魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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チーム合宿⑮ / 課題を終えて

 

  チーム合宿4日目

 

 

 

『打流打流堕琉備主多田似胃等真字要――』

 

「…………」

 

 場所は毎朝『ビリビリ魔力制御』を行なっているお寺の一室。

 そこで僕と光華、そして烏丸の三人は、お坊さんが唱えるお経をひたすら聞かせられていた。正座で。

 

「……紅原先生」

 

「なに~」

 

「これ、なんのお経ですか?」

 

「さぁ~?」

 

 クソがよ。

 

 合宿も後半戦。最終日の午後には合宿地を離れるため、課題自体の最終日は実質この四日目である。

 最後ということで気合を入れ、課題会場へと向かう同級生たち。そんな同級生たちを尻目に、僕ら三人は別メニューと称し、謎のお経を聞かされ続けているというわけだ(蛇塚は医務室)。

 逃げようにも、紅原先生が付き添いというていで監視しているため不可能。

 

 あぁ、僕の貴重な青春イベが灰色に染まっていく……。思い出がお経に染まっていく……。

 そんなふうに僕が悲観に暮れていたその時、

 

『ふんふっふふふっふふふふふふふ、ふふふ~ふんふ~ふふふ~♪』

 

 なんとも間の抜けた音楽が、お経に混じって流れだす。

 音の発生源へと目を向けると、それは紅原先生のスマホから流れているものだった。

 なんだこれ? 鼻歌? どことなく立花先生の声に似ているような……。

 

「みんな~、ちょっと出てくるけど、逃げちゃダメよ~」

 

 そう言って、紅原先生はスマホを片手に部屋を出ていく。

 そうして先生がいなくなったその隙を見計らうように、光華が口を開いた。

 

「リーダー、ちょっといいかい?」

 

「いいけど……どうしたの?」

 

「君に聞きたいことがあってね。二人きりになった今がちょうどいいと思ったんだ」

 

「……二人きり?」

 

 僕らに背を向けているお坊さんはまだしも、この場には烏丸も――――そう考え、烏丸へと目を向けると、彼女は口元からよだれを垂らし、完全に夢の世界へと旅立っていた。

 

「……それで、聞きたいことって?」

 

「写真の件だよ。君の女装姿が写った」

 

 ……………消さなきゃ。

 

「昨日も言ったけど、別に言いふらしたりしないよ。だからその藁人形を置いてくれ。いつの間に烏丸さんから盗んだんだ」

 

「…………」

 

「あの女装姿、普段から頻繁にしてるのかい?」

 

「それは……」

 

 違う――そう答えようとしたとこで、僕は一旦思考する。

 光華には、あの写真が僕の女装姿であることがバレていた。そしてあの写真を見られてから、光華の僕に対する態度が明らかに軟化している。

 少なくとも、隙あらばシバくといった殺気を見せることはなくなった。

 それらを踏まえて、僕は一つの仮説を立てる。

 

 もしかして、光華は僕のことをコスプレ仲間か何かだと認識しているのではないか、と。

 つまり今、光華は僕に特別な仲間意識を持っていることになる。

 

 となると、今後のスムーズなチーム運営を考えれば、『女装が趣味です』と嘘をつくべきでは?――と、そこまで考えて僕は光華に返答した。嘘をつくことなく、正直に。

 

「違うよ。昔たまたま女装する機会があっただけで、あの写真もその時に撮ったやつだから」

 

 もちろん嘘をつく選択肢もあったが、今後も嘘をつき続ける労力や、女装姿を披露しなければならないリスクを考え却下した。

 それに、いつでも手を抜くことなく本気で男装し、そう振舞う光華に対し、嘘をつくのはあまりにも不義理だと感じたから。

 

「……リーダー、君は不思議な人だね」

 

「え、なんで?」

 

「よくわからないからだよ。君という人間が」

 

「はぁ……」

 

「嘘つきだったり正直だったり、急にやる気を出したり、小心者かと思えば大胆だったり、スケベだったり……」

 

 最後のはただの悪口だろ。

 

「……多分君は、安心できるくらい普通なんだろうね」

 

「……」

 

 普通……か。普通じゃない存在に憧れてたんだけどな。この異能社会に来た時から、僕はずっと。

 

