魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
大使館から呼び出しを受け、王女様の友人役を引き受けることになった次の日。
僕らミスフィットは、早速その友人役の任を遂行するため、メンター室へと集まっていた。
「さて、今日から王女様と行動を共にする日々が始まるわけだけど…………なんだかんだ言って、みんな来たんだね」
依頼は護衛ではなく友人役。ならば僕だけでも問題ないため、気が向かなければ参加しなくていい。
そうチームメイトには伝えていたのだが、メンター室には蛇塚、光華、烏丸と勢揃いしている。
「まあ……ポイント面で迷惑かけてるのは確かだからな。マイナス分の働きくらいはしてやるよ」
さすが
「まあ懸念があるとはいえ、一国の王族が関わる任務なのは確かだ。リーダーだけに任せて、その栄誉を独占されるのはしゃくだからね」
さすが
「ワ、ワタシはもともと参加するつもりだったよ! うへ、へへへ……友人かぁ……」
……おかしいな。烏丸は昨日ずっと気絶してたから、今日ここで集まることは知らないはずなのに……。
「それで、王女様はいつ来るんだい?」
「えっと……、大体あと一時間くらいかな」
「んだよ、まだかなり時間あるじゃねえか」
蛇塚の言う通り、王女様との合流予定時刻よりも、かなり早い時間に僕は集合をかけている。
というのも、王女様が到着する前に、蛇塚たちには伝えなければならないことがあるからだ。
「みんな……これを見てほしい」
そう言って、僕は複数枚の写真を懐から取りだし、三人に見えるよう机の上に広げる。
鉄格子で仕切られた、殺風景な部屋の写真を。
「ん? なんだこれ…………牢屋?」
「いろんなタイプのものがあるね」
「こ、これがどうかしたの……?」
三人ともがその写真に写っているものを理解し、そして疑問を生じたところで、僕は疑問の答えを告げる。
「えー、こほん…………『その中から好きな部屋を選んでおけ。もし国際問題になるような大問題を起こせば、その時はそこがお前たちの
「…………」
「…………」
その伝言を僕に託した時の立花先生が、一体どんな顔をしていたか……。そんなわかりきったこと、わざわざ言うまでもないだろう。
しばらくの間、僕らはただ黙って写真を見つめ続けた。
「…………まあ、あれだろ。問題起こさなきゃいいだけだろ」
「そうだとも。国際問題レベルのやらかしなんて、そう簡単に起こせるものじゃないんだから。………………ところで、どこからが国際問題になると思う?」
弱気が漏れてるぞ。
とにかく、これだけ脅しておけば蛇塚と光華は大丈夫だろう。問題は……、
「その、から……冬歌さん」
「……えっ!? あ、はい! 冬歌です! ふへへ……」
いい返事ね。
「その……今日はさ、家の用事とか入ってたりしないかな~なんて……」
「え? なんで知ってるの?」
だよね。そんな都合よく用事が入ってるわけ……
「えっ!? 入ってるの!?」
「う、うん。『家の』じゃないけど、用事があって午後からは任務に参加できなくて……」
「そうだったんだ……。ありがとう、冬歌さん」
「見直したぜ烏丸。お前は最高だ」
「自分のすべきことを理解し、行動できるなんて……。成長したね、烏丸さん」
「あれ、今ワタシなんで褒められてるの? 何もしてないのに」
何もしてないから……かな。
「ちなみに用事って?」
