魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑥ / 逸らす羨望の眼差し

 

 大使館から呼び出しを受け、王女様の友人役を引き受けることになった次の日。

 僕らミスフィットは、早速その友人役の任を遂行するため、メンター室へと集まっていた。

 

「さて、今日から王女様と行動を共にする日々が始まるわけだけど…………なんだかんだ言って、みんな来たんだね」

 

 依頼は護衛ではなく友人役。ならば僕だけでも問題ないため、気が向かなければ参加しなくていい。

 そうチームメイトには伝えていたのだが、メンター室には蛇塚、光華、烏丸と勢揃いしている。

 

「まあ……ポイント面で迷惑かけてるのは確かだからな。マイナス分の働きくらいはしてやるよ」

 

 さすが蛇塚(根はマジメ)

 

「まあ懸念があるとはいえ、一国の王族が関わる任務なのは確かだ。リーダーだけに任せて、その栄誉を独占されるのはしゃくだからね」

 

 さすが光華(根はクズ)

 

「ワ、ワタシはもともと参加するつもりだったよ! うへ、へへへ……友人かぁ……」

 

 ……おかしいな。烏丸は昨日ずっと気絶してたから、今日ここで集まることは知らないはずなのに……。

 

「それで、王女様はいつ来るんだい?」

 

「えっと……、大体あと一時間くらいかな」

 

「んだよ、まだかなり時間あるじゃねえか」

 

 蛇塚の言う通り、王女様との合流予定時刻よりも、かなり早い時間に僕は集合をかけている。

 というのも、王女様が到着する前に、蛇塚たちには伝えなければならないことがあるからだ。

 

「みんな……これを見てほしい」

 

 そう言って、僕は複数枚の写真を懐から取りだし、三人に見えるよう机の上に広げる。

 鉄格子で仕切られた、殺風景な部屋の写真を。

 

「ん? なんだこれ…………牢屋?」

 

「いろんなタイプのものがあるね」

 

「こ、これがどうかしたの……?」

 

 三人ともがその写真に写っているものを理解し、そして疑問を生じたところで、僕は疑問の答えを告げる。

 

「えー、こほん…………『その中から好きな部屋を選んでおけ。もし国際問題になるような大問題を起こせば、その時はそこがお前たちの(つい)住処(すみか)だ』…………以上が、立花先生からの伝言となります」

 

「…………」

 

「…………」

 

 その伝言を僕に託した時の立花先生が、一体どんな顔をしていたか……。そんなわかりきったこと、わざわざ言うまでもないだろう。

 しばらくの間、僕らはただ黙って写真を見つめ続けた。

 

「…………まあ、あれだろ。問題起こさなきゃいいだけだろ」

 

「そうだとも。国際問題レベルのやらかしなんて、そう簡単に起こせるものじゃないんだから。………………ところで、どこからが国際問題になると思う?」

 

 弱気が漏れてるぞ。

 

 とにかく、これだけ脅しておけば蛇塚と光華は大丈夫だろう。問題は……、

 

「その、から……冬歌さん」

 

「……えっ!? あ、はい! 冬歌です! ふへへ……」

 

 いい返事ね。

 

「その……今日はさ、家の用事とか入ってたりしないかな~なんて……」

 

「え? なんで知ってるの?」

 

 だよね。そんな都合よく用事が入ってるわけ……

 

「えっ!? 入ってるの!?」

 

「う、うん。『家の』じゃないけど、用事があって午後からは任務に参加できなくて……」

 

「そうだったんだ……。ありがとう、冬歌さん」

 

「見直したぜ烏丸。お前は最高だ」

 

「自分のすべきことを理解し、行動できるなんて……。成長したね、烏丸さん」

 

「あれ、今ワタシなんで褒められてるの? 何もしてないのに」

 

 何もしてないから……かな。

 

「ちなみに用事って?」

 

「あ、その……ワタシ、今日の個人戦に出るの」

 

「個人戦って……え、もしかして拳聖祭(けんせいさい)に出るってこと?」

 

「うん。Aランクで序列入りしてると、学内予選は免除されるから」

 

 へえ、そんな優遇制度あったんだ。知らなかった。

 でも意外だったな。いくら予選が免除されるとはいえ、異能バトルに烏丸が積極的に参加するなんて。

 

「どういう風の吹き回しだよ。この前は『荒事は苦手』とか言ってたじゃねえか」

 

 荒事には愛されてるのにね。

 

