魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話   作:考える人

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拳聖祭と救国の王女⑬ / “最”悪に願いを

 

 傷つけられたチームメイトの仇をとるため、襲撃犯との壮絶な戦いが幕を開ける!――――はずが、その戦うはずだった襲撃犯のマリネッタから、なぜか助けを求められる事態に。

 軽く事情を聞いたところ、僕にリリアとの取次をお願いしたいとのこと。

 当然、リリアを殺そうとしてるやつを、リリアに会わせるわけにはいかないのだが、なにやら状況が変わったらしい。

 なんにせよ、その変わった状況とやらを詳しく聞く必要があるため、僕とマリネッタは場所を移動することにした。

 そうして向かったのは、一般的な……とは口が裂けても言えない、僕のバイト先であるファミレス店。

 

「というわけで店長、休憩室借りますね」

 

「……まあ別に構わないけど、なんでわざわざウチに連れてきたの?」

 

 休憩室使用の許可を貰う際、店長は怪訝な表情を浮かべ、僕に問いかける。寮の自室や学園ではなく、なぜバイト先(ここ)なのかと。

 

「実はマリネッタさん、治安部隊から追われる身らしいんです」

 

「えぇ……」

 

 ちなみに、そのマリネッタには先に休憩室へと入ってもらい、店の常駐医に左腕を見てもらっている。

 ファミレスに常駐医?――と疑問に思ったそこのあなた。あなたは何も間違ってないので、どうかその感性を持ち続けてほしい。

 

「治安部隊ってことは、彼女……犯罪者ってこと? 一体なんの罪で追われてるの?」

 

「詳しくは言えないですけど、海外要人の暗殺未遂です」

 

「思ってた数倍罪が重いねえ」

 

 “それはいくらなんでも……”とばかりに、店長は渋い表情を浮かべる。

 そうしてしばらく考え込んだ後、いつもより真剣な声で告げた。

 

「……渡谷くん、さすがに今回の件はちょっと軽率だよ」

 

「……」

 

「渡谷くんにも色々考えや事情があってのことだと思うけど、治安部隊にこのことを知られれば、お店で犯罪者を匿っていると思われかねない。もしそうなった場合、行政指示で最悪お店は営業停止になり、お客さんやスタッフにも迷惑がかかる。その結果、多くの人の笑顔が失われてしまうんだよ?」

 

「……」

 

「君のとった行動は、そういったリスクをはらんだものであることを……ちゃんと理解しているかい?」

 

「はい!」

 

「はいじゃないよ」

 

 問題ありません。全て理解の上です。

 

「問題しかないよ! 理解してるならなおのこと問題でしょ! 君はこのお店が潰れてもいいの!?」

 

「はい」

 

「だからはいじゃないよ!!!」

 

 いやだって……、店長には悪いですけど、僕は所詮ただの1アルバイターですし。

 料理を運んでる時間より、客から罵倒されてる時間の方が長いこのバイトに、愛着なんて皆無なわけで。

 それに――

 

「元からこの店、犯罪者の巣窟じゃないですか」

 

「なんてこと言うの、渡谷くん」

 

 だって事実じゃん。店長ですらこの前、酔っぱらい客にオラオララッシュくらわせて前科付きかけたのに。

 

「むしろまとめて検挙してもらえれば、社会がより良くなるんじゃないですかね?」

 

「渡谷くん」

 

「そもそも、この店がまだ営業停止になってない方がおかしいわけじゃないですか」

 

「渡谷くん」

 

「営業停止になったら笑顔が失われるって……、認識がバグりすぎてて自惚れんなというか――」

 

「渡谷くんッ!!! ちょっと今日どうしたの!? 発言に忌憚が無さすぎない!?」

 

「あー……、すみません。確かにちょっと言い過ぎたかもしれません」

 

「ちょっと?」

 

 ……あれだな。自分で言うのもなんだけど、わりとストレス溜まってるなこれ。

 そのせいで言動が雑になってしまっている気がする。さっきも、何も考えずにメイルカムイ召喚しようとしてたし。バレたら首チョンパなのに。

 ダメだ、落ち着け僕。もっと冷静にならなければ。

 

「すみません店長、確かに僕の配慮不足でした。ごく一部ですけど、桜さんみたいに普通のスタッフもいるのに……」

 

「ごく一部?」

 

「ですので……、責任を持って僕がバイトを辞めます。そうすれば、あくまで僕個人がやったと強調できますし、店に迷惑は――」

 

 ――かからない、そう告げようとしたところで、店長に力強く両肩を掴まれる。

 

