魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑧ / 幾星霜の迷い人 中編

 

 光華と王女様(リリア)に事情を説明したところ、二人も迷子問題に協力してくれることになった。

 

 そうして現在、光華が風花を連れてお手洗いに行ったため、僕と王女様の二人きりという状況が発生している。

 祭りという、人も空気も全てが浮かれきったこの状況で、年頃の男女が二人。

 しかも腰かけたベンチの隣に座るのは、身分を隠した美人の王女様。

 そんな絵に書いたようなフィクション的展開で、何も起きないはずはなく……

 

 

 

 ……しかし本当に何も起きることなく、近くで行われている屋外のマジックショーを、二人してボーッと眺めていた。

 

『3、2、1……ハイッ!』

 

 眺めているマジックショーでは、マジシャンが子供たちに囲まれながら、様々なマジックを披露している。

 今ちょうど、マジシャンのシルクハットからハト――ではなく、小型の羽の生えた悪魔が飛び出し、空へと羽ばたいてくところだった。

 

『さあみんな、今のマジックどうだったかな?』

 

『しょぼい』

 

『子供だまし』

 

『うんこ』

 

 子供たちに辛辣な評価を下されながらも、マジシャンはめげることなくマジックを続けていく。

 奇っ怪な術であふれる異能社会において、あえてマジシャン(奇術師)を職に選ぶの、なかなかの勇者では?――なんてことを考えていると、隣にいた王女様が笑いながら僕に尋ねる。

 

「ユキー、今の悪魔が出てきたマジック……どう思いました?」

 

「え、あ、まあその…………僕でもできそうだなって」

 

 一般社会ならともかく、異能社会(こっち)で異能を使用していいという前提ならば、いくらでも方法は思いつく。

 たとえば、シルクハットに召喚魔法陣を仕込んでおくとか。

 

「……ふふっ」

 

「いや、ほんとできますからね? なんなら今この場で――」

 

「あ、ごめんなさい。別にバカにして笑ったわけじゃないんです。ただ……、ウチの学校の生徒からは絶対に出ないであろう答えだったので、つい」

 

 ……? そんなに変な回答だったかな?

 

「じゃあ……、サラスティナの人はなんて答えるんですか?」

 

「多少のニュアンスの違いはあれど、みなおそらくこう答えると思いますよ――

 

 

 

 ――おぞましい(・・・・・)、と」

 

 

 

 その言葉を口にした瞬間、王女様の表情から笑みが消える。

 

「そもそも、質問の受け取り方が違うんでしょうね。ユキー、あなたは私の質問に対して、『マジック』という言葉に焦点をおいた。ですが……これがサラスティナの学生であれば、『悪魔』という単語に否応なく意識が引っ張られてしまう」

 

 ……あまり明るい話題ではないのだろう。淡々と告げてはいるものの、王女様をまとう雰囲気は重苦しい。

 

「ユキーは悪魔を召喚したことはありますか? その召喚した悪魔と契約したことは?」

 

「ありますよ。悪魔召喚は授業でもちょくちょくやりますし」

 

 なんなら今、その契約した悪魔が頭の上でフワフワ浮いておりますので。

 

「授業で悪魔召喚……ふふっ、それもまたサラスティナでは――いえ、ヨーロッパ中を探しても見つからないでしょうね。そのような授業を行っている学園は」

 

「そうなんですか?」

 

 難易度うんぬんの問題ではないはずだ。ウチだと中等部でもやってるらしいし。

 となると、先ほどの『おぞましい』という言葉が関わってくるのだろう。

 

「少なくとも、表向きに行われることは絶対にありません。それほどまでに……」

 

 ちょうどその時、先ほどマジシャンの召喚した悪魔が、風に乗って王女様の目の前へと運ばれていく。

 低級の、契約者もおらず、ほどなくして勝手に消滅するであろう力のない悪魔。

 その悪魔に王女様が手を触れると――

 

葬炎(フューネル)

 

