魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑫ / 獣との邂逅

 

「――ということがあったんだ」

 

「…………ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」

 

「いてぇいてぇ! リーダー、包帯巻くならもっと優しく巻いてくれ」

 

 盛大に遅刻したかと思えば、ボロボロの姿でメンター室へと到着したリリアとチームメイトたち。

 蛇塚の傷の応急処置を手伝いながら、何があったのか事情を聴いてみれば、案の定『共に困難()を乗り越えて()絆を深めました()イベント()』。

 ふざけやがってよぉ~~~~~~~~~。

 

「だからいてぇってリーダー! 多分あばら折れてんだぞ。もっと丁寧にやってくれよ」

 

「あばらなんて何本折れても平気でしょ」

 

「んなわけねえだろッ!」

 

 大丈夫だよ。バトル漫画だとサクサク折れがちな部位だけど、わりかしみんな元気に動いてるし。

 

 というかぁ~~~、あばらの話はどうでもいいんすよ。なに僕抜きで主人公パーティーみたいなことやってるの? いきなり襲撃受けたと思ったらなんやかんやあって王女様助けました? は~~~~~~~ッ! 仲間のために体張ってボロボロになって、一人で集団の敵を相手に無双して、絶体絶命のピンチを新しく使えるようになった力で乗り越えて……。なに? おまえらバトル漫画の登場人物のつもりか? せいぜいドタバタコメディの住人だろうがよぉ~~~。ドクズ設定とか完全に見失ってるじゃん! 捨てるなよ! アイデンティティをよぉ! てかなんでさぁ、お相手さん……僕だけ襲撃かけてこないの? あれか? Eランクのクソザコ接着剤野郎なんて眼中にもないってか? 人質の価値もないってか? 獣畜生がなめくさりやがって~~~ッ! リリアのピンチとかどう考えても僕が助けに入るべきタイミングじゃない? 絶体絶命のピンチに僕が『バレたくなかったんだけど……、仕方ないか』とか言いながらメイルカムイ召喚して、『え? まさかあなたが……!?』みたいな展開になるべきじゃないの? べきじゃないの!? ここで活躍しないならいつあのイワシ悪魔さん活躍するの? 過去の因縁があって意味深なセリフまで吐いてたくせに、あいつまだ僕の部屋の窓ガラス消しただけなんだけど。もう手段選ばずメイルカムイに世界征服とか命じたろか? いや、やらないけどさぁ~~~~~~~~!!!

 

「――だから……って、聞いてるのかい? リーダー」

 

「え、聞いてない」

 

「君ねえ……。しばらく学園から出ないようにすべきだって言ってるんだよ。またやつらに襲撃される可能性がある。今リリアが部下と連絡を取りに行ってるから、戻ってきたらこれからどうするか話し合おう。立花先生にも報告して――」

 

「…………」

 

「ちょっとリーダー、本当にちゃんと聞いてるのかい?」

 

「うん、今度はちゃんと聞いてたよ。リリアさんが戻ってくるまで、大人しくしとかないとね」

 

 尋ねてくる光華に対し、僕はその目を真っすぐ見て告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――というわけで、やってきました廃工場。

 

 

 襲撃犯が健在だというのに、大人しく待機などするはずがなかろうて。

 まだだ……、まだ間に合う。ここで僕が襲撃犯をぶちのめせば、傷つけられたチームメイトの仇をとったリーダーとして格好がつく……! 今度こそ、蚊帳の外になってたまるかッ!!!

 といった考えのもと、光華たちにはお手洗いに行くと嘘をつき、こうして事件のあった現場へと足を運んだわけだが…………。

 

『みなさんッ! 黄色い線の内側には入らないでください! どうかご協力をお願いします!』

 

 残念ながら敷地内に入ることは叶わなかった。廃工場は既に治安部隊の人たちによって封鎖されており、敷地内では鑑識作業的な何かが行われている。

 敷地外では何事かと不思議に思った野次馬が集まっており、僕もそこに混ざり、中の様子を遠目からうかがうことしかできない。

 

「なんか事件でもあったのか?」

 

