魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女② / 地下監獄

 

 『ジール王国第一王女 リリアーナ様の身辺警護』――その任務の詳細は、読んで字のごとく王女様の護衛を行うというもの。

 え? 学生に王女の護衛をさせるなんてどう考えてもおかしい? 絶対何か裏があるって? むしろバッチコイだ!

 何も知らずに受けた任務で、実は一国の王女が絡む巨大な陰謀が隠されており、いつの間にか大事件に巻き込まれていく……。そして僕はモブを卒業! 完璧な作戦だぜ!

 

 僕はウッキウキで、依頼を受けるための手続きを進めていく。

 そうしてあらかたの申請は無事完了し、あとはメンターからの許可をもらうだけ。

 

 そのため僕は、服役中の登坂さんの代理として、一時的にチームメンターとなっている立花先生のもとへと向かった。

 夏休みながら、いつものように職員室で立花先生の姿を見つけ、さっそく僕は依頼を受ける許可を求める。すると、快くオーケーの返事がもらえ――

 

「ダメだ」

 

 ――なかった。

 

「でも、その……任務ランクはBですし、条件は満たしてますけど……」

 

「ランクの話ではない」

 

 立花先生はいつものように険しい表情で、僕の目をまっすぐ見つめながら静かに告げる。

 

「ジール王国側にどういった意図があって、この依頼を出したのかは不明だ。だが、一国の王族と関わるとなれば、名誉以上に大きな責任が伴う。それも責任が降りかかるのは、君や君たちのチームにだけではない。粗相の内容によっては、国際問題にもなりかねない大事へと発展する。自覚するんだ。君がどれだけの重荷を自ら背負おうとしているのか」

 

「…………」

 

「その上で問う。君は、君たちのチームメンバーが何の問題も起こさず、王女の護衛任務を無事終えることができると、本当に思っているのか?」

 

「はい!」

 

「はいじゃない」

 

 ……あれ? てっきり、あえてキツイ言葉をかけて、覚悟を問う系の問答だとばかり……。

 

「これを見ろ」

 

 そう言って、立花先生は書類の束を僕に手渡す。

 

「何ですかこれ?」

 

「先日、我が校の生徒が、拳聖祭に参加する他校の生徒と揉め事を起こした件に関する報告書だ。事件に関わったほぼ全員が病院送りになるという被害が出ている。読んでみろ」

 

 なんとまあ物騒な……。とはいえ、拳聖祭の影響で街もかなり様変わりしている。環境に大きな変化があれば、学生同士による揉め事の一件や二件、発生してもおかしくないのかもしれない。

 そんなふうに考えながら、先生に促され表紙をめくる。するとそこには、事件の主犯とされる人物の写真が添付されていた。

 髪色が三色の、とっても特徴的な我がチームメイト――蛇塚秋人の写真が。

 

 ほんまあいつ……。

 

「そしてこっちが、似たような別件に関する報告書だ」

 

「……」

 

 正直言うと、オチはほとんど読めていたのだが、僕は一縷の望みにかけて報告書の表紙をめくる。

 しかし案の定、そこには烏丸の写真が添付されていた。ボケカスゥ……。

 

「これを踏まえた上でもう一度聞く。君は、君たちのチームメンバーが何の問題も起こさないと、本当に思っているのか?」

 

「………………………………いえ」

 

「できるなら即答してほしかったが……、まあいい。わかったなら、派手な依頼で楽しようとせず、コツコツとポイントを稼いでいけ。刻み、積み上げたものこそ、自身にとって確かな力となる。チャンスに飛び込むことも大切だが、踏ん張るための足場がなければ、どこにも飛べやしない。今はしっかり足場を固めておけ。……君はまだ若い。何も焦ることはないんだ、雪春」

 

 静かに、されど力強く言い聞かせるような声で、立花先生は言葉を紡ぐ。

 

「……わかりました」

 

 そんな立花先生の言葉に、僕は弱々しく返事をすることしかできず、そのまま職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 まあ当然ながら、諦めるなんて選択肢などあるはずもなく。まだ若いとか言われても、僕にとって一番大切なのは今なんだ。

 そもそも高校を卒業して一般社会に戻れば、こんなチャンス二度と訪れることないわけですし。

 国際問題がなんじゃい! こちとら既に、(推定)600回以上焼き尽くされても許されない大罪人でい!

