魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「ほら、泣き止んで。顔がぐしょぐしょだよ。縄とくから、じっとしててね」
僕は持っていたハンカチで烏丸の顔を拭い、体を縛っている縄を解き始める。
「あ、ありがどう……。その、ワタシ……今までリーダーのこと、ただ性格が悪いだけの人だって勘違いしてたの。こんなに優しい人だって知らなくて…………ごめんなさい」
「いいよ、気にしなくて。これから知っていけばいいんだから」
あと僕の『パーカー&ヘッドホン』スタイルをクソダサいと思ってることも知ってるからな。
「よし、とけた。そういえば、縄で縛られてる時に何か気づいたこととかない?」
「え? あ、その……体がギュッて締め付けられる感じが……、意外と悪くなかったかも…………」
「ごめん
困るよ。急に性癖の開示とかされても。
「あっ、そっち!? も、もう……! 紛らわしい言い方するから勘違いしちゃったじゃん! へへ……」
まるで僕が悪いみたいに……。
「灰川さんって人に心当たりとかあったりしない? なんかその人がヤバいらしいんだけど……」
「あっ、それなら知ってる!」
「ほんと?」
「うん、この倒れてる人が『灰川』って呼ばれてたよ」
そう言って烏丸は、不自然に肌が変色し、隣で倒れている男を指さす。
この人が灰川さんかよ……。やられ方がモブのそれじゃん。
「え、これもしかして、から……冬歌さんがやったの?」
「あっ、その……覚えてないけど、全身が呪いに侵食されてるから、多分無意識で呪いが発動したんだと思う」
無意識で幹部倒せるんだ……。ほんと、異能に関しては文句のつけようがないな。
さすがAランクと言うべきか。
あれ……? じゃあもしかして、この灰川さんとやらを治安部隊に突き出せば、僕たち大手柄なのでは? ……きたかもしれないぞコレ。
武器取引の証拠に、組織の幹部クラス捕縛。これなら失態を挽回するどころか、大幅なポイントの加算が見込めるかもしれない。
よし! そうと決まればさっそく――
「小娘の処理にいつまでかかっているのかと思えば、まさかやられているとは……。幹部の名折れだな」
その地を這うような低い声は、僕のものでもなければ、烏丸のものでもない。
部屋の入口とは反対方向。窓の方から聞こえてきたその声に、僕と烏丸が振り向くと、そこにはメガネをかけた細身の若い成人男性が、窓枠に腰をかけた状態で僕たちを見下ろしていた。
いつからそこにいたのかはわからないが、先程の発言を考慮すれば敵である可能性が高い。
「冬歌さん……。あの人が誰か知ってる?」
「えっと…………あっ! さっきそこの倒れてる人と一緒にいた人だ……!」
「さっきって、気絶する前?」
「うん! 倒れてる人とメガネの人と、あと白い髪の女の人が三人でさっきまで話してたよ!」
となるとやはり、この人も間違いなく反社組織の一員だろう。
こうしてわざわざ姿を現したということは、僕らを排除するつもりに違いない。
「……どちら様でしょうか?」
敵であることはほぼ確定だが、僕は少しでも情報を得るため、メガネ男との会話を試みる。
すると男は、中指で眼鏡のズレを直す――いわゆる『メガネクイッ』をしながら、ゆっくりとその口を開いた。
「なに、名乗る程の者じゃないさ」
「もったいぶる程の者ではあるんですね」
「勘違いしてもらっては困るな。君たち程度の存在に名乗るほど、僕の名前は安くないという意味だよ」
ほっほう……、煽ってくるじゃないかこの野郎。
それっぽい登場の仕方に、それっぽい見た目。さらにはそれっぽい言動と、敵としてのキャラ付けは今のところは満点だ。
意地でも名前が知りたくなってきた。
「……冬歌さん」
「あ、えっと…………確か『タマキン』って呼ばれてた気がする!」
「
名乗った。
「偉大なるセーラスの幹部である僕に対しその不敬、万死に値するぞ」
タマキン……じゃなかった。珠切を名乗る男は、鋭い目で僕らを睨みつける。
さすが幹部といったところか。その圧は思わず身震いしてしまうほど。
「おっと、そう構えないでくれ。少し感情的になってしまったが、僕はそこで倒れている男とは違って荒事は得意じゃなくてね。君たちと戦う気はないとも」
へっ、よく言う。トランプで戦いそうな顔しやがって。
「だからまあ、ちょっとしたゲームといこうじゃないか」
「ゲーム?」
「そう、そのゲームで僕が勝ったら、灰川にかけられた異能を解き、こちらに渡してもらおう」
珠切はそう言うと、懐から四角い何かを取り出す。
「警戒しなくていい。これはただのトランプだ」
ト、トランプだぁ!
