魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チーム合宿① / 先輩後輩

 

 学園に朝8時集合――先週、先生たちがことあるごとに告げていた言葉だ。

 にもかかわらず、8時半を過ぎても僕のチームメンバーは未だ誰も来ない。

 まさかの全員ブッチ? いや、チーム合宿は全員参加の特別行事。進級もかかっているため、それは考えにくい。だとすれば……シンプルに遅刻か。

 他のチームは当然既に集合し終え、合宿地へと向かうバスに乗車が完了している。

 

 気合を入れて迎えた合宿初日。いきなり出鼻をくじかれてしまった。あのボケカス共。

 

「あ、お~い。渡谷雪春く~ん」

 

 イライラしながら待機していると、誰かが僕の名を呼ぶ。

 振り返ると、そこにいたのは『サイコパス愛子』こと紅原先生。

 

「紅原先生、どうしたんですか?」

 

「蛇塚くんと烏丸さん。この二人って~、たしか渡谷くんのチームメイトだよね~」

 

「あっ、はい。そうですけど……」

 

「さっき連絡があって~、今二人とも病院にいるんだって~」

 

 ………………なんで?

 

「だからこっちに来るまで、も~ちょっと時間がかかるみた~い」

 

 ……よくわからないけど、まあ十中八九悪いのは烏丸だろう。

 しかしそうなると、二人が来るより先に出発時間が来てしまう。二人とは現地集合なるのか……。

 

「わかりました。じゃあもう僕はバスに乗ってしまいますね」

 

「あ、それはダメよ~」

 

「え?」

 

「チーム全員がそろわないと~、そのチームは出発できないルールだから~」

 

「でも先生! それじゃあ――!」

 

「うん、バスはもう出るけど~、チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』のみんなは居残りで~す」

 

「……」

 

 一体何度目だろうか。この短い付き合いで、チームメイトに殺意を覚えたのは。

 無情にも、生徒たちを乗せたバスは僕から遠ざかっていく。一体僕が何をしたというんだ。

 

 

 

 

 それから30分後、チームメイトはまだ誰も来ない。

 校門前で未だにチームメイトの到着を待つのは、僕ともう一人の女子生徒のみ。

 僕から数歩分ほど離れて立つその女子生徒は、腰まで伸びる長い髪を持ち、その佇まいからは心なしか上品さが感じられる。もしかしたら、いいところのお嬢様なのかもしれない。

 僕の部屋に突撃してくる、なんちゃってお嬢様とは大違いだ。

 しかし彼女もバスに乗らなかったということは、チームメイトがまだ来ていないということなのだろう。

 お互いウンコみたいなチームメイトを持つと苦労しますね――僕は彼女に対して勝手に親近感を覚えた。

 

 

 

 そうしてさらに待つこと30分後、やっと蛇塚と烏丸の二人が到着する。

 いくらなんでも遅すぎる! 文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない!――そう考え、二人の姿を視界にとらえて口を開こうとした瞬間、僕は思わず硬直してしまう。

 

 なぜなら、全身傷だらけで、さらには三角巾で右腕をつった痛々しい姿の蛇塚が、そこにいたからだ。

 その蛇塚の隣には、どことなく申し訳なさそうな顔をした烏丸が立っている。こっちは無傷。

 

「…………なんで?」

 

僕は声を出さずにはいられなかった。

 

「…………」

 

「……ちっ」

 

 僕の問いかけに対し、烏丸は無言。蛇塚は舌打ち。理由は聞くなということだろうか……。

 

「蛇塚くんはね~、トラックに轢かれそうな女の子を助けてこうなっちゃったの~」

 

 しかしノータイムで紅原先生はバラす。

 

「あれ、じゃあ烏丸さんはどうして一緒だったんですか?」

 

「烏丸さんはね~、女の子をかばって、代わりに轢かれそうになった蛇塚くんを助けたの~」

 

 ……助かってるかこれ? 僕は蛇塚の姿を見て(いぶか)しんだ。

 

「まあちょ~っとその際、勢いがつきすぎて~、きりもみ回転で50メートル近く吹き飛んだ上、橋から飛び出て川に落っこちたらしいけど~」

 

 わんちゃんトラックにぶつかった方が軽傷だった説ない?

