魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
チーム合宿三日目――
怒涛の展開ずくめだった二日目を終え、合宿は折り返し地点の三日目に。
写真の件に関しては、昨日のうちに処分することができなかったので、万が一にもみられることがないよう財布にしまってある。
そうして迎えた朝、この日はお子様にたたき起こされることもなく、気持ちよく起床することができた。
ちなみに生徒の部屋割りだが、男子はクラス単位で大部屋に振り分けられている。
当然といえば当然かもしれないが、同部屋の人間とはまだ一切まともに会話をしていない。でも大丈夫、僕は元気です。
冬二? あいつなら昨日の夜、茜を女子部屋の近くまで送っていくと言って別れてから、朝になっても部屋に帰ってこなかったよ。へっ。
いいんだ! 僕は課題で結果を出せればそれで!――そう気合を入れて挑んだ朝一の課題。
お寺に移動して行われたのは、昨日と同じビリビリ魔力制御。
ただ昨日とは違い、しっかり体力を回復した上で臨んだ結果――
渡谷 雪春:3回
受けた電流の回数は昨日の半分の回数。
よしよしよし――そう心の中で喜びながらチームメンバーの結果も確認すると、
蛇塚 秋人:99回
光華 夏美:102回
烏丸 冬歌:353回
…………昨日より悪化してんじゃねえか。
烏丸にいたっては10秒に1回のペースで電流をくらっており、もはやただ電流に耐えるだけの試験になっている。
しっかりしてくれよ――そういった意を込めて、チームメンバーに視線を向けるのだが……
「わりぃわりぃ」
「反省してま~す」
もはや言い訳すらすることなく、開き直ってスマホをいじりながら謝罪する
仏様、どうかこいつらに
なお、烏丸は電流を受けすぎて気絶している。
……まあ、文句の百や二百、言いたいことはいくらでもあるが、これはもうしょうがないと諦めよう。
ほんとは何かしら小細工ができればベストだったのだが、単純な課題なだけに、何も策を弄することができなかった。
毎朝この課題でトップ勢に差をつけられると思うと厳しいが、他の課題でカバーしていくしかない。
それよりも僕が気になったのは――
サラ・シャスティ:2回
昨日は0回だったサラが、今日は二度もミスをしていることだ。
今日は調子が悪かったのだろうかと、そのサラへと視線を向けると、
「っ!」
サラは僕と目が会った瞬間、びくりと肩をはね上げ、怯えるような表情を見せる。
そう、それは
「も、申し訳ございません!
「え、あ……いや、別に責めたわけじゃ……」
「二度とこのような失態はおかしません! そ、それでは失礼いたします!」
そう言って、サラは逃げるようにその場から去っていく。
全肯定botだった昨日の態度とは打って変わったその様子に、僕はただ呆然とすることしかできなかった。
そんなサラに対し、蛇塚と光華は心配するように告げる。
「あそこまで自分を責めなくてもなぁ。失敗するたびにあれじゃしんどいだろ」
「ほんとだよ。サラさん、あんなに怯えてかわいそうに……。もう少し心に余裕をもてるといいんだが……」
さすが、微塵も反省しないやつらが言うと説得力が違うぜ。
「サラさんほどとは言わないけど、二人はもうちょっと反省した方がいいんじゃないかな?」
「「…………何を?」」
心底不思議そうな表情を浮かべるカスども。
仏様、こいつら地獄行きでいいと思います。
「サラさんって、多重人格だったりするのかな……」
休憩時間に入り、自動販売機で購入する飲み物を選びながら、僕は先ほどのサラのことを思い出す。
態度もそうだが、人の呼び方すら変わるあの症状は間違いなく異常だ。
ただ本当に多重人格だとしたら、確実にデリケートな問題なので触れづらい。
先生に聞いたら何か教えてくれたりしないだろうか? いや、でもプライバシーの問題にもなるし……
「雪くーん!」
「ゲボぉ!」
それは突然のことだった。
チームメンバーとの今後の接し方を考えるため、必死に思案していた僕の脇腹に、勢いをつけた
無防備だった僕の体は『く』の字に折れ曲がり、踏ん張ることもできずその場に倒れ、手に持っていた財布が数メートル先まで転がってしまう。
そしてその弾丸娘はというと、僕の体にまたがり、ニッコニコの笑みを浮かべていた。
「ルウ……、急にどうしたの」
「雪くん見つけたから飛び込んじゃった」
「そっか、二度とやっちゃダメだよ」
「えー!?」
えーじゃない。マジで怪我しかねないのよ。まだ脇腹じんじんするし。これ肋骨折れてないよね?
