魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チーム合宿⑧ / 関係性

 

 おいしいカレーを作るための登山RTA、はーじまーるよー。

 というわけで、イカれた教師によって山の頂上付近へと配置された、カレーの命ともいえるカレールー。

 これを今回ゲットするまでのタイムを計測していきたいと思います。

 

 ちなみに山の中には、数多くの罠が設置されており、さらには凶悪な魔獣がうろうろしているため、そう簡単には頂上にたどり着くことはできません。

 当然どちらも学園の仕込みです。イカれてますね。

 

 要するに、『サービス課題』という立花先生の言葉を素直に信じ、時間ギリギリにカレールーを取りに行こうとすると、高確率で時間切れになるという性格の悪い試験なわけです。

 世間の荒波に揉まれた汚い大人たちとは違い、純白の心を持つ子供たちはコロッと騙されがち。

 こういう経験を何度もして、子供は大人へと変わっていくのでしょう。成長しても純粋な心を持ったままでいたいものです。

 

 では前置きはこのくらいにしておいて、早速登っていきましょう!

 道中は至るところに罠があり、微かな魔力を感じ取って避けていく必要があります。

 まあ僕らはあらかじめ罠の位置を把握しているので、魔力とか気にせずサクサクっと進んでいきましょう。

 

 ただ最短を目指すには、どうしても避けられない罠も存在します。

 しかしこれも問題ありません。そういった罠は蛇塚たちと昨夜のうちに破壊しておきました。これで何の憂いもなく進めますね!

 え? 苦労して罠を設置した教員が泣いてる? そんなもん知ったこっちゃありません。

 

 また先ほども述べたように、山の中には魔獣もうろついています。

 しかしこれもやはり問題ありません。魔獣も蛇塚たちと昨夜のうちに殲滅しておきましたから。

 死体もきっちり処理したのでバレることはないでしょう。

 え? 非道? 記録を出すには人の心を捨てなければなりません。諦めましょう。

 

 というわけで無事トラブルもなく山頂へと到着しました。タイムはなんと14分56秒!

 15分切りは文句なしのレコードですね。他に誰も計ってないので知りませんけど。

 

 それでは今回はこのあたりで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 冗談はこのくらいにしておくとして、無事山頂にたどり着いた僕らの目の前には、山積みにされた生徒全員分のカレールーの箱が広がっている。

 本来ならば、山積みになっているうちの一つを抜き取り、あとは下山するだけ。

 しかし僕らの狙いは、みんながおててをつないでゴールする平和な世界ではなく、他者を蹴落とし一人勝ちする弱肉強食の世界。

 

 だからこそ、これから本当の戦いが始まるのだ。

 むしろここからがRTA本番と言っても過言ではない。

 

「蛇塚くん、よろしく」

 

「おう」

 

 僕の言葉に力強く返事をした蛇塚は、自身の髪の毛を一本引き抜く。

 

「『応じよ――』」

 

 短い詠唱と共に、空中へと放り投げられたその髪は、みるみるうちに変化(・・)していく。

 どんどん長く、どんどん太く、そしてそれはある動物(・・・・)を形取る。

 

 その動物とは――

 

『シャー』

 

 手足がなく、鱗で覆われた細長い身体を持つ蛇だ。

 

 蛇はくねくねと動きながら、息を吐くことで低い鳴き声を上げる。それは形だけの蛇ではなく、命が吹き込まれている証拠。

 さらにそれだけでは終わらず、蛇の体は僕たちの身長を優に超えるほど巨大化していき、最終的には全長15メートルほどにまで成長する。

 チロチロと舌を出し、縦長の黒目を持つ眼球に見下ろされると、襲ってこないとわかってても背筋が凍りそうだ。

 

 ……うちのチーム、見た目があれな異能持ちばっかだな。

 

「髪の毛から蛇になる一連の動きが気持ち悪い」

 

「ああっ!? なんか言ったかオトコオンナ!」

 

 やめろやめろ! 隙あらば喧嘩を始めようとするな!

 

 まあなんにせよ、これで準備は整った。後は時間との勝負だ。

 僕たちは絶対に勝つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいなんだよこの山、罠だらけじゃねえか」

 

「紗季さんの勘に従って正解でしたね。完全に油断してました」

 

「といっても、私らにゃあ生温い課題だ。さっきから魔獣もまったく出てこねえし」

 

「なぜか蛇が大量発生してるけどな」

 

「ここに来るまで、何度も足止めされましたもんね。木から落ちてきた時はもう……」

 

「アッハッハ! あん時の鏡花は傑作だったぜ」

 

「もう! 笑わないでくださいよ契さん!」

 

