魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女④ / 君には弁護士を呼ぶ権利がある

 

 王女護衛の依頼を受けるため、採用試験(面接)に挑んだ僕たちミスフィットだったが、その次の日、残念ながら『今回は採用を見送る』との連絡が届いた。

 屈強な男たちを何人も気絶させ、チームの戦闘能力の高さは存分に示したはずだったが、どうやら採用基準には届かなかったらしい。

 

 というわけで、結局今回もモブ脱却は叶うことなく、だらだらと夏休みを過ごしていたある日のこと。

 

 

 『渡谷雪春 今日の13時、職員室に来るように。面接の件で話がある』

 

 

 僕は目を覚ますと同時に、お呼び出しメールが立花先生から届いていることに気づく。

 そのおかげで残っていた眠気が消し飛び、勢いよく布団を投げ飛ばして起き上がる。

 夏休みということで生活習慣が完全に崩れ、さらに昨夜は遅くまでゲームに興じていたため、起床した現在の時刻は既に14時過ぎ。

 

「まずい……! 逃げなきゃ……!」

 

 僕は最低限の身支度だけを済ませ、スマホとサイフを手に取り、すぐさま部屋を後にする。

 おそらく先日の面接で、暴力沙汰を起こしたことへの説教(という名の制裁)であることは間違いない。誰がそんな死地へと好き好んで飛び込むものか!

 幸い、今は夏休み。自分探しの旅に出たとでも言って逃げてやる。

 学園側の捜索の手がおよぶその前に、遠く、より遠く、できるだけ遠くまで……!

 海外逃亡もいいかもしれない。そんなことを考えながら、僕は勢いよく玄関の扉を開ける。

 

 

 するとそこには、鬼のような形相をした立花先生が立っていた。

 

 

「おはよう雪春、迎えに来てやったぞ」

 

「…………、っ! すみません! 今日はバイトが――!」

 

 僕は勢いよく玄関の扉を閉めようとする。がしかし、それよりも早く、その隙間に立花先生が靴を挟み、防がれてしまう。

 

「……どうした雪春。なぜ閉める」

 

 鏡見ろ! としか……。なんで顔全体に影かかってるの?

 

「開けろ」

 

「開けません!」

 

「開けろ」

 

「開けませぇん!」

 

 そうしてしばらくの間、扉を挟んで攻防を続けていると、

 

「…………チッ」

 

 おもいっきり舌打ちをしながら、ようやく諦めてくれたのか、立花先生は足を引っこめる。

 それを受け、僕は即座に鍵を閉め、チェーンをかけ、さらに異能で扉を開かないよう固めた。

 これでようやく一安心――と思いきや、

 

「学園や! はよ開けんかいゴラァ!」

 

 今度は立花先生とは違う、野太い声の男性が叫びながら、扉を乱暴に叩く。

 しかもその脅迫するような声は、一人や二人じゃない。扉の奥には何人もの人の気配を感じる。

 ちょっと待って。生徒一人迎えに来るのに職員何人動員してるの? ヤ〇ザのガサ入れじゃないんだぞ。

 

 くそっ、こうなったらこっちも意地だ。あっちが諦めるまで篭城(ろうじょう)してやろうではないか。

 幸い、引きこもるための食料は大量にある(特にカレールー)。

 一週間でも一ヶ月でも引きこもってやる!――と、気合を入れたその時、急に扉の奥が静かになったかと思うと、ボソッと告げるような立花先生の声が、僕の耳に届く。

 

「……紅原、チェーンソー」

 

「開けまぁぁぁす!」

 

 僕は迷うことなく白旗を上げた。弁護士を呼んでくれ。

 

 

 

 そうして僕はそのまま車へと連行され、両隣を教員に挟まれる形で、後部座席に押し込められる。風呂敷で車を包まれた際に逃げられない位置だ。

 車で向かう先は当然、我が学び舎。学園へと到着し、両脇を抱えられたまま職員室に連行されると、そこには蛇塚、光華、烏丸の姿もあった。

 そして三人とも、一様に絶望するような表情を浮かべており、蛇塚に至っては顔に青あざができている。

 僕も引き際を誤れば、ああなっていたかもしれない……。

 

「先生方、このたびは助力感謝します。後はこちらでやっておきますので」

 

 僕を連行してきた教員たちがそのまま部屋から退出し、職員室に残った教員は立花先生ただ一人。

 先生は椅子に深く腰をかけ、足を組んで僕らを睨みつける。

 

「さて……」

 

