魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
チーム申請書を持ち帰ったその日の夜、僕は寮の自室で必要事項を記入していたのだが、とても困ったことになった。
その理由は『チームメンバーの直筆署名と異能ランクを記載』と書かれた欄だ。
未だ会話すらしたことのないチームメンバーの異能ランクなんて、もちろん僕が知る由もない。まあ最悪そこは先生にでも聞けばなんとかなるだろう。
問題は直筆署名の方だ。こればかりは本人に書いてもらうしかない。
書類の提出期限は明日の放課後。期限を過ぎれば留年に加え、立花先生からの
だが、そこでまた一つ問題が生じる。それは――僕がチームメンバーの所属するクラスを知らないということだ。
つまり、僕は申請書類を提出する前に、チームメンバーから署名をもらう必要があるのだが、まずチームメンバーを探し出すところから始めなければならないということ。
まるでRPGのおつかいイベだ。それも×3。全部すっ飛ばしてパンイチでラスボス倒しに行きたい。
僕はリーダーになったことを少し後悔した。
そんなこんなで次の日。
午前中の授業が終わり、現在は昼休み。普段ならすぐに屋上へと向かうのだが、今日はこれから署名集めを行わなければならない。
というわけでさっそく、僕はチームメンバー探しの旅を始めた。
そうして最初に見つけたのは、クラスメイト全員を呪い、病院送りにしたという歩く特級呪物――
廊下を歩きながら、教室内の様子を覗いていた僕は見つけてしまったのだ。
クラスメイトがいくつかのグループに分かれ、ワイワイ楽しく食事をとるなか、1人席に座り、無表情で黙々と藁人形を編む烏丸の姿を。
「うわぁ……」
しかも烏丸の座る机を中心に、半径3メートル以内には誰も近づかず、机すら距離を空けられている。これが人払いの結界か……。
まあクラスメイトから怖がられていることはなんとなく予想していたが、まさかここまで露骨にとは……。
ただでさえ他クラスに入るのは緊張するというのに、あんな状態の烏丸に話しかければ、いやでも注目の的になる。
とはいえ、申請書を提出できなければ、待っているのは留年&暴力。
背に腹はかえられない。僕は意を決して教室内へと足を踏み入れた。
そうしてわずかな視線を感じながら、烏丸の座る机の前まで移動し、声をかける。
「烏丸さん」
その瞬間、クラス内の注目が一気にこちらへと向けられる。みな食事の手を止め、信じられないものを見たという表情を浮かべていた。冬二がオリエイナに話しかけた時と同じ反応なのよ。
そして当の烏丸は、僕が声をかけたと同時に顔を上げ、僕の姿を確認して、もう一度視線を藁人形に落としたかと思うと、その5秒後、驚きの表情を浮かべて再び顔を上げた。お手本のような二度見である。
「え゛っ!? ワタシっ!?」
あなたです。
「はっ、そっ、なんっ、ウェっ! ゴホッ! ゲホッゲホッ!」
むせた。
「えあっ、な、なに、えっと、その…………リーダー!」
こいつ……僕の名前覚えてなかったな?
