魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
王女護衛の依頼を受けるため、採用試験(面接)に挑んだ僕たちミスフィットだったが、その次の日、残念ながら『今回は採用を見送る』との連絡が届いた。
屈強な男たちを何人も気絶させ、チームの戦闘能力の高さは存分に示したはずだったが、どうやら採用基準には届かなかったらしい。
というわけで、結局今回もモブ脱却は叶うことなく、だらだらと夏休みを過ごしていたある日のこと。
『渡谷雪春 今日の13時、職員室に来るように。面接の件で話がある』
僕は目を覚ますと同時に、お呼び出しメールが立花先生から届いていることに気づく。
そのおかげで残っていた眠気が消し飛び、勢いよく布団を投げ飛ばして起き上がる。
夏休みということで生活習慣が完全に崩れ、さらに昨夜は遅くまでゲームに興じていたため、起床した現在の時刻は既に14時過ぎ。
「まずい……! 逃げなきゃ……!」
僕は最低限の身支度だけを済ませ、スマホとサイフを手に取り、すぐさま部屋を後にする。
おそらく先日の面接で、暴力沙汰を起こしたことへの説教(という名の制裁)であることは間違いない。誰がそんな死地へと好き好んで飛び込むものか!
幸い、今は夏休み。自分探しの旅に出たとでも言って逃げてやる。
学園側の捜索の手がおよぶその前に、遠く、より遠く、できるだけ遠くまで……!
海外逃亡もいいかもしれない。そんなことを考えながら、僕は勢いよく玄関の扉を開ける。
するとそこには、鬼のような形相をした立花先生が立っていた。
「おはよう雪春、迎えに来てやったぞ」
「…………、っ! すみません! 今日はバイトが――!」
僕は勢いよく玄関の扉を閉めようとする。がしかし、それよりも早く、その隙間に立花先生が靴を挟み、防がれてしまう。
「……どうした雪春。なぜ閉める」
鏡見ろ! としか……。なんで顔全体に影かかってるの?
「開けろ」
「開けません!」
「開けろ」
「開けませぇん!」
そうしてしばらくの間、扉を挟んで攻防を続けていると、
「…………チッ」
おもいっきり舌打ちをしながら、ようやく諦めてくれたのか、立花先生は足を引っこめる。
それを受け、僕は即座に鍵を閉め、チェーンをかけ、さらに異能で扉を開かないよう固めた。
これでようやく一安心――と思いきや、
「学園や! はよ開けんかいゴラァ!」
今度は立花先生とは違う、野太い声の男性が叫びながら、扉を乱暴に叩く。
しかもその脅迫するような声は、一人や二人じゃない。扉の奥には何人もの人の気配を感じる。
ちょっと待って。生徒一人迎えに来るのに職員何人動員してるの? ヤ〇ザのガサ入れじゃないんだぞ。
くそっ、こうなったらこっちも意地だ。あっちが諦めるまで
幸い、引きこもるための食料は大量にある(特にカレールー)。
一週間でも一ヶ月でも引きこもってやる!――と、気合を入れたその時、急に扉の奥が静かになったかと思うと、ボソッと告げるような立花先生の声が、僕の耳に届く。
「……紅原、チェーンソー」
「開けまぁぁぁす!」
僕は迷うことなく白旗を上げた。弁護士を呼んでくれ。
そうして僕はそのまま車へと連行され、両隣を教員に挟まれる形で、後部座席に押し込められる。風呂敷で車を包まれた際に逃げられない位置だ。
車で向かう先は当然、我が学び舎。学園へと到着し、両脇を抱えられたまま職員室に連行されると、そこには蛇塚、光華、烏丸の姿もあった。
そして三人とも、一様に絶望するような表情を浮かべており、蛇塚に至っては顔に青あざができている。
僕も引き際を誤れば、ああなっていたかもしれない……。
「先生方、このたびは助力感謝します。後はこちらでやっておきますので」