「渡谷くん、安心して。彼女は店で責任をもって匿うから。だから君が辞める理由はどこにもないんだ。いいね?」

 

「店長……ッ! ありがとうございます!」

 

 僕は感謝の言葉を告げながら、勢いよく頭を下げる。

 ……このやり方、間隔を空ければあと2、3回はいけるな。

 

 

 

 

 そうして、無事店長からの許可が下りたため、僕はマリネッタのいる休憩室へと移動する。

 休憩室の扉を開けると、左腕に包帯を巻いたマリネッタが、椅子に座りながら待機していた。

 

「お待たせしてすみません。腕の方はどうでしたか?」

 

「……ちゃんと治療するなら、専門家に診てもらう必要があるそうです。強力な二つの呪詛を同時に受け、歪な形に変質している。左腕だけで済んだのはむしろ奇跡だ、と」

 

 僕の問いかけに対し、マリネッタは素直に言葉を返してくれる。

 しかしその表情は暗く、視線はうつむいたまま。

 

「リリア……リリアーナ王女に会わせてくれとのことですけど、当然“はいわかりました”というわけにはいきません。まず僕の方で話を聞いて、そこからリリアーナ王女に連絡し、会わせるかどうかの判断をすることになります。それでも構いませんか?」

 

「……はい」

 

 ……まあぶっちゃけ、僕が話を聞くという過程は全く必要ないのだが、こんなチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

 メイルカムイの件もあるし、詳しい事情はできるだけ聞いておかねば。

 

「じゃあ順番に聞いていきますね。まずリリアーナ王女と僕のチームメイトが離れた後の廃工場で、何があったのか教えてください」

 

「……あの後――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――といった理由から、私はもう第一王子の元には戻れません。もしまだ私が生きていることを知れば、あの方は容赦なく刺客を差し向けてくるはずです。当然、私の部下も例外ではないでしょう」

 

「……なるほど」

 

 マリネッタの話を簡単にまとめると、第一王子の命令でリリアを暗殺しようとしたが失敗。

 命令を下した第一王子には切り捨てられ、この国の治安部隊からも追われる身に。

 遠い異国の地でお尋ね者になり、国に帰れば口封じのため殺される。

 そんな最悪な状況から部下だけでも助けるため、リリアに庇護を求めた、と。

 

 ふむふむ……。まあ話の流れにそれほどおかしな点はない。

 もちろん、マリネッタの証言に嘘がなければ――というのは大前提として。

 

 しかしこれまで話を聞いていて、一つだけ不可解に感じたことがある。

 

「あの、第一王子がリリアーナ王女を殺そうとした理由は、王位争い……ということでいいんですよね?」

 

「はい」

 

 これだ。これがわからない。

 逆なら、リリアーナ王女が第一王子を殺そうとするなら、まだ理解できる。

 是非はともかく、その行動には明確な意味があるからだ。己よりも継承順位が高い人間を排除しようとする、明確な意味が。

 

 立花先生から聞いた話によれば、ジール王国の王位継承ルールは、『性別に関係なく、長子から継承権が優先される』というものだった。

 つまり、リリアの兄であり、長子でもある第一王子にとって、リリアを排除する必要などあるはずがないのだ。

 リリアの存在に関係なく、元々継承権順位の高い第一王子が、将来王位に着くことは確定しているのだから。

 むしろ今回のように、下手に暗殺を指示して、それが明るみになれば、それこそ継承権を剥奪される事態になりかねないはず。

 

「あの……、第一王子がリリアーナ王女を暗殺しようとする理由ってなんですか?」

 

「……?」

 

 僕の疑問に対し、マリネッタは『なぜそんなことを聞くんだ?』と言いたげな表情を浮かべる。

 

「その、すみません。ジールの国内事情とか、その辺のことはリリアーナ王女にあまり聞いてなくて。良ければ教えていただけませんか?」

 

「…………王位継承順位については?」

 

 リリアへの取次を求めるため、僕の不興を買うのは良くないと判断したのだろう。

 マリネッタは戸惑いながらも、疑問に答えるため、僕が現時点でどれだけの情報を得ているのかを問う。

 

「リリアーナ王女より第一王子の方が高いことは知ってます。だからこそ不思議で……」

 

「……ジール国内では、民衆の間で何年も前から唱えられている主張があります」

 

「主張……?」

 

「『特例として、リリアーナ王女の継承順位を繰り上げるべきではないか』――というものです」

 

「繰り上げるって……、そんなことできるんですか?」

 

「いえ、普通は(・・・)できません」

 

