魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「うげっ」
メイルカムイがムーを探しに行き、およそ1時間ほどたったころ。
ふと携帯を確認すると、立花先生からの不在着信が入っていた。
「全然気づかなかった……」
おそらく店長から無茶な要求をされていた時にかかってきたのだろう。
そしてその不在着信の理由は間違いなく、無断で部屋を抜け出したことに対するお叱りだ。
果たして一体どんな罵詈雑言が飛んでくるのか。もしかしたら拳が飛んでくるかもしれない。
最悪、埋められることも覚悟しなけらばならないだろう。なんせ立花先生はコンプラ研修で講師を殴ったと噂される人物。どんな折檻が待っていても不思議じゃない。
僕は確実に訪れるであろうバイオレンスな未来に恐怖する。
しかしだからこそ、僕の覚悟も決まったというもの。
「こうなったら、とことん待ってやる。可愛い
「ムー!」
僕は右手を天高く突き上げる。そしてそれを真似するかのように、ムーも短い腕を突き上げて叫んだ。
……………ん?
「…………」
「…………む?」
……………………いるじゃん。
いつの間にやら、ムーはさも当然のように、普段通り僕の傍でフワフワと気持ちよさそうに浮いていた。
「自分で戻ってきたのか?」
「むぅ!」
「あ、ちょ……」
僕の問いかけに対し、そんなのどうでもいいとばかりに、ムーは僕の頭にしがみつく。
まったく……、まあ離れ離れになって寂しかったのだろう。今日ぐらいは好きなようにさせてやろう。
しかし、ムーが見つかったとなると、メイルカムイを呼び戻さないと。
とはいえ、あいつが携帯なんて持っているはずもなく、どうしようかと考えていたその時、砂浜に書かれた魔法陣が目に入った。
……やるか? 17分割チャレンジ。
最上級悪魔なら、再生能力もそれなりに高いだろうし……。
僕はゴクリと唾を飲み込み、魔法陣向けて右手を突き出す。
「…………来い! メイルカム――」
「やめんか!」
しかしそれは、タイミングよく戻ってきたメイルカムイ本人によって阻止される。
「あっ、おかえり」
「何がおかえりだ。平気で恐ろしい真似をしおって」
メイルカムイの浮かべるその表情は、ギリギリ間に合ったことを安堵するもの。
最上級悪魔といえども、17分割は相当怖いらしい。気軽にチャレンジしようとしたことをちょっと反省した。
「……あれ?」
その時ふと視線を落とすと、メイルカムイの左手に、日本刀らしき物が握られていることに気づく。
そんなもの、ムーを探しに行く前は間違いなく持っていなかったはずだ。
「何それ?」
「ん? これか? さっき拾った」
日本刀って落ちてる物なの?
でもいいなあ。日本男児であれば誰もが憧れる刀。
異能社会じゃ銃刀法違反ガン無視で普段から携えてる人もいるし、僕も一時期装備しようかと考えたこともあった。
安いやつでもお値段がヒャッハァだったから諦めたけど。
「なんだ? 欲しいのか?」
「え? そりゃ、まあ……」
「ならくれてやる」
「うわっ、ちょっ」
メイルカムイは無造作に持っていた刀を放り投げる。
それを僕は両手で受け止めると、確かな鉄の質感が腕全体に加わった。
「いいの!? この刀もらっても!」
「私には必要のないものだ。好きにしろ」
おおお、マジか。刀ゲットしちゃった……!
やっぱり
「せっかくだ。性能を試してみるといい」
「性能?」
「ああ、そいつはただの刀ではない。いわゆる妖刀だ。対価を支払うことで、契約者に力を与える」
「……ほお」
おいおいおいおい。どこまで僕の中二心をくすぐれば気が済むんだ。
妖刀? 対価? 力を与える? もう最高かよ。
「どうだ? やってみるか?」
「やるやる! ちなみにその対価って?」
「寿命だ」
「じゃあやらねえわ」
じゃあやらねえわ! 思ってた数倍対価が重い! ちゃんと対価が対価してやがる!
