魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
無事ビルへの侵入を成功させた僕らだが、当然ビル内がもぬけの殻なんてあるはずもなく……。
「ダメだな。やっぱ上にあがる階段はガチガチに固められてるぜ」
物陰に隠れながら、僕ら三人は上階へと繋がる階段付近を覗き見る。
そこには、黒スーツを着たムッキムキの怖いお兄さんたちが、『なんびとたりともここは通さぬ!』と言わんばかりの圧を放ち、仁王立ちしていた。
なんだよ、あのスーツの上からでもわかるパッツンパッツンの胸筋……。大統領とかの傍にいる人たちじゃん。
しかもここを突破できたとしても、先ほど聞きだした情報によると、階段は階ごとに位置が異なっていて、簡単に上まで行けないような仕組みになっているらしい。
どう考えても一般企業がしていい建物の造りじゃない。
「セキュリティも厳しそうだね。エレベーターも身分証がないと動かない仕様みたいだよ」
「あっ、身分証なら持ってるよ」
そう言って、僕は先ほど情報を聞き出した男から拝借した身分証カードを、光華と蛇塚に見せるようにして取り出した。
「「…………」」
おいなんだ、その『ほんまこいつ……』とでも言いたげな目は。
「まあでも、これで余計な戦闘は避けられるか……」
蛇塚は目の前のマッチョ男たちと交戦せずに済むとわかり、どこか安心したような様子を見せる。
「ほら、さっさと行こうぜ」
「「…………」」
「なんだよお前ら、急に黙りやがって」
「……僕は階段から行くよ」
「ボクも階段から行こうかな」
「あっ? なんでだよ。一気にエレベーターで五階まで行きゃあいいじゃねえか」
いやぁ……、だって、ねえ?
「まあその、二手に分かれた方がいいかな~って」
「うん、リーダーの言うとおりだ。万が一ってこともある。リスクは分散すべきだよ」
「…………」
僕と光華の提案に納得できないのか、蛇塚は怪訝な表情を浮かべて黙り込む。
「ほら、二手に分かれれば、敵を撹乱することもできるし。僕と光華さんで敵を下の階に引き付けておくから、その間に蛇塚くんは一気に五階まで上がってきてよ」
「……囮になるつもりか?」
「そうなるかな。はいこれ、身分証カード」
「お前ら……」
蛇塚はやはりどこか納得いかない様子。しかし先ほどのように意味が分からず納得できないのではなく、意味が分かったうえで受け入れ難いといった様子だった。
「なら……オレがここに残って――」
「ボクからも頼むよ」
自分が下に残る――そう主張しようとする蛇塚に対し、今度は光華が真剣な表情で告げた。
「君の能力は応用が利く。なら、君こそが上に行くべきだ。なに、そう心配せずともボクらは大丈夫さ。ボクの異能が囮向きだってことは、君も十分知ってるだろう?」
「光華……」
「改めてお願い……蛇塚くん。烏丸さんを、救ってきてほしい」
「…………っち、わあったよ」
そう言ってどこか照れくさそうに、蛇塚は僕の持っていた身分証カードを乱暴に奪い取る。
そうしてエレベーターへと入り、僕らに対して背中越しのまま告げた。
「リーダー、光華。まあその……なんだ。できるだけすぐ
その言葉と共に、エレベーターの扉が閉まり、上の階へと上昇していく。
烏丸を救うため、一人で五階へと向かった蛇塚。彼をフォローすべく、僕と光華も動き出す――
――ことはなく、しばらくその場で留まり続ける。僕らが視線を向けるのは、蛇塚が乗ったエレベーターの階数表示。
現在の階数を示すランプが、1から2へ、そして2から3へと、順調に進んでいく。
しかし、そこから先へは全く動かず、エレベーターは3階から完全に動かなくなってしまう。そしてそれと同時に、階段付近にいた屈強な黒服たちが、どこか慌てたような様子で、数人ほど階段を駆け上がっていくのが確認できた。
それを見た僕と光華は確信する。
「あー……、やっぱり止められたかあ。ワンチャン行けるかなと思ったけど」
「やっぱりそこまで甘くなかったね。まあでも、彼ならそう簡単にやられたりしないだろう」
きっと今ごろ、敵に囲まれ孤軍奮闘しているであろう蛇塚に、僕と光華は心の中でエールを送った。