「ああいや、事件とかじゃないらしい。ガス爆発だとよ」

 

 封鎖している理由だが、どうやら野次馬たちには嘘を教えている様子。誤魔化し方が聖〇戦争のそれ。

 

 しかしまあ、こうなってしまえば襲撃犯を見つけるのは無理だろう。既に逃げたか、もしくは捕まっている可能性もある。

 そのため僕は廃工場を離れ、来た道を戻り始めた。

 

 だがそれは、諦めたが故の行動ではない。見つけられないのならば、見つけさせればいい――

 

 

 

 ――そうしてしばらく歩いていると、

 

「むむむッ!」

 

 僕の頭上でフワフワと浮かんでいたムーが、突然声を出して騒ぎだす。

 普段なら“定期的に訪れるかまって期かな?”と勘違いするところだが、今回のそれ(・・)は僕と事前に取り決めておいた合図。

 

 そう、尾行されていることを知らせるための。

 

「むむむむむ。む~むむ」

 

 “偉いでしょ? な~でて”とばかりに頭を擦り付けてくるムー。

 そんなムーをわしゃわしゃと撫でてやりながら、僕は大通りからそれ、人気の少ない入り組んだ路地裏へと足を踏み入れる。

 そしてある程度進んだところで立ち止まり、誰もいないはずの来た道を振り返りながら告げた。

 

「いい加減、出てきたらどうですか?」

 

 僕の発したその言葉は、僕を尾行する人物への呼びかけ。そしてその呼びかけに応えるかのように、帽子を深くかぶった女性が僕の前へと姿を現す。

 

「血の匂いにつられ、獣が一匹(・・・・)

 

 “表情を隠していても、お前の正体には察しがついているぞ”ということを暗に伝えると、女性は帽子を取り、その素顔をあらわにする。

 日本人離れした顔立ちに、二十代くらいの見た目。その他細かい特徴も含め、蛇塚たちから聞いた話と一致する。そのため、この女性がマリネッタで間違いないだろう。

 ちなみに服は着ていた。……いや、あくまで全裸になったってことを聞いてたから引っかかってただけで、別に見たかったとかそういうスケベ心ではない。断じてない。

 

「マリネッタ・シャーロウスさん……で、間違いありませんね?」

 

「やはり……誘いだったのですね。気づかれているとは思いませんでしたが……」

 

 まあ、気づいたのは僕じゃなくてムーですから。僕や一部の相手にしか視認できないムーなら、尾行者を警戒してても全くバレないわけで。

 ただ『誘い』の部分は大正解。こうして僕が尾行されたのは、決して偶然ではない。

 実はメンター室を出る前、蛇塚の応急処置を手伝っている際に、持っていたハンカチに蛇塚の血をこっそりと付着させておいたのだ。

 なぜそんなことをしたのかというと、その血を囮にする(・・・・)ため。敵が獣人という存在であり、鼻が利くということを聞き、僕はひらめいた。蛇塚の血の匂いを餌に、敵をおびき出せるのではないかと。敵がまだリリアを追っているなら、一緒にいた蛇塚の匂いを無視するはずがない。

 そしてその目論見は見事にハマり、こうして相対することができたというわけだ。

 

「僕のチームメイトを、随分といたぶってくれたらしいじゃないですか」

 

「っ……!」

 

 僕という存在が、蛇塚たちに(くみ)する人間であることを伝えると、マリネッタの浮かべる表情はさらに険しくなる。

 そうだ、僕はお前の敵だ。チームメイトの仇をとり、お前をリリアの目の前に引きずり出す。

 

 さあ、ようやくお前の真価を発揮する時が来た! 我と契約せし大悪魔よ! その力を存分に示すがいいッ!