 どうしてやろうかこのクソガキども――そんな口にしていないはずの先生の言葉が、はっきりと聞こえた気がした。

 ちなみに、僕らは職員室の床に正座状態です。

 ただこれは、先生に正座しろと言われたからしているわけではない。

 マジギレ寸前の先生を目の前にした時、僕らは自然と正座していたのだ。

 考えるよりも早く、体が動いていた。まるで、そうあるべきだとばかりに。

 

「まず……、私の言葉に背き、勝手に依頼を受けようとした件については…………………………まあ、まあ、まあ……1万歩譲って後で追求するとしよう」

 

 許してはもらえないんすね……。

 

「今、私がお前たちから聞かなければならないのは、先日お前たちが受けた面接の内容に関してだ」

 

 先生はそう告げると、もう一段階、表情の険しさが増す。

 

 しかしその表情に、僕はかすかな違和感を覚えた。

 蛇塚たち三人は知らないだろうが、1年の時から担任が立花先生である僕は知っている。先生は怒りがピークに達する時、もっと感情的になってキレることを。

 それはもう、夏の高校球児とタメを張れるぐらいの大声で。

 だからこそ、面接の件で怒り沸騰のはずの先生が、未だ冷静に詰めてきていることに、僕は驚きを禁じ得ない。

 

「あの……内容といっても、どこまで話せばいいか…………」

 

「全てだ。全て話せ。可能な限り、一言一句(たが)えることなく、詳細にだ。もし嘘でもつこうものなら…………私はグーを出す」

 

 そんなジャンケンの心理戦みたいに……。

 

 先生のグーに対抗しようとパーを出したところで、どうせ貫かれて終わるだけ。()先生()に勝てるわけがない。

 ならば腹をくくり、素直に話すしかないだろう。

 僕は昨日の面接での出来事を、事細かに説明していく。

 嘘はつかず、されどそれとなく、悪いのは暴れた烏丸や蛇塚であって僕ではないですよ――とアピールしながら。

 とはいえ、どれだけ取り繕うとヤラカシはヤラカシ。

 先生のガチギレは避けられない……そう考えていたのだが――

 

「――といった感じで、烏丸さんがジャーマンスープレックスを決められて……」

 

「…………」

 

「……先生?」

 

「なんでもない。続けなさい」

 

「はあ……」

 

 先生のその表情は、怒っているというよりも、理解できないといった困惑の表情だった。

 しかもヤラカシエピソードを語れば語るほど、その困惑の色は強くなっていく。

 

「――とまあ、こんな感じです。はい……」

 

「……」

 

 面接での出来事を最後まで話し終えても、その表情が変わることはない。

 先生はしばらく無言で何かを考え続け、僕らはこれから下されるであろう沙汰をただ待つのみ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……ヤダなぁ、この時間。

 

「…………仕方ない、か。雪春」

 

「あ、はい」

 

 ようやく苦痛の時間が終わると、先生は僕に一枚の小さな紙を手渡す。

 そこには、手書きで住所が書かれていた。

 

「先生、これは……?」

 

「今からその場所に向かうように」

 

「……え? その、それってどういう――」

 

「悪いが説明はなしだ。場所だけ伝え、他には何も話さない……そういう契約だ」

 

「契約? あの……」

 

「……5、4、3――」

 

 突如始まった謎のカウントダウンと、血管が浮きでるほど強く握られた拳。

 僕らはそれを見て、全力で我先にと職員室から走り去った。

 

 

 

 

 立花先生の言葉を無視する。もちろんそれも選択肢の一つではあったのだが、それをした場合、今度こそ『お前の顔面にグー』されかねないので、僕らは素直に指示に従うことにした。

 学園から電車で30分。さらに徒歩5分。紙に記された住所の場所は、豪勢な家が立ち並ぶ、いわゆる高級住宅街。

 その中でも、さらに一際立派な建物の前に僕らは立っている。いや、立ち尽くしているというべきだろうか。

 

「なあ、リーダーよぉ……。本当にここで合ってんのか?」

 

「……うん、間違いないはず」

 

 広大な敷地に広大な建物。立派な門の前には複数の警備員。

 そしてさらに、敷地内には()が高く掲げられ、風になびいている。

 赤、青、緑の配色に王冠が描かれたそれは、国のシンボルたるジール王国の国旗(・・・・・・・・)

 

「ねえリーダー……。ここってもしかしなくても、あれ(・・)……だよね?」

 

「あれ……だね」

 

 そう、紙に書かれていた住所の場所は、ジール王国の大使館(・・・)だった。

 