 いや、さすがにトラック相手だと異世界転生してた確率の方が高いか。

 

 しかしそれよりも、烏丸が蛇塚を吹き飛ばしたことの方が衝撃なんだけど。

 呪いとかの間接攻撃だけじゃなくて、近接戦闘もいけるの? Bランクぱねぇ。

 

「それじゃあ全員無事そろったし~、集合写真とろっか~」

 

「無事?」

 

 蛇塚は疑問の声を上げるが、紅原先生は気にせずカメラの準備を始める。

 しかしこれには僕も待ったをかける。

 

「すみません紅原先生、まだ全員そろってませんよ?」

 

「えっ? ……あ、ほんとだ。まだセックスシンボルがきてない。事故にあったワタシたちより遅いとか、ありえなくない? 時間管理がなってないなぁ」

 

「マジかよあのオトコオンナ。怠慢ってレベルじゃねえぞ。もうあんなやつ待たずに出発しちまおうぜ」

 

 盛大に遅刻し、つい先ほど来たにもかかわらず、自分が責める立場となった瞬間、イキリだす蛇塚と烏丸。そういうとこだぞ。

 

「……? 何言ってるの~? 光華さんならずっとそこにいるよ~」

 

「「「……え?」」」

 

 不思議そうに先生が視線を向ける先、そこには先ほどのお嬢様らしき女子生徒が一人……。

 

「「「えっ!?」」」

 

 再び僕たち三人の声が重なる。

 全員が嘘だろ!という疑いの目を向ける中、(推定)光華は足首まで隠れる長いスカートをつまみ、優雅に一礼。そして告げる。

 

「どうも、遅刻してきた信号機と停学女にボロカス言われた光華夏美で~す」

 

 その声は間違いなく、男装時の光華夏美の声。

 僕らは開いた口が塞がらない。

 

「なんで!?」

 

「別にどんな格好をしようとボクの勝手だろ。ほら、さっさと写真を撮らないと。誰かさんのせいで、ボクたちのチームだけで遅れてるんだから」

 

 いつもと違う見た目から、いつもと同じ声が発せられる。違和感がすごい。

 

「ほら~、光華さんの言う通りよ~。早く並んで並んで~」

 

 僕ら三人は驚きを処理するよりも早く、紅原先生に促され、校門をバックに並ぶ。

 

「は~い、みんな笑って~。じゃあ撮るよ~。3、2、1」

 

 パシャリ、そうして撮られた写真は、ただ記念に残すためだけのものではない。

 チーム写真として、学園外にも公表される、言わばチームの顔といえるもの。これを見て、チームに依頼を出す人もいるらしい。

 在学中だけでなく、卒業後もずっと残り続ける大切な写真……なのだが、

 

 無表情の僕。

 キレ気味の蛇塚。

 柔らかい笑顔の光華。

 笑顔が引きつった烏丸。

 

 それはもう、一目見て凸凹チームであることが、嫌というほど伝わる写真の出来上がり。

 後で加工アプリ使って編集しとくか……。

 

「おっけ~。じゃあ私は車とってくるから、ちょっと待っててね~」

 

 

 

 そう言われてから、待つこと5分。

 僕たちの目の前に現れたのは、黒い6人乗りのバン。

 窓にはスモークフィルムが貼られているのか、中の様子がまったく見えない。

 

「え……、こんな怪しい車に乗るの?」

 

 烏丸の漏らしたその一言に、僕たち全員が同意する。

 

「ね~、怪しいよね~」

 

 そしてその車を持ってきた紅原先生も、運転席から同意していた。

 

「これ先輩……立花先生の車なんだけど~、借りる時ナンバープレート外されてたんだよ~。絶対犯罪とかに使ってるよね~」

 

「「「「………………」」」」

 

 誰か否定してあげなよ。

 

「ほら~、乗って乗って~。出発するよ~」

 

 普通にバスがよかった。まあ今さら言ってもしょうがないんだけど。

 

「あっ、リーダー。乗る前にちょっといいかい?」

 

 そう言って車に乗る直前、僕に声をかけてきたのは、いつの間にか普段の男装姿に戻っていた光華だった。

 もしかして、写真を撮るためだけにあの姿をしていたのだろうか?

 

「どうしたの? 光華さん」

 

「いやまあ、たいしたことじゃないんだけど、あまり女性に対してチラチラ視線を送るのはやめた方がいいよ。見られている方はわりとわかるからね」

 

 それだけ告げると、光華は車に乗り込んでいく。

 

「………………」

 

 先生、僕死にたいんすよ。

 

「渡谷く~ん、どうしたの~? 早く乗りなよ~」

 

「……うっす」

 

 車に乗り込む僕の心は既にバッキバキ。出発と同時にもう帰りたい。

 これから一週間、このメンバーで心穏やかに過ごせるとは、今の僕には到底思えなかった。

 

 

 

 

 

 チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』――予定より2時間遅れで出発。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』の出発から2時間。雪春たちを乗せた車はサービスエリアに停車し、しばしの休息をとっていた。

 

 ここまでずっと運転していた紅原も、屋外の喫煙所で一服しており、煙と共に大きく息を吐く。

 

