魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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10話の『結成』で出てきたメンバーの話です。



チームの絆① / 鎮鎮

 

「なぜお前たちが呼び出されたかわかるか?」

 

 教壇に立つのは普段から険しい表情をさらに険しくした立花先生。

 そんな立花先生が僕を含めた数人の生徒に向かって問いかける。

 

 ……なんかすっごいデジャブ。

 

 説教をするのが立花先生であることも、それを受けるのが僕とチーム(仮)を組んだメンバー(光華夏美(男装女子)蛇塚秋人(髪色信号機)烏丸冬歌(呪い女))であることも、開口一番にかけられた言葉も全て一緒。

 ちなみに僕以外の三人は、立花先生が口を開いた瞬間に頭を守る体勢に入った。トラウマになってやがるぜ。

 

「なあお前ら、私は以前の呼び出しの最後にこう言ったはずだ。『チームリーダーを決め、チーム申請書を私の元まで取りに来い』と」

 

 ……言ったっけ? あの時は立花先生と目を合わせることに必死だったせいか、話の内容自体はびっくりするくらい記憶にない。

 僕以外の三人はちゃんと聞いていたのか気になり、その反応をうかがうと、三人とも『言ったっけ?』という表情を浮かべていた。

 

「それがどうだ。長期休暇が終わってしばらく経っても誰も取りに来ない」

 

 まあそりゃ反応を見る限り誰も聞いてなかったみたいですからね。

 よく考えると、4人中2人(蛇塚と烏丸)は先生の暴力によって気絶してましたし。

 

「なあお前ら、もしかしてわざとやっているのか? 私がどこまで我慢できるか試しているのか? あ゛ぁっ!?」

 

 ヤバい、怒り方がかなり感情的になってきている。マジギレ寸前の合図だ。

 以前教室でマジギレした時は、生徒の一人が窓の外にぶん投げられた(8階)。

 

 ちなみに理事長から聞いた話だが、立花先生は元ヤンらしい。

 『意外でしょ』とも言われたが、『でしょうね』としか思わなかった。

 僕と理事長では認知機能に大きな齟齬があるのかもしれない。

 

「チームで行う任務は2年の必修単位だ。しばらくすればチーム合宿もある。このまま申請書未提出なら、お前らは留年が確定する。私は一向に構わんが、そうなるとまずいやつもいるんじゃないか?」

 

 ……留年か。確かに留年はまずい。世間は浪人には優しいが、留年には厳しいと聞く。

 将来、一般社会の就活で留年理由を聞かれたとしよう。

 

 Q.高校生の時に留年してるみたいだけど、どうして?

 A.チームを組めなくて単位が取れなくて……

 

 Q.どうしてチームが組めなかったの?

 A.ぼ、ぼっちだったので……

 

 Q.ちなみに君の通っていた高校、検索しても出てこないんだけど、どんな学校なの?

 A.その、異能とか、そういう不思議な力を学ぶ学校といいますか……

 

 ダメだ。僕が面接官ならこんなやつ絶対に落とす。というかこれ、もしかしてこの学園に通っている時点で、僕の一般社会復帰って不可能なのでは? ……いや、今は考えないでおこう。理事長が権力者パワーでなんとかしてくれると信じるしかない。

 

 ちなみに他の三人は留年することについてどう思っているのだろうか?

 気になって再び三人の様子を確認してみると――

 

「りゅ、留年はまずい。ボクにその言葉はふさわしくない」

 

「オレも留年はダメだ。留年になんてなりゃ……家に……」

 

 光華と蛇塚はわかりやすく動揺を浮かべていた。

 光華はともかく、蛇塚は意外だったな。

 留年どころか、退学すらなんとも思ってなさそうな見た目のくせに。

 まあやっぱり、みんなさすがに留年は回避したいみたい――

 

「留年かぁ……。新しいクラスになれば、みんな怖がらずに私と話してくれるかなぁ……へへ」

 

 むしろ留年に希望を見出しているのがいるなぁ。

 他人の話なのに僕が悲しくなってきた。

 

「約1名を除き、事の重大さを把握したようだな。ならとっととリーダーを決めろ。30秒以内だ」

 

 ド○ラでも準備に40秒くれるのに……

 

「ちなみに30秒越えたら殴る」

 

 教師がこれほど純粋な暴力で脅すことある?