僕を連行してきた教員たちがそのまま部屋から退出し、職員室に残った教員は立花先生ただ一人。
先生は椅子に深く腰をかけ、足を組んで僕らを睨みつける。
「さて……」
どうしてやろうかこのクソガキども――そんな口にしていないはずの先生の言葉が、はっきりと聞こえた気がした。
ちなみに、僕らは職員室の床に正座状態です。
ただこれは、先生に正座しろと言われたからしているわけではない。
マジギレ寸前の先生を目の前にした時、僕らは自然と正座していたのだ。
考えるよりも早く、体が動いていた。まるで、そうあるべきだとばかりに。
「まず……、私の言葉に背き、勝手に依頼を受けようとした件については…………………………まあ、まあ、まあ……1万歩譲って後で追求するとしよう」
許してはもらえないんすね……。
「今、私がお前たちから聞かなければならないのは、先日お前たちが受けた面接の内容に関してだ」
先生はそう告げると、もう一段階、表情の険しさが増す。
しかしその表情に、僕はかすかな違和感を覚えた。
蛇塚たち三人は知らないだろうが、1年の時から担任が立花先生である僕は知っている。先生は怒りがピークに達する時、もっと感情的になってキレることを。
それはもう、夏の高校球児とタメを張れるぐらいの大声で。
だからこそ、面接の件で怒り沸騰のはずの先生が、未だ冷静に詰めてきていることに、僕は驚きを禁じ得ない。
「あの……内容といっても、どこまで話せばいいか…………」
「全てだ。全て話せ。可能な限り、一言一句
そんなジャンケンの心理戦みたいに……。
先生のグーに対抗しようとパーを出したところで、どうせ貫かれて終わるだけ。
ならば腹をくくり、素直に話すしかないだろう。
僕は昨日の面接での出来事を、事細かに説明していく。
嘘はつかず、されどそれとなく、悪いのは暴れた烏丸や蛇塚であって僕ではないですよ――とアピールしながら。
とはいえ、どれだけ取り繕うとヤラカシはヤラカシ。
先生のガチギレは避けられない……そう考えていたのだが――
「――といった感じで、烏丸さんがジャーマンスープレックスを決められて……」
「…………」
「……先生?」
「なんでもない。続けなさい」
「はあ……」
先生のその表情は、怒っているというよりも、理解できないといった困惑の表情だった。
しかもヤラカシエピソードを語れば語るほど、その困惑の色は強くなっていく。
「――とまあ、こんな感じです。はい……」
「……」
面接での出来事を最後まで話し終えても、その表情が変わることはない。
先生はしばらく無言で何かを考え続け、僕らはこれから下されるであろう沙汰をただ待つのみ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……ヤダなぁ、この時間。
「…………仕方ない、か。雪春」
「あ、はい」
ようやく苦痛の時間が終わると、先生は僕に一枚の小さな紙を手渡す。
そこには、手書きで住所が書かれていた。
「先生、これは……?」
「今からその場所に向かうように」
「……え? その、それってどういう――」
「悪いが説明はなしだ。場所だけ伝え、他には何も話さない……そういう契約だ」
「契約? あの……」
「……5、4、3――」
突如始まった謎のカウントダウンと、血管が浮きでるほど強く握られた拳。
僕らはそれを見て、全力で我先にと職員室から走り去った。
立花先生の言葉を無視する。もちろんそれも選択肢の一つではあったのだが、それをした場合、今度こそ『お前の顔面にグー』されかねないので、僕らは素直に指示に従うことにした。
学園から電車で30分。さらに徒歩5分。紙に記された住所の場所は、豪勢な家が立ち並ぶ、いわゆる高級住宅街。
