魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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☆ 主人公 / 親友

 

 

 俺の名前は綿谷(わたがや) 冬二(とうじ)

 生まれたその日に季節外れの雪が降っていたことと、次男であることから冬二と名付けられた。

 自分で言うのもなんだが、ごくごく平凡な高校生だ。

 

 ただし、俺を取り巻く環境は平凡とは言い難い。

 

 生まれたときから両親はおらず、兄と祖父の三人暮らし。

 俺が中学生になった時、兄が行方をくらましたため、それからは祖父と二人で暮らしていた。

 それほど裕福な暮らしというわけではなかったが、血の繋がっていない俺を祖父は何不自由なく育ててくれた。

 俺に綿谷式武術を教え、戦う力を身に付けさせてくれたことにも感謝している。

 

 そんな祖父のもとで暮らしていた俺の生活に変化があったのは中学3年のころ。

 

 きっかけは、おかしな夢を頻繁に見るようになったことだった。

 

 

 

 

 ――その夢が始まるのはいつも絶望から。

 

 

 容赦なく雪が降り積もり、寒さで凍えそうな環境にもかかわらず、それが気にならないほどの悲しみに感情が支配されている。

 体はボロボロで、全身に血液が付着していることすらどうでもいい。

 俺の意識は全て、両手で抱える少女に向けられている。 

 

『――、ダメだ! このまま意識を失えば君は!――』

 

『……いいの。私は、ここまで……だから』

 

『諦めるな!! 絶対助ける! 俺はまだ、――に何も返せていない!!』

 

『ううん、それは……違う。私は、もうあなたからたくさんのものをもらった。私に触れることのできる、世界でただ一人の愛しい人。だから、私は、満足。今まで……本当に、ありが、と――』

 

『――? ――!! ――!!!』

 

 俺は必死で少女の名前を大声で叫ぶも、少女の体温は容赦なく奪われていき、ついに動かなくなってしまう――

 

 

 

 

 

 

 そこでいつも目が覚める。目を覚ました時の俺は、決まって涙を流していた。

 

 それからの1年はとても慌ただしかった。

 感情が昂ると瞳の色が変化したり、幼馴染が異形の存在に襲われかけたり、異能の力に目覚めたり。

 

 中でも、人生が1番大きく変わったのは間違いなくあの日だろう。

 

『綿谷冬二くん、君は特別な力を持っている』

 

 突如として現れたその女性は俺にそう告げた。

 二十代後半ほどでメガネをかけ、キリっとして落ち着いた印象を覚えるその女性の目的は、俺を異能が存在する高校――通称、国家異能育成高等学園に入学させることだという。

 普通なら質の悪い宗教勧誘かなにかだと考え無視するところだが、ちょうど俺自身が異能に目覚めたばかりの時だったので、すぐに受け入れることができた。

 

 そこから入学までの半年間。

 俺を勧誘に来た女性――実は異能高校の教師で後の担任(名前は立花(たちばな) 美咲(みさき))――は俺に異能の使い方を教えてくれた。

 

 ただその教え方は信じられないくらいスパルタで、祖父によるしごきが可愛いと思えるほど厳しかった。

 訓練のたびにボロボロになるまでしごかれ、ことあるごとに怒声がとんでくる。

 

『いつまで寝ている。すぐに立て』『そこで集中を切らすな! 死にたいのか!』『違う! もっと意識を体の中心に寄せるんだ!』『調子にのるな。お前の力など、まだ立つことを覚えた赤子のようなものだ』

 

 思い返してみると、優しい言葉をかけてもらった覚えは一切ないが、俺のことを本気で考えて鍛えてくれていたのはしっかりと理解できた。

 ごくたまに、憐れみのような視線を感じたこともあった。

 ただ立花さんは教師であることを含め、自分のことを一切話さなかったため、どういった意図を持っていたかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 とにかくそうして、幼なじみや祖父と別れを告げ、ある程度の力を身に着けて異能高校に入学した俺だったが、最初から順風満帆というわけにはいかなかった。

 