まあそれはいいや。今は用事が先だ。
「昨日渡された申請書なんだけど、チームメンバーの署名と異能ランクの記載が必要でさ、ちゃちゃっと書いてもらってもいいかな?」
「う、うん! 書く書く! 何枚でも書く!」
一枚でいいよ。
「はい! えっと……、これでいいかな!?」
めったに人と話さないせいか、音量機能がバグっている烏丸から申請書を受け取り、必要事項がしっかり記載されていることを確認する。ちなみに異能ランクの欄には『B』と書かれていた。
ランクBといえば上から二番目のランク。一番上のAランクが数人しか存在しないことを考慮すれば、学園ではトップクラスの実力者といえる。
上澄みめぇ……。
「ありがとう烏丸さん。じゃあ僕はこれで」
湧いてでたドス黒い嫉妬心を隠しこみ、烏丸に別れを告げ、僕は教室をあとにする。
さて、とりあえず一人目は問題なくクリアだ。あと二人分、この調子でぱぱっと終わらすぞ!――と、心の中で気合を入れたその時、僕の背後に烏丸が立っていることに気づいた。
「……何してるの? 烏丸さん……」
まったく気づかなかった……。これだからぼっちは、気配を隠すのが上手くて困る。
「あ、あの、これから他の二人のところにも行くんだよね?」
「まあ、そうだけど……」
「わ、ワタシも一緒に行っていいかな!?」
周囲の生徒たちが振り返るのもお構いなく、烏丸は勇気をふりしぼりましたといった表情で告げる。
「ワタシ、クラスでもぜんぜん話せなくて……、でも、せっかくチーム組めて、だから、その……、この機会に、友達ができるようにしたくて……!」
その言葉はとてもたどたどしく、思考が上手くまとまらないながらも、必死に自身の意図を伝えようとしているのがよくわかる。
顔を赤らめながら、目をギュッと閉じて懇願する烏丸のその姿は、正直ちょっとかわいいなと思った。
それだけ見れば、きっとグラッときていただろう。
……そう、
赤く染まったその表情から、少し視線を下げると、目に映るのは烏丸の両手。
その右手には藁人形が、左手には鋭く尖った釘が、今にも『刺すぞ刺すぞ~』と言わんばかりにスタンバイされていた。
「…………」
「お願い!」
いや脅しだろ。
「あ、別にぜんぜん関係ないんだけど、ワタシ、藁人形を使って相手に苦痛を与えることができるの! ぜんぜん関係ないけど!」
ほらみろ脅しじゃねえか! ぜんぜん関係ないなら話さなくていいだろ!
「ど、どうかな……? このままだと、藁人形に釘が刺さっちゃうけど、えへ、ふへへへ……」
こいつ……! 僕がそんな脅しに屈すると思っているのか!?
「じゃ、じゃあ一緒に行こうか……」
まあ屈するんですけど。Bランク相手に敵うわけがねぇ。
「あ、ありがとう! ワタシ、最初からリーダーとは仲良くできそうな気がしてたの!」
残念ながら今その可能性が消滅したところだよ。
「ほら、リーダーも友達いないんでしょ? ワタシも友達いないから。えへへ……、一緒だね」
嫌な親近感もたれてるな。勘弁してほしい。
『パンパカパーン! 呪いの装備(烏丸)を手に入れた!』
どこで解除できるんだこれ……。
署名集めの旅は難易度が上がってしまった。果たして僕は無事に申請書を提出できるのだろうか?
次に見つけたのは、セックスシンボルことナルシスト男装女子――
彼女は烏丸とは正反対の理由で、簡単に見つけることができた。
その理由とは――
『光華様! 今日の放課後、新しくできたスイーツ専門店に行ってみませんか!?』
『あ! ちょっと! 光華様は今日私と夏服を見に行く予定なんだけど!』
『それを言うなら私はもっと前から――!』
『こらこら、落ち着いて子猫ちゃんたち。ケンカなんてしたらそのかわいい顔が台無しだよ』
――これである。
次の瞬間、『キャー!』という金切音が教室の外まで響きわたる。
光華の座る席の周りには、これでもかというほど生徒が集まり(オール女子)、教室の外からでもわかるほど異様な空間を生み出していた。
言い方は悪いが、まるで光に集まる虫のようだ。
「ウンコに集まる便所バエどもめ……」
隣にもっと口の悪いやつがいた。
「ああやってさあ、周りの迷惑も考えずにギャアギャア喚く連中が一番ムカつくよね。というかそもそも、チームメンバーの中であのセックスシンボルだけなんか違うよね? みんな誘われなくて余ったのに、一人だけ誘われすぎたから断ったとか……。なにそれ自慢? 正直あの人とは仲良くできそうにないなぁ……」
びっくりするほど流暢に毒づく烏丸の目からは、ハイライトが完全に消えていた。
……冬二からチームに誘われたことは墓まで持っていこう。
しかしどうするか……、署名をもらいに行きたいが、あの
「その、一応聞くけど、烏丸さんはあの中に……」
僕が言葉を言い切るよりも早く、烏丸さんは全力で首を左右に振っていた。ですよね。
とはいえこのままでは昼休みが終わってしまう。
立花先生を召喚して、あの輪の中に突撃してもらうという最終手段が頭をよぎったその時、烏丸が口を開いた。
「あ、あの、ワタシに案があるかも……」
そう言いながら、烏丸は先ほどの藁人形を取り出す。
「この藁人形に釘を打ち込むと、その打ち込んだ部位に激痛を与えることができるの。これであのセックスシンボルの腹部に激痛を与えて、お手洗いに向かわせるのはどうかな? そうすれば必然的に席を立つことになるから……」
「…………」
『どうかな!?』という期待に満ちた表情で烏丸は僕を見つめる。
人の心というものを一体どこで無くしたのだろうか?
