魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女 表 第一王子からの刺客 前編

 

 雪春がチームメイトたちにキレる、その数時間前――

 

 

 

 

 学園の校門前では、ちょっとした騒ぎが起きていた。

 

「お、おい。あれ……」

 

「ああ、間違いねえ……。『狂蛇(きょうじゃ)』だ」

 

 その場にいる大勢の人々が視線を向け、恐怖と警戒の色を浮かべるのは、校門へと近づいていく一人の少年に対して。

 髪色が三色のとても特徴的なその少年は、これでもかというほど不機嫌そうな表情を浮かべ、なぜか頭から血を流し、さらには気絶した成人男性の足を掴んで引きずり歩いている。

 

「また喧嘩か?」

 

「しっ! ……目を合わせるな。俺たちも巻き添え食らうぞ」

 

「この前なんて魁離気(かいりき)高校のやつら二十人近くとケンカして、全員病院送りにしたらしいぜ」

 

「マジかよ。あの筋肉ダルマ集団相手に……」

 

 遠目からヒソヒソと語られるその少年の噂話は、誰とケンカした、誰を病院送りにしたという恐ろしいものばかり。

 頭部からの流血を誰一人として心配する様子はなく、少年の目の前はまるでモーセのごとく人が割れていく。

 

 そうして、そのまま校門を通過しようとした少年だが、さすがにそれには待ったをかけられる。

 

「き、きみ! ちょっと待ちなさい!」

 

 少年を止めたのは、校門前に常駐する警備員。警備員は少年の前に立ちふさがり、その行く手を阻もうとする。しかし――

 

「ほら、善良な市民をいきなり鉄パイプで殴ってきた極悪人だ」

 

 少年は警備員に向かってそう告げると、引きずっていた成人男性を投げ飛ばす。

 

「え!? ちょっ!?」

 

 警備員は突如投げつけられた成人男性を受け止めきれず、そのまま尻もちをついて下敷きになってしまう。

 そしてその脇を、少年は目もくれずにすり抜けていく。警備員は必死に止まるよう声をかけるが、その声に少年が反応することはなかった。

 

 

 

 

 学園内へと足を踏み入れても、流血する少年に対し、誰も声をかけようとはしない。

 しかしそんななか、次第に周囲の人目が少なくなってきたところで、ようやく一人の人物が少年に声をかける。

 

「やあ、蛇塚くんじゃないか」

 

「ん? ……ああ、光華か」

 

 少年――蛇塚秋人が声に反応し振り返ると、そこにいたのはチームメイトである光華夏美。

 二人が出会ったのは偶然ではなく、向かう先が同じであるが故の必然。

 そして奇妙なことに、蛇塚同様、光華も頭部から血を流していた。

 

 二人はお互いの顔を見て、しばらく無言になる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……偶然、じゃねえわな」

 

「……だろうね」

 

 学園へと向かう途中、知らない人物に背後からいきなり頭部を強打された二人。

 二人とも思い当たる節はたくさんあったため、きっとその関連だと考えていた二人だが、チームメイトが同じタイミングで襲撃を受けたとなると、また話が変わってくる。

 

「しまったね。てっきり子猫ちゃんにフラれて逆恨みした男だとばかり……」

 

「オレもいつものお礼参りだと思って、さっき警備員に引き渡しちまった」

 

 なぜ自分たちを襲ったのか? その理由を聞き出さなかったことを後悔する二人のもとに、三人目のチームメイトが合流する。

 

「あっ! へ、蛇塚くんと光華さん、ぐ、偶然だね! も、もしよかった、その、いいいいい一緒にメンター室まで、その――」

 

 音量調節が全く機能せず、なんでもない言葉をかみまくる二人のチームメイト――烏丸冬歌。

 偶然だね――などと口にしているが、彼女がこの場で合流したのは偶然などではない。

 彼女は三時間前から、メンター室へと向かうルートのうちの一つであるこの場に待機し、チームメイトが通るのを待ち続けていたのだ。偶然を装って合流し、チームメイトと共にメンター室へと向かうために。

