魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チームの絆③ 不良男子と幼なじみ

 

 一人目と二人目が簡単に見つかったことで、最後の一人も簡単に見つかるだろうとタカをくくっていた僕(with呪いの装備)は、思わぬ苦戦を強いられることになる。

 二年の全クラスを回ったにもかかわらず、見つからないのだ。蛇塚(へびつか) 秋人(あきと)の姿が。

 髪色信号機というこれ以上となくわかりやすい外見であるため、見逃すはずはないのだが……。

 

 そこまで考えて、僕は一つの可能性にたどり着く。もしや僕と同じように、昼休みは人目の少ない所に移動しているのではないか、と。

 そこで僕は、脳内に記憶されている『ぼっちズ グッドロケーション』ファイルを引っ張り出す。

 その上で考える。仮に僕が蛇塚だとすれば、一体どこに行くのか。

 蛇塚は僕と違い、そこにいるだけで目立つ存在だ。遠目からチラチラと見られるのは思った以上にストレスがたまる。ならば僕が普段過ごしている屋上などはダメだ。

 人が少ないではなく、完全に人がいない場所でなければならない。人がおらず、その上で最大限昼休みを過ごしやすい場所。そして二年生の校舎からアクセスしやすいとなれば……あそこの可能性が高い。

 

 僕は蛇塚の居場所に目星をつけ、移動を開始する。

 移動途中に烏丸が、光華と同じように蛇塚にも激痛を与え、悲鳴を上げさせることで居場所を特定するのはどうかな?と聞いてきたが、却下しておいた。人を呪うという行為に抵抗がなさすぎる。

 

 そうして僕が向かった先、それは自動販売機が近くに置かれた校舎裏。昼時はちょうど日陰になり、人通りもめったにないそこに、蛇塚はいた。ビンゴだ。

 蛇塚は自動販売機で買ったであろうブラックコーヒーを口に含みながら、つまらなさそうな表情で空を見ている。

 ……ちょっとかっこいいな。今度僕もパクらせてもらおう。

 そんなことを考えながら、僕と烏丸は蛇塚に近づき声をかけた。

 

「蛇塚くん、ちょっと今いいかな?」

 

「あっ?」

 

 できる限りフレンドリーに話しかけた結果、返ってきたのは威圧的な態度と言葉。

 ふざけやがって、こっちは呪いの装備(Bランク)持ちだぞ。釘さしたろか?

 

「その、チーム関連のことで話があるんだけど……」

 

「チーム? ……ああ、そうか、お前、あの……その…………リーダーか」

 

 やっぱ刺したろか? なんだ? 僕の名前はそんなに覚えづらいか? わりかし覚えやすい方だろ!

 

「実は申請書にチームメンバーの署名が必要で、蛇塚くんにも書いてもらいたくて……」

 

「ちっ……」

 

 蛇塚は悪態を取りながらも、渡した申請書とペンを素直に受け取り、名前と異能ランクを記入していく。

 まったく、そうやって悪態をつくからぼっちになるんだろうに……。はて、なぜ僕は悪態を付いていないのにぼっちなのだろうか?

 

 僕が終わりのない疑問に頭を悩ませていると、隣にいた烏丸が蛇塚に声をかけようとしていた。

 口を開き、やっぱり閉じ、もう一度口を開き、やはり閉じるという行為を繰り返しており、なんとか話しかけたいというのが嫌というほど伝わってくる。

 しかし完全にテンパっており、また藁人形を取り出して棍棒外交を始めようとしたので、一旦没収しておく。ここにきて話がこじれるのはまずい。

 

「ほらよ。これでいいだろ」

 

 そうこうしているうちに蛇塚は必要事項を記入し終え、僕に用紙を返す。

 異能ランクの欄には『D』と書かれていた。

 ということは、チーム内で平均ランクである『E』は僕だけ。こいつら、なんだかんだ全員上澄みなのか……。なぜか無性に納得がいかない。

 

 まあなんにせよ、蛇塚からも無事署名がもらえたため、もはやこの場に残る必要はないのだが……。

 烏丸はその場を動こうとせず、まだなんとか蛇塚に話しかけようとトライしている。

 

「あ、あのの、あの、へび! づか! ん、くん!」

 

 そしてついに、烏丸は声を出すことに成功した。声量調整は盛大にミスったが。

 

「あっ? なんだよ、まだなんかあんのかよ?」

 

「そのっ! ワタシ、たち、同じチームに、あ、だから、仲良く、したいなって……」

 