「あ~……、そうだ。先輩からは車が臭くなるから吸うなって言われてたんだった。まあでももう吸っちゃったしいっか~」

 

 昔なら確実に半殺しにされていたが、教師を始めてからは随分落ち着いたため、謝れば許してもらえるだろう――そう考え、紅原はもう一度煙を吐き出す。

 するとちょうどその時、紅原の携帯にその先輩からの着信が表示される。

 

「噂をすればなんとやら~。は~い、もしも~し、紅原で~す」

 

『立花だ。そっちの様子はどうだ?』

 

「今のところ問題ありませ~ん。時間通り(・・・・)出発しましたよ~」

 

『警備の方は足りているか?』

 

「そっちも同じく問題な~し。一般車に紛れ込ませた護衛車に、対空部隊も配備済み。理事長殿の悪魔も遠巻きに待機して、さらにはダメ押しでお嬢様まで。まあ昨夜はしゃぎ過ぎたらしく、今はぐっすりですけど~。とまあなんにせよ、警備態勢は国家元首レベル。ガチガチすぎてもはや笑っちゃいますよ~」

 

 そう言いながら、紅原は駐車場の方へと目を向ける。

 そこに止められている車は、ほとんどが学園関係者のもの。

 しかもその中で待機している人物は、紅原が絶対に敵に回したくないと思えるような実力者ばかり。

 事情を知らない人物がこれを見れば、これから戦争でも仕掛けるのかと勘違いするだろう。

 そのあまりにも異様な光景に、紅原は思わず苦笑いを浮かべる。

 

『ところで紅原、今朝の蛇塚たちが巻き込まれた事故は、お前の仕込みか?』

 

「いや~、実は違うんですよね~。こっちでもいろいろ仕込んでたんですけど~、そんな必要もなく遅刻してきたんで~」

 

『……そうか』

 

「何か気になることでも~?」

 

『蛇塚と烏丸を監視していた人間から報告があってな。その蛇塚が助けたという女子生徒だが、警察等が事情を聞く前に、その場から姿を消したそうだ』

 

「ん~? ただ怖くなって逃げたとかじゃないんですか~?」

 

『だといいんだがな』

 

 そう告げる立花の声は、何かあると確信している類のものだった。

 

「……もしかして、そっちで何かありました」

 

『ああ、私の同行していたルートが襲撃を受けた。一見事故に見せかけたものだったが、あれは確実に人為的なものだ』

 

「うわぁ~、しれっととんでもないことを。大丈夫だったんですか~?」

 

『幸いにも生徒が自主的に対処したおかげでな。ケガ人はなしだ』

 

「敵さんもなかなかせっかち~。しかしそうなると、合宿中なにもないと考えるのは確かにムリがありますね~。合宿が終わるまでは要警戒ってわけですか~」

 

『その通りだ。おそらく今回の襲撃は、あくまで戦力偵察のための様子見。どこかで本格的に戦力を投入してくるはず。だから紅原……そっちは頼んだぞ』

 

「頼んだぞ……と言われましてもね~」

 

 立花からのその頼みは、下手すれば命すら危ない類のものであり、本来紅原にとって二つ返事で頷けるものではない。

 しかし言葉を受け、紅原からは自然と笑みがこぼれた。普段の貼りつけた笑みとは違う。心から漏れ出た本心(笑み)

 

「先輩からの頼みとあっちゃ、断れませんね~。先輩がこっちに来ると、あからさまに警戒されますから~。いいですよ~、鋼血(こうけつ)修羅(しゅら)の右腕であるこの紅原、任されましたとも~」

 

『……学生時代のあだ名を呼ぶな』

 

 そうぶっきらぼうに告げ、立花からの通話が途切れる。

 

「先輩照れちゃって、かわいい~」

 

 不機嫌そうな立花の表情を想像し、通話を終えた紅原も携帯をしまう。

 そしてちょうどその時、紅原を呼びに来た生徒が喫煙所に訪れる。

 

「先生、そろそろ時間ですよ」

 

「あ~、ごめ~ん。すぐ行くね~」

 

 そう言って紅原はタバコの火を揉み消し、己を呼びに来た生徒のもとへと歩き出す。

 そうして生徒の隣にまで移動すると、紅原はあることを思い出し、隣にいるその生徒へ告げた。

 

「あ、そうそう~。渡谷くん、助手席で私がシートベルトしてるとこチラチラ見てたけど、見られてる方はわりと気づくからやめた方がいいよ~」

 

 それだけ告げると、紅原はまた歩き出す。

 その場で固まった生徒を置き去りにして。

 

「……先生、僕死にたいんすよ」

 

 残された生徒は、誰にも聞こえない声で一人むなしくつぶやいた。

 

 

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