「その、最初はワタシも出るつもりなかったんだけど……。でも、ワタシ考えたの。ワタシが拳聖祭に出て、そこですっごく活躍すれば、チームの……『愚蓮(ぐれん)努羅魂(どらごん)仏血切離(ぶっちぎり)』の評判も上がるんじゃないかって……!」

 

 最初は自信なさげな小さな声。しかし言葉を重ねるにつれ、その声量は少しずつ大きくなっていく。

 

「ワタシは、チームのみんなに迷惑かけてばかりだから。こうやって、異能だったり、じ、自分の活躍できる分野で頑張ろうって、ワタシ決めたの……! みんなにミスをカバーしてもらってる分、ワタシが功績を挙げて、みんなでその喜びを分かち合えるように……!」

 

「冬歌さん……」

 

 それは決意表明だった。烏丸は力強く拳を握り、今まで見たことないような真剣な表情で僕らを見つめる。

 チームのためになりたい――そんな本気の思いが痛いほど伝わってくる姿を見て、僕は…………いや、僕だけでなく蛇塚と光華も同じ思いを抱いたはずだ。彼女に対して願う、唯一の切実な思い。それは――

 

 

 ――チームのためを思うなら、頼むから何もしないでくれ。

 

 

 やる気になっているところ非常に申し訳ないが、既に僕らの烏丸に対する信頼度はゼロに等しい。

 ただここで水を差してしまい、やはり任務に参加すると言われては困るので、僕らは黙って顔に笑みを貼り付ける。

 

「あ、でも安心して。試合は午後からだから、午前中はみんなと一緒に行動できるよ」

 

「ダメだよ冬歌さん!」

 

「え?」

 

「そうだとも、リーダーの言う通りだよ烏丸さん。大切な試合なんだ、しっかり準備しとかないと。対戦相手の情報収集、会場の下見、やれることはいくらでもあるんだから」

 

「こっちのことはオレらで大丈夫だ。お前は拳聖祭のことだけに集中してろ」

 

「み、みんな……!」

 

 自分を後押しするチームメイトからの言葉の数々。それらを受け、烏丸は感動するように身体を震わせる。

 

「ワタシ……頑張る! 絶対、絶対に優勝してみせるから! じゃあみんなの言う通り、しっかり準備してくるね!」

 

 そう力強く宣言すると、烏丸は勢いよくメンター室から駆け出していった。

 そんな烏丸を笑顔で見送り、烏丸の姿が見えなくなると、僕らは即座に真顔へと表情を戻す。

 

「……さて、これで今僕たちができる最高の布陣が整った」

 

「ああ、こうなったらもう言い訳できねえな」

 

「気合を入れていこう。日本とジール王国、二国間の友好関係維持のために」

 

「ノンノン! 気を張り過ぎです。もっとリラックスしていきましょう」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「「「……………………誰?」」」

 

 白い長髪を後ろでくくり、メガネをかけたその少女は、気がつけばメンター室にいて、僕たちの輪の中に入っていた。

 かなり日本人離れした容姿であるため、海外の異能学園の生徒かもしれない。少なくとも、その少女と僕に面識はないはず(・・・・・・・)だ。

 それは蛇塚と光華も同じのようで、初対面にもかかわらず驚くほど距離の近い少女の行動に、僕らは思わず固まってしまう。

 

「友人たるもの、いつでも気兼ねなく接するべし。そうでしょ? ユキー(・・・)

 

 ユキーって……、それ王女様と同じ呼び方じゃ――

 

「――え!? 王女様!?」

 

「……あっ」

 

「ウソッ!?」

 

 この時、僕は初めて目の前の少女が王女様であることを認識(・・)する。

 蛇塚と光華も、僕が『王女様』と口にしたことで、初めてその事実に気づいたらしい。

 

 たしかに、今日の王女様の姿は、昨日のものとは異なる。

 しかし変装と呼べるほどのものではなく、ただ髪型を変え、メガネをかけ、服装をドレスから制服に変えただけ。

 それでも僕たちは、目の前の少女が王女様であることを即座に見抜けなかった。

 

「フッフー! 昨日のリベンジは成功といったところでしょうか。驚きました? ただ雰囲気を変えてるだけでなく、認識阻害の異能も施してるんですよ」

 

 そう満足気に笑いながら、王女様はその場でくるりと回ってみせる。

 なびく髪に、ひるがえる制服のスカート、そして無邪気な笑顔。その全てに自然と目が惹かれてしまう。

 

