魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チーム合宿 表 vs武練

 

 冬二side

 

 

 

 深い森の中、突然の再会から始まった兄弟喧嘩は、さらにその激しさを増していた。

 

「契! 合わせてくれ!」

 

「おう!」

 

 冬二の要請に契が応じ、二人で冬二の兄――武練へと攻撃を畳み掛ける。

 しかし二人の息の合った連携を、その全てを武練は捌いていく。

 

 そんな三人の近接戦から少し離れた場所では、二人の少女が手を重ね、魔力を一体化(・・・)させていた。

 

「合わせなさいよ、紗季」

 

「茜こそ」

 

 赤花 茜の炎の異能。青海(あおみ) 紗季の水の異能。

 二人の生み出したまったく異なる属性の異能が混ざり合い、莫大なエネルギーを持った球体が生まれる。

 

炎水(えんすい)因牙(いんが)

 

 そしてその球体を、茜と紗季は三人に向けて放つ。

 冬二と契は、その一連の動作を一切見ていなかったにもかかわらず、さも当然のように絶妙のタイミングで異能の効果範囲内から離脱する。

 

 それにより、異能の直撃を受けるのは武練だけ――になるはずだった。

 ところが武練は自身に向かってきた炎と水の球体を、苦もなく手で逸らしてみせる。

 

「ほんと意味わかんない……。これ、けっこうとっておきのやつなのに……」

 

 その戦いは、武練に冬二と契が接近し、残りの四人が中距離からサポートに回るという、実質6対1の構図。

 しかしそれでも、冬二たちは一向に武練を崩すことができない。

 さらに冬二たちにとって問題なのは、まだ武練の背後に、宗蓮というリーダー格の男が控えているということ。

 

 それらの現状を直視し、冬二たちは自覚せざるを得ない。今回の敵は今まで戦ってきた相手とは違い、自分たちよりも遥かに格上の存在なのだと。

 未だ表情に焦りひとつ浮かべない武練を見て、その絶望は深まるばかり。

 

 しかし6対1ともなれば、実際のところ武練にもそれほど余裕があるわけではなかった。

 本人の感覚としては、冬二たちの猛攻をギリギリでなんとか捌いている。相手の敵意に神経を尖らせ、頭で考えるのではなく、本能を頼りに動くことによって。

 

 だからこそ、敵意のないそれ(・・)を、武練は防げなかった。

 

「兄貴っ!!!」

 

 それは攻撃とも呼べぬような、冬二による雑な体当たり。

 相手を害そうと言う気持ちが微塵も存在しないその体当たりを受け、冬二と武練は勢いよく転がる。

 

「っ……!? 冬二! 一体なんのつも――」

 

「みんな! 今すぐ逃げろ!!!」

 

 武練の言葉を遮るように、冬二は叫ぶ。それは武練だけに向けられた言葉ではなく、この場にいる全員に向けられた言葉。

 次の瞬間、先ほどまで武練の立っていた場所が、えぐれた(・・・・)

 

「なに……!?」

 

 それは明確な破壊痕。殺傷性のある何かが、そこに打ち付けられたことの証。

 地面のえぐれ方を見るに、相当強力な何かであることがわかる。

 しかし問題はそこではない。その破壊痕において何より問題なのは、破壊という結果が刻まれるまで、誰一人としてそれに気づけなかったということ。

 

 綿谷冬二ただ一人を除いて。

 

「みんな! 森の外へと走れ! 何か(・・)が来る!!!」

 

 冬二が叫ぶその指示は、全くと言っていいほど要領の得ないもの。

 しかしそれでも、冬二のチームメンバーである少女たちは指示に従い走り出す。

 この状況で、冬二が冗談を言う人間ではないことも、回りくどく物事を伝える人間でないことも知っているから。

 

 その様子を見て、武練および宗蓮が疑ったのは何らかのブラフ。

 どれだけ神経を尖らせようとも、物理的および魔術的に認識できるのは、既にこの場にいる人間のみ。

 そのため、自分たちの後を追わせることが目的だと考えたその時、宗蓮の右腕――肘から先が消えた。

 

「……は?」

 

 まずは驚愕。次いで激しい痛み。

 

「ぐあああああ!!」

 

 血が噴き出す傷の断面は、歪に変形している。

 それを受けて、武練と宗蓮は冬二たちと同じ方向に走り出す。

 何も理解できないまま、何も認識できないまま、それでも走り出す。

 その場に留まれば、次は腕だけではすまない。それだけが、武練たちに理解できた事実だった。

 

「冬二! 一体何が来てるのよ!? こっちは何も見えないんだけど!」

 

「俺もはっきり見えてるわけじゃない! けど! 間違いなく何か来てるんだ! 透明な何かが!」

 