 チームメイトである紗季の勘を信じ、山の中へと足を踏み入れた冬二。

 そんな冬二と共に山の中を進むのは、チームメイトである二人の少女。

 一人はボブカットにした紫色の髪に、特徴的な丸眼鏡をかけた少女――紫園(しえん) 鏡花(きょうか)

 もう一人は、緑色の髪をバッサリと短く切りそろえた、ボーイッシュな雰囲気をかもし出す長身の少女――緑王(りょくおう) (ちぎり)

 

 なお、どちらも冬二に惚れている。

 

「途中、いくつか他のチームを抜きましたが、雪春さんの姿はありませんでしたね」

 

「ああ、つまり雪春はまだ先にいるってことだ。おそらくもう頂上に違いない」

 

「やるじゃねえかあいつ。正直モヤシっ子のイメージしかなかったんだがな」

 

 大量に仕掛けられた罠を物ともせず、会話を交わす余裕すら保ちながら、冬二たちは山の中を駆ける。

 そしてついに――

 

「着きました!」

 

 山の頂上、カレールーの置かれているであろうその場所にたどり着く。

 そこには、冬二たちの予想通り雪春たちの姿があった。

 しかし――

 

「……何をしているんですか?」

 

 鏡花の口から出たのは、疑問の言葉。

 

 鏡花だけではなく、冬二と契も目の前の光景に対して、困惑の表情を浮かべている。

 冬二たちの目にした光景、それは――

 

 

 

 その場にある全てのカレールーを、大蛇の背に積みこもうとしている雪春たちの姿だった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 雪春のチームと冬二のチーム、お互いがお互いのチームを見つめ、黙り合う。

 冬二たちが困惑顔を浮かべる一方、雪春たちは『あっ、やばっ』という表情を浮かべている。

 

 当然のことだが、自チームのカレーを完成させるだけならば、カレールーは一箱もあれば十分である。

 少なくとも、十や二十と必要になるものではない。ではなぜ、雪春たちはそのような行動に出ているのか?

 冬二たちの中で、その答えに真っ先にたどり着いたのは鏡花だった。

 

「……もしかして、全てのカレールーを独占して、他のチームがカレーを作れないようにするつもりですか?」

 

「「「…………」」」

 

 沈黙、それが答えだった。

 

「きったねぇ……」

 

 契がポロリと漏らしたその発言に、冬二と鏡花も同意する。

 そんな冬二たちに対し、バレてしまっては仕方がないとばかりに雪春は開き直った。

 

「ええいうるさいうるさい! 卑怯だの姑息だの美食會だの! 好きに呼べばいいさ! 個数制限なんて設けられていないんだから、反則でもなんでもない! 僕らはどんな手を使っても勝つんだよ!」

 

 そんな雪春に対し、当然のごとく鏡花と契は軽蔑の目を向ける。

 

「……雪春さんて、こんな人でしたっけ? 紗季さんの言葉通りじゃないですか……」

 

「ドン引きだわ」

 

 しかしそのなかで、冬二だけは真面目な表情を崩さなかった。

 

「そうか、雪春……それがお前の決断なんだな?」

 

「ああそうさ、冬二。これが僕の答えだ」

 

 雪春と冬二、二人は真剣な表情で見つめ合う。

 親友同士だからこそ、これ以上の言葉は不要だった。

 

「引く気は無いみたいだね、冬二」

 

「ああ、雪春の決断を俺は尊重する。けど、俺だってチームのみんなに、カレー無しカレーライスを食わせるわけにはいかないんだ。だから……俺は雪春の敵になる」

 

「もとよりこっちはそのつもりだよ。僕は……冬二の敵だ」

 

 学園へと入学したその日から、友人同士だった雪春と冬二。

 そんな二人が、初めて敵同士として向かい合う。

 

 全ての過去から繋がるカレールーを巡る戦いが、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 そんな二人を、周囲の人間は冷たい表情で見つめていた。

 

 なに盛り上がってんだこいつら、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻――

 

 

 雪春たちがカレールー争奪戦を始めようとしていた一方で、サラは手際よく順調に調理を進めていた。

 ちなみにその近くで、烏丸はルウに馬あつかいされている。

 

 サラはそんな二人を微笑ましそうに眺めながら、火の準備に取り掛かろうとしたその時、炊事場の(かまど)がひとりでに燃え上がる。それも過剰なほどに、轟々と。

 突然のことに、サラは驚きの表情を浮かべるも、すぐに状況を理解し、冷静さを取り戻す。

 

「あら、お手伝いしてくださるのですか? ――茜さん」

 

 サラが振り返ると、そこには冬二たちのチームメイトである赤花茜が立っていた。

 

「……一体どういうつもり?」

 

「どういうつもりと言われましても、抽象的すぎてまるで見当が――」

 

「なんであんたが雪春のチームにいるのかって聞いてるのよ!」

 

