魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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長くなったチーム合宿編も、あと数話で完結です。


チーム合宿⑭ / 紆余曲折を得て、生まれた絆

 

 ルウによって気絶させられた少女――ツインテメスガキを背負い、僕は宿へと向かう。

 最初はルウに運ぶのを頼んだ(異能アリでは僕より力があるため)のだが、足を掴んで容赦なく引きずり始めたので、こうして僕が運んでいる。

 立花先生よりは軽かったのでなんとかいけた。

 

 ちなみにルウはというと、

 

「ムーちゃ~ん」

 

「むぅ……」

 

 なぜか急に見えるようになったムーのことがいたく気に入ったらしく、ムーを腕に抱えて猫かわいがりしている。

 まあムーはちょっと鬱陶しそうにしているが。

 

「それで……改めて聞くけど、この人誰? 敵だったりするの? 何か悪いことしたとか?」

 

「知らな~い」

 

 僕はルウにツインテ少女の詳細を求めるが、ルウはまるで興味なさげ。

 ここまでボコボコにしておいて……。

 

 まあなんにせよ、とりあえず医務室かどこかへ運べばいいだろう――そう考え、なぜか清掃業者らしき人がたくさんいた宿のロビーを通り、医務室へと向かう。

 たどり着いた医務室は無人だったため、空いているベッドにツインテ少女を寝かせ、僕は医務室を後にした。

 

 

 

 

 そうして最初の部屋に戻ろうと歩いていたその途中、自チームや冬二チーム以外では珍しく、顔見知りの人物と遭遇する。

 

「雪春!? お前なんでここに――!」

 

 同級生であり、クラスメイトであり、冬二の親ポジ(親友ポジション)であり、どこかの組織のスパイという肩書きを持つ人物――矢川宗助は、僕を見てなぜか驚きを露わにしていた。

 何をそんなに驚くことがあるんだ――と思いつつ、よくよく考えれば、本来ならこの時間は課題中なのだから、僕がここにいるはずないため驚いたのだろうと、僕は一人で宗助の反応に納得する。

 じゃあなんで宗助(こいつ)もここにいるんだって話だが、まあおそらく暗躍的なサムシングだろう、きっと。スパイは多忙だから。

 

「あれだよ。その……なんか先生からの指示で。サボってるわけじゃないよ」

 

「あ、いや……サボってるとかはどうでもよくて……ここにいると危険で――」

 

 そこまで言いかけて言葉を止めると、宗助は僕から視線を外し、その視線を僕の隣に立つルウへと向ける。

 

「…………まあ2位がいるなら大丈夫か」

 

「何の話?」

 

「いや、なんでもねえよ。それじゃあな。俺ちょっと急いでるから」

 

「あ、うん。それじゃあ……」

 

 軽く手を振り、明らかに何か隠し事をしながら宗助はその場から去っていく。

 

「なんか大変そうだねー」

 

「あいつはいつも大変そうだよ」

 

 友人である冬二たちと所属する組織の間に挟まれ、その板挟み感情に振り回される宗助の姿を僕は思い出す。

 たびたび屋上に現れ、普段つけている仮面を外し、表情を歪めながら自身の立場に揺れる宗助の姿を……。

 

 

 ……あれ、偶にならまだしも、毎日のようにやるから昼食時、気になってしょうがないんだよね。

 僕の穏やかな昼休みのためにも、宗助がスッパリと割り切れることを僕は願った。

 

 

 

 

 

 

 とまあそんなこんなあり、勝手について来たルウと共に、ようやく僕は最初にいた部屋の前まで戻ってくる。

 僕不在の間、喧嘩してないといいけど――と考えつつ、まあ無理だろうなと思い、部屋の扉を開く。

 すると部屋の中では――

 

「包帯、ちゃんと巻き直すから痛かったら言ってくれ」

 

「おう、悪いなオトコオ……いや、光華」

 

「気にする必要はないよ。これは君の行動に対する、ボクの敬意の表れだからね」

 

「大げさだな。んな大したことしてねえよ」

 

