魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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初任務① / 任務選び

 

 梅雨が終わり、季節はすっかり夏模様。

 夏休みという、学生にとって至福の時も近づいてきたある日のこと。

 

「ぐっ……! 通らばリーチ!」

 

「それロンです。リーピンタンヤオイーペーコードラドラ、裏なしの12000」

 

「いやぁ飛んだぁ!」

 

 僕は登坂さん(メンター)たちと卓を囲み、メンター室で麻雀を行っていた。

 

「メンター、いくらなんでもそれは通らないっしょ」

 

「……無謀です」

 

「逆転手が入っててさぁ……。これでまた雪春くんがトップかあ。ちょっと麻雀強すぎない?」

 

「まあ、高校入る前は家族でよくやってましたから……。それに僕が強いと言うよりも、メンターと『みーちゃん』さんが弱すぎるというか……」

 

「アハハハハッ! 二人とも年下にボロクソ言われてんじゃん!」

 

「おっ、言ったね? 今度こそコテンパンにしてやる!」

 

「……もう一半荘」

 

 そしてまた、全自動卓に牌を投げ入れ、僕らは次の半荘を開始する。

 ちなみに僕とメンター以外のメンツは、三年生の先輩女子二人。

 一人は見た目も言動も、これぞギャルといった感じの小鳥遊(たかなし)先輩。

 そしてもう一人は、メンターと小鳥遊先輩から『みーちゃん』と呼ばれている女子生徒であり、顔全体を隠す仮面をつけている。なんでも極度の恥ずかしがり屋とのこと。

 そして二人とも、登坂さん(メンター)が担当する三年生チームのメンバーで、普段からこうしてよくメンター室で麻雀を打っているらしい。

 今回、打っている途中にメンツの一人が用事で抜けてしまい、穴埋め要員として僕が呼ばれたのが事の経緯だ。

 

 てっきり呼び出された時は、ついに異能の個人指導が始まるのかと思い、ウキウキしながらメンター室に向かったものの、蓋を開けてみれば麻雀(これ)である。

 まあ、先輩女子二人(+缶ビールを片手に持ったメンター)に囲まれ、これはこれで楽しくはあるのだが。

 

「そういえばさあ、雪春くんたちのチーム、まだ任務(・・)やってないよね?」

 

 牌が配られ、全員が黙々と理牌していたその時、ふとメンターが世間話のように話題を振る。

 そのメンターの言葉に真っ先に反応したのは、起家である小鳥遊先輩だった。

 

「あれ? まだノルマこなしてないの? 時期的にけっこうヤバくない?」

 

 彼女は不要牌を切りながら、心配するような口調で僕を見つめる。

 

「先月はバイトとかが忙しかったんで……。ただノルマの期限は夏休みに入るまでですし、まだなんとかなるかなって……」

 

「あー……(ゆき)っち、ちょっとその考えマズイかもよ」

 

「え? なんでですか?」

 

「雪っち、その感じだと掲示板(・・・)は確認したんだよね?」

 

「はい」

 

「それ、いつごろの話?」

 

 えっと……、確か六月中旬くらいだった気が……。

 

「多分そのころだと、割のいい依頼がいっぱいあるのよ。けどこれが夏休み直前になると、他のチームも駆け込みで依頼を奪い合うから、最終的にめんどくさい依頼しか残らなくなるわけ」

 

「え?」

 

「そうそう。それでノルマ達成できなくて夏休み補習になったり、私も昔は苦しめられたよ」

 

 小鳥遊先輩の説明を継ぐような形で、メンターが自身の実体験を語る。

 補習か……。ただでさえ『異能歴史学』は補習濃厚なのだ。これ以上、僕の尊い夏休みを奪われるわけにはいかない。

 

 なおこの会話の間、誰一人として牌を扱う手は止めず、滞りなく動かし続けている。

 

「わかりました。早めに受けるようにしておきます」

 

 僕はここまでの会話で少しばかり危機感を覚えたものの、それほどノルマを心配してはいなかった。

 というのも、今回はチーム結成から最初の任務期間ということで、通常よりもかなり低めにノルマが設定されてあるからだ。

 だからきっと大丈夫。簡単な任務の一つや二つこなせば、すぐに達成できるだろう――――そう軽く考えていた僕だったが、次の瞬間、メンターが衝撃の言葉を口にする。

 

「うんうん、頑張ってね。ただでさえ君たちのチーム、蛇塚くんと烏丸さんの問題行動のせいで、既にかなりのマイナスポイント付いてるから。大分ポイント稼がないとヤバイよ~」

 

「…………………………え?」

 

 予想だにしていなかった言葉に、僕は持っていた赤色の『五萬』を、手のひらからポロリと落としてしまう。

 そしてそんな僕に対し、みーちゃんさんは容赦なく『ロン』の言葉を浴びせかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、昼休みになると同時に僕は教室を後にして、とある場所へと向かう。

 それはいつもの屋上ではなく、『任務受注室』という部屋。名の通り、任務を受けるための部屋である。

 

 その部屋を目指し廊下を歩いている途中、前方から立花先生が歩いてくるのが目に入った。

 そのため僕は軽く会釈し、そのまま横を通り過ぎようとしたのだが、なぜか立花先生は僕の目の前で立ち止まる。

 

「……え?」

 

 たまたまそこで立ち止まったのではなく、立花先生は間違いなく僕を凝視しており、その表情はどこか困惑しているように見えた。

 

「……あの、何か用事ですか?」

 

「…………雪春」

 

「はい」

 

「一応聞くが……今後、爆弾処理をする予定はあるか?」

 

 あるわけないだろ。え? なに? なんで爆弾処理?