 

「いでよッ! メイ――」

 

「どうか、私の部下を助けてください!!!」

 

「……………………んえ?」

 

 無断契約悪魔を召喚するため、力強く突き出した右腕。しかし、その先にマリネッタの姿はない。

 視線を下げると、マリネッタはその場で膝をつき、ジャパニーズ土下座スタイルで、額を地面にこすりつけていた。

 

 

 …………なんでぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時はさかのぼり――

 

 

 

 リリアーナたちが逃げ去った後の廃工場で、マリネッタは獣人化状態のまま、膝をつきながら苦痛に顔を歪ませる。

 

『ぐっ……!』

 

 マリネッタの体を蝕むのは、抗うすべのない強力な呪い。

 呪いの大家によって綿々と受け継がれ、非凡な才を持つ次期当主に魔改造されたその呪いは、術者が異能を解いた今でも、ジワリジワリと全身に侵食していく。

 ただそれでも、マリネッタにはまだ意識を手放せない理由があった。

 

『まだ、間に合う……!』

 

 リリアーナたちの逃亡先はおそらく学園。『魔導王』管轄の学園内に逃げ込まれてしまえば、もう手出しはできない。

 その後も襲撃への警戒を強め、リリアーナが日本にいる間、二度と今回のような機会が訪れることはないだろう。

 つまりマリネッタからしてみれば、今この瞬間が、リリアーナ暗殺を成功させる最後のチャンスと言っても過言ではない。

 

 部下の獣人四人は未だ意識を失ったまま。ならば自分一人で追うしかない。

 そう決意したマリネッタは呪いに侵される体に鞭を打ち、なんとか立ち上がろうとする。

 しかしふとその時、マリネッタの鋭敏な嗅覚が、とある三つの匂い(・・・・・)をとらえた。

 

 その匂いの発生源は廃工場内。それもすぐ目の前から。

 

『ッ……!』

 

 マリネッタはすぐさま顔を上げると、そこには知らない女が二人と、よく知った女が一人。

 その唯一顔見知りである人物は、煙を吐きながらマリネッタへと囁きかけた。

 

『おや、獣人(セリアンスロープ)がここまで接近に気づけないとは。随分と調子が悪いのか、それとも何か別の匂いに集中していたのか。……もしくは、その両方かな?』

 

暴く者(リヴェラー)……!』

 

 ジール王国の公用語を流暢に操るその人物――天眼路(てんがんじ)知恵奈(ちえな)は周囲の様子を確認すると、それだけで全てを察したように語りだす。

 

『なるほど……。人質救出の目途が立ったんでこちらの方に来てみたが、どうやら少し遅かったみたいだ』

 

『……そういうこと。人質発見がやけに早かったのも、あの戦力で人質を奪取されたのも、あなたが一枚噛んでいたってわけね。依頼者に対して、ひどい仕打ちだわ」

 

『元、だろ? 契約関係が切れた以上、私が何に興味を持ち、何を目的に動くのか、そんなものは私の自由さ。たとえそれが、元依頼主にとって不利益になることだとしても、ね』

 

『ッ……!』

 

 作戦が大きく狂うことになったその一端に、目の前の女が関わっている。そのことを理解し、マリネッタは怒りを覚えるが、最優先はあくまでリリアーナたちを追うこと。

 これ以上の会話は必要なく、邪魔してくるであろう目の前の三人を一瞬で仕留め、リリアーナたちの追跡を開始する――そう考え、獣人特有の鋭い爪を伸ばしたその瞬間――

 

 

切覇千(きりばち)

 

 

 ――マリネッタの右肩から左腰にかけ、激しく血が噴き出し始めた。

 

『は……? つうっ!!』

 

 驚きで停止した思考が、遅れてきた痛みによりまた動き出す。

 マリネッタのすぐ目の前には、いつの間にか刀を手に持ち、それを振り抜いた格好の少女が立っている。

 そこでようやく、マリネッタは自身が切られたことに気づいた。

 

 その体毛の一本一本が針金のような硬度を持ち、天然の防刃性能を誇る獣人の体から、いともたやすく血を流させた少女。

 そんな少女が腰に携える刀の鞘には、キジのイラストが施されている。それは少女が、とある部隊(・・・・・)に属していることを意味していた。

 

『北鎮部隊……ッ!』

 

 この日本において、もっとも関わりたくない存在と相対していることを理解し、マリネッタは即座に思考を切り替える。戦闘から逃走へと。

 血を流し、膝をついたその状態のまま、マリエッタは異能を行使する。叫ぶ――ただそれだけの異能を。

 