「過剰な謙遜は卑下と変わらない。自ら殿(しんがり)を引き受けるという選択は、誰にでもできるものじゃないんだ。少なくともボクは称賛を送る。その気持ちくらい、素直に受けとってくれてもいいんじゃないかい?」

 

「……わあったよ」

 

「その……ごめんね蛇塚くん。ワタシのせいで……」

 

「だから気にすんなって。あのまま無抵抗にあの女の蹴りを受けてたら、間違いなく死んでたんだ。それと比べりゃあこんな傷、かすり傷みたいなもんだ」

 

「で、でも……」

 

「むしろ感謝してんだよ。サンキューな、呪いお……いや、烏丸」

 

「っ! …………うん!」

 

 僕の目に映るのは、仲睦まじく言葉を交わすカス三人組。そこには険悪さなど欠片も存在せず、確かな信頼が感じられる。

 

 …………あれ? 部屋間違えたかな?

 

 いや、この部屋に来るまでの道は一本道。間違うはずがない。

 なんだ? 何が起きているんだ? 幻覚? 新手のス〇ンド使いによる攻撃?

 言うはずがないだろ! 感謝とか敬意とか! 僕のチームメイトが!

 

「あっリーダー! よかった、無事だったんだね」

 

 僕が困惑するさなか、僕が帰ってきたことに気づいた光華が、なぜか安心したような表情を見せる。

 

「……んん?」

 

 今さら言うまでもないが、光華はチームメイトの帰りが遅くなったくらいで、わざわざ安否を心配するような奴ではない。

 あまりにも不自然なその反応を不可解に思いつつも、僕にはピンと来るものがあった。

 他にも不自然なことはいくつかある。頭に包帯を巻いた蛇塚に、鼻にティッシュを詰めている烏丸。明らかに近くなった三人の距離。

 それら全てを考慮した時、僕は察する――

 

 ――これはいつものやつ(・・・・・)だな、と。

 

「リーダー、信じられないかもしれないが聞いてほしい。実はこの建物に――」

 

「襲撃者的な存在がいて、蛇塚くんと烏丸さんもそいつにやられた感じ?」

 

「そ、そうなんだけど……よくわかったね」

 

 そりゃあわかるよ。そんなあからさまに『困難を乗り越えて絆を深めました感』だしてたら。

 僕は去年、冬二たちの傍にいながら、それを嫌というほど経験したんだから。

 

 クソッ! こいつら、僕が店長から無茶ぶりされたり、刀ぶっ壊したりわちゃわちゃしてる間にそれっぽい展開に遭遇しやがって……!

 またか……! また僕は一人メインストーリーに関われないのか……!

 見るからにボロボロの蛇塚には悪いが、めちゃくちゃ羨ましい……!

 

「とにかく、紅原先生のおかげで危機は凌げたけど、襲撃者はまだこの建物の中にいるらしいから、リーダーも気をつけるんだよ」

 

「……え? まだ襲撃者健在なの?」

 

「ああ、とはいえそれほど心配することはないさ。この部屋の中なら安全で――」

 

「ちょっとその襲撃者探してくる」

 

「待て待て待て待て!」

 

 部屋を出ようとする僕の肩を、慌てた様子の光華が力強く掴む。

 

「ボクの話聞いてたかい!? 相手は躊躇いなく人を殺そうとするようなやつなんだ。それも恐ろしく強い……!」

 

「大丈夫大丈夫。いけるいける」

 

「無理に決まってるだろ! リーダーの強みなんて、性格の悪さくらいなんだから!」

 

 なんだとこのクソアマ。唾つけたろか。木端微塵にしたるぞ。

 

 ……とはいえ、光華の言いたいこともわかる。ほんの1時間前までの僕は、ただのEランクのザコ異能者だったかもしれない。

 でも今は違う。そう、僕にはメイルカムイ(最強)がいるのだから!

 

 襲撃者がまだ健在なら話は早い。その襲撃者をぶちのめして、僕はメインキャラへと成り上がる!