「そうそう、今までなんだかんだリーダー呼びを続けてきたけど、いい機会だし改めて名前で呼んだ方がいいかな? 雪春くん(・・・・)

 

「……いや、リーダー呼びでいいよ。今さら名前で呼ばれても、なんかむずがゆいから」

 

 それに、今となってはリーダー呼びの方が特別感あるし。

 

「それもそうか。なら改めて、これからもよろしくね、リーダー」

 

「……うん」

 

 そうして、僕と光華の会話が終了する。

 結局、光華が何を言いたかったのかはいまいちわからなかったが、最後のやり取りはちょっと青春っぽかったなと思った。

 

 そしてちょうどそのタイミングで、紅原先生が部屋へと戻ってくる。

 

「ただいま~、ちょっと烏丸さんに聞きたい話があるんだけど~」

 

「…………ぐぅ」

 

「烏丸さ~ん?」

 

「ちょ、烏丸さん起きて」

 

 僕は烏丸に起きるよう声をかける。

 しかし一向に目を覚まさないため、肩を掴んで揺らし、そこまでしてようやく烏丸は目を覚ました。

 

「はっ! ち、違うの! 田中くんを呪ったのはワタシじゃ――――あれ?」

 

 田中……、夢の中ですら呪われるのか……。

 

「あ、え、どうしたのリーダー?」

 

「紅原先生が聞きたいことあるんだって」

 

「えあっ、その、なんですか先生?」

 

「昨日捕らえた蟲溟(ちゅうめい)って女なんだけど、日をまたいでもまだ目を覚まさなくて~。調べてみたら呪いを受けた反応が検出されたの~。烏丸さん、何か心当たりがあったりしない~?」

 

「あれ? でも紅原先生の時はすぐに目を覚ま――」

 

「おっと手が滑ったァ!!!」

 

「ぐえっ!!!」

 

 二人の会話を遮るようにして、光華は余計なことを喋りそうになった烏丸を蹴り飛ばす(・・・・・)

 口封じのため、仲間に手をかけるその光景を見て、紅原先生は慌てることもなく、またかとため息をつくのみ。

 この合宿で、先生もだいぶん毒されたなと思う。

 

 結局、蟲溟の件は有耶無耶にしつつ、この後も僕らは謎のお経を聞き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方四時頃、苦痛の時間を終えた僕は、立花先生から一つ頼み事をされる。

 なんでも、課題の打ち上げとしてキャンプファイヤーを行うため、その準備を手伝ってほしいとのこと。

 どうせやることもなかった僕は、その頼み事を了承する。

 

 

 そうして指示された場所へ向かうと、そこには冬二たちもいた。

 いつもと同じメンバーに加え、さらにその輪の中には、一際目を惹くメイド服の美女が佇んでいる。

 その美女は、目撃したのは一度だけにもかかわらず、僕もよく知っている人物――いや、悪魔だった。

 

「あっ雪春。雪春もキャンプファイヤーの準備、手伝うように言われたのか?」

 

 その美女に視線誘導されていると、いち早く僕の存在に気づいた冬二が声をかけてくる。

 

「うん、冬二たちも?」

 

「そうなんだよ。立花先生に『総合成績1位になった祝いだ。準備を手伝わせてやる』って言われて」

 

 理由なんて、なんでもいいんだろうな。

 

「それでさ、雪春……。ついでといっちゃなんだけど、後でちょっと話せないか?」

 

 そう告げる冬二の表情は少し落ち込んでいるようで。

 

「いいよ。どうせ暇だし」

 

 むしろ冬二の方が忙しいと思うけど。

 キャンプファイヤーの最中、誰と過ごすかで大揉めしそう。

 

「それじゃあ――」

 

「冬二! 私たちはこっちよ!」

 

「わかった! 今行く! じゃあ雪春、また後で」

 

 そう言って冬二は、いつものヒロインズと共に持ち場へと移動していく。メイド服の悪魔を残して。

 …………あれ、ついて行かないの?

