魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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わりかしちゃんと青春してる回。


チーム合宿 幕間 / ツンデレ美学

 

「ちょっと雪春。あんた最近、冬二や私たちのこと避けてるでしょ」

 

「……避けてないよ」

 

「避けてるわよ。今日だって用事があるとか言っときながら、こんな人気のない校舎裏でお昼食べてるじゃない」

 

「…………」

 

 それは、僕が冬二たちのグループから距離を置き始めたころのこと。

 冬二以外のグループメンバーはそんな僕に対し、『そういえば最近あいつ見ないな』くらいの反応を示す程度だった。

 しかし一人だけ、僕をグループに引き戻そうと、何度も声をかけてきた人物がいる。

 

「たまたまここら辺に用事があって、そのままついでにここで食べてるだけだよ。(あかね)さん」

 

 赤花(あかばな) (あかね)――それは燃えるような赤い髪が特徴的な、凛とした見た目の少女であり、例に漏れず冬二のハーレムメンバーのうちの一人である。あとツンデレ。

 僕と冬二が彼女と知り合ったのは、学園に入学したその日のことであり、そのため付き合いの長さだけで言えば、冬二ともほとんど変わらない。

 まあ入学直後からすぐに仲良くなった冬二とは違い、僕と冬二に対する茜の態度は、とある事件が起こるまでずっと冷たかったわけだが。

 ツンデレのツンどころか、あれはもうスンって感じだった。

 

「なによそのフワフワした嘘。それよりあんた、昨日冬二のこと無視したそうじゃない。あいつ、ほんとに寂しそうにしてたわよ」

 

「…………」

 

 ほら、そうやって、結局は冬二のためじゃないか――そんなことを思いながら、こちらを真っ直ぐ見つめる茜から目を逸らす。

 

 この頃の僕は、自分からグループを離れておきながら、どこか拗ねた態度を表に出し、こうして気にかけてくれていた茜に対しても、邪険にしてばかりだった。

 今思い出すと、本当に申し訳なかったと思う。たった一年前のことながら、子供じみた態度をとっていた自分が恥ずかしい。

 

 しかし後悔したところで、当然あの頃には戻れないわけで。いつしか茜も、僕をグループに引き戻そうとすることはなくなった。

 自分の選択を間違えたと思ったことはないが、あの時もう少し別の態度をとっていれば、今とは違う未来があったのだろうかと、時々考えてしまう。

 

 きっとこれは、後悔や心残りではなく、罪悪感だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーレム課題の後も引き続き課題は行われ、その全ての課題を僕らは無事乗り切ることができた。もちろん優秀な成績付きで。

 途中、ミカエルに触れてしまった蛇塚が、昼食を全てリバースするといったトラブルもあったが、まあ些事だ。烏丸はもらいリバースした。

 

 ちなみに、そんな二日目を終えての総合順位はなんと二位!

 しかも一位に僅差で、三位とは大きくポイント差があっての二位だ。明日以降の結果によってはぜんぜん一位を狙える位置。

 上位を目指すと宣言してから、その日のうちに結果が出たことで僕のテンションは爆上がり。これほどテンションが上がったのは、FPSで5対1の劣勢から五連続ヘッショを決めた時以来かもしれない(四日前)。

 ただテンションが上がりすぎてしまったため、就寝時間を過ぎてもなかなか寝付けず、僕は部屋から抜け出し、夜の砂浜を歩いていた。

 

 

 空に浮かぶ月と、水面に映る二つの月が夜を照らし、寄せては返す波の音だけが耳に届く静寂の中、どこまでも広がる水平線を見つめながら、この場にいる人間は自分ただ一人という孤独がその身に染み渡る――そんな状況に対して悦に入りながら、僕はウッキウキで砂浜に足跡を残していく。

 いつも孤独じゃんとか思ったやつ、腹筋100回な。

 

 とまあそんなふうに、意味もなく砂浜を何往復もしていると、防波堤の先端部――そこに誰かが立っていることに気づいた。

 こんな時間に一人で海にいるとか不審者かな?――と思いつつ、その正体を探ろうと目を細めるが、その人物は海を眺めているため、顔を確認することはできない。

 しかし、顔は分からずとも、月明かりが照らすその燃えるような赤い髪が、その人物の正体を雄弁に語っている。

 

「……茜さん?」

 