その中でも、さらに一際立派な建物の前に僕らは立っている。いや、立ち尽くしているというべきだろうか。
「なあ、リーダーよぉ……。本当にここで合ってんのか?」
「……うん、間違いないはず」
広大な敷地に広大な建物。立派な門の前には複数の警備員。
そしてさらに、敷地内には
赤、青、緑の配色に王冠が描かれたそれは、国のシンボルたる
「ねえリーダー……。ここってもしかしなくても、
「あれ……だね」
そう、紙に書かれていた住所の場所は、ジール王国の
「……え? なんで? もしかしてワタシたち怒られる?」
「いや……、ちょっと面接の際に、数人ほど気絶させただけでそんな……」
「国の威信を傷つけた罪とか?」
「ちっ! 国家の犬どもが……!」
先日のやらかしがあるせいで、浮かんでくるのはネガティブな思考ばかり。
僕たちがその場でただ困惑するなか、突然大使館の門が開き、中から職員らしき人物が姿を現す。
「『
てっきりお叱りを受けると考えていた僕らだが、現れた職員さんの物腰は柔らかく、まるで歓迎するような態度を見せる。
「……どうする?」
「どうすると言われても、まあ……ついていくべきじゃない?」
結局、素直に従うことを選んだ僕らは、その職員さんが歩くあとをついていく。
敷地内に足を踏み入れ、建物の中に入り、案内されたのは来客向けであろう豪勢な部屋。
そこでしばらく待つよう伝えられ、僕らは部屋に置かれていた、これまた高級そうなソファに腰を下ろす。
「怒られる……って感じではなかったよね?」
「まだあの人だけじゃ判断はつかないさ。それに、ボクらがお叱りを受ける以外で呼び出される理由なんて、他にあるかい?」
「……あ、その、面接の結果が
「ないない」
光華はそうキッパリ言い切ると、蛇塚に向けて鋭い視線を向ける。
「途中までは良かったのに、どこかの三色頭くんがプッツンしてしまったからねえ」
「……あ? んだこらオトコオンナ。オレのせいだって言いたいのかテメェ……!」
「君と烏丸さんのせい以外にないだろ?」
「……え? ワタシも?」
「蛇塚くん、君はいい加減すぐキレるその態度を改めなよ。何度同じ過ちを重ねれば学ぶんだい?」
「お前にそんなこと言われる筋合いねぇだろうが!」
「いーや、あるね。実際チームポイントがマイナスされる形で、ボクらにもシワ寄せが来てるじゃないか」
「つってお前だって最終的には暴れてたじゃねえか!」
「ボクはただ争いを止めようとしてただけで、あれは正当防衛だ!」
「正当防衛でどうやったらキン〇バスターかけれるんだよ!?」
あーあー、ケンカするなよもう。
最近はわりと控え目だったが、蛇塚と光華――この二人はどうも性格的な相性が悪いらしく、こうしてよく衝突する。
取っ組み合いにまで発展したのも、一度や二度じゃない。
チーム合宿の時から、嫌というほど見飽きたお馴染みの光景だ。
普段なら共倒れするまで放っておくのだが、さすがに大使館というこの場ではそうもいかない。
「……烏丸さん、ちょっといいかな?」
「…………」
「烏丸さん?」
「…………」
「…………
「な、何かなリーダー……!?」
ぺっ。
「その、二人のケンカなんだけど、なんとかして止められないかな?」
このままでは、蛇塚と光華の二人が暴れ出すのは目に見えている。
それを止めるため、僕は烏丸に助力を求めた。
Dランク同士……いや、合宿後の測定で二人ともランクが上がったって話をしてたから、Cランク同士か。とにかく、そんな高ランク異能者同士の喧嘩を、僕が止められるわけないので。
ここは素直に、序列入りの異能エリート様を頼らせてもらおう。
「う、うん! わかった! ワ、ワタシに任せて!」
「あ、一応言っておくけど、できるだけ穏便に――」
「来て!
