魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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感想を見ていると、多方面にヘイトがたまっているのを感じます。
ただ何がとは言いませんが、あと少し……あと少しなんです。

少し短め


チーム合宿④ / 少年の心

 

 二日目の課題開始は朝八時。

 しかし僕らのチームは下山する必要があるので、朝五時に山小屋を出発する――そう先生から説明を受けて僕たちは眠りについた。

 

 となれば起床は朝四時半過ぎ。山登りと穴掘りによる疲れもあるので、ギリギリまでぐっすり寝よう――そんな僕の考えは、とある妖怪によって狂わされる。

 

「雪くんおはよう」

 

「…………」

 

 不可解な体の重みを感じて目を覚ますと、ルウ(座敷わらし)が僕の体の上に乗っていた。

 まあ……、古そうな山小屋だし、妖怪が出てもおかしくないか……。

 そう自分を納得させ、僕は二度寝を決め込む。

 

「雪くんおはよー!!!!!」

 

 僕の耳は死んだ。

 

「起きて雪くん!」

 

 勘弁してくれぇ。今何時だと思ってるんだ。休日のお父さんじゃないんだぞ。

 半目でスマホを確認すると、時刻は夜中の三時。寝かせてくれぇ。

 

「雪くん起きてぇ! カブトムシ取りに行こうよぉ!」

 

「一人で行ってこいよぉ……」

 

「おいうるせえぞ! 今何時だと思ってんだ!?」

 

 僕の体をガクガクと揺らしながら叫ぶルウに対し、隣のベッドで寝ていた蛇塚が至極真っ当なクレームを入れる。

 

「ねえ雪くんてばあ!」

 

「ルウ、頼むからもう少し静かに……」

 

「うるせぇっつってんだろこのクソガキ!」

 

「ガキじゃないもん!」

 

 クソガキという言葉に反応したルウは、目にも止まらぬ早さで蛇塚のもとへと移動し、その腹部に拳一閃。

 

「ゲボォ……!」

 

 その一撃が、無情にも蛇塚の意識を刈り取る。

 あまりにも理不尽な仕打ちに、僕は憐憫の情を禁じ得ない。

 

 ……蛇塚、君は何も悪くない。ただ、相手が正論の通じない小学生(モンスター)だった。それが、それだけが、君の不幸だったんだ。

 

「もう! 私は立派なレディだもん!」

 

 僕の知ってる立派なレディは、男子高校生を一撃で沈めたりしないのよ。

 

「ねえ雪くん! 行こう!」

 

「わかったわかった。行くから声を小さく」

 

「わーい」

 

 寝不足による吐き気を感じながら、僕はお子様との虫取り参加を余儀なくされる。

 高校生にもなって虫取りなんて……。

 

 蛇塚が気絶しているその隣で、ぼやきながら僕はジャージに着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪くんこっちこっちー!」

 

 六月とはいえ、さすがにまだこの時間は真っ暗だ。

 にもかかわらず、虫かごと虫取り網を持ったルウは、元気に森の中を走り回る。

 そんなルウを見失わないよう、僕と、そして僕の使い魔であるムーがその後を必死について行く。

 

「ムー、お前は別に山小屋で寝てていいんだぞ」

 

「むーむむ」

 

 『ついてく』――と言わんばかりに鳴くムーは、フワフワと浮かびながら僕の傍を離れようとしない。

 

 こんなふうに、ムーは僕がどこに行こうとも、何をしようとも、絶対に離れようとせず僕の後をついてくる。

 何かしらに興味を持ち、少し離れることがあっても、それは目の届く範囲まで。

 一度部屋に留守番してもらおうとした時、大声で鳴きながら体としっぽを僕の体にひっつけ、『絶対に離れてなるものか!』という姿勢を示したこともある。

 契約した使い魔とはみんなこうなのだろうか?

 

「雪くん見て見てー!」

 

 僕が悪魔の生態について考えていると、ルウはさっそく何かを捕まえたらしく、手で直接掴みながら、僕の方へと近づいてくる。

 

「金色のクワガタ捕まえた!」

 

「……金色?」

 

 いやいや、金色のクワガタとかいるわけないだろう。

 僕はあきれつつ、近くまできたルウの手元を確認すると、そこには全長が5センチほどの、黄金色に輝く外皮を持つクワガタが…………。

 

 

「オウゴンオニクワガタじゃん!!!」

 

 

 東南アジアにしか存在しないはずのクワガタがなぜここに!?

 

「昨日もちょっと虫取りしたんだけど、この森なんかね、ビビビッて感じた方に行ってみたら、見たことない虫がいっぱいいるの」

 

 そう言いながらルウは、持っていたオウゴンオニクワガタを虫かごの中にしまう。

 そんな虫かごの中には、オウゴンオニクワガタの他にも、日本には存在しないはずのカブトやクワガタが複数入れられていた。

 

 バ、バカな…………! 生息地域も生息環境も違う虫たちが、同じ場所で生きていけるはずがない……! もしかして僕はまだ寝ぼけているのか?

 異能社会に足を踏み入れて1年と2ヶ月ちょい。僕は今までで一番の衝撃を受けていた。

 この森はオールブルーならぬオールグリーンだった……?

 

「あ、そういえばさっきすっごく大きなカブトムシがいたよ。逃げられちゃったけど、角が長くて、羽のところが黄色だった」

 

 ………なん………………だと…………?

 

 ……まさか……あいつなのか?