しかし烏丸の提案する作戦以外に、方法がないのも事実。
「けどそれって、上手く光華さんだけを対象にできるの? 無差別に激痛を与えてしまったら大惨事だけど……」
「それは大丈夫。藁人形の中に、相手の体の一部を埋め込んでおけば、その相手だけを対象にすることができるから。こんなこともあろうかと、昨日いつの間にかみんながいなくなってた教室で、セックスシンボルの髪の毛を拾っておいたの」
「そうなんだ。呪い制御は難しいって聞くけど、すごいね」
「えへへ……!」
「ちなみになんだけど、もしかして僕の髪の毛も拾ってたりする?」
「………………………………拾ってないよ?」
拾ってるなぁ、今の間は。
署名集めが終わり次第、なんとか回収しなければ。
「じゃ、じゃあさっそく始めるね! えいっ!」
烏丸は僕からの追及を誤魔化すように、慌てて藁人形の腹部に釘をさし、作戦を決行する。
まだ僕GOサイン出してなかったんだけど……。
とはいえ、やってしまったものは仕方ない。光華の腹部には犠牲になってもらおう。
痛みに耐えきれず、教室から飛び出してくる光華を捕まえるため、僕と烏丸は教室の扉の前でスタンバイする。
しかし――
『光華様、これ私の手作りのお菓子なんです! よかったら食べてもらえませんか!?』
『ありがとう。いただくよ。……うん、とっても美味しいね。君の繊細な気遣いが、料理を通して伝わってくるようだ』
光華の様子は先ほどと全く変わらず、とても激痛にさいなまれているようには見えない。
「……あれ?」
呪いをかけた烏丸も、不思議そうに首を傾げていた。
「もしかして、藁人形に埋め込んだ髪の毛、別の人のものとかだったりしない?」
「ううん、そんなことはないはず。髪の色とか長さとか、あと匂いもちゃんと嗅いだけど、間違いなくセックスシンボルの髪の毛だったよ?」
発言がいちいち気持ち悪い。
「じゃあもしかして、痛みを必死に我慢してるとか?」
「我慢できるような痛みじゃないと思うんだけど……」
「どれくらい痛いものなの?」
「う~ん、シュミット指数でいえば3くらいかなぁ」
知らない指数だ……。まったくピンとこない。
「もう少し痛みを強くすることってできる? もしできるなら、それで効いてるかどうか判断できるかも」
「し、自然に抜け落ちて、しかも日をまたいでる髪の毛だから、これ以上は難しいかも……。あっ! でも痛みの箇所を増やすことはできるよ! えいっ!」
烏丸は躊躇なく、藁人形に二本目の釘を差し込む。まだできるかどうか聞いただけなのに……。
しかしその二本目の釘による効果は絶大だった。
一見、何の変化もないように見えた光華だが、その表情はどこか青白く、遠目からでも体調が悪いのを感じとれるほど。
集まっている女子生徒たちからも、体調を心配する声をかけられている。
ただそれでも、光華は席を立とうとする気配を見せない。笑顔を浮かべ、まるで痛みなど感じていないかのごとく気丈に振舞っている。
「うそっ……、田中くんに二本いった時は、奇声を上げて転がり回ってたのに……」
田中ァ……。
「でもすごいな……」
おそらく、その田中くんとやらのように、痛みに耐えきれず転がり回るのが普通の反応なのだろう。しかし光華は感じている痛みを一切態度に出さず、これまでと同じように自身のキャラを貫いている。
正直初めて光華を見た時は、『はいはい学園の王子様キャラね。セリフもどっかで聞いたことあるテンプレだし、量産型量産型』と内心では少しバカにしていた。