 

 そしてそんな烏丸のすぐ隣には、一人の成人男性が気絶した状態で倒れていた。

 

「……おい」

 

「……ああ」

 

 蛇塚と光華のその視線は、合流したチームメイトよりも、倒れている男性へと向けられる。

 

「……? あれ、二人ともどうしたの?」

 

「ねえ烏丸さん、一応聞くけど……その人、知り合いとかじゃないよね?」

 

「あ、うん。なんかその、知らない人が近づいてきたから、怖くて呪っちゃって……」

 

 人を呪うことへのハードルが低すぎる――蛇塚と光華は改めてチームメイトの恐ろしさを実感しつつ、一旦脇へと置いておく。

 

「……じゃあまあ、いつも通りの手順で行こうか」

 

 光華がそう告げると、蛇塚は(使い魔)を召喚し、それを見た烏丸もすぐさま藁人形と釘を取り出す。もはや余計な言葉など必要ない。

 それはあまりにも慣れた手つきで行われる、拘束&尋問の段取り。

 

 

 この数分後、成人男性の悲痛な叫びが学園内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 気絶していた成人男性との建設的な話し合いの末、蛇塚たち三人は学園近くのとある廃工場へと足を運んでいた。

 成人男性曰く『依頼主から、お前たちをこの廃工場に連れてこいという依頼を受けた』とのこと。

 

 そのため蛇塚たちは現在、依頼主が現れるという約束の場所――そこを監視できる位置に身を潜めている。自分たちを襲わせたその人物が、一体どんな顔をしているのか拝むために。

 

「しかしよぉ、なんだってオレらをこんなところに……」

 

「誰か一人じゃなく、ボクら三人とも狙われたってことは、チームに恨みを持ってる相手かもね」

 

「で、でも、ワタシたち恨まれるようなことした覚えなんて――あっ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 この時、三人は思い出した。

 カレールー独占を始めとした、チーム合宿での非道な行いの数々。

 初任務時の、反社組織へのカチコミ。

 さらには、その他の細かい出来事もろもろ……。

 

 恨まれる覚えしかなかった三人は、思わず下を向く。

 まるで、自分たちのしてきた所業から目を逸らすように。

 

「……あ、だったら、リーダーは大丈夫かな?」

 

 チームが狙われているということは、当然リーダーである雪春も狙われている可能性が高い。

 もしかしたら、リーダーも自分たち同様襲撃を受けているかも――そう心配した烏丸だが、それに対する蛇塚と光華の反応は平然としたものだった。

 

「リーダーは…………まあ大丈夫だろ。ビル爆破の時、爆破地点にいながら唯一無傷だったやつだぞ」

 

「なぜかはわからないけど、彼が手酷くやられる姿は想像できないんだよね。なんというか……どんな状況だろうと、のらりくらり危険を回避してそうというか」

 

「……確かに、そうかも」

 

 二人の言葉に、烏丸も思わず納得してしまう。

 異能ランクはチーム内で一番低く、能力も戦闘向きではない。にもかかわらず、烏丸が思い出せる限りでは、リーダーが大きな傷を負ったような記憶は一度もない。

 それどころか、リーダー以外全員が大ケガを負う中で、リーダーだけが無傷ということもしばしば。

 

「まあ仮にリーダーが襲撃を受けていたとしても、どちらにせよ廃工場(ここ)に連れてこられるんだから、ボクらはただ待てばいい」

 

「そっか……!」

 

 そうして、三人は依頼人(+拉致られたリーダー)が現れるのをそのまま待ち続ける。蛇塚と光華は、その手に鉄パイプを握りしめて。

 本来ならば、襲撃を受けたことを警察や治安部隊に通報する――という行動を真っ先に行うべきなのだが、その選択肢を彼らは初めから持ち合わせていなかった。そんなことをすれば、自分たちでやり返すことができなくなるのだから。