 ――青い炎(・・・)が悪魔を包み、その身体を一瞬で燃やし尽くす。

 

「……それほどまでに、欧州では忌み嫌われているのです。『アクマ』――この世の悪を象徴する、その存在自体が」

 

 王女様が拳を握り込むと同時に、役割を果たした青い炎は消滅する。

 この時の王女様は、これまでに見たことのない表情を浮かべていた。笑みでも、怒りでもない。感情の読み取ることのできない表情を。

 

「……一応日本でも、悪魔は基本怖い存在――みたいに教わりますけど……」

 

「警戒の度合いが全く別物です。危険度や等級にかかわらず、悪魔を召喚すること自体、禁じている国がほとんどです。当然契約なんてもってのほか。悪魔との関わり方を模索するのではなく、悪魔との関わりそのものを()つ。悪魔に対する向き合い方が、もはやこの国とは根本的に違います」

 

「……理由とか、あったりするんですか?」

 

「辿ってきた歴史……それに尽きますね。欧州の異能の歴史は、『悪魔との戦い』の歴史と言っても過言ではありません。特に『始まりの現人神』に仕えたとされる十の悪魔――いわゆる『十王』との戦いは、いつの時代も凄惨を極めました。退廃(たいはい)王、混淫(こんいん)王、そして冥界王……。さらにはその悪魔たちを崇拝する教団との争い。人々の生活に潜り込む人と悪魔のハーフ。そういった様々な歴史があり、『十王』は今でも欧州における恐怖の象徴なんです」

 

「……冥界王、か……」

 

「おや、なにか…………その名(・・・)に気になることでもありますか?」

 

「あ、いえ、かっこいい二つ名だなと思って」

 

 いいよね、二つ名。僕もいつかイカした二つ名がほしい。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ちょっと話の腰、折っちゃったかな……。

 

「…………ふふ、少し暗い雰囲気にしてしまいましたね。まあ要するに、この国での日常は、私たちの国や学園では異常だったりする、という話をしたかったわけです」

 

 そこでようやく、王女様にいつもの余裕ある笑みが戻る。

 国が違えば常識や文化も大きく異なるのは、どうやら一般社会だけでなく、異能社会(こちら)でも変わらないらしい。

 

「ちなみに、これでも随分マシになった方なんですよ? かつては『悪魔を使役するのなら、たとえ他国とて許せん!!!』なんて大義名分を掲げて、戦争を仕掛けまくってた時代もあったわけですから」

 

 こっわ。もしその時代なら僕とか最優先抹殺(ブッコロ)対象じゃん。

 

「ただ、地域によっては嫌悪がまだ根深く残ってるのも事実です。実際何年か前に、先祖返りで悪魔の側面を強く有した子が生まれると、その子にまともな食事も与えず、人目に触れないよう村ぐるみで数年間監禁し続けた――なんて事件も起こっていますから」

 

「……へえ、そうなんですね」

 

「さて、暗い話はこのくらいにしておいて、ここからは明るい話をしましょう! ユキー! 何か明るい話題をください!」

 

「え? えー……そんな急に言われましても」

 

「なんでもかまいませんよ? たとえば、私が王位に()いた後の輝かしい国の未来について、とか」

 

「ハハ、それむしろ暗い話じゃないですか」

 

「ユキー?」

 

「あ、じゃあ……僕の異能が持つ可能性とかどうですか? 実はさっき――」

 

「ウフフ、ユキーってば冗談がお上手ですね。そんなのお先真っ暗じゃないですか」

 

 は?