「……雪春?」

 

 僕の声に反応し、こちらを振り向いたのは、僕と同じクラスの女子生徒であり、冬二のハーレムメンバーの一人――赤花茜だった。

 

「あんた、こんな時間に何してるのよ。てっきり不審者かと思ったわ」

 

 そんなよく飛びそうなブーメランを投げながら、茜は僕の方へと近づいてくる。

 距離が近づいたことで茜の表情がよく見えるようになり、それで気づくことができた。茜の目元に、涙を流した跡があることを。

 

「茜さん……、もしかして泣いてた?」

 

 そう口にしてから、僕は自身の発言を後悔する。『あ、これ絶対顔を真っ赤にしながら否定されるやつだ』と。

 かつてよく目撃した、冬二へのツンとした照れ隠しを思い出していたのだが――

 

「まあ……、ちょっとね。泣いてスッキリしたいことがあったのよ」

 

 あろうことか茜は、ツンデレキャラにあるまじき素直な態度を見せる。

 正気か? ツンデレキャラがツンデレ捨てたらもうそれはただの無個性だろ。

 

「……ちなみに、泣いてた理由って聞いてもいいやつ?」

 

「別にたいしたことじゃないわ。強いて言うなら、少し遅めだった少女の初恋が、よく言われるように叶わず終わった……ただそれだけのことよ」

 

 そう言って、茜はどこか寂しそうな笑みを浮かべる。

 

「多分、憧れにも近かったんだと思う。私もああなりたいっていう理想が、あいつそのものだったから」

 

「…………」

 

「でもほんと、あいつの朴念仁ぶりには苦労させられたわ。人の好意にまったく気づかないし、かと思ったら思わせぶりな態度をとるし……」

 

 ポツリポツリと、過去を振り返りながら思い出を語りだす茜。その瞳にはまた涙が溜まっていた。

 

「今日だって、もう少しで紗希とキスしそうになってたのよあいつ。まったく、本命の子に勘違いされたらどうするつもりなんだか」

 

「…………」

 

「……ダメね、私。どうしてもあいつのこと考えちゃう。割り切ろうって、決めたはずなのに……」

 

 

 

 

 ………………………………すごい負けヒロイン(づら)してくる。

 

 

 

 

 悲しみを押し殺し、まだ割りきれていないにもかかわらず、好きだった相手の幸せを笑顔で願う。その姿はまさに負けヒロインそのものだ。

 

「あいつに好きな相手がいるとか聞いたことないんだけど……」

 

「写真を持ってたのよ。すごく可愛らしい子が映った写真を、とても大切そうに。だからこそ諦めがついたの。ああ、私とはまったく違う、こういう子が好きなんだって」

 

「…………」

 

 多分これ、勘違いパターンだと思うんだよな。あのハーレム主人公に本命の相手がいるとは思えないし。

 正直ほうっておいても、なんやかんやで誤解が解けて元サヤに戻る気がする……。

 そう考え、下手に巻き込まれる前に帰ろうとしたその時、僕はかつてのことを思い出す。

 

 (彼女)だけが、僕をグループに引き戻そうと、何度も話しかけにきてくれた日々のことを。

 

「…………これで貸し借りなしだから」

 

「貸し借り?」

 

「僕の気分の話だよ」

 

 そう言って僕はスマホを取りだし、ある人物に電話をかける。

 そしてその人物は、おそらく寝ていたであろうにもかかわらず、ワンコールで通話に応じた。

 

『もしもし!? どうしたんだ雪春!? こんな時間に電話だなんて!』

 

「あ、冬二。今すぐちょっと来てくれない? 場所は――」

 

 

 

 

 

 

 

 数分後――

 

「雪春、急に呼び出してどうし……ってあれ、茜もいたのか」

 

「ちょ、ちょっと!? 冬二を呼び出してどうするつもりなのよ!」

 

 呼び出した冬二が到着したことで、慌てふためいた茜が僕の体をこれでもかというほど揺さぶる。

 

「落ち着いて茜さん、悪いようにはしないから」

 

 ラブコメのすれ違い展開は、時間をかければかけるほど泥沼化していくし、解決する際も劇的な展開にしなければ、肩透かしを食らうことが多い。

 泥沼化しないためにも、とにかくやるべきことは、素直に相手とじっくり対話をすること。何も難しいことではない。とんでもなく当たり前のことだ。

 だがしかし、ツンデレヒロインにそんな素直ムーブをしろというのは、個性を捨て去り、なんの魅力もないキャラに成り下がれと言っていることと同義。いわゆる上等な料理にハチミツだ。

