魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
屋上はちょっと特別感があって好きだ。普通の学校だと基本立入禁止だが、この学校では許されている。
それに何もない殺風景な屋上とは違い、観葉植物やベンチなどが置かれていて、ボッチが1人でいてもあまり目立たないところも好感が持てる。僕の指定席は一番奥の一番目立たない日陰になっているベンチだ。陰キャだけに――――ごめんやっぱ今のなし。
まあなんにせよ、ボッチの僕にとって人目を気にしないですむ居心地のいい場所であることは確かだ。
問題点があるとすれば――
「わたくし、知っていますのよ! あなたが紗季さんと夜中にデートしていましたこと!」
「あ、あれは、元気のない俺を紗季が励まそうとしてくれただけで……」
たまにヒロインと主人公の修羅場に遭遇することだ。
金髪縦ロール(別名:金髪ドリル)の高飛車お嬢様ヒロインと例の主人公属性モリモリ友人が言い争っている。
いや、言い争うというより金髪ドリル高飛車お嬢様(以下:金ドリ)が一方的にまくしたてている状況だけど。
彼らはベンチに座る僕のすぐそばで言い争っているのだが、ちょうど観葉植物のおかげで死角になっていて、二人からは僕の姿が見えていないらしい。
「理由はなんであれ、付き合ってもいない男女が二人っきりで出かけるなんて不潔ですわ!!」
「いや、ほんとにあれはただ友達として励ましてくれただけなんだって! 僕も紗季もやましい気持ちなんてなかったよ!」
どうだか。主人公属性モリモリ友人はともかく、
「そ、それに……本当はわたくしが励ましてさしあげたかったですのに……」
「え、なんて? 風でよく聞き取れなくて」
なんで聞こえないんだよ。僕の距離で聞こえたのにお前の距離で聞こえないわけないだろ。突発的かつ局所的に風速20メートルの風でも吹いたのかよ。この難聴系主人公め!
「い、いえ、別に何でもありませんのよ! 聞こえなかったのならそれでけっこう」
金ドリもすぐ信じる。
「しかし、やはり紗季さんだけあなたと出かけるというのは不公平というものですわ」
「そ、そうかな?」
「ええ、そうです。というわけで、今度わたくしとも二人っきりで出かける権利をさしあげますわ! 感謝なさい!」
よう不潔。
さっき自分で言ったこと1分も経たないうちに忘れたよこの金ドリ。
「わかったよ。今度一緒に遊びに行こう」
「では日程は今度の土曜日に。あなたの考えるデートプランを楽しみにしていますわ」
「え、デート?」
「あっ! ごほんごほん!!! 外出プラン! 外出プランですわ!」
「あはは、そうだよね。一瞬デートかと思ってびっくりしたよ」
「おほほほほほ! 我がゴールドリル家に見合うような人間でなければ、わたくしとデートだなんて夢のまた夢ですわ!! ………………まあ、あなたであれば見合う可能性が無きにしも非ずといいますかなんといいますか……」
「え、なんて? ごめん、最後のほうがよく聞こえなく」
「なんでもありませんわ!!!」
はやくどっか行ってくれないかなぁ。
しばらくしてやっと話がまとまったみたいで、二人はその場を離れていった。
ああ、やっと解放された。そう気を抜いた瞬間――――
「どこから聞いていましたの?」
「ひゅっ……」
背筋が凍るとはこのことだろう。隣には真顔でこちらを見つめてくる金ドリがいた。
「一瞬のことでしたが、わずかに気配を感じた気がしたので確認しに来てみたら……雪春さんではありませんか」
どうやら1度離れてから戻ってきたみたいだ。周りに主人公属性モリモリ友人の姿はなく、1人でわざわざ戻ってきたらしい。
「もう一度聞きますわ。どこから聞いていましたの?」
下手なことを言えば、物理的にも社会的にも抹殺されそうな圧が金ドリから
なんだ? なにが気に障ったんだ? 2人の話を隠れて聞いたこと? デートの予定を把握してしまったこと?
「あー、えっと、その……えっと……」
やばい、そもそも金ドリの名前なんだったっけ?