 

「……」

 

「……」

 

 明るい話をしよう。そう告げたにもかかわらず、僕と王女様の間に流れる空気はかなりギスギスし始める。

 

「ぺっ!」

 

 王女がつばを吐き捨てるな。

 

 気まずいよぉ……。光華ぁ、早く戻ってきてぇ。

 一刻も早く二人きりから開放されたい。この際、誰でもいいからこの空気をぶち壊してくれ――そんなふうに心の中で願った、その時だった。

 

「雪春ーーー!!!」

 

「ふげっ!」

 

 誰かが僕の名を叫ぶと同時に、僕の後頭部に強い衝撃が加わる。

 振り返ると、そこにいたのは――

 

「雪春ッ! 冬二と違って、お前だけは非モテ(こっち)側だって信じてたのによぉ!」

 

 冬二の親友ポジションこと、親ポジの矢川宗助だった。

 うーん……、誰でもいいとは願ったけど、よりによってこいつかあ…………。

 

「チェンジで」

 

「一言目にそれとは失礼だな」

 

 いきなり人の頭にフライングクロスチョップかますやつがなにを。

 

「それよりどういうことだよ雪春! こんな他校の美人さんと仲睦まじくデートなんてしやがって! 俺にも紹介してください!!!」

 

 仲睦まじいどころか、今にも殴り合いになりそうな空気だったんですけど。

 

「ユキー、お友達ですか? 私にも紹介してくださいよ」

 

「ほら雪春! ほら!」

 

 わかった、わかったから揺らさないで。

 

「えっと……こちら、クラスメイトの矢川宗助です。友達ではないです。いろいろと情報通なやつで…………あとは、そうですね。女好きの変態です」

 

「おい雪春! その言い方だと語弊があるだろ!」

 

 ねえよ。

 

「宗助くんって言うんですね。アリリア(・・・・)って言います。私もかわいい女の子、好きですよ」

 

「うおおおお! 雪春のソウルメイトの宗助です! よろしくお願いします!」

 

 しれっと偽名を告げたリリアの浮かべる笑顔に、宗助は大興奮。あと誰が誰のソウルメイト?

 

「というか、宗助はここで何してるの?」

 

「ん? ああ、俺はこれから試合会場に行くところだったんだよ。ほら、今日は個人戦にあの『色島(しきしま)レナ』が登場するからな」

 

 色島って……、確か――

 

 聞き覚えのある名に、僕はかすかに引っかかる記憶を手繰り寄せる。

 しかしそれよりも先に、その詳細を口にしたのは王女様だった。

 

麗華台(れいかだい)魔法女学院の首席魔女にして、日本の若手トップ女優……ですよね?」

 

「レナちゃんのこと知ってるんすか!? アリリアさん!」

 

「もちろんですとも。日本に来るにあたって、最新のエンタメ情報もしっかりチェックしましたから。彼女の花が咲くような可愛らしい笑顔に、こちらまで感情が引っ張られる熱意ある演技。あれはこの国だけにとどまらず、世界に通用する器だと確信しています」

 

「そうなんすよ! しかも今度、でかい作品の主演が決まってて――!」

 

「――!」

 

「――? ――!!」

 

 その後しばらく、二人はその『色島レナ』という女優の話で盛り上がる。

 そのため、僕だけ完全に蚊帳(かや)の外になってしまったが、王女様の望み通り、明るい空気にはなったので良しとしよう。……へっ。

 

「いやぁ、いいよなぁレナちゃん。しかも女優って言うのがまたいい……! お付き合いしてみてぇ」

 

「わかりますよ、宗助。女優ということは、ドラマや映画に出演し、旬の男性俳優と恋人役を演じたり、なんならキスシーンだってあるわけです。そう、自分とお付き合いをしていながら……」

 

「想像すると……こう、ゾクゾクするっすよね……」

 

「ええ……、擬似NTRプレイみたいでゾクゾクします」

 

 マジックショー、見てこよっかな。

 

「あ、おい雪春! どこ行くんだよ!?」

 

 あの、ちょっと近づかないでいただいて。知り合いだと思われたくないんで。

 

「ユキー、何も恥ずかしがることはありません」

 

「そうだ。かつてとは違い、インターネットが普及することで性癖は格段に多様化し、異常性癖は異常性癖ではなくなった」

 

「今のは一般性癖談話です」

 

 一般攻撃魔法(ゾ○トラーク)みたいに言わないでもらえます?