「はあ!? 何よそ――」

 

 相変わらず要領の得ない冬二に、茜が文句を言おうとしたその瞬間、すぐ隣にあった木が消える。文字通り、その場から一瞬で。

 

「っ……!」

 

 それを見て茜は押し黙る。黙るしかなかった。

 

「何も見えない……」

 

「どう避ければいいんですかこんなの!?」

 

「俺が指示を出すから、みんなは俺の言葉を聞いて避け…………嘘だろ?」

 

 冬二は走りながら振り返る。そこで見たのは、森が消えていく光景。

 森の奥で、木が、土が、石が、緑が、みな等しく消滅していく。

 透明な何かが通ったその後は、塵一つ残らない。

 それを見て、冬二は指示など何の意味もないことを悟る。

 

 彼が叫ぶべきことは一つだけ。

 

「とにかく走れ! 全速力で!!!」

 

 走る、走る、走る。冬二たちはとにかく必死に走る。

 敵である武練と宗蓮がすぐ近くを並走しているが、それに構う余裕などない。

 一方の武練と宗蓮も、冬二に手を出す余裕はなく、ただ力の限り走る。

 

 いつまで逃げれば、どこまで走れば、謎の脅威から解放されるのか。

 悪意があれば跳ね返すまで、目的があれば打ち砕くまで。しかし今自分たちを追ってきているそれ(・・)は、ただ周囲に破壊をもたらすだけ。目的も意志も何もない。

 正体不明の何かが、目に見えない何かが、干渉不可能な何かが、終わりの見えない死の恐怖が、体力だけでなく、精神的にも疲弊させていく。

 

 異能で身体能力を強化し、全力以上で走り続けること15分近く。

 必然的に体力が、そして集中力が切れ始めたその時だった。

 

「っ!? しまっ――! 鏡花ァ!」

 

 鏡花の背に透明な何かが迫る。ほんのわずかに気づくのが遅れたことで、それはもはや避けられないところまで迫っており、冬二の位置からでは間に合わない。

 

 冬二が叫ぶことしかできないなか、鏡花が見えない何かに触れるその瞬間、茜がその何かと鏡花の間に体を潜り込ませる。

 

「茜っ!?」

 

「茜さん!」

 

「うぐっ――!」

 

 切断――まではいかずとも、その背中、さらには右足に、浅くない傷が刻まれる。

 

 それは、走り続けるためには致命的な傷。

 その場に倒れ込んだ茜を見て、冬二たちは茜を救おうと立ち止まりかける。

 しかしそんな冬二たちを、茜がその視線と声で咎めた。

 

「行って」

 

 腕をのばし、真剣な表情で、冬二たちの進むべき先を茜は指さす。

 今自分を助けようと立ち止まれば、全員が道連れになることは明白。犠牲は自分一人で十分。

 この時、茜は既に仲間のために覚悟を決めていた。

 

 心残りはある。冬二から受けた恩は、返すどころか増えていくばかり。こうして最後の瞬間も、傷を与えようとしている。

 

「ひどい話ね……ほんと」

 

 そして恩を返せなかった相手は、冬二だけではない。

 

雪春も(・・・)……ごめんなさい」

 

 冬二たちが自分の名を叫ぶのを聞きながら、茜は迫り来る死に目を閉じる。

 

「…………」

 

 しかし、いつまでもその死は訪れない。

 不思議に思い目を開けると、冬二たちがその場で立ち止まり、驚愕の表情で茜の方を見ていた。正確には、茜の後方を。

 

 茜が振り返ると、そこには自分たちの敵であるはずの人物がいた。

 

「…………サラ?」

 

 冬二たちと敵対する勢力――『セーラス』の一員であるサラ・ジャスティが、見えない何かに向かって手を伸ばし、平然と佇んでいる。

 

「なんであんたがここに……!?」

 

 茜の問いかけに反応したのか、サラは首だけ動かし、茜の姿を見下ろす。

 そんなサラを見て、茜は寒気が走った。

 

 冷たい眼、冷たい表情、冷たい視線。

 それは午前中の課題の際に相対したサラの姿とは、似ても似つかぬほどかけ離れたもの。

 自身を見つめるその瞳からは、一切の熱を感じられない。

 

「っ……」

 

 すぐにサラはまた森の奥へと目を向け、言葉を紡ぎ始める。

 

「『全ては泡沫の夢 あるべき姿を捻じ曲げ 踏みにじりたどり着いた理想郷 故に 私は全てを正す 全てを還す 全てを壊す 神の御心に従い 全てを原初(はじまり)に――』」

 

 サラが詠唱を終えると、森を全て覆うように光の膜が広がり、異能が発動する。

 

 

 

『零式』

 

 

 