「とはいえ、それほど強力なものではありませんので、キッカケさえ与えてしまえば、すぐに気づかれてしまうんですけどね」

 

 なるほど……。僕がさっき気づけたのは、あだ名で呼ばれて王女様のことを連想したからか。

 

「ですので、私の溢れ出るオーラまでは隠しきれず、こうして簡単にバレてしま――」

 

「へえ、すげえな。全然気づかなかったぜ」

 

「…………そうですか」

 

 あーあー、蛇塚の悪意なき言葉が刺さっちゃった。

 しかし、それで王女様のテンションが落ち込んだのは一瞬だけ。僕らが何か告げるまでもなく、すぐさま王女様は元の勢いを取り戻す。

 

「と・に・か・く! こうして変装もしているので、周囲にバレる心配は無用ということです! さあ行きましょう! セイシュンはあっという間に過ぎ去るもの。一秒でも無駄にできませんよ!」

 

 まさに勢いのまま。王女様はすぐさま部屋から飛び出そうとするが、僕はそれに待ったをかける。

 

「あのっ!」

 

「ん? どうしました? ユキー」

 

「その、まだ事前に聞いていた時間よりかなり早いんですけど、大丈夫なんですか? いろいろ準備とか……」

 

「え、時間って守らないといけないんですか? 私、王族なんですけど……?」

 

 世界中の王族に謝れ。

 

「いいんです! 問題などありません! 私が時間に合わせるのではなく、時間が私に合わせるべきなのです! では改めて行きましょう!!!」

 

 無茶苦茶言いよるなこの姫さま。

 

「ちょっ!?」

 

「お、おい! 引っ張んなって!」

 

 自分こそが主人公であり、世界の中心である――そのことを微塵も疑わないような様子で、王女様は蛇塚と光華を引っ張り、メンター室の外へと駆け出していく。

 まるでルウをそのまま大きくしたような王女様の言動に、僕らは初っ端から振り回されてしまう。

 

 ただ……、そんな王女様の()り方を、少し羨ましいとな思いながら、僕は王女様の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳聖祭とは、ただ生徒たちの異能試合が行われるだけではない。

 学園内には数多くの屋台が立ち並び、設営された野外ステージでは様々なショーが開催される。

 街全体にまで熱気が広がるその様子は、まさに“(まつり)”。

 

 とりあえず今日の午前中の予定は、その屋台やショーを王女様と共に見て回る、というものなのだが……

 

「次、あっちに行きましょう!」

 

「あっ、ちょっ!? 待って王……リリアさん! 僕らの傍から離れないで!」

 

 

 

 

「お品書きのここからここまで全部ください。え、お金? そんなもの持ってません。アキー、払ってください」

 

「ふざけんなテメェ!」

 

 

 

 

「ねえそこのかわい子ちゃん、これから俺たちと遊ばない?」

 

「おや、これがジャパニーズナンパというやつですか。そうですね……もう少し情熱的に、なおかつ魅惑的にお誘いいだけるのであれば――」

 

「すみません! この子、ボクの連れなんで!!!」

 

 

 

 

『誰だ!? 竹田に火器渡したアホは!?』

 

『店長! 運営委員の見回りが来ます!』

 

『違法食材を奥に隠して!』

 

「ユキー、なにやらあそこが楽しそ――」

 

「あそこだけは絶対にダメです!!!」

 

 

 あまりにも自由に動き回る王女様に、僕らはずっと振り回されっぱなし。こんなもの友人役というより、ただのお守りだ。

 僕らが何かやらかすよりも、王女様自身がやらかす方が早い気がしてきた。

 

「ユキー、この元気が出るというクッキー、食べてみてくれません? 美味しかったら私も食べます」

 

 嫌です。

 

 

 そんなふうに、慌ただしすぎる午前中を過ごし、現在の時刻は正午過ぎ。

 午後からの予定は試合観戦のため、僕らは個人戦が行われるスタジアムに移動し、各校の代表選手たちによる異能バトルを観戦していた。

 もちろんVIP席などではなく、一般の観戦席から。

 

『試合終了~! 本日の個人戦第六試合、勝者は赤花(あかばな)(あかね)さんでした~! いや~、さすがはAランク異能者であり、我が学園の序列第五位! その実力を遺憾なく発揮しました!』

 

 試合には実況解説もついており、放送部の生徒が晴れ舞台とばかりに、気合を入れて実況を行っている。

 