 この現代社会においてあまりにも無敵すぎる。

 

 しかしその脅しの効果は絶大で、以前実際に殴られた蛇塚なんかは、わかりやすく慌て始めた。

 

「お、おい! 誰かリーダーやれよ! お前とかそういうの好きそうじゃねえか“オトコオンナ”!」

 

「い、いや、私はダメだ……。チームリーダーはチームが有名になれば、学園外にまでその名が広がる」

 

「……?」

 

 蛇塚から問われた光華の反応に、僕は疑問を覚える。目立ってなんぼの格好と言動をとっているくせに、今さら何を……。

 

「じゃあお前がやれ“ぼっち野郎”!」

 

 ぼっち野郎? 一体誰のことを言っているのか皆目見当もつかない。

 

「おい無視すんじゃねえ!」

 

「残り20秒」

 

 立花先生の無慈悲なカウントダウンに、蛇塚の焦りはさらに増していく。もちろん蛇塚以外も全員焦っている。

 それでも誰も自分からリーダーをやると言わないあたりが、余り物クオリティなのだろう。

 まったく、この社会不適合者どもめ!

 

「ああくそっ! なら“呪い女”! お前………………は無理か」

 

「なんで!?」

 

 いや無理だよ。抗議の声を上げる烏丸とは対照的に、僕と光華は力強く頷いた。

 

「あと10秒」

 

「ああクソっ!!」

 

 刻一刻と死刑執行が迫る中、慌てふためく三人の顔を見た僕は、ゆっくりと右手をあげた。

 

「先生、僕がリーダーをやります」

 

 まったく仕方の無いヤツらだ。

 気は進まないが、僕がリーダーをやろうではないか。

 

 『リーダー雪春』…………うん、いい響きだ。

 

 さあ立花先生、リーダーが決まりましたよ。

 そんな思いで立花先生へと目線を向けると、なぜか先生は微妙な表情を浮かべていた。

 

「……あと5分やる。じっくり考えろ」

 

 いやその反応はおかしいだろ! 急にム○カ大佐より優しくなるじゃん!

 あんだけ急かしときながら、僕がなるのはダメってか!?

 ぽめえに任せるのは不安だってか!?

 メンタルクソザコや髪色信号機や歩く特級呪物よりまずいってか!?

 

 僕は抗議の意も含めて無言で手を挙げ続ける。

 たとえ相手が圧迫面接官であったとしても、諦めずに主張し続ければ要望が通ると、千○が僕に教えてくれた。

 

「オレは特に異議なしだ」

 

「ボクも反対しないよ」

 

「ワ、ワタシも……」

 

 チームメンバーからの同意も得られ、これで僕がチームリーダーになることを阻む理由は何もない。さあ、さあ!

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言のまま、僕と立花先生は見つめ合う。……何だこの時間。

 

「……まあ、いいだろう」

 

 先に折れたのは立花先生だった。

 まさに渋々といった様子で、僕のリーダー就任を認める。

 

 認めてもらえたのはいいのだが、果たして僕はいつの間に、立花先生からの信頼をこれほどまで失ったのだろうか? やはり補習か? 補習なのか?

 ふとチームメンバーたちの方を振り返ると、三人は『こいつ一体何したんだ?』という目で僕を見ていた。

 

 むしろ僕が知りたい。

 

「では申請書はここに置いておく。必要事項を記入して明日までに提出しろ。もし期限を過ぎれば…………………………落とす」

 

 ……単位の話だよね?

 

 恐怖で震える僕たちをよそに、立花先生はそのまま申請書を置いて教室を出ていく。

 先生がいなくなったことで、僕たちはやっと大きく息を吸うことができた。

 烏丸にいたっては泡を吹いて気絶している。どうやら先生は覇王色の使い手だったらしい。どう考えても教師をやるべき人材ではない。

 

 

 

 ちなみにこの後、僕を含めたチームメンバーは特に会話を交わすこともなく、烏丸を教室に放置して解散した。

 チームを結成してから、まだ一度もまともにチームで会話をした覚えがない。

 

 協調性のないやつらめ!

