魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
梅雨が終わり、季節はすっかり夏模様。
夏休みという、学生にとって至福の時も近づいてきたある日のこと。
「ぐっ……! 通らばリーチ!」
「それロンです。リーピンタンヤオイーペーコードラドラ、裏なしの12000」
「いやぁ飛んだぁ!」
僕は
「メンター、いくらなんでもそれは通らないっしょ」
「……無謀です」
「逆転手が入っててさぁ……。これでまた雪春くんがトップかあ。ちょっと麻雀強すぎない?」
「まあ、高校入る前は家族でよくやってましたから……。それに僕が強いと言うよりも、メンターと『みーちゃん』さんが弱すぎるというか……」
「アハハハハッ! 二人とも年下にボロクソ言われてんじゃん!」
「おっ、言ったね? 今度こそコテンパンにしてやる!」
「……もう一半荘」
そしてまた、全自動卓に牌を投げ入れ、僕らは次の半荘を開始する。
ちなみに僕とメンター以外のメンツは、三年生の先輩女子二人。
一人は見た目も言動も、これぞギャルといった感じの
そしてもう一人は、メンターと小鳥遊先輩から『みーちゃん』と呼ばれている女子生徒であり、顔全体を隠す仮面をつけている。なんでも極度の恥ずかしがり屋とのこと。
そして二人とも、
今回、打っている途中にメンツの一人が用事で抜けてしまい、穴埋め要員として僕が呼ばれたのが事の経緯だ。
てっきり呼び出された時は、ついに異能の個人指導が始まるのかと思い、ウキウキしながらメンター室に向かったものの、蓋を開けてみれば
まあ、先輩女子二人(+缶ビールを片手に持ったメンター)に囲まれ、これはこれで楽しくはあるのだが。
「そういえばさあ、雪春くんたちのチーム、まだ
牌が配られ、全員が黙々と理牌していたその時、ふとメンターが世間話のように話題を振る。
そのメンターの言葉に真っ先に反応したのは、起家である小鳥遊先輩だった。
「あれ? まだノルマこなしてないの? 時期的にけっこうヤバくない?」
彼女は不要牌を切りながら、心配するような口調で僕を見つめる。
「先月はバイトとかが忙しかったんで……。ただノルマの期限は夏休みに入るまでですし、まだなんとかなるかなって……」
「あー……
「え? なんでですか?」
「雪っち、その感じだと
「はい」
「それ、いつごろの話?」
えっと……、確か六月中旬くらいだった気が……。
「多分そのころだと、割のいい依頼がいっぱいあるのよ。けどこれが夏休み直前になると、他のチームも駆け込みで依頼を奪い合うから、最終的にめんどくさい依頼しか残らなくなるわけ」
「え?」
「そうそう。それでノルマ達成できなくて夏休み補習になったり、私も昔は苦しめられたよ」
小鳥遊先輩の説明を継ぐような形で、メンターが自身の実体験を語る。
補習か……。ただでさえ『異能歴史学』は補習濃厚なのだ。これ以上、僕の尊い夏休みを奪われるわけにはいかない。
なおこの会話の間、誰一人として牌を扱う手は止めず、滞りなく動かし続けている。
「わかりました。早めに受けるようにしておきます」
僕はここまでの会話で少しばかり危機感を覚えたものの、それほどノルマを心配してはいなかった。
というのも、今回はチーム結成から最初の任務期間ということで、通常よりもかなり低めにノルマが設定されてあるからだ。
だからきっと大丈夫。簡単な任務の一つや二つこなせば、すぐに達成できるだろう――――そう軽く考えていた僕だったが、次の瞬間、メンターが衝撃の言葉を口にする。
「うんうん、頑張ってね。ただでさえ君たちのチーム、蛇塚くんと烏丸さんの問題行動のせいで、既にかなりのマイナスポイント付いてるから。大分ポイント稼がないとヤバイよ~」
「…………………………え?」
予想だにしていなかった言葉に、僕は持っていた赤色の『五萬』を、手のひらからポロリと落としてしまう。
そしてそんな僕に対し、みーちゃんさんは容赦なく『ロン』の言葉を浴びせかけた。
――――――
次の日、昼休みになると同時に僕は教室を後にして、とある場所へと向かう。
それはいつもの屋上ではなく、『任務受注室』という部屋。名の通り、任務を受けるための部屋である。
その部屋を目指し廊下を歩いている途中、前方から立花先生が歩いてくるのが目に入った。
そのため僕は軽く会釈し、そのまま横を通り過ぎようとしたのだが、なぜか立花先生は僕の目の前で立ち止まる。
「……え?」
たまたまそこで立ち止まったのではなく、立花先生は間違いなく僕を凝視しており、その表情はどこか困惑しているように見えた。
「……あの、何か用事ですか?」
「…………雪春」
「はい」
「一応聞くが……今後、爆弾処理をする予定はあるか?」
あるわけないだろ。え? なに? なんで爆弾処理?