「あ、その……ワタシ、今日の個人戦に出るの」
「個人戦って……え、もしかして
「うん。Aランクで序列入りしてると、学内予選は免除されるから」
へえ、そんな優遇制度あったんだ。知らなかった。
でも意外だったな。いくら予選が免除されるとはいえ、異能バトルに烏丸が積極的に参加するなんて。
「どういう風の吹き回しだよ。この前は『荒事は苦手』とか言ってたじゃねえか」
荒事には愛されてるのにね。
「その、最初はワタシも出るつもりなかったんだけど……。でも、ワタシ考えたの。ワタシが拳聖祭に出て、そこですっごく活躍すれば、チームの……『
最初は自信なさげな小さな声。しかし言葉を重ねるにつれ、その声量は少しずつ大きくなっていく。
「ワタシは、チームのみんなに迷惑かけてばかりだから。こうやって、異能だったり、じ、自分の活躍できる分野で頑張ろうって、ワタシ決めたの……! みんなにミスをカバーしてもらってる分、ワタシが功績を挙げて、みんなでその喜びを分かち合えるように……!」
「冬歌さん……」
それは決意表明だった。烏丸は力強く拳を握り、今まで見たことないような真剣な表情で僕らを見つめる。
チームのためになりたい――そんな本気の思いが痛いほど伝わってくる姿を見て、僕は…………いや、僕だけでなく蛇塚と光華も同じ思いを抱いたはずだ。彼女に対して願う、唯一の切実な思い。それは――
――チームのためを思うなら、頼むから何もしないでくれ。
やる気になっているところ非常に申し訳ないが、既に僕らの烏丸に対する信頼度はゼロに等しい。
ただここで水を差してしまい、やはり任務に参加すると言われては困るので、僕らは黙って顔に笑みを貼り付ける。
「あ、でも安心して。試合は午後からだから、午前中はみんなと一緒に行動できるよ」
「ダメだよ冬歌さん!」
「え?」
「そうだとも、リーダーの言う通りだよ烏丸さん。大切な試合なんだ、しっかり準備しとかないと。対戦相手の情報収集、会場の下見、やれることはいくらでもあるんだから」
「こっちのことはオレらで大丈夫だ。お前は拳聖祭のことだけに集中してろ」
「み、みんな……!」
自分を後押しするチームメイトからの言葉の数々。それらを受け、烏丸は感動するように身体を震わせる。
「ワタシ……頑張る! 絶対、絶対に優勝してみせるから! じゃあみんなの言う通り、しっかり準備してくるね!」
そう力強く宣言すると、烏丸は勢いよくメンター室から駆け出していった。
そんな烏丸を笑顔で見送り、烏丸の姿が見えなくなると、僕らは即座に真顔へと表情を戻す。
「……さて、これで今僕たちができる最高の布陣が整った」
「ああ、こうなったらもう言い訳できねえな」
「気合を入れていこう。日本とジール王国、二国間の友好関係維持のために」
「ノンノン! 気を張り過ぎです。もっとリラックスしていきましょう」
「…………」
「…………」
「…………」
「「「……………………誰?」」」
白い長髪を後ろでくくり、メガネをかけたその少女は、気がつけばメンター室にいて、僕たちの輪の中に入っていた。
かなり日本人離れした容姿であるため、海外の異能学園の生徒かもしれない。少なくとも、その少女と僕に
それは蛇塚と光華も同じのようで、初対面にもかかわらず驚くほど距離の近い少女の行動に、僕らは思わず固まってしまう。
「友人たるもの、いつでも気兼ねなく接するべし。そうでしょ?