ずっと心の中で金ドリって呼んでたから本名忘れた……
金ドリは主人公属性モリモリ友人のハーレムメンバーの中でも、かなり遅くにメンバー入りしたため、既にその時グループを抜けていた僕との面識は少ない。まあ同じクラスではあるんだけど、名字が印象的過ぎて下の名前が出てこない。
もういい、なんとか名前なしでこの場を突っ走ろう。
「いや、なにか話してたのは知ってたんだけどさ、風が強くてほとんど聞こえなかったんだ」
「嘘ですわね」
なんで僕の時は信じないんだよ。さっきはあんなあっさり信じたくせに。
「いいですか? 個人同士の約束事を盗み聞くなど言語道断。仮にも彼の友人であるあなたがそのような卑劣なマネを――」
うるせえなこの金ドリ不潔女。
元はといえばお前らが僕のいたところで話を始めたんじゃないか!――――などと言えるはずもなく、金ドリの高圧的な説教に対して僕は『ウス……、ウス……』と相槌を打つことしかできなかった。
僕には主人公属性モリモリ友人のように、金ドリの高圧的な態度に対して説教からの決闘で勝利、なぐさめの言葉からの頭なでなでコンボは決められません……。
この後、話を聞いたお詫びとして、主人公属性モリモリ友人がよく行く飲食店を教えたことで穏便に引き下がってもらえた。
もちろんニンニクマシマシの呪文も添えて。
―――――
おまけ
「全員手を上げろ! 抵抗する奴は殺すぞ!!」
拝啓 お父さん、お母さん、元気にお過ごしでしょうか?
僕はといいますと、高校に入学して記念すべき10回目の――――銀行強盗に巻き込まれました。
非日常に飛び込めて嬉しいと感じている僕ですが、こういう時は平穏な暮らしがとっても恋しくなります。敬具
この街の治安どうなってんだ!!!
入学して1年ちょっとで10回も銀行強盗に巻き込まれるとかどんな世紀末だ!!
銀行強盗が行われた回数じゃなくて、僕が巻き込まれた回数が10回だ。ふざけんな。
新しいゲームを買うために、お金をおろそうと銀行によったらこれだよ。
僕が小さいころから買い続けているシリーズもので、新作はシリーズ初の完全オープンワールドということでテンション爆上がりだったのが数分前。
今はテンションの暴落が止まらない。
「早く金を出せ! さもないと人質どもを殺すぞ!」
見たところ強盗団は全員で5人。全員が銃火器を手にしている。
毎回思うんだが、異能が当然のように存在するこの街で、銃火器だけで銀行強盗を成功させようとしてるの、いくらなんでも無謀すぎる。
実際に僕が巻き込まれたうちの2回は異能警察的な組織によって簡単に制圧されて失敗。残りの8回は主人公的な人間が突如として現れ、異能を使った大立ち回りを演じ、強盗を制圧するパターンだ。
もはや銀行強盗が主人公にとっての舞台装置と化しているまである。
ちなみに銀行強盗が成功したという話は一切聞いたことなく、死人が出たという話も聞いたことがない。あっても軽いケガ程度。
1度、『人質を殺されたくなければ服を脱げ!』なんてことをヒロイン的な少女に言い出した銀行強盗もいた。18禁にしようとするな。真面目に銀行強盗やれ。
まあそんなわけで、僕を含めて人質の顔に不安の表情はない。もちろんいい顔はしてないけど。
「今月何回目だっけ?」
「8回目です。今月新記録行きそうですね」
僕の隣にいる銀行員の人たちは、もはや歴戦の戦士のような表情だった。
よく転職しないで続けられるなこの仕事。危険手当込みで相当給料良くないとやってられないんじゃなかろうか。
「なんの罪もない人たちを人質にするようなお前たちは絶対に許さない!!!」
おっと、しょうもないことを考えているうちに今回助けてくれる主人公くんがきたみたいだ――――と思ったら、主人公属性モリモリ友人くんだった。
主人公属性モリモリ友人は『一定範囲内にいる敵の異能を無効化する』というザ・主人公的能力を持っている。
え? じゃあ今回みたいな銃火器相手には無能だろって?
ところがこの主人公くん、おじいちゃんがオリジナル武道の師範で幼少期から厳しく鍛えられたらしく、異能なしの戦闘でも強い。
……ずるくない? どっちかの設定を僕に分けて欲しい。
なんて羨んでいる間に、主人公くんによる制圧が完了しており、異能警察が中へと突入してくる。
なんにせよこれで一件落着。僕はこれで晴れて新作ゲームを買いに行ける――――とはならないのである。
物語だとここで話が終わる、もしくは少し時が飛んで助けられたヒロインとのフラグが立ったりするところなのだが、現実問題そうはいかない。
1人1人とても丁寧な事情聴取に加え、メンタルケアの手続き。さらには異能による洗脳等の影響などがないか調べるための検査で、基本丸1日は拘束されることになる。
要するに銀行強盗の結果がどうであろうと、巻き込まれた時点で僕の新作ゲームを買うという予定はパアだったというわけだ。
発売初日に買いたかったなぁ――――視界の隅で人質になっていた少女の一人とイチャイチャしている友人を見ないフリしながら、僕はオンラインで購入することを決めた。