僕は発言の詳細を求めるも、先生は難しい表情を浮かべたまま、何かを考えるように黙り込んでしまう。えぇ……、なにぃ……?
「……」
「……」
「……雪春」
「はい……」
「その……私はだな。先祖代々巫女をやっている家の生まれだ」
「……そうなんですね」
「だから……まあ、私も占いとかそういうのができる」
「はぁ」
「そこでだ。君を占ってやろう」
「…………」
この人……普段から困ったら暴力で解決しがちなせいで、取り繕う会話が絶望的に下手だな。
「渡谷雪春………………君のラッキーカラーは赤だ」
せめてもうちょっと巫女っぽく占えよ。
「いいか? 赤だ。幸運の色は赤。覚えておくように」
そう一方的に告げると、立花先生はとっとと歩き去って行く。
そんな先生の背を見つめながら、僕はしばらくその場で立ち尽くしていた。
「あの人、巫女だったんだ……」
意外すぎる事実に、時間差で衝撃を受けながら。
とまあ意味のわからないやり取りはあったものの、僕は目的としていた部屋――『任務受注室』にたどり着く。
任務を受けるには、まずここで受ける任務を選択し、受付を済ます必要がある。
任務受注室は一つの階層全てを占めるほど広く、そんな部屋の中で僕がまず足を運んだのは、任務の詳細が記載された紙――いわゆる依頼書が貼り付けられている『任務掲示板』の前。
そこには大量の依頼書がアナログ式に貼り付けられており、僕以外にも依頼書を見ている生徒がチラホラと存在している。
なぜネットが普及している現代に、ラノベで出てくるようなギルド方式?――と思わないでもないが、僕はこういうの嫌いじゃない。
「さて、と……」
僕は貼り付けられている依頼書の内容を、じっくりと吟味し始める。
依頼内容は本当に幅広く、ガッツリ異能を使用しそうな依頼もあれば、『迷子の猫探し』といった異能が関係のなさそうな依頼まで様々。
一応確認してみたが、爆弾処理の依頼はなかった。
しかしながら小鳥遊先輩の言っていた通り、以前一度来た時に見つけた、楽で依頼達成時のポイントが高い任務は、全て『完了済み』の判が押されている。
やっぱりかと落胆しつつ、僕は少しでもポイント効率の良さそうな任務を探す。
「ダメだ。まだ残ってる依頼だと、最低でも六つほど受けないといけない」
夏休みまでの期間を考えれば、依頼をいくつも受けている時間はない。
今ある中で、少しでもポイント効率のいい任務を――
「依頼、たくさんあって迷っちゃうよね」
「…………」
「あっ、これなんてどうかな? 『魔法科学部の新薬治験』だって。け、けっこうポイント高いよ」
「…………なんでいるの? 烏丸さん」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは呪いの装備こと烏丸冬歌。
彼女はいつの間にか僕の隣に立ち、僕と同じように依頼書を吟味している。
「へへっ、その……そろそろ任務受けるころかなと思って、ここ数日リーダーのことをつけてたんだ。いつ依頼を見に行くのかな~って」
「ここ数日って…………もしかして授業中とか以外ずっと?」
「うん! ずっと!」
「へえ、そうだったんだ」
きっしょ。
怖いよぉ。気になってたなら声かければいいじゃんよぉ。
もう
この際、多少のざまぁとか復讐展開とかは我慢するんで……。
とりあえず烏丸はいないものとして、僕は依頼内容の確認に戻る。
それにしても、ほんといろんな任務があるな。なんなら『町のゴミ拾い』なんてものまで……。
というかこのゴミ拾い任務、朝から晩まで働いて一人につき一ポイントって、こんなのもうほぼボランティアじゃん。
「あっ、ファミレスのホールスタッフなんてのもあるよ。私、一度飲食店で働いてみたかったんだよね」
「それ、飲食店の皮かぶった別物だよ」
さて、どうしたものか……。
いまいち決め手がなく、もう『新薬治験』でもいいかなと思い出したその時、ある依頼が僕の目に留まる。
――――――
『反社組織のフロント企業 監視任務』
・実働時間 8時間
・付与ポイント 200(貢献度によりさらに加算)
・ランク A
・詳細は別途
――――――
それは時間的な拘束もそれほど長くなく、一発でノルマが達成できる、まさに僕が求めていた割のいい依頼だった。
内容に関しては、『これ学生がやっていいの? 公安案件じゃない?』と問いたくなるようなものだが、こっちの社会じゃ珍しくもないのだろう。きっと。
冬二もよく謎のヤバイ組織と戦ってるし。
じゃあなぜ、こんな割のいい依頼がまだ残っているのか?