 あまりにも下手くそだが、それは烏丸にとって勇気を振り絞った精一杯の歩み寄り。

 

 しかし蛇塚はその歩み寄りを拒絶する。

 

「所詮余り物で組まれたチームだろうが。こっちはお前らと仲良くする気なんざねえんだよ」

 

 なにか地雷に触れたのか、蛇塚は今まで以上に不機嫌な態度をとり、烏丸を睨みつける。

 睨まれたことで烏丸は小動物のように怯えるが、その手はしっかりと藁人形に伸びていた。

 こういうところが同情しにくいんだよな……。というかいくつ藁人形持ってるんだこいつ。

 

「オレがこんな見た目で、友達の一人もいなさそうだから仲間だとでも思ったか? クソみたいなレッテル貼りやがって」

 

「ち、ちがっ、そんなんじゃないよ!」

 

 いやそんなんだったろ。

 

「オレは誰とも仲良しごっこなんざするつもりねえんだよ。どうせどいつもこいつも、こっちを見た目だけで判断して、心ん中じゃバカにしてやがる。そんなヤツらと仲良くするなんざ、死んでもごめんだ」

 

 そうぼやく蛇塚からは、どこか諦めのような感情を感じとることが出来た。

 『自分はお前らとは違う。誰からも理解されない。されたいとも思わない』――そんな周囲を突き放す、心からの拒絶の意思。

 大人から見れば、ガキの癇癪だとバカにされるかもしれない。でも僕には、その感情が嫌というほどわかる。

 

 そしてだからこそ(・・・・・)、僕はそんな蛇塚の態度に無性に腹が立った。

 

「そうだよね。そうやって人付き合いに初めから保険をかけておかないと、裏切られた時に傷つくもんね」

 

「……あっ?」

 

 僕の言葉を受け、蛇塚は睨みつける先を烏丸から僕へと変える。

 

「だってそうでしょ? 初めから相手に期待してなければ、傷つくこともないんだから」

 

「喧嘩売ってんのかてめぇ! お前に何がわかるってんだよ!?」

 

「僕は外部生だ」

 

「っ!?」

 

 今にも掴みかかってきそうな勢いの蛇塚だったが、僕の突然のカミングアウトによって、その怒りに動揺が差し込まれる。

 隣で聞いていた烏丸も、僕を見て目を見開いていた。

 

「外部生がどういった扱いを受けるかなんて、説明する必要ないよね? 僕は入学したその時から、外部生だからという理由だけで、人となりなんて関係なしに、周囲からそういった視線を向けられてきた」

 

「……」

 

「そんな僕が、他人にレッテルを貼ってバカにすると思う?」

 

 ……まあ実際は髪色信号機とか、心の中で悪口を言ったりもしたけど、今は置いておこう。こういうのは勢いが大事!

 

「烏丸さんも、クラスメイトから距離を置かれている立場だ」

 

「そ、そうだよ!」

 

 こっちは自業自得くさいけど。

 

「そんな僕たちを、今まで蛇塚くんを軽く見た連中と一緒にするなんて、それこそ蛇塚くんの言う『レッテル貼り』じゃないか」

 

「そ、れは……」

 

 蛇塚は何か言い返そうとするも、言葉につまり無言になる。

 そうしてしばらくすると、申し訳なさそうな表情を浮かべて口を開いた。

 

「……そうだな。わりぃ、確かにオレが勝手に決めつけてた」

 

 出てきたのは意外にも素直な謝罪の言葉。

 

「お前も、さっきは悪かったな。呪い女……じゃない、えっと……たしか烏丸、だったか」

 

「うん! 合ってるよ!」

 

 …………髪色信号機の時代遅れヤンキーが。

 

「どうかしたかリーダー?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 色々と納得はいかないが、なんだかんだ初めてこの時、僕はチームの絆が育まれたことを実感できた。

 蛇塚も、最初の印象は最悪だったが、こうして素直に謝罪できるところを見ると、実は根は優しいのかもしれない。

 彼とは意外にも仲良くやっていけそうだ。もしかしたら、冬二以来の友人同士になれるかもしれない。

 

「さっき蛇塚くんが言ったように、僕たちは自分たちで集まったわけじゃなくて、余った人たちで結成されたチームだ。もちろん最初はゴタゴタすると思うけど、同じ感情を理解できるからこそ、僕たちは上手くやっていけると思う。だから、これからよろしく」

 

 そう言って僕は蛇塚に手を差し出す。

 