はい、初手最大火力。それ意識も止まるやつなんよ。
烏丸は右手を突き出すと、その腕全体が紫色に染まっていき、ゴボリゴボリと不定形の軟体生物――
チーム合宿の時の召喚と比べると、詠唱も必要とせず、召喚までにかかる時間もかなり短縮されている。
さすがAランク異能者、この短期間でさらに能力に磨きをかけたらしい。
見た目のキモさにも磨きがかかってるけど。
「二人とも! ケンカはダメだよ! ち、チームメイトなんだから……!」
そう告げると、烏丸は躊躇なくチームメイトにミカエルを浴びせかける。
「ちょっ!? おまっ……!」
「嘘だろ……!?」
目の前の相手に気を取られていた蛇塚と光華に、突如襲い掛かるミカエルを防ぐ
その見た目は、まるでローションを全身に塗りたくったような状態で、苦痛の叫びと共に意識を失い、二人はそのまま床に倒れ伏す。
「み、見てリーダー! ちゃんと倒したよ! えへ、ふへへ……」
「…………」
僕、二人を止めて欲しいと言っただけで、
『褒めて褒めて!』と言わんばかりのキラキラした目で僕を見つめてくる烏丸に対し、どうしたものかと考えていたその時、
「えっ?」
気絶したはずの蛇塚が、床に這いつくばりながら、烏丸の足をガシリと力強く掴んだ。そしてさらに――
「うえっ!?」
今度は、同じように気絶したはずの光華が立ち上がり、烏丸にチョークスリーパーをかけ、その首を完全に絞めにかかる。
こうなってしまえば、非力の烏丸に抗う
「な、ん……!? ぐぇぇぇ……!」
しかしなぜ、ミカエルという強力な呪いを浴び気絶したはずの二人が、当たり前のように動いているのか?
意識を回復した、というわけではない。二人は依然として白目をむいたまま。
ならば考えられる理由は一つ。蛇塚と光華、二人は意識を失いながらも、たった一つの強い意志を原動力として、その体を無意識に突き動かしているのだ。
烏丸をシバく――その意志を胸に。
「ぐぇぇぇ……。り、リーダー……だずげでぇ……」
あ、バイト先から連絡来てた。まったく、今日は無理だってずっと言ってるのに……。
「ぐぇぇ……」
僕はなんとか救出を試みたのだが、烏丸はそのまま絞め落とされ意識を失い、それに伴って蛇塚たちもまた動かなくなる。
「…………」
なんということでしょう! 職員さんから部屋に案内され、しばらく待てと言われてから十分も経たないうちに、床には粘液まみれの三つの死体(仮)が……!
あっという間に殺人現場の出来上がりです! ………………マジでどうすんだこれ。
傍から見れば、完全に僕が三人を殺った下手人だ。
しかも経緯が経緯だけに、状況をうまく説明できる気がしない。
こんなとこ誰かに見られでもしたら……。
徐々に不安や焦りが大きくなり、半ばパニックになりながら、僕は三人が目を覚ますまで誰も部屋に来ないことを祈る。
ただ残念ながら、
「お待たせしました! 『グロドラゴンブッチャリ』の皆々様!」
僕の願いも
そしてその開かれた扉の付近には、ゆったりとした落ち着きのあるドレスを身につけた
「男も女も、振り返る。老いも若きも、釘付けに。歩く後には花が咲き、その足跡は歴史そのもの。高きに君臨し、民草を照らすは太陽のごとく。さあ刮目し、傾聴せよ!
「うわあああああああああ!!!? 弁護士を呼んでくださああああああい!!!」
前口上のようなもの口にし、いざ名前を告げようとした少女だったが、意識を失い倒れている蛇塚たちの姿を見て、名乗りをキャンセルして叫び出す。
その叫びに呼応する形で、プチパニック状態だった僕も思わず叫んでしまう。
悲鳴を上げる二人の少年少女に、粘液まみれの三つの死体(仮)。
それが、僕たちミスフィットとジール王国第一王女であるリリアーナ・ガルリアの、割と最悪の部類に入る
書籍版発売まであと二日です。場所によってはもう発売されているみたいですが。
章レベルの書き下ろしもありますので、ぜひぜひ。