ユキーって……、それ王女様と同じ呼び方じゃ――
「――え!? 王女様!?」
「……あっ」
「ウソッ!?」
この時、僕は初めて目の前の少女が王女様であることを
蛇塚と光華も、僕が『王女様』と口にしたことで、初めてその事実に気づいたらしい。
たしかに、今日の王女様の姿は、昨日のものとは異なる。
しかし変装と呼べるほどのものではなく、ただ髪型を変え、メガネをかけ、服装をドレスから制服に変えただけ。
それでも僕たちは、目の前の少女が王女様であることを即座に見抜けなかった。
「フッフー! 昨日のリベンジは成功といったところでしょうか。驚きました? ただ雰囲気を変えてるだけでなく、認識阻害の異能も施してるんですよ」
そう満足気に笑いながら、王女様はその場でくるりと回ってみせる。
なびく髪に、ひるがえる制服のスカート、そして無邪気な笑顔。その全てに自然と目が惹かれてしまう。
「とはいえ、それほど強力なものではありませんので、キッカケさえ与えてしまえば、すぐに気づかれてしまうんですけどね」
なるほど……。僕がさっき気づけたのは、あだ名で呼ばれて王女様のことを連想したからか。
「ですので、私の溢れ出るオーラまでは隠しきれず、こうして簡単にバレてしま――」
「へえ、すげえな。全然気づかなかったぜ」
「…………そうですか」
あーあー、蛇塚の悪意なき言葉が刺さっちゃった。
しかし、それで王女様のテンションが落ち込んだのは一瞬だけ。僕らが何か告げるまでもなく、すぐさま王女様は元の勢いを取り戻す。
「と・に・か・く! こうして変装もしているので、周囲にバレる心配は無用ということです! さあ行きましょう! セイシュンはあっという間に過ぎ去るもの。一秒でも無駄にできませんよ!」
まさに勢いのまま。王女様はすぐさま部屋から飛び出そうとするが、僕はそれに待ったをかける。
「あのっ!」
「ん? どうしました? ユキー」
「その、まだ事前に聞いていた時間よりかなり早いんですけど、大丈夫なんですか? いろいろ準備とか……」
「え、時間って守らないといけないんですか? 私、王族なんですけど……?」
世界中の王族に謝れ。
「いいんです! 問題などありません! 私が時間に合わせるのではなく、時間が私に合わせるべきなのです! では改めて行きましょう!!!」
無茶苦茶言いよるなこの姫さま。
「ちょっ!?」
「お、おい! 引っ張んなって!」
自分こそが主人公であり、世界の中心である――そのことを微塵も疑わないような様子で、王女様は蛇塚と光華を引っ張り、メンター室の外へと駆け出していく。
まるでルウをそのまま大きくしたような王女様の言動に、僕らは初っ端から振り回されてしまう。
ただ……、そんな王女様の
拳聖祭とは、ただ生徒たちの異能試合が行われるだけではない。
学園内には数多くの屋台が立ち並び、設営された野外ステージでは様々なショーが開催される。
街全体にまで熱気が広がるその様子は、まさに“
とりあえず今日の午前中の予定は、その屋台やショーを王女様と共に見て回る、というものなのだが……
「次、あっちに行きましょう!」
「あっ、ちょっ!? 待って王……リリアさん! 僕らの傍から離れないで!」
「お品書きのここからここまで全部ください。え、お金? そんなもの持ってません。アキー、払ってください」
「ふざけんなテメェ!」
「ねえそこのかわい子ちゃん、これから俺たちと遊ばない?」
「おや、これがジャパニーズナンパというやつですか。そうですね……もう少し情熱的に、なおかつ魅惑的にお誘いいだけるのであれば――」
「すみません! この子、ボクの連れなんで!!!」
『誰だ!? 竹田に火器渡したアホは!?』
『店長! 運営委員の見回りが来ます!』
『違法食材を奥に隠して!』
「ユキー、なにやらあそこが楽しそ――」
「あそこだけは絶対にダメです!!!」
あまりにも自由に動き回る王女様に、僕らはずっと振り回されっぱなし。こんなもの友人役というより、ただのお守りだ。
僕らが何かやらかすよりも、王女様自身がやらかす方が早い気がしてきた。
「ユキー、この元気が出るというクッキー、食べてみてくれません? 美味しかったら私も食べます」
嫌です。
そんなふうに、慌ただしすぎる午前中を過ごし、現在の時刻は正午過ぎ。
午後からの予定は試合観戦のため、僕らは個人戦が行われるスタジアムに移動し、各校の代表選手たちによる異能バトルを観戦していた。
もちろんVIP席などではなく、一般の観戦席から。
『試合終了~! 本日の個人戦第六試合、勝者は
試合には実況解説もついており、放送部の生徒が晴れ舞台とばかりに、気合を入れて実況を行っている。