「何も寿命の半分を払えなどと言っているわけではない。たかだか2、3年分も捧げれば十分だ」
「
「なら効果は落ちるが、血液のような体液でもかまわん」
血液か……。まあそれなら…………。
寿命と違い、血液なら失ってもまた作られる――そう考え、持っていた刀を抜き、刃に自身の指先を当てる。
後は少し刀を引けば、その指先から血が流れ――
「……」
「どうした?」
「……唾液とかじゃダメ?」
僕の提案に、メイルカムイは一瞬ポカンとした表情を浮かべ、しかしすぐに心底呆れたといった表情に変わり告げた。
「…………ヘタレが」
うるせえ!
違うんだよ……。ちょっとその、刃先が思ったより鋭くて……。
「もういい。唾液でもなんでもいいから早くしろ」
「じゃあ……」
了承を得たことで、僕は刀身に唾をたらし――
「……」
「……」
「……これかなり絵面マズくない?」
「早くやれ!」
誰もいない砂浜で、(見た目)おっさんと向かい合い、目の前で唾をたらす。
これ誰かに見られたら、なんて言い訳すればいいんだ。
僕は周囲に気を配り、ドキドキしながら刀身に唾をたらした。
すると刀全体が、『今から何かが起こりますよ!』と言わんばかりに、まばゆい光を帯び始める。
「おお……!」
なんてテンションの上がるギミックなんだ。
よくわからないが、なんかわかった気がする! さあ刀よ! 僕に力を!!!
「……なぜ光っている?」
「えぇ……」
知らん…何それ…怖……とでも言いたげな反応を示すメイルカムイ。光るのがデフォルトじゃないの? え? じゃあなんでほんとに光ってるの?
僕とメイルカムイがそろって困惑していると、次の瞬間、パキリという音と共に、持っていた刀の刀身が粉々に砕けちった。
「……」
「……」
「……なぜだ?」
いやそれ僕のセリフ。刀、壊れちゃったんですけど。最終的に灰になって海へと飛んでったんですけど。
僕の手元に残ったのは、刀の
僕はメイルカムイに抗議の視線を送るも、メイルカムイは何かぶつぶつと小さくつぶやいており、僕の視線に気づかない。
「……既に同化しきっている? ……いや、ならばなぜまだ自我が…………」
「あのー……、メイルカムイさん?」
「ああいや、なんでもない。こちらの話だ」
なんでもなくはないだろ。僕の刀……。
「安心しろ。先ほども言ったが、そいつはただの刀ではなく妖刀だ。時間が経てばその刀身もより強固になって再生する」
妖刀ってそんなサ〇ヤ人システムなんだ。けど再生しても唾つけるのはもうやめとこ。
『妖刀使いの雪春』になるには、どうやらもう少し時間がかかるらしい。
「おい」
「ん?」
「もう二歩……いや、三歩分こちらにこい」
「え、なんで?」
「すぐわかる」
「……」
なぜ急にそんなことを言い出すのか。その真意はまったく理解できなかったが、僕は素直に指示に従い、三歩分だけメイルカムイに近づいた。
するとその直後、僕の背後で
「…………え?」
驚き振り返ると、すぐ後ろの砂浜に巨大なクレーターができており、その中心には少女が倒れていた。
…………どういう状況?
