魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
「
「えへへ、ふへ……。み、みんな……ありがとう!」
旅館などにあるような、畳敷きの広い宴会場で、ガタイのいい男たちが野太い声で叫ぶ。
烏丸冬歌という少女が生まれた、その記念すべき日を祝うために。
みなが喜びを分かち合い、テンションを上げ、満面の笑みを浮べるなか、僕だけが…………いや、僕と僕の隣にいる蛇塚と光華の三人だけが、正座したまま、暗い顔で下を向いていた。
「なあリーダー……」
「……どうしたの? 蛇塚くん」
「オレたち……、なんでこんな所にいるんだ?」
「……なんでだろうね。ほとんど拉致同然で連れてこられたから、僕にも分からないよ」
7月19日――それは、待ちに待った夏休み初日。
朝からバイト先の店長に鬼電されていたが、僕はそれらを全て無視し、ゲームショップを訪れていた。
目的はもちろんゲームの購入だが、目当ては有名どころではなく、値下げセールのカゴにまとめられた、見るからに地雷臭の強いゲームの山。
『弁護人物語 ~証拠を突きつけて論破せよ!~』というタイトルの無双アクションゲームと、『爽快! 地獄へ突き落とせ!』というタイトルの恋愛シミュレーションゲーム。どちらを買おうか吟味するのに夢中になっていた僕は、気づくことができなかった。
僕の周りを、ガタイのいい男たちが囲んでいたことに。
その男たちは黙ったまま僕の傍を離れず、店の外に出た瞬間、流れるように烏丸の自宅へと拉致され、今に至るというわけだ。
「リーダーもか……。オレも買い物してたはずが、気づいたらこれだ。訴えたら勝てるだろ……」
「光華さんもそんな感じ?」
「ああ、全く同じだよ。街を歩いてたら、美人のお姉さんにアンケートを求められてね。喜んでついていったら、いつの間にかここにいたんだ。ひどい話だよまったく……」
「どこが同じ?」
一人だけ
ちなみに、烏丸を祝うガタイのいい男たちは、烏丸家に雇われている従業員とのことだが、みな体のどこかしらに
しかしそんな僕らの心情を、あの烏丸が察せるわけもなく――
「えへ、へへ……。そ、その……みんなもありがとね。今日は来てくれて」
烏丸は嬉しそうに笑いながら、僕らへ感謝の言葉を告げる。普段ならここで、『うるせえカス!』『くたばれクソボケ!』などと暴言を吐く蛇塚と光華も、さすがにこの状況ではだんまり。
「いやぁしかし、お嬢様のご友人が来てくださるとは……、俺感動しちゃいましたよ!」
「俺もだ……。お嬢様は昔から、少し勘違いされることが多かったから……」
「ほんとよかった。お嬢様のこと、わかってくれる人たちがいて……。いけね、俺が烏丸家に拾われた時のことを思い出しちまった……」
「こちら、ご友人方もどうぞ。おかわりもたくさんありますから。腹一杯食ってくだせえ」
その言葉通り、僕らの目の前には普段見ることのないような豪勢な料理がズラリ。しかしこの場の圧倒的なアウェイ感のせいで、食欲は微塵も湧いてこない。
盛り下がる僕たちをよそに、烏丸とガタイのいい男たちはさらに盛り上がり、どこか感動的な空気まで
「それと、ヘッドホン付けたあんたがリーダーさんだろ? 」
「え? あ、はい」
「聞いたぜ。お嬢様のこと、命懸けで守ろうとしたそうじゃねえか」
おそらく初任務での出来事を僕に告げた男は、僕の肩に腕を回し、その刀傷だらけの顔を触れそうになるぐらい近づけてくる。
「えらい! お前はまさしく
「あの……ちょっ、ツバが……」
「最近の若いやつは軟弱者ばかりだと思ってたが、なかにはお前みたいな骨のあるやつもいるんだって、俺は感動したんだぜ? お前らもそう思うよな!」
「おお! 間違いねえ!」
「漢の鑑! いよっ! あんたが大将!」
「さすがはお嬢様のご友人……いや、もはや盟友と言っても過言じゃねえ!」
「いいこと言うじゃねえか! お前ら! お嬢様の盟友に乾杯だあ!」
「「「「カンパーイ!!!」」」」
うるせえなこいつら。
「リーダーさんよぉ。お嬢様の盟友となりゃあ、俺たちにとって家族も同然。困ったことがあればなんでも言えよ兄弟」
「ハハ…………」
………………まずいぞ。烏丸と縁を切るどころか、身内認定されそうな勢いだ。
なんだ? 僕はどこで選択を間違えた? やっぱりあの時、青の配線を切るべきだったのか?