 

「想像してみてください、ユキー。部屋でソファに座りながら、隣には今をときめく現役女優の恋人が」

 

「世間にバレれば一発アウトの秘密の関係。しかし、それが二人を燃え上がらせる」

 

「多忙な彼女が久しぶりに取れた休日。コーヒーを片手に、テレビを眺めながら楽しく過ごしていたその時――」

 

「ちょうど、彼女の出演するドラマが流れ出す」

 

 交互に話してくるの、なんか腹立つな。

 

「『ああ、こんな子が僕の彼女なんだ……』という喜びに浸りながら、テレビに映る彼女と、隣に座る彼女の顔を交互に見比べるあなた」

 

「だがその時、突如イケメン俳優と彼女の恋愛シーンが流れ出すわけだ。しかも濃厚なキッスのおまけ付き」

 

「何も知らなかったあなたは、突然のNTRに脳が破壊されることでしょう」

 

「しかしそんな(おり)、隣にいる彼女がゆっくりと近づいてきて、耳元で小さくこう告げる――」

 

「『……どう? 私の演技(・・)、上手だった?』と」

 

「そうして始まる、演技ではない本当の……」

 

「………………」

 

「おっ、今興奮しただろ」

 

「ようこそ、こちら側へ」

 

 あーあ、こいつらの頭の上に隕石落ちないかなあ。

 

「っとヤベェ、そろそろ試合が始まっちまう。すんませんアリリアさん、ほんとはもっと議論を深めたかったんすけど……」

 

「私もです。ですがそれはまたいずれ、ということで」

 

「アリリアさん……! その、最後に一つだけいいですか……!?」

 

「おや、なんでしょう」

 

「スリーサイズを教えてください!!!」

 

 ほらみろ。語弊ねえじゃねえか。

 

「318、56、134です」

 

「うおぉぉぉ! ありがとうござ……え、318……?」

 

 はよ行け。

 

「あっ、そうだ雪春。試合観戦なんだけど、冬二たちも一緒なんだ。だから、その……せっかくだし雪春も一緒にどうだ?」

 

「……いや、やめとく」

 

「そっか。まあ気が変わったらいつでも言ってくれな。それじゃッ!」

 

 そう告げると、宗助は手を振りながら試合会場へと走り去って行く。

 

 しかしなんだあいつ……。急に僕を冬二たちのグループに誘うようなマネして。

 以前はむしろ、僕を冬二グループからそれとなく排除しようとしてたくせに。

 

「面白いお友達でしたね」

 

 友達じゃないです。

 

 

 

 その後、宗助がその場を去ってすぐ、入れ替わるようにして光華と風花がお手洗いから戻ってきた。

 

「遅くなってすまない。お手洗いが混んでいてね。それと、途中で運営本部の様子を確認してみたけど、かなり忙しそうにドタバタしてたよ。なんでも、放送室を占拠されたとかで」

 

「そっか」

 

 どうりで、さっきから『雪くん!』を連呼する放送が鳴り止まないわけだ。

 しかしそれだと、風花を運営委員に引き渡したとして、すぐには対応してもらえないかもしれない。

 

 心配になりながら、僕は手を繋いだ風花の様子を確認する。

 今は泣き止んでこそいるものの、寂しさや心細さを必死に我慢しているのが伝わってくる。

 できるならば、すぐにでも姉に会わせてあげたい。

 

「では、私たちで風花ちゃんの姉を探しましょう」

 

「……お姉ちゃん、一緒に探してくれるの?」

 

「うふふ、もちろんですとも」

 

 王女様は自分たちでの姉探しを提案すると、屈んで風花の頭を撫でる。

 もちろん、僕と光華もその提案に異論はない。

 

 風花の不安気で泣きそうだった表情が、花が咲くような笑顔へと変化したことで、僕らもまた笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしまあ…………、随分とガッツリ探りを入れてきたな。

 

 

 




王さんの三冠成績にしようかとも悩みました。王だけに…………ごめんなさい、生卵投げないでください。
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