 

 僕は不思議に思い、冬二の使い魔――オリエイナの姿を改めて見つめる。

 その容姿は、老若男女そこにいる誰もが見惚れるであろう美しさ。この美女悪魔が、あと少し早ければ僕の使い魔になっていたと思うと、悔しくてたまらない。

 

「……よ、ジャ……ィ」

 

「……え?」

 

 ふと、オリエイナが何かを口にする。それは音になるかならないかの掠れた声で、よく聞き取ることができなかった。

 僕に聞き取れなかったということは、僕にとって都合の悪いことだったのかもしれない……という冗談は置いておいて。

 なんと言ったのか尋ねてみようとしたその時、僕はあることに気づく。

 オリエイナのその視線が、僕の頭上あたりに固定されていることに。

 

「……もしかして見えてます?」

 

「…………」

 

 僕の問いかけに、オリエイナは応えない。

 ただ僕が使い魔(ムー)を胸元に抱き寄せると、オリエイナの視線も僕の胸元へと移動する。

 やはり見えているのだろう。メイルカムイと同じ最上級悪魔だからかな?

 

「やっぱり、見えてますよね?」

 

「…………」

 

 ……ぜんぜん喋ってくれないな。

 もしかして初対面で嫌われてる?

 それとも、モブのくせに気安く話しかけてんじゃねえよとか思われてる? だとしたら泣くんだけど。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ダメだ。せっかくの美女と二人っきりなのに辛くなってきた。

 名残惜しいけど、僕も持ち場へと向かおう。

 

「この子のこと、秘密でお願いしますね。お互いのためにも」

 

 オリエイナには見えても、どうせ冬二たちには見えないんだ。

 ムーのことを話したところで、僕もオリエイナも生暖かい目で見られるのがオチ。

 冬二なら信じてくれそうではあるが、変に気を使わせてしまいそうだし、黙っているのが得策だろう。

 

 僕は気持ち悪がられることがないよう、できる限り自然な笑みを浮かべ、オリエイナから離れる。

 しかしどうしても、未練がましく考えてしまう。もう少し召喚が早ければな、と。

 

「むぅー!」

 

「ごめんごめん、別にムーに不満があるわけじゃないよ」

 

 まるで『自分では不満と申すか!?』とばかりに、頭をグリグリと押し付けてくるムーに対し、僕はムーが満足するまでその頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンプファイヤーの準備はつつがなく終了した。

 途中、冬二が紗季(青髪鉄仮面)と木材倉庫に二人きりで閉じ込められる事態も発生したが、そんなものはよくあること。

 あわや交尾寸前というところで、予定調和のごとく鍵が開かれた。

 

 そんなこんなで日も暮れ、キャンプファイヤーが始まる。

 学園が所有しているというプライベートビーチで、大きな火を囲みながら、生徒たちが思い思いに踊り、はしゃぎ、笑い合う。

 課題から解放されたことで、その喜びもマシマシのはずだ。

 

 僕はというと、火を囲む生徒たちから少し離れたベンチに座り、その楽しそうな様子を眺めていた。

 

「悪い雪春、待たせた」

 

 そんな僕の下に、缶コーラを両手に持った冬二が現れる。

 

「ほいこれ」

 

「ありがと」

 

 冬二はコーラを片方僕に手渡すと、そのまま隣に腰かけた。

 ちなみに、冬二と踊りたそうにウズウズしているヒロインズが、こちらに圧をかけるような視線を向けているため、僕は缶の蓋を開けながら、早速本題へと話を持っていく。

 

「それで、話したいことって?」

 

「ああ、その……」

 

 どうやらその話したいこととは、あまり明るい話題ではないようで。口を開く冬二の表情はどこか暗い。

 

「今から話すことは……その、俺の知り合いの話なんだけど」

 

 冬二の話ね。

 

「実は……その知り合いが、長いこと離れ離れになってた兄貴と再会した……らしいんだ。けど、久しぶりに会った兄貴は敵になってて……。かと思えば、去り際に『お前を愛している』だなんて口にしたり……」

 

「…………イ〇チの話?」

 

「いや俺……じゃなくて知り合いの話だって」

 

 だよね。一瞬ナ〇トの話してるのかと思った。

 

「わからなくなった……らしいんだ。幼いころから一緒に過ごしてきたはずの兄が、一体何を考えてるのか……」

 

 ……よくわからないが、おそらくまた何かしらの事件に巻き込まれたのだろう。

 それで以前話していた行方不明の兄と、敵として再会したと。

 

「そういえば、確か雪春も兄貴がいるんだよな。その、こっちに来てから連絡とか取ったりしてるのか?」

 

