魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
土日休み。
それは一般的な学生に与えられる至福の時。この時間をどのように使うかによって、人生の質が変わると言っても過言ではなく、それは異能が存在する世界でもかわらない。
友人とどこかへ出かける? だが僕には一緒に遊びに行く友達がいない。去年できた友人はどうしたって? きっと今ごろヒロインとイチャイチャしてるよ。
部活動に励む? だが僕は帰宅部だ。
アルバイトを行う? だがお金には困っていない。
家族と共に過ごす? だが寮で一人暮らし。
勉学に精を出す? いやだ。
ならばやることは一つ。
ゲームだ。
~数分後~
「ざまあみろクソカスが!!! 初回に4点先制したからって調子にのりやがって! ランナーなしの内野ゴロでセカンドに投げるとか舐めプしといて最終回に6点取られて負けた今どんな気持ち!!? ねえどんな気持ち!!? ほんとど~~~して困ったらアウトコース低めに変化球投げることしかできない猿知恵ですぐイキっちゃうかな~~!?????」
………………ふう、どうやら少し興奮してしまったらしい。
オンライン対戦ってよくないね。すぐに理性が飛んでしまう。
とまあこのように、休日はゲーム三昧。結局僕の休日の過ごし方は、この世界に来た後でも変わらない。
え? 異能の研鑽をしろ? …………正論は嫌いだよ!――というのは冗談として、この世界に来た当初は僕もその気持ちはあった。
しかし先生に助言を求めたところ、一般的な修行のマニュアルみたいなものは存在せず、自分自身で異能と向き合って鍛え上げていくしかないとのこと。
そのため、僕はいろんな修行方法を試してみた。
一番王道なのは、誰かに教えを受けることだろう。だが何の伝手もない僕には、その教えてくれる相手を探すことができず断念した。
そのため僕が参考にしたのは漫画などのフィクションだ。というかそれしかなかった。
魔力操作、必殺技の修得、気配遮断、果ては普通の筋トレなどなど、思いつく限りのことはやってみた。もちろん水〇式も試した。何も変わらなかったけど。
そうして修行に励むこと半年。するとなんということでしょう!――――何も変わりませんでした。おクソがよ。
特殊な体質が発現することはなく、螺旋〇も修得できず、ランクはEのまま。
結果が伴わない努力を延々と続けられるほど、僕は我慢強くない。きっとこの辺りが主人公になれない要因の一つなのだろう。
ならゲームをするしかないではないか。こっちは時間をかければかけるほど結果が出るんだから。
「叫んだせいか喉乾いたな――って」
休憩もかねて、立ち上がり冷蔵庫に向かおうとした際、部屋の扉の前で人が立っていることに気づく。
それは小学校低学年くらいの少女で、僕を不思議な生物を見る目で見つめていた。
そして僕はこの少女を知っている。
「……いつの間に入ってたんだ? ルウ」
「雪くんがパ〇プロのゲーム始める前から」
「ずっといたのかよ。声かければ良かったのに」
「たまに死にそうな声で叫ぶ雪くんが面白かったから黙ってたの」
このガキ…………
「ゲーム終わったんだったら私が遊んであげる!」
楽しそうな笑みを浮かべながら、僕の腕を揺さぶって遊ぼうとせがむこの少女の名はルウ・エレシウス。
流暢に日本語を話すが、ルウ・エレシウスという名前や、金髪碧眼という日本人離れした見た目からもわかるのだが、日本人ではなく欧州のほうの血を引いている。
ちなみに、僕を異能の世界にスカウトしにきた男――学園の理事長も務めているのだが、その男の孫だ。
