魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
呪い呪われ、傷つき傷つけ合い、呪いを巡る僕と光華の(まったく意味のない)戦いは、僕が呪いを解呪するかわりに一時休戦という形で落ち着いた。
しかしもちろん、その休戦はあくまで仮初のもの。
なぜわかるかって? 僕なら絶対そうするからだ。常に注意しておかなければ。
それはそれとして、山登りの方はというと、登り始めてから2時間がたった現在も、未だ
というのも、僕たちのチームは気絶した烏丸を光華が運び、その二人分の荷物を僕が運び、さらには
そのため、かなり休憩を多く取りながら登る必要があり、おそらくそのハンデがなければ、今ごろはとっくに頂上に着いていたはずだ。きっと。
しかしいつまでも終わりが見えないというのは、やはり精神的にかかるストレスが大きいもので、僕以外の三人も登りながらどんどん不安を募らせていくのが、手に取るように感じられる。
「ねえ、これほんとに頂上に着くのかな?」
そんな不安を初めに口に出したのは、いつの間にか意識を取り戻していた烏丸だった。
ちなみに烏丸を背負っている光華のジャージの首元が、不自然にてかっている。あれ乾燥したよだれだ。
「着くのかなって、そりゃ山なんだから登ってればいつかは頂上に着くだろう」
「だって……もう2時間近く登ってるのに景色が変わらないし、もしかしたら……学園が仕組んだ罠なのかも……」
「はぁ? なんだそれ」
「ははっ! 面白い考え方だね」
不安そうな表情で、突飛な発想を口にする烏丸に対し、蛇塚はあきれ、光華は笑い飛ばす。当然僕も含め、誰も本気にはしない。
「だってほら……ワタシ
……たち?
「こうやって森の奥深くにおびき寄せて、邪魔なワタシたちを始末する気なのかも……」
「んなわけねえだろ、意味わかんねえよ」
「きっとそうだよ……。山にワタシたちを埋めて、表向きには事故として処理する気なんだ……!」
「なるほど、『ジャルビイのいたずら』に見せかけるってことか。まあ作り話としては面白いが……」
「『ジャルビイのいたずら』とか……、今時小学生でも信じねえぞ」
……ジャルビイ? なんだろう、どこかで聞いたことあるような……。わりと最近だったはずだ。えっと、たしか――
「成体のジャルビイ!」
そうだ! 悪魔大全でやたらいろんな悪魔と比較されていた謎生物だ!
「どうしたんだいリーダー。急に大声出して」
「あ、いや……その『ジャルビイ』って何かなって思って……」
「はあ? 何言ってんだおま――ああ、そうか、リーダーは外部生だったな。そりゃ知らねえのも無理はねえか」
そう言って、蛇塚はなぜか納得したような表情を浮かべる。
蛇塚の発言から推測するに、異能社会ではみんな知っている生物なのだろうか?
「まああれだ。『ジャルビイのいたずら』ってのは、何もないところで人が消えたり、物が壊れたりする現象のことをそう呼ぶんだよ」
…………現象?
「ほとんど迷信みたいなものだけどね。小さい子供がいたずらとかした時に、『ジャルビイのいたずら』で消されるぞ!って親が脅す常套句のようなものさ」
「へえ……、ちなみになんだけど、ジャルビイに成体とか幼体とかってあったりする?」
「ねえよ。さっきも言ったとおり、『ジャルビイのいたずら』はただの現象のことをそう呼ぶだけだ。『ジャルビイ』なんて生物は存在しねえ」
あれえ? でも確かに、悪魔大全にはジャルビイという名が何度も出てきていたはずなんだけど……。僕の記憶違いか?