「……ああ、こっちこそよろしくな」

 

 蛇塚も同じように手を差し出し、まさにその手と手が握られようとしたその時――

 

「ああー! こんなところにいたー!」

 

 突如飛んできた想定外の大声に、僕と蛇塚の動きがピタリと止まる。

 その声の主はこの場にいる三人のものではない。

 僕たちは声の聞こえてきた方を振り返ると、少し離れた場所に一人の女子生徒が立っていた。

 その生徒は間違いなく僕らの方を見ており、こちらへズンズンと近づいてくる。

 

「もう! すぐ教室からいなくなっちゃうんだから!」

 

 私怒ってます!――という表情があざとくも可愛らしく、赤茶けた髪色が特徴的なその女子生徒の視線の先にいるのは、面倒なのに見つかったという表情を浮かべる蛇塚だった。

 

「別にオレがどこにいようとオレの勝手だろ。お前には関係ねえよ」

 

「あー! そういうこと言うんだ。未だに周囲に馴染めない秋人を心配しに来てあげた、と~っても優しい幼なじみに対して」

 

「自分で優しいとか言うなよ。お前こそ何しにきたんだ、舞衣(まい)

 

「それはもちろん、一人で寂しくしているだろう秋人に……」

 

 蛇塚から舞衣と呼ばれた少女は、言葉の途中で初めて、ほぼ空気となりかけていた僕と烏丸の存在を認識する。

 

「えっ!? 秋人が私以外の人と会話してる!!! どういう関係!? もしかして友達できたの!? きっかけは!?」

 

「一気に全部聞くなって。そうやってまくし立てるの、お前の悪い癖だぞ。そいつらはあれだ。一緒のチームのやつだよ」

 

「そうなんだ! あっ! 初めまして! 彩場(さいば) 舞衣(まい)っていいます! 秋人とは小さいころから家が隣同士で、いわゆる幼なじみなんだ! 秋人のチームメイトってことは同級生だよね!? いやあびっくりしたよ。秋人が誰かと会話してるとこなんてめったに見ないから! 思わず大声出しちゃった!」

 

「……うっす」

 

「…………」

 

 蛇塚の幼なじみを名乗る彩場の、息継ぎすらなく紡がれる言葉の波に、僕と烏丸は完全に飲み込まれてしまう。

 烏丸にいたっては、顔から全ての感情が削ぎ落とされ、まるで石像のようにピクリとも動かない。

 

「でもよかったよ。秋人のことだから、このまま誰ともチームが組めずに、留年しちゃうんじゃないかって心配してたから。お母さん安心しました」

 

「誰がお母さんだ」

 

「だって秋人のおばさんから、『秋人のことよろしくね』って頼まれてるもん。実質学校では私がお母さんだから」

 

「ちげぇよ。……ったく、相変わらずおせっかいなやつだな」

 

「もう、なんでこんなに捻くれちゃったかな~。昔はあんなに可愛かったのに。私からのチームの誘いも断っちゃうし」

 

「オレがお前のチームなんかに入ったら、お前がチームメイトから変な目で見られるだろうが」

 

「……ふ~ん? そんなこと考えてたんだ。別に気にしなくてもいいのに。…………ほんと、変なところで優しさ見せるんだから」

 

「あっ? 最後なんて言った? 声小さくて聞こえねえよ」

 

「べ~つにぃ~、なんでもありませ~ん」

 

 蛇塚と彩場。二人のその会話からは、長年培った信頼と、確かなお互いを思う感情が伝わってくる。

 彩場から蛇塚へ向ける思いはもちろんのこと、蛇塚から彩場へ向ける思いも、不器用ながら確かに感じ取れた。

 

 …………なんだろう、僕の心を塗りつぶしていくこの真っ黒な感情は。

 いや、僕はこの感情を知っている。

 そうか、これが……そうなのか。この掌にあるものが…………殺意か。

 

「あっ! そう言えば何かチームの話の途中だったんだよね? ごめんね邪魔しちゃって」

 

 彩場は蛇塚への謝罪を済ませると、僕たちの方へと体を向け、軽くその頭を下げる。

 

「秋人のこと、よろしくお願いします。見た目はちょっと怖いかもしれないけど、根はすごく優しい人なので」

 

 とても穏やかな優しい声でそう告げると、彩場は頭を上げて笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ私はこれで。あ、そうだ! 今日の放課後、秋人に借りてた漫画返しに行くね。ではではごゆっくり~」

 