 

「だから離して光華さん! 僕は行く!」

 

「逝くことになるからダメだって! あのツインテ女は本当に危険なんだ!」

 

「僕の使い魔の方がよっぽどきけ…………ん?」

 

 今なんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジでいやがった」

 

 光華から伝え聞いた襲撃者の特徴――それは僕が医務室に運んだツインテメスガキ少女の見た目と完全に一致しており、そのため僕は事情を話し、三人を医務室へ連れて行くと、襲撃者=ツインテ少女であることが明らかになった。

 

 そんなベッドで眠る(気絶している)ツインテ少女に対し、当然ながら襲われた蛇塚たち三人の視線は厳しい。

 

「どうするこいつ? ぶっ〇すか?」

 

「とりあえず目を覚ました時のために拘束しておこう。蛇塚くん、君の能力で頼んでもいいかい?」

 

「おう、任せろ」

 

「あとついでに髪の毛も抜いておいて、烏丸さん」

 

「あ、それなら血液を藁人形に染み込ませた方が強い痛みを出せるよ」

 

「じゃあそれでいこうか」

 

「わかった」

 

 流れるような作業で、ツインテ少女に対する拷問の手筈が整っていく。培った絆がさっそく発揮されているようだ。嫌な方面で。

 

 そうして出来上がったのは、蛇塚の召喚した蛇によって、首から下をぐるぐる巻きにされたツインテ少女。

 ちなみにジャラジャラしたパンクな上着は、拘束に邪魔ということで容赦なく光華によって剥ぎ取られ、その服を気に入ったルウがどこかへと持って行ってしまった。

 事情を知らなければ、完全にただの追い剥ぎだ。

 

「で、どうする? 叩き起こすか?」

 

「手っ取り早く痛みで意識を覚醒させよう。から――」

 

「えい」

 

 光華が名前を呼ぶよりも早く、烏丸は藁人形に釘を打ち込む。

 すると苦しむような声と共に、ツインテ少女が目を覚ました。

 

「がっ! つぁ……!」

 

「よお、目ぇ覚ましたかクソ女」

 

「ぐぁぁぁぁぁ!」

 

「お前には――」

 

「うぁぁ! つぅぅ……!」

 

「色々と――」

 

「ぐぅ……! あぁぁぁぁぁぁ!」

 

「聞きたいことが――」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ちょ、烏丸さん。一旦釘抜こうか」

 

 このままじゃまた痛みで気絶しかねない。

 烏丸が釘を抜くと、徐々にツインテ少女は冷静になり、自分の置かれている状況を理解していく。

 

「ここは…………ああ、なるほど。ガキにやられて、今はこうして捕虜の身ってか」

 

「よくわかってんじゃねえかクソ女」

 

「なんだ生きてたのか信号機。てっきりくたばったかと思ってたぜ」

 

「んだとてめぇ……!」

 

「待って待って! 今殴って気絶させたら何も聞けないから!」

 

 ダメだ。ツインテ少女に恨みがある蛇塚たちでは話が進まない。

 ここは一番冷静な僕が、間に入って言葉を交わさなければ。

 

「あの……」

 

「あっ? ……ああ、お前アレか。入口ですれ違ったやつか」

 

「そうです。えっと……なんて呼べばいいですかね?」

 

「はっ、お前らからなんと呼ばれようとどうでもいいんだよ。好きに呼べばいいさ」

 

「……じゃあメスガキさん」

 

蟲溟(ちゅうめい)だ」

 

 なんでもいいって言ったのに……。

 

「その、蟲溟さんはなんの目的でここに?」

 

「なんだ? 尋問のつもりか?」

 

 質問に質問で返しやがって。

 まあ尋問というか、ただ単に『今何が起こっているのか』を知りたいという好奇心が大きいんだけど。

 

「そうだな……。この蛇の拘束を解いてくれりゃあ教えてやるよ」

 

「いや、ダメに決まってるじゃないですか」

 

「じゃあ拘束解いてくれたらおっぱい触らせてやるよ」

 

「…………ダメに決まってるじゃないですか」

 

「今ちょっと揺れただろ、リーダー」

 

 揺れるでしょ! 健全な思春期男子なら!