「さて、蛇塚くんが半分ほど敵を引き付けてくれたわけだし、ボクらも階段を突破しようか。とりあえずボクが残りの敵を引き受けるから、リーダーは先に進んでくれ」
「……蛇塚くんじゃないんだし、さすがにその手には引っかからないよ。しかも連続で」
「別にそういうつもりじゃなくて、本気で言ってるんだよ」
光華のその発言は、自ら進んで囮になると宣言しているようなもの。
彼女を慕うクラスメイトたちの前でならともかく、僕やチームメイトの前で今さら王子様キャラを被る理由などあるはずがないため、何か企んでるのではないかと少し疑ってしまう。
「実際問題、チーム合宿の時から戦闘はボクと蛇塚くんの役割だったじゃないか」
「まあ、そうだけど……」
「それにほら、リーダーの接着剤みたいな異能で、あの屈強な男たちを倒せるとは思わないし」
自分だって懐中電灯みたいな異能のくせに。
「そうだね……。あえて他にも理由をつけるとしたら、実はチーム合宿の時から…………なぜかすこぶる異能の調子が良くてね。だから……遠慮なく力を解放できるこんな機会を、少し望んでいたんだよ」
そう告げると、光華は物陰から出て、階段付近にいる黒服たちの前に堂々とその姿を現す。
当然、黒服たちの視線は突如現れた光華へと向けられる。
「誰だ貴様!?」
「そこで止まれ!」
しかし、それこそが光華の狙い。僕は光華の意図を察知し、目を背けるようにして光華から視線を外した。
「さあ皆様、ボクの絶えることなく溢れだす
光華が両手を目一杯広げ、高らかに叫んだその瞬間、光華の体が
それは比喩などではなく、文字通り『発光』し、さらには部屋全体を強烈な明かりで包み込んだ。
「ぐわあああああ!」
「目がァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!」
その発光は閃光弾のように一瞬だったものの、直視した黒服たちはム〇カ大佐のごとく苦しみだす。
目を両手で覆い、叫び、その足取りはフラフラとおぼつかない。
そしてその惨状を生み出した光華が、隠れている僕に『今のうちだよ』といったジェスチャーを送ってきたので、ありがたく行かせてもらうことにした。
僕は視覚情報を奪われた黒服たちの間を通り抜け、階段を駆け上がっていく。
駆け上がりながら、ふと下の様子を確認すると、そこでは光華が黒服たちに囲まれながらも、笑みを浮かべながら大立ち回りを演じていた。
比較的華奢な光華が、ムッキムキの黒服を相手に殴る蹴る等のフィジカルで圧倒する――そんな光景を見て、僕は改めて実感する。
魔法や異能が存在する世界観だと、筋肉って飾りになりがちだよなあと。
あの肉体を手に入れるため、一体どれほどの鍛錬を積んだのだろうか――――僕は黒服たちを少し不憫に思いながら、二階へと向かった。
上と下で騒ぎが起こっているためか、二階には全く人がおらず、僕は一気に三階まで駆け上がる。
すると三階では、これまたムッキムキな複数の黒服たちを相手に、蛇塚が大量の蛇を召喚しながら奮闘していた。
蛇塚が敵を引き付けてくれていたため、僕は難なく三階も突破し、四階へと向かう。
ちなみにこっそりと移動している最中、蛇塚と一瞬目が合ったので、『このままよろしく!』といった意味を込めてサムズアップをしておいた。
そのあと、ブチ切れるような蛇塚の叫び声が背後から聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
そもそもこの任務を引き受けた経緯として、責任の一端は蛇塚にもあるっちゃあるので、ここはがんばってもろて。
こうして、僕はそれほど苦もなく四階まで到着する。
自己犠牲あふれる素敵なチームメイトの協力もあり、ここまでは順調だったのだが、四階の廊下を進んでいたその時、問題が発生した。
『おい急げ! 暴れてるのはガキ二人だが、かなりの手練だ!』
「っ! ヤバっ……!」
廊下の先から複数の足音と声が聞こえてきたため、僕はとっさに近くの部屋へと入り、身を隠す。
『灰川さんはなんて言ってた?』
