魔法や異能が存在しても、主人公になれるかどうかは別の話 作:考える人
あの後、結局マリネッタが店に戻ってくることはなかった。
休憩室内に争ったような形跡もなかったため、自分から逃げ出した説が濃厚だろう。
正直あのタイミングで逃げ出す理由はよくわからないが、もしかしたらスタッフにさせられそうな気配を察知したのかもしれない。獣の本能的な何かで。
まあなんにせよ、これで僕は事件に関わるきっかけを完全に失ったというわけだ。
「あ~あぁ…………」
思惑が空振りに終わり、失意のまま学園へと戻った僕は、メンター室へと続く廊下を一人歩く。
メンター室がある建物までは拳聖祭の熱気も届かず、夏休み期間中ということもあり、周囲に人の姿は見当たらない。
そんな閑散とした雰囲気の中で、僕は改めて実感していた。
今回、また一人だけ
所属グループで一人蚊帳の外になるのは、何も今回が初めてのことではない。
冬二たちと行動していた時は何度も経験したし、ごく短い期間ながら、別グループに所属していた時も然り。
『
そのため、蚊帳の外には慣れてるし、最近は以前ほどやるせなさを感じることもない……はずだった。
しかし今の僕は、少なくとも行動に影響が出てしまうくらいには、ひどくショックを受けている。
だからこそ、僕はハッキリと自覚する。自覚してしまう。
知らず知らずのうち、『
どこのチームにも入れなかった、入らなかった“はみ出し者”たちが集められ、強制的に組まされた正に寄せ集めチーム。
そんなチームが上手くいくはずもなく、初めは仲間割れや喧嘩ばかりしていた。……いや、それは今もしてるか。
ただそんな状態でも、チーム合宿を乗り越えて、初任務もこなして、現在も一国の王女の友人役任務を進行中。
なんだかんだで、濃い日々を送ってきたのだ。楽しくない………………わけがない。
蛇塚は、見た目が完全にヤンキーで、何かあるとすぐに手も出るし、すぐ人を威圧する。チームを組んでなければ、絶対に関わることのなかったタイプの人間だ。
けど……実は根が真面目なやつで、義理堅いところもあるし、自分に非があればちゃんと謝れる人間だということを、関わっていくうちに知った。
光華は、初めて会ったときはシンプルにキザなやつだと思ったし、びっくりするぐらい実は根がクズで、チラチラ見てんじゃねえよと嫌味を言われたこともある。
でも、今ではかなり態度も軟化して、普通に話せるようになったし、チームに迷惑がかかる問題を起こすこともない。チーム活動においては、間違いなく貢献度が一番大きい。
烏丸は……………………………………………………………。
とにかく、最初は僕の名前を覚えず、会話を交わすことすらなくて、ハッキリ言って三人のことが嫌いだった。
それでも、関わって、協力して、同じカレーを食べて、少しでも相手のいいところを知ってしまえば、本気で嫌いにはなれない。
初めて顔を合わせたのは四月。そこからだと四ヶ月近くの付き合いになる。今までの僕からすると、かなり長続きしている方だ。
しかしいつものパターンだと、ここから蚊帳の外イベントが段々多くなり、僕だけが会話に入れず、徐々に疎遠になっていってしまう。
もしかして呪われているのではなかろうか?――そう勘ぐってしまうほど、いつも同じ流れを繰り返す。
だからきっと、今回もそうなるのだろう。チームの枠組みは残ったとしても、結局僕はまた一人。
半ば諦めるような心情のまま、メンター室へと到着し、その扉を開く。すると――
「リーダー……、随分と長いお手洗いだったじゃないか」
光華が額に青筋を浮かべ、部屋に入る僕を睨みつけた。
「まさかとは思うけど、ボクらを襲った襲撃犯を探しに行った……なんてこと、ないよね?」
「もちろん、そんなことしてないよ」
「こいつ……ッ! よくもまあ澄んだ目で平然と…………!」
まあバレるよね、これだけ遅くなれば。チーム合宿の時も、
「だから言ったろ。リーダーのことだから、どうせしれっと戻ってくるって」
ちなみに、部屋にはリリアが戻ってきており、蛇塚と烏丸も治療を終え、ソファでくつろいでいる。
てっきり襲撃に関する事情聴取などを受けていると思っていたので、全員勢揃いなのは意外だった。
「まったく……、みんな君のこと待ってたんだから」
…………?
