魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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初任務② / 情報の奪い合い

 

 『反社組織のフロント企業 監視任務』――――その具体的な任務内容としては、反社組織のフロント企業が所有するビルを、道路を挟んだ向かいのビルから監視するというもの。

 そしてその監視の際、あからさまに怪しい動きがあったり、リストに載っている要注意人物の出入(ではい)りがあれば、実働部隊へと連絡を入れる。

 言ってしまえば、ただそれだけの任務。荒事になる可能性も低く、何かしら特別な技術や異能も必要としない。

 

 監視対象が反社組織であるため、万が一の可能性を考慮し、Aランク任務として依頼されているとのこと。

 まあ要するに、適宜休憩を取りながら、監視を続けるだけの簡単なお仕事というわけだ。

 サクッと無難に終わらせて、ノルマ達成といこう――そう簡単に考えていたのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

『探せ! まだこの辺りにいるはずだ!』

 

『クソガキ共め! 舐めた真似しやがって……! ただじゃおかねぇぞ!』

 

 現在、狭い路地裏に隠れた僕、光華、蛇塚の三人を、怖い顔したお兄さんたちが血眼になって探しております。

 

「おい……、どうすんだよこれから……」

 

「…………どうしよっか」

 

 蛇塚がこれからの行動を僕に問いかけるが、そんなもの僕が聞きたいくらいだ。

 こんなことになるなんて、想像もしていなかったのだから。

 

 えー……、なぜこうなったかといいますと、シンプルに烏丸のせいです。

 

 

 

 

 

 

 1時間前――

 

 予定通り、指定の監視場所へと到着した僕、光華、蛇塚の三人は、すぐさま反社組織の監視任務を開始する。

 

「光華さんは入り口付近を、蛇塚くんはメインオフィスのある三階をお願い。僕はとりあえず、引き継ぎ資料の確認をしておくから」

 

「了解。双眼鏡とリストは?」

 

「その箱の中だよ」

 

「しっかし、ほんとに反社組織なのか? どう見ても普通の会社だろ」

 

「繋がりがあるのは確からしいよ。表向きはIT企業で、裏ではいろいろやってるとか……」

 

「どいつもこいつも、真面目にパソコンカタカタしてるようにしか見えねえけどなあ」

 

「出入りしてる人も、これぞ社会人って感じのスーツ姿ばかりだね」

 

 蛇塚と光華の二人は、僕の指示した場所を監視しながら、各々思ったことを口にしていく。

 ちなみに監視スタイルは、バレないよう部屋の窓から覗き見るという、かなりアナログなスタイル。

 残念ながら異能等はまったく関与しないものの、これはこれでちょっとテンションが上がる。スパイ映画みたいで。

 

「それにしても、反社組織の監視に学生まで駆り出すなんて、治安部隊も随分と人手不足なんだね。リーダーはその辺、何か聞いてるかい?」

 

「あー……、なんかその反社組織に関して大きい情報が入ったらしくて、ここだけじゃなしに、いろんな所で人員を割いてるらしいよ」

 

 聞いた話によると、どうやらこの反社組織はかなり規模が大きいらしく、僕らが監視しているフロント企業以外にも、多くの拠点を持っているとのこと。

 そのため全ての関連施設を監視するのは難しいということで、僕ら学生が動員されたというわけだ。

 要するに、光華の告げた『人手不足』という言葉は正しいと言える。

 

「じゃあ、ここでもなんか起こる可能性が高いってことか?」

 

「ああいや、ここはそんなことないみたいだよ。任務説明の時、危険性の低い所を割り当てたって言ってたし」

 

 まあ僕としては、何かしら起こりそうな場所の監視でもよかったんだけど。

 なんならちょっと交渉してみたのだが、ガチめのトーンで『ダメです』と怒られてしまった。

 

 

 とまあそんなふうに、たまに言葉を交わしながら、僕らは監視任務を続けていく。

 ちなみに、この場に烏丸がいないのは、残念ながらチームから追放したとかそういうわけではなく、ただ家の用事で遅刻しているだけ。

 烏丸からは事前に連絡を受けており、用事が終わり次第、直接この監視部屋で合流予定である。

 

