魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
作戦通り、ありったけのカレールーをかき集め、他班のカレーライスの生殺与奪の権を握った僕らは、班員の待つ調理場へと帰還する。
するとそこでは、烏丸がルウの馬になっていた。
「……何してるの?」
「あっ! おかえり雪くん! トウカがね、遊んで欲しいって言うから馬にしてあげたの!」
「え、えへへ……、馬にしてもらいました……」
「ん?」
「ヒヒーン……!」
プライドを持てよ。
まあ烏丸の人としての尊厳など、わりかしどうでもいいので今は放牧しておく。
それよりも、急いでやるべきことを済ませなければ。
「サラさん、先に蛇塚くんの使い魔で送っておいたルーは届いた?」
「ぶ、無事届いております」
「よし、じゃあカレー作りと撤収作業を同時並行で進めよう。おそらくもう少しすれば、怒り狂った冬二チームが襲撃してくると思うから」
「あれ? “オトコオンナ”のやつどこいった?」
「光華さんなら、クラスメイトにカレールーを配りに行ったよ。多分すぐ戻ってくるはず」
カレー作りも終盤に入り、僕らのいる調理場は慌ただしさが増す。
そしてこの数分後、僕らは無事カレーを作り終え、先生から合格をもらうことができた。
P.S.カレーはとても美味しかったです。
チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』 総合得点 334pt(168チーム中2位)
――――――
「どうだった?」
「ダメ、誰もいなかったわ。おそらくカレーを作り終えてすぐ撤収したんだと思う」
「やっぱりか……」
カレールーの中身がすり替えられていたことに気づき、すぐに雪春たちのいる調理場へと突撃した茜たちだったが、既にそこはもぬけの殻。
「どうする? あいつらの所業、全部暴露してやるか?」
欺かれたことに対するせめてもの腹いせとして、契は雪春たちを告発しようと提案するが、鏡花は難しい顔で首を横に振る。
「おそらく無駄でしょう。どうやらあの方々、こっそりと上位に浮上する目のないチームにカレールーを配っていたみたいです」
「……そういえば、普通にカレーを完成させてるチームもいたわね」
「……自分たちの仕業だとバレないようにするため?」
「ええ、紗季さんの言う通りでしょう。私たちが彼らを告発したところで、証拠がない以上とぼけられておしまいです。『自分たちも他班と同じで、いつの間にかカレールーが置かれていただけだ』と」
「……きったねぇ」
全ては雪春たちの思い描いた通り。そしてちょうどその時――
『生徒各位、これにて課題を終了とする。まだ作業中のチームは引き続き継続するように――』
キャンプ場に設置されたスピーカーから、課題終了のアナウンスが鳴り響く。それは、冬二チームの敗北を知らす音。
見事なまでに、雪春の手のひらで転がされた冬二チーム一行。なかでも鏡花は特にひどく落ち込む様子を見せる。
彼らの中にあったのは、チームを結成して以来初めての敗北感だった。
そして同時に、彼らは自問する。
たかが学園の課題、たかがカレー作り、たかが学園の同級生。これまで学園外の強力な異能使いとも死闘を繰り広げてきた自分たちにとって、このチーム合宿はお遊びみたいなものだ――そんな驕りが自分たちの中に微塵もなかったと、心の底から言い切れるのか。勝って当たり前なのだと、課題が始まる前から決めつけていなかったか。
例えお遊びのような課題であったとしても、彼らは自身の行いを省みる。
他の誰でもない。自分たちの成長のために。
とまあそれはそれとして、『後で
そしてちょうどタイミング
「お疲れ~、冬二いる?」
――――――
「よくもまあ……、私たちの前に姿を現せたものね。雪春」
「処す」
「とりあえずサンドバッグな」
「一体どんな神経してるんですか?」
「山と海、どちらがお好みかしら? 幸い、ここにはどちらもございますわよ?」
……妙だな。
カレーが食べられず、ひもじい思いをしているだろう冬二たち。
そんな彼らのもとへ、カレールーを持った僕が救世主のごとく現れたのだ。
感謝こそされど、非難される筋合いは微塵もないはず。
にも関わらず、僕は冬二のハーレムメンバーに取り囲まれ、正座を強いられている。
とても不思議だ……。
「ま、まあみんな、あんまり雪春を責めてやるなよ。ちゃんと反省して、カレールーも持ってきてくれたんだからさ」
「冬二さんは雪春さんに甘すぎですわ!」
「こいつが反省なんてしてるわけないじゃない!」
「カレールーを持ってきたのも、課題が終了したからに決まってます」
「そ、そんなことないだろ。なあ雪春、ちゃんと反省してるよな」
「うん……、すごく反省してるよ。いくら勝つためとはいえ……、あんな手を使うんじゃなかったって」
「ほら!」
「「「「「………………」」」」」
冬二の必死の説得と、僕の素直に反省する姿を見せても、髪色戦隊ヒロインズの表情は厳しいまま。
すると突然、茜が隣にいた
「鏡花」
「わかってます。『
鏡花は懐から杖を取り出すと、僕に向かって何らかの魔法を唱えた。
それにより杖先が白く光りだしたため、僕は思わず目を逸らす。
しかし、痛みを伴うことも覚悟したのだが、しばらくたっても自身の体に変化という変化は表れない。
もしかして発動に失敗した? いや、鏡花が魔法をミスするとは考えにくいし……。
そんな不可解な現象に頭を悩ましていると、茜は改めてといった体で僕に問いかける。
「雪春、もう一度聞くわ。ちゃんと反省してる?」
……何を聞くかと思えば、さっきも言った通り、心の底から反省して――
「反省も後悔もしてないし、ぶっちゃけ騙される方が悪いと思ってる。機会があればまたやるつもり……」
……はっ、口が勝手に!
