魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「えー、僕たちの記念すべき初任務。監視がバレたり、宿敵と遭遇したり、爆発かましたりと、まあいろいろとありましたが……、無事任務完了できたということで――」
「どこが無事?」
「リーダー、そのセリフ……ボクらを見てもう一度言ってみなよ」
「フガフガッ」
初任務から一夜明け、僕ら『
そのミーティングにおいて、完璧で幸福なリーダーである僕が任務の総括を行っていたのだが、なぜかチームメンバーから不満が続出。残機減らすぞ。
「なに不服そうな顔してんだオイ」
「いいから顔上げてこっち見なよリーダー」
「フガッ!」
ちっ、仕方ない。僕は渋々ながら、うるさいチームメイトへと視線を向ける。
するとそこには、鋭い目付きで僕を睨みつける仲間たちの姿が。
右腕を三角巾で吊っている蛇塚。
左足に包帯を巻き、松葉杖をついている光華。
そして頭のてっぺんから足の爪先まで、全身に包帯を巻いた烏丸…………らしきミイラ人間。烏丸だよね……?
そんな仲間たちの姿を見て、僕は笑顔で告げる。
「……うん! みんな無事でよかった!」
「どこ見て無事っつってんだこのクソリーダーッ! こっちは生き埋めになるところだったんだぞ!」
「よくそんな結論が出てくるねボケリーダー! 君にわかるかい!? 戦ってる最中に突然、天井が落ちてくる恐怖が!?」
「フガフガッ!」
いやまあ……、見るからに重傷っちゃあ重傷なんだけど……。ビル一棟まるまる吹き飛んだことを考慮すれば、敵味方誰一人死ななかったし、骨折程度なら四捨五入すれば無傷かなって……。
もしこれで死人とか出てたら、『僕のせいでみんなが……!』からのリーダー研修で見たビデオの結末まんまの可能性もあったわけで。
「目ぇ腐ってんのか!?」
「頭が腐ってるんじゃないのかい!?」
「フガッ!」
ボロクソ言いやがってこいつら。あと烏丸は口元の包帯せいで、何言ってるかわからん。
「一応その……烏丸さんには、みんなに逃げるよう伝えてって指示出したんだけど……」
「呪い女なら、爆発前に三階と四階間の階段でつまずいて、そのまま転がり落ちて気絶してたぞ」
じゃあ
「というかなんでオレらが重傷で、爆心地にいたリーダーがむしろ無傷なんだよ!? おかしいだろ!」
ねー。ほんと不思議。爆発して気づいたら、上手いこと瓦礫と瓦礫の間にスッポリ収まってて。
あの後、現場検証した鑑識さんに僕が無事だった理由を聞いてみたところ、偶然に偶然が重なった結果、奇跡的に無傷だったらしい。
ちなみに説明は専門用語の嵐で、理解も納得もまったくできなかった。
そのため、もしかして僕の隠された異能が発現したのでは?――と、ちょっと期待してみたりもしたのだが、『お前が無傷だったのは運が良かっただけだからな? 素人が爆弾解体とか二度としようとするんじゃねえぞ?』と、治安部隊的な人からガッツリ説教を受けながら否定されました。
まあわかってたけど!
「悪運強すぎんだろ……」
「同感だね。まあそんなことより……、その報告のためにボクらを呼び出したのなら、もう帰ってもいいかい?」
「オレも早く帰りてえんだけど」
「ちょっと待って二人とも、あと
そのためにメンター室に集合したので。
まあでも、早く帰りたいみんなの気持ちもわかる。任務で疲れてる上、事情聴取でさんざん拘束されたんだから。
幹部の部屋の様子とか、そんなこと聞いてどうするの? ってとこまで根掘り葉掘り。
ティーカップの配置とか絶対どうでもいいだろ。
「子猫ちゃんたちを待たせてるというのに……」
「オレも
……なんだろう。意地でも長引かせてやりたくなってきたな。
しかし噂をすればなんとやら。蛇塚たちにとってはタイミング良く、僕にとってはタイミング悪く、メンター室の扉がガラリと開かれる。
きっとメンターだろう。そう思い振り返ると、そこにいたのは立花先生だった。
「お前たち、全員揃っているな」
立花先生はいつものように険しい表情で、ズカズカとメンター室に足を踏み入れる。
「揃ってますけど……その、僕らメンターを待ってて――」
「お前たちのメンターなら、今学園の地下牢だ」
…………なんで?
