魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チーム合宿⑥ / カスたちの反撃開始

 

 僕はモブをやめるぞ! ……といっても、チーム課題で結果を出すには、当然チームメンバーの協力が必要不可欠。

 というわけで、なぜか協力的なサラと手分けして、僕らはメンバーに集合をかけた。

 

「んだよ。休憩時間だってのによお」

 

「ホントだよ。せっかく子猫ちゃんたちと楽しくおしゃべりしていたというのに……」

 

「ワタシは……暇だったけど」

 

 烏丸以外の二人は、休憩中に呼び出されたことで不満タラタラ。

 さて、この信頼関係ゼロどころか、いつ誰が背中から攻撃してくるかわからないチームメンバーに、やる気を出してもらわないといけないわけだが……。

 

 完全にノープランで走り出してしまったため、烏丸式『呪いで脅して協力させようぜ作戦』しか思い浮かばない。よくない思考汚染だ。

 

 どうしたものかと悩んでいると、

 

「皆様は、このままでよろしいのですか?」

 

 今まで沈黙を貫いていたサラが、問いかけるように口を開く。

 

「皆様は、とても素晴らしい力を持っておられます。それこそ皆様の持つその才能は、将来歴史に名を残すにまで至るといっても過言ではないでしょう」

 

 過言だろ。

 

「んな褒めたって何も出ねえぞ」

 

「さすがサラさん、ボクのことをよくわかってるね」

 

「えへ、うへ、ふへへへ」

 

 三人はサラのわかりやすいリップサービスにより、簡単に舞いあがる。あまりにもチョロい。

 

「……だからこそ、私は我慢ならないのです。才能あるあなた方が、本来の力を発揮できず、不当な評価を下されているのは。皆様は、納得できているのですか? チーム順位が大きく離されて最下位という、この現状に」

 

「「「…………」」」

 

 サラの言葉に、どうやらみな思うところはあるようで、三人とも難しい顔を浮かべて押し黙る。

 でもよかった。ここで、『別にチーム順位とかどうでもいいし』みたいな態度をとられれば、烏丸式脅迫術を使わざるを得なかった。

 

「では雪春様、お願いします」

 

 ……え? ここで丸投げ?

 

 サラから促され、三人の視線がこちらへと向けられる。

 

 えー……、どうしよう、何を話そう。うーん……。

 ちなみに三人の視線には、『え、様付けで呼ばせてるの? さすがにそれはひくんだけど』という侮蔑の感情が含まれている。ちゃうねん。

 僕は冷たい視線に耐えながら、必死に何を話すべきか考えるが、三人にやる気を出させるような――そんな気の利いた言葉は何も思いつかない。

 

 ならばもう、いっそ隠すことなく自分の本心をぶつけよう。

 そう考えた僕は、意を決して口を開く。

 

「……はっきり言うよ。僕はこの合宿で、結果を残したい。チーム順位も上位を目指して、一つでも上の順位を狙いたい」

 

 今さら隠しはしない。これが、僕の噓偽らざる本音だ。

 

「もう嫌なんだ、負けるのは。目立たない平凡な存在で終わるのは」

 

「リーダー……」

 

「さっき現在のチーム順位を見たら、僕の友人のチームが当たり前のように上位にいた。……悔しかったよ。こうなるのはわかりきっていたはずなのに、とっくに諦めてたはずなのに、悔しかった」

 

「雪春様……」

 

「勝ちたいんだ……! 僕はこのチーム合宿で、冬二(あいつ)のチームの上に行きたい! 無謀なのはわかってる! それでもっ! 一度くらいはあいつに勝ってみたいんだ! 勝ちたいやつがいるんだ! だから――!」

 

 烏丸、光華、蛇塚、そしてサラ。四人の顔を順番に見つめ、僕がどれだけ本気であるかを態度で示しつつ、一番重要な言葉を告げる。

 

 

 

 

「卑怯な手でもなんでも使い、ルールの抜け穴をかいくぐり、時には不正も厭わず、他のチームを蹴落としてでも、僕らはチーム順位トップを目指す」

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 僕が言葉を言い切ると同時に、奇妙な間が生まれる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれリーダー、わりと途中まではいい感じのこと言ってたと思うんだけど、最終的な結論それで合ってる?」

 