それはおそらく、『ランクA』という記載が理由だ。
依頼は誰もが自由に受けられるというわけではなく、異能ランクによる制限が存在する。
例えば『ランクD』の任務なら、チーム内に一人は異能ランクが『D』以上の人間がいなければ、その依頼は受けられない。
『ランクC』なら『C』ランク異能者が一人以上。『ランクB』なら『B』ランク異能者が一人以上といった形で。
僕が今見つけた依頼は『ランクA』。つまり、任務を受けるためにはAランク異能者一人以上が必要である。
しかしチーム内にAランク異能者が存在するチームなど、三年のチームを合わせても片手で数える程しか存在しない。
それが割のいい依頼内容にもかかわらず、今まで残っていた理由なのだろう。
そして残念ながら僕たちのチームも、この依頼を受けることはできない。
僕はまたもや落胆しつつ、手に取った依頼書を再び掲示板へと貼り付ける。
そんな僕の様子を、隣にいた烏丸が不思議そうな表情で眺めていた。
「リーダー、それ受けないの?」
「うん、条件的にね」
「あっ……、もしかして任務ランク? そ、それなら私、この前Aランクになったから大丈夫だよ」
「………………え?」
僕は聞き間違いかと思い振り返ると、そこにはドヤ顔を浮かべた烏丸の姿が。
「が、合宿終わってからの異能測定で、Aランク認定されたんだ。えへへ……すごいでしょ」
「……ということは、序列入りもしたってこと?」
「うん!」
まじか……。序列入りしたってことは、学園内における様々な特権が、烏丸に与えられているということになる。
ダメだよ、こんな呪いっ子に権力与えちゃ……。力による序列は不合理だよ。
まあでも、これで条件を満たしたのは確かなわけで……。となると、任務を受けるために必要なものは
それを手に入れるため、僕はある人物へと電話をかけた。
するとその人物は、どこか上機嫌で電話に出る。
『はいは~い。こちら先バレが鳴りウハウハの登坂でございます』
「お疲れ様ですメンター、渡谷です」
『ワタガヤ? どっちの?』
……どっちの? もしかして冬二のこと知ってる?
「雪春です」
『ああ雪春くん、どうしたの?』
「その、昨日話してた任務の件なんですけど、さっそく受けようと思って」
『はいはいはい、それで許可求めに電話してきたわけね』
「はい」
任務を受けるために必要な最後のピース――それはチームを指導する担当メンターの許可。
メンターが依頼内容を確認し、チームの実力的に大丈夫だろうとオーケーを出すことで、初めて任務を受けることが可能となる。
『ちなみに『2連目ぇ!』の内容ってどんなの? まあ別にとやかく『激アツゥ!』だけど、ほら一応メンターとして『3連目ぇ!』だからさ』
「あの……、すみません。ちょっと後ろ?――がうるさくてよく聞こえなくて……」
この人どこいるんだ。平日の昼間に。
『ああえっと、任務のランクは?』
「…………Bです」
『え? なんて?』
「Bです!」
『E? ならいいよいいよ。がんばってね。メンター印は部屋の机の中に入ってるから、勝手に押しといて。それじゃあ…………ってウソでしょ!? 金保留ハズレ――!』
ブツリと、そこでメンターとの通話が終了する。
最後に断末魔のような叫び声が聞こえたが、まあ気にすることでもないだろう。
この前の宝塚でも、本命がゲート出なかったとか言って叫んでたし。
それよりも気になったのは………………あの人、『E』って言わなかった?
僕は確かにBと伝えたはず。もしかしてメンターが聞き間違えた?
…………いや、きっと聞き間違えたのは僕だろう。メンターはBと言ったに違いない。うん、僕は難聴系主人公!
なにはともあれこうして、メンターからの許可も得られ、僕たちミスフィットの初任務が決定したのだった。
しかし、この時の僕はまだ知らなかった。
ノルマを達成するためだけに受けたこの任務で――
――宿命と呼べる相手と、出会うことになるなんて。