「……え? なんで? もしかしてワタシたち怒られる?」

 

「いや……、ちょっと面接の際に、数人ほど気絶させただけでそんな……」

 

「国の威信を傷つけた罪とか?」

 

「ちっ! 国家の犬どもが……!」

 

 先日のやらかしがあるせいで、浮かんでくるのはネガティブな思考ばかり。

 僕たちがその場でただ困惑するなか、突然大使館の門が開き、中から職員らしき人物が姿を現す。

 

「『愚蓮(ぐれん)努羅魂(どらごん)仏血切離(ぶっちぎり)』の皆さまですね? お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

 てっきりお叱りを受けると考えていた僕らだが、現れた職員さんの物腰は柔らかく、まるで歓迎するような態度を見せる。

 

「……どうする?」

 

「どうすると言われても、まあ……ついていくべきじゃない?」

 

 結局、素直に従うことを選んだ僕らは、その職員さんが歩くあとをついていく。

 敷地内に足を踏み入れ、建物の中に入り、案内されたのは来客向けであろう豪勢な部屋。

 そこでしばらく待つよう伝えられ、僕らは部屋に置かれていた、これまた高級そうなソファに腰を下ろす。

 

「怒られる……って感じではなかったよね?」

 

「まだあの人だけじゃ判断はつかないさ。それに、ボクらがお叱りを受ける以外で呼び出される理由なんて、他にあるかい?」

 

「……あ、その、面接の結果が(くつがえ)って、護衛の任務を受けられるとか……」

 

「ないない」

 

 光華はそうキッパリ言い切ると、蛇塚に向けて鋭い視線を向ける。

 

「途中までは良かったのに、どこかの三色頭くんがプッツンしてしまったからねえ」

 

「……あ? んだこらオトコオンナ。オレのせいだって言いたいのかテメェ……!」

 

「君と烏丸さんのせい以外にないだろ?」

 

「……え? ワタシも?」

 

「蛇塚くん、君はいい加減すぐキレるその態度を改めなよ。何度同じ過ちを重ねれば学ぶんだい?」

 

「お前にそんなこと言われる筋合いねぇだろうが!」

 

「いーや、あるね。実際チームポイントがマイナスされる形で、ボクらにもシワ寄せが来てるじゃないか」

 

「つってお前だって最終的には暴れてたじゃねえか!」

 

「ボクはただ争いを止めようとしてただけで、あれは正当防衛だ!」

 

「正当防衛でどうやったらキン〇バスターかけれるんだよ!?」

 

 あーあー、ケンカするなよもう。

 

 最近はわりと控え目だったが、蛇塚と光華――この二人はどうも性格的な相性が悪いらしく、こうしてよく衝突する。

 取っ組み合いにまで発展したのも、一度や二度じゃない。

 チーム合宿の時から、嫌というほど見飽きたお馴染みの光景だ。

 普段なら共倒れするまで放っておくのだが、さすがに大使館というこの場ではそうもいかない。

 

「……烏丸さん、ちょっといいかな?」

 

「…………」

 

「烏丸さん?」

 

「…………」

 

「…………冬歌(とうか)さん」

 

「な、何かなリーダー……!?」

 

 ぺっ。

 

「その、二人のケンカなんだけど、なんとかして止められないかな?」

 

 このままでは、蛇塚と光華の二人が暴れ出すのは目に見えている。

 それを止めるため、僕は烏丸に助力を求めた。

 Dランク同士……いや、合宿後の測定で二人ともランクが上がったって話をしてたから、Cランク同士か。とにかく、そんな高ランク異能者同士の喧嘩を、僕が止められるわけないので。

 ここは素直に、序列入りの異能エリート様を頼らせてもらおう。

 

「う、うん! わかった! ワ、ワタシに任せて!」

 

「あ、一応言っておくけど、できるだけ穏便に――」

 

「来て! 厄災の泥人形(ミカエル)!」

 

 はい、初手最大火力。それ意識も止まるやつなんよ。

 

 烏丸は右手を突き出すと、その腕全体が紫色に染まっていき、ゴボリゴボリと不定形の軟体生物――厄災の泥人形(ミカエル)(にじ)み出るように生み出されていく。

 チーム合宿の時の召喚と比べると、詠唱も必要とせず、召喚までにかかる時間もかなり短縮されている。

 さすがAランク異能者、この短期間でさらに能力に磨きをかけたらしい。

 見た目のキモさにも磨きがかかってるけど。

 

