魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
授業を終えた放課後、僕はすぐさま帰るのではなく、ある教室へと向かっていた。それはこれから行われる特別講義に参加するため。
その特別講義とは『リーダー研修およびチーム合宿説明会』というもの。
その名の通り、各チームのリーダーが参加し、リーダーとしての心構え等を学ぶ研修である。また、来週から始まるチーム合宿の説明会も兼ねている。
リーダーだけが参加できる――みたいなの、ちょっといいよね。特別感があって。
そんなこんなで少しテンションを上げていると、そのリーダー研修が行われる教室――『大講義室』に到着する。
巨大スクリーンが設置されているその教室は、200人以上が収容可能な講義室なのだが、さすがにその全ての席が埋まっているわけではなく、チラホラと空席も確認できる。特に前の方。
さて、僕はどこに座ろうか。前の方は誰もいなくて目立ちすぎるし、かといって知り合いのいない後方の密集地は気まずいし……。
「あれ、雪春?」
僕が入口付近で座る席を決めかねていると、背後から誰かが僕の名を告げる。振り返ると、そこにいたのはつい先日誕生日を祝い合った冬二だった。
「あ、ここに来たってことは、冬二もリーダーになったんだ。まあ妥当って感じではあるけど」
「まあな。でもそれより、雪春がここにいるってことは…………チーム、組んだのか、俺以外のやつと」
そりゃ誰かしらとは組むよ。そういうルールなんだから。
そんなどこか悲しそうな表情を浮かべる冬二の左手中指には、銀色の指輪が輝いていた。
まじで付けてるのか……。
「まあ一緒のチームじゃなくても、合同で任務を受けたりもできるしな。その日を楽しみにするとするか」
「そ、そうだね。とりあえず、ずっとここで突っ立ってるのもあれだし、座らない?」
「おう」
まあ何はともあれ、冬二がいてくれたことで、ぼっちを回避することができた――そう安心していると、
「あら、綿谷冬二じゃない。あなたもリーダーになったのね。私もカナメと一緒にチームを組んだのよ。以前のタッグ戦ではあなたと脳筋女に後れをとったけど、チーム戦ではあの時のようにはいかないわ」
「あ、冬二くん! そっちはやっぱり冬二くんがリーダーなんだね。私もあの時のみんなとチームを組んだんだ。それで、私がリーダーに選ばれちゃって……へへ。柄じゃないのはわかってるけど、がんばるって決めたんだ。あの時、冬二くんとサキちゃんに助けられたおかげで、今の私たちがあるから……」
……知らない
冬二の兄貴による魔の手は、他クラス女子にも手広く伸びているらしい。他クラスヒロイン二人は、あっという間に冬二の両脇を固めてしまう。
そうしてあれよあれよと、席に座るころにはいつもの
まあ別に落ち込むようなことじゃない。誕生日の時が異常だっただけで、こうなるのが普通なのだから。
だから冬二、そんな申し訳なさそうな顔でチラチラこっちを見なくていいんだよ。いやまじで。
とまあそんな風に、サンドイッチ状態の冬二から席三つほど離れ、講義が始まるのを待っていると、一人の女性が大講義室へ入室する。
その女性は幼い顔立ちをしており、学生と勘違いしそうな見た目なのだが、れっきとした学園の教師だ。
名前は
ちなみに、着ているスーツの形が変形してしまうほど、大きな胸部と臀部をお持ちで、その胸によく冬二がダイビングヘッドすることで有名だ。
「は~い、みなさん座ってくださいね~。講義を始める前に、チームごとに書類を配るので、名前を呼ばれたチームのリーダーさんは取りに来てくださ~い」
そう言って紅原先生は、次々とチーム名を告げていく。
そのチーム名は多種多様で、異能名であったり、星座だったり、神話の神様の名前だったりと、どのチームもかっこいい名前をつけている。
みなさん素晴らしいセンスをお持ちのようで。まあうちも負けてはいないですがね。ふふん。
「次、チーム…………えっと、
いやキッツイ名前のチームいたわ。感性が壊滅しておられる。
……どこかで聞いたことある言葉の気もするが、きっと気のせいだ。
「愚蓮努羅魂仏血切離のリーダーさ~ん」
ふと、
「あれ~? もしかして来てないのかな~。え~っと、チームリーダーは……」
絶対だ。絶対に、僕は何の関係も――
「渡谷雪春く~ん」
烏丸ァ!!!!!!
僕は慌てて先生の下へと駆け寄る。
「あの! チーム名ほんとにそれで合ってます!?」
「えっ? うん、合ってると思うけど~…………あ、ほら」
そう言って先生が僕に見せてきたのは、ついこの前提出したチーム申請書。
そのチーム名の欄には、『ミスフィット』の文字に横線が入れられ、『愚蓮努羅魂仏血切離』と上書きされていた。
やりやがった! マジかよあの呪い女ァ! やりやがったッ!