 まず初めに苦労したのが、俺のような一般家庭出身の人間を『外部生』と呼ぶやつらが存在し、差別するような言動をぶつけてきたことだ。

 中学までの知り合いが1人も存在せず、今までの常識が通用しない未知の世界にとびこんだ俺にとって、その環境はかなり辛かった。

 異能検査でも最低ランクのFを記録し、クラスに馴染むこともできず、あの夢もまだ続いている。

 心が折れそうにすらなる中で、俺を救ってくれたのは1人の友人だった。

 

 渡谷 雪春――――クラスで唯一の俺と同じ外部生だ。

 

 漢字は違うが同じ呼び方の名字で、同じ外部生ということもあって俺たちはすぐに仲良くなった。

 慣れない常識、慣れない環境、慣れない異能。押しつぶされるような日常の中で、雪春と話をしている時だけは気を休めることができた。

 

 お互いに愚痴を言いあったり、くだらない話をしたり、一緒にラーメンを食べに行ったり。

 大げさに思うかもしれないが、雪春のおかげで今の俺があると言っても過言ではない。

 

『何が外部生だ。そう言ってバカにしてくるやつに限って大したことないって相場で決まってる。気にしなくていいって。何かあればすぐ手のひら返すやつらだから』

『Fランクだった? ……ああ、そのパターンか。大丈夫だって。冬二には絶対なにかしらの才能とか力があるから。絶対』

『金ドリ……じゃなくて、あの、えっと……あのお嬢様を怒らしたらしいけど、安物でもいいから何かプレゼントしてやれ。値段とか関係なく冬二にもらったって事実で喜ぶから』

 

 悩んでいる時や落ち込んでいる時も話を聞いてもらい、その度にアドバイスもしてくれた。

 雪春のアドバイスはいつも的確で、その通りに動けば必ず上手くいったし、励ましの言葉は常に俺を支えてくれた。

 

 そのおかげで1年経った今では多くの友人ができ、特例でAランクに認定され、何度か命の危機にさらされたこともあったが、無事に乗り越えることができた。入学時からは考えられないような変化だ。

 だから俺は雪春にすごく感謝してるし、尊敬すらしている。

 

 そんな充実した日々を送る中で1つ不満なことがあるとすれば、その雪春と最近疎遠気味になってしまっていることだ。

 どちらからか露骨に距離をとったわけでもないのだが、自然と距離ができてしまっていた。

 

 ちなみに距離があるのは俺とだけではなく、クラスメイト全員が例外なくそうだ。

 教室での雪春は誰かと話しているのをほとんど見たことがないし、昼休みになるといつもどこかに行ってしまう。

 正直に言うと、雪春は孤立しているように見える。

 何度か俺がいつもいるグループで昼食を食べようと誘ったりしているのだが、いつも断られてしまう。

 

 もし何か悩んでいることや困っていることがあるのなら、今度は俺が力になりたい。

 そう思って『もし俺にできることがあるのなら言ってくれ!』と雪春に正面から伝えた。しかし――

 

『え? いや、ないけど?』

 

 本気で不思議そうな顔をしてそう言われてしまった。

 

 俺では雪春の悩みを解決するには力不足なのかと、それからしばらくは少し落ち込んだことをよく覚えている。

 でも、それでも、俺の理想の高校生活は、雪春もいて初めて叶えられる。

 今すぐには無理でも、いつか雪春も含めて、(あかね)、紗季、シャル、キョウカ、(ちぎり)のみんなで笑いあう日がくればいいなと思う。

 

 

 だから俺は今日も雪春に連絡を送る。

 

『ラーメンでも食べに行こうぜ』

 

 

 

 連絡を送って1分と経たずに『行かない』と返信がきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に冬二とだけなら全然食べに行くんだけどなぁ。絶対ハーレムメンバーのうち少なくとも1人はついてくるから嫌なんだよなぁ」

 

 少年はぼやきながらスマホのアプリを閉じた。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

おまけ

 

 

「よっ、冬二。相変わらず両手に花どころ全身お花畑かい。羨ましいねぇ。俺も女の子と仲良く登校したいもんだぜ」

 