 ツンデレは周囲から勘違いされてこそのツンデレ。ヤンデレは周囲に溶け込んでこそのヤンデレ。異論は認めない(過激派)。

 

 だからこそ、僕が代わりになるんだ。そう、僕が茜の口になる。

 

「冬二……」

 

「ど、どうしたんだよ雪春。そんな真剣な顔して……」

 

「実は…………茜さんは冬二のことがす――!」

 

「雪春ぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 僕は海へと突き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「写真?」

 

「そう、冬二が持ってる写真について聞きたくて」

 

 僕はこの日二度目の塩の味を噛み締めながら、可愛い女の子が映っているという写真について冬二に尋ねる。

 もういっそ好意を伝えちゃおうぜ案は、本人の強い意志により却下されてしまったので、好意うんぬんは誤魔化した形で。

 

「写真? ……あっ、もしかしてこれのことか?」

 

 なにか心当たりがあるといった様子で、冬二は懐から一枚の写真を取り出す。

 それは一人のメイド服を着た少女が、カメラ目線でピースし、にこやかな笑みを浮かべている写真だった。

 

 

「っ……!? これは……!」

 

 

 僕はその写真を見て、思わず目を見開く。

 なぜなら、僕はその写真に映っている人物のことを知っており、僕にとってこれ以上とないほど近しい存在であったからだ。

 いや、近しいなんてものじゃない。もはや表裏一体と言っても過言ではないだろう。

 その写真の人物の正体、それは――

 

 

 

 

 ――僕だ。

 

 

 

 

「…………なんでぇ?」

 

 表裏一体だとか言ったが、要は僕が女装した際に撮影した、ただそれだけの写真。

 中学の文化祭の時、クラス全体での悪ノリの末に生まれた産物であり、わりと黒歴史よりの過去。

 

 そんな写真を、なぜか冬二が所有しているという事実に、僕は内心パニックに陥っていた。

 

「ん? どうしたんだ雪春。急にそんな汗かいて」

 

「い、いや? なんでもないけど?」

 

 どうやら写真の人物が僕だとはバレていない様子。まあクラスメイト全面協力の化粧&長髪ウィッグに、成長期による見た目の変化が加わっているんだ。そう簡単にはバレないだろう。

 とりあえず、なぜ冬二が僕の女装写真を持っているのか問い詰めなければ。

 

「冬二……、その、この写真は……」

 

 ダメだ。上手く言葉が出てこない。

 おかしい、僕はただの調停役くらいのはずだったのに。なぜ当事者みたいになっているんだ?

 

「もしかしてこの写真のことについて知りたいのか? だとしたらわりぃ、これ俺のじゃねえからよく分からないんだよ」

 

「「え?」」

 

 冬二のその言葉に、僕と茜の声が重なる。

 

「これ、宗助のものでさ、昨日あいつが落としたのを拾ったんだ。すぐ返そうと思ったんだけど、課題続きでなかなかタイミングがなくてな」

 

 明かされる真実に、茜の浮かべる表情はこれ以上ないというほどの安堵。

 

「ふん! まあどうせそんなことだろうと思ったわよ!」

 

 持ち前のツンも復活し、いつもの調子を取り戻す。

 ほらみろ、やっぱり勘違い展開だったじゃないか。

 

「でもこの写真の子、すげえ可愛いよな。宗助の知り合いかな?」

 

「は?」

 

 新たな火種を産もうとするな。

 

 まあなんにせよ、写真は冬二のものではなく、ただ拾っただけ。

 茜の勘違いは解けて、これでこの問題は一件落着――

 

 

 

 ――いや何もしてないなこれ。

 

 

 

 茜の問題は解決したかもしれないが、僕の問題は何も解決してないぞ。なんで矢川は僕の女装写真を持ってるんだ。

 どこかのタイミングで、矢川に写真の出どころを問い詰める必要がある。とりあえずこの写真は回収しておこう。

 

「冬二。その写真、よかったら僕が返しておくよ」

 

「え、いいのか?」

 

「もちろん」

 

 そう笑顔で告げ、僕は冬二から写真を受け取る。後で燃やそう。

 