「雪くん何か飲み物買うの? 私も買って。オレンジジュースがいい」
「わかった、わかったから降りて。財布とらないと」
そう言ってルウをどかし、立ち上がりながら財布の転がった先に目を向けると、そこに財布はなく、代わりに誰かの足元が視界に入る。
誰かが財布を拾ってくれたのかな? そう考え顔を上げると、そこには光華が立っていた。
予想通り僕の財布を右手に持ち、そしてもう一方の左手には、紙切れのようなものが握られていて…………
僕の
まずいまずいまずい! よりにもよって一番人の弱みを利用しそうなやつに見られるなんて!
どうやら財布が吹き飛んだ時に、写真も財布から飛び出してしまったらしい。
くそぉ、こんなことならカバンの奥底にでも隠しておけばよかった……。
しかし後悔したところでもう遅い。
今はここからどう誤魔化すかを考えなければ。まだ写真に映っているのが僕だとバレたわけではないのだから。
「……」
写真をじっと見つめる光華は、一切口を開くことなく無表情のまま。
そのため何を考えているのかよくわからない。
もし光華が何か言いだしたら、写真の子は好きな相手というていで誤魔化そう。
正直それでもキツいものはあるが、女装がバレるよりはましだ。
そう考えていたのだが――
「ほら、ちゃんと持っておきなよ。リーダー」
意外なことに、光華は元通り写真を財布へしまい、そのまま僕へと手渡す。
弱みを握ってやったぜ!――といったニヤケ
その一連の行動は、これまでの光華の言動を考えるとあまりにも不気味だった。
「雪くん、はやく買ってー」
「あ、うん……」
結局、光華はそのまま立ち去ったため、彼女が何を考えているのか聞き出せないまま休憩時間が終了する。写真は速攻燃やした。
『次の課題はカレー作りだ』
これまでの課題とは違い、生徒全員が同じ場所に集められると、立花先生が拡声器を使って課題の説明を始める。
今回僕たちが集められたのは、広大な敷地を誇る海沿いのキャンプ場。
一学年千人近い生徒が集められているにもかかわらず、窮屈さは微塵もなく、広さにはまだまだ余裕があった。
ちなみにこのキャンプ場、土地を含めすべて学園のものらしい。やばない?
『異能とは直接関係の無い試験ではあるが、チームとしてこういう経験をしておくのもいい機会だ。まあサービス課題だと思えばいい。時間内にカレーを完成させられれば、もれなくポイントを与える』
今まで競い合う課題ばかりだったせいか、サービス課題という立花先生の説明により、張り詰めていた周囲の空気が、どことなく緩んだのを感じる。
『とはいえ、あまりに普通のカレー作りだとつまらないだろうと思い、カレールーは魔獣の出る山の中に配置しておいた』
余計なことしやがって――そんな不満が、さっきよりもはっきりと感じとれた。
『作る量は各自自由だ。食材は十分に用意してある。それと、午後からの課題は体力を使うため、しっかりと食べておかないと後がきついぞ』
最後は少し忠告するように、立花先生は課題の説明を終える。
要するにこの課題は、カレー作りの速さが求められるわけではなく、カレーの味を競いあうわけでもなく、ただ時間内にカレーを完成させればいいだけの課題。
そのため、おそらくほとんどのチームが思っているだろう。この課題で差がつくことはないな、と。
だがしかし、僕の考えは違う。
この課題が、この課題こそが、他のトップ勢と確実に差をつけられるとものだと僕は睨んでいる。
なぜならば――この課題には、必勝法があるからだ!
「雪くん変な顔~」
変とはなんだ。というか――
「なんでいるの? ルウ」
課題の開始直前にもかかわらず、まだ僕の傍から離れようとしないお子様。
「
美咲……? ああ、確か立花先生の下の名前がそんなんだったような……。
まあ先生がいいと言っているならいいか。どうせ離れてろと言っても聞きゃしないし。
まあルウのことは一旦置いておいて、
「みんな、今回の課題なんだけど……」
課題攻略に向け、事前に話し合いはしていたが、改めて僕らは役割分担および作戦の共有を行う。
まず行うのは、チームを二つのグループに分けること。
〇カレールー調達班
僕、光華、蛇塚
〇調理班
サラ
「サラさん一人に調理を任せることになってしまうけど、予定通りこれでいこうと思う」
かなり偏った分け方ではあるが、このカレールーが課題のカギであるため、どうしてもこちらに人数をかけておきたい。
「サラさん、これで大丈夫かい?」
「ええ、問題ありません。重要な任、承りました」
とりあえずグループ分けに関しては問題なさそうなので、話を先に進めよう。
「……あれ、私は?」
「課題開始とともに僕ら三人は急いで山に入る。罠の位置と、それぞれの役割把握は大丈夫?」
「大丈夫だ」
「問題ないよ」
「……ねえ、私は?」
よし、事前準備の方も問題なさそうだ。後は課題開始の合図を待つだけ――
「リーダー、私は何すればいいの?」