 目には目を、歯には歯を、頭鉄パイプでパッカーンには頭鉄パイプでパッカーンを。それが彼ら『愚蓮努羅魂仏血切離(ミスフィット)』の基本方針である。

 

 

 

 数分後――

 

 

「誰か来た」

 

 人の気配すら感じられない廃工場で、静寂のなか響き渡る規則的な靴音。

 指定された場所へと現れた人物、それは――

 

「……え?」

 

「噓っ……!?」

 

「マジかよ……!?」

 

 蛇塚たちが視線を向けるその先には、彼らのよく知る人物であり、その友人役を務めているジール王国の第一王女――リリアーナ・ガイアスの姿があった。

 

「なんでリリアが……!?」

 

「ワタシたち、そんなに恨まれてたの?」

 

「バカいえ、そんな恨まれるようなことなんて――」

 

「「「…………」」」

 

 

 ……プリン!――三人は原因に思い至った。

 

 

「え、でも、プリン一つでここまでする?」

 

「まあ確かに、プリンの恨みにしてはやりすぎの気もするけど……」

 

「ふざけやがって。みんなでリリア(あいつ)の泊まってるホテルに押しかけて厄災の泥人形(ミカエル)大会しようぜ」

 

「待って二人とも! まだ誰か来る」

 

 光華の言葉に反応し、二人はすぐさま息をひそめる。

 すると、リリアのその正面から一人の成人女性が姿を現した。年齢は二十代中ほどで、その容姿はリリア同様ハッキリと日本人離れしている。

 

「誰だ?」

 

「リリアさんの部下とか?」

 

「うーん、それにしては雰囲気が険悪というか……」

 

 お互い正面から向き合うリリアと成人女性。その二人の間に流れる空気は、光華の言葉通りどこか重苦しい。

 どちらも笑顔を浮かべているものの、それはひどく獰猛で、見方によっては睨みあっているようにも見える。

 

『……まさか、本当にいらっしゃるとは思いませんでした。さすが、国民からの支持が高い第一王女リリアーナ様です。お優しいことこの上ない。しかし……、為政者としては疑問が残る選択ではないかと』

 

『あなたのような凡俗の徒が持つ物差しで、私を測ろうとするのはやめなさい。第一王子の近衛兵――マリネッタ・シャーロウス』

 

『あらあら、私のことをご存じだなんて光栄ですわ。てっきり、私のような凡人のことなど、リリアーナ様の視界には入ってないとばかり』

 

 リリア、そしてマリネッタと呼ばれた成人女性は、笑顔を浮かべたまま言葉を交わしていく。

 しかし交わされる言語が日本語ではなかったため、蛇塚たちにはその内容を理解することができなかった。

 

「……おい、あいつら何話してんだ?」

 

「ワ、ワタシもわかんない」

 

「多分だけど、ジールの公用語じゃないかな」

 

「光華、お前わかるのか?」

 

「少しだけなら……。さすがにネイティブ同士の会話を完璧に聞き取れる自信はないよ。単語を拾うくらいが限界だと思う」

 

「まあそれでもないよりはマシだ。わかる限りで内容を教えてくれ」

 

「わかった」

 

 光華はリリアたちの会話内容を聞き取るため、先ほどよりも神経を研ぎ澄ませて会話に耳を傾ける。

 

『しかしまさか、あなた様ほど高貴な身分のお方が、一般生徒のフリをしているとは夢にも思いませんでした。ええ、まるで月並みな創作話のようで。コーネからその話を聞いた時、思わず吹き出してしまいましたわ』

 

『……やはり、コーネに自白魔法か何かを使用しましたか。この下種め』

 

『あら、影武者を身代わりにし、危険にさらした行為は下種ではないと?』

 

 その殺伐とした内容とは裏腹に、なおも笑顔を浮かべ続けるリリアとマリネッタ。

 そんな二人とは対照的に、会話に耳を傾ける光華は難しい表情を浮かべていた。

 

「……なんて言ってる?」

 