 

 そうして、この場でのやるべきことは全て終えたその時、冬二が僕と茜の顔を見てポツリとつぶやく。

 

「でもなんだか、この三人で集まるのってなんか懐かしいよな」

 

「……」

 

 きっと、冬二が思い出しているのは入学当初のことだろう。

 まだ冬二がハーレムメンバーを増やしまくる前の、よくこの三人で行動していたわずかばかりの時期。

 

「確かに、たった一年ほど前のことなのに、随分と昔のことに感じるわ」

 

 冬二につられてか、茜もまた過去の出来事を思い出し、柔らかい笑みを浮かべる。

 もちろん僕だって例外じゃない。あのころのことは、いくらでも鮮明に思い出せる。

 冬二が何かしらのトラブルに巻き込まれて、茜が猪突猛進でそのトラブルをたいてい悪化させて、僕が丸く収めようとすると、いつの間にか蚊帳の外になっていて。

 当時も色々と思うところはあったものの、あのころは確かに楽しかった。

 

「今が楽しくないなんて言うつもりはないけど、少しだけ……あのころに戻りたいなって、思うこともあるの」

 

 茜の言葉に、僕は心の中で同意する。

 

 けどそれは、もはや叶わない願いだ。

 僕らを取り巻く環境は大きく変わった。変わってしまった。

 

 ……いや、違うか。みんなが変わっていく中で、僕だけが変わらなかったんだ。

 冬二や茜が異能ランクを成長させ、交友関係を広げていく中で、僕だけが何も変わらなかった。その結果が、今のこの状況なんだ。

 

 だから、僕も変わろう。冬二たちと、その肩を並べるために。

 

「冬二、茜。これは宣戦布告だ」

 

 僕は二人に指を向け、はっきりと、明確に、堂々と、そして高らかに宣言する。

 

「僕は二人に勝ってみせるよ。このチーム課題で、二人のチームを上回ってみせる」

 

「「…………」」

 

 僕のそんな唐突すぎる宣言に、二人は驚いた表情を見せるも、それはすぐに好戦的な笑みへと変わる。

 

「珍しいな、雪春がそんなこと言うなんて。いいぜ、その挑戦受けて立つ!」

 

「もちろん私もよ。絶対負けないんだから」

 

 僕ら三人は笑い合う。それはまるで、入学当初のあのころのように。

 

 

 

 その後、三人で宿へと戻っていた道中、茜が僕に小さく声をかけた。

 

「雪春、さっきはありがとう」

 

 普段からその表情を冬二に見せればいいのに――そう思えるぐらい、柔らかい笑みを茜は浮かべる。

 まあでも、それは異性としてまったく意識していないからこその表情なのだろう。

 

「感謝なら冬二にしてあげなよ。こんな夜中にわざわざ来てくれたんだからさ」

 

 僕は照れくささを隠すように、茜に背を向ける。

 

「ええ、そうね。……ねえ冬二、その……さっきは――――きゃあ!」

 

 それは予期せぬ突然の叫び声。

 

 僕は驚いて振り返ると、そこには顔を真っ赤にしてスカートを押さえる茜の姿があった。

 どうやら突然の強風で、スカートがめくれあがってしまったらしい。

 僕が振り向いたのは既にスカートを押さえた後だったが、茜の正面にいた冬二はしっかりと彼女の下着を目撃したようで……。

 

「ち、違うんだ茜! 今のは不可抗力で――」

 

「っ~~~! この変態!」

 

 茜によるビンタの音が、静かな夜の海に響き渡る。

 

 それは別に珍しい光景でも何でもない。入学当初から続く、いわゆるお約束的出来事。

 茜の下着は、ありとあらゆる偶然によって冬二に目撃され、その度に冬二は制裁を受ける。

 一時期その頻度があまりにもひどかったため、僕は心の中で茜のことを『全自動パンツ見せ機』と呼んでいたほど。

 

 

 変わるものもあれば、変わらないものもあるもんだなと、冬二の頬にできた紅葉マークを見て、僕はしみじみと実感した。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 同時刻 合宿地某所にて――

 

 

 とある組織のスパイである少年は、スマホに届いた上司からのメッセージに目を通し、そしてため息をつく。

 

「……ついに明日か」

 

 

 

 合宿三日目――物語は大きな山場を迎える。

 

 

 

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