 合ってるとも。

 

「僕が求めるのは、あくまで勝利という結果のみ。勝利さえ手に入れば、手段など二の次だ」

 

「こいつ、敵サイドのキャラみたいなこと言い出したぞ……」

 

「ゲス……」

 

 まあまあまあ、烏丸にゲスと言われるのは死ぬほど納得いかないが、三人の言いたいことはわかる。

 だが実際問題、トップを狙うとなれば、間違いなく冬二たちのチームが立ち塞がってくるわけで。

 なんと冬二たちのチームは、六人全員が異能ランクC以上かつ、うち二人が最高ランクのAという、そんなんチーターやん!と叫びたくなるようなガチ構成っぷり。

 能力面および連携面の両方で下回る僕らに、正攻法での勝ち筋など皆無というわけだ。

 

 それに……

 

「ぶっちゃけ三人とも、周囲からどう思われようと、今さらどうでもいいでしょ」

 

 特に烏丸。

 

「まあ……、別に気にしねえけどよ」

 

「ワ、ワタシも……」

 

 蛇塚と烏丸の二人は僕の言葉に同意する。しかし、光華だけは難しい表情を浮かべたまま。

 

「……ボクは賛同しかねるかな。ボクを慕ってくれる子猫ちゃんたちに、失望されたくない」

 

「光華さんって、電流何回くらったっけ?」

 

「うぐっ……! まあ確かに、このまま課題でヒドイ結果を出し続ければ、それはそれで子猫ちゃんたちのボクを見る目が変わってしまいそうだ」

 

 結果を求めることには賛成。ただし卑怯な手は使いたくない、と。なら……

 

「バレなきゃOK?」

 

「OKだ」

 

 力強く返事をする光華の瞳は、まるで清流のごとく澄んでいる。不正に後ろめたい気持ちを持つ人間には、とてもできるものではない。

 それを見て、僕は薄々感じていたことに確信を持つ。光華(こいつ)、根はクズ側の人間だなと。

 

「じゃあ、みんな……おのおの思うところはあるだろうけど、一旦今までの遺恨は全部忘れて、可能な限り――」

 

「あー、ちょっと待ってほしい」

 

「……? どうかしたの、光華さん」

 

「遺恨を全部忘れろと言うなら、これだけは聞いておきたい」

 

 そう言って、光華は笑顔を浮かべながら尋ねる。

 

「ボクたちのチーム名を、あんな珍走団みたいな名前にしたのって、リーダー?」

 

「…………」

 

 僕は笑顔で烏丸を指さした。

 

「そっか、烏丸さんが付けたんだ」

 

「うん、そうなの! すごくかっこいいでしょ!?」

 

「そっかそっか……」

 

 光華はなおも笑顔のまま、自然な動作で烏丸の体を掴むと、

 

「お前かぁ!」

 

 海へとぶん投げた。

 

 キレイな放物線を描いた烏丸は、悲鳴と共に海へと沈む。

 チーム名を決める際、烏丸に一杯食わされた僕も、それを見てちょっとスカッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、さっそくだけど、今後の課題の対策について考えていきたいと思う」

 

 休憩が終われば、すぐに第三の課題が始まる。そのため、僕は少し急かすように話を始めると、頭にナマコを乗せた烏丸が疑問の言葉を挟んだ。

 

「あ、あれ? でも確か課題内容って、実際に始まるまでわからないよね?」

 

 烏丸の疑問通り、生徒は具体的な課題内容を学園から伝えられていない。つまり本来、どんな課題が行われるかは、説明を受けるまで不明であるため、対策のたてようがないというわけだ。

 

 だがしかし、僕は知っている。僕だけが知っている。これから行われる全ての課題の、具体的な詳細を。

 心優しい情報提供者には感謝しなければ。

 

「まず第三の課題は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三の課題は、ゴーレム討伐で~す」

 

 課題が行われるのは、採石場のような場所。一本の草木すら生えていない殺風景なその場所に、僕たちのチームを含めた30チームほどが集められている。

 どうやら朝の課題の時と同じメンバーみたいだ。

 

「ルールは単純明快。次々と生成されるゴーレムを、ぶっ壊しちゃいましょ~」

 