「え、なんで?」
「実は今回の件について、リリアが詳しい事情を話したいらしくてね」
「リリアさんが?」
僕は視線をリリアの方へ向けると、彼女はソファに座りながら、なぜか寂し気な表情を浮かべていた。
「リリア、さっき君がボクらに話したこと、もう一度話してくれないか?」
「……わかりました」
光華の言葉を受け、リリアは立ち上がる。
そして一度大きく息を吐くと、覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「これから私が話すのは、ジール王国の秘に触れるものです。本来、他国の学生に話せるような内容ではありません。……それでも、今回私が話そうと決めたのは、これ以上あなた方に不義理を働きたくなかったからです。こちらの事情に巻き込んでしまい、さらにその手を借りながら、何の説明もなし――というわけにはいきません。ただ……話を聞いてしまえば、私とあなた方の関係も、これまで通りとはいかないでしょう。ですので……、あなた方自身に決めていただきたいのです。詳しい事情を聞くか、聞かないか。聞いた場合、その上でどうするのか。今回の件含め、学園に報告するもよし、口を噤むもよし。もちろん、この友人役を継続するかどうかも……。全て、判断はあなた方に任せます」
そう告げると、リリアは僕ら一人一人の顔を順番に見つめ、その表情で問いかける。僕らが一体、どの選択肢を選ぶのかを。
「……というわけで、リーダーを待ってたんだよ」
「……? え、なんで?」
僕は経緯を聞いた上で、先ほどと同じ質問を繰り返す。
実際に巻き込まれたのは蛇塚たち三人であって、そこに僕は入っていない。
なら事情を聞くのは三人だけでいいはずだし、それこそ僕がいない間に決めればよかったはず。
別に僕を待つ必要なんて――
「なんでって、このチームのリーダーは君じゃないか」
「っ……!」
光華は告げる。普通のことを、普通の表情で。
……そう。光華の口にした
僕は『
「ボクはリーダーの指示に従うよ。なんだかんだこれまでも、それでやってきたんだ。……まあ、月並みな言い方かもしれないけど、君を信用してるからね」
「オレもリーダーの判断なら異論はねえ。チームリーダーを決める際、誰もやりたがらなかったなかで、リーダーだけが手ぇ上げたんだ。そん時から、オレはリーダーについていくって決めてたからよ」
「ワ、ワタシも……! リーダーの言うことなら何でも聞くよ! リーダーは……こんなワタシのことを仲間だって言ってくれたし、これからもずっと面倒見るって言ってくれたから……!」
光華、蛇塚、烏丸の三人はそれぞれ思いの丈を語りながら、その真剣な眼差しを一点に向ける。……チームリーダーである、僕の方へと。
「みんな…………」
それはまさに、僕がずっと望んでいた言葉だった。
リーダーとして、チームメイトから信頼され、僕を中心にチームが一つにまとまる。今、この空間に存在するのは、僕の理想そのもの。
初めて顔を合わせた時からは、とても考えられないその光景に、僕は――――
「……一応聞くけど、選択責任を全部僕に背負わせようとしてるわけじゃないよね?」
「「「…………」」」
僕の問いかけに、三人はそろって顔を逸らす。このクズどもがよぉ……。
こいつら結局のところ、何か問題が起きた際に『リーダーに指示されたから!』つって責任押し付けようとしてるだけじゃねえか。
な~にが『信用してる』だ。な~~~~にが『リーダーについていく』だ。お前ら普段から僕の指示なんて平気で無視するし、素直に従うことの方が珍しいだろうがよぉ~~~~。
ちょっと喜んじゃった僕の純情を返せッ!
……まあでも――
『大丈夫! 雪春が心配する必要は何一つないから!』
――変に気を使われて、遠ざけられるよりはマシなのかもしれない。
ふぅ、やれやれまったく……。仕方ないなぁもう!