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 

「雪くん!」

 

 よく僕の部屋に出現する座敷わらしが、とうとうバイト先にまで現れた。

 

「ご注文をお願いします」

 

「雪くん!」

 

 ねぇよ。

 

「やあ雪春くん。お疲れ様」

 

「……お疲れ様でぇす」

 

 この日は特にいつもと変わりないバイトの日。

 バイト開始から1時間で店内乱闘が勃発し、2時間で窓から催涙弾が投げ込まれ、3時間で店の金を狙った窃盗団が押し寄せてくるといった、いつも通りの日々を過ごしていた。

 しかしそんな日常は、知り合いが来店したことで終わりを告げる。

 

「バイト頑張ってるみたいだね」

 

「雪くんのエプロン姿、ぜんぜん似合ってないね!」

 

「……うっす」

 

 呼び出しボタンがなり、注文を取りに行くと、そこにいたのは理事長とルウ(座敷わらし)

 

 別にそれで困ることがあるのかと問われれば特にないのだが、普段とは違う立場で接するためか、なんだか無性にやりにくい。

 そうか、知り合いにバイト先がバレるのってこういう気持ちなのか。

 

 しかし理事長クラスのお金持ち、いわゆる上流階級の人間でも、こういったファミリーレストランに来るんだ……などと考えていると、いつの間にか僕の隣に店長がいた。角度90度をキープした最敬礼のお辞儀姿で。

 

「……店長?」

 

「この度はご来店ありがとうございます!!!」

 

 うわうるさっ。店長のこんな大声初めて聞いた。

 

「ほらっ、渡谷くんも!」

 

 えっ、僕も?

 

「ああいいよいいよ。今日はただのお客さんとして来てるから、普通に接客してくれるだけで大丈夫だとも」

 

 店長は未だお辞儀をしたまま顔を上げようとしない。

 たとえ相手がお客さんであっても、態度が悪ければ平気でジャーマンスープレックスをくらわす店長が、これでもかというほど下手に出ているその光景は、僕にとって信じがたいものだった。

 

「店長? なにやらかしたんですか?」

 

「なんでやらかした前提?」

 

 日頃の行いというものを振り返ってみてほしい。

 

「ああ雪春くん。別に彼が何かしたわけじゃないよ。ただ私が彼に資金提供をしていてね。つまり私はこのお店の出資者というわけなんだ」

 

「出資?」

 

 理事長が僕の考えを訂正するように説明してくれたのだが、残念ながら言っている意味がまったく分からない。

 

「まあ簡単に言うと、このお店が将来的に成長することを期待して資金を提供し、事業が成功すれば何かしらのリターンを得るといったものだね。要は投資だよ」

 

「成、長……?」

 

 ますます意味が分からなくなった。

 

「まだ単勝100倍台の馬にかけた方が増える可能性高くないですか?」

 

「渡谷くん? それどういう意味?」

 

 言葉のままですけど。実際今月の利益、店の修理代でほぼ消えたわけですし。

 まあでも店長がペコペコしている理由は理解できた。暴力には屈さずとも、財力には手も足も出ないらしい。やはり世の中カネか。

 

「もう! 難しい話はあとでいいじゃん! 雪くん! 隣座って!」

 

 そう言ってルウは自分の隣のイスをバンバンたたき、僕に座るよう促してくる。

 まったく、これだからお子様は。ここはいっちょガツンと言ってやらねばなるまい。

 

「いいかルウ、僕は今仕事中で――」

 

 そこまで言いかけたところで、店長にガシリと肩をつかまれる。

 

「渡谷くん、お客様がご指名だ。隣で接客してあげなさい」

 

 ホストクラブかなにかとお間違えで?

