魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
学園に朝8時集合――先週、先生たちがことあるごとに告げていた言葉だ。
にもかかわらず、8時半を過ぎても僕のチームメンバーは未だ誰も来ない。
まさかの全員ブッチ? いや、チーム合宿は全員参加の特別行事。進級もかかっているため、それは考えにくい。だとすれば……シンプルに遅刻か。
他のチームは当然既に集合し終え、合宿地へと向かうバスに乗車が完了している。
気合を入れて迎えた合宿初日。いきなり出鼻をくじかれてしまった。あのボケカス共。
「あ、お~い。渡谷雪春く~ん」
イライラしながら待機していると、誰かが僕の名を呼ぶ。
振り返ると、そこにいたのは『サイコパス愛子』こと紅原先生。
「紅原先生、どうしたんですか?」
「蛇塚くんと烏丸さん。この二人って~、たしか渡谷くんのチームメイトだよね~」
「あっ、はい。そうですけど……」
「さっき連絡があって~、今二人とも病院にいるんだって~」
………………なんで?
「だからこっちに来るまで、も~ちょっと時間がかかるみた~い」
……よくわからないけど、まあ十中八九悪いのは烏丸だろう。
しかしそうなると、二人が来るより先に出発時間が来てしまう。二人とは現地集合なるのか……。
「わかりました。じゃあもう僕はバスに乗ってしまいますね」
「あ、それはダメよ~」
「え?」
「チーム全員がそろわないと~、そのチームは出発できないルールだから~」
「でも先生! それじゃあ――!」
「うん、バスはもう出るけど~、チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』のみんなは居残りで~す」
「……」
一体何度目だろうか。この短い付き合いで、チームメイトに殺意を覚えたのは。
無情にも、生徒たちを乗せたバスは僕から遠ざかっていく。一体僕が何をしたというんだ。
それから30分後、チームメイトはまだ誰も来ない。
校門前で未だにチームメイトの到着を待つのは、僕ともう一人の女子生徒のみ。
僕から数歩分ほど離れて立つその女子生徒は、腰まで伸びる長い髪を持ち、その佇まいからは心なしか上品さが感じられる。もしかしたら、いいところのお嬢様なのかもしれない。
僕の部屋に突撃してくる、なんちゃってお嬢様とは大違いだ。
しかし彼女もバスに乗らなかったということは、チームメイトがまだ来ていないということなのだろう。
お互いウンコみたいなチームメイトを持つと苦労しますね――僕は彼女に対して勝手に親近感を覚えた。
そうしてさらに待つこと30分後、やっと蛇塚と烏丸の二人が到着する。
いくらなんでも遅すぎる! 文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない!――そう考え、二人の姿を視界にとらえて口を開こうとした瞬間、僕は思わず硬直してしまう。
なぜなら、全身傷だらけで、さらには三角巾で右腕をつった痛々しい姿の蛇塚が、そこにいたからだ。
その蛇塚の隣には、どことなく申し訳なさそうな顔をした烏丸が立っている。こっちは無傷。
「…………なんで?」
僕は声を出さずにはいられなかった。
「…………」
「……ちっ」
僕の問いかけに対し、烏丸は無言。蛇塚は舌打ち。理由は聞くなということだろうか……。
「蛇塚くんはね~、トラックに轢かれそうな女の子を助けてこうなっちゃったの~」
しかしノータイムで紅原先生はバラす。
「あれ、じゃあ烏丸さんはどうして一緒だったんですか?」
「烏丸さんはね~、女の子をかばって、代わりに轢かれそうになった蛇塚くんを助けたの~」
……助かってるかこれ? 僕は蛇塚の姿を見て
「まあちょ~っとその際、勢いがつきすぎて~、きりもみ回転で50メートル近く吹き飛んだ上、橋から飛び出て川に落っこちたらしいけど~」
わんちゃんトラックにぶつかった方が軽傷だった説ない?
