魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
異能学園では普通教科のほかに、異能に関連する授業が存在し、当然その筆記テストも行われる。
そしてそのテストの最中――
「うっ……! 頭が…………!」
突然のことだった。とても耐えられないほどの頭痛が襲う。きっかけはテスト用紙に記載されている『とある単語』を見たこと。
初めて見たはずの言葉にも関わらず、どこか懐かしさを感じると同時に湧き出した痛み。
「ぐっ…………!」
その痛みに必死に耐えていると、誰かの声が頭に流れ出す。
『お願い……! 私を、忘れないで――!』
声だけではない。知らないはずの人物、知らないはずの風景、知らないはずの出来事。そんな自分のものではない誰かの記憶が、次々と頭の中に流れ始め――――た友人である冬二の姿を、後ろの方の席から見ていた僕は思う。
どこで記憶覚醒イベ消費してんだ。もっと強敵との戦いの最中とかにやれ。
ということがあったのが一週間前。
あの後、『わかる……! わかるぞ…………! 進〇ゼミでやってないけどわかるぞ!!!』とばかりにテストを解いていき、高得点を取った冬二。
その一方で、僕はというと――
――現在絶賛補習中です。
「なんでや」
「君がテストでひどい点をとったからだろう」
つい関西弁になってしまった僕の言葉に反応したのは、クラスの担任教師である
ちなみに僕が補習を受けている教科は『異能歴史学』というもの。
当然ながら高校から異能の世界に飛び込んだ僕には、異能に関する基礎知識がほとんどない。
それでも、テストに出る範囲だけなら暗記すればなんとかなる。基礎召喚魔術、魔獣生物学、異能化学、異能経済学などなど……
ぶっちゃけ異能経済学なんかは心の底から理解できないが、それでもテストのたびになんとか乗り越えてきた。
そんな僕でも、異能歴史学には白旗を上げざるを得ない。その理由は――
「アエギラ帝国での魔力の名称は?」
「……魔素?」
「違う。それは東国での名称だ」
「えーと……霊力でしたっけ?」
「違う。それはサーブル王国での魔力の別称だ」
「マナ」
「違う」
「オド」
「違う」
「心魔節」
「それはアエギラ帝国の建国初期でのみ扱われていた名称だ。テストでは不正解になる」
わかるかぁ!!!!!
魔力だの霊力だの魔素だの、全部魔力でいいじゃん統一しろ!!!
「確かに国や時代によって、魔力の概念はその都度変化し、名称も変わる。君がなかなか覚えられないのも無理はない」
本当に頭がこんがらがる。なのに異能界隈では小学生でもみんな覚えているとのこと。なんで覚えられるの?
「安心すればいい。ちゃんと覚えやすくするための語呂合わせも存在する」
よかった。そういうのちゃんとあるんだ。『すいへーりーべー』みたいな感じのやつかな?
「下位形種の召喚術はマドとオド、サイダル・ヘルトのアットー滑り落ち、ベルガ海域からゴーシックで――」
…………知らない単語が増えた。
語呂合わせが異能界隈仕込みなんだけど。辞書で知らない単語引いてたら知らない単語で説明された気分。
もうやだこんな教科。こんなのが将来何の役に立つって言うんだ!
「まあ、君が文句を言いたくなる気持ちもわかる。だが、名称はただの言葉ではなく、その時代、その国に生きた人間たちの
「……先生」
普段ずっと厳しい顔を浮かべている立花先生。
誰も笑顔を見たことがないと言われている立花先生。
影では『鋼鉄の処女』という割とひどいあだ名まで付けられている立花先生。
そんな先生が心なしか柔らかい表情で僕に語り掛ける。
年長者として、先に歴史を紡ぐものとして、僕に――僕たち生徒に本気で伝えようとしているんだろう。
教師という立場から真剣に話す立花先生を見て僕は思う――――
いや知らんし。どこの誰とも知らない人間が決めたルールより、自分のテストの点数の方が大事に決まってるんじゃん。
僕は内心ブツブツ文句を言いながら、補習を受け続けた。
―――――
おまけ
バイトをしよう。
僕がそんな考えに至ったのには理由がある。
最近の僕はというと、平日は授業を受け、放課後は帰ってゲーム。休日は昼まで寝て、ゲームをしたりテレビを見たりしながら過ごす。
部屋の掃除等はホテルのようなシステムで平日学園に行っている間、学園の雇った人がきれいに掃除をしてくれているため必要ない。
要するに、僕は学園に行っている以外のほぼ全ての時間を、欲望のおもむくままに生きている。
そしてその何よりの原因がお金だ。
この学園はめちゃくちゃお金を出してくれる。どれくらいかというと、本当にめちゃくちゃ出してくれる。
家具や家電、食費等の生活に必要なものから、ちょっとした小道具や参考書など、学園に申請すれば簡単にお金を出してもらえる。
しかも申請の通るスピードがバカ速い。申請して1時間後くらいには通る。正直異常だと思う。
審査も割とガバガバで、原付バイクの購入費や免許講習費の申請時も、『通学のため』の5文字で通った。
1度出来心で『異形存在との戦い方を学ぶため』なんていうふざけた申請理由で、モ〇ハンを購入したいと申請したら通ってしまった。さすがに罪悪感が勝り、慌てて申請を取り消してもらった。職員さんへ、あの時は余計な手間をかけさせてしまってごめんなさい。
とまあそういった理由から、僕はこの学園に来てから自分のお金を一切使っていないどころか、むしろ毎月一定金額が学園から雑費として口座に振り込まれている。