『それでは特別ゲストの方にお話を伺いましょう。解説の立花先生、先ほどの試合をどう見られました?』
『赤花の勝ちだ』
『あ、いや、それはわかっていますので……、内容について触れていただけたらなと……』
『勝ったはいいものの、攻防の入れ替わり時に隙が多い。私なら五度は殺している』
『…………えー、愛のある厳しいコメント、ありがとうございました。続きまして――』
絶対人選ミスだろ。
「ユキー、ユキー。次の試合はどうなってますか?」
「ちょっと待ってください。えっと……」
僕は王女様に問われ、無料で配られていたパンフレットを開き、次の対戦カードを確認する。
すると第七試合、そこには『烏丸冬歌』の文字があった。
「あ……次、烏丸さんの試合だ」
「おや、あの小さい子の試合ですか。それは楽しみですね」
「…………」
正直なところ、楽しみよりも不安の方が大きく、なんなら今からでも棄権してくれないかなとさえ思っている。
とはいえ、仮にもチームメイトがやる気を出し、僕たちのチーム……いや、学園の代表として試合に出場するのだ。
ならばこれまでのヤラカシは一旦置いておいて、素直に応援するのが筋というもの。
烏丸が出てきたら、力の限り声援をおく――
『――続きまして、第七試合…………の予定でしたが、対戦前控え室にて、出場予定の烏丸選手が対戦相手の田中選手に対し、試合出場が不可能となる危害を加えたため、規定により烏丸選手を失格処分といたします。そのため、第八試合の時間が繰り上がり――』
ほんまあいつ……。
「はぁ! ふざけんなよ! どこのチームのやつだ!?」
「『愚蓮努羅魂仏血切離』!? いかにもガラの悪そうなチーム名じゃねえか! 珍走団かよ!」
突然のアナウンスに、試合を楽しみにしていた観客から怒号が飛び交う。
これでウチのチームも、一躍有名チームの仲間入りというわけだ。悪名の方で。
「……その、なんと言ったらいいかわかりませんが、周囲の視線などあまり気にせず……」
あ、次の試合、冬二が出るんだ。これは応援しないと。
「蛇塚くん、それ何食べてるんだい?」
「王様ガエルの丸焼き」
「……あら? もしかして、あまりショックじゃない感じですか?」
慣れてますので。
「どうやら心配は無用だったようですね。それにしても、羨ましい限りです。こんな素敵な催し、私も出てみたかったのですが、立場ゆえにそれも叶わず……」
「はっ、どうせチキってるだけだろが」
拳聖祭に参加できず、そのことに悲しむ様子を見せる王女様。そんな王女様に対し、蛇塚のとる態度は冷たい。
おそらく、先ほど散々振り回されたことを根に持っているのだろう。
「む、私が怖がっていると言いたいのですか? アキー」
「だからそう言ってんだろうが。ビビり王女が」
「こらこら二人とも、喧嘩はやめなって」
光華は険悪な雰囲気になりつつあった二人の間に入り、その言い争いを止めようとする。
しかし、王女様はそんな光華を手で制した。
「いいえナッツ、王女たるもの……ここまで言われては、引くわけにはいきません」
そう告げると、王女様は携帯を取りだし、どこかへと電話をかける。
「私の持てる全ての権力をフル活用し、今から個人戦に参戦してみせましょう! もしも試合で私の体に消えることのない傷でもつこうものなら、私の周囲の様々な人物の首が飛び、それこそリアルに首が飛ぶ者もでると思いますが。ええ、舐められっぱなしでは王女の沽券に関わるというもの! あっ、コーネですか!? 今から私の部下全員に辞職願と遺書を書かせるよう――!」
「わかった! オレが悪かったから! やめろやめろ!」
あーあ……蛇塚のやつ、見事に王女様の手玉に取られてるな。
とまあそうなふうに、ここでも王女様に振り回されながらワチャワチャやっていると、いつの間にか次の試合が始まろうとしていた。
『さあ、お待たせいたしました! これより第八試合の開始となります! 選手が入場してきますので、みなさま盛大な拍手を!』
実況の言葉と同時に、スタジアムに二人の選手が入場する。
各校の代表選手として、大観衆のなか堂々と歩く二人のうち一人は、我が友人である綿谷冬二だ。
「なるほど、あれが噂の『現人神』くんですか」
「え、リリアさん、冬二のこと知ってるんですか?」
「ええ、彼の名はこちらでも有名ですよ。なんせウン百年ぶりに誕生した『現人神』ですから」
……へえ、すごいな冬二のやつ。まだ学生なのに、もう欧州の方にまで名前が知られてるなんて。
「とはいえ、彼が勝つのは厳しいでしょうね。なんせ彼は今大会、『異能を無効化する力』の使用を禁じられていますから」
え、なんで?