『それでは特別ゲストの方にお話を伺いましょう。解説の立花先生、先ほどの試合をどう見られました?』

 

『赤花の勝ちだ』

 

『あ、いや、それはわかっていますので……、内容について触れていただけたらなと……』

 

『勝ったはいいものの、攻防の入れ替わり時に隙が多い。私なら五度は殺している』

 

『…………えー、愛のある厳しいコメント、ありがとうございました。続きまして――』

 

 絶対人選ミスだろ。

 

「ユキー、ユキー。次の試合はどうなってますか?」

 

「ちょっと待ってください。えっと……」

 

 僕は王女様に問われ、無料で配られていたパンフレットを開き、次の対戦カードを確認する。

 すると第七試合、そこには『烏丸冬歌』の文字があった。

 

「あ……次、烏丸さんの試合だ」

 

「おや、あの小さい子の試合ですか。それは楽しみですね」

 

「…………」

 

 正直なところ、楽しみよりも不安の方が大きく、なんなら今からでも棄権してくれないかなとさえ思っている。

 とはいえ、仮にもチームメイトがやる気を出し、僕たちのチーム……いや、学園の代表として試合に出場するのだ。

 ならばこれまでのヤラカシは一旦置いておいて、素直に応援するのが筋というもの。

 烏丸が出てきたら、力の限り声援をおく――

 

『――続きまして、第七試合…………の予定でしたが、対戦前控え室にて、出場予定の烏丸選手が対戦相手の田中選手に対し、試合出場が不可能となる危害を加えたため、規定により烏丸選手を失格処分といたします。そのため、第八試合の時間が繰り上がり――』

 

 ほんまあいつ……。

 

「はぁ! ふざけんなよ! どこのチームのやつだ!?」

 

「『愚蓮努羅魂仏血切離』!? いかにもガラの悪そうなチーム名じゃねえか! 珍走団かよ!」

 

 突然のアナウンスに、試合を楽しみにしていた観客から怒号が飛び交う。

 これでウチのチームも、一躍有名チームの仲間入りというわけだ。悪名の方で。

 

「……その、なんと言ったらいいかわかりませんが、周囲の視線などあまり気にせず……」

 

 あ、次の試合、冬二が出るんだ。これは応援しないと。

 

「蛇塚くん、それ何食べてるんだい?」

 

「王様ガエルの丸焼き」

 

「……あら? もしかして、あまりショックじゃない感じですか?」

 

 慣れてますので。

 

「どうやら心配は無用だったようですね。それにしても、羨ましい限りです。こんな素敵な催し、私も出てみたかったのですが、立場ゆえにそれも叶わず……」

 

「はっ、どうせチキってるだけだろが」

 

 拳聖祭に参加できず、そのことに悲しむ様子を見せる王女様。そんな王女様に対し、蛇塚のとる態度は冷たい。

 おそらく、先ほど散々振り回されたことを根に持っているのだろう。

 

「む、私が怖がっていると言いたいのですか? アキー」

 

「だからそう言ってんだろうが。ビビり王女が」

 

「こらこら二人とも、喧嘩はやめなって」

 

 光華は険悪な雰囲気になりつつあった二人の間に入り、その言い争いを止めようとする。

 しかし、王女様はそんな光華を手で制した。

 

「いいえナッツ、王女たるもの……ここまで言われては、引くわけにはいきません」

 

 そう告げると、王女様は携帯を取りだし、どこかへと電話をかける。

 

「私の持てる全ての権力をフル活用し、今から個人戦に参戦してみせましょう! もしも試合で私の体に消えることのない傷でもつこうものなら、私の周囲の様々な人物の首が飛び、それこそリアルに首が飛ぶ者もでると思いますが。ええ、舐められっぱなしでは王女の沽券に関わるというもの! あっ、コーネですか!? 今から私の部下全員に辞職願と遺書を書かせるよう――!」

 

「わかった! オレが悪かったから! やめろやめろ!」

 

 あーあ……蛇塚のやつ、見事に王女様の手玉に取られてるな。

 

 

 とまあそうなふうに、ここでも王女様に振り回されながらワチャワチャやっていると、いつの間にか次の試合が始まろうとしていた。

 

『さあ、お待たせいたしました! これより第八試合の開始となります! 選手が入場してきますので、みなさま盛大な拍手を!』

 