そんな日々を過ごすうちに僕は思った。
いかん、このままではダメ人間まっしぐらだと。
ずっとこの生活が続くなら、はっきり言って何の問題もない。ばっちこいだ。
けれどそうではない。この生活は僕が高校を卒業すると同時に、つまりあと2年で終わる。
もしこのまま今の生活をずっと続けてしまえば、ぬるま湯に浸りきった僕は間違いなく社会復帰できなくなってしまう。
それはまずい。
そこで考えたのがバイトだ。
お金を稼ぎながら社会を学ぶことができるし、少し珍しいタイプかもしれないが、バイトに精を出すというのも立派な青春の1つだろう。
ついでに言うと、漫画やアニメでバイトをしているキャラへの憧れが少しあり、それも理由の一つだったりする。
思い立ったが吉日――ということで、ちょうど学生大歓迎のバイト募集を行っているところがあったため、早速連絡を入れて面接へと向かった。
原付で10分ほど移動して到着したのは、『~こんなの食べたことない!?~ 神も愛した舌がとろける最強料理! 俺だけ食べたら能力値アップ!? 毎日食べていたらいつの間にか世界最強になっていた件』という看板がかけられたそこそこ大きめのファミレス。
ちなみにあの看板の文字は店名らしい。盛り過ぎたラノベタイトルみたいな名前だが、それなりに繁盛しているみたいで、かなりお客さんが入っている。
面接を受けに来た僕は、電話で事前に指示された通り、正面入り口からではなく裏に回る。
裏手にあった扉の前に立つ僕は、自分が緊張していることに気づいた。
落ち着け僕。こういうのは第一印象が肝心だ。
元気よく挨拶をしなければ。
覚悟を決めた僕は扉を開け、気合を入れて挨拶をする。
「初めまして! アルバイトの面接を受けに来た渡谷――」
「おい!!! 3番テーブルの料理はまだできないのか!!!!」
「今やってる!! それよりこっち皿が足りねえぞ!!!」
「ジャガイモみじん切りにして持って来い!!!」
「誰だ14番テーブルの注文とってきたやつ!!? ぜんぜん違かったじゃねえか! ぶっ〇すぞ!!!!!」
…………帰ろっかな。
「あれ? 君もしかして面接に来た子?」
すでに心が折れかけている僕。
そんな僕に気づいたスタッフの1人が声をかけてくる。
長身で線が細く、目の下にクマができており、その見た目は不健康そのもの。
「あ、はい! そうです!」
「んじゃ面接するからついてきて」
そう言って有無を言わさず歩き出すスタッフさんの後を僕はついていき、休憩室のような部屋に入る。
その部屋では3、4人ほどのスタッフが屍のように倒れていた。
「んじゃこれから面接始めるからその椅子に座って」
「え、でもここ他の人がいるんですけど」
「いいからいいから、気にしなくていいよ」
いや、気になるでしょ。なんだか色々と不安になるなこの店。
「えっと、渡谷雪春くんね。あ、言い忘れてたけど店長の水谷です。よろしく」
店長さんだったのかこの人。スタッフさんの中で一番覇気がないのに。
「……はい、よろしくお願いします」
しかしすごくぬるっと始まったな。
あまりにも想定外の事態が続いているというのもあるけど、こんなふうに面接を受けるのは人生で初めてのため、自分でも驚くくらい緊張している。
冷静になれ僕。昨日見た面接動画を思い出せ。無難な回答をすれば大丈夫、、、よし。
「んじゃ最初の質問だけど――」
こい! どんな質問だろうと動揺することなく完璧に回答してみせる!
「――今日このあと暇?」
……………………? え?
「どうしたの?」
「いえ! なんでもありません! 特に予定はありません!」
「んじゃはいこれ」
そう言って店長から渡されたのは、机の上に置いてあった仕事着。
「んじゃ今からよろしく」
「はい! よろしくお願いします!」
…………んえ?
「え!? ちょ、面接これで終わりですか!? ……というか今から!?」
「そうだよ。さっき特に予定ないって言ったでしょ?」
「いや、言いましたけど……」
「んじゃ着替えたら厨房の方にきてね。仕事を教えていくから」
店長はそれだけ言うと、素早く部屋から出て行ってしまう。
あまりにも早すぎる展開に困惑していたその時、どこからか声が聞こえてくる。
「カエ、レ。カ、エレ……」
それは地を這うようなかすれた声で、どこか本能的な恐怖を感じさせるものだった。
僕は声の聞こえてくる方向――床に目を向けると、スタッフさんが倒れながら、僕に向けて手を伸ばしている。
「イク、ナ。イッタラ、モウ、モドレナイ、ゾ」
まるで忠告のような言葉を、間違いなく僕に向けて告げ続けているスタッフさん。
その目はバッキバキだった。
「ココ、カラ、サ、レ――」
その言葉を最後に、スタッフさんは気を失い、倒れる。
………………ここ飲食店だよね?
その後、少し迷った末、僕は着替えて厨房へと向かった。
こうして莫大な不安と共に僕のバイト生活は始まったが、仕事内容はそれほどおかしなものではなく、大変そうではあったが僕の想像をこえるようなものではなかった。
ちなみに初バイトが終わった後、店長から『君は逸材だ』と褒められた。
異能の存在する世界にきて初めて褒められたのが、異能とかまったく関係のないことだと思うと、僕は少し複雑な気持ちになった。
ちなみに、異能学園の校則にはバイト禁止と書かれています。書かれているだけです。