魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
光華と
そうして現在、光華が風花を連れてお手洗いに行ったため、僕と王女様の二人きりという状況が発生している。
祭りという、人も空気も全てが浮かれきったこの状況で、年頃の男女が二人。
しかも腰かけたベンチの隣に座るのは、身分を隠した美人の王女様。
そんな絵に書いたようなフィクション的展開で、何も起きないはずはなく……
……しかし本当に何も起きることなく、近くで行われている屋外のマジックショーを、二人してボーッと眺めていた。
『3、2、1……ハイッ!』
眺めているマジックショーでは、マジシャンが子供たちに囲まれながら、様々なマジックを披露している。
今ちょうど、マジシャンのシルクハットからハト――ではなく、小型の羽の生えた悪魔が飛び出し、空へと羽ばたいてくところだった。
『さあみんな、今のマジックどうだったかな?』
『しょぼい』
『子供だまし』
『うんこ』
子供たちに辛辣な評価を下されながらも、マジシャンはめげることなくマジックを続けていく。
奇っ怪な術であふれる異能社会において、あえて
「ユキー、今の悪魔が出てきたマジック……どう思いました?」
「え、あ、まあその…………僕でもできそうだなって」
一般社会ならともかく、
たとえば、シルクハットに召喚魔法陣を仕込んでおくとか。
「……ふふっ」
「いや、ほんとできますからね? なんなら今この場で――」
「あ、ごめんなさい。別にバカにして笑ったわけじゃないんです。ただ……、ウチの学校の生徒からは絶対に出ないであろう答えだったので、つい」
……? そんなに変な回答だったかな?
「じゃあ……、サラスティナの人はなんて答えるんですか?」
「多少のニュアンスの違いはあれど、みなおそらくこう答えると思いますよ――
――
その言葉を口にした瞬間、王女様の表情から笑みが消える。
「そもそも、質問の受け取り方が違うんでしょうね。ユキー、あなたは私の質問に対して、『マジック』という言葉に焦点をおいた。ですが……これがサラスティナの学生であれば、『悪魔』という単語に否応なく意識が引っ張られてしまう」
……あまり明るい話題ではないのだろう。淡々と告げてはいるものの、王女様をまとう雰囲気は重苦しい。
「ユキーは悪魔を召喚したことはありますか? その召喚した悪魔と契約したことは?」
「ありますよ。悪魔召喚は授業でもちょくちょくやりますし」
なんなら今、その契約した悪魔が頭の上でフワフワ浮いておりますので。
「授業で悪魔召喚……ふふっ、それもまたサラスティナでは――いえ、ヨーロッパ中を探しても見つからないでしょうね。そのような授業を行っている学園は」
「そうなんですか?」
難易度うんぬんの問題ではないはずだ。ウチだと中等部でもやってるらしいし。
となると、先ほどの『おぞましい』という言葉が関わってくるのだろう。
「少なくとも、表向きに行われることは絶対にありません。それほどまでに……」
ちょうどその時、先ほどマジシャンの召喚した悪魔が、風に乗って王女様の目の前へと運ばれていく。
低級の、契約者もおらず、ほどなくして勝手に消滅するであろう力のない悪魔。
その悪魔に王女様が手を触れると――
『
――
「……それほどまでに、欧州では忌み嫌われているのです。『アクマ』――この世の悪を象徴する、その存在自体が」
王女様が拳を握り込むと同時に、役割を果たした青い炎は消滅する。
この時の王女様は、これまでに見たことのない表情を浮かべていた。笑みでも、怒りでもない。感情の読み取ることのできない表情を。
「……一応日本でも、悪魔は基本怖い存在――みたいに教わりますけど……」