「人生とは選択の連続。選び続けることこそ、生きるということ。大切なのは選ぶことだ。選んでこそ、人は前に進める」
唐突に持論を語り出した珠切は、トランプの束から二枚を抜き出し、表向けにして僕へと突き出す。
「ルールは簡単だ。ジョーカーを選べば君の負け。ジョーカーでなければ君の勝ちだ。わかりやすいだろう?」
珠切が一方的に提示してきたゲームのルールは、二分の一を当てるシンプルな運ゲー。
確かに、びっくりするほど単純だ。というか、ただのババ抜きで一番盛り上がるところだ。
なんかこう……、頭脳キャラ気取りながらゲームの提案をするなら、もっとセンスのいいオリジナルゲームを提案してほしかった……。
しかしそもそもの話、僕らにはそのゲームを受ける理由がないわけで。
「人生が選択の連続だっていうのなら、ゲームを拒否することも、立派な一つの選択ですよね?」
「その通りだ。だが、あまりそれはおすすめしないがね」
珠切はまたメガネをクイッとすると、衝撃的な言葉を告げる。
「このビルには爆弾が仕掛けてある」
「…………え?」
爆弾!? 今、爆弾って言った!?
「このビル一つ吹き飛ばすには十分な量の爆薬だ。もし君がこのゲームに勝てば、その爆弾を仕掛けている場所と、解除方法を教えよう」
「は? え、いや……え?」
「なに、学生の身ではそう簡単に受け入れられないのも無理はない。治安部隊に嗅ぎ付かれた以上、この拠点はもとより廃棄するつもりでね。爆弾により手っ取り早く、あらゆる証拠を吹き飛ばそうというわけだよ」
「え、あ……じゃ、じゃあなんでその話を僕に……」
「ただ問答無用で爆発させるなんて、美しくないからだよ。先程も言ったように、この世のあまねく全て――たとえ死であろうとも、それは本人の選択によって成されるべきだと、僕は考えていてね」
こ、こいつ……! 急に謎の美学持った爆弾魔
「さあどうする? 今まさに、君は人生の分岐点にいるのだよ。二枚のうちどちらかを選ぶか、それとも君が先程言ったように、ゲームそのものを拒否するのか」
「リ、リーダー……。どうしよう…………」
爆弾という脅しで選択を強要され、珠切と睨み合う僕を烏丸が心配そうに見つめてくる。
もし珠切の話が本当なら、今この状況で立場が弱いのは僕の方だ。それも圧倒的に。
もちろんブラフである可能性も捨てきれないが、残念なことに僕には、爆弾が本当に仕掛けられているという
となると本当にマズイ。もしここで仮にゲームを受け、二分の一を引き当てたとしても、珠切が爆弾の位置と解除方法を本当に教える保証なんてどこにもないのだから。
それにビル内には組織の仲間がたくさんいるにもかかわらず、珠切に爆弾の起動を躊躇う素振りは微塵もない。
おそらくいざとなれば、倒れている灰川だってこいつは平気で見捨てるはず。
要するに、僕はただ珠切の持論に遊ばれているだけなのだ。
「さあ……、どうする?」
「ぐっ……!」
どうする? どうすればいい? 僕は半ばパニックになりながら思考する。
僕のとる行動によって、このビル内にいる多くの人間の運命が左右されてしまう。下で戦っている光華と蛇塚、隣にいる烏丸……もまあ。敵とはいえ、ここで働く多くの人たちも。
しかしそんな重圧に押しつぶされそうになるなか、緊張や恐れといった感情とは相反する、
こんな時に……いや、こんな時だからこそ、その感情は僕の中で大きくなっていく。
場違いともいえるその感情とは――
――今の僕、最高に主人公しているのでは? という胸の高鳴り。
多くの命が危険に晒されているこの状況で、不謹慎であることは重々承知。
しかしその高鳴りは確かに僕の中に存在し、次第に割合が増していく。
だって今僕の目の前には、それっぽい悪役キャラ要素をふんだんに詰め込んだ男がいて、そんな男が他の誰でもなく、この僕と対峙しているのだから。
異能社会に足を踏み入れ、これまでずっと望んできた光景が、今ここにあった。しかし――
「どうした? 怖くて選ぶことすらできないか? それとも……、時間を稼いで救援が来ることを期待しているのか?」
「……っ!」
どこか浮かれ始めていた僕の気持ちが、珠切の言葉で一気に冷まされていく。
というのも、僕は思い出したのだ。銀行強盗しかり、バスジャックしかり、こういった場面では必ずと言っていいほど、冬二を始めとした主人公ポジや治安部隊が乱入し、活躍の場をさっそうと奪い去っていくことを。
そうだ。どうせ今回も、こうやっているうちに誰かが横入りして――
「残念だが救援は来ない。現人神である綿谷冬二をはじめ、修羅巫女、
やるじゃないか! やるじゃないかお前! お前やるじゃないか!