 連絡通りなら、そろそろ着く頃だろう――そう考え、壁の時計で時刻を眺めていたその時、ビルの入り口付近を監視していた光華が、どこか困惑気味に言葉を漏らす。

 

「…………あれ?」

 

「……? どうかしたの、光華さん」

 

「……いや、その、なんというか……」

 

「んだよ、ハッキリしねえなあ。なんか動きがあったのか?」

 

「あったといえばあったんだけど………」

 

 光華は視線を窓の外に向けたまま、どこか煮え切らない態度を取り続ける。

 どうやら、自身の見たモノをまだ咀嚼できていない様子。

 そんなに衝撃的な何かを見たのだろうか?

 

「もしかして、リストの人物が出入りしたとか?」

 

「いや、リストに載っていた顔じゃないんだ。ただ……ボクたちにとって、もっと見慣れた顔というか…………」

 

「「…………」」

 

 正直、この時点でかなり嫌な予感はしていた。そしてそれは、隣で急に黙った蛇塚も一緒だろう。

 

「その………………烏丸さんらしき人物が、向かいのビルに入っていくのが見えて……」

 

「「…………」」

 

 光華の言葉を聞き、僕と蛇塚は両手で顔を覆う。

 短い付き合いながらも、烏丸という人物が一体どういった存在なのか。それをチーム合宿で嫌というほど理解させられた僕らは、すぐさま確信する。

 

 

 あいつ……! 監視する(・・)側とされる(・・・)側のビルを間違えやがった……!――――と。

 

 

 任務説明の際、その二つのビルの写真を並べて説明されたため、きっと間違えて覚えてしまったのだろう。

 

「あの呪い女……、やらかしにも限度があるだろ…………!」

 

「えっと……、どうするリーダー?」

 

 光華が困惑気味の表情を浮かべたまま、僕に判断を仰ぐ。

 もちろんベストは、監視対象の反社組織にバレるよりも早く、烏丸をこちらへ連れ戻すことだが、今からそれをするのはおそらく不可能。

 ならば、やるべきことは決まっている。

 

「……とりあえず、ここから逃げよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――といったことがあり、ビルの監視部屋から脱出した僕らは現在、暗くて狭い路地裏に身を隠しているというわけです。

 

『兄貴! 向かいのビルの部屋はもぬけの殻でした! ただ残された双眼鏡や資料から、俺らを監視していたのは間違いありません!』

 

『そうか、ならあのガキが吐いた情報は間違いないみたいだな。お前ら探せ! 残りのガキはまだ近くにいるぞ! 俺たち相手に舐めた真似したこと後悔させてやる!』

 

 僕らが隠れている路地裏の傍で、兄貴と呼ばれた男が大勢の人間に指示を出す。

 残りのガキとは、まず間違いなく僕らのことだろう。

 部屋から逃げ出す――そう即決した僕の英断を誰か褒めてほしい。

 

「呪い女のやつ……、当然のようにオレらのことまでゲロりやがって…………!」

 

「まあ……、こうなるだろうとは思ってたけどね」

 

 光華の言葉通り、捕まった烏丸が僕らを売るのは想定内。僕が烏丸の立場でも、おそらく自分可愛さにチームメイトを売っていたので、そこはとやかく言うまい。

 ただ問題なのは、烏丸が今も反社組織に囚われたままということだ。

 さっき実働部隊には救援要請を送ったが、ここでいざこざが起こる想定はしていなかったため、到着まで時間がかかるとのこと。

 

「まずいね……。このままだと、烏丸さんがどんな目に遭わされるか……」

 

「俺らを探してるヤツら、間違いなくヤバいことに関わってる側の人間だぞ……」

 

「なんとかして早く助け出さないと、烏丸さんの身に危険が……」

 

「「「………………」」」

 

 この時、僕ら三人の脳内に、まったく同じ考えが浮かぶ。

 それは偶然ではなく、チーム合宿を共に乗り越えた絆から生まれる、必然的な思考の一致。そう、僕らは考えてしまったのだ――

 