「任務内容を直接確認せず、厳重に扱うべきメンター印を学生に押させ、挙句の果てには勤務時間中のパチンコ通い。それらの罪で私がぶち込んでおいた」
「えぇ……」
というか学園の地下に牢獄とかあったんだ。初めて知った……。
「今回の任務に関してだが、お前たちに渡しておくものがある」
そう告げると、立花先生は僕に一枚の紙を手渡す。
その紙には『加点内訳』という表題がついており、『幹部一人捕縛』『武器密輸ルート解明』『拠点解体』といった細かい項目と共に、『+○○pt』という形で数字が記されていた。
「先生、これってもしかして……、追加のポイントですか!?」
「ああ、そうだ。治安部隊もお前たちの働きを高く評価していた。警戒度の低かった拠点の悪事を暴き、幹部をも捕縛してみせた素晴らしい生徒たちだとな」
……そんな褒められてたの? めちゃくちゃ怒られた記憶しかないんだけど。
でも確かに、加点されたポイントはすごく多い。ノルマなんて当然余裕だし、なんなら加点分だけで、元からもらえる予定だった点数より多いくらいだ。
合計すればものすごく高ポイントになる。任務一つでこれは、破格といっても過言ではない。
蛇塚と烏丸が問題を起こしまくるせいで諦めていたが、これは年間のチーム総獲得ポイント上位も夢ではないのでは……?
そんな淡い期待を抱いたその時、立花先生はもう一枚、別の紙を取り出す。
「こっちは減点内訳だ」
減……点…………?
その紙を手渡され、慌てて内容を確認してみると、そこには加点時よりも細かい項目がいくつも並び、加点時とは比べ物にならないほどの大きな数字が、『-○○pt』といった形で表記されていた。
ちなみに内容には身に覚えしかなく、『ですよね!』と笑顔で言いたくなる指摘ばかり。
『そもそもお前らの任務って監視だよね? なんで捕まって、戦闘して、ビル吹っ飛んでんの?』と言われれば、僕らはぐうの音も出ない。
しかしこの減点を素直に認めてしまえば、加点が吹っ飛ぶどころか、ノルマすらも怪しくなってしまう。
ここは全力で否定するしかない。大丈夫だ、僕らならできる。口裏合わせなんてしていないが、
「待ってください先生! これは違うんです! 指示通り所定の位置についたら、
「そうなんです先生! そのせいで烏丸さんが捕まってしまい……!」
「相手は反社組織なんだ! 拷問を受けてもおかしくねえ! 応援を待たずに助けに行った判断は間違ってねえ!」
「フガフガッ!」
案の定、蛇塚と光華は僕の嘘に微塵も動揺することなく、むしろ乗っかって言葉を重ねる。流石だぜお前ら!
こうなると、
「ビルが倒壊したのも、そもそもあいつらが爆弾を仕掛けてたからで……!」
「ボクたちは出来うる限り最善の対策を――!」
「配線も…………先生の助言を考慮して切りました!」
そしてさらに、チームに非がないことを伝えるため、僕らは言い訳を重ねていく。
そんな僕らに対し、先生は落ち着いた様子で懐から一枚の写真を取りだした。
「これは、付近の防犯カメラに映っていた映像だ」
先生はそう告げると、その写真を机の上に置く。
僕らが覗き込むように確認すると、その写真には――
――烏丸が反社組織のビルに、自ら足を踏み入れる決定的な瞬間が写っていた。
「「「「……………………」」」」
「まだ、何か言いたいことはあるか?」
「……いえ」
僕らは黙る。黙らざるを得なかった。
「今回の件で、死者こそ出なかったものの、近隣の建物等にも大きな被害が出た。もちろん根本的な原因は爆弾を仕掛けたセーラス……反社組織にあるが、その爆弾を起動させた原因の一端がお前たちにもあるとなれば、話は面倒なことになる。それはわかるな?」
「……うっす」
「いいか? お前たちはあの場におらず、幹部を捕らえたのも別の者…………そうだな?」
「…………」
「治安部隊とは話がついている。ポイントの付与に関しては、適当な理由をつけておくため、今後お前たちには昨日の件について、一切の他言を禁ずる。いいな?」
「……うっす」
それは要するに、僕らのヘマに対する責任を帳消しにする代わりに、功績もなかったことにするということ。
まあ……武器密輸の件も、幹部捕縛も棚ぼたみたいなもの。それでチームとしてのやらかしがチャラになると思えば……。
「それと烏丸、お前に確認することがある」
「フガ?」
「お前が幹部の部屋で見たという女は、
そう言って立花先生は、また一枚の写真を取りだし、烏丸に見せる。
その写真には、制服を着た白い髪の少女が写っていた。
「っ! フンフン!」
それを見た烏丸は、首をブンブンと縦に振る。
「そうか……」
肯定した烏丸に対し、立花先生がみせた表情は、怒りとも悲しみとも取れる複雑なものだった。
もしかして学園の生徒だったりするのだろうか? だとしたら、教師として複雑な気持ちになるのも頷ける。
「……とりあえず、私から伝えるべきことは以上だ。なにか聞きたいことはあるか?」
「あ、その……もし任務を受ける場合ってどうすればいいですかね?」
メンターが投獄されてしまった以上、許可を取るのも無理だろうし……。
「なら私のところに確認に来るように。今回に限り私が許可を出す。他にはないか?」
「……」