「うーん……、僕も兄が大学で一人暮らし始めてからはほとんど…………あ、でもこの前、久しぶりに連絡が来たっけ。『モ〇ハンの新作貸してくれ』って」

 

「そっか……。兄貴とゲームの貸し借りするくらい仲良いんだな……」

 

「いや、『自分で買えカス』って断ったけど」

 

「なんで!?」

 

 だってあいつ、昔から弟や妹が買ったゲームは自分も無条件で遊べると思ってるとこあるし。自分のゲームは貸してくれないくせに。

 僕の幼いころ、僕に与えられた『誕生日に好きなゲーム買う権利』を、自分の好きなゲームを買うように誘導してきたことはまだ許してない。

 

「もしかして……、結構仲悪かったりするのか?」

 

「どうだろ。多分家に帰って顔を合わせたら、普通に会話くらいはすると思うし……」

 

 まあ仲がいいかと問われれば、絶対にそれはないけど。

 

「そ……、そういうもんなのか?」

 

 ああ、冬二がめちゃくちゃ混乱してるのがわかる。

 

「まあその、うちの兄弟関係はあくまでそうってだけの話だよ。……けど、大抵そんなもんじゃないの? 兄弟なんて」

 

 どれだけ喧嘩しようと、どれだけ気が合わなかろうと、兄弟であるという事実は消えないし、家にいれば嫌でも顔を合わせてしまう。

 だからこそ、お互いにとって適切な距離感というものが自然と形成されていく。

 

「僕もよく喧嘩したりしたけど、次の日には特に仲直りの言葉とかもなく、当たり前のように会話してたし」

 

 好きなゲームを真っ二つにされた報復として、兄のスマホの検索履歴を印刷して学校中に貼り出した時は、さすがに長いこと口を利かなかったけど。

 

「だからさ、冬二もあんまり考えすぎずに、次会ったら当たり前のような顔して、普通に話して、聞きたいこと全部聞けばいいんだよ。んで、ダメだったら喧嘩して、また次の機会に聞く感じで……」

 

「…………」

 

「あの、こんなもんでいかがでしょう……?」

 

 僕は冬二に反応を窺う形で尋ねる。

 正直どんな言葉を求められているのか、いまいちわからなかったから、とりあえず答えるだけ答えてみたけど……。

 

「そっか……。そうだよな。兄弟なんだから……真正面から聞けばいいんだ。壁がないことなんて、拳を交わした時にわかってたはずなのに……」

 

「えっと……」

 

「ありがとな、雪春。やっぱ雪春と話せてよかった」

 

 どうやら僕の回答はお気に召したらしい。よかったよかった。

 まあ僕が何か言わずとも、なんだかんだ冬二は悩みを解決させていただろうけど。

 

 

 ……そうだ。せっかくだし、この機会にメイルカムイのこと話してみようかな。

 全部話してしまうのではなく、来る時の伏線として匂わせる形で。

 申し訳ないが、ヒロインズたちにはもうちょっとだけお待ちいただこう。

 

「そういえば冬二、さっき冬二と一緒にいたメイド服の人だけど、あれって悪魔だよね?」

 

「っ!? 知ってたのか!?」

 

 冬二は僕がオリエイナを悪魔だと見抜いたことに、心底驚いた表情を浮かべる。

 きっと冬二としては、僕には秘密にしておきたかったのだろう。

 理由はおそらく、僕を冬二側の事情に巻き込まないためとか、そんなところだろうけど、どうしてもやっぱり疎外感は覚えてしまう。

 

「まあ、僕の観察眼を以ってすれば――」

 

「でもそうだよな。オリエイナを召喚したことで、あれだけの大騒ぎ(・・・)になったんだ。知らない方が無理あるか」

 

 …………大騒ぎ?