まあ要するに生まれながらのお嬢である。言動からも分かる通りさっそく偉そうに育ってやがる。
「遊ばない。なんでせっかくの休日に子守なんてしないといけないんだよ。おじいちゃんと遊んでもらえ」
「おじいちゃんは色々と忙しいからって遊べなかったけど、雪くんならどうせ友達もいないし、暇してるだろうから遊んできてあげなさいっておじいちゃんが」
あのじじい…………
去年の夏の長期休暇――二週間ほど清掃等で学園の全寮が閉鎖される時期があった。普通なら実家に帰るなりするところだろうが、異能の存在しない一般社会に戻るには、かなり複雑な手続きが必要とのこと。それがめんどくさかった僕はなんとか二週間家なしで乗り切る方法を考えていると、理事長から自分の家に泊まるといいと言われ、ありがたくその厚意を受け取った。その時にこのお子様――ルウと知り合ったわけだ。
なお、理事長の家は僕のお金持ちイメージをはるかに超える豪邸だった。お手伝いさんがたくさんいたし、リアル爺やもいた。
そこで僕は客人として丁寧にもてなされ、二週間優雅な生活を送ることができた。控えめに言って最高でした。
ちなみに同じ立場の友人はどうしていたかというと、ハーレムメンバーの一人の実家に泊まっていたとのこと。
もし僕がお金持ち生活をしていなければ、きっと発狂していたと思う。
とにかく、そういうわけでルウと知り合い、泊まらせてもらっていた恩から、遊び相手になっていたことで変になつかれてしまい、偶にこうやって僕の部屋に勝手に入ってくるようになった。
「だから遊んであげる!」
「遊んでいらない」
「えー、ケチ!」
「ケチじゃない。この前一緒に遊んであげた時、僕の骨を折ったの忘れたのか」
ほんと子供って手加減を知らないから怖い。
しかも異能の力を容赦なく使ってくるからマジで怖い。
まさかプ〇キュアごっこでガチの異能を使って蹴られるとは思わなかった。ちゃんと見たことないけど、そんな女児向けのアニメで物理特化の魔法少女がいるわけないでしょ………………ないよね?
「もうそれは謝ったじゃん。じゃあ今日はお話しよ。それならケガしないでしょ?」
「話って言っても、何の話するの?」
「私、雪くんの話聞きたい。雪くんの家族のこととか全然聞いたことないし」
「そんなの聞いても面白くないと思うよ」
「いいの!」
そう言ってルウは僕の膝の上に飛び乗る。どうやら僕が話すまで意地でも動かないつもりらしい。
「まったく、わかったよ。えっと……、何から話そうか…………そうだなぁ、家族構成は――」
本当に、僕の家族の話なんて面白いことは何もない。
家族構成は両親に兄1人妹1人の5人家族。
地方のド田舎に住むごく一般的な家庭だと僕は思っている。
家族仲はどうだったかと聞かれると、ぶっちゃけあまり良くなかったと答えるしかない。
兄は僕や妹と本当に同じ血が流れているのかと疑うほど頭がよくて運動もでき、当然ながら近所でも評判がよく、両親にとって自慢の息子だったというわけだ。
一方で僕はというと、ご近所からは兄の下位互換と呼ばれていた。それで察して欲しい。
両親はそんな僕を気遣って、『あなたのペースでがんばればいい』――なんて励ましてくれるのだが、幼い頃の僕にとってはむしろ期待されていないと感じていた。
そんなわけで、同じような境遇だった妹とはそれなりに仲もよかったのだが、妹がとある分野で才能を発揮しだしてからは疎遠に――
そこまで話していて気づいた。
ルウが僕の膝の上にのったまま、夢の中へと旅立っていることに。
…………まだ話し始めて5分も経ってないんだけど。え、僕の話そんなにつまらなかった?