 僕はジト目で詰めてくる光華から目を逸らす。

 

「随分余裕だなクソ女。今自分の置かれてる状況が理解できてねえのか?」

 

 蛇塚は蟲溟に対し、脅しともとれる言葉を投げかける。

 しかし、蟲溟のどこかバカにするような態度は崩れない。

 

「わかってねえのはてめぇらの方だ。私一人拘束して勝ったつもりか? なら教えてやるよ。ここに侵入したのは私だけじゃなく、他にも数人いる。それも全員が私と同等か、それ以上の実力者ばかりだ」

 

「なっ!?」

 

「しかもそのうちの一人は『死桜(しざくら)』の名前が組織から与えられたバケモンだ。裏社会じゃ『死桜』の名を知らねえやつはいねぇ。死桜の歩く後には死体が埋まっている――そう言われるほど、あいつは敵対する全てを葬ってきた。あれこそが本物の殺人マシーン、『黄楼炎』の最高傑作だ」

 

 蟲溟は告げる。仲間の襲撃者だという『死桜』のその恐ろしさを。

 それこそが、捕まった今なお蟲溟が持つ余裕の源なのだろう。

 

「だからなんだ。こっちには鬼のように強え教師がいるんだよ」

 

「知ってるよ。修羅巫女のことだろ? 死桜は修羅巫女の相手をするために連れてこられたんだ。言っておくが、妖刀(・・)を持ったあいつの強さに上限はねぇ。お前らも、修羅巫女も、あの女が本気を出せば皆殺しなんだよ」

 

「んだと……!」

 

 蟲溟が笑い、蛇塚が怒りを露わにする。これではどちらが捕えられている側なのかわからない。

 光華と烏丸も、蟲溟がその強さに絶対的な自信を持つ死桜に、立花先生が勝てるのかどうか不安になっている様子。

 

 しかし僕はそんなことよりも、蟲溟が口にしたとある(・・・)ワードに引っかかっていた。

 

「あの……蟲溟さん」

 

「あぁ? なんだクソガキ」

 

 メスガキがよぉ……。

 

「その、さっき話してた妖刀なんですけど…………これ(・・)だったりします?」

 

 そう言って僕は、メイルカムイから受け取り、刀身が木端微塵になった刀を蟲溟に見せる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………おいクソガキ」

 

「なんですかメスガキさん」

 

「それどうやって手に入れた?」

 

「落ちてたのを拾ったらしいです」

 

 本当かどうかは怪しいけど。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………ふぅ」

 

 蟲溟は一度僕らから視線を外し、天井を仰いで息を吐くと、今までとは比べ物にならないくらい愛嬌のある声で告げた。

 

「何が聞きたい? なんでも答えるぜ」

 

 急に手のひら返す。やっぱりこれがその妖刀なのか。だった(・・・)という方が正しいかもしれないけど。

 蟲溟の話から察するに、その死桜という人は妖刀を持ってこその最強だったのだろう。妖刀がないとなれば話は別。

 それをすぐに察し、悪いようにされないよう従順な態度を取ったというわけだ。

 

 きっとそれは、正しい選択だったのだろう。相手が『愚蓮努羅魂仏血切離(ミスフィット)』の面々でなければ。

 

「あ? なんだこいつ、急にしおらしくなりやがって」

 

「よくわからないけど、どうやらその死桜とやらは当てにできない様子だね」

 

「へぇ~、そうなんだぁ~」

 

 残念ながらこいつらは、ひとたび弱みを見せれば、徹底的にそこに付け込む反社のようなやつらだ。

 

「お、おい、さっきも言ったように私の知っていることはなんでも話してやる。だから――」

 

「いや、別にそれはリーダーが聞きたがってただけで、オレらは大して興味ねえから」

 

「そうだね。ボクらにとって大切なのは、受けた借りを返すことだけだ」

 

「えへ、へへへ……。怖い思いさせられたお礼は、たっぷりさせてあげる。ふへ」

 

 蛇塚、光華、そして藁人形を手に持った烏丸が、拘束されて動けない蟲溟へとにじり寄っていく。

 