「じゃあなんでそんな………………あっ」

 

 言葉を交わせば交わすほど、新たな疑問が湧いてでるなか、僕はふとある言葉(・・・・)を思い出す。

 

 

“多くの国民が期待してしまうのだろうね。かつての栄光をもう一度、と”

 

 

 以前、天眼路さんが口にしたその言葉を。

 

「もしかして……、リリアーナ王女が『“英雄”エルナリーナ』の生まれ変わりだからですか?」

 

「その通りです」

 

「…………」

 

 理解できない――それが、僕の抱いた正直な気持ちだった。

 エルナリーナという存在が、かつて何を成したのかは知っている。

 しかしだからといって、法を捻じ曲げてまで『生まれ変わりであるリリアーナを王位につかせたい』と願うジール国民の気持ちが、僕にはわからない。

 

 そんな僕の疑問を察したのか、尋ねるよりも早く、マリネッタは語り出す。

 

「……ジールにとって、エルナリーナの存在は本当に特別なんです。欧州の一国家に過ぎなかった国が、かつて世界の盟主とまで呼ばれるようになったのは、彼女の成したその偉業ゆえ。子は親から、親は祖父母から、祖父母は曾祖父母から。数百年にも渡り、世代を超えて語り継がれる彼女の英雄譚は、全てのジール国民の心に刻み込まれている“誇り”そのもの。これはきっと……、ジールで生まれ育った者にしかわからないはずです」

 

 ……それはまた、ご大層なこって。

 

「話を戻しますが、国民がどれだけ『リリアーナ王女を王位に!』と望んだとしても、それだけで特例が許されるわけではありません。だからこそ……リリアーナ王女と、王女を支持する一部の有力貴族は、一種の賭けとも言える策に踏み切りました。それが――

 

 

 

――メイルカムイの討伐」

 

 

 

 疑念が、確信へと変わる。天眼路さんが僕に語った推理は、やはり正しかった。

 

「……じゃあ、リリアーナ王女がメイルカムイを倒せば、継承順位が繰り上がるってことですか?」

 

「いえ……政治の話ですから、さすがにそう単純ではありません」

 

 なんじゃい。

 

「しかしリリアーナ王女を推す勢力は、ますます大きくなる。そうなれば、まだわずかに(・・・・)といった程度ですが、可能性が生まれます」

 

「……はぁ」

 

 なら、そのわずかな可能性を潰すためだけに、第一王子は暗殺まで指示したってこと?

 偉いさんの考えることはわからん……。政治って難しいね。

 

 まあでも、これでリリアを取り巻く事情はおおよそ理解できた。

 そして何より、リリアの目的が『メイルカムイの討伐』であると確定できたのが、僕にとって一番の収穫だ。

 

 とりあえず僕の聞きたいことは聞けたので、後はマリネッタが望む通り、リリアへ取り次いであげればいいだろう。

 そう考え、スマホを取りだしたその時、外から休憩室の扉がノックされる。

 

「すみません、ちょっと席外しますね」

 

 マリネッタに断りを入れ、休憩室を出ると、そこにいたのは店長だった。

 

「渡谷くん、今大丈夫?」

 

「まあ、大丈夫ですけど……」

 

「これ……マリネッタさんだったっけ? 彼女に渡しておいて」

 

 そう言って店長が僕に差し出したのは、『雇用契約書』と書かれた書類。…………雇おうとしてらっしゃる?

 

「どうせ匿うなら、ついでに雇っちゃえばいいかなって」

 

 それこそバレた時に言い訳できないだろ。店の迷惑うんぬんのくだりはなんだったんだよ。

 

「あ、もし彼女が左腕のこととか気にしてたら教えてあげてね。ウチの採用基準は意思疎通ができるかどうかだから、気にしなくていいよって」

 

 なら今すぐ権田さんクビにしないと。

 

「……まあ、わかりました。聞くだけ聞いてみますね」

 

 僕は断られることを確信しつつ、店長から書類受け取る。

 そうして休憩室に戻るため、ドアノブに触れようとしたその時――

 

「え?」

 

 突然、店長が僕の腕を掴む。それも相当力強く、掴まれた腕はピクリとも動かない。

 

「……店長?」

 

「…………」

 

 店長は口を開くことなく、ただひたすら休憩室の扉を見つめている。いや、睨みつけている。

 その表情は、これまで一度も見たことのない真剣なもの。

 

 そうしてしばらくの間、何を話しかけても反応せず、腕も離してくれず。ようやく離してくれた時には、表情もいつものものに戻っていた。

 