雷撃咆哮(サウンドスパーク)

 

 マリネッタを中心に、獣の叫び声が廃工場全体に響き渡る。それを至近距離でくらった天眼路たち三人を襲うのは、耳の痛みだけでなく、痺れるような体の硬直。

 ただ、その硬直時間はほんの刹那。天眼路たちはすぐに体の自由を取り戻し、マリネッタの反撃に身構える。しかし――

 

「……逃げたか」

 

 マリネッタは気絶した部下の獣人たちを抱え、その背を向けて既に逃走していた。

 まだそれほど距離は離れていなかったため、刀を持った少女が追おうとするが、その行動にストップがかかる。

 

深国(みくに)、追わなくていい。獣人相手の追いかけっこは分が悪い」

 

「了解です、隊長」

 

 深国――そう呼ばれた少女は、己の所属する部隊の隊長の命に従い、渋い表情で刀を鞘に収めた。

 

「申し訳ありません。私が仕留めきれなかったばかりに……」

 

「いや、深国のせいじゃないさ。そう落ち込むな」

 

「そうだとも、深国くん。もとはと言えば、私が大事件だと連絡したにもかかわらず、部下を君しか連れてこなかった麗佳(れいか)が悪いんだから」

 

「は?」

 

 謝罪の言葉を告げる深国に対し、隊長と天眼路の大人二人組は気にしないよう伝える。

 しかしその際、天眼路の発した『麗佳が悪いんだから』という言葉をきっかけに、言い争いが勃発してしまう。

 

「あのなぁ~! たかが一民間人の通報だけで部隊を丸々動かせるわけないだろ! 若手エースを連れてきてやっただけでも感謝しろよ!」

 

「その一民間人の通報のおかげで、防げた事件が何度もあったじゃないか。ほんと、学生のころから頭カッチカチだね君は」

 

「なんだとこのヤニカスッ! ほぼフリーターみたいなお前と違って、こっちは組織の人間なんだよ! そう勝手に――」

 

「隊長、本部に連絡を入れますか?」

 

「よろしくッ!」

 

 二人が喧嘩するのをよそに、深国は部隊本部へと電話をかけ、淡々と事の報告を行う。

 そしてそれと同時に、人員の応援も依頼する。

 

 逃がした手負いの獣を、確実に捕らえるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、なんとか廃工場から逃走したマリネッタは、廃工場近くのセーフハウスで身を隠していた。

 獣人化を解き、人の姿へと戻ったマリネッタの表情は暗い。

 リリアーナたちには逃走を許し、任務成功の確率は著しく低下。しかもそれだけでなく、北鎮部隊に目を付けられる始末。

 おそらく、今後は指名手配を受け、自由に動くことすらままならなくなるだろう。それは実質、任務達成が不可能になったことを意味する。

 

 そのため、マリネッタはとある番号(・・・・・)へと電話をかけた。それは任務を成功するか、もしくは続行が不可能になった際、かけるよう伝えられていた番号。

 不本意な結果を報告することになるが仕方ない――マリネッタは己の未熟さを恥じながら、携帯に耳を当て、相手が応答するのを待つ。

 そしてコール音が止まると、マリネッタは盗聴防止のためのコードネームを告げた。

 

「リュコス・ベイリヤです」

 

『――――』

 

「…………?」

 

 しかしマリネッタがコードネームを告げてしばらくたつも、相手が応答するような気配はない。

 不思議に思い、もう一度告げようとしたその時、携帯から機械音のような音声が鳴り始める。

 

 

『ガラク・メメ・フォルギ・タラカードス』

 

 

 それは日本語でもなければ、ジールの公用語でもない。何の意味もなさない言葉の羅列。

 その音声に反応を示したのは、人ではなく物だった。

 

 異変が生じたのは、マリネッタの指。正確には、左手の薬指に身に着けた指輪から。

 金色に輝くその指輪は、マリネッタが第一王子から与えられたもの。『この指輪を自分の分身だと思い、日本にいる間、肌身離さず身に着けていてほしい』と、夜の(しとね)で囁かれながら。