いや、さすがにトラック相手だと異世界転生してた確率の方が高いか。
しかしそれよりも、烏丸が蛇塚を吹き飛ばしたことの方が衝撃なんだけど。
呪いとかの間接攻撃だけじゃなくて、近接戦闘もいけるの? Bランクぱねぇ。
「それじゃあ全員無事そろったし~、集合写真とろっか~」
「無事?」
蛇塚は疑問の声を上げるが、紅原先生は気にせずカメラの準備を始める。
しかしこれには僕も待ったをかける。
「すみません紅原先生、まだ全員そろってませんよ?」
「えっ? ……あ、ほんとだ。まだセックスシンボルがきてない。事故にあったワタシたちより遅いとか、ありえなくない? 時間管理がなってないなぁ」
「マジかよあのオトコオンナ。怠慢ってレベルじゃねえぞ。もうあんなやつ待たずに出発しちまおうぜ」
盛大に遅刻し、つい先ほど来たにもかかわらず、自分が責める立場となった瞬間、イキリだす蛇塚と烏丸。そういうとこだぞ。
「……? 何言ってるの~? 光華さんならずっとそこにいるよ~」
「「「……え?」」」
不思議そうに先生が視線を向ける先、そこには先ほどのお嬢様らしき女子生徒が一人……。
「「「えっ!?」」」
再び僕たち三人の声が重なる。
全員が嘘だろ!という疑いの目を向ける中、(推定)光華は足首まで隠れる長いスカートをつまみ、優雅に一礼。そして告げる。
「どうも、遅刻してきた信号機と停学女にボロカス言われた光華夏美で~す」
その声は間違いなく、男装時の光華夏美の声。
僕らは開いた口が塞がらない。
「なんで!?」
「別にどんな格好をしようとボクの勝手だろ。ほら、さっさと写真を撮らないと。誰かさんのせいで、ボクたちのチームだけで遅れてるんだから」
いつもと違う見た目から、いつもと同じ声が発せられる。違和感がすごい。
「ほら~、光華さんの言う通りよ~。早く並んで並んで~」
僕ら三人は驚きを処理するよりも早く、紅原先生に促され、校門をバックに並ぶ。
「は~い、みんな笑って~。じゃあ撮るよ~。3、2、1」
パシャリ、そうして撮られた写真は、ただ記念に残すためだけのものではない。
チーム写真として、学園外にも公表される、言わばチームの顔といえるもの。これを見て、チームに依頼を出す人もいるらしい。
在学中だけでなく、卒業後もずっと残り続ける大切な写真……なのだが、
無表情の僕。
キレ気味の蛇塚。
柔らかい笑顔の光華。
笑顔が引きつった烏丸。
それはもう、一目見て凸凹チームであることが、嫌というほど伝わる写真の出来上がり。
後で加工アプリ使って編集しとくか……。
「おっけ~。じゃあ私は車とってくるから、ちょっと待っててね~」
そう言われてから、待つこと5分。
僕たちの目の前に現れたのは、黒い6人乗りのバン。
窓にはスモークフィルムが貼られているのか、中の様子がまったく見えない。
「え……、こんな怪しい車に乗るの?」
烏丸の漏らしたその一言に、僕たち全員が同意する。
「ね~、怪しいよね~」
そしてその車を持ってきた紅原先生も、運転席から同意していた。
「これ先輩……立花先生の車なんだけど~、借りる時ナンバープレート外されてたんだよ~。絶対犯罪とかに使ってるよね~」
「「「「………………」」」」
誰か否定してあげなよ。
「ほら~、乗って乗って~。出発するよ~」
普通にバスがよかった。まあ今さら言ってもしょうがないんだけど。
「あっ、リーダー。乗る前にちょっといいかい?」
そう言って車に乗る直前、僕に声をかけてきたのは、いつの間にか普段の男装姿に戻っていた光華だった。
もしかして、写真を撮るためだけにあの姿をしていたのだろうか?