ガンガン距離を詰めてくる(見た目)ヤの者たちに、僕はただただ圧倒され、困惑しっぱなし。
そこで隣にいるチームメイトたちに助けを求めるため、ヘルプの視線を送ったのだが――
「さすがリーダー、オレたちにはできないことをやってのけやがる」
「いやあ、盟友さんと隣同士なんてボクらには荷が重い」
そう言って、蛇塚と光華は僕を見捨て、心理的および物理的に距離をとる。このクズどもがよぉ……。
「あの……、すみません。ちょっとお手洗いに……」
(状況によっては)信頼している仲間から裏切られ、孤立無援となった僕はいたたまれなくなり、その部屋を後にした。
お手洗いから部屋へと戻る最中、僕はそのわずかな時間で必死に思考を巡らせる。どうにかして、この
下手な嘘をついたり、適当な理由で抜け出したことがバレた場合、ドラム缶にコンクリート詰めされ、魚のエサになる可能性も否めない。
生半可な理由だと、途中退出を認めてもらえそうもないし……。
「…………ん?」
僕があれこれ頭を悩ませていたその時、ちょうど通り過ぎようとした部屋の
その部屋の中には立派な仏壇が置かれており、パーティーで出されていた料理らしきお供え物と、キレイな大人の女性の写真が飾られていた。
それだけならば特に気に止めることもなく、そのまま歩き去っていただろう。その写真の女性が、知り合いに
僕は思わずその場で立ち止まり、襖の隙間から写真をじっくり覗き見る。
しかし、やはり遠目からでは限界があり――
「似てない……? いや、やっぱり似てるような……。もうちょっと近づかないと……」
「では部屋に入りますか?」
「え?」
突然かけられた声に振り返ると、そこには着物を身に付けた、どこか烏丸に似た大人の女性が立っていた。
「あ、いやその、これは……!」
「うふふ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ここは秘密の部屋でもなんでもありませんから。どうぞ、お入りになって」
慌てる僕をよそに、女性は落ち着いた様子で襖を開き、僕を中へと招き入れる。
「えっと……、じゃあお邪魔します」
「ええ、それと挨拶がまだでしたね。冬歌の母で、烏丸家当主の
烏丸の母を名乗るその女性は、優しく微笑みながら、仏壇の前に腰を下ろす。
僕もそれにならい、同じように隣で腰を下ろした。
「……あれ? そういえばなんで僕のこと……」
「わかりますとも。そのパーカーにヘッドホン。冬歌から聞いていた通りですから。最近の冬歌ったら、あなたのことばかり嬉しそうに話すんですよ?」
「はあ……」
「それと、今日はごめんなさいね。無理やり連れてくるような形になってしまって」
ほんとですよ。勘弁してほしい。
「冬歌が誕生日会にチームのみんなも呼びたいって言い出して、夫が張り切っちゃったの。娘が友達を呼びたいだなんて口にしたの、初めてなものだから。勝手に従業員も巻き込んで、拉致まがいのマネまでして……。行動力の塊みたいなのがあの人のいいところなんだけど、多々暴走するのが玉に瑕なのよね」
娘さんにしっかり受け継がれてますよ。その暴走ぐせ。
「あ、そういえば仏壇が気になってたのよね? どうしてかしら?」
「いやまあ、たいした理由じゃないんですけど、その写真の女性が知り合いに似てたので……」
こうして近づき、じっくりと写真を見ることで、僕は改めて実感する。写真だけでもわかるほど、雰囲気がそっくりだなと。
「その似ている子って、同級生の子かしら?」
「そうですね」
「あらあら、
「あはは……」
知り合いが男だってことは黙っておくか。
「この人、お姉さんなんですか?」
「ええ、彼女は17年前……ちょうど冬歌が生まれる少し前に亡くなった、私の双子の姉なの。冬歌にとっては
双子なんだ。にしてはあんまり似てないな。
「似てないでしょ? 双子といっても二卵生だから。性格も正反対でね……。前向きな性格の姉と、後ろ向きな性格の私。やることなすこと上手くいく運のいい姉と、やることなすこと裏目に出てしまう運の悪い私。ほんとに姉妹なのかってくらい、似てるところがなかったの。でも……、それ故に上手く噛み合って、仲はすごく良かったのよ? 小さい頃からずっと一緒に行動してて、子供ができたタイミングもほとんど一緒で。将来、子供が同じ学校に通うのが楽しみだねって、妊娠中に姉とよく話したのを覚えてるわ。……ただ、姉の子は生まれてくることなく、姉と一緒に亡くなってしまったのだけれど……」
「…………」
…………不意打ちでドチャクソ重い過去話浴びせられた。
え? それ初対面の娘の知り合いに聞かせる話で本当にあってる?