 仮のメンターから許可がもらえないなら、本来のメンターから許可をもらえばいい。

 僕は投獄中の登坂さん(メンター)に、会いに行くことを決意する。

 

 だがここで問題が一つ。そもそもメンターが投獄されているというその地下牢の場所を、僕は知らない。

 学園に地下牢があるということ自体、つい最近まで知らなかったわけで。

 

 しかしこんな時、僕には誰よりも頼りになる人物が一人いる。おそらくこの学園におけることなら、誰よりも詳しいであろう人物が。

 さっそく僕は携帯を取り出し、その人物に電話をかけた。

 

「もしもし理事長? その、知りたいことがありまして――」

 

 

 

 

 

 無事、理事長から地下牢の場所と、そこへたどり着くための方法(・・・・・・・・・・)を教えてもらった僕は、さっそく行動を開始する。

 まず、バスなど来たことのない学園内のバス停で15分待機し、急にしゃべりかけてくるおばあさんの言葉を無視し、その後に案内される食堂で『強火で消し炭にしたステーキ定食』を注文するなどなど……。普通なら絶対にしないような手順をいくつも踏み、ようやく僕は地下牢の入口へとたどり着いた。

 

「ようこそ、お待ちしておりました。渡谷雪春様ですね?」

 

 そしてそんな僕のもとに、一人の男性が近づき、言葉を投げかける。

 

「レイ様から話は聞いております。監獄長の金盛(かなもり)と申します。本日は私が渡谷様の案内をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「あっ、はい。よろしくお願いします」

 

 監獄長を名乗るその男性――金盛さんは、随分とガタイがよく、さらに右目付近に大きな傷が入っており、見た目の圧がかなりすごい。

 しかしそんな見た目とは裏腹に、とても丁寧な態度で、学生である僕に接してくれる。

 

「それではさっそく案内してきますので、こちらへ」

 

 そうして金盛さんに連れられ、僕は監獄内へと足を踏み入れた。

 あれ? そういえば持ち物チェックとかされなかったけど、いいのかな?

 

「歩きながらにはなりますが、この監獄について簡単に説明させていただきます」

 

 僕たち以外には人がおらず、それほど広くない廊下のためか、僕と金盛さんの足音がよく響く。

 そして金盛さんの地を這うような低い声も、いやに耳に響いた。

 

「今いるこのフロアから下が、犯罪者たちが収監されているフロアとなります。罪の重さによって『L1』から『L5』のフロアに振り分けられ、凶悪な犯罪者ほど下のフロア――L5に近くなる形となっております。当然ながら、全フロアに死角がないよう監視カメラが設置されており、警備体制は万全で――」

 

 監獄内の詳しい造りに、警備体制の詳細。それ部外者に話していいの?――というようなことまで、金盛さんは事細かに説明していく。

 

 しかしあれだな……。思った以上にちゃんと監獄してるな……。

 地下牢とか言うけど、どうせちょっとした隔離施設みたいなもんでしょ――みたいに軽く考えていたけど、イ〇ペルダウンとかコ〇リアみたいな割とガチな監獄施設だこれ。

 

「――と、以上が簡単な説明になりますが、何か質問等はありますか?」

 

「あっ、その、これから会うメンター……登坂さんはどのフロアに収監されてるんですか?」

 

 まあ本当に犯罪を犯したわけでもないし、『L1』あたりだとは思うけど。

 

「彼女は現在、『L5』に収監されています」

 

 最下層じゃねえか。

 

「え? 登坂さんって、そんな扱いなんですか……?」

 

「その……、本来『L5』は凶悪なテロ組織のトップや幹部クラスが収監されるフロアなのですが、彼女は以前『L1』に収監された際、脱走経験がありまして……」

 

「……」

 

 あの人、前科持ちでもあるのかよ……。

 

「そのことを踏まえまして今回、立花様から『最下層にぶち込んでおけ』と指示を受けましたので、そのようにしております」

 

 そう告げながら、金盛さんはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 そんな金盛さんに対し、僕は何も言うことができず、しばらく気まずい思いをしながら歩き続けた。

 

 

 

 

 

 その後も金盛さんに案内され、ようやくメンターが収監されているフロア――最下層に到着する。

 

「こちらが面会室となります。何かありましたら、いつでもお呼びください」

 

「ありがとうございます」

 

 ここまで案内してくれた金盛さんに感謝し、面会室に足を踏み入れると、部屋の真ん中が強化ガラスで仕切られており、部屋の中に登坂さん(メンター)の姿はまだなかった。

 置いてあったイスに座り、しばらく待っていると、部屋の中に大声が響き渡る。

 