 

 ――あれ? これもしかして、烏丸をチームから合法的にパージする絶好のチャンスなのでは? と。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………は、早く助けないと!」

 

「お、おう! そうだな!」

 

「そ、そうだとも! 彼女は大切なチームメイトなんだから!」

 

しかし僕らはなんとか自身の内に潜む悪魔を振り払い、烏丸を助け出すという方向で意見を一致させる。

 

「けど助けるったってどうするよ。むしろ俺ら今追われてる側だぞ」

 

「さすがに、無策で敵の懐に突っ込むわけにもいかないしね」

 

「うん、だから――――っと、二人とも静かに」

 

これからどう動くか――それを説明しようとしたところで、人が近づいてくるのを察知し、僕は息を潜めるよう指示を出す。

 

 

『おい、いたか?』

 

『いや、こっちはダメだ。もっと路地裏とかも探した方がいいかもな』

 

『そういやさ、その追ってるガキの特徴って、どんなだったっけ?』

 

『あ? 忘れたのか?』

 

『悪い』

 

『ったく、いいかよく聞けよ? 捕らえたガキが言うには、「三色の髪色をした時代遅れのヤンキーみたいな単細胞プッツン男」と、「自分のことをカッコイイと思い込んでいる自意識過剰のイタイ男装女」と、「性格が悪いことだけが取り柄の、パーカーとヘッドホンを身に付けてナヨッとした見た目のクソダサ男」の三人だ』

 

『そうだったそうだった。しかしあの捕らえたガキ、ちょっとくらい抵抗するかと思えば、一切躊躇いなく仲間の情報吐きやがったな』

 

『確かにな……っと、こんな話してる場合じゃねえ。俺はあっちを探すから、お前はそっちの方を頼む』

 

『了解』

 

 

 その言葉を最後に、二人の男はその場から去っていく。

 とりあえず一安心――そう考え、ふと蛇塚と光華に視線を向けると、二人は無表情でキレていた。

 まあおそらく僕も、同じ表情をしているのだろう。

 

「……なあリーダー、あいつ助けるのやめようぜ」

 

「ボクもそれがいい気がしてきたよ。これからは三人でがんばっていこう」

 

 ……その、まあ……うん。気持ちは死ぬほどわかるよ。

 たださすがに、これで大怪我されたり、死なれたりすると寝覚めが悪い………………いや、どうだろ。割となんとも思わない気がしてきた。

 

 …………いやいや、見捨てるのはやっぱりなしだ。

 烏丸はあんなのでも異能ランクA。彼女がいるだけで、受けられる任務の幅が広がる。

 それに……、敵に囚われた仲間を助けに行くなんて、それこそ僕の夢描いた王道展開じゃないか。

 そうだ。意図せぬ形とはいえ、今の状況はいつも僕が望んでいるイベントそのもの!

 

 僕はなんとか必死に理由を絞り出し、烏丸(疫病神)を助けに行く正当性を作り出す。

 

「二人の言い分は理解できるよ。理解できるけど、チーム合宿でも……烏丸さんの力があったからこそ、乗り越えられた課題もあったわけだし」

 

「トータルで言えばぶっちぎりマイナスだろ」

 

 そうなんだけど……!!!

 

「助ける努力だけはしてみない? その、後でなんか奢るからさ……」

 

「…………ちっ、わあったよ。こっちがヤバくなったら逃げるからな」

 

「まあリーダーがそこまで言うなら……。奢りの件、忘れないようにね」

 

 あからさまに不承不承ながらも、二人は烏丸救出を了承する。

 

「んで、話戻すけどよお。結局どうすんだ?」

 

「とりあえず、烏丸さんがビルの何階のどの部屋にいるのか――それを聞き出そうと思う」

 

「聞き出すって、誰に?」

 

「それはもちろん――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……!? 何すんだお前ら!?」

 

 烏丸が捕らえられている場所を聞き出す相手――それはもちろん、僕らを追っている反社組織のメンバーだ。

 

 手順は至極簡単。まず隠れて機をうかがい、一人になった人物に狙いを定め、奇襲をかまします。

 ここでワンポイント、奇襲の際は反撃されたり、仲間を呼ばれることがないよう、手加減せずフルボッコにしましょう。もしターゲットが気絶してしまっても、また別の人物を奇襲すればいいだけです。

 そうして、痛みに(もだ)えるターゲットを路地裏へと引きずり込み、蛇塚の召喚した蛇で体を拘束すれば、あっという間に尋問準備の完成です。

 良い子とか関係なく、一般社会じゃマネしちゃダメだよ!