「すみません! チーム名なんですけど、ほんとはこの横線引かれている方が正しくて……!」
「そうなの? でもごめんね~、チーム申請期間は終わってるからもう変更できないの~」
嘘だろ……? じゃあ僕は卒業するまでずっとドラゴンリーダーなのか?
「ねえ聞いた? 変なチーム名」
「ぷっ、だっせえ」
周囲からはクスクスという笑い声が一斉にあふれる。くっ…殺せ!!!
僕は過去一番恥ずかしい思いをしながら、書類を受け取って席へと戻る。
その際、冬二は『かっこいいチーム名だな!』と言って励ましてくれた。隣の女子二人は苦笑いでしたけどね。
その後しばらくすると、全チームに書類が渡ったようで、講義が開始される。
「じゃあみなさ~ん、小難しい説明は一旦置いておいて、まずは一本の動画を視聴してもらいま~す」
紅原先生はそう言いながら、プロジェクターを起動させる。
そうしてスクリーンに映し出されたのは、とあるチームリーダーが主役のドラマだった。
そのドラマは、主人公がチームの仲間と様々な困難を乗り越え、だんだんと絆を深めていくといったもの。
物語としてはありきたりなものだったが、教育用のビデオにしてはクオリティが高く、いつの間にか見入ってしまう僕がいた。
その後も物語は進んでいき、リーダーが『これから卒業して、みんな離れ離れになっても、俺たちはずっと仲間だ!』とチームメイトに告げたところで、終わりを迎える。
いやあ、良かった。最初はバラバラだったチームが、次第に心を通わせて一つになっていく過程に感動したし、リーダーとして努力する主人公の姿を見ていると、自分もがんばろうと思えた。
周りを見てみると、チラホラと拍手が生まれ、その表情からは一様にやる気がみなぎっている。
思い返してみれば、望まないメンバーとチームを組まされたことで、僕はどこか斜に構えていたのかもしれない。でも違ったんだ。最高のチームとは、時間をかけてじっくりと作り上げていくもの。今はバラバラでも、チーム合宿や任務でお互いを理解していけば、きっと僕たちも素晴らしいチームに……!
先ほどまでチームメイトへの殺意でいっぱいだった僕の心が、ぱあっと晴れていくのを感じる。
よし、僕もドラマの主人公のようなリーダーとして活躍してみせ――
「は~い、それではこれから動画の後半をながしま~す」
…………後半? あれで終わりじゃなくて、まだ半分だったってこと?
ストーリーもきれいにまとまって終わったし、生徒にやる気を出させることが目的なら、それはすでに達成している。正直あれ以上は蛇足にしかならないと思うけど…………。
僕だけでなく、周囲の生徒も一様にクエスチョンマークを浮かべる中、ドラマの続きがスクリーンに映し出される。
そこからは地獄だった。
とある依頼を受けたリーダーとその仲間は、任務中にリーダーの下した決断が原因で壊滅する。死者もでて、残った仲間からはお前のせいだと糾弾される。
死んだ仲間の遺族からは訴えられ、決まっていた進学は白紙となり、たった一度の判断ミスで主人公は全てを失ってしまう。
そうして最後には、主人公が謝罪の言葉を口にしながら、自らの首に縄をかけ――
そこで動画は終了した。
「は~い、これで動画はおしまいで~す。どうでしたか~?」
しんどいよ!――それが僕の……いや、ここにいる生徒全員の本心だった。
周りを見てみると、みな一様にうつむき、絶望の表情を浮かべている。
講義室内は完全にお通夜状態だ。
「というわけで~、みなさんにリーダーとしての責任の重さを知ってもらうための動画でした~」
そう言って笑顔で話す紅原先生。どう考えてもそのテンションで告げていい内容じゃない。
「あの……」
「は~い、そこの手を挙げている女子生徒さ~ん。どうかしましたか~?」
「私……リーダーやめたいです」
「ダメで~す」
なおも笑顔の紅原先生。だんだんサイコパスに見えてきた。
「ちなみにこの動画は、一部フィクションなので安心してね~」
全部フィクションであってほしかったよ。
その後も、地獄のような空気の中、紅原先生の講義は続いた。
そうして1時間後、チーム合宿の説明が終わり、ようやく解散となる。
なんだかどっと疲れた。ちょっとワクワクして講義を受けに来たのに、まさかこんな気分で講義を終えることになろうとは…………。
今日はバイトもないし、さっさと帰ろう。そう考え、教室を出ようとしたその時――
「雪春!」
冬二に呼び止められる。
「どうしたの?」