 この世界のあらゆる異能を塗りつぶす、ルール無用の反則的な異能を。

 

 この時、詠唱の言葉を口にしていたのはサラだけではない。

 森全体を円状に囲む形で、一定間隔に学園の生徒たちが配置されており、サラと同じように手を伸ばし、詠唱の言葉を紡いでいた。

 

 そしてその円状になった中心の遥か上空――――そこに、黒い女(・・・)がいた。

 

 黒い女は何するでもなく、サラたちが発動した異能により、激しく光る森を見下ろす。

 そうして1分、2分、3分と時間が経ち、5分ほどしてようやく光が収まると、黒い女はゆっくりと降下していく。

 

 つい先ほどまでは自然豊かな土地。今は緑ひとつない更地になった地に降り、そこにあったフヨフヨと浮かぶ球状の何かに、黒い女が触れる。

 

 

 

『……大丈夫だ。ここにはお前を主から引き離そうとするものはいない。主の下へは、私が連れて行ってやる。だから、今はゆっくり休めジャルビイ……いや、ムー』

 

 

 

 その静かで落ち着いた、どこか優しげな声と共に、黒い女は姿を消す。

 黒い女が消えた後、その場に残るものは何もなかった。文字通り、何もかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い女の登場、ジャルビイの無力化、そして消失。その一部始終を目撃したのは、上空から全体を見下ろしていた二人の最上級悪魔のみ。

 それにより、オリエイナは驚愕の表情を、メイルカムイはどこか退屈そうな表情を浮かべていた。

 

「ふん、随分とせっかちな登場だ。つまらん」

 

「アレは何!?」

 

「何、とは?」

 

「とぼけるな! あの異能のことだ! あれは間違いなく、『異能を無効化する能力』だった! あの能力は――!」

 

「かつての主人のもの。そして、今の主人のもの、か?」

 

「っ……!」

 

 メイルカムイはオリエイナの言葉を先取りするように告げる。

 自分には理解できないことを、全てを理解して笑うメイルカムイの表情が、オリエイナには腹立たしくてしょうがない。

 

「聞くが半端女よ。貴様本気でかつての主人とあの時のガキが、偶然同じ能力持ちだと思っているのか?」

 

「……偶然以外に何がある。確かに珍しい能力かもしれない。でも――」

 

「本当に何も知らんのだな。かつての主人のことですら何も」

 

「っ! お前が! 私よりあの方を知っているとでも言うつもりか!?」

 

「何も知らんさ。あの時代は神が不在で、『黒』の力を大して引き出せなかったあの女に、さしたる興味はなかったからな」

 

「なら――!」

 

「だがな、『黒』の力がどういったものかは、嫌というほど知っている」

 

 その言葉を告げた瞬間、メイルカムイの態度が急変する。

 暗く、重く、あふれ出す憎悪が、その場を支配していた。

 

 格上の存在による圧を受け、オリエイナは思わず口を閉ざす。

 それでも、オリエイナは震えながら再び口を開いた。

 かつての主のこと、そして今の主のことを、自分の知らない何かを知らなければならない。その一心でオリエイナは問いかける。

 

「さっきから口にしている、『黒』の力……それは一体なに?」

 

「……まあじっくり話してやってもいいが、貴様の方はいいのか?」

 

 質問に対し質問で問いかけるメイルカムイは、少し離れた場所の地面を見下ろす。その視線の先には、ジャルビイの危機から辛くも逃れた冬二たちの姿があった。

 

「ご主人様!」

 

 メイルカムイの知っていることは、おそらく主人の身に関わる何かだと、オリエイナは直感的に理解する。

 しかし、今まさに主人に迫る危険を無視できるはずもない。

 オリエイナは躊躇うことなくその場を離れ、主の下へと向かう。

 

 そうして、一人その場に残ったメイルカムイは思考する。

 

「ジャルビイはあの女が問題なく届けるだろう。それで小僧の願いは叶えられる。とはいえ、指示を受けて何もしなかったではな……」

 

 そう言って、メイルカムイは周囲を見渡す。

 そして、ある一点に視線を固定させ、ニヤリという音が聞こえてくるような笑みを浮かべた。

 

「ちょうどいい。アレ(・・)を手土産にして小僧の下へ戻るとしよう」

 

 メイルカムイの向ける視線の先――そこには、激しく争う二人の女性の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

  おまけ

 

 

 そのころの雪春。

 

「『双龍の爪 銀と鋼 雪華の集い 霊脈の連理――!』……いや、ちょっと語呂が悪いな。『蒼き炎 天の光 甲璃 縁舞 魔化の遠雷――!』……やっぱり単語は混ぜていくべきか……」

 

 誰もいないのをいいことに、海に向かって叫び、詠唱の語感を確認する雪春。

 

 

 

 

 

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