 

「ではお客様、私はこれにて失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください」

 

 僕が今まで聞いたことのない高い声を発し、店長はこの場から離れようとする。

 その去り際、僕にだけギリギリ聞こえる声量でボソリとつぶやいた。

 

「もしお客様がアフターを望まれたら、行っていいからね」

 

 だからそういう店じゃねえっつってんだろ。

 

 

 このあと、結局1時間近くお子様の相手をさせられた。

 まあ理事長が店で一番高いパフェをおごってくれたのでよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お子様の相手を終え、休憩室に戻ると、ちょうど店長が机でパソコン作業をしているところだった。

 

「あっ、渡谷くんお疲れ様。ごめんね、変な仕事頼んじゃって」

 

 ほんとですよ。

 

「でもあの方はこの店にとって本当に大事な出資者でね。少しでも機嫌を損ねて、出資を止められると困るんだよ」

 

「はぁ」

 

「というのも、本来はもっと先になる予定だったこの店の2号店を開くという目的が、出資金のおかげで思いのほか早く達せられそうなんだ」

 

「そうなんですね。そういえば店長、来月のシフトなんですけど――」

 

「ごめん渡谷くん、せめてもう少し興味持って」

 

 だって興味ないし……。あえて意見を言うなら、『まだこれ以上不幸な人間を増やす気か?』としか……。

 

「まったく、これだからZ世代は……。わかった、君にも興味が持てるように話してあげよう」

 

「話していらないです」

 

「あれはまだ、私がこの店を始める前のことでね……」

 

 聞きゃしねえ。

 

「かつて私は、『暴徒鎮圧高度作戦異能北鎮部隊』という組織に所属していたんだ」

 

 …………ちょっとカッコいい名前出てきたな。もしかして異能を使う特殊部隊みたいなものだろうか? くそっ、悔しいがちょっと興味が湧いてしまった。

 

「略して鎮鎮(ちんちん)

 

 はい最悪。もう完全に興味なくした。どこ略してんだクソが。

 もうこの先、店長が何を話そうと『ちんちん』の衝撃を超えることは不可能だよ。

 

「守秘義務があるから詳しくは話せないけど、その部隊では任務のたびに血が流れ、時には死者が出るほどだった。私は多くの人を幸せにしたくてその部隊に入ったわけだが、人を守るどころか奪ってばかりの日々が続いたせいで、いつの間にか自分の在り方に疑問を覚えるようになったんだ。私は本当に、誰かを幸せにできているのか?ってね。そんな日々が続いたある日、部隊の仲間に食事を作る機会があったんだ。それでその時に――」

 

 

 

 

 

 ~15分後~

 

 

 

「――というわけで、このお店を開くことになったんだ。どうだい? このお店にどれだけの願いと想いが込められているのか、これで理解できたんじゃないかい?」

 

「…………」

 

「渡谷くん?」

 

「え? あ、はい! とっても!」

 

 僕は机の下で隠しながら行っていたソシャゲ周回の手を止め、とりあえず大きな声で返事をしておく。しかし長かったな……。

 

「で、話を戻すけど……」

 

 あれ? これまだ本題じゃなかったっけ?

 

「2号店を開くとなれば、当然2号店の店長を決めないといけないわけだ」

 

 そういえば2号店がどうこうって話だったな。完全に忘れてた。

 

「となってくると、年功序列で考えて高柳さんや権田くんあたりになってくるわけだが……」

 

「まあそうなりますね。古株ですし」

 

「ただ私はね、こういったものは実力主義で選ぶべきだと考えているんだ」

 

「はぁ」

 

「そこでだ、渡谷くん。大抜擢だが、君こそを2号店の店長に任命しようと思っているんだ」

 

「うえっ!?」

 

「これまでの信頼と実績から鑑みて、君ならば店長が十分務まると思っている。いや! 君ならお店をもっと繁盛させることもできるはずだ!」

 

 ……僕まだここで働き始めて一ヶ月ちょっとなんだけど。成り上がりスピードがフィクションのそれじゃん。

 とはいえ、それだけ店長が僕のことを信用してくれている証なのだろう。

 実際に仕事では、売上金の管理や武器の補充業務まで任されるようになった。

 

 ならばその信頼に対し、僕も誠実に対応すべきだろう。

 

「店長……」

 

 僕は顔を上げ、店長の目をまっすぐ見据えながら告げる。

 

 

 

「そういうのいいんで」

 

 僕は固い意志で断った。

 

 




この章はチームの話が中心となります。
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