「ごめん、正直よく聞き取れなかった。なんだかあまりにも聞きなれない単語が多くて……」

 

 単語くらいなら聞き取れる――そう考えていた光華は、早々に自信を打ち砕かれてしまう。

 というのも、リリアたちの会話にはかなりの口汚いスラングが使用されており、日常会話レベルの知識だと、ほとんど理解できないのも無理はなかった。

 

『しかし、使用人一人攫っただけでこんなにも簡単に事が進むのでしたら、使えない探偵など雇わず、初めからこうするべきでした』

 

『よくもまあ、ここまで非道な行いができるものです。このことが明るみになれば、その責任は上にまで追及されますよ』

 

『ええ、もちろんそうなるでしょうね。私がこの国にいたこと、それをまず証明できれば……ですが』

 

『まったく……。第一王子(兄上)は相変わらずの臆病者でいらっしゃる。こちらの行いが分の悪い賭けだとわかっておきながら、ここまでして徹底的に潰すおつもりとは』

 

『口を慎んでください、リリアーナ様。兄君とはいえ、あの方は次期国王となる貴きお方です。メイルカムイ討伐などと、夢物語に(うつつ)を抜かすようなあなたとは、背負っているものが違うのですよ』

 

 マリネッタが仕える主君――リリアの兄である第一王子をバカにするような言動に、マリネッタの表情からようやく笑みが剥がれ落ちる。失言を咎め、圧をかけるように。

 しかしそれは、リリアも同じだった。

 

『あなたこそ、口を慎みなさい』

 

『ッ……!?』

 

 笑みが消え、リリアの冷たい視線が突き刺さる。その圧は、王族の近衛兵として確かな実力を持つマリネッタが、思わずひるんでしまうほど。

 

『仕える主が偉いからと、自分も偉くなった気でいましたか? ああそれとも……、兄上にその身体(からだ)を求められ、愛人になれるとでも勘違いしてしまいましたか? 忠実な部下を(うた)っておきながら、その内にあるのは女としての欲。なるほど、あなたらしい(・・・・・・)(けもの)仕草ではありませんか』

 

『なっ……!?』

 

 鋭い視線から一転、リリアが浮かべるのは侮蔑の笑み。そしてその表情から語られるのは、マリネッタにとって耐えがたい屈辱的な言葉の数々。

 リリアの言葉には、『お前のことは全て調べ尽くしてある』という意味も、暗に込められていた。

 マリネッタの表情は恥辱に染まり、返す言葉を口にすることができない。

 

 そんな二人の間に流れる険悪な空気は、蛇塚たちにもしっかりと感じ取ることができた。

 

「……相変わらず何言ってっかまったくわかんねえけど、わかりやすくバチバチし始めたな」

 

「こ、光華さん、会話の内容わかった?」

 

「えっと……聞き取れた範囲だと、『探偵を雇った』とか、『非道』に『責任』、あとは『証明』とかかな。おそらくだけど、二人の共通の知り合いか誰かの話をしてるんだと思う。兄がどうとか聞こえた気もするけど……」

 

「あっちの女が顔を赤らめて焦った理由とかわかるか?」

 

「えー……、ちょっと待って」

 

 光華は目を閉じ、こめかみに指を当て、なんとか頭の隅にある記憶を引きずり出そうとする。

 

「……あっ、そうだ! あれは確か『愛人』とかそういう意味の言葉だったはず」

 

「「…………」」

 

 リリアたちの会話から、なんとか聞き取ることのできたいくつかの単語。

 その単語を並べ、三人は必死に会話の推測を行う。

 

「探偵を雇ったってことは、リリアが何かしら調査を頼んだってことか?」

 

「いや、そうとも限らないんじゃないかな。ただの報告にしては、二人の雰囲気が険悪すぎる」

 

「そもそも、あの女はリリアの部下じゃないとしたらなんだ? リリアが王女だと知らない……なんてことはないよな?」

 

「どうだろ。彼女がサラスティナの教師とかなら、さすがに知ってるとは思うけど」

 