 

「え、ちょっと待って冬二。大騒ぎって何?」

 

「あれ? 知らなかったのか?」

 

 ぜんぜん知らない。ちょっとその辺り詳しく。

 

「あーえっと……、異能社会(こっち)はさ、Sランクみたいな上位悪魔って、召喚すること自体がタブー視されてるんだ」

 

「え、そうなの? そんなの授業とかで聞いたことないけど……」

 

「そうなんだよ。なんか暗黙の了解的な形で、公に教わることは無いけど、みんな幼いころから知ってるらしくて」

 

「……その、ちなみになんだけど、冬二はオリエイナを召喚したんだよね? それでどうなったの?」

 

「まあそれがさっき言った大騒ぎなんだけど、危うく監獄送りになるとこだったんだよな。召喚が偶然の結果だったことや、オリエイナに過去人類と敵対した記録がなかったこと、それに加え学園側が介入してくれたおかげで、なんとかギリギリ無罪放免って感じで」

 

「…………その、ちなみにちなみになんだけど、もし仮に、メイルカムイみたいなやっば〜い悪魔とか召喚しちゃったら――」

 

「そんなの大罪中の大罪よ!!!」

 

 僕の問に対して、食い気味に反応したのは冬二ではなく、それまでずっと背後で隠れていたツンデレ炎使い――赤花 茜だった。

 どうやら僕らの会話に我慢できず、ヒロインズの輪の中から飛び出してきたらしい。

 

「雪春! あんたはよく知らないでしょうけど、メイルカムイは悪魔の中でもトップクラスに悪名を残してる悪魔なのよ! その力で国一つ滅ぼしたなんて逸話もあるんだから!」

 

「へ、へえ~。そうなんだ~……」

 

「メイルカムイなんて召喚しようものなら、その体を十回焼き尽くされても許されないわよ!」

 

 じゃあ僕、600回以上焼き尽くされても許されないじゃん。

 

 僕はこの時、メイルカムイの件は墓まで持って行こうと心に誓った。

 グッバイ、僕の輝かしい最強伝説。こんにちは、僕の打首に怯える日々よ。

 

「なあ、話まだ終わらねえのか?」

 

「ちょ、ちょっと契さん。茜さんも……」

 

「冬二、早く踊ろう」

 

「あら、冬二さんと一番に踊るのは(わたくし)ですわよ?」

 

 茜が飛び出したことで、残りのヒロインズも(せき)が切れたかのように飛び出してくる。

 

「み、みんな……。もうちょっとだけ待ってくれ。今雪春と――」

 

「いいよ冬二。行ってきなよ。みんな待ちくたびれたみたいだし」

 

「でも――」

 

「冬二の話は終わったんでしょ? 僕の方はこれといって話すこともないからさ」

 

 そう言って僕は、どこか名残惜しそうな表情を浮かべる冬二の背中を押す。

 

「……じゃあ」

 

 渋々ながらも納得した冬二は、ヒロインズに引っ張られ、キャンプファイヤーの火に向かって歩いて行く。

 そんななかで、茜だけがその場に立ち止まり、僕に視線を向けていた。

 

「……? どうしたの茜さん、行かないの?」

 

「雪春、あんたは一緒にみんなと踊らないの?」

 

 そう告げる茜は、笑うでもなく、かといって真剣でもなく、まるで当たり前のことを聞いているような表情を浮かべている。

 

「……うん、僕はいいよ」

 

「そっ」

 

 これまたあっさりと、茜は僕の返事を聞くと、冬二たちの下へと向かう。

 

 

 

 そうして一人になった僕は、楽しそうに踊る冬二たちや、はしゃぐ生徒たちを見つめながら、とある実感を得ていた。

 

「結局、この立ち位置は変わらなかったな……」

 

 一歩進んで二歩下がる。この学園に入学してからはその繰り返し。自分では進んでいるつもりが、いつの間にか下がってしまっていて。

 いつしか進もうとすることすらやめてしまっていた。

 

 それでも、モブ脱却――その思いを胸に挑んだこのチーム合宿。

 卑怯な手を使い、チームメンバーを巻き込み、色々と足掻いてはみたものの、最終的に結果は伴わず。

 立ち位置は変わらなかった。やはり生徒Aは生徒Aでしかなかった。

 

 ただそれでも、なんとかしようと足掻けた。途中まで冬二たちと競り合えた。チームメンバーとは、ほんのわずかだが絆が深まった……気がする。

 一歩進んで二歩下がる。しかし今回はそこからさらに一歩半進み、総合して半歩分。

 ほんの僅かな歩みかもしれないが、このチーム合宿を通して、確かに半歩分進んだのだと、僕は自信を持ってそう言える。

 

 そんな小さな喜びを嚙みしめながら、僕はコーラを口に含んだ。

 

 

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