 そう言って手を振りながら、彩場は駆け足で立ち去っていく。

 彩場という嵐のような存在がいなくなったことで、その場はしばらく静寂に支配される。

 そんな中で、申し訳なさそうに口を開いたのは蛇塚だった。

 

「ああー……その、悪かったな。すげえうるさいヤツで」

 

 やれやれ感を出しながらも、どこか照れくさそうな蛇塚は、僕と烏丸に向けて再び手を差し出す。

 

「変な邪魔は入っちまったが、改めてこれからよろし――」

 

 

「ぺっ!」

 

 

「……」

 

 それは拒絶の意思だった。蛇塚の言葉を遮るように、烏丸はわざとらしく大声を出して唾を吐き捨てる。そしてそのまま、蛇塚に背を向けて歩き去って行った。

 

「……急にどうしたんだ? 烏丸のやつ……」

 

 急変した烏丸の態度に困惑する蛇塚だが、残念ながら蛇塚にその理由を察することはできないだろう。

 

「別に、蛇塚くんは何も悪くないよ。……でもね、蛇塚くんには絶対に理解できないんだ。絶対にね」

 

 僕は烏丸と同じように、蛇塚に背を向けて歩き出す。

 そんな蛇塚と僕との間には、決して埋まることのない溝が、確かに存在していた。

 

「なんなんだよ……」

 

 蛇塚秋人はわからない。つい漏れ出た彼の困惑の言葉が、ただ虚しくその場で溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、最後の最後にとんでもなく不快な思いをしてしまったが、署名自体は集めることができた。

 これで提出するぞ!――といきたいところだが、実はもう一箇所、まだ申請書に空欄が存在する。

 

 それは『チーム名』の欄だ。

 

 こちらは悩みに悩みまくり、結局決まらずにここまでズルズルときてしまった。

 これから卒業まで付き合っていく名前になるので、やはりいいものにしたい。

 

「チーム名って悩むよね。ワタシはカッコイイ系の名前がいいかなぁ」

 

 悩む僕の隣で、さも当然のように共感を示す烏丸(呪いの装備)。署名は集め終えたのに、まだ解除されないのか……。

 

「ワタシにいくつか案があるんだけど、言ってみていい?」

 

「…………」

 

 悩むと言っても、チーム名の大体の方向性は決まっている。そのため、今さら新しい案は特に必要ないのだが、無視したら呪われそうなので一応聞いておこう。

 

「もちろん。聞かせてほしいな」

 

「えっと、『絆!~一丸となり頂点へ!~』とかどう!?」

 

 体育祭のスローガンかな? なんなら今の僕たちからもっとも遠い言葉だろ。

 

「あっ、でもこれは次点で、本命は『愚蓮(ぐれん)努羅魂(どらごん)仏血切離(ぶっちぎり)』なの! すごくかっこよくない!?」

 

「うん、すごくかっこいいね」

 

 戯言(ざれごと)は置いておくとして、僕がチーム名を考える上で考慮したこと、それはこのチームが余り物のチームであることだ。

 メンバーは基本的にぼっち……………………うん、ぼっちであり、それを絡めたチーム名にするのはどうかと考えている。

 たださすがに『ぼっち』では格好がつかない。何か別のそれっぽい言葉に変換する必要がある。

 

 …………そうだ。『はみ出し者』とかどうだろうか? それなら元の意味と大きく変わらないし、孤独というよりは孤高という感じがして、ちょっとかっこいい。

 それと日本語のままよりかは、海外の言葉を使ってカタカナにした方がさらに格好がつく。

 僕は『はみ出し者』の外国語をスマホで検索する。そしてその中の一つに、これだ!と思う言葉があった。

 

 

『ミスフィット』

 

 

 チーム『ミスフィット』――うん、いいのではなかろうか? 響きも悪くない。

 よし、これで決定だ。僕はチーム名の欄に『ミスフィット』と書き込む。

 

 色々と苦労したが、なんとかこれで申請書の欄を全て埋めることができた。後は立花先生に提出するだけ。

 期限は放課後までだが、なるべく早めに提出するべきだろう。ここまできて提出忘れとかシャレにならない。

 そう考えていると、ちょうど烏丸が渡りに船な提案を口にする。

 

「あっ、リーダー。ワ、ワタシ次の授業、立花先生の異能歴史学なんだけど、よかっ、よかったら、ワタシがその時に、申請書渡すよ」

 

「ほんとに? 頼んでいいの?」

 

「うん」

 