というかどうしよう
気持ちよさそうに寝ているから起こすのも悪いし、、、
そう考えていた時、ちょうど見計らったかのようにルウの保護者が部屋を訪ねてきた。
「やあ雪春くん。孫の遊び相手をしてくれたみたいで助かったよ」
いや僕なんもしてないんだよな。
ほとんどの時間、僕がゲームで絶叫しているのを面白がって見てただけだし。
部屋を訪ねてきたのは学園長であるレイ・エレシウスだ。
学園長は僕の膝の上で寝ているルウを持ち上げると、優しく胸の前で抱きかかえる。
「どうだい雪春くん。この学園へと来て1年以上が経ったわけだが、楽しく過ごせているかな?」
楽しく…………か。
確かに、想像していたよりも期待外れなことは多々あった。
特別な力はあっても、この学園では特別ではなかった。
周りに主人公はいても、僕は主人公ではなかった。
女子にモテるかもなんて淡い期待は露と消え、今現在ぼっちだ。
それらを鑑みて、僕は笑顔でこう答えた。
「ぜんぜん楽しくない」
なんでぇ? みたいな顔をした学園長の顔を見て、少しスッキリした。
―――――
おまけ
1ヶ月に1、2回ほどメンタルがヘラる時がある。
理由は様々で、テストで補習をくらった時、ハーレム展開を目の前で見せつけられた時、クラス全員が巻き込まれるような一夏の大冒険に僕だけ関われなかった時…………とまあ色々とあるが、今回ヘラった理由は――
麻雀アプリで4連続ラス(最下位)をくらったからだ。
え? そんなくだらない理由でヘラるなって?
うるさい! 人生において癇癪を起こす原因トップはゲームなんだよ!(雪春の独断と偏見によるランキング)
なんで10枚残ってる3面チャンが3枚切れのカンチャンに負けるんだよ!!!
…………とにかく、こんなふうにヘラった時、僕は夜に出歩くことで気分転換を図る。
学園寮は街中と呼べる場所から少し離れたところにあり、少し歩けば星を見ることのできるスポットも存在する。
そこで僕はボーっと星を眺め、そんな自分の状況に対し、ちょっと悦に入ることでメンタルを回復させているのだ。
ちなみに学園があるこの土地なのだが、一体何県の何市にあるのか、僕は一切知らない。
だってここに連れてこられた時、電車、飛行機、車といったありとあらゆる交通手段に加え、ワープゲート的なものを何回も通ったため、まじで場所の見当がつかない。
おそらく日本だとは思うのだが、海外と言われても正直驚きはしない。
1度スマホのGPS機能を使って場所を特定しようとしたのだが、何故か海のど真ん中を示した。怖すぎてそれ以来場所のことを考えないことにした。
しばらく歩き、目的であったスポットへと到着する。
普段ならすぐに横になって星を見上げるのだが、なんと今日は先客がいた。
「見て、綺麗でしょ?」
「うん……まるで星が街へと降りそそいでいるようだ」
「最近、あなたが少し落ち込んでるように見えたから……ここに連れてきたかったの。あなたにこの景色を見せるために」
「紗季…………」
そこにいたのは、疎遠になった主人公属性モリモリの自称一般人である僕の友人と、その友人のハーレム要員の1人であるクール系ヒロイン枠の少女だった。
当然ながら、イチャラブ感満載の空気をかもし出している二人に声をかけるなんてできるはずもなく、そっと息を殺し、近くの茂みへと身を隠す。
この1年間で1番上達した技術かもしれない。ダメだ、泣きそうになってきた。
「私も、落ち込んだ時は小さなときからここに来てたの。私以外は誰も知らない秘密の場所――教えたのは、あなたが初めて」
「いいの? 1人が好きな紗季が、秘密の場所を教えるなんて……」
「うん、あなただったらいい。フフ、二人っきりの秘密だね」
ごめん、3人の秘密になっちゃった。
疎遠になった主人公属性モリモリ友人は、普段クールなヒロインが滅多に見せない笑顔に赤面中。
なんて甘酸っぱい青春なのだろうか。僕が期待していた物語がそこにはあった。
…………帰るか。
僕はその日、枕を涙で濡らした。
主人公はかなりのゲーム好き。雑食。