『囚人番号767番! 入れ!』

 

 そしてその大声と共に、ガラスで仕切られた向こう側の扉が開き、囚人服を着たメンターが姿を現す。

 ちゃんと囚人扱いされてる……。

 

「も~、そんな大声出さなくても聞こえてる……ってあれ? 誰かと思えば雪春くんじゃん」

 

 メンターは僕の姿を確認すると、笑みを浮かべながらイスに腰かける。

 収監されたことで、てっきり落ち込んだり、やつれたりしているものだと思っていたが、登坂さんの表情は思いのほか明るかった。それどころか、むしろ上機嫌にも見える。

 

「なになに? どうしたの? それにしても、よく面会の許可なんかもらえたね」

 

「まあ、はい。そこは偉い人に直接許可取ったんで。それより、何かいいことでもあったんですか?」

 

「あ、わかる? 実はさっきさあ、同じ房の子にチンチロで大勝ちしてねえ。もうウッハウハ。これで向こう一週間、彼女のデザートは私のものってわけだよ」

 

 ……この人、ギャンブルさえあれば場所関係なく幸せになれそうだな。

 

「で、話を戻すけど、わざわざどうしたの? 異能訓練のことならもうちょっとだけ待ってもらって――」

 

「あっ、今回はそれとは別件です」

 

 まあ訓練も早くしてほしいけど。

 

「依頼の許可をメンターにいただきたくて……」

 

 そう言って、僕は強化ガラス越しに依頼用紙を登坂さんに見せる。

 

「どれどれ? えっと、王女、身辺警護……」

 

 ずっと上機嫌だった登坂さんだが、依頼の内容を確認していくうちに、その表情はどんどん険しいものへと変化していく。

 

「う~ん、これはちょっとなあ……」

 

「何かダメな理由があります? 任務ランクは満たしてますけど」

 

「……そのさ、私がこうして監獄にいる理由ってわかってる?」

 

「自業自得じゃないんですか?」

 

「いや! もちろんそれも1割くらいはあるけども!」

 

 1割?

 

「大半の原因は君たちのやらかしが原因だからね!?」

 

「違いますね」

 

「違わないよ!!!」

 

 まあまあまあ、僕たちに全く原因がないとは言わないけど。

 

「お願いですメンター! どうしてもこの依頼を受けたいんです!」

 

「ダメです、この任務は許可できません。どうせ王女様に粗相かまして、私の刑期が伸びるのは確定演出発生してるようなもんなんだから」

 

「そう……ですか」

 

「……あー、まあその、ほら、別の任務ならぜんぜん許可出してあげるから。そう落ち込まないで――」

 

 仕方ない。この手はあまり使いたくなかったけど……。

 

「メンター、これを見てもらってもいいですか?」

 

 そう言って、僕は懐から一枚の写真を取り出し、まずはその写真を裏向きにして強化ガラス越しにメンターに見せる。

 

「え、なにこれ? 何か書かれてる…………『ルールを守って喫煙を byあなたのかわいい元教え子より』……え? ほんとなにこれ?」

 

 写真の裏側に書かれた手書きの文字。それを見てただただ困惑するメンターに対し、僕は写真を表向きにしてみせた。

 そこに写るのは、車内でタバコを吸うメンターの姿。

 

「っ……!」

 

 それを見て思わず立ち上がるほど、メンターはあからさまに動揺する。

 本来であれば、ただメンターが喫煙しているだけの写真であり、何も驚くようなことはない。

 ……そう、タバコを吸っているこの車が、学園所有の公用車(・・・)でなければ。

 

「ど、どこでこの写真を……!?」

 

「実は僕のバイト先に、よくご飯を食べにくる探偵さんがいるんですよ。それでちょくちょく話もするんですけど、話していくうちにメンターの元教え子だったってことが発覚しまして」

 

「……まさか!? 知恵(ちえ)ちゃん……!?」

 

「で、いつも話を聞いてくれるお礼だってことで、快くこの写真を譲ってもらったわけです。学園の公用車って、全面禁煙らしいですね?」

 

「いや、その、それはね、違うんだよ? その……」

 

「このメンターが乗っている公用車の5号車。聞くところによると、ほとんどメンターと紅原先生の専用車みたいになってるらしいじゃないですか。おっと、偶然にも紅原先生も喫煙者でしたね」

 

「…………」

 

「車検も、普段こういう雑務を引き受けたがらないメンターや紅原先生が、積極的に行っているのだとか」

 

「…………雪春くん」

 