 紅原先生がそう告げると同時に、僕たちを囲むようにして、大量のゴーレムが土の中から出現する。

 それは人の形を模したゴーレムで、大きさは二メートルほどと少し大きめ。

 

「なんと一体倒す事に一ポイント。さらに大量ポイントが手に入るサービスゴーレムも、課題中必ずどこかで出現するから、みんな頑張ってね~」

 

 先生の言葉を素直に受け取るなら、単純にポイントの稼ぎ時ということになるが、もちろんそう簡単ではない。

 どこのチームだってポイントは欲しいのだ。となれば、必然的にゴーレムの奪い合いになる。

 効率的にポイントを稼ぐには、戦闘力以外にも周到な立ち回りが必要だ。

 

「それじゃあ、よ~いスタート~」

 

 開始の合図と共に、周りの生徒たちが一斉に動き出す。

 その動きは、チームによってまったく違う。六人全員がバラけて戦うチーム、逆に全員固まって動くチーム。それぞれの個性が出ていて、見ているだけでもわりと面白い。

 

「雪春様、私たちもそろそろ……」

 

「あ、うん」

 

 まずは静観に徹していたが、僕らも動き出すとしよう。

 

「じゃあみんな、作戦通りに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課題開始から45分――

 

 肉体的にも、精神的にも疲れがピークを迎える時間帯。

 どのチームも、課題開始当初の勢いは既になく、倒れ込んでしまっている生徒もチラホラと見受けられる。

 もちろん、僕らのチームも例外ではない。烏丸以外はみな疲労困憊といった状況だ。

 

 そんななか、そいつ(・・・)は現れた。

 

 そいつは全長10メートル以上はある巨大ゴーレムで、まるで映画に出てくる大怪獣のように、ゆっくりと生徒たちに向かって近づいていく。

 普通なら逃げるべきなのだろうが、この巨大ゴーレムこそが紅原先生の言っていたサービスゴーレムであり、僕たちの狙いでもある。

 

「みんな~、そいつを倒したらなんと100ポイントももらえるよ~」

 

 先生はそう告げるが、みな体力をほとんど使い果たしたこの状態で、巨大ゴーレムを倒す余裕などあるはずもない。

 それをわかってて言っているのだから、学園側もタチが悪い。

 

 ただそれを事前に知っていた僕らだけは、もちろん対策もばっちり。

 

「烏丸さん、いけそう?」

 

「うん、いけるよ」

 

 さて、ここで思い出してほしい。僕が先ほど話した『烏丸以外はみな疲労困憊』という言葉を。

 これは、烏丸がゴーレム破壊をサボっていた――というわけではない。

 チームの策として温存していたのだ。巨大ゴーレムを倒すための切り札として。

 

「『私は呪う 全てを恨み 全てを嫌悪し 全ての生きとし生けるものに 地獄を捧げよう 生を謳歌すること それ即ち罪なり どうかこの世に 受け止められぬほどの悪意あれ 死を 死を 死を 世界を反転させる死を』」

 

 そのあまりにも物騒すぎる詠唱を唱え終えると、烏丸は持っていた藁人形を地面に置く。すると、その藁人形が膨れ出した(・・・・・)

 藁の隙間から見える黒い何か(・・・・)が、ぶくぶくと肥大化していき、瘴気のようなものをばらまきながら、藁人形そのものも巨大化していく。

 その見た目はあまりにもグロく、近づいただけでも病気になりそうだ。

 

「あ、できるだけ離れててね。長く傍にいると病気になるから」

 

 なるのかよ。

 

「顕現せよ――『厄災の泥人形』」

 

 烏丸によって生み出されたのは、巨大ゴーレムをも超える大きさの藁人形。

 藁人形といっても、藁はただの(がわ)であり、本体は藁の中で(うごめ)く黒い何かだ。SAN値減りそう。

 

「やっちゃえ! ミカエル!」

 

 名前とのギャップよ。天使の名前を付けていい見た目じゃないだろ。

 

 烏丸が叫ぶと同時に、『厄災の泥人形(ミカエル)』は腕を振り上げる。

 巨大ゴーレムと巨大藁人形。絵面はまさに怪獣大決戦。

 

 

 

 でもちょうどいい。これは僕の、僕たちのチームの新たなスタートだ。派手にぶちかまそう。

 

 

 