 

 僕は発言の詳細を求めるも、先生は難しい表情を浮かべたまま、何かを考えるように黙り込んでしまう。えぇ……、なにぃ……?

 

「……」

 

「……」

 

「……雪春」

 

「はい……」

 

「その……私はだな。先祖代々巫女をやっている家の生まれだ」

 

「……そうなんですね」

 

「だから……まあ、私も占いとかそういうのができる」

 

「はぁ」

 

「そこでだ。君を占ってやろう」

 

「…………」

 

 この人……普段から困ったら暴力で解決しがちなせいで、取り繕う会話が絶望的に下手だな。

 

「渡谷雪春………………君のラッキーカラーは赤だ」

 

 せめてもうちょっと巫女っぽく占えよ。

 

「いいか? 赤だ。幸運の色は赤。覚えておくように」

 

 そう一方的に告げると、立花先生はとっとと歩き去って行く。

 そんな先生の背を見つめながら、僕はしばらくその場で立ち尽くしていた。

 

「あの人、巫女だったんだ……」

 

 意外すぎる事実に、時間差で衝撃を受けながら。

 

 

 

 とまあ意味のわからないやり取りはあったものの、僕は目的としていた部屋――『任務受注室』にたどり着く。

 

 任務を受けるには、まずここで受ける任務を選択し、受付を済ます必要がある。

 任務受注室は一つの階層全てを占めるほど広く、そんな部屋の中で僕がまず足を運んだのは、任務の詳細が記載された紙――いわゆる依頼書が貼り付けられている『任務掲示板』の前。

 そこには大量の依頼書がアナログ式に貼り付けられており、僕以外にも依頼書を見ている生徒がチラホラと存在している。

 なぜネットが普及している現代に、ラノベで出てくるようなギルド方式?――と思わないでもないが、僕はこういうの嫌いじゃない。

 

「さて、と……」

 

 僕は貼り付けられている依頼書の内容を、じっくりと吟味し始める。

 依頼内容は本当に幅広く、ガッツリ異能を使用しそうな依頼もあれば、『迷子の猫探し』といった異能が関係のなさそうな依頼まで様々。

 一応確認してみたが、爆弾処理の依頼はなかった。

 

 しかしながら小鳥遊先輩の言っていた通り、以前一度来た時に見つけた、楽で依頼達成時のポイントが高い任務は、全て『完了済み』の判が押されている。

 やっぱりかと落胆しつつ、僕は少しでもポイント効率の良さそうな任務を探す。

 

 蛇塚と烏丸(ボケカス共)が積み上げたマイナスポイントをチャラにし、なおかつノルマを達成するとなると、それなりのポイントが必要になる。しかし――

 

「ダメだ。まだ残ってる依頼だと、最低でも六つほど受けないといけない」

 

 夏休みまでの期間を考えれば、依頼をいくつも受けている時間はない。

 今ある中で、少しでもポイント効率のいい任務を――

 

「依頼、たくさんあって迷っちゃうよね」

 

「…………」

 

「あっ、これなんてどうかな? 『魔法科学部の新薬治験』だって。け、けっこうポイント高いよ」

 

「…………なんでいるの? 烏丸さん」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは呪いの装備こと烏丸冬歌。

 彼女はいつの間にか僕の隣に立ち、僕と同じように依頼書を吟味している。

 

「へへっ、その……そろそろ任務受けるころかなと思って、ここ数日リーダーのことをつけてたんだ。いつ依頼を見に行くのかな~って」

 

「ここ数日って…………もしかして授業中とか以外ずっと?」

 

「うん! ずっと!」

 

「へえ、そうだったんだ」

 

 きっしょ。

 

 怖いよぉ。気になってたなら声かければいいじゃんよぉ。

 もう烏丸(こいつ)……、どうにかしてチームから追放できないだろうか?

