とは思えない立花先生の圧に、僕は素直に従うことしかできなかった。怖すぎる。ほぼヤクザじゃん。

 

 

 

 

 

 

 そうして始まった補習の時間。

 教室にいるのは僕と立花先生だけ。

 静寂な空間で苦痛の時間を過ごす――そう思っていたのだが、

 

「あの、立花先生……」

 

「どうした? わからない所でもあったか?」

 

「いえ、そうじゃなくて……、どこか近くで戦闘訓練でもしてるんですか?」

 

 教室の外から、やたらと聞こえてくる爆音。

 静寂どころか工事現場にいる気分だ。

 比喩とかではなく、本当に爆発音みたいな音が聞こえてくる。

 まあそれ自体、この学園では珍しいことでもなんでもないのだが。

 ただ今日の音はいつもより激しい気がする。

 

「補習を受けている君には関係ないことだ。気にしなくていい」

 

 そう言って、僕の質問は適当にあしらわれてしまう。

 そりゃ関係ないけどさ。

 

 僕は内心でグチグチと文句を言いながら、プリントの問題を解き続ける。

 

 

 しかしその後も、ドカン、バン、ズドン――そんな音が教室で響く。

 なんなら音だけじゃなく、何度か軽い揺れも感じた。

 爆音が鳴るたびに、教室が揺れるたびに、立花先生へと抗議の意も込めて目線を送るのだが、先生はそれを徹底的に無視する。

 

 

 ……いやこれ、絶対なにかしらのイベントが校内で起こってるな。

 ホームルームが終わった際、冬二&いつものメンバーが慌てて教室を出ていったのも、間違いなく無関係ではないはずだ。

 くそぉ、僕はまたこういったイベントに関われないのか。しかも補習なんていうマヌケな理由で……。

 

 そう少し落ち込んだところで、僕はふとある考えが浮かぶ。

 校舎内の激しい音と揺れ、不自然なほど窓の外に目を向けない立花先生、あまりにも唐突な補習、なぜか埋まらない解答欄……

 それらの要素を全て繋げていくと、見えてくるたった一つの真実。

 もしかしたら僕は、とんでもないことに気づいてしまったのかもしれない。

 ああ、そうか。そういうことだったのか……。

 

 

 この補習は、僕を事件に関わらせないようにするために、意図的に仕組まれたものだったん――

 

「君のテストの点数が悪かったからだ」

 

「…………」

 

「君の表情を見れば、何を考えているのかなんとなくわかる。改めて言おう。君がこうして補習を受けているのは、君の、テストの、点数が、悪かったからだ」

 

 無慈悲な正論ビンタが僕を襲う。

 夢くらい見たっていいじゃないか。

 

「ちゃんとプリントの問題を解くことに集中しろ」

 

「……うっす」

 

 僕のささやかな現実逃避は、立花先生によってぶった切られてしまう。

 たしかにテストの点数は悪かったかもしれない。ただ『ムー』という不可視の使い魔がいながら、カンニングという行為に走らなかった僕の自制心を誰か褒めてくれてもいいのではなかろうか?

 

 僕はその後も内心でグチグチと文句を言いながら、ひどい環境下で問題を解き続けた。

 

 

 

 しばらくすると、ずっと続いていた騒音や揺れがやみ、教室内に待ち望んでいた静寂が訪れる。

 さすがにイライラし始めたところだったので、いいタイミングで静かになってくれた。

 これで集中して問題が解ける。

 

 えっと……、次の問題は選択形式か。

 

『Q.かつてムーン王国において、近代異能基礎――いわゆる五大基礎を制定した王の名を答えよ。

 

 A.ウンコ大王 B.ケルダ大王 C.ハブク大王 D.ベーラ大王』

 

 

 4択か……、まあAはないとして、一見Bに思えるが、これはひっかけに違いない。答えはCかDだ。

 そこまではわかるのだが、あと2択がしぼれない。仕方ない、ここは素直に先生に尋ねよう。

 2択に絞れただけでも、僕にとっては大健闘した方なのだから。

 去年の僕ならこれがひっかけ問題であることにも気づけなかっただろう。ちゃんと成長しているのを感じるぜ。

 

「先生、ここの問題なんですけど……」

 

 僕は質問のために顔を上げると、なぜか立花先生は教室の外、廊下の方に目を向けていた、

 心なしか、その表情は焦っているように見える。

 

「先生?」

 

「……私はしばらく席を外す。君は問題を解き続けていろ。それが終わったら今日はもう帰っていい」

 

「え、ちょ――」

 

「あとその問題の答えはAだ」

 

 そんなバカな!?