「……ごめんね、渡谷くん。急に掴んだりして」

 

「あ、いえ、店長の奇行には慣れてるんで大丈夫です」

 

「渡谷くん?」

 

 ただ奇行自体はともかく、奇行に走ったその理由は気になる。

 

「あの――」

 

「さっ、仕事に戻らないとね」

 

「あっ、ちょっ!」

 

 しかし理由を尋ねるよりも早く、店長はその場から去っていってしまう。ほんと何だったんだ……。

 

 僕は釈然としないまま、マリネッタの待つ休憩室へと再び足を踏み入れる。

 

「すみません、お待たせしてしまって……あれ?」

 

 しかし、そこにマリネッタの姿はない。

 冷房がつけられたまま、誰もいないその部屋で、カーテンだけが外からの風に吹かれ、静かに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、ちょっと席外しますね」

 

 そう言って部屋を出る雪春の姿を、マリネッタはただ無感情に見つめていた。

 

 時間が経ち、冷静になればなるほど、後悔ばかりが募っていく。

 孤児だった自分にとって、同じ施設で育った家族同然の部下たち。そんな部下たちの未来を閉ざしてしまったことが、何よりも苦しくてたまらない。

 今後、リリアーナ王女との交渉がうまくいき、その庇護下に入れたとしても、どのような扱いを受けるかは不明。

 わかっているのは、それが一番マシな未来でありながら、明るい未来とは限らないということ。

 マリネッタはうつむきながら、感覚のない左腕を強く握りしめる。

 

「――小僧から精神の揺らぎを感じてきてみれば……、珍しい生き物がいるではないか。貴様、獣人だな」

 

 それは、自分以外誰もいないはずの部屋から聞こえてきた声だった。

 油断していたつもりはない。常に周囲の匂いは警戒していた。

 だからこそ、突如目の前に出現した匂いに、マリネッタは戸惑いを隠せない。

 

「顔を上げて、その(つら)を見せてみよ」

 

「ッ……」

 

 言われたままに、マリネッタはその顔を上げ、目の前にいる存在へと視線を向ける。

 まず目に付いたのは、額に伸びる一対の角。それはジールで生まれ育った人間にとって、最も忌むべき存在――悪魔であることの証明。

 

「それも“獣帝(じゅうてい)”の血を引いているのか。ヤツのことはよく覚えているぞ。なにせ、冥界で私の心臓を見つけ出したのは、後にも先にもヤツだけだ。ヤツの存在がなければ、エルナリーナ(あの女)との戦いも、また違った結果になっていたであろう」

 

 悪魔はどこか懐かしむように、かつての出来事を断片的に告げる。

 ただその出来事とは、ジール国民であれば誰もが知る英雄譚。故に、マリネッタは理解する。目の前の悪魔の、その正体を。

 

「メイル……カムイ…………」

 

 全身が震え、上手く呼吸をすることができない。

 しかし思い通りに動かない体とは対照的に、思考はこれ以上となく冴えていく。

 

『いでよッ! メイ――』

 

 あの時、少年は何を口にしようとしていた――?

 

 ここにきて、マリネッタはようやく理解する。

 少しでもマシな未来を選ぶはずが、最悪の未来を選んでしまった可能性を。

 助力を願った相手が、大悪魔の契約者である可能性を。

 

 心が、恐怖一色で埋め尽くされていく。

 

「……助けて、ください」

 

 気づいた時には、命乞いをしていた。

 逆らえるはずがない。爪を立てる気すら起きない。その匂いを認識した瞬間には、獣の本能が死を受け入れていたのだから。

 

「お願い、します……。部下の命、を……」

 

 まだ死ねない。人の持つ理性を働かせ、なんとか言葉を紡ぐ。

 そんなマリネッタに、メイルカムイ(悪魔)は応えた。

 

「……いいだろう。かつて貴様の祖先が、私を心ゆくまで楽しませた褒美だ。貴様と、貴様の部下や親しい者たちみなまとめて、私の庇護下に加えてやる。存分に励むがいい。いつか我が父(・・・)に、相応しき神座(しんざ)を用意するために」

 

 その言葉を最後に、メイルカムイとマリネッタの姿が消失する。

 誰もいなくなった部屋のその扉の先で、掴まれた従業員の腕が解放されたのも、ほぼ同じタイミングだった。

 

 

 




従業員紹介 その①
『新人つぶしの権田』
・権田のいびりに耐えられるor反撃できるかどうかが、新人にとって長続きするかどうかのターニングポイントの一つ。
・雪春にはあまり関わろうとしない。
・前科はなし。
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