 この際、多少のざまぁとか復讐展開とかは我慢するんで……。

 

 とりあえず烏丸はいないものとして、僕は依頼内容の確認に戻る。

 それにしても、ほんといろんな任務があるな。なんなら『町のゴミ拾い』なんてものまで……。

 というかこのゴミ拾い任務、朝から晩まで働いて一人につき一ポイントって、こんなのもうほぼボランティアじゃん。

 

「あっ、ファミレスのホールスタッフなんてのもあるよ。私、一度飲食店で働いてみたかったんだよね」

 

「それ、飲食店の皮かぶった別物だよ」

 

 さて、どうしたものか……。

 

 いまいち決め手がなく、もう『新薬治験』でもいいかなと思い出したその時、ある依頼が僕の目に留まる。

 

――――――

『反社組織のフロント企業 監視任務』

・実働時間 8時間

・付与ポイント 200(貢献度によりさらに加算)

・ランク A

・詳細は別途

――――――

 

 それは時間的な拘束もそれほど長くなく、一発でノルマが達成できる、まさに僕が求めていた割のいい依頼だった。

 内容に関しては、『これ学生がやっていいの? 公安案件じゃない?』と問いたくなるようなものだが、こっちの社会じゃ珍しくもないのだろう。きっと。

 冬二もよく謎のヤバイ組織と戦ってるし。

 

 じゃあなぜ、こんな割のいい依頼がまだ残っているのか?

 それはおそらく、『ランクA』という記載が理由だ。

 依頼は誰もが自由に受けられるというわけではなく、異能ランクによる制限が存在する。

 

 例えば『ランクD』の任務なら、チーム内に一人は異能ランクが『D』以上の人間がいなければ、その依頼は受けられない。

 『ランクC』なら『C』ランク異能者が一人以上。『ランクB』なら『B』ランク異能者が一人以上といった形で。

 

 僕が今見つけた依頼は『ランクA』。つまり、任務を受けるためにはAランク異能者一人以上が必要である。

 しかしチーム内にAランク異能者が存在するチームなど、三年のチームを合わせても片手で数える程しか存在しない。

 それが割のいい依頼内容にもかかわらず、今まで残っていた理由なのだろう。

 そして残念ながら僕たちのチームも、この依頼を受けることはできない。

 

 僕はまたもや落胆しつつ、手に取った依頼書を再び掲示板へと貼り付ける。

 そんな僕の様子を、隣にいた烏丸が不思議そうな表情で眺めていた。

 

「リーダー、それ受けないの?」

 

「うん、条件的にね」

 

「あっ……、もしかして任務ランク? そ、それなら私、この前Aランクになったから大丈夫だよ」

 

「………………え?」

 

 僕は聞き間違いかと思い振り返ると、そこにはドヤ顔を浮かべた烏丸の姿が。

 

「が、合宿終わってからの異能測定で、Aランク認定されたんだ。えへへ……すごいでしょ」

 

「……ということは、序列入りもしたってこと?」

 

「うん!」

 

 まじか……。序列入りしたってことは、学園内における様々な特権が、烏丸に与えられているということになる。

 ダメだよ、こんな呪いっ子に権力与えちゃ……。力による序列は不合理だよ。

 

 まあでも、これで条件を満たしたのは確かなわけで……。となると、任務を受けるために必要なものはあと一つ(・・・・)

 それを手に入れるため、僕はある人物へと電話をかけた。

 するとその人物は、どこか上機嫌で電話に出る。

 

『はいは~い。こちら先バレが鳴りウハウハの登坂でございます』

 

「お疲れ様ですメンター、渡谷です」

『ワタガヤ? どっちの?』

 

 ……どっちの? もしかして冬二のこと知ってる?

 

「雪春です」

 

『ああ雪春くん、どうしたの?』

 

「その、昨日話してた任務の件なんですけど、さっそく受けようと思って」

 

『はいはいはい、それで許可求めに電話してきたわけね』

 

「はい」

 

 任務を受けるために必要な最後のピース――それはチームを指導する担当メンターの許可。

 メンターが依頼内容を確認し、チームの実力的に大丈夫だろうとオーケーを出すことで、初めて任務を受けることが可能となる。

 

『ちなみに『2連目ぇ!』の内容ってどんなの? まあ別にとやかく『激アツゥ!』だけど、ほら一応メンターとして『3連目ぇ!』だからさ』

 

「あの……、すみません。ちょっと後ろ?――がうるさくてよく聞こえなくて……」

 

 この人どこいるんだ。平日の昼間に。

 

『ああえっと、任務のランクは?』

 

「…………Bです」

 

『え? なんて?』

 

「Bです!」

 

『E? ならいいよいいよ。がんばってね。メンター印は部屋の机の中に入ってるから、勝手に押しといて。それじゃあ…………ってウソでしょ!? 金保留ハズレ――!』

 

 ブツリと、そこでメンターとの通話が終了する。

 最後に断末魔のような叫び声が聞こえたが、まあ気にすることでもないだろう。

 この前の宝塚でも、本命がゲート出なかったとか言って叫んでたし。

 

 それよりも気になったのは………………あの人、『E』って言わなかった?

 僕は確かにBと伝えたはず。もしかしてメンターが聞き間違えた?

 …………いや、きっと聞き間違えたのは僕だろう。メンターはBと言ったに違いない。うん、僕は難聴系主人公!

 

 

 なにはともあれこうして、メンターからの許可も得られ、僕たちミスフィットの初任務が決定したのだった。

 

 

 しかし、この時の僕はまだ知らなかった。

 ノルマを達成するためだけに受けたこの任務で――

 

 

 

 ――宿命と呼べる相手と、出会うことになるなんて。

 

 

 

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