「警戒の度合いが全く別物です。危険度や等級にかかわらず、悪魔を召喚すること自体、禁じている国がほとんどです。当然契約なんてもってのほか。悪魔との関わり方を模索するのではなく、悪魔との関わりそのものを
「……理由とか、あったりするんですか?」
「辿ってきた歴史……それに尽きますね。欧州の異能の歴史は、『悪魔との戦い』の歴史と言っても過言ではありません。特に『始まりの現人神』に仕えたとされる十の悪魔――いわゆる『十王』との戦いは、いつの時代も凄惨を極めました。
「……冥界王、か……」
「おや、なにか…………
「あ、いえ、かっこいい二つ名だなと思って」
いいよね、二つ名。僕もいつかイカした二つ名がほしい。
「…………」
「…………」
ちょっと話の腰、折っちゃったかな……。
「…………ふふ、少し暗い雰囲気にしてしまいましたね。まあ要するに、この国での日常は、私たちの国や学園では異常だったりする、という話をしたかったわけです」
そこでようやく、王女様にいつもの余裕ある笑みが戻る。
国が違えば常識や文化も大きく異なるのは、どうやら一般社会だけでなく、
「ちなみに、これでも随分マシになった方なんですよ? かつては『悪魔を使役するのなら、たとえ他国とて許せん!!!』なんて大義名分を掲げて、戦争を仕掛けまくってた時代もあったわけですから」
こっわ。もしその時代なら僕とか最優先
「ただ、地域によっては嫌悪がまだ根深く残ってるのも事実です。実際何年か前に、先祖返りで悪魔の側面を強く有した子が生まれると、その子にまともな食事も与えず、人目に触れないよう村ぐるみで数年間監禁し続けた――なんて事件も起こっていますから」
「……へえ、そうなんですね」
「さて、暗い話はこのくらいにしておいて、ここからは明るい話をしましょう! ユキー! 何か明るい話題をください!」
「え? えー……そんな急に言われましても」
「なんでもかまいませんよ? たとえば、私が王位に
「ハハ、それむしろ暗い話じゃないですか」
「ユキー?」
「あ、じゃあ……僕の異能が持つ可能性とかどうですか? 実はさっき――」
「ウフフ、ユキーってば冗談がお上手ですね。そんなのお先真っ暗じゃないですか」
は?
「……」
「……」
明るい話をしよう。そう告げたにもかかわらず、僕と王女様の間に流れる空気はかなりギスギスし始める。
「ぺっ!」
王女がつばを吐き捨てるな。
気まずいよぉ……。光華ぁ、早く戻ってきてぇ。
一刻も早く二人きりから開放されたい。この際、誰でもいいからこの空気をぶち壊してくれ――そんなふうに心の中で願った、その時だった。
「雪春ーーー!!!」
「ふげっ!」
誰かが僕の名を叫ぶと同時に、僕の後頭部に強い衝撃が加わる。
振り返ると、そこにいたのは――
「雪春ッ! 冬二と違って、お前だけは
冬二の親友ポジションこと、親ポジの矢川宗助だった。
うーん……、誰でもいいとは願ったけど、よりによってこいつかあ…………。
「チェンジで」
「一言目にそれとは失礼だな」
いきなり人の頭にフライングクロスチョップかますやつがなにを。
「それよりどういうことだよ雪春! こんな他校の美人さんと仲睦まじくデートなんてしやがって! 俺にも紹介してください!!!」
仲睦まじいどころか、今にも殴り合いになりそうな空気だったんですけど。
「ユキー、お友達ですか? 私にも紹介してくださいよ」
「ほら雪春! ほら!」
わかった、わかったから揺らさないで。
「えっと……こちら、クラスメイトの矢川宗助です。友達ではないです。いろいろと情報通なやつで…………あとは、そうですね。女好きの変態です」
「おい雪春! その言い方だと語弊があるだろ!」
ねえよ。
「宗助くんって言うんですね。
「うおおおお! 雪春のソウルメイトの宗助です! よろしくお願いします!」
しれっと偽名を告げたリリアの浮かべる笑顔に、宗助は大興奮。あと誰が誰のソウルメイト?