「親方……、空から飛〇石をつけ忘れた女の子が」
「誰が親方だ」
僕はクレーターを覗き込み、落下してきたシ〇タ(仮)をじっくりと見つめる。
するとその正体は、宿を出る時にすれ違ったツインテのメスガキ少女だった。
少女は小さく呻きながら、ボロボロの体をなんとか起き上がらせようとしている。
その姿を見て、めちゃくちゃ頑丈だなと思いつつ、手を貸すために近づこうとすると、僕の腕をメイルカムイが掴んだ。
「……? どうしたの――」
僕がその疑問の言葉を言い切るよりも早く、何かが高速でツインテ少女へと落下する。
それにより、爆音や衝撃と共に舞い上がる大量の砂が僕の視界を覆う。
えぇ……、今度はなにぃ…………。
次々と巻き起こる謎の現象に、僕はもはや驚きを超え、呆れすら感じ始めてしまう。
ようやく視界が晴れ、クレーターを確認してみると、なんとそこにいたのはルウだった。
しかしその姿は普段のものとは異なり、頭からは一対の角、背中からは巨大な黒い羽、さらには犬歯が異様なほど鋭く伸びている。
その見た目は、隣にいる
そんなルウはツインテ少女の腹部を踏みつけており、ツインテ少女は血を吐きながら完全に意識を失っていた。
「あれは貴様の使い魔か?」
「え、いや、違う違う。知り合いの孫なんだけど……」
「…………ふっ、魔導王め。随分と面白いものを仕込んでいるではないか。
なぜかメイルカムイはルウの姿を見て、嬉しそうに笑みを浮かべる。
まーた僕には理解できない意味深なことつぶやきやがって……。僕もそのポジションがいいのに。
「小僧、もう他に用はないな?」
「あ、うん。特にはないけど……」
「なら私は帰らせてもらう」
そう言ってメイルカムイは僕に背を向ける。
結局ムーは自分で帰ってきたわけだが、いきなり呼び出したにもかかわらず、メイルカムイは探すのを手伝ってくれたのだ。
ちゃんとお礼の言葉は言っておくべきだろう。刀もくれたし。壊れたけど。
「メイルカムイ、今回はありがとう」
「礼は不要だ。くだらない用事ならともかく、今回のように面白いものが見られるのなら、何度でもまた手を貸してやる」
そう告げると、メイルカムイはその場から一瞬で姿を消す。
メイルカムイが去り、僕は去り際に放ったメイルカムイの言葉を反芻する。
『何度でもまた手を貸してやる』
…………もしかして今の発言、僕がメイルカムイの力を自由に使えることと同義なのでは?
最初は悪魔大全の記述を見て、メイルカムイとは絶対に契約なんて無理だと思っていたが、実際に話してみれば口は悪いものの、割と話のわかるやつだった。
そして当然、最上級悪魔だけあって力もある。そんな存在が、僕にまた手を貸してやると口にしたのだ。
おいおいおいおい、これはついに来ちゃったんじゃないか? 僕の時代が。
自分自身が最強ではなくとも、最強の力を自由に使えるのなら、それはもはや最強であることと同義。
つまり、僕は最強ということになる!
ふっふっふ……、こうなれば僕もメインキャラの仲間入り待ったなし。
冬二が強大な敵を前にピンチに陥った時、僕がさっそうと現れてこう告げるのだ。『見なよ……僕の
僕の指示により、瞬く間に敵を殲滅するメイルカムイ。ヤバい……想像しただけでニヤけてしま――
「雪くーん!」
「ぐえっ!」
メイルカムイの件で浮かれきっていた僕は、ルウの腹部への衝突を防げず、その勢いのまま倒れてしまう。
「こらルウ、朝それはやっちゃダメって言っただろ」
「えへへー、ごめんなさーい」
ルウは満面の笑みを浮かべながら反省の言葉を口にする。
ダメだ、まったく反省してないなこのお子様。
まあ今はそれより――
「ルウ、その姿どうしたの?」
「……? その姿って?」
「
「うん、でもゆ…………あっ! これは秘密だった!」
「……?」
理事長から何かしら条件付きで許可が出ているのだろうか?
まあ秘密というなら、あまり掘り下げるのもよくないな。
とりあえず悪魔化した姿に関してはいいとして、問題は倒れているツインテ少女の方だ。
死んでないよね? あれ。
「ルウ、あの女の人とは一体何を……」
「…………」
「ルウ?」
僕の言葉に応答しないルウを不思議に思い振り返ると、ルウは僕の顔をじっと見つめていた。正確には、顔より少し上を。
「ねえ雪くん……、それなに?」
そう言ってルウが指さすのは、僕の頭上付近。
ルウのその視線は、僕の頭にピッタリと張り付く使い魔の姿を、確かに捉えていた。