 茜が激昂すると同時に、竈の火はさらに勢いを増す。

 しかしサラはその熱風を至近距離で受けようとも、余裕の笑みを崩さない。

 

「なぜ?……と問われましても、私としましては成り行きで、としか……」

 

「嘘つくんじゃないわよ! 何度も私たちを欺いてきたあんたの『成り行き』なんて言葉を、私が本気で信じると思ってるわけ!?」

 

 本当のことを話さなければ、次に燃えるのはお前だ――そう言わんばかりにサラを睨みつける茜。

 しかしそれは、これまで敵同士として争ってきた彼女たちの因縁を考慮すれば、仕方のないことだった。

 茜は知っている。(から)め手を得意とするサラを相手にする時、警戒しすぎるくらいがちょうどいいのだと。

 

「これは困りましたね。どう答えるべきか…………しかし意外でした。大恩ある冬二さんならともかく、わた……雪春さんのことでこれほど茜さんが怒りを見せるとは」

 

「…………確かに冬二は恩人よ。でも、それと一緒で雪春も私にとって恩人なのよ。あの二人がいなかったら、私は好きでもないあの男と婚約させられていたから」

 

「あの男?」

 

成宮(なるみや)よ」

 

「ああ、入学直後のあの件ですか……。しかし、資料では雪春さんの名前はどこにも……………………なるほど、そんなところまで情報操作されていたのですね。これなら組織が気づけなかったのも無理ありませんか……」

 

「なにブツブツ言ってるのよ」

 

「いえいえ、こちらの件ですからお気になさらず。それより、茜さんは雪春さんのことをどう思っていますか?」

 

「……優しいヤツよ。まあ、紗季の言う通りちょっとアレなところもあるけど、根は間違いなく善人だから。私としてはすごく好感が持てるわ」

 

「それは、雪春さんのことが好きということですか?」

 

「まあ……好きか嫌いかでいえば好きよ」

 

「なるほど……。つまり茜さんにとって雪春さんはキープくんと……」

 

「違うわよッ!――――っ!?」

 

 大声で叫んだその時、茜は気づく。

 質問していたはずの自分がなぜ、逆に質問され、こんなにも素直にペラペラと話しているのかと。

 それと同時に気づく。竈の火から生じた煙とは別に、魔力を帯びた煙が周囲に漂っていることを。

 

「くっ!」

 

 茜は咄嗟にサラから距離をとる。すると、頭にかかっていたモヤのような何かが、スーッと晴れていくのを感じた。

 

「油断したわ。煙楼(えんろう)術式ね」

 

「あら、バレてしまいましたか。しかし茜さんは、雪春さんのことを本当に大切に思っていらっしゃるんですね」

 

 サラの言葉に、茜は応えなかった。

 これ以上油断してなるものかと、最大限に警戒心を高め、いつでも異能を使用できるよう構える。

 

 ところが――

 

 

 

「羨ましい」

 

 

 

 サラの短く告げられたその一言に、茜は思わず困惑してしまう。

 なぜなら、それを告げた時のサラの表情が、いつもの余裕のある笑みではなく、今にも泣きそうに見えたからだ。

 

「な、なに言ってるのよ……」

 

「私もあなたがたのように、何も知らないままでいたかった」

 

「だからっ! 何言って――!」

 

「もしあなたがたが真実を知った時、果たして()に対するその思いは、一体どうなるのでしょうね?」

 

「あんた……さっきから何の話を…………」

 

「赤花茜、ここで何をしている?」

 

 茜とサラ、二人が睨み合うその場に割って入ったのは、二人の担任教師である立花だった。

 

「先生、これは……」

 

「こんなところで油を売らず、自分のチームのところに戻れ」

 

「けどっ! この女は――」

 

「サラのことは学園側も把握している。その上で問題ないとしているんだ。いいから戻れ、これ以上は言わせるな」

 

「……わかりました」

 

 納得いかないながらも、立花の圧を受け、茜は渋々引き下がる。

 

 

 

 茜が去り、サラと二人になった立花のその手には、全長10cmにも満たない異形の悪魔が握られていた。

 そしてその悪魔は、立花の手の中で気を失っている。

 

「喋りすぎだ」

 

「……申し訳ありません」

 

「次も庇えるとは限らんぞ」

 

「肝に、銘じておきます……」

 

 サラが立花に頭を下げると、立花は何も言わずその場を後にする。

 竈の火が轟々と燃え盛るなか、サラの頬には一筋の冷たい汗が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、調理場から少し離れた場所では――

 

「美咲たち、何の話してたのかな?」

 

「さ、さあ。ここからじゃ会話内容までは……」

 

「なんで馬が喋ってるの?」

 

「ヒ、ヒヒーン……!」

 

 二人の少女が、とても楽しく遊んでいた。

 

 

 

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