「ま、待てお前ら! 捕虜に対する拷問は国際法で禁止されて――!」

 

「知らねえなあ。オレ頭悪いからよお」

 

「やだなあ。拷問なんてそんな物騒な。ちょっとお話しするだけじゃないか。肉体的なお話も含めて」

 

「へへ、それ……誰が証明するんだろうね?」

 

「ちょっ! おいクソガキ! お前こいつらのリーダーなんだろ!? 仲間の蛮行を止めなくていいのかよ!?」

 

 ……ん? あ、もしかして僕に言ってる?

 

「すみません。僕、突発的に都合の悪いことだけ聞こえなくなる体質なんで」

 

「嘘つけぇ! そんなやつこの世にいるわけねぇだろ!」

 

 おっと、冬二の悪口はそこまでだ。

 

「待てお前ら! おい待てって、ちょっ………ギャアアアアアアアアア!」

 

 昼下がりの医務室に、蟲溟の断末魔の絶叫が響き渡る。

 蛇塚たち三人の手により、グリグリと藁人形に突き刺される釘。そしてさらに、ミカエル(泥人形)を頭に被せられ、容赦なくとどめを刺される蟲溟。

 

 僕自身、蟲溟に何かされたわけではなく、蛇塚たちが酷い目に遭わされたという話を聞いただけなので、痛めつけられた上、完全に意識を失った蟲溟を見て、ちょっとかわいそうだなと思った。

 

 まあなんにせよ、チーム合宿~謎の襲撃者編~はこれにて一件落着というわけだ。

 ま、僕ほとんど何もしてないし、事情もまったくわかってないけど。へっ。

 

 

 

 

 無事復讐を果たし、スッキリとした表情を浮かべるチーム『愚蓮努羅魂仏血切離』の面々。

 やるべき事を終えたため、元いた部屋に戻ろうとしたその時、医務室の扉が開かれる。

 

「あ~、みんなここにいた~」

 

 語尾を伸ばすその特徴的な話し方は、顔を見ずとも明らかで。

 まだ少し体調の悪そうな紅原先生が、安堵するような表情を浮かべながら立っていた。

 

「も~、ダメじゃないちゃんと部屋にいないと~。まだあの女がうろついてるかもしれないんだから~」

 

「あ、先生……その話なんですけど……」

 

 僕はとりあえず、僕の知っている範囲のことを先生に話す。蟲溟と名乗る女をルウがボコボコにしたこと。その蟲溟を医務室に運び、ベッドの上で寝かしていること。

 え? 拷問の件はどうしたって? ……いいかい? そんなものはなかった。いいね?

 

「そう~、お嬢が~」

 

 僕の説明と、ベッドで泡を吹いて気絶する蟲溟を見て、紅原先生は納得するような表情を浮かべる。

 

「ならこのことをすぐ先輩に伝えないと~。あ、そうだ~。みんなに聞きたいことがあるんだけど~」

 

 ……? 何の話だろうか?

 僕同様、蛇塚たちも検討がつかないらしく、疑問符を浮かべている。

 僕らが知っていること、話すべきことは全て話したはず――

 

「私が気を失った理由なんだけど~」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕ら四人はほぼ反射的に人差し指を立てた。

 その指はもちろん、この四人のうち一人を指さし、全責任をなすり付けるため。

 誰が誰に指を指すのか――それを見極め、多数意見によって少数意見を封殺する。そのために僕らが思考を加速させていたその時、紅原先生が前提条件を覆す決定的な言葉を告げた。

 

「実はその時のこと、記憶が飛んでてよく覚えてないのよね~。多分気絶した理由に関わってると思うんだけど~。みんなは何か知ってる~?」

 

「「「「っ――!?」」」」

 

 指を指すため上がりかけた僕らの腕が、ピタリと止まる。

 そして交わされる一瞬のアイコンタクト。この短い期間でお互いを知り、その人となりを理解した僕らには、それで十分だった。

 蛇塚、光華、烏丸の三人の考えていることが手に取るように理解できる。きっと三人も同じ気持ちなのだろう。

 