 多くの小学生男子がその名を知り、憧れ、いつか手に入れてみたいと(こいねが)い、しかしそのハードルの高さに夢破れていく。そんなあいつが、いるのか……? この山に。

 

 そう……カブトムシ界の頂点に立つどころか、昆虫界の頂点とも名高い――

 

 

 ――ヘラクレスオオカブトが!

 

 

 こうしちゃいられない! 周囲が明るくなる前になんとか捕獲しなければ! 使える戦力は総動員だ!

 僕はヘラクレスオオカブトをスマホで検索し、出てきた写真をムーに見せる。

 

「ムー! できるだけ高い所を探して、こいつを見つけたら僕に報告!」

 

「むむー!」

 

 ラジャーとばかりに返事をし、ムーは木の高い位置の捜索を開始する。

 

「雪くん、なに一人で喋ってるの?」

 

「あ、いや、なんでもないよ。それよりヘラクレス、絶対見つけるぞ!」

 

「おおー!」

 

 なにが『高校生にもなって虫取りなんて……』だ。変に大人ぶりやがって。

 僕は忘れてしまっていたのだ。

 夏の暑さの中、好きな野球チームの帽子をかぶり、無邪気に森の中を走り回ったあの日々を。

 身体中が泥だらけになり、膝は常に傷だらけだったあの日々を。

 捕まえた虫の大きさを友達と競い合い、全力で感情を表に出し続けたあの日々を。

 家に帰って、大量のセミが入った虫かごをリビングでひっくり返し、家族が大パニックに陥ったあの日々を(常習犯)。

 

 毎日が未知とロマンに溢れていた、夢のような日々を、僕は思い出した。

 僕がこれから行うのは、かつての少年時代の続き。

 そうだよ、まだ終わっちゃいない。

 いつだって僕らは帰れるんだ。自分こそが主人公であると信じ続けた、輝かしい毎日に。

 

 僕の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 この時、過去の輝きを思い出していた僕は、完全に忘れていたのだ。

 今が合宿中であるというとこを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に日が昇りきり、周囲が完全に明るくなったなか、僕らチームメンバー四人は、紅原先生の前で正座させられていた。

 

「今何時かしら~」

 

「「「「…………」」」」

 

「リーダーさ~ん?」

 

「……六時っす」

 

「私、何時に下山し始めるって言ったかしら~。光華さ~ん」

 

「……五時だったかと」

 

「かと?」

 

「五時でございます!」

 

「そうよね~。私が伝え間違えたわけじゃないわよね~」

 

 これ以上とないほど、ニッコニコで圧をかけてくる紅原先生。

 しかも本題に入ると、その圧がさらに強まる。

 

「じゃあ、一人二人ならともかく、どうして四人ともきっちり遅刻してくるのかしら~」

 

 ほんとなんででしょうね。

 遅刻に気づき、慌てて山小屋に戻ったら、そこには紅原先生以外誰もいなかったのだから。

 

「蛇塚くんはどうして遅刻したのかしら~?」

 

「…………寝坊したんだよ」

 

「光華さ~ん?」

 

「日課のランニングをしてたら森で迷子になりました……」

 

「リーダーさ~ん?」

 

「虫取りに夢中になってました……」

 

「烏丸さ~ん?」

 

「が、合宿から逃げようとして、途中で力尽きて捕まりました……」

 

「………………………………あなたたち、バカなの?」

 

 返す言葉もねえ。

 

 まさか二日連続で紅原先生の悲しそうな表情を見ることになるとは……。

 ただ蛇塚に関しては間違いなくルウのせいなので、後でフォローしておこう。

 女子小学生に気絶させられましたとは言えないだろうし。

 

「今日からはしっかり点数もつくので、この件はちゃ~んと減点しておきま~す」

 

 まだ課題が始まってもいないのに、さっそくの減点。要するに、僕らは文字通り『マイナスからのスタート』というわけだ。泣きそう。

 

「雪くんドンマイ」

 

 土の下に正座している僕の隣で、ルウ(お子様)は他人事のように僕の肩を叩いた。

 このクソガキめぇ……。

 

 

 

 チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』 総合得点 -20pt(168チーム中168位)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう~。実はあなたたちのチームに新メンバーが加入することになりました~」

 

 荷物の準備を終え、ヘラクレスの入った虫かごを肩にかけ、さあ下山を始めようというタイミングで、紅原先生はとんでもないことを口にする。

 

「え? このタイミングでですか?」

 

「そうなの~。あなたたちがあまりにもポンコ…………ポンコツなので、昨日の夜に急遽決まりました~」

 

 躊躇したならちゃんと取り繕ってほしい。

 

「じゃあさっそく紹介しま~す。おいで~」

 

 そう言って紅原先生は、少し離れた場所にいた一人の女子生徒を手招きする。

 そうして僕たちの前に現れたその少女は、僕と面識があり、なおかつ同じクラスの人物だった。

 

「サラ・シャステイと申します。この通り日本語はバッチリなので、みなさんよろしくお願いしますね」

 

 とてもきれいな笑みを浮かべ、サラ・シャステイは挨拶の言葉を告げる。

 およそ1ヶ月ほど前、僕らのクラスに転校してきたあの日と同じように。

 

 




雪春:既に飼育に必要な道具はポチった
蛇塚:実はヘラクレスを見てソワソワしている
光華:カブトムシとゴキブリの違いがよくわからない
烏丸:コーカサスオオカブト派
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