 

「ふざけんなガキ共! この蛇とっとと()きやがれ!」

 

 さて、今僕たちの目の前には、身動きが取れず(わめ)く、反社組織の構成員A。

 そんな構成員Aの目の前で、僕はエアコンの室外機に腰を下ろし、烏丸の居場所を聞き出すため口を開く。

 

「これは詳細を省くが、結論だけ言うとお前は死ぬ」

 

「んだと!?」

 

「そうなりたくなければ、今すぐあなたたちが捕らえた少女の居場所を教えてください」

 

「はっ! 乳くせえガキ共が拷問の真似事か!? 俺のこと拘束して優位に立ってるつもりかもしれねえがな、こっちはお前らの異能も全部把握してんだよ! この蛇はそこの髪色信号機! お前の異能だろ!」

 

「あぁ!?」

 

 烏丸(おしゃべり)がよぉ……。

 

「んで、そこのセックスシンボルとかいうやつの異能は『発光』で、ぼっち野郎の異能がどうっ――!?」

 

「ほら、少し黙りなよ。今はリーダーが話をしてるだろ?」

 

 拘束されても怯むことなく、強気の態度を見せる構成員A。そんな構成員Aの口を塞ぐようにして、光華が力強く掴み込む。

 

「素直に話してくれませんか? できたら手荒な真似はしたくありません」

 

「ぐっ……!」

 

「光華さん、離してあげて」

 

「ぶはっ! 調子乗んなよクソガキ! てめえら素人の拷問なんかで、『セーラス』の一員である俺の口を割れるわけが――!」

 

 

 

 

 

 五分後――

 

 

 

 

 

「と、捕らえたガキは五階だ。灰川さ……幹部の部屋にいる。だ、だから……もう藁人形はやめて…………」

 

 烏丸から借りた(無断)藁人形を使用することで、僕らは難なく居場所を聞き出すことに成功する。

 やっぱり、こういうのは経験が物を言うよね。

 

「さて、これで烏丸さんの居場所はわかったけど……。ビルの周りにはまだ構成員が大量にいる。さすがにあれを素通りはできないよ。ボクらの顔も割れてるし」

 

「大丈夫だよ光華さん。そこに関しては助っ人を呼んでるから」

 

「助っ人?」

 

 僕の言葉に、光華と蛇塚が不思議そうな表情を浮かべたその時、突如として表通りの方から怒号が鳴り響く。

 

『な、なんだこいつら!?』

 

『お前ら! 俺たちが誰だかわかってんのか!?』

 

 そんな表通りの方に僕らが目を向けると、そこでは突如として現れた不良集団が、ビルの周りにいる構成員たちに襲いかかるという光景が広がっていた。

 

『あぁ!? 知るかよバーカ! 俺ら「血魔尽麗(ちまつり)」は相手選んで態度変えねえんだよ!』

 

『悪ぃな。数人だけでよかったのに、わざわざチームを総動員させちまって』

 

『水臭いこと言わないでくださいよ! 元総長のためなら、どこだろうとみんな喜んでブッコミますから!』

 

 不良集団の襲撃により、ビルの目の前はあっという間に乱闘騒ぎに。

 篠田さんに借り(シフト穴埋め)を作っておいて本当によかった。

 

「……よし。みんな、今のうちにビルに忍び込むよ」

 

「「えぇ……」」

 

 こうして、僕らは無事ビルへの侵入を成功させる。後は五階にいる烏丸の下まで駆け上がるだけ。

 待っててね烏丸、もし無事に助けだせたら――――

 

 

 

 ――絶対にぶん殴ってやる!

 

 

 

 

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