僕は心の中であらん限りの賞賛を珠切へと送る。
基本その場のノリで何とかしようとするアホアホ銀行強盗たちとはまったく違う……!
そうか……、バトル物作品において、宿敵とも呼べる相手の存在は必要不可欠。今までの僕には、そういった存在がいなかった。
でもそれは、まだ出会っていなかっただけに過ぎない。そうだ……! 今目の前にいるこの珠切という男こそ、僕の宿敵となってくれる相手だったんだ……!
彼こそが、僕をメインストーリーの舞台へと引き上げてくれる存在に違いない!
「ど、どうしよう、ワタシたちどうしたら…………」
「大丈夫。何も怖がることなんてないよ、冬歌さん。僕が絶対になんとかするから」
「り、リーダー……!」
怯える烏丸に対し、僕はノリノリで主人公ムーブを決める。
そうとも、ビクビクしながら行動するより、自分こそが事件を解決させる存在なのだと、そんな気持ちで挑んだほうがよっぽどマシだ。
「どうやら覚悟は決まったようだな。さあ、選ぶがいい」
珠切は改めて、僕に表向けにした二枚のトランプを提示する。
確率は二分の一。しかしそれは、あくまで
僕と珠切が睨み合う中、僕以外には視認できず、されどその場に確かに存在する使い魔のムーが、フワフワと珠切の背後へと移動し、その手元を大胆にのぞき込む。
するとムーは、これまた僕以外には聞こえない甲高い声を発した。
「むっ!」
ムーはその短い両手を体の前で必死にクロスさせ、バツを表現する。…………なるほど。
それを受け、僕は自信満々に、そして高らかに宣言した。
「『選ばない』。それが僕の答えだ」
「……それは、ゲームを受けないという意味か?」
「いいや、違う。お前が提示したその二枚のカードは、どちらもジョーカーだと言ってるんだ。珠切……、お前はジョーカー以外を選べば僕の勝ちだと言ったが、その二枚の中にジョーカー以外のトランプがあるとは一言も口にしていない。そうだろ?」
僕はムーによるカンニングで得た答えを、さも自身の推理でたどり着いたかのように答える。こういうのは勢いが大事!
いつか血液をかけた麻雀勝負であったり、何かしらデスゲーム的なものに巻き込まれる可能性を考え、ムーにいろいろ仕込んでおいてよかった。
「ふっ、正解だ」
珠切は持っていたトランプを僕の目の前へと放る。
床に落ち、裏向けになった二枚のトランプは、やはりどちらもジョーカーだった。
「選択とは、自身で選んでこそ。他者から与えられた選択肢など、結局は強要されたものに変わりない。見事、君は自身で選択を勝ち取った。誇るがいい」
「リーダーすごい……! かっこいい……!」
ああ……、これだよこれ。これこそが、僕が異能社会でずっと望んでいたもの。僕は今、輝いてる!