「いや、たいした用じゃないんだ。ただ来週のチーム合宿、お互いがんばろうなって伝えたくて」
「ああ、うん。お互いがんばろう。でもなんだか冬二、すごく気合い入ってるね」
「まあな。先生の説明でもあったけど、チーム合宿で好成績を残したチームは、優秀な
「そうなんだ。もっと強くなりたいってこと?」
「ああ、俺はこの前……自分の弱さを思い知った。それに、俺の身近な相手が、どうやら何者かに狙われてるみたいなんだ」
へえ、なんだか大変そうね。
「だから、今より強くなって、みんなを守れるようにならないと……」
そう告げる冬二の目は、ギラギラと熱く燃えている。
相変わらずしっかり主人公しているようでなにより。
でもそうか、メンターか……。
チーム合宿が終わると、チームには必ず一人、学園が雇うメンターが付くことになっている。
メンターとは、チームを指導したり、任務への参加許可を出す人物のことをさす。要は監督のようなものだ。
僕は以前、異能の修行をする際に、実力者から修行をつけてもらうという方法を考えた。ただその方法は、持ち前の孤高さから断念。
しかし優秀なメンターがチームに付けば、もしかしたら異能の指導をしてもらえるかもしれない。そうして隠された真の力が覚醒したり…………。
そう考えると、さっきまで底辺スレスレだったテンションが少し上がってきた。
「そうだね。お互い強くなるためにがんばろう、冬二」
僕と冬二はグータッチで、己の気合いを入れると共に、相手の健闘を祈る。
そうして時は流れ、チーム合宿当日――
集合時間になっても、僕以外のチームメンバーが誰も来ません。集合場所には僕一人。一体何がダメだったんでしょうか……。
――――――
おまけ
少し時はさかのぼり、チーム合宿前日――
僕はその日、朝から荷造りを行っていた。もちろんチーム合宿の準備である。
なんせチーム合宿は四泊五日。平日の一週間をまるまる使って行われる。そのため、荷造りだけでも一苦労だ。
「コインランドリーがあるって言ってたから、服はそんなに多くなくて大丈夫か……。あとでムー用のイワシを買って、ついでに足りないものを……」
「雪くん遊ぼー!」
「帰れ」
さも当たり前のように、僕の部屋へと侵入してくる
え? 鍵をかければいいじゃないかって? ……鍵って、簡単に壊れちゃうんだ(3敗)。
「ルウ、悪いけど僕は今忙し――」
「あれ!? 雪くんどこか行くの!?」
ルウは荷造りしている僕の姿を見て、僕が出かけることに気づいたらしい。
「そうだよ。だから――」
「ズルい! 私も行きたい!」
「あのな、僕は遊びに行くわけじゃな――」
「私も行く!」
せめて人の話を最後まで聞きなさいな。
「学校行事なんだから行けるわけないだろ」
「私も行く!」
「平日だし、ルウだって学校があるだろ」
「私も行く!」
「ルウ、あんまりワガママばっかり――」
「私も行く!」
ダメだこりゃ。
「いいもん! おじいちゃんに行っていいか聞いてくるから!」
そう言って、ルウは勢いよく部屋から出ていく。玄関のドアを開けっ放しにして。
……まったく、いくら理事長が孫に甘いとはいえ、さすがに許可してもらえるはずないだろうに。
でもこれで、邪魔されることなく準備ができる。僕は玄関のドアを閉め、荷造りを再開した。
~10分後~
「雪くん! おじいちゃんが行ってもいいって!」
「もしもし理事長?」
僕は理事長へと電話をかけた。
「さすがに孫を甘やかしすぎじゃないですかねえ」
『いや~、ごめんね。雪春くん』
電話先の人物、理事長は申し訳なさそうな声で謝罪の言葉を口にする。
『私もダメだとは言ったんだけど、ルウもなかなかしつこくてね』
嘘つけぇ。ここから理事長室までの往復時間を考慮したら、ほぼノータイムで許可出してるだろ。
『大丈夫、ちゃんと使用人は付けるし、雪春くんの邪魔をしないように言っておいたから』
だといいですけど。
「ねえ雪くん! これなに!?」
さっそくグチャグチャにされている荷造りしかけのカバンを見て、僕は期待しないことに決めた。
『そうそう雪春くん。その明日からのチーム合宿だけど、はりきりすぎてケガとかはしないようにね。チーム成績よりも、健康がなにより大切だから』
「はあ……、まあ、できるだけ気をつけます」
僕がそう告げると、理事長はどこか満足そうにして、通話が終了する。
こうしてチーム合宿前日に、お子様の参加が決定した。
権力者が身内を甘やかすの、僕よくないと思うな!