 おそらくこの時、チーム結成以来僕らは、真の意味で心が一つになった。

 

 

 

「「「「蟲溟(あいつ)がやりました」」」」

 

 

 

 僕らはベッドで拘束され、物言わぬ襲撃者に全ての責任をなすり付ける。

 

「あと、あの部屋にあったパソコンを壊したのもあいつです」

 

「あっ、その、先生のスマホを壊したのもあいつです!」

 

「部屋にあった鏡とか、壊れてる備品は全部あいつがやりました」

 

「部屋の冷蔵庫に入ってた、『立花』って書かれたプリンを食べたのもあいつっす」

 

 ついでとばかりに、僕らは細かい罪を蟲溟へとなすり付けていく。

 紅原先生はミカエルを頭に被ったことによって記憶を飛ばした。ならば、ミカエルによって気絶した蟲溟も、同じように記憶を飛ばすはず。

 つまり真実は闇の中。今ならなすり付け放題というわけだ。

 

「…………」

 

 僕らのなすり付けを全て聞き終えた紅原先生は、どこか納得のいかない様子。

 ヤバい。ちょっとやりすぎたか?

 

「……ちょ~っと怪しい話もいくつかあるけど~」

 

 全部なんすよね。

 

「まあ今回はこっちの不手際もあるし、そういうことにしといてあげる~」

 

 その言葉を聞き、僕ら四人はハイタッチを交わした。心の中で。

 

 とにかくこれで、襲撃イベには関われなかったものの、ムーは無事帰ってきたし、先生を気絶させてしまった件もチャラになった。

 これで心置き無く、残りの課題に挑めるというもの。もともと僕の大目標は課題の方なのだから。

 絶対に勝ち取ってやる! 冬二たちを抜いて、チーム1位の座を!

 

「あ、あとチーム課題の件だけど~、『愚蓮努羅魂』のみんなは残りの課題、全部別メニューになるから、そのつもりでよろしくね~」

 

 

 

 ……………………なんで?

 

 

 

「ちょっ! ちょっと待ってください先生! どうして急に別メニューだなんて……!?」

 

「だって~、チームメイトの状態を見れば、なんとなくわかるんじゃないかな~」

 

 紅原先生にそう言われ、僕は蛇塚たちチームメンバーに目を向ける。

 無傷の光華は別として、僕の目に映るのは満身創痍で、明らかに体調の悪そうな烏丸と蛇塚の姿。特に蛇塚にいたっては、包帯だらけで見るからに痛々しい。

 

「ここからの課題は、今までよりも激しい内容になるの~。そんな課題に、蛇塚くんたちが参加できると思う~?」

 

 その言葉を受け、僕はもう一度蛇塚たちの傷の様子を確認し、そして自信を持って答えた。

 

「大丈夫です。いけます」

 

「いや鬼かお前」

 

「課題のためなら全部終わってもいい――と、蛇塚くんが言ってました」

 

「平然と発言を捏造してんじゃねえよ! ぶっ飛ばすぞ!」

 

「ほら、元気です」

 

「う~ん……」

 

「それに蛇塚くんと烏丸さんがいなくても、サラさんも含めて三人いますし――」

 

「そうだ~。言い忘れてたけど、サラさんも体調不良で課題参加できないの~」

 

 なして!?

 

「なら僕と光華さんの二人でも――!」

 

「残念だけど~、これは『チーム』課題だから、チームでこなすのが前提の試験なの~。さすがに二人だけで参加はさせられないかな~」

 

「で、でも――!」

 

「気持ちはわからないでもないけど、チーム順位が成績に大きく影響するわけじゃないし、今回は諦めてね~」

 

 そ、そんな…………ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛

 

 僕は膝をつき、床に手を置いて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 チーム『愚蓮努羅魂仏血切離』 総合得点 334ptにて確定(現時点 168チーム中2位)

 




雪春「なんで僕ばかりこんな目に!? 何も悪いことしてないのに……!」
蛇塚・光華・烏丸(してるだろ……)
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