『「もしこれ以上手こずるなら俺が出る」――だってよ』
『おいまずいだろそれ。灰川さんはミラルクさんの召喚した強力な神獣を、拳一つで倒しちまうような化け物だぞ』
『ああ……、幹部の中でも1、2を争う武闘派……あの人が本気で暴れりゃあ、敵どころかこの建物ごとぶっ壊れちまう』
『そうなる前に俺たちだけでケリつけるぞ!』
『おお!』
「…………行ったかな?」
決意を固めるような言葉を最後に、廊下の足音と声はだんだん遠くなり、やがて聞こえなくなる。
とりあえず見つかる危機は去ったらしい。しかもその上、敵の情報まで手に入れることができた。
どうやらその灰川さんとかいう幹部がヤバいらしい。その人物とは接触を回避した方がよさそうだ。
さて、改めて先に進もう――そう考え、動き出そうとしたその時、ふと僕は偶然入っただけのその部屋の中を見回す。
部屋には大小様々な大きさの箱が大量に置かれており、まるで倉庫のような様相を呈している。
しかし、部屋の中央あたりに置かれていた
箱の中から取り出され、無造作に床へと置かれた
僕はそれが置かれている場所へと近づき、そのあまりにも特徴的なフォルムを見て確信する。
「………………これ、拳銃じゃん」
それも一丁や二丁ではない。同じような箱をいくつか開けてみると、その中には例外なく拳銃が収められていた。
「ひょっとして……、この部屋の箱全部…………いや、もしかしたら拳銃以外にも……」
一体なんのためにこれだけの量の武器を――そんな疑問が湧くと同時に、僕はその答えを見つける。
一つだけ開けられていた箱の近くに、無造作に置かれた紙の束。
状況から考えて、おそらく作業者が作業途中で部屋から出ていったのだろう。
僕はその紙束を拾うと、そこには『取引先名簿』の文字が書かれていた。
「武器売買じゃん……!」
日本においてそれは、論じるまでもなく違法行為。
ただ
僕は拳銃や部屋の様子を写真に収め、犯罪行為の証拠とすべく保存する。
烏丸がやらかしたおかげで、もう任務は失敗確定とばかり思っていたが、この写真と『取引先名簿』を犯罪の証拠として提出すれば、ワンチャン大逆転があるかもしれない。
特にこの『取引先名簿』――これがあれば、芋づる式に武器を購入した人物やグループを摘発でき…………………………あれ、名簿に記載されたこの名前、ウチのバイト先じゃ………………。
「……い、今は烏丸さんの救出を優先しないと!」
僕は名簿を懐へとしまい、そのまま急いで部屋を後にする。
「新しいバイト先、探すか……」
そんな決意と共に、僕はいよいよ烏丸のいる五階へと向かった。
仲間の尊い犠牲、所属する組織の先輩による援護、さらには組織の闇を知るといった様々なことがありながら、僕はついに烏丸が捕らえられている部屋の前までたどり着く。
部屋の扉は華美な装飾で飾り付けられており、ここが幹部の部屋であることを雄弁に語っていた。
とりあえず、扉に聞き耳を立ててみるが、中から人が動いている気配は感じられない。
そのため、僕は幹部がいませんようにと祈りながら、恐る恐る扉を開く。
すると部屋の中では、縄で縛られた烏丸が気絶した状態で倒れており、その隣には三十代ほどのガタイのいい男性が、不自然に全身が黒く変色し、これまた気絶した状態で倒れていた。
「…………どういう状況?」
まあ烏丸が気絶してるのはいつも通りなんだけど。
「烏丸さん、起きて。烏丸さん」
僕は烏丸へと近づき、その身体を揺さぶる。
しかし烏丸は苦しそうに唸るばかりで、起きる気配を見せない。
さて、どうしたものか……。助け出したら殴ってやるとは決意したものの、いざ本当に女子の顔をビンタするとなると、起こすためとはいえさすがに気が引ける。何かぶっかけられる水でもあればいいのだが……。
そう考え、部屋の中を見回すと、来客用らしき机の上にティーカップが置かれていることに気づく。
ティーカップは三つあり、中にはいい匂いのする紅茶が入れられていた。紅茶はまだ少し温かく、かといって火傷するような熱さではない。
そのため、僕はその紅茶を手に取り――烏丸へとぶっかけた。目覚めよ烏丸!