 ミカエルの振り上げた腕が、巨大ゴーレムへと振り下ろされる。

 派手な衝撃と音がその場に広がり、巨大ゴーレムの上半身は木っ端微塵に。そのため、下半身だけになった巨大ゴーレムは機能を停止。

 それにより僕たちのチームは100ポイント加算。これで少なくとも、この場にいるどのチームよりも獲得ポイントは上回ったはずだ。

 

 ちなみに、ゴーレムを破壊した際の衝撃で、ミカエルの一部(黒い何か)が試験会場全体に飛び散り、多くの生徒が悲鳴を上げて逃げ回っている。いやぁ、地獄絵図。

 

「は~い、終了~」

 

 ちょうど巨大ゴーレムを破壊したタイミングで、紅原先生は課題終了の合図を告げる。

 これで僕らは周囲のチームに圧倒的な差をつけ、トップの座へと躍り出たわけだ。

 他会場の結果にもよるだろうが、全体でも上位にくいこむことは間違いない。

 

 ウハハハハ、気分がいいぜ。

 

「なんだかすごくニヤニヤしてるけど、普通のゴーレムを倒してポイント稼いだの、ほとんどボクと蛇塚くんだからね。サラさんはそのサポートで、リーダーは後方で腕組みしてただけじゃないか」

 

 うるせいやい。わざわざ水差すようなこと言わなくてもいいだろうに。

 

「あのねえ、こっちが汗水垂らしながらゴーレムを相手してた時に、一人何もしてないやつがいたら文句の一つも言いたくなるだろう」

 

 仕方がないじゃないか。僕の異能は戦闘向けじゃないんだから。

 それに作戦を立てたのは僕だし、貢献度的にはイーブンだ。

 

「リーダーとは前に出ず、後方でどっしりと構えておくもの。それを踏まえれば、雪春様の立ち振る舞いは称賛に値します」

 

 ほら、サラもこう言ってる。

 

「もう全肯定botじゃん……」

 

「リーダーよぉ、あくどいことはほどほどにしといた方がいいぞ」

 

「サラさん、弱みを握られてるならボクに言ってくれ。必ず力になるから」

 

 お前ら言いたい放題か。

 

 僕らはギャアギャアと騒ぎながら、ほとんどケンカ状態で言葉を交わし合う。チームが一つになる日はまだ遠いらしい。

 とはいえ、最初は会話すら生まれなかったことを考えると、少しずつではあるが、チームとして前に進めているはずだ。きっと。

 

 そうポジティブに考えながら、課題会場を後にしようとしたその時、

 

「あっ、『愚蓮努羅魂』のみんなはまだ帰っちゃダメよ~」

 

 紅原先生が僕らのチームに居残りを命じる。

 

「立つ鳥跡を濁さず。アレ(・・)、ちゃんと片付けてね~」

 

 そう言って紅原先生が指さしたのは、烏丸が生み出した『ミカエル』の散らばった残骸たち。

 それはうねうねと蠢きながら、会場中を這いずり回っている。

 

「……じゃあ烏丸さん、後はよろしく」

 

「みんなも手伝ってよぉ!」

 

 この時、僕らのチームは一つになった(烏丸を除く)。

 

 

 

 チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』 総合得点 106pt(168チーム中9位)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は戸惑っていた。

 朝から薄々と感じていたことが、課題を経て確信へと変わったがために。

 

 自身で制御出来ないほど溢れ出る魔力。

 戸惑うほどスムーズな魔力伝達。

 魔法が発動するまでの時間。

 発動した魔法の威力と規模。

 

 それら全てが、以前までと比べると、間違いなく向上している。

 少女の持つ異能の力は、短期間で全方面に跳ね上がっていた。

 

「あは、あはは……。もしかしてワタシ、今すごく調子いいのかな……?」

 

 喜びの感情よりも、戸惑いが先に来るような異常な伸び。

 生まれたその時から、当たり前のように備わっていた異能の力は、自身の体の一部と言っても過言ではない。

 だからこそ、その異常な力の伸びが、少女にはまるで理解できなかった。

 

「おーい、烏丸さん。サボってないでこっち手伝って。この黒い物体、烏丸さんしか直接触れないんだから」

 

「あ、うん。ごめん、今行くね」

 

 

 歯車が、静かに狂っていく。

 

 

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