「わかったよ。みんなが望む通り、責任は全部僕が背負う。その代わり、チームとしての選択事は全部僕が決めるし、みんなのこともいいように利用するからね」
「もちろん構わないとも。それでこそリーダーの鑑だ」
「おう、頼んだぜリーダー。やっぱリーダーは他のやつらとはちげぇわ」
「さすがリーダー! かっこいい!」
調子のいいクズどもめ。わっかりやすいヨイショしやがって。
……ただまあ、そんなわかりやすいヨイショに、気分を良くしている自分がいるのも事実。さっきまで落ち込んでいて、ストレスも貯めまくっていたというのに。
我ながら、ちょろいやつだなと思う。
「……じゃあとりあえず、リリアさんの話を聞くかどうかだけど、最終的な判断は僕がするとして、一応みんながどう考えているかは聞いておきたい。光華さんはどう思う?」
「そうだね……。正直ボクは聞かなくていいと思ってる。廃工場でリリアたちの会話は聞いていたから、ある程度事情は察しているし」
「蛇塚くんは?」
「オレも光華の意見に賛成だ。他人の
「烏丸さんは?」
「ワ、ワタシも……、そんなに興味ないかなって…………」
「……なるほど」
三人とも話を聞くのには反対、と。なら――
「リリアさん、事情を話してください」
「意見を聞く過程……必要ありました?」
「ないですね」
「「おいこらリーダー」」
蛇塚と光華から非難の声が上がるが、僕はそれを無視する。
ちょっとリーダーっぽい振る舞いをやってみたかっただけなので。
クズどもの意見など、初めから参考にする気はありません。
「……あなた方は、本当にお似合いのチームですね」
そう言って、リリアは半ばあきれるように笑う。
お似合い……か。
チームメイトはクズばかり。相変わらず信頼関係なんて皆無だし、お互い利害が一致しなければ協力しようともしない。
冬二たちのように、僕の理想とするチームにはまだまだほど遠い。なんなら今後、理想に近づけるかどうかもかなり怪しい。
しかしそれでも、こういったのもアリかなと、今日のところはそう思うことができた。
……そういえばさらっと流したけど、僕……烏丸に“これからもずっと面倒見る”なんて言ってないな。
―――――
おまけ
雪春がチームの絆(偽)を実感していたのとほぼ同時刻。
雪春の担任教師である立花は、学園近くの病院を訪れていた。
「こちらになります」
看護師に案内され歩くのは、一般患者は立ち入り禁止の特別病棟。
周囲に人気のない廊下を進み、目当ての人物がいる病室へとたどり着くと、案内役の看護師に礼を言い、病室の扉をたたく。
「立花です」
『どうぞ』
部屋の主の許可を得て、病室内に足を踏み入れた立花の視界に広がるのは、高級ホテルを思わせる華美な内装。
VIP患者のみが入院を許されるその病室のベッドで、目当ての人物――学園の理事長であるレイ・エレシウスが、上半身を起こした状態で出迎える。
「理事長室で倒れられたと聞きましたが、お加減はいかがでしょうか」
「うん、今はだいぶん落ち着いてるよ。心配かけて申し訳ない」
「いえ、ご無事でなによりです。原因は…………やはり、『黒の同化』ですか」
「ああ、
そう告げながら、レイは自身の胸の辺りを強く握る。
「申し訳ありません。雪春にとって、チームメイトの存在がそれほど大きなものになっていたとは把握できておらず……。
「仕方ないよ。合宿の時点では随分と険悪な仲だったと聞いている。他人の心の機微など、何千年生きていようと正確には理解できないものさ」
「しかし序列入りした烏丸に加え、蛇塚と光華の異能ランクも、『C』では誤魔化すのが難しいレベルにまで達しています。このままでは……」
「まあその辺りは後々対応しよう。今はまず、拳聖祭を乗り切ることが最優先だよ。先日、君が未来視で見た光景を……現実のものとしないためにも」
「…………」
レイの言葉により、立花は鮮明に思い出す。
それは遠くない日に訪れる、最も可能性の高い未来。
体を拘束され、身動きの取れない恩師の息子――綿谷冬二。
セーラスのトップであり、学生時代から全く姿の変わらない、かつての親友――
そして――
そんな二人の間に入り、冬二を守るようにして摩耶に立ち塞がる――渡谷雪春の姿。
三週間近くにおよぶ拳聖祭も、残る日程はあとわずか。
事が大きく動くその日は、確実に迫っていた。