「…………っ!? あ゛ぁ゛っ゛つ゛い゛!!!」
おっ、起きた起きた。さて――
「……え? あ、あれ? ワタシ、確か捕まって……」
「大丈夫だった!? 烏丸さん! 本当に無事でよかった……!」
僕は持っていたティーカップを投げ捨て、さも心配していましたよという表情を作る。
「リ、リーダー? …………え、もしかして助けに来てくれたの……?」
「当然だよ。むしろ来るのが遅れてごめん。そのせいで……、烏丸さんを長時間怖い目に遭わせてしまって……」
「あ……、その…………」
「もちろん、蛇塚くんと光華さんも一緒だよ。みんな烏丸さんを助けるために、下で戦ってくれてる」
「…………あ、う」
「なぜか僕らの情報が筒抜けだったせいで、ここまで来るのにすごく苦労したけど……」
「…………」
「烏丸さん……?」
「…………ご、ごめんなさい!」
烏丸はぎゅっと目を
「その……! ワタシが喋っちゃったの!」
「え?」
「ワ、ワタシが捕まって、話しちゃったの。喋らないと殺すって言われて……、抵抗したんだけど、怖くて……。監視場所とか、みんなのこととか、全部…………」
「烏丸さん…………」
しれっと抵抗したとか嘘つくあたり、まだちょっと余裕あるなこいつ。
「……じゃあ、情報を全部話したってことは、烏丸さんは酷いことをされてないんだね?」
「う、うん……」
「そっか……、よかった……! 烏丸さんが無事で」
「……え?」
きっと、口汚く責められたり、最悪手を出されることまで想像していたのだろう。
しかし予想外の僕の反応に、彼女は信じられないといった驚愕の表情を浮かべる。
「な、んで……」
「なんでって、そんなの当然だよ」
僕は膝をつくことで烏丸と視線を合わせ、優しく語りかけるように告げた。
「僕たち、同じチームの仲間じゃないか」
「ナカ……マ? ワ、ワタシ……ソンナコトバ、シラナイ……」
「確かに、初めは余り者たちが集まった、バラバラのチームだったかもしれない。でも、チーム合宿を乗り越えて、僕らは間違いなく一つのチームになれた。少なくとも、僕はそう思ってる。いや……、僕だけじゃない。蛇塚くんも、光華さんも、きっとそう思ってる。こうして命の危険を冒してまで、烏丸さんのことを助けに来たんだから……」
「……ア、アア」
「誰かのミスは、みんなでカバーする。誰かの功績は、みんなで喜び合う。全員で協力して、全員でたどり着く。それがチームで、仲間なんだよ。僕は、チームの誰一人だって欠けてほしくない。だから……烏丸さんがピンチになったら、僕は何度だって助けるよ」
「コレガ……、ナカマ……!」
「もし今回のことで引け目を感じてるなら、チームの誰かが困った時に、今度は烏丸さんが助けてあげてほしいな。もちろん、僕のピンチにもね」
「り、り~だぁ~!」
烏丸の目に溜まっていた涙は、ついにとめどなく溢れ出す。
「あ、ありがどう。ワダジなんがを、ながまだっでみどめでぐれで。ワダジ……ごれまでぞんなごどばがげられだごどなぐで……。ワダジ、がんばるがら! みんだのやぐにだでるよう、がんばるがら!」
「うん、よろしくね。烏丸さん……いや、冬歌さん」
「っ!? ……うん!」
烏丸冬歌――教室で初めてその姿を見た時から、彼女はひとりぼっちだった。全員から距離を置かれ、まるで見えていないような扱いを受けていた。
もしかしたら、彼女の持つ力を利用したいと考え、近づいた人物も存在するのかもしれない。しかし例外なく痛い目を見るか、これは無理だと諦め、離れていったことだろう。
きっと彼女自身も心のどこかで諦めていたはずだ。心の底から信頼できる友人、仲間などできやしないと。
だからこそ、僕は告げた。僕は既に君の仲間なのだと、たとえ迷惑をかけられることがあっても、その関係は揺らがないのだと。
それを聞いた彼女の涙は、まだ止まらない。それでも、その表情には晴れやかな笑みが浮かんでいた。
ちなみに、僕が烏丸にかけた甘い言葉の数々は、冬二大先生が過去にヒロインたちを口説いていた時のほぼパクリです。
僕は冬二の華麗な口説きテクニック(本人無自覚)を参考にしつつ、烏丸にほほ笑みかける。
頼むから、これで少しはコントロールしやすくなってくれ――そんな思いを込めて。
――――――
おまけ
・男装女子。クラスでは王子様キャラとして振る舞っている。
・兄弟は大学生の兄が一人。
・異能『発光』――自身の体を光らせるといったシンプルな異能だが、本人は気に入っている。自身が触れた物も光らせることができる。レーザーを出したり、光の速さで蹴ったりはできない。
・自身の体が輝くのは異能によるものではなく、人間性が輝いているからだと本人は口にしているが、本人が言っているだけ。
・固有の異能は攻撃性が低いものの、基本的な能力が全て高いため、チーム内では戦闘役。
・合宿後の異能測定で、ランクがDからCに上がった。
・実はかなりの方向音痴。スマホがあっても迷う。
・優等生として振る舞ってはいるが、化けの皮をはぐと案外カスな部分が多い。