「というか、宗助はここで何してるの?」
「ん? ああ、俺はこれから試合会場に行くところだったんだよ。ほら、今日は個人戦にあの『
色島って……、確か――
聞き覚えのある名に、僕はかすかに引っかかる記憶を手繰り寄せる。
しかしそれよりも先に、その詳細を口にしたのは王女様だった。
「
「レナちゃんのこと知ってるんすか!? アリリアさん!」
「もちろんですとも。日本に来るにあたって、最新のエンタメ情報もしっかりチェックしましたから。彼女の花が咲くような可愛らしい笑顔に、こちらまで感情が引っ張られる熱意ある演技。あれはこの国だけにとどまらず、世界に通用する器だと確信しています」
「そうなんすよ! しかも今度、でかい作品の主演が決まってて――!」
「――!」
「――? ――!!」
その後しばらく、二人はその『色島レナ』という女優の話で盛り上がる。
そのため、僕だけ完全に
「いやぁ、いいよなぁレナちゃん。しかも女優って言うのがまたいい……! お付き合いしてみてぇ」
「わかりますよ、宗助。女優ということは、ドラマや映画に出演し、旬の男性俳優と恋人役を演じたり、なんならキスシーンだってあるわけです。そう、自分とお付き合いをしていながら……」
「想像すると……こう、ゾクゾクするっすよね……」
「ええ……、擬似NTRプレイみたいでゾクゾクします」
マジックショー、見てこよっかな。
「あ、おい雪春! どこ行くんだよ!?」
あの、ちょっと近づかないでいただいて。知り合いだと思われたくないんで。
「ユキー、何も恥ずかしがることはありません」
「そうだ。かつてとは違い、インターネットが普及することで性癖は格段に多様化し、異常性癖は異常性癖ではなくなった」
「今のは一般性癖談話です」
「想像してみてください、ユキー。部屋でソファに座りながら、隣には今をときめく現役女優の恋人が」
「世間にバレれば一発アウトの秘密の関係。しかし、それが二人を燃え上がらせる」
「多忙な彼女が久しぶりに取れた休日。コーヒーを片手に、テレビを眺めながら楽しく過ごしていたその時――」
「ちょうど、彼女の出演するドラマが流れ出す」
交互に話してくるの、なんか腹立つな。
「『ああ、こんな子が僕の彼女なんだ……』という喜びに浸りながら、テレビに映る彼女と、隣に座る彼女の顔を交互に見比べるあなた」
「だがその時、突如イケメン俳優と彼女の恋愛シーンが流れ出すわけだ。しかも濃厚なキッスのおまけ付き」
「何も知らなかったあなたは、突然のNTRに脳が破壊されることでしょう」
「しかしそんな
「『……どう? 私の
「そうして始まる、演技ではない本当の……」
「………………」
「おっ、今興奮しただろ」
「ようこそ、こちら側へ」
あーあ、こいつらの頭の上に隕石落ちないかなあ。
「っとヤベェ、そろそろ試合が始まっちまう。すんませんアリリアさん、ほんとはもっと議論を深めたかったんすけど……」
「私もです。ですがそれはまたいずれ、ということで」
「アリリアさん……! その、最後に一つだけいいですか……!?」
「おや、なんでしょう」
「スリーサイズを教えてください!!!」
ほらみろ。語弊ねえじゃねえか。
「318、56、134です」
「うおぉぉぉ! ありがとうござ……え、318……?」
はよ行け。
「あっ、そうだ雪春。試合観戦なんだけど、冬二たちも一緒なんだ。だから、その……せっかくだし雪春も一緒にどうだ?」
「……いや、やめとく」
「そっか。まあ気が変わったらいつでも言ってくれな。それじゃッ!」
そう告げると、宗助は手を振りながら試合会場へと走り去って行く。
しかしなんだあいつ……。急に僕を冬二たちのグループに誘うようなマネして。
以前はむしろ、僕を冬二グループからそれとなく排除しようとしてたくせに。
「面白いお友達でしたね」
友達じゃないです。
その後、宗助がその場を去ってすぐ、入れ替わるようにして光華と風花がお手洗いから戻ってきた。
「遅くなってすまない。お手洗いが混んでいてね。それと、途中で運営本部の様子を確認してみたけど、かなり忙しそうにドタバタしてたよ。なんでも、放送室を占拠されたとかで」
「そっか」
どうりで、さっきから『雪くん!』を連呼する放送が鳴り止まないわけだ。
しかしそれだと、風花を運営委員に引き渡したとして、すぐには対応してもらえないかもしれない。
心配になりながら、僕は手を繋いだ風花の様子を確認する。
今は泣き止んでこそいるものの、寂しさや心細さを必死に我慢しているのが伝わってくる。
できるならば、すぐにでも姉に会わせてあげたい。
「では、私たちで風花ちゃんの姉を探しましょう」
「……お姉ちゃん、一緒に探してくれるの?」
「うふふ、もちろんですとも」
王女様は自分たちでの姉探しを提案すると、屈んで風花の頭を撫でる。
もちろん、僕と光華もその提案に異論はない。
風花の不安気で泣きそうだった表情が、花が咲くような笑顔へと変化したことで、僕らもまた笑顔を浮かべた。
しかしまあ…………、随分とガッツリ探りを入れてきたな。
王さんの三冠成績にしようかとも悩みました。王だけに…………ごめんなさい、生卵投げないでください。