「は、話を戻すけど……、学校全体じゃなくても、先生の単独犯とかありえるんじゃないかな?」
「まだ言ってんのかよ……」
「頂上についたら、後から来るはずの紅原先生が待ち構えてたりして……」
「立花先生じゃあるまいし、紅原先生はそんなことしないさ」
まるで立花先生ならやるとばかりの言い草。
「でも紅原先生っていつも同じ笑顔で、ちょっとサイコパスっぽくない?」
「「…………」」
急に黙る。いや僕も心の中でサイコパス呼ばわりしてたけど。
その後、誰も紅原先生のサイコパス疑惑を晴らすことができず、僕たちは無言で歩き続けた。
そうしてしばらくすると、ついに登りの階段が終わりを迎える。
「やっと終わったぁぁぁ」
これに一番喜んだのはもちろん烏丸だ。
「いやきみ、トータルで10分も歩いてないからね? すごくワタシやり遂げた!みたいな顔してるけど、ほとんどボクが運んだんだからね?」
「えへへ……ありがとう光華さん」
「まったく……」
「リーダーも、荷物ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「蛇塚くんも、歩くペース合わせてくれてありがとう」
「別に、オレはなんもしてねえよ」
「あ、蛇塚が照れてる」
「照れてねえよこのオトコオンナ!」
そう言って声を荒らげる蛇塚に、僕らは思わず笑みを浮かべる。
仲間割れが始まった時はどうなることかと思ったが、共に苦労を乗り越えたことで、なんだかんだ仲が深まったように思えた。
なんせ初めは会話すらまともに発生しなかったのだから。
もしかしたら、汚い腹の中を見せあったのが意外にも功を奏したのかもしれない。
そうだよ、僕が求めていたのはこういうのなんだよ。
僕はチームに対して初めて満足感を得ながら、改めて周囲の様子を確認していく。
おそらく山の頂上であろうそこは、木に光が遮られていないため、とても明るく開放感のある場所だった。
そしてなぜか学校のグラウンドのように整備された土の地面が広がっており、さらにその地面の中央には、僕たちの後から来るはずだった紅原先生が、大きなスコップを持って立っており…………。
「…………」
「…………
僕が合図すると同時に、共倒れを避けるため、全員が違う方向に向かって走り出す。
もちろん打ち合わせなんかしていない。紅原先生という強大な敵に対し、僕たちのチームは自然と心がひとつになったのだ。
チームの絆というものを、初めて実感した瞬間だった。
しかしまあ、先生相手に逃げ切れるはずもなく、一人三十秒とかからず捕まり、先生の前に並んで正座させられる。
「なんで逃げたの~?」
紅原先生の圧のある問いかけに、烏丸を除いた僕ら三人は、無言で烏丸を指さした。ああ、美しきかなチームの絆。
「烏丸さんが余計なこと言ったの~?」
「みんな逃げたくせに!」
烏丸は抗議するように涙目でこちらを睨むが、僕らは意図的に目を逸らす。
「まったくもう~、何を想像したのか知らないけど~、
「じゃあワタシたち埋められない……?」
「埋めるわけないでしょ~。それに人を埋めるなら、ここよりももっと適した場所があるから~」
お詳しいですね。もしかして経験あります?
「まあいいわ~。ついでだし、このまま一つ目の課題の説明をしていくね~。と言っても、最初の課題はお試しのようなものだから~。得点を与えられるのも明日からだし~。だから肩の力を抜いていいよ~」
正座させておいて……。
「一つ目の課題は『宝探し』で~す。言葉通り、あなたたちにはこのスコップを使って穴を掘ってもらい~、あらかじめ埋めてある宝を見つけ出してもらいま~す。まあ宝と言ってもただのボールなんだけど~」
どう? 楽しそうでしょ?――と言わんばかりの紅原先生の説明に対し、僕らはそれぞれ思ったことを口に出す。
「……某野球マンガで似たような練習があったなぁ」
「えぇ……、さんざん歩いて体力使ったのに、また疲れるようなことするの……?」
「なんだそのくだらねえ課題。宝探しとかこっちはガキじゃねえんだぞ」
「ボクもやだなぁ。手にマメができそう」
「あなたたち、本当に埋めるわよ~」
僕らの忌憚のない意見に対し、紅原先生は笑顔で恐ろしい圧を放つ。烏丸は気絶した。
覇王色って教師の必須技能なの?
「ちなみに見つけ出すのが早かったらご褒美をあげるよ~。なにかモチベーションがあった方がやる気も出るしね~」
「本当ですか?」
「ええ~、30分以内に見つけ出せば、遅刻含めその他もろもろの不手際を立花先生にチクらないであげる~」
先生、それ褒美ちゃう。恩赦や。
「ほら急いで~、もう始まってるわよ~」
戸惑う僕らを無視し、紅原先生は容赦なく時計をスタートさせる。
まずい! 立花先生に今日のことがバレたら、間違いなくしばき回される! 急いで見つけないと――そう考えたところで、僕はある真実に気づく。
蛇塚は片腕をつっており、烏丸は気絶。まともに穴を掘れる要員が、僕と光華の二人にしかいないという真実に。
「詰んだだろこれ……」
「まあそれに関してはボクもリーダーと同意見だが、かといって『無理です!』で許してもらえそうもないし、やるしかないだろう……」
「……だね」
渋々ながらも、僕らは暴力を回避するため、課題に取りかかる。