 

「……なに?」

 

 マリネッタの持つ獣の本能が、強く警告を発している。今すぐその指輪を外せと。

 しかし、彼女はできなかった。次の瞬間、薬指に強烈な痛みが走る。

 

「ぐっ!? つあっ、ああああああああああッ!」

 

 声を殺しきれないほどの痛み。それと同時に、指から手、手から腕へと、黒みがかった紫色に変色していく。

 つい先ほど、それと全く同じ体験をしたマリネッタは、自身の体に何が起きているかを正確に理解する。

 

「呪いの侵食……!」

 

 指輪に込められていたそれは、ジールに古くから伝わる、強力な呪殺の術式。それが合図と同時に解き放たれ、マリネッタの左指から全身へと広がっていく。

 しかし変色が左肩付近にまで到達すると、なぜかその侵食がピタリと止まった。

 

「……?」

 

 そして次の瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの痛みがマリネッタを襲う。

 まるで麻酔なしで腕を切り刻まれているかのような、地獄の痛み。

 

「っ~~~~!」

 

 声を発することすらできず、あまりの痛みに気を失い、さらなる痛みによる覚醒を繰り返す。

 もはや何度、心の中で“殺してほしい”と願ったかもわからない。

 

 どれほどその地獄が続いたのだろうか。マリネッタは意識が朦朧とする中、いつの間にか痛みが止んでいることに気づく。

 そしてその痛みの発生源であった左腕を確認すると、腕全体が紫色ではなく、ドス黒く染まっていた。それは廃工場で、烏丸から呪いを受けた時とまったく同じ色。

 さらにそれだけでなく、左腕の感覚が一切なく、肩から指先までピクリとも動かない。

 左腕の完全な機能停止。それが永続的なものかは不明なものの、絶望を与えるには十分すぎる事実。

 

 マリネッタは考える。考えてしまう。指輪から『呪い』があふれ出したその理由を。

 そして気づいてしまう。決して認めたくない、最悪の真実に。

 

 第一王子は初めから、任務の成功失敗にかかわらず、任務後に自分を処分するつもりだったのだと。

 

『君にしかできない任務だ……などと言われ、その気にさせられましたか?』『忠実な部下を(うた)っておきながら、その内にあるのは女としての欲』『兄上は死兵を作るのがお上手ですね』

 

 リリアーナの吐いた言葉が、呪いのようにジワジワと心を蝕んでいく。

 

「あぁ、ああぁ……!」

 

 何もかもが、リリアーナの言葉通りだった。

 第一王子にとって、自分は大切な存在でもなんでもなく、数多くいる使い捨ての駒の一つ。

 そういった扱いをされてきた人間は、いくらでも見てきたはずだった。ただそれでも、信じたかったのだ。自分だけはそうではないと。

 そんなはず、あるわけもないのに――

 

 “国のため、民のため”――その思いで軍へと入隊したはずが、信じるべき相手を間違え、今や王族の命を狙った大罪人。それほど愚かなことはない。

 まるで洗脳が解けていくように、マリネッタは今までの行動をひどく後悔し始める。

 

 なかでも、マリネッタが特に悔やんでいるのは、己の愚かな行いに、部下たちを巻き込んでしまったことだった。

 部屋で横になり、今も呪いに苦しむ四人の部下たち。そんな部下たちの姿を見て、ボロボロになった体と心に鞭を打ち、マリネッタは立ち上がる。

 

 自分はもうどうなってもいい。しかし部下の命だけは、なんとしてでも守らなければ――その思いだけが、絶望の淵に立つマリネッタの体を、ギリギリで動かしていた。

 

 彼女は決意する。つい先ほど、命を狙ったその第一王女に、部下の助命を乞うことを。

 たとえ、己の全てを差し出してでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、私の部下を助けてください!!!」

 

「……………………んえ?」

 

 彼女は知るはずもない。

 第一王女への取次ぎを求めるため、頼ったその人物が、彼女とその部下の運命を大きく歪めることを。

 

 

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