「ないようだな。最後にもう一度言っておく。昨日のことは、たとえ近しい人間であろうとも他言を禁ずる。もし誰かに話せば…………わかるな?」
最後の最後に、恐ろしいほどドスの効いた声を放ち、立花先生は部屋を後にする。
やっぱあの人カタギじゃないよ。昨日遭遇した反社組織のどの人間よりも、先生の方がよっぽど怖いもん。
とりあえず、先生が部屋から出て行ったことで、僕は改めてチームポイントの計算を行う。
えっと……、加点の合計がこれで、減点がこっち、あとノルマを考慮したら……。
「どうだい? リーダー。ノルマに足りてるかい?」
「ちょっと待ってね……。本来もらえるはずのポイントが200だから………………あっ」
「あっ?」
「……1ポイント足りない」
たった1ポイント。されど1ポイント。
何度計算してみても、補習回避のノルマまで1ポイントだけ足りなかった。
「……どうするんだい?」
「言っとくけどオレらこの怪我だし、受けられる依頼は限られるぞ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………………………………………ゴミ拾いでもしますか」
こうして次の日、僕は一人で『町のゴミ拾い』任務を行い、無事チームのノルマを達成することができた。
夏の暑い日差しの中、朝から晩まで行うゴミ拾いは、反社組織との戦いよりもキツかったです。チャンチャン。いやチャンチャンじゃねえわクソが。
――――――
おまけ
少し時はさかのぼり、ビル爆発直後――
「バカなやつらだ。他者から強要された選択など、どちらを選ぼうと強要されたものであり、己自身の選択ではない――そう教えてやったというのに」
つい先程までビル
その光景を、セーラスの幹部である
雪春たちと相対していた時とは異なり、顔も服もボロボロになった状態で。
そしてそんな珠切の傍には、一人の少女が佇んでおり、仏頂面を浮かべた珠切へとほほ笑みかける。
「しかし
「……不覚をとったのは確かです。呪いを発動させる過程を踏ませないよう、細心の注意を払っていたつもりですが……」
「相手が一枚上手だったということでしょう。灰川さんを倒したことといい、学生ながら素晴らしい才能をお持ちのようですね」
「持っていた、が正しいかと。もう既に、あのガキ共はこの世に存在しません。これで、あなたがあの場にいた痕跡は消えて無くなりました――――
長く白い髪に、透き通るような白い肌。一目見ただけで『白』という印象を他者に与える、十代後半ほどの
そんな少女に対し、珠切は敬意を込めてボスと呼ぶ。
「別に、私はバレてもかまいませんよ? 久しぶりに、美咲たちとも会いたいですし」
「お気持ちはわかりますが、今はご自重ください。すぐに時が来ますので」
「ええ、わかっています」
少女は笑う。旧友との再会、そして新たな出会いを待ちわびて。
しかしそんな少女を見て、珠切は少し訝しんだ。
「……おや、どうかしましたか? 珠切さん」
「あ、いえ……。その、今日はいつにも増して機嫌が良さそうに見えたので……」
「……そう見えましたか?」
「ええ、正確に申しますと、あのガキ共が侵入してきた時から」
「…………」
機嫌がいいという事実に本人は無自覚だったようで、珠切の言葉を受けて少女は少し驚き、そして考え込む。
「……ならおそらく、これは『白』である
「…………白?」
「ああ、楽しみでなりません。異能を学ぶ国内外のあらゆる学園が集い、その実力を競い合う『
「え、ええ……、その通りです。催しの開催に伴い、世界中の人間がこの街を訪れます。そしていずれ、催しが行われる学園へと流れ込む。人の出入りが増えれば、セキュリティが甘くなるのは必然。その時を狙い行動します。しかしお気をつけください。学園側もそのことは重々承知しているはずですし、別の組織が同じようなことを考えている可能性も否めません。我々の目的はただ神にお目通りすることではなく、その先にありますから」
「もちろんです。より幸福な世界のために、世界を神の手に返しましょう」
少女は恍惚とした笑みを浮かべ、輝かしい未来を想像する。
自身、セーラス、そしてこの世に生きる全ての人間が幸せになる、そんな未来を。
「ボス、そろそろ北鎮部隊を始めとした治安部隊が到着しますので……」
「そうですね。そろそろおいとまさせてもらいましょうか」
遠くから聞こえるサイレンの音を聞きながら、珠切と少女はその場を後にする。
今急いでこの場に駆けつけようとしている者達との対峙が、それほど遠くないことを予感して。
――きっと気のせいだ。珠切は自身にそう言い聞かせる。
ありえるはずがない。あんな感情は間違いだ。珠切は再度、自身に強く言い聞かせる。
ボスの口から『白』という言葉を聞いた瞬間、心が
ありえないありえないありえない。敬愛するボスにそんな気持ちを抱くなど、絶対にありえない。
珠切は否定する。心の奥底から湧き出た、ドス黒い感情を。
その心の奥底に、『黒』が巣食っていることを知らずに。
この小説を投稿開始して、1年が経ちました。1周年です!(タイミング的には前回の話で言うべきだったのですが、完全に忘れておりました)
今後ともよろしくお願いします。書籍化に関しても、近いうちに情報が出せると思います。