「だそうよ、冬二」
「…………」
まずい……、頼みの綱の冬二が黙ってしまった。
「悪い、雪春……。俺…………、雪春のことしっかりかばえなかった……!」
あ、いや、別にそこまで辛そうな顔せんでも。
しかしやられた。まさか強制的に真実を語らせる魔法だったとは。
拷問いらずじゃん。便利すぎる。
「それで、わざわざ私たちに殺されに来た理由は?」
……あれ? もしかして殺されること確定してる感じ?
まずいな。既に手遅れ感もあるが、なるべくこれ以上墓穴を掘らないよう――
「ヘイト管理」
はっ、また口が勝手に……!
「へぇ……」
「ふぅん」
「なるほど」
……本格的にヤバいぞ。茜たちが各々得意な異能の準備を始め出した。
このままでは愉快なオブジェからの海の底or土の中へ待ったなしだ。
くっ……! 万事休すか……!?
僕が自身の生を諦めかけたその時、僕とハーレムメンバーたちの間に、必死な形相の冬二が割り込む。
「待ってくれみんな!」
さすが冬二! さす冬! 助けてくれると信じてた!
「雪春のやったことは確かに卑怯だ。ルール違反ではなくとも、道徳的には終わってるし、まるでこの世の全ての悪意を煮詰め、善意や正義感をことごとく踏みにじるような最低最悪の手段だ」
言い過ぎじゃない?
「でも、俺たちがそれに騙されたのは、俺たちに確かな驕りがあったからだ。……みんなも、薄々感じてるんじゃないか?」
「…………」
冬二のその言葉に、茜たちはみな等しく黙り込む。
よく分からないがいい流れだ。ここは便乗させてもらおう。
「……僕がここに来たのは、ヘイト管理以外にもちゃんと理由があるよ」
そうゆっくりと口を開き、僕は膝の汚れを落として立ち上がる。
ここから告げるのは、僕の嘘偽らざる本心だ。だからわざわざ、鏡花の魔法を恐れる必要もない。
「昨日冬二と茜さんには済ませたけど、やっぱり全員に言っときたくてね。ポイント差がほとんどなくなったこのタイミングが、一番いいと思ったんだ」
そこで僕は一旦息を吸い、そして冬二のチームメンバー全員が視界に収まる状態で宣言した。
「僕たち
「…………」
僕の昨日と同じその宣言に、冬二と茜以外は驚いた顔を浮かべるも、すぐに落ち着いた表情に変わる。
冷静に、油断なく相手を見据えるそれは、彼らが
……これでいい。もしこれがカレー作りの前ならば、きっと冗談か何かだと思われ、本気で相手にされなかっただろう。
でも今は違う。たとえお遊びのような課題であったとしても、結果として冬二チームを出し抜いてみせた。
だからこそ彼女たちは、曲がりなりにも僕を敵として認めたのだ。
もちろん警戒されないよう立ち回り、最後の最後に出し抜くような策も考えた。
でもそれだと、彼らは僕たちを一度も眼中に入れないまま終わる。
そんなの、腹が立つじゃないか。
「というわけで、僕らはこれからも不正をいとわず卑怯な手段をガンガン使っていくんで、そこんとこよろしく」
「あんたねぇ……」
僕の不正宣言に、茜たちは呆れる様子を見せつつも、バカにするような素振りは見せない。
そして彼らを代表するように、冬二がチームの意志を宣言する。
「なら、俺たちは雪春の策をことごとく打ち破り、圧倒的な差をつけて一番になる。お互い、正々堂々と…………ではないな、ベストを尽くそう! 雪春!」
「……うん。まあ課題中は色々とあると思うけど、全部終わればノーサイドでいこう! 冬二!」
それは絵に描いたような青春の一ページで、僕と冬二は力強くグータッチを交わす。
後ろにいる茜たちの方から、『保険かけやがったあいつ……』というつぶやきが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。
「……あれ? でもそういや雪春たちのチーム名って、確か『愚蓮努羅ご――』」
「『ミスフィット』だよ」
「え? でも研修の時……」
「『ミスフィット』だよ」
「…………」
『愚蓮努羅魂仏血切離』と書いて『ミスフィット』と読みます。
まあチーム名はともかく、こうして僕たちはベストを尽くして戦うと、約束を結ぶことができたのだ。
この時の僕は、親友と本気で競い合えるであろう未来を思い、今までにないくらい気分が高揚していた。
その約束が、果たされることはないとも知らずに。
カレー作りの課題が終了し、楽しい昼食(一部のチームのみ)を終えた僕ら生徒たちは、バスに乗って次の課題場所へと向かう。
そうして僕らがバスから降ろされたのは、日の光すらも制限される深い森の中だった。
「は~い、それでは次の課題の説明を始めま~す」
今回は全生徒が同じ場所で行う課題ではなく、例のごとくいくつかのグループに分けて行われる。
そのため、僕らのグループを担当する紅原先生が課題の説明を始めたのだが、その途中で携帯の着信音が周囲に鳴り響く。
どうやらそれは紅原先生のものだったらしく、先生は胸の谷間からスマホを取り出し、説明を中断して電話に出る。
胸の谷間から物を取り出す人、フィクション以外で初めて見た。
「どこ見てるんだい? リーダー」
「紅原先生の胸の谷間だよ。光華さん」
はっ、口が勝手に……!