そしてもちろん順調にいくはずもなく、途中で蛇塚と光華がスコップで叩き合うガチ喧嘩をしたり、ジャージによだれを付けられたことに気づいた光華が烏丸を埋めようとしたり、途中からは誰も一切協力せず、個人個人で別の場所を掘り始めた。
チームの絆とはなんと儚いものか……。
その後、2時間かけて僕らはなんとか宝を見つけ出すことに成功する。
30分を大幅に超えたうえ、『あなたたち……本当にそれでいいの?』と紅原先生からは哀れみの目を向けられた。
ただ紅原先生の悲しそうな表情を見れたことで、僕らの中で先生のサイコパス疑惑が少し薄まった。
まあなんにせよ、課題はクリアできたのだ。後はここから下山し、海沿いの宿に移動するだけ――だったのだが、ここでまた問題が発生する。
遅刻から始まり、登山での仲間割れ、課題の大幅時間オーバー。それらの遅延により、現在すでに日が沈みかけており、夜の下山は危険とのことで、急遽近くの山小屋に泊まることが決定したのだ。
……もう終わりだよこのチーム。
チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』――合宿初日、溝がさらに深まり終了。
――――――
「いや~、寄せ集めチームとは聞いてたけど、ここまで酷いとは~」
夜も更け、チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』のメンバーが疲れから泥のように眠る中、山小屋の外では紅原がベンチに座り、星を見ながらタバコの煙を吐き出していた。
そしてそんな紅原の隣に、彼女の先輩教師である立花が腰を下ろす。
「あ、先輩お疲れ様で~す。いいんですか? こっちにきてしまって~」
「ああ、
「巫女の予言ってやつですか。便利ですよねそれ~」
「未来が見えたところで、それを変えられないなら、見えていないよりもタチが悪いだけだ。それよりどうだ? 雪春たちは」
立花の問いかけに、紅原は全身を脱力させ、ベンチに深くもたれかかりながら口を開く。
「一言でいうともう最悪って感じですね~。あれはどうしようもないというか、山を登り始めて即仲間割れし始めた時はもうどうなるかと~」
「やはりそうか」
「でもまあ~、あの子たちを見てると、先輩のチームのことを思い出ましたよ~」
「……私たちはあれほど酷くなかった」
「いやいや~、負けず劣らずでしたよ~。個性が最悪のぶつかり方してましたし~。よくチームで呼び出し受けてたじゃないですか~」
「…………」
紅原の言葉に、立花は言葉を返さず黙り込む。
ヤバっ、からかいすぎたかも――そう懸念した紅原だったが、それは杞憂だった。
立花は懐からタバコを取り出し、紅原の方へとそれを向ける。
「火」
「えっ、吸うんですか? 珍し~い」
立花の催促に、紅原は慣れた手つきでライターを取りだし、火をつけた。
紅原は知っている。立花がタバコを吸うのは、ごちゃごちゃになった感情を整理する時だけであることを。
「確かに……私たちも最初は酷かった。顔を合わせば喧嘩して、不必要にいがみ合って、一方的に感情をぶつけるばかり」
「そうですよ~。
「登坂はメンターをやってる。相変わらず最低限しかチームを指導しようとせず、他のメンターは手を焼いてるようだ」
「そうでしたそうでした~。水谷先輩はたしか北鎮部隊でしたよね~」
「いや、何年か前にやめて今は飲食店を経営しているらしい」
「え……、あんな口より先に手が出る人に経営とか無理でしょ」
「風の噂では割と繁盛しているそうだ」
「うっそだ~」
「私も初めて聞いた時は嘘だと思った」
立花は相変わらず無表情で、紅原は相変わらず同じ笑みを貼り付けたまま。
それでも、思い出話に花を咲かせる二人の間に流れる空気は、先ほどよりも温かいものだった。
「……たとえ今は確執があろうとも、私たちのように些細なきっかけで変われる」
「先輩たちがチームとして機能しだしたのも、
「…………」
『あの人』――紅原からその言葉が出た瞬間、またもや立花は口を閉ざす。
やはりまだダメか――そう確信した紅原は、それ以上の追及を避ける。
「それで、渡谷くんたちには、どんなきっかけを与えるつもりですか~」
「……あまり直接的に関わらせるつもりはなかったが、あそこまで酷いとなると仕方ないだろう。緩衝役が必要だ」
「……理事長殿の許可は?」
「既にとってある」
「じゃあ……」
「ああ、監視役であるサラを、一時的にではあるがチームに加入させる」
チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』――新メンバー加入決定。
第一の課題『宝探し』
・埋められた宝(手のひらサイズのボール)を見つけ出す課題。
・ボールは魔力を帯びており、その魔力を頼りに探し出す。
・しかし魔力が強いほどボールは深く埋められており、魔力の大きさだけで飛びつけば、見つけるのにより時間がかかるトラップあり。
・見つかったボールは回収される。そのため、登山スピードも課題に影響し、頂上への到着が遅ければ遅いほど不利になる。
・掘った穴は最後に埋めなければならない。
ちなみに雪春はそれらのギミックに一切気づかず、一度も掘られてなさそうな場所をいくつか掘り、普通に見つけた。
肝心なところで撮れ高なし。それもモブ!