「もしものお話ですが、お二人がこの公用車でタバコを長年吸い続けていたとすれば、それはもうさぞ車内にタバコの臭いが染みついていることでしょう」

 

「雪春くん!」

 

「このことを立花先生にでも伝えたら、僕らがやらかすまでもなく、刑期……伸びちゃいますね」

 

 僕は肘をついて指を交互に絡め、その上に顎をのせ、とびっきりの笑顔でメンターに問いかける。

 

「どうしますか?」

 

「オッケー雪春くん、一旦落ち着こう。まずは落ち着いて冷静に話し合いを――」

 

「メンター、今僕はメンターに問いかけてるんです。どうしますか、と」

 

「……い、言っておくけどね雪春くん、そうやって脅したところで、私は刑期が少しくらい伸びようとも――」

 

「やだなぁ、脅しだなんて。僕はメンターのことを思って言ってるのに。その証拠にさっき、署長さんにメンター宛の差し入れを渡してきましたから」

 

「え、ほんと?」

 

「はい、最新のパチスロのスペック表と試打動画です」

 

「それ打ちたくなるやつ!」

 

「メンターが投獄されてる間も、たくさんの新台が出てるみたいですね。あの人気アニメの後継機、評判いいらしいですよ」

 

「ちょっ!? 雪春くんなんかパチスロに詳しくなってない!?」

 

 色々調べましたから。万全を期すために。

 

「メンター……最後に、もう一度だけ聞きますね。どうしますか?」

 

「こ、この私が……そんな簡単に屈するとでも?」

 

 そう言って強がるメンターだが、その右手はハンドルを握るような形で固定されている。

 おそらく無意識なのだろう。もう中毒だよこの人。

 

「なら、仕方ないですね……」

 

「おっ、諦めてくれた? まったく、あんまり大人を見くびらな――」

 

「実はもう一枚写真があって。メンターが酔った勢いで、立花先生の寝顔に落書きしている証拠しゃし――」

 

「いくらでも許可あげちゃう! だからお願い! その写真は燃やして! マジで美咲に殺されちゃうから!」

 

「取引成立ですね」

 

 奥の手とは最後の最後まで隠しておくもの。まあまだ奥の手、あと三つほどあるんですけど。

 このメンター、過去から現在までどこを掘り下げても弱点だらけなわけで。やらかしが多すぎる。

 

「ほんと君……いい根性してるよ。メンターを脅すことに何の躊躇いもないし……」

 

「まあその、お礼といってはなんですけど、今度来るとき何か差し入れしますよ。次はちゃんとメンターが欲しいもので」

 

「ほんと!? じゃあセ〇ンスターをカートンで!」

 

 未成年にタバコのつかいを頼むな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

おまけ

 

 

 

 

「絶対何か裏があるよな~」

 

 雪春との面会が終わり、雑居房へと戻った登坂は、先ほど許可を出した依頼のことを思い出す。

 王女の護衛――それは間違いなく名誉なれど、明らかな厄ネタ。

 本当なら許可を出すつもりはなかった。自身の刑期が伸びるから――もなくはないが、主な理由は、教え子たちが厄介事に巻き込まれるのを回避させるため。

 

 とはいえ、そもそもその教え子たち自身が『歩く厄介事』みたいなもの。ならば大丈夫だろう――登坂はそう確信する。

 王女の護衛ともなれば、その素性は徹底的に洗い出される。

 その状況で、複数チームの応募があった場合、雪春たちのチームが選ばれることはまずありえないのだから。

 

「わざわざ心配する必要もなかったか……」

 

「おいこら登坂ァ! なに休んでんだてめぇ! 勝ち逃げする気か!? 今度は朝食のジャムをかけて勝負だ!」

 

「わかったわかった。そう叫ばないでよ(めい)ちゃん。今行くからさ」

 

 

 まだしばらくの間、登坂の牢獄生活は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけのおまけ

 

天眼路(てんがんじ) 知恵奈(ちえな)

・路地裏でひっそりと事務所を開いている女探偵。

・自身の興味を最優先に動くので、依頼を受けてもらえるかは気分次第。

・冬二が助手としてバイトしている。

・高身長でスタイルがよく、片目が隠れた喫煙者。

・雪春たちのOGで、登坂の元教え子。強くなりたいと願う冬二に、登坂のことを教えたのもこの人。

・最近は現人神について探っている。

・初登場は『バイト生活』。雪春との絡みは『悪魔召喚 その結末』。

 

 

 

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