「『異能を競い合う大会において、異能の無効化はその趣旨に反する』――というのが、大会運営委員の公式発表です」
「んだそれ、完全にただのイチャモンじゃねえか」
「ええ、アキーの言う通りです。運営側の発表した理由はあくまで建前。実際のところは、少しでも自分たちの学園を有利にしようとする各校の関係者に、圧をかけられたから――といったところでしょう。運営側がすんなり圧に折れたのは、少し気になるところですが……」
おやおやまあまあ、名が知られているどころか、随分と警戒されてるようで。
「しかも不運なことに、彼の対戦相手はAランク異能者であり、我がサラスティナのエース。個人戦の優勝候補でもある相手に、ハンデありではさすがの『現人神』も勝つのは厳しいでしょう」
そう告げる王女様の表情には、かすかに哀れみが込められていた。
王女様だけではない。周囲の観客たちも同じような表情をしており、誰一人として冬二が勝つとは思っていない――そんな空気が会場中からヒシヒシと感じられる。
だがしかし、それでも僕は断言しよう。この試合、勝つのは綿谷冬二なのだと。
試合開始から十五分後――
『な、なんと……! 第八試合の勝者は……綿谷冬二だぁ!!!』
試合の決着がついたスタジアム中央には、拳を高々と突き上げる冬二の姿。
そんな冬二に対し、観客たちは割れんばかりの大歓声を送る。
「これは…………ちょっとすごいですね」
思わず――といったふうにつぶやいた王女様の表情に、哀れみの感情は既にない。
試合は最初、冬二が相手の異能攻撃を受け続ける一方的な展開だった。
その時点では、誰もが冬二の負けを信じて疑わなかっただろう。
しかし冬二はどれだけ攻撃を受けても倒れず、ボロボロになりながら反撃のチャンスを伺い続けた。
そして試合後半、攻撃を見切ったのか、次第に相手の異能が冬二に通用しなくなり、そこから冬二の反転攻勢。
ついには相手を気絶させ、見事勝利を勝ち取ってみせた。
ハンデを背負い、劣勢状態のなか、傷だらけになっても諦めず戦い続たその姿に、観客たちはさぞや感動させられたことだろう。
そして予感したはずだ。この大会は、綿谷冬二を中心に回っていくのだと。
天から主人公であることを宿命づけられた存在。それこそが綿谷冬二なのだから。
「…………」
「ん? リーダー、どこ行くんだい?」
「ちょっとお手洗い」
光華に行き先を伝え、まだ観客たちの熱が冷めやらぬなか、僕は冬二から目を逸らすように席を立った。
「ダサいな……」
僕と冬二の進む道が違うことなんて、とっくにわかりきっている。冬二は冬二なりに、僕は僕なりに頑張ればいい。
今だって、大会にこそ出てないものの、王女様の秘密の友人役なんていう、普通じゃないイベントをこなしてるじゃないか。
……そうやって、どれだけ自分に言い聞かせても、心の内に潜むドス黒い感情は消えてくれない。
羨ましい。同じスタート地点だったはずの相手が、今や世界中で名を知られ、賞賛を浴びている。羨ましい、羨ましい、妬ましい――そんな思いが、自然と溢れ出してしまう。
親友の活躍を心から喜べない。そんな自分に嫌気がさし、自覚できるくらい表情を歪めながら、観客席の間を歩いていく。
そんな僕の後ろ姿を、王女様が鋭い眼差しで見つめていたとも知らずに。
烏丸がメンター室に現れた際の雪春のコメント
「誰も呼んでないのに 勝手に来た」