 実況の言葉と同時に、スタジアムに二人の選手が入場する。

 各校の代表選手として、大観衆のなか堂々と歩く二人のうち一人は、我が友人である綿谷冬二だ。

 

「なるほど、あれが噂の『現人神』くんですか」

 

「え、リリアさん、冬二のこと知ってるんですか?」

 

「ええ、彼の名はこちらでも有名ですよ。なんせウン百年ぶりに誕生した『現人神』ですから」

 

 ……へえ、すごいな冬二のやつ。まだ学生なのに、もう欧州の方にまで名前が知られてるなんて。

 

「とはいえ、彼が勝つのは厳しいでしょうね。なんせ彼は今大会、『異能を無効化する力』の使用を禁じられていますから」

 

 え、なんで?

 

「『異能を競い合う大会において、異能の無効化はその趣旨に反する』――というのが、大会運営委員の公式発表です」

 

「んだそれ、完全にただのイチャモンじゃねえか」

 

「ええ、アキーの言う通りです。運営側の発表した理由はあくまで建前。実際のところは、少しでも自分たちの学園を有利にしようとする各校の関係者に、圧をかけられたから――といったところでしょう。運営側がすんなり圧に折れたのは、少し気になるところですが……」

 

 おやおやまあまあ、名が知られているどころか、随分と警戒されてるようで。

 

「しかも不運なことに、彼の対戦相手はAランク異能者であり、我がサラスティナのエース。個人戦の優勝候補でもある相手に、ハンデありではさすがの『現人神』も勝つのは厳しいでしょう」

 

 そう告げる王女様の表情には、かすかに哀れみが込められていた。

 王女様だけではない。周囲の観客たちも同じような表情をしており、誰一人として冬二が勝つとは思っていない――そんな空気が会場中からヒシヒシと感じられる。

 

 

 だがしかし、それでも僕は断言しよう。この試合、勝つのは綿谷冬二なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始から十五分後――

 

『な、なんと……! 第八試合の勝者は……綿谷冬二だぁ!!!』

 

 試合の決着がついたスタジアム中央には、拳を高々と突き上げる冬二の姿。

 そんな冬二に対し、観客たちは割れんばかりの大歓声を送る。

 

「これは…………ちょっとすごいですね」

 

 思わず――といったふうにつぶやいた王女様の表情に、哀れみの感情は既にない。

 

 試合は最初、冬二が相手の異能攻撃を受け続ける一方的な展開だった。

 その時点では、誰もが冬二の負けを信じて疑わなかっただろう。

 しかし冬二はどれだけ攻撃を受けても倒れず、ボロボロになりながら反撃のチャンスを伺い続けた。

 そして試合後半、攻撃を見切ったのか、次第に相手の異能が冬二に通用しなくなり、そこから冬二の反転攻勢。

 ついには相手を気絶させ、見事勝利を勝ち取ってみせた。

 

 ハンデを背負い、劣勢状態のなか、傷だらけになっても諦めず戦い続たその姿に、観客たちはさぞや感動させられたことだろう。

 そして予感したはずだ。この大会は、綿谷冬二を中心に回っていくのだと。

 天から主人公であることを宿命づけられた存在。それこそが綿谷冬二なのだから。

 

「…………」

 

「ん? リーダー、どこ行くんだい?」

 

「ちょっとお手洗い」

 

 光華に行き先を伝え、まだ観客たちの熱が冷めやらぬなか、僕は冬二から目を逸らすように席を立った。

 

「ダサいな……」

 

 僕と冬二の進む道が違うことなんて、とっくにわかりきっている。冬二は冬二なりに、僕は僕なりに頑張ればいい。

 今だって、大会にこそ出てないものの、王女様の秘密の友人役なんていう、普通じゃないイベントをこなしてるじゃないか。

 

 ……そうやって、どれだけ自分に言い聞かせても、心の内に潜むドス黒い感情は消えてくれない。

 羨ましい。同じスタート地点だったはずの相手が、今や世界中で名を知られ、賞賛を浴びている。羨ましい、羨ましい、妬ましい――そんな思いが、自然と溢れ出してしまう。

 親友の活躍を心から喜べない。そんな自分に嫌気がさし、自覚できるくらい表情を歪めながら、観客席の間を歩いていく。

 

 

 そんな僕の後ろ姿を、王女様が鋭い眼差しで見つめていたとも知らずに。

 

 

 




烏丸がメンター室に現れた際の雪春のコメント
「誰も呼んでないのに 勝手に来た」
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