今、自分がどんな顔をしたらいいのかわからない。笑うのが間違いだということはわかる。
「あっ、ごめんなさい。いきなりこんな話をしてしまって。ちょっと重苦しい雰囲気にしちゃったわね」
ちょっと?
「理由はともかく、こうして誰かが姉さんに興味を持ってくれたのは久々だったから、つい喋りすぎちゃった。ふふ」
そう言って、冬璃さんは手を口に当てながら嬉しそうに笑う。
僕はただ黙って聞いていただけなのだが、満足してもらえたのなら何よりだ。
さて、そのお礼と言っちゃあなんだが、冬璃さんには僕の話も聞いてもらうとしよう。烏丸家当主という、この家で一番の権力を持つこの人に。
僕は冬璃さんから見えないよう、こっそりと携帯の電源をオンにする。すると十秒もかからず、携帯から着信音が鳴り始めた。
「あっ、すみません。少し出てもいいですか?」
「ええ、もちろん」
冬璃さんの許可を取ったうえで、僕は通話ボタンを押し、ファミレスの当主との会話を開始する。
「はいもしもし、お疲れ様です店長。はいはい……え!? 店が忙しくて爆発しそう!? それはいけない! 今すぐ向かいますね!」
僕は大げさにリアクションを取り、あえて冬璃さんに聞こえるよう叫んだ。
もちろんそれは、当主様から帰宅の許可をもらうため。
通話を切る際に聞こえてきた、『え、どうしたの? 変な薬でもやってる?』という店長の言葉を無視し、僕は冬璃さんに頼み込む。
「本当にすみません。僕のバイト先……ファミレスなんですけど、人が多すぎて暴発寸前らしく……」
「ふふふ、爆発しそうだなんて、面白い比喩表現ね。そんなに忙しいバイト先なのかしら?」
「あ、いえ、物理的にです」
「物理、的に……?」
「から……冬歌さんの誕生日会を途中抜けするのは本当に心苦しいんですけど、このままだと普段お世話になってる方たちが…………」
「それはいけないわ。恩ある方々に不義理を働くなど、この世で最も
その考え、娘さんにも徹底してくださいね。
「今すぐそのバイト先に向かってください。うちの者に車で送らせますので」
「ありがとうございます。あ、これ冬歌さんの誕生日プレゼントということで、代わりにお渡しいただけると……」
そう言って僕は、ゲームショップで購入した『倫理アドベンチャー』という名のノベルゲーを冬璃さんに手渡す。
倫理を学びながら、色んな人物と仲を深めていくという内容のゲームらしいので、烏丸にピッタリだと思い、拉致される際に購入しておいた。
烏丸が少しでも真人間になれますように――そんな願いを込めて。
「あと、蛇塚くんと光華さんですけど、二人は今日ずっと暇だって言ってたので、僕の分まで盛大にもてなしてあげてください」
「あら、お仲間想いのリーダーさんですこと」
「よく言われます」
こうして、僕は無事
ただ、向かう先もまた
烏丸母(後ろ向きな性格。やることなすこと裏目に出るほどドジなうえ運が悪い。呪いの才能はピカイチ) + 烏丸父(行動力の化身。周りの声を聞かず暴走しがち。呪いの才能はピカイチ)
=烏丸冬歌(後ろ向きな性格で、暴走しがちな行動力のある疫病神。呪いの才能は歴代トップクラス)