「くっそ、さすがにこれだけの情報だと無理か……」

 

 光華と蛇塚はいくつかの推測を口にするが、どうにも納得のできる結論は出てこない。

 しかしそんな中で、それまでずっと黙っていた烏丸がポツリとつぶやいた。

 

「……ワタシ、わかったかもしれない」

 

「え!? ほんとかい!?」

 

「うん。リリアさんたちが揉めてる原因、それは……」

 

 点在するわずかな要素をつなぎ合わせることで、見えてくる一つの事象。それは全ての出来事に説得力を持たせ、あらゆる矛盾を打ち消す至上の解。

 自身の考えに間違いがないと確信を得た烏丸は、蛇塚と光華にその答えを告げる。

 

「……痴情のもつれ、だと思う」

 

 真実には程遠い、斜め下の答えを。

 

「ッ……! そうか、探偵を雇った名目は浮気調査……!」

 

「だとすれば、『責任』や『証明』という言葉にも説明がつく」

 

 しかしながら、蛇塚と光華もその的外れな回答に納得してしまう。

 

「あの女性の方が『探偵を雇った』と口にしていたから、調査されたのはリリアの方になるね」

 

「つまりこういうことか? リリアがあの女の彼氏か夫を奪って、探偵による調査でそのことが露呈。ぶち切れた女がこうしてリリアを呼び出した、と」

 

「そ、それなら二人が険悪なのも納得だし、その上『愛人』扱いされたら怒るのも無理ないっていうか……」

 

 一度正解だと思い込んでしまえば、なかなか思い直すことは難しい。

 多少強引なロジックであろうとも、無理矢理自身を納得させようとしてしまう。

 

「じゃああれか? オレらは最近よくリリアの傍にいたから、その痴情のもつれに巻き込まれただけってことか?」

 

「そうなるね」

 

「で、でも……、リリアさんがそんな人だったなんて……」

 

「まあリーダーが言うには彼女、ネトラレ好きの変態らしいからね。さもありなんというか……」

 

「「……」」

 

「ん? どうしたんだい二人とも、急に黙って――」

 

「ネトラレって何?」「ネトラレって何だ?」

 

「…………実はボクもよく知らないから、今度リーダーに尋ねてみたらいいんじゃないかな」

 

 けがれなき瞳から告げられる疑問の言葉に、光華は何も知らないフリをした。全ての面倒事をリーダーに押し付けて。

 

「あっ、おい。見ろあれ」

 

 的外れながらも、とりあえず一応の結論を出し、三人は改めてリリアたちの方へと視線を向ける。

 すると、マリネッタの仲間らしき集団が突如として現れ、あっという間にリリアの周囲を囲ってしまう。

 

「おいおい、いくら男とられたとはいえここまですんのか……」

 

「男女関係の恨みというのは存外恐ろしいものさ。蛇塚くんも、あのかわいい幼なじみから刺されないよう気を付けなよ」

 

「あ? もしかして舞衣(まい)のこと言ってんのか? だからあいつとはそんなんじゃねえって何度も――」

 

「ぺっ!」

 

「烏丸さん、気持ちはわかるけど、女の子がそんなふうにつば吐き捨てちゃダメだよ」

 

 知り合いが数十人近くの集団に囲まれながらも、三人は依然として緊張感のかけらもない言葉を交わし続ける。

 そうして三人はそのままゆっくりと立ち上がり、光華は落ちていた石(・・・・・・)をその手に握りこむ。

 

「じゃあ、頃合いを見て助けに入るとしようか。理由はどうあれ、友人が(・・・)やられるのを黙ってみているわけにはいかないからね」

 

 光華の言葉に、蛇塚と烏丸からの異論はない。二人はむしろ当然だと言わんばかりに、すぐさま動くための体勢を整えていく。

 友人を助けるため――その大義名分を盾に、三人は争いのなかへと身を投じようとしていた。

 

 

 それが国の思惑が絡む大事であるとは、露とも知らずに。

 

 

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