「約束通り、爆弾の場所と解除方法を教えよう。場所はこの階の廊下にある消火栓の中。解除方法は
それだけ告げると、珠切は窓枠で立ち上がり、そのまま宙へと身を投げる。
五階の窓から、珠切はなんの躊躇いもなく飛び降りた。
「待てっ!」
「君たちが無事爆弾を解除し、生き残るようなことがあればまた会おう」
もういっちょ最後に、珠切はメガネをクイッとしながら、僕らの視界から一瞬で消えてしまう。
登場から退場まで、全てがお手本のような悪役キャラであり、僕を主人公にしてくれたタマキン…………じゃなかった。珠切だ。
僕は心の中で、彼へあらん限りの感謝の念を送る。
まあそれはそれとして……。
「冬歌さん、藁人形と釘持ってる?」
「う、うん。持ってるよ」
僕は烏丸から受け取った藁人形に、ムーにこっそり抜いてもらった珠切の髪の毛を埋め込む。そしてその藁人形に、釘を五本――いつもよりマシマシで刺し込んだ。
するとそう遠くないどこかから、かすかな断末魔とともに、何かが地面へと衝突した音が鳴り響く。
グッバイ珠切、僕の宿敵となってくれた人よ……。
またどこかで再会し、しのぎを削るといった王道展開も悪くはないが、反社組織の爆弾魔をみすみす見逃すわけにはいかないので。
まあ異能社会の人間はみんな頑丈だし、死んではないでしょう。きっと。
さあ! 気を取り直し、急いで爆弾を解除しないと!
僕は烏丸と共に、爆弾の元へと急ぐ。
廊下に出て、すぐ近くにあった消火栓の扉を開くと、そこには珠切の言った通り爆弾が設置されていた。
……いやまあ、爆弾とか生で見るのは初めてなので、おそらくとしか言えないけど。なんか長い筒がいくつか重なっていて、デジタルタイマーが付けられているからきっと爆弾のはず。
そしてその爆弾には、これ見よがしに色の付いた配線が
「リ、リーダーどうしよう……!? 色付きの配線が二本あるよ!」
……こんなことだろうとは思っていた。珠切は色の付いた配線が一本とは口にしなかったのだから。
むしろ五本も六本もある可能性だって考えていた分、まだマシと言える。
「ど、どっちを切れば……」
想定外の事態に烏丸は半ばパニック状態。しかしそれとは対照的に、僕の心は凪のように穏やかだった。
「落ち着いて、冬歌さん。刃物かなにか持ってたりしない?」
「も、持ってるけど……、なんでリーダーはそんなに落ち着いてるの?」
烏丸は困惑した表情を浮かべながら、懐からハサミを取りだし僕に渡す。
当然のように刃物を持ち歩いていることに関しては、もはや何も言うまい。釘や藁人形に比べればかわいいものだ。
「どっちの配線を切ればいいか、僕にはわかってるから」
「え!? ほんとに!?」
ほんとだとも。二本の色が付いた配線の内訳は、赤と青。
……そう!
「この任務を受ける前、立花先生に占ってもらったんだ」
「え……? なんで?」
理由は僕にもわからないけど、爆弾処理どうこうと口にしていたことを考えると、きっと立花先生には僕がこうして爆弾処理することになるのをわかっていたのだろう。占い的なサムシングで。
「で、その占いの時に、立花先生からラッキーカラーは赤だって言われたんだ。つまり……、この赤色の配線を切れば爆弾は止まる……!」
正直、珠切が爆弾と口にした時から、立花先生の言っていた言葉を思い出し、こんな展開になるのだろうとなんとなく想像していた。
珠切との会話の際、僕にちょっと余裕があったのも、爆発を防げるという確信があったからだ。
ありがとう立花先生……! 感謝の気持ちとして、今度の異能歴史学のテスト、絶対に赤点を回避してみせます……!
「とりあえず、タイマーの残り時間も少ないし、早く切ってしま――」
「ま、待ってリーダー!」
「ん? どうしたの冬歌さん」
「その……立花先生、ラッキーカラーは赤だって言ったんだよね?」
「そうだよ。だから赤を切って――」
「ら、ラッキーカラーだからこそ、大切な色だからこそ、切っちゃダメだったり……しないかな……?」
「…………」
「…………」
…………………………摩天楼理論!!!
そ、そうか……。ラッキーな色を切ってしまえば、アンラッキーが襲いかかる――それは盲点だった……!
確かに、立花先生は『ラッキーカラーが赤』的なことは口にしていたが、赤色の配線を切れといった直接的な言葉は口にしていない。……うん、そんな言い方はしてなかったはず。
まずい……! どちらの配線を切ればいいのか、完全にわからなくなってしまった。
くそお! どっちだ!? どっちを切ればいい!?