「二人とも! ケンカはダメだよ! ち、チームメイトなんだから……!」

 

 そう告げると、烏丸は躊躇なくチームメイトにミカエルを浴びせかける。

 

「ちょっ!? おまっ……!」

 

「嘘だろ……!?」

 

 目の前の相手に気を取られていた蛇塚と光華に、突如襲い掛かるミカエルを防ぐ(すべ)などあるはずもなく、二人はミカエルを全身に浴びてしまう。

 その見た目は、まるでローションを全身に塗りたくったような状態で、苦痛の叫びと共に意識を失い、二人はそのまま床に倒れ伏す。

 

「み、見てリーダー! ちゃんと倒したよ! えへ、ふへへ……」

 

「…………」

 

 僕、二人を止めて欲しいと言っただけで、仕留(しと)めろとは言ってないんですけど……。

 『褒めて褒めて!』と言わんばかりのキラキラした目で僕を見つめてくる烏丸に対し、どうしたものかと考えていたその時、

 

「えっ?」

 

 気絶したはずの蛇塚が、床に這いつくばりながら、烏丸の足をガシリと力強く掴んだ。そしてさらに――

 

「うえっ!?」

 

 今度は、同じように気絶したはずの光華が立ち上がり、烏丸にチョークスリーパーをかけ、その首を完全に絞めにかかる。

 こうなってしまえば、非力の烏丸に抗う(すべ)はない。

 

「な、ん……!? ぐぇぇぇ……!」

 

 しかしなぜ、ミカエルという強力な呪いを浴び気絶したはずの二人が、当たり前のように動いているのか?

 意識を回復した、というわけではない。二人は依然として白目をむいたまま。

 ならば考えられる理由は一つ。蛇塚と光華、二人は意識を失いながらも、たった一つの強い意志を原動力として、その体を無意識に突き動かしているのだ。

 

 烏丸をシバく――その意志を胸に。

 

「ぐぇぇぇ……。り、リーダー……だずげでぇ……」

 

 あ、バイト先から連絡来てた。まったく、今日は無理だってずっと言ってるのに……。

 

「ぐぇぇ……」

 

 僕はなんとか救出を試みたのだが、烏丸はそのまま絞め落とされ意識を失い、それに伴って蛇塚たちもまた動かなくなる。

 

「…………」

 

 なんということでしょう! 職員さんから部屋に案内され、しばらく待てと言われてから十分も経たないうちに、床には粘液まみれの三つの死体(仮)が……!

 あっという間に殺人現場の出来上がりです! ………………マジでどうすんだこれ。

 

 傍から見れば、完全に僕が三人を殺った下手人だ。

 しかも経緯が経緯だけに、状況をうまく説明できる気がしない。

 こんなとこ誰かに見られでもしたら……。

 徐々に不安や焦りが大きくなり、半ばパニックになりながら、僕は三人が目を覚ますまで誰も部屋に来ないことを祈る。

 

 ただ残念ながら、その人物(・・・・)が部屋に現れることは既定路線だったわけで――

 

 

「お待たせしました! 『グロドラゴンブッチャリ』の皆々様!」

 

 

 僕の願いも(むな)しく、透き通るような大声と共に、部屋の扉が勢いよく開かれる。

 そしてその開かれた扉の付近には、ゆったりとした落ち着きのあるドレスを身につけた白髪(はくはつ)の少女が、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしていた。

 

「男も女も、振り返る。老いも若きも、釘付けに。歩く後には花が咲き、その足跡は歴史そのもの。高きに君臨し、民草を照らすは太陽のごとく。さあ刮目し、傾聴せよ! (わたくし)こそが偉大なるジール王国第一王女、リリア…………おわああああああああああ!!!?」

 

「うわあああああああああ!!!? 弁護士を呼んでくださああああああい!!!」

 

 前口上のようなもの口にし、いざ名前を告げようとした少女だったが、意識を失い倒れている蛇塚たちの姿を見て、名乗りをキャンセルして叫び出す。

 その叫びに呼応する形で、プチパニック状態だった僕も思わず叫んでしまう。

 

 

 

 悲鳴を上げる二人の少年少女に、粘液まみれの三つの死体(仮)。

 それが、僕たちミスフィットとジール王国第一王女であるリリアーナ・ガルリアの、割と最悪の部類に入る正式な(・・・)ファーストコンタクトだった。

 

 

 




書籍版発売まであと二日です。場所によってはもう発売されているみたいですが。
章レベルの書き下ろしもありますので、ぜひぜひ。
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