「じゃあ……」

 

 僕は烏丸に申請書を渡そうとするが、一瞬それをためらう。僕の中で嫌な予感がよぎったのだ。申請書を提出する前に、なくされたりしたらどうしようかと。

 しかし烏丸は呪いっ子キャラではあるものの、ドジっ子キャラではない。ならば大丈夫だろうと思い直し、僕は申請書を手渡した。

 

 ちょうどその時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。

 そしてその予鈴こそが、呪いを解呪する方法だった。烏丸は予鈴を聞き、慌てて教室へと戻っていったのだ。

 

 

 こうして、僕の仲間探しの旅は終わりを迎える。多少の苦労や精神的ダメージはあったものの、無事任務をやり遂げることができた。文句なしのハッピーエンドだ。めでたしめでたし――

 

 

 

 

 

 ――あれ? そういえば、光華にかけた呪いは解呪したのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 おまけ

 

 

 

 もちろん解呪されているはずもなく――

 

 

「ぐぅぉぅ、うぐぅ…………!」

 

 光華夏美は昼休みが終わりを迎えようとしている現在も、保健室のベッドで横になりながら激痛に苦しんでいた。

「大丈夫? 光華さん。さっき呪いの専門家(スペシャリスト)を呼んでおいたから、もうすぐ来ると思うわ。それまであとちょっとがんばって!」

 

「む、無理です……」

 

 保険室の先生――養護教諭からの励ましの言葉も、今の光華にとっては慰めにならない。

 すでに過去の思い出が走馬灯のように、光華の脳内を駆け巡っていた。

 

「先生、母上に伝えてください……。あなたの期待に、あまり応えることの、できなかった娘で……申し訳ありません、と……」

 

「あ、遺言は残さなくて大丈夫よ。この呪い、痛みを与えることに特化してる分、身体機能への影響は皆無だから」

 

 痛みで動けない時点で、身体機能への影響大では?――――と疑問に思うものの、もはや光華には突っ込む気力も残っていなかった。

 

 

 そうこうしていると、ついに養護教諭の呼び出した呪いの専門家が到着する。

 

「お疲れ様です。呪いにかかっている生徒がいると聞いて、こちらへ参りました」

 

「お疲れ様です! 待ってました立花先生!」

 

 養護教諭は部屋に訪れた立花を歓迎し、そしてすぐに光華のもとへと案内する。

 

「この子なんですけど……」

 

「光華か……」

 

 立花は光華の状態を確認すると、光華の腹部に手のひらをかざす。

 立花が行ったのはたったそれだけ。しかしそれだけの行為が、光華の取り巻く現状を大きく変える。

 

「ぐぉゥ、つう――――あれ、治った!」

 

 永遠に続くかと思われた苦しみが嘘のように消え去り、光華は勢いよく上体を起き上がらせる。

 あれだけの激痛だったにもかかわらず、今の体の具合はまさに健康そのもので、まるで狐につままれたような気分だった。

 

「さすがですね立花先生。あんな一瞬で解呪するなんて」

 

「確かに強力な呪いでしたが、呪いを構成する要素のほとんどが、術者の隠蔽に使われていました。おそらく呪詛返しを防ぐためのものでしょう。ですので、呪いを打ち消すこと自体はそれほど難しくありません」

 

 そう言って、事実簡単そうに呪いを解呪した立花だが、もちろんそれは立花のような実力者だからこそできたこと。

 

「では、誰が光華さんに呪いをかけたかは不明ということですか?」

 

「そうですね。詳しく調べれば分かったかもしれませんが、もう消してしまいましたから。……ですが、あれほど複雑な呪いを構成できる人間はそういません。それこそ高等部で可能な人間となれば、烏丸くらいのものでしょう」

 

「あぁ……、やっぱり烏丸さんですか。彼女も懲りませんね。以前、田中くんを呪った時は停学処分まで受けたというのに……」

 

 呪いをかけた下手人として、一人の問題児が浮上し、困った様子で会話を交わす立花と養護教諭。

 

 そして、そんな二人の会話を傍で聞いていた光華。彼女はこの時、笑みを浮かべていた。それは普段、学園で見せる王子様としての笑顔ではなく、口元だけが不自然に歪められたもの。彼女の両手は震えるほど力強く握りしめられており、その目には確かな怒りが込められている。

 

 

 また一つ、雪春たちのチームに爆弾が生じた瞬間だった。

 

 

 




『パンパカパーン! チームの溝が深まった!』
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