……さすがにそろそろ無視できないか。
僕は聞こえないフリするのを諦めて、藁人形を手にしだした烏丸と向かい合う。
「えっと、その……そうだ。烏丸さんにはルウの相手をしてもらってもいいかな?」
「えー! 雪くんと遊びたい!」
「課題が終わったら遊んであげるから。とりあえずカレー作りの最中は、このお姉さんと遊んでて」
「お、お姉さん……!」
どうやら僕の言葉が琴線に触れたらしく、烏丸は分かりやすくテンションを上げる。
「え、えへへ。ル、ルウちゃん……、お姉さんが遊んであげるからね。ふへへ……」
そんな烏丸に対し、ルウは告げた。子供ならではの無邪気な一言を。
「笑い方が気持ち悪い!」
「生まれてきてごめんなさい…………」
烏丸(の心)は死んだ。
さて、これで本当に後は課題開始の合図を待つだけなのだが……。
やはり僕はあの件について、どうしても気がかりで仕方がなかった。
そう、光華に写真を見られたあの件が。
光華の姿を横目でチラリと確認するも、特に普段と変わった様子はない。
どうしたものか――そう途方に暮れ、少し視線が俯き気味になったその時、誰かが僕の背中をパシンと叩く。
「いっ!?」
驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか光華が立っていた。
「ほら、リーダーなんだからしゃんとする」
僕の目を真っ直ぐ見て、真剣な表情で告げる光華。
さらに続けて、光華は少し声のボリュームを落としながら告げる。
「心配しなくとも、写真の件は言いふらしたりしないよ。尊敬する母上に誓ってもいい」
「……」
申し訳ないが、やはりこれまでのことを考えれば、うっそだ~という気持ちの方が強い。
ただそれでも、今まで見たことのない表情を浮かべる光華が、嘘をついてるようには思えないのも事実で。
抱擁された時に感じた温かみ。それとはまた違った、痛みを伴う背中の温かみを感じながら、一度くらいはチームメイトを信じてもいいかもしれないと、この時の僕は確かにそう思えた。
――――――
基本的なカレー作りにおいて、カレールーが登場するのは調理の終盤。
それもキャンプ場での調理となれば、火おこし等も必要になるため、準備する優先度はそれほど高くない。
そのためどのチームも、ルーを山の中に取りに行くのは後回し。またはチームのうち一人だけ取りに行かせる、といった方針で行動している。
今現在、チーム順位トップを走る冬二たちのチームも、その方針で作業を進めようとしていた。
「とりあえず材料集めは俺と
リーダーである冬二が、カレー作りの役割分担をチームで確認していたその時、チームメンバーの一人――
「紗季、どうかしたのか?」
「……さっき、雪春が山に向かって行った。多分チームメンバーと一緒に」
「雪春が?」
「え、それって……複数人で山に向かってるってこと?」
「多分、少なくとも雪春含めて三人いた」
「それじゃあ、チームの半分をカレールーの調達に
カレー作りの手順、残り時間、全体の作業量など、様々な状況を鑑みれば、カレールーの調達にいきなり人数をかけるのは間違いなく愚策。
そのため、雪春たちの行動は判断ミス――というのがチームの総意になりかけたその時、紗季が待ったをかける。
「……追わないとまずいかもしれない」
誰もが無視していいだろうと判断したなか、それとは正反対の意見を述べる紗季。
当然、その真意を誰も理解することができない。
「紗季、どうしてそう思うのよ?」
「私もわからない。勘」
「勘ってあんた……」
「それに、雪春は性格が悪い。何か企んでても不思議じゃない」
「さ、紗季さん……、それはいくらなんでも……」
そんな雪春に対するキツめの物言いに、これまたチームメンバーの一人――赤花茜が怪訝な表情を浮かべて尋ねる。
「紗季、あんたもしかして………………前にスマなんとかってゲームで雪春に手も足も出ずボコボコにされたこと、まだ根に持ってるわけ?」
「持ってない」
「…………」
普段から表情の変化に乏しく、感情がなかなか読み取りにくい紗季だが、共に成長を重ねてきたチームメンバーには理解できた。
あ、これ根に持ってるな、と。
「まあ性格悪いうんぬんは置いておいて、紗季の勘はよく当たるからな……」
「念のため、何人か雪春さんたちを追いますか? 仮に無駄足だったとしても、時間には余裕がありますし」
「……よし、俺と契と
リーダーの決断に、誰一人として否定することなく頷く。
雪春が冬二に宣戦布告をしたその翌日、さっそく二人の率いるチームが、あいまみえようとしていた。
料理の技量や経験
雪春:一時期作るのにハマったが、ある時テーブルに置かれた一人分の料理を見て、むなしくなってやめた。
蛇塚:実はかなりできる。
光華:包丁を持たせてもらえない。
烏丸:呪物。
サラ:基本のレシピに対し、アレンジを加えて完璧に作り上げる。
ルウ:そもそも料理を『作る』という発想がない。