 学園の校門前、数人の女子生徒と登校途中の冬二に対し、軽快に声をかけた茶髪の少年――矢川(やがわ) 宗助(そうすけ)はそのまま冬二たちの一団に合流する。

 

「からかうなよ宗助」

 

「ウハハ、わりぃわりぃ」

 

 彼がこの校門前で冬二たちの一団に混ざるのも、あいさつ代わりの冗談の掛け合いも、もはや彼らの日課となっている。

 

 はたから見れば、それはただの仲の良い友人同士に見えるだろう。

 しかし矢川宗助が冬二たちと良好な関係を築いているのは、とある目的があってのこと。

 学園の生徒という立場も、彼にとっては表の顔でしかない。

 

 

 

 彼の裏の顔、それは――――世界を手中に収めようとする異能組織『黄楼炎(こうろうえん)』から送り込まれたスパイである。

 

 

 

 そんな裏の顔を持つ宗助が組織から受けた指示は、現人神(あらひとがみ)である『綿谷 冬二』の監視と、その力の覚醒を促すこと。

 つまり彼が冬二たちと良好な関係を築いているのは、組織からの指示を遂行するための手段でしかない。

 軽口を言い合って笑うのも、共に背中を預けて敵と戦ったことも、冬二が困難に直面した時には適切なアドバイスを送るのも。

 

 そう、全てが任務のためであり、そこに個人的な感情はない――――はずだった。

 

 

 

 彼が人生の多くを過ごした黄楼炎の施設。それは組織に忠実な人間を作り出す、この世の地獄だった。

 最初は多くいた宗助と同世代の子供たち。しかし今となってはほとんどの者がリタイアし、彼を含めて片手で数えるほどしか残っていない。

 毎日のように行われる大怪我と隣り合わせの訓練、失敗すれば死の危険をはらむ任務。

 

 そんな日々と比べると、今の宗助の生活はあまりにも穏やか過ぎた。

 まるで普通の学生のように授業を受けて、友人とおしゃべりに興じて、安全管理の徹底された訓練を受けて。

 たまに起こる冬二が絡む事件も、今までの任務と比べればどうということはない。

 

 いつの間にか冬二たちとの学園生活を心の底から楽しんでいる自分がいて、ふと任務のことすら忘れてしまう瞬間が――

 

 

「宗助?」

 

「っ!?」

 

 どこか上の空だった宗助の意識が、冬二の声によって覚醒する。

 冬二は手に弁当を持ちながら、机に座りっぱなしの宗助の顔を不思議そうに覗き込む。

 そこでやっと、すでに授業が終わり、昼休みになっていることに気づく。

 

「どうしたんだ? 昼飯食べないのか?」

 

「あー……、わりぃ、先食っててくれ」

 

「えっ?」

 

 宗助は冬二の戸惑う声を無視し、どこか逃げるように教室を後にする。

 

 

 

 

 そうして宗助が向かったのは屋上。

 周囲に誰もいないことを確認し、落下防止のために張られた金網フェンスを乱暴につかむ。

 

「クソッ! なにやってんだ俺は…………」

 

 彼を知るものからすれば、あまりにも珍しい感情の発露。

 それほどまでに宗助の中で、組織への忠誠が揺らぎかけている証拠だった。

 

「ダメだ、揺らぐな……。迷いは死を導く。そんな姿を嫌というほど見てきただろ…………!」

 

 自身にこれでもかと言い聞かせる宗助。

 一度目を閉じ、深く息を吐き、そしてその目を開いたと同時に、迷いを全て取り払う。

 

「悪いな、冬二……。俺は、いつかお前の敵になる」

 

 たとえ仮初であったとしても、初めて心を許してもいいと思えた存在。

 きっとそれを世間では親友というのだろう。

 そんな親友と敵対する覚悟と決意を新たにし、宗助はその場を後にする。

 

 その日がくるのが、もっと先であることを心のどこかで願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ絶対いつか組織を裏切って寝返るな」

 

 屋上のベンチに座り、一部始終を見ていた少年は、ぼやきながら購買で買ったパンを口に運んだ。

 

 

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