「ぐっ……!」
「リーダー……」
……いや、変に悩んでしまったが、ここはやっぱり赤を切るべきだ。
よくよく考えれば、あの会話下手くそウーマンの立花先生が、変に回りくどいことを言うはずがない。
赤を切って欲しければ、ストレートに赤について言及するはず。
よし、やっぱり赤を切って――
「リーダー、ワタシは青だと思う」
――それは、小さくも力強い声だった。
「……冬歌さん?」
「ワタシは、青を切るべきだと思う」
どこか覚悟を決めたような表情で、烏丸は告げる。僕の目を、真っ直ぐ見つめながら。
チーム合宿の時から、チーム内で意見が割れた際、烏丸が自分の意見を強く主張することはほとんどなかった。
それは、烏丸が引っ込み思案で、流されやすい性格だから――――ではなく、押し通したい意見があった場合、誰かに話したりせず、自分一人で勝手に突っ走ってしまうからだ。
チーム名を決める時しかり、合宿を躊躇いなく脱走しようとした時しかり。
しかもそれをある程度押し通せる力がある分、なおタチが悪い。
しかしそんな烏丸が今、謀るようなマネをすることなく、自分の意見を真っ直ぐに主張している。
「……どうしてそう思うの? 冬歌さん」
「その……、根拠とかあるわけじゃないんだけど……。赤って、運命の色とかってよく言われるから。ワタシ、今日初めて……運命ってものを感じたの。ち、血の繋がりとか、そういうのとは違う、なんて言うんだろ…………とにかく、こう、強く惹かれ合う気持ちを」
少したどたどしくも、烏丸は必死に言葉を紡ぐ。自身の思いを、少しでも正確に伝えるために。
「ワタシが捕まって……でもみんなが助けにきてくれて、ワタシ確信したの。ああ、ワタシにとっての運命の人たちって、『
「冬歌さん……」
「だから、赤は切って欲しくない。きっとこの赤色は、ワタシたちのチームを繋ぐ、運命の色だと思うから……!」
「…………」
気持ちを全て吐き出した烏丸の目には、うっすらと涙が溜まっている。
その姿を見て、僕も覚悟を決めた。
「わかった、青を切るよ。でも、それは冬歌さんの言葉を受けたからじゃない」
「……リーダー?」
「僕も切りたくないんだ。チームを繋ぐ、運命の糸は」
「り、リーダー……!」
「念のため、残り時間がギリギリになってから切断するから、その間に冬歌さんはできる限り遠くへ逃げて」
「うん! わかった!」
判断が早いなおい。そこは『ワタシもここに残るよ!』とか言わないのかよ。……まあいいんだけど。
「下に蛇塚くんたちもいるはずだから、逃げるよう指示しながら――って、もう行っちゃった」
こうして、僕は爆弾と共に一人で五階に残る。
爆発までの残り時間は、あと一分ほど。
こんな時にタバコでも吸ったりすれば、いい感じの絵になるんだろうなと、くだらないことを考えてしまう。
「ムー、お前も逃げていいんだぞ」
「むっ!」
嫌っ!――とばかりに、僕の使い魔は首を横に振る。
まあ悪魔は死ぬようなダメージを受けても、元いた世界に戻るだけらしいから大丈夫か。
まったく、最後まで付き従おうとするなんて、主人思いの優しい悪魔だ。
「むむむ」
ムーの頭を撫でてやると、ムーは嬉しそうに笑う。
「……さて、やるか」
僕は覚悟を決め、ハサミを手に取る。そして、切断する配線を刃で挟んだ。
あとは手に力を込めれば、それで終わる。
異能社会に来てから一年と少し。本当にいろんなことがあった。
冬二と出会い、茜たちと知り合い、異能を学んで、バイトを始めて、チームを結成して……。
過去を振り返り、僕は気づく。
今まで灰色に見えていた記憶が、思っていたよりも色づいていたことに。
「なんだ……。僕、ちゃんと青春してるじゃん」
積み上げてきたもの、歩んできた道、繋いできた縁。
これまでの様々なことを振り返り、僕は配線を切断した――
――
神様! どうか烏丸との縁は切ってください!!!
普通に爆発した。
完!!!――ではないです。念のため。