 

 かなり慌てた様子で教室を出ていく立花先生だが、僕の心はすでにウンコ大王に埋め尽くされていたため、その理由を推測する余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 10分後――

 

「ん~~~、疲れた~~~」

 

 苦戦しつつ、5割近くは適当に答えを埋めただけではあるものの、なんとか補習プリントを終わらせることができた。

 正直こんなひどい解答内容でいいのだろうかという罪悪感もあるが、先生が帰っていいといったのだ。

 大手をふって帰らせてもらおう。

 

 今日のコロ虐方法を考えながら荷物をまとめ、いざ帰ろうとしたその時、誰かが教室の扉を開く。

 一瞬、立花先生が帰ってきたのかと思ったが、扉を開けたのは男だった。

 

 それも人間ではなく、悪魔の――

 

「ここにいたか」

 

 扉の前に立つ悪魔――メイルカムイはまっすぐ僕を見据え、まるで僕を探していたかのようなセリフを口にする。

 

「…………」

 

「…………」

 

 僕は逃げ出した。

 

 これ絶対お礼参りだ!

 入り口は塞がれている。なら逃げ道は窓しかない。

 

「待て! 逃げるな! 別に貴様を害する目的でここにきたわけではない」

 

 その言葉を聞き、窓枠に足をかけたところで僕は動きを止める。

 

「…………ほんとにぃ?」

 

「ほんとだ。そもそも貴様に危害を加えるつもりなら、今ごろとっくに死んでいる」

 

「……」

 

 まあ最上級悪魔に分類されるような悪魔だ。

 事実かもしれないが、相変わらず腹立つなこいつ。

 

「というか貴様、報復されるようなことをした自覚はあったのだな」

 

「いや~……」

 

 そりゃあれだけ無理やり何回も呼び出したうえ、60匹近くのイワシを食べさせたもんな……

 もし僕がメイルカムイの立場なら絶対キレてる。そう考えると途端にいいやつに見えてきたな。

 

 少し警戒心が解けたこともあり、僕が自分の席に戻ると、メイルカムイは隣の席の机に腰を下ろす。

 もしかして割と長く居座るつもりかこいつ?

 

「あれ? でも報復しに来たわけじゃないなら、なんでここに?」

 

 そもそもの話、メイルカムイがここにいるということは、当然誰かが召喚して契約したということだ。

 ことあるごとに契約者の命を狙う悪魔を召喚するなんて、命知らずにもほどがあるとは思うが。

 

「そう不思議そうな顔をするな。こうして貴様に会いに来たの、は……」

 

 僕の問いかけた疑問に対し、まさにその答えを告げようとしていたメイルカムイだが、なぜか発言の途中で固まるように中断する。

 信じられないものを見てしまったというような表情を浮かべ、その視線は僕の背後――正確には僕の背後で気持ちよさそうに浮いているムーに向けられていた。

 

「むー?」

 

「おい、なんだそれ(・・)は」

 

「ああ、結局あのあと召喚した悪魔だよ。最後のイワシだったから、そのまま契約したんだ」

 

 そういえば、ムーの姿を僕以外で見ることができた相手って初めてだな。

 やっぱり悪魔同士だからだろうか。

 

「待て待て、そいつは――いや、見なかったことにするか」

 

 すっごく不穏なこと言う。

 見ないフリしないでよ、気になるじゃん。

 

「とにかく、こうして貴様に会いに来たのは、私の真名を伝えるためだ」

 

「真名……?」

 

「そうだ」

 

「別に伝えていらないんだけど」

 