「どうしたの? 光華さん」
「いやまあ、たいしたことじゃないんだけど、あまり女性に対してチラチラ視線を送るのはやめた方がいいよ。見られている方はわりとわかるからね」
それだけ告げると、光華は車に乗り込んでいく。
「………………」
先生、僕死にたいんすよ。
「渡谷く~ん、どうしたの~? 早く乗りなよ~」
「……うっす」
車に乗り込む僕の心は既にバッキバキ。出発と同時にもう帰りたい。
これから一週間、このメンバーで心穏やかに過ごせるとは、今の僕には到底思えなかった。
チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』――予定より2時間遅れで出発。
――――――
おまけ
チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』の出発から2時間。雪春たちを乗せた車はサービスエリアに停車し、しばしの休息をとっていた。
ここまでずっと運転していた紅原も、屋外の喫煙所で一服しており、煙と共に大きく息を吐く。
「あ~……、そうだ。先輩からは車が臭くなるから吸うなって言われてたんだった。まあでももう吸っちゃったしいっか~」
昔なら確実に半殺しにされていたが、教師を始めてからは随分落ち着いたため、謝れば許してもらえるだろう――そう考え、紅原はもう一度煙を吐き出す。
するとちょうどその時、紅原の携帯にその先輩からの着信が表示される。
「噂をすればなんとやら~。は~い、もしも~し、紅原で~す」
『立花だ。そっちの様子はどうだ?』
「今のところ問題ありませ~ん。
『警備の方は足りているか?』
「そっちも同じく問題な~し。一般車に紛れ込ませた護衛車に、対空部隊も配備済み。理事長殿の悪魔も遠巻きに待機して、さらにはダメ押しでお嬢様まで。まあ昨夜はしゃぎ過ぎたらしく、今はぐっすりですけど~。とまあなんにせよ、警備態勢は国家元首レベル。ガチガチすぎてもはや笑っちゃいますよ~」
そう言いながら、紅原は駐車場の方へと目を向ける。
そこに止められている車は、ほとんどが学園関係者のもの。
しかもその中で待機している人物は、紅原が絶対に敵に回したくないと思えるような実力者ばかり。
事情を知らない人物がこれを見れば、これから戦争でも仕掛けるのかと勘違いするだろう。
そのあまりにも異様な光景に、紅原は思わず苦笑いを浮かべる。
『ところで紅原、今朝の蛇塚たちが巻き込まれた事故は、お前の仕込みか?』
「いや~、実は違うんですよね~。こっちでもいろいろ仕込んでたんですけど~、そんな必要もなく遅刻してきたんで~」
『……そうか』
「何か気になることでも~?」
『蛇塚と烏丸を監視していた人間から報告があってな。その蛇塚が助けたという女子生徒だが、警察等が事情を聞く前に、その場から姿を消したそうだ』
「ん~? ただ怖くなって逃げたとかじゃないんですか~?」
『だといいんだがな』
そう告げる立花の声は、何かあると確信している類のものだった。
「……もしかして、そっちで何かありました」
『ああ、私の同行していたルートが襲撃を受けた。一見事故に見せかけたものだったが、あれは確実に人為的なものだ』
「うわぁ~、しれっととんでもないことを。大丈夫だったんですか~?」
『幸いにも生徒が自主的に対処したおかげでな。ケガ人はなしだ』
「敵さんもなかなかせっかち~。しかしそうなると、合宿中なにもないと考えるのは確かにムリがありますね~。合宿が終わるまでは要警戒ってわけですか~」
『その通りだ。おそらく今回の襲撃は、あくまで戦力偵察のための様子見。どこかで本格的に戦力を投入してくるはず。だから紅原……そっちは頼んだぞ』
「頼んだぞ……と言われましてもね~」
立花からのその頼みは、下手すれば命すら危ない類のものであり、本来紅原にとって二つ返事で頷けるものではない。
しかし言葉を受け、紅原からは自然と笑みがこぼれた。普段の貼りつけた笑みとは違う。心から漏れ出た
「先輩からの頼みとあっちゃ、断れませんね~。先輩がこっちに来ると、あからさまに警戒されますから~。いいですよ~、
『……学生時代のあだ名を呼ぶな』
そうぶっきらぼうに告げ、立花からの通話が途切れる。
「先輩照れちゃって、かわいい~」
不機嫌そうな立花の表情を想像し、通話を終えた紅原も携帯をしまう。
そしてちょうどその時、紅原を呼びに来た生徒が喫煙所に訪れる。
「先生、そろそろ時間ですよ」
「あ~、ごめ~ん。すぐ行くね~」
そう言って紅原はタバコの火を揉み消し、己を呼びに来た生徒のもとへと歩き出す。
そうして生徒の隣にまで移動すると、紅原はあることを思い出し、隣にいるその生徒へ告げた。
「あ、そうそう~。渡谷くん、助手席で私がシートベルトしてるとこチラチラ見てたけど、見られてる方はわりと気づくからやめた方がいいよ~」
それだけ告げると、紅原はまた歩き出す。
その場で固まった生徒を置き去りにして。
「……先生、僕死にたいんすよ」
残された生徒は、誰にも聞こえない声で一人むなしくつぶやいた。