「……聞いといてあれだけど、少しは隠そうとした方がいいと思うよ?」
ちゃうねん! この魔法の効果いつ切れるの!?
光華からの追及をかわすため、誤魔化しがてら周囲を見回すと、僕はあることに気づく。
周りにいる全てのチームが、僕たちを見ていることに。
「……なあ、あいつらだよな? カレールーを独占したって疑いの……」
「ゴーレムの時も無差別に呪いを撒き散らしてたし、ありえなくもないよね……」
ヒソヒソと陰口を叩きながら、憎しみや嫌悪といった表情を僕らに向ける他チームの生徒たち。
否定しようにも、言っていることは全て真実なので否定のしようがない。
とはいえ――
「う~ん、やっぱり子猫ちゃんたちがいないとやる気が出ないね」
「おいおい、いつになったら始まんだよ」
「ヒヒン」
「あらあら、こんなにも注目されると照れてしまいます」
このように他者からのヘイトなど、そよ風のごとく聞き流すチームメンバーであるため、何の心配もないだろう。心置き無く課題に臨めるというものだ。
先ほどの課題終了時点で、順位こそ変わらなかったものの、冬二チームとの差はほぼ無くなった。
この課題で、僕らはトップへと躍り出る!――そう強く決意したその時、いつの間にか通話を終えた紅原先生が、僕の腕を掴んだ。
「……え?」
「チーム『愚蓮努羅魂』のみんなは移動してね~」
そう言って紅原先生は混乱する僕たちをよそに、僕の腕を引っ張るようにして移動する。
痛みこそないものの、その腕の力の入りようから、どこか焦っているようにも思えた。
そうして他のチームから少し離れた位置まで移動すると、紅原先生はボソリと何かをつぶやく。
「『開け』」
それは、仕込まれた異能を始動させる合図だった。
紅原先生がつぶやくと同時に、何も無かった地面から幾何学模様の複雑な魔法陣が浮かびあがる。
「じゃあみんな、この魔法陣の上に乗ってね~」
「え、いや……、その…………」
僕だけでなく、蛇塚たちチームメンバーも突然のことに戸惑うなか、紅原先生の表情から笑みが消えた。
「早く」
いつもの緩い雰囲気はなく、見たことのない真剣な表情で告げる紅原先生。
有無も言わさぬその圧力に、僕らは大人しく従うことしかできず、素直に魔法陣の上に足を置く。
すると、周囲の景色がぐにゃりと歪み始めた。
その光景が意味することを、僕は知っている。以前授業で教わった
僕らは紅原先生と共に、その場から姿を消した。
「っと……」
「ふげっ!」
奇妙な浮遊感を覚えつつも、尻もちをついた烏丸以外の人間は、無事着地に成功する。
「ここは……?」
辺りを見回すと、そこはどこかの屋内のようだった。
ソファ等の家具が設置された少し広めの普通の部屋で、特に気になる点は見当たらない。
強いて言うなら、窓が一つもないことくらいだろうか。そのため、ここがどこであるかを示す手がかりはゼロ。
一体ここがどこで、なぜ僕たちと紅原先生だけこの部屋に移動させられたのか、わからないことだらけだ。
そのため少しでも情報を得ようと、部屋の中をキョロキョロと見回していたその時、僕はある強烈な違和感を覚えた。
まるで当たり前のようにあるはずのものが、その場から消えているそんな感覚。
そしてその違和感の正体に、僕はすぐにたどり着く。
「………………ムー?」
一時たりとも僕の傍から離れようとしない使い魔の姿が、部屋のどこにもなかった。
〇ぼそぼそ噂話
『愚蓮努羅魂仏血切離』というチーム名に対し、冬二はわりと本気でカッコいいと思っている。リーダー研修の際の発言も本心で、雪春をフォローしたつもりは特にない。