「こちらが勝手に伝えるだけだ。貴様の意見は聞いていない」

 

 ほんとに勝手だな。

 

「私がこちらの世界で安全に過ごすためのものだと思えばいい。貴様には何のデメリットもないから安心しろ」

 

「はぁ」

 

「いいか、伝えるぞ。我が真名は――」

 

 次の瞬間、全く耳馴染みのない言語がメイルカムイの口から告げられる。

 その言語はおそらく地球上に存在しないものであると、頭で考えるよりも先に本能で察することができた。

 にもかかわらず、僕はなぜかその言葉の意味を理解する。理解できてしまう。

 

『ジャダル・フーリス・ルル・エルバエル・ジ・アーダ・クロロフォール・スクニコサ・ハヅリス・メイルカムイ』

 

 それが僕の頭に流れてきた情報だった。

 

「……上書きが完了したな」

 

 真名を告げ終えたメイルカムイは、自身の胸に触れながら何かを確認している。

 

「目的は果たした。私の真名、確かに伝えたぞ――今はまだ幼き者よ。ではな」

 

 別れの挨拶を告げると、メイルカムイはもう用はないとばかりに背を向けて教室から出ていく。

 その背中を見つめながら、僕は思う。

 

 

 

 

 

 メモを取りながら聞くから、もう一度教えてくれないかな、と。

 一回で覚えられるわけないじゃん、あんな長いの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 悪魔の真名――

 

 

 それは誰かに決められるものではなく、生まれながらにしてあるもの。

 その魂に刻まれ、悪魔を形作るもの。

 

 通常この世に召喚された悪魔は、契約者からの魔力供給が止まるか、心臓を破壊された際、元の世界へと還る。

 そのため、悪魔には死が存在しない。

 召喚さえされれば、何度でもこの世に蘇る。

 

 しかし、そんな悪魔を完全消滅させる方法が一つだけ存在する。

 それは悪魔の真名を知るものが、その悪魔に対して死を命じること。

 

 要するに、悪魔にとって真名を知られるということは、それだけで自らの命を握らせることに等しい。

 そのため悪魔は己の真名を、他の何をおいても隠し通す。

 

 もし仮に、悪魔が他者に真名を伝えることがあるとすれば、それは――

 

 

 

 

 ――死よりも恐ろしい何か(・・)に対する降伏の証。

 

 

『私はあなたに絶対に逆らわない。だからどうか、私を私のままでいさせて下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

  おまけ

 

 

 

 

 補習が終わり、意気揚々と廊下を歩いていると、立花先生が倒れていた。

 

「えぇ、なんでぇ……」

 

 さっき教室を出ていってから何があったんだ。

 見たところ外傷はないみたいだが、さすがに放置することはできない。

 とりあえず保健室に連れて行った方がいいだろう。

 

 僕は倒れている立花先生の腕を自分の肩に回し、勢いよく持ち上げて――

 

 ……持ち上げ――

 

 …………持ち――

 

 ……………持――

 

 

 

 ………………んおっも。

 

 

 よくよく考えたら、特に鍛えてもいない高校生の僕が、女性とはいえ大の大人をそう簡単に運べるはずがなかった。

 というか腕に触れてわかったけど、立花先生めちゃくちゃ固い。岩を抱えているんじゃないかと思うほどゴツゴツしてる。

 先生とはいえ、仮にも女性の体に触れるという状況に少し緊張していた僕の初心な感情は、いつのまにか驚きに塗りつぶされていた。

 

 筋肉って鍛えたらこんなに固くなるの?

 『鋼鉄の処女』のあだ名はだてじゃないな。

 

「ぐう、うおお……」

 

「むーむむ、むーむむ」

 

 僕が必死に、ほぼ引きずりながら運んでいる姿を見て、ムーがまるで『がーんばれ』と言っているかのような声を出す。

 メイルカムイはなんだか意味深なことを言っていたが、この使い魔はいつか役に立ってくれるのだろうか…………。

 

 結局そのまま、僕は引きずりながら立花先生を保健室まで運んだ。

 

 




次回、ことの表側が明らかに。
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