ただこうなると話は別だ。もはやここまでくるとキャラ付けなんて軽いものではなく、それは信念と言える。
果たしてそれは周囲の女子生徒たちを失望させないためか、それとも己の
たとえ理由が何であろうとも、今の光華の姿は間違いなく尊敬に値するものだ。
僕の中で光華に対する評価がグンと上がった。
まあそれはそれとして――
「もう一本いっとこう」
「えいっ」
藁人形に三本目の釘がさされ、さすがの光華も耐えきれなくなったらしく、机に頭を打ち付けるようにして倒れる。
『キャー!? 光華様!?』
『光華様が倒れられたわ! 誰か救急車を!』
『だ……、大丈夫だよ子猫ちゃんたち。ちょっと目眩がしただけさ。うん……、ただもしかしたら、タチの悪い風邪かも、しれない……。子猫ちゃんたちにうつすわけには、いかないから……、保健室に行くことにするよ』
『では私がお供します!』
『なら私も!』
『ああいや……、大丈夫。ひとりでいけるさ』
そう言って光華は周りの女子生徒たちを手で制し、真っ青な顔で席を立ち上がる。
それを見た僕と烏丸は所定の位置にスタンバイ。
そうしてちょうど光華が教室の外へと出た瞬間、僕はその行く手を塞ぐようにして光華の目の前に移動する。
「ごめん光華さん。今ちょっといいかな?」
「……やあ、君は……、その、えっと…………リーダーじゃないか」
なんでどいつもこいつも僕の名前覚えてないんだよ。
「リーダー……、すまないがボクは今急いでいて……」
苦しそうに表情を歪める光華を見て、罪悪感が湧き上がるが、こちらも留年と制裁がかかっているので引くことはできない。
「あ、大丈夫。すぐ済むよ。申請書にサインしてもらうのと、異能ランクを書いてもらうだけでいいから」
「ほ、ほんとうに、すまないが……、火急の用でね……。申し訳ない、後で書くから今は……」
そう言って光華は僕に背を向け、そのまま去ろうとするが、その行く手を烏丸が塞ぐ。
「ぐっ……!」
前門のぼっち、後門もぼっち。
挟まれた光華は観念したかのように、僕の渡したペンを手に取り、申請書に必要事項を記入する。
「はぁ、はぁ、くっ……、書けたよ。これで、いいかい?」
申請書を確認すると、ギリ読めるレベルの震えた文字だったが、しっかりと『光華 夏美』という文字が書かれてた。ちなみに異能ランクは『D』だった。
「うん、ありがとう。引き止めてごめ……あ、行っちゃった」
光華は僕の言葉を最後まで聞かず、痛みをこらえながらではあるが、大急ぎでこの場から離れていった。
「よし、これで二人目もオッケーっと」
「うん、やったね! サインももらえたし、もう釘を抜いても大丈夫かな?」
無事作戦が成功したことで、呪いを解呪してもいいか尋ねてきた烏丸に対し、僕は『待った』をかける。
「いや、今すぐ解除したら激痛の犯人が僕たちだと疑われる可能性がある。もう五分ほどしてから解呪しよう」
「確かに……! リーダー頭いいね!」
よせやい。
まあなんにせよ、これであと必要な署名は『蛇塚 秋人』の分だけ。
「あ、あとはあの髪型がカラフルな人だけだよね。あの人もたしか友達いなさそうだったし、仲良くできそうかも、えへへ……」
あと一人となったことで少し気合いが入った僕と同じように、烏丸もやる気が湧いてきたようだ。
よし、申請書提出まであともう少しだ!
待っててね『蛇塚 秋人』! 今行くよ!
こうして、僕と烏丸による